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「ゼロのしもべ第2部-10」(2007/11/05 (月) 23:39:30) の最新版変更点
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ジャーン ジャーン
ジャーン
大軍が動く。
様子見のために先発は1万。その背後を主力部隊4万が固めている。
先発部隊1万は傭兵を中心とした部隊である。万一、なんらかの罠があった場合にメイジへの被害を最小限に抑えたいためである。
もっとも、深読みする人間は「おそらく杖ではなく剣槍でメイジを仕留めるのだろう」と、王党派をとことん辱めるためにこの編成にした
のだろうと思っているようだった。
先発隊の先に2000の兵が物見として出ている。万一城に急変あれば、フクロウがただちに飛んでくるようになっている。何事もなく
ても、司令部との間に30分ごとに報告を送るように命じてあるのだ。
「いかにコウメイとやらが兵法に通じていようとも、この兵力差ではどうしようもあるまい。見張りに気づいたのか火薬をしかけたという
報告も来ておらぬ。」
この大軍の実質的トップである太公望呂尚が馬上で傍らにいるサー・ジョンストンに語りかける。
「左様ですな。おまけに万一に備えて軍船まで出動するのです。もっとも、レキシントン号は改修中ゆえ、出撃は無理でしたが。なに、
充分でしょうな。」
非常に上機嫌のジョンストン。無理もない。この圧勝間違いなしの戦争の、名目上とは言えトップなのだ。出世の道が約束されて
いるようなものだ。
「ただ、潜り込ませて置いた閃光をあぶりだした、孔明とやらはちと気になっておりますがな。」
「いえいえ、ミスター・リョショー。いかに策を弄してもこれだけの大軍の前では流れに逆らうめだかのようなもの。あっという間に流れ
に飲み込まれてしまいますよ」
だとよいが、と前方に視線を戻す。空には雲ひとつない。見事な快晴であった。あの丘を越えれば城のある岬だ。
「それはそうと、閃光の容態は?」
「5分5分ではないかと医者は申しております。なにしろ手術が手術でしたので…」
「あそこまで痛めつけずともよいと思うがのう。」
「全くです。」
「しかしよほど城の内部に余裕がなくなっているという証拠でもある。余裕があればあそこまで残虐な振る舞いはできぬはずじゃ
からな。」
城の内部をまとめぬままで戦いに挑むとは、コウメイ組し易し!と見たのであろう。呂尚は不適に微笑む。
と、そこへ、
「司令官!司令官!」
早馬を飛ばして駆け込んできた兵士が1人。どうやら先発隊のようである。馬を乗り入れると、転がるように降りて礼をとる。
「報告します!城の様子が…」
「ニューカッスルがどうかしたのか!?」唾を飛ばしてサー・ジョンストンが叫んだ。
「そ、それが……先ほど急にニューカッスルの門が開かれました!」
「なに?降服か!?」
「い、いえ……それが、門が開かれたのですが、人の気配が一切ないのです。あまりにも不気味で……皆戸惑っています。」
「何じゃと!?」
慌てて馬を飛ばす呂尚。その後を追うジョンストン。岬を越えた二人の目に飛び込んできたのは、まぎれもなく門が開いたニュー・
カッスルの姿であった。そして報告どおり、人の気配はない。
「に、逃げたのか!?」
「いえ、我々は眼を皿のようにして見張っていましたがそのようなことはありませんでした。ネコの子一匹、城からは出てきていません」
城を見つめ、じっと考える呂尚。やがて高らかに笑った。
「ははは、若造が。生兵法は怪我の元と言うではないか。」
「い、いかがなされた?」
サー・ジョンストンが心配そうに問う。
「なに、あれは空城の計と言いましてな。敵に何かあると思わせ、退却させる戦法です。なに、恐れることはありませぬ。逆に、あの
計略を用いたということは自ら兵が足らぬことを白状したのと同じ。しょせんこの程度か、孔明よ。」
馬で丘を駆け下りる。そして、先発隊1万の前に出た。ジョンストンも同じく降りてきた。
「諸君らに告ぐ。あれは敵の最後の悪あがきに過ぎぬ。恐れることはない。全軍、正門からどうどうと入るがいい。」
釣竿を振って開いた門を示す。
「少々お待ちください。ですが…」
先発隊を任されているメイジが前に進み出た。
「万一、罠であればどうなります?こやつらは傭兵です。罠に飛び込んで行かせた、などという悪評が立てば今後雇うときにいささか
面倒なことになります。」
ふむ、とそのメイジの言葉に頷く呂尚。もっともなことであった。
「ならば念のために、兵を1000名城内に侵入させよ。罠であればそやつらの犠牲だけですむ。」
というわけで1000名が選ばれ、城に送り込まれた。
おっかなびっくり入っていく彼ら。やがて、中央ホールのほうで歓声が起こった。
外にもその声は聞こえた。何事か、やはり罠かと訝しんでいると、中から金銀財宝を身につけた兵士が現れた。
「おーい、中はお宝だらけだぞ!」
あとは凄まじいこととなった。
その言葉を聞くや否や、待機していた1万の兵士が我先にと城門へと駆け出したのだ。
先に入っていた一団だろう。宝箱や布を棒に括りつけたものに財宝を積んだ連中が城門から出てきた。
「おい、山のようにあるぞ。まだまだ運び出しきれないぜ。」
俄然、城門から中に雪崩れ込む兵隊たち。
当然であった。この先発部隊1万は傭兵を中心としているのだ。傭兵には大儀も思想もない。ただこちらのほうが有利だから、
金を多くくれるから、というだけで仲間になっている連中に過ぎない。そんな彼らの楽しみは、戦後の略奪である。金銀財宝を奪い、
女を犯し、飯を食う。それだけのために戦争をしている連中も多い。
そういった傭兵が、宝が放置されていると聞いて黙っているはずはなかった。最初は警戒した連中も、中から運び出される財宝を
目の当たりにしては思考も何もかも吹っ飛んでしまう。略奪にルールがあるとすれば唯一つ、「早い者勝ち」。ぼやぼやしていては
宝がなくなってしまうではないか。
静止する呂尚やメイジなど見向きもせず、兵隊は突入していく。そしてそこで山のように積まれた財宝を見て、飛びついた。
必死に財宝をかき寄せる連中。腕が当たったり、それはおれのものだ、おれの金を先にとったな、とあっという間に諍いが起こる。
「静まれ!静まれ!」
「呂尚様、軍の統制がとれません!」
静止を聞かず、好き勝手に城に突入していく兵士たち。懸命に押さえ込もうとするが、流れに逆らうめだかのようなもので、何一つ
効き目はない。
そうこうしているうちに後方の本部隊がやってきた。
本部隊の中にも傭兵は多い。その連中が噂を聞きつけ進行速度を速めたのである。
「ええい、これだから平民どもは!」
もはや軍の態をなしていない状況に、舌打つサー・ジョンストン。
「……うっ!」
その横で、突然呂尚が声を上げた。顔面蒼白で今にも落馬しそうだ。
「な、何事ですか!?呂尚様!?」
「もしや……そうだ!閃光の報告ではたしかに火薬を用意したと言っていた!それがあるはずだ!」
そして城を向いた。
「間違いない!これはコウメイとやらの罠だ――――」
その台詞は最後まで言うことはできなかった。
ニューカッスルであがった大爆発で、声がかき消されたのだ。
轟音と共に火柱が上がり、財宝をあさっていた傭兵を飲み込んだ。城の外壁が吹っ飛び、あたりに火山灰のように降り注ぐ。
少し遅れて、火で包まれた人間の死体が振ってきた。
それをかわしていると、中から火達磨の人間がよたよたと出てきて倒れて死ぬ。
本隊のほうにも降り注いだ瓦礫や、人間の手足、岩で死傷者が出た上に、爆音で驚いた馬や使い魔が暴れて、パニック寸前に
なっていた。
「りょ、呂尚様!これは!?」
身を伏せて呂尚に近寄るジョンストン。
「コウメイめ。財宝で兵を城におびき寄せ、その上で火薬を用いて城ごと吹っ飛ばしたのじゃ!」
なんという甚大な被害だろう。5万のうち、最終的にはおそらく2万以上、ひょっとしたら3万以上が城に入っていたはずだ。おそらく
それらは財宝を奪い合うのに必死で、火薬に気づかなかったに違いない。気づいても目に入らなかったのだろう。
「で、では、王党派の連中は王家もろとも自爆したのですか?どこに消えたのでしょうか?」
「決まっているではないか!最初に財宝を抱えて出てきた連中だ!おそらく、兵が中に入ってきたのを確認して、仲間のふりをして
『財宝がある!』とでも歓声を上げたのだろう。金銀宝玉を見た連中は、人数が200人程度増えたことは気づかなかったはずだ。後は
財宝を運び出すふりをして外に出ればいい。」
「しかし、まだ中には侍従やメイド、下僕がいたはずです…そやつらはどこに?」
「財宝の下じゃろう。上にほんの少し財宝を乗せてカモフラージュしたのだ。あるいは先ほどの混乱の段階に、裏からこっそり逃げ
出したのかもしれない。船で逃げ出したのかもしれん。少なくとも、すでに全員脱出したはずだ。逃げ出せば、少人数に別れて
人ごみに紛れ込んでしまえばよいのだ。あとは折を見て少しずつ海外に脱出すればよい。」
「で、では、あの財宝を運び出していた連中を捕らえねば…」
「その通りだ。おそらく、財宝の下には国王ジェームズI世が隠れていたはずじゃ。奴は老身で病がち、運んで逃げ出すしか方法は
ない。だがこの人数に紛れ込んだ200名。見つけ出すのは容易ではない。」
そこまで言うと、慌てて馬から飛び降りた。
「い、いかがなされたのです!?」
「わしは連中を追う!おそらく船を奪うはずだ!風系統を得意とするメイジがいるはずだ。風石が尽きた船でも、奪って魔力を補充
できる。いざというときはバビル2世がロプロスで船ごと運ぶこともできる!クロムウェル陛下には、太公望は預かった兵を失いし
責任をとりに向かったとお伝えくだされ!」
そう叫ぶと、呂尚は脚に札を貼り、そのまま駆け出した。あっという間に目にも止まらぬ速度になり、丘のむこうへと消えた。
「……馬、要らないんじゃないだろうか。」と呟くジョンストンであった。
呂尚の予感は的中していた。
船に老人女子供を中心に乗せた後、バビル2世たちは敵兵に扮して国王たちごと脱出していた。
船は秘密軍港に隠してある。簡単には見つからぬはずだし、特別に選ばれた船員の腕前は折り紙つきだ。
敵兵の格好は、昨晩孔明の命令で準備したものである。
「どうせ傭兵です。決まった格好はないでしょうから、適当でよろしいですぞ。」
また、財宝も大半は昨晩錬金で急遽作り上げたものである。
「全て変える必要はないのです。表面だけで充分。」
そして、どうしても船に乗り切れなかった人間が、財宝の下に隠れて出発した。
「ですから言ったでしょう。ウェールズ王子の仇を取らせる、と。」
爆炎を背に誇らしげに自らを扇ぐ孔明。200名の兵が、いつの間にか尊敬と、畏怖と、恐怖の視線を向けていた。
「しかし、敵が策に気づくのはそう遅くはないでしょう。急ぎ、船を奪わねばなりませぬ。私の計算ではこのままでは敵が到着する
のと、船が出るのはほぼ同時刻になってしまいます。万全を期すならもう少し急いでもらわねば。おそらく、ちょうど2,3隻船が残って
いるはずです。」
「なぜそれがわかります?」と孔明に黒覆面をつけた男が聞く。黒覆面というか、包帯で顔の上半分を覆っているのだ。
「簡単明瞭。おそらく先ほどの爆発で、残っていた船は急行したはずです。そして先に城を攻撃に来ていた船は、今頃最寄の港で
ある目的地に寄港したころでしょう。我々が到着するころには、緊急措置として風石を交換もしくは急速充電したはず。港は無警戒に
近い状況でしょうから、この人数で航行可能な船は充分に奪取可能、というわけです。」
はたして、港は孔明の行ったとおりの状況であった。
残っていた警備兵や整備員に襲い掛かり、猿轡を嵌めて港の小屋に放り込んだ。
そして全員が乗り終え、もやいを解いたくころ、現れたのは太公望呂尚である。
「しまった!遅かったか!」
歯噛みして地団太を踏む呂尚。船はあっという間に港から離れていく。風石はほとんど使っていない。自由落下を利用し、地表に
激突しないようにゆっくりブレーキをかけていくもっともスピードの出るやり方だ。
「おのれ、バビル2世。そしてコウメイ。こうなってはヨミ様に会わせる顔もない。ならば、わしの仙術を駆使して、その船ごと亡き者に
してくれよう!」
呂尚は勢いをつけ、そのままアルビオンから飛び降りた。
白の国、アルビオンがどんどん小さくなっていく。
船は猛烈な速度で滑空している。鍛え上げた軍人はともかく、船に乗りなれていないルイズたちにとっては非常に堪える操船方法
であった。
「だからむこうの船に乗るべきだと言ったんだが」
青い顔をしていうバビル2世。さすがの超能力少年も堪えているようだ。
タバサは風使いのため比較的平気である。キュルケと、ギーシュは天井に張り付いている。ルイズはそれでも悪態をついている。
「ですが、最短時間でつくのです。命を失うよりはマシでしょう。」
さすがロボット。孔明はびくともしていない。
「で、どこに行くんだい、この船は?」
「着陸の関係で、このタルブなる村がある平原に降ります。ラ・ロシェールは焼き討ちにあって混乱しており、降りられませんので。
そうなると、自然場所はここに限られてしまいます。」
タルブ、シエスタのいる村である。
そういえばタルブでシエスタと別れてまだ3日しか経っていない。鉄人28号の練習は上手く行ってるのだろうか?
と、その瞬間、見張りが素っ頓狂な声を上げた。
「た、大変です。人が、雲の上に!」
何を言っているんだと、どやどやと外に出て行く人々。当然ルイズたちも外を見る。
そこには―――
「とうとう見つけたぞ、王党派よ。バビル2世よ。」
雲に乗り、空を飛ぶ呂尚の姿が。
「そのちゃちな戦艦ごと、消え去るがいい。」
釣竿を振る呂尚。釣り針が、まるで水面に垂らしたように宙で消えた。
そして、獲物がかかったようになにかがその糸を引く。
「わしの仙術の恐ろしさ、たっぷりと思い知れ!」
釣りキチ三平のように釣竿を引き抜くと、釣り針にかかった長大な竜が現れたのだった。
[[前へ>ゼロのしもべ第2部-9]] / [[トップへ>ゼロのしもべ]] / [[次へ>ゼロのしもべ第2部-11]]
ジャーン ジャーン
ジャーン
大軍が動く。
様子見のために先発は1万。その背後を主力部隊4万が固めている。
先発部隊1万は傭兵を中心とした部隊である。万一、なんらかの罠があった場合にメイジへの被害を最小限に抑えたいためである。
もっとも、深読みする人間は「おそらく杖ではなく剣槍でメイジを仕留めるのだろう」と、王党派をとことん辱めるためにこの編成にした
のだろうと思っているようだった。
先発隊の先に2000の兵が物見として出ている。万一城に急変あれば、フクロウがただちに飛んでくるようになっている。何事もなく
ても、司令部との間に30分ごとに報告を送るように命じてあるのだ。
「いかにコウメイとやらが兵法に通じていようとも、この兵力差ではどうしようもあるまい。見張りに気づいたのか火薬をしかけたという
報告も来ておらぬ。」
この大軍の実質的トップである太公望呂尚が馬上で傍らにいるサー・ジョンストンに語りかける。
「左様ですな。おまけに万一に備えて軍船まで出動するのです。もっとも、レキシントン号は改修中ゆえ、出撃は無理でしたが。なに、
充分でしょうな。」
非常に上機嫌のジョンストン。無理もない。この圧勝間違いなしの戦争の、名目上とは言えトップなのだ。出世の道が約束されて
いるようなものだ。
「ただ、潜り込ませて置いた閃光をあぶりだした、孔明とやらはちと気になっておりますがな。」
「いえいえ、ミスター・リョショー。いかに策を弄してもこれだけの大軍の前では流れに逆らうめだかのようなもの。あっという間に流れ
に飲み込まれてしまいますよ」
だとよいが、と前方に視線を戻す。空には雲ひとつない。見事な快晴であった。あの丘を越えれば城のある岬だ。
「それはそうと、閃光の容態は?」
「5分5分ではないかと医者は申しております。なにしろ手術が手術でしたので…」
「あそこまで痛めつけずともよいと思うがのう。」
「全くです。」
「しかしよほど城の内部に余裕がなくなっているという証拠でもある。余裕があればあそこまで残虐な振る舞いはできぬはずじゃ
からな。」
城の内部をまとめぬままで戦いに挑むとは、コウメイ組し易し!と見たのであろう。呂尚は不適に微笑む。
と、そこへ、
「司令官!司令官!」
早馬を飛ばして駆け込んできた兵士が1人。どうやら先発隊のようである。馬を乗り入れると、転がるように降りて礼をとる。
「報告します!城の様子が…」
「ニューカッスルがどうかしたのか!?」唾を飛ばしてサー・ジョンストンが叫んだ。
「そ、それが……先ほど急にニューカッスルの門が開かれました!」
「なに?降服か!?」
「い、いえ……それが、門が開かれたのですが、人の気配が一切ないのです。あまりにも不気味で……皆戸惑っています。」
「何じゃと!?」
慌てて馬を飛ばす呂尚。その後を追うジョンストン。岬を越えた二人の目に飛び込んできたのは、まぎれもなく門が開いたニュー・
カッスルの姿であった。そして報告どおり、人の気配はない。
「に、逃げたのか!?」
「いえ、我々は眼を皿のようにして見張っていましたがそのようなことはありませんでした。ネコの子一匹、城からは出てきていません」
城を見つめ、じっと考える呂尚。やがて高らかに笑った。
「ははは、若造が。生兵法は怪我の元と言うではないか。」
「い、いかがなされた?」
サー・ジョンストンが心配そうに問う。
「なに、あれは空城の計と言いましてな。敵に何かあると思わせ、退却させる戦法です。なに、恐れることはありませぬ。逆に、あの
計略を用いたということは自ら兵が足らぬことを白状したのと同じ。しょせんこの程度か、孔明よ。」
馬で丘を駆け下りる。そして、先発隊1万の前に出た。ジョンストンも同じく降りてきた。
「諸君らに告ぐ。あれは敵の最後の悪あがきに過ぎぬ。恐れることはない。全軍、正門からどうどうと入るがいい。」
釣竿を振って開いた門を示す。
「少々お待ちください。ですが…」
先発隊を任されているメイジが前に進み出た。
「万一、罠であればどうなります?こやつらは傭兵です。罠に飛び込んで行かせた、などという悪評が立てば今後雇うときにいささか
面倒なことになります。」
ふむ、とそのメイジの言葉に頷く呂尚。もっともなことであった。
「ならば念のために、兵を1000名城内に侵入させよ。罠であればそやつらの犠牲だけですむ。」
というわけで1000名が選ばれ、城に送り込まれた。
おっかなびっくり入っていく彼ら。やがて、中央ホールのほうで歓声が起こった。
外にもその声は聞こえた。何事か、やはり罠かと訝しんでいると、中から金銀財宝を身につけた兵士が現れた。
「おーい、中はお宝だらけだぞ!」
あとは凄まじいこととなった。
その言葉を聞くや否や、待機していた1万の兵士が我先にと城門へと駆け出したのだ。
先に入っていた一団だろう。宝箱や布を棒に括りつけたものに財宝を積んだ連中が城門から出てきた。
「おい、山のようにあるぞ。まだまだ運び出しきれないぜ。」
俄然、城門から中に雪崩れ込む兵隊たち。
当然であった。この先発部隊1万は傭兵を中心としているのだ。傭兵には大儀も思想もない。ただこちらのほうが有利だから、
金を多くくれるから、というだけで仲間になっている連中に過ぎない。そんな彼らの楽しみは、戦後の略奪である。金銀財宝を奪い、
女を犯し、飯を食う。それだけのために戦争をしている連中も多い。
そういった傭兵が、宝が放置されていると聞いて黙っているはずはなかった。最初は警戒した連中も、中から運び出される財宝を
目の当たりにしては思考も何もかも吹っ飛んでしまう。略奪にルールがあるとすれば唯一つ、「早い者勝ち」。ぼやぼやしていては
宝がなくなってしまうではないか。
静止する呂尚やメイジなど見向きもせず、兵隊は突入していく。そしてそこで山のように積まれた財宝を見て、飛びついた。
必死に財宝をかき寄せる連中。腕が当たったり、それはおれのものだ、おれの金を先にとったな、とあっという間に諍いが起こる。
「静まれ!静まれ!」
「呂尚様、軍の統制がとれません!」
静止を聞かず、好き勝手に城に突入していく兵士たち。懸命に押さえ込もうとするが、流れに逆らうめだかのようなもので、何一つ
効き目はない。
そうこうしているうちに後方の本部隊がやってきた。
本部隊の中にも傭兵は多い。その連中が噂を聞きつけ進行速度を速めたのである。
「ええい、これだから平民どもは!」
もはや軍の態をなしていない状況に、舌打つサー・ジョンストン。
「……うっ!」
その横で、突然呂尚が声を上げた。顔面蒼白で今にも落馬しそうだ。
「な、何事ですか!?呂尚様!?」
「もしや……そうだ!閃光の報告ではたしかに火薬を用意したと言っていた!それがあるはずだ!」
そして城を向いた。
「間違いない!これはコウメイとやらの罠だ――――」
その台詞は最後まで言うことはできなかった。
ニューカッスルであがった大爆発で、声がかき消されたのだ。
轟音と共に火柱が上がり、財宝をあさっていた傭兵を飲み込んだ。城の外壁が吹っ飛び、あたりに火山灰のように降り注ぐ。
少し遅れて、火で包まれた人間の死体が振ってきた。
それをかわしていると、中から火達磨の人間がよたよたと出てきて倒れて死ぬ。
本隊のほうにも降り注いだ瓦礫や、人間の手足、岩で死傷者が出た上に、爆音で驚いた馬や使い魔が暴れて、パニック寸前に
なっていた。
「りょ、呂尚様!これは!?」
身を伏せて呂尚に近寄るジョンストン。
「コウメイめ。財宝で兵を城におびき寄せ、その上で火薬を用いて城ごと吹っ飛ばしたのじゃ!」
なんという甚大な被害だろう。5万のうち、最終的にはおそらく2万以上、ひょっとしたら3万以上が城に入っていたはずだ。おそらく
それらは財宝を奪い合うのに必死で、火薬に気づかなかったに違いない。気づいても目に入らなかったのだろう。
「で、では、王党派の連中は王家もろとも自爆したのですか?どこに消えたのでしょうか?」
「決まっているではないか!最初に財宝を抱えて出てきた連中だ!おそらく、兵が中に入ってきたのを確認して、仲間のふりをして
『財宝がある!』とでも歓声を上げたのだろう。金銀宝玉を見た連中は、人数が200人程度増えたことは気づかなかったはずだ。後は
財宝を運び出すふりをして外に出ればいい。」
「しかし、まだ中には侍従やメイド、下僕がいたはずです…そやつらはどこに?」
「財宝の下じゃろう。上にほんの少し財宝を乗せてカモフラージュしたのだ。あるいは先ほどの混乱の段階に、裏からこっそり逃げ
出したのかもしれない。船で逃げ出したのかもしれん。少なくとも、すでに全員脱出したはずだ。逃げ出せば、少人数に別れて
人ごみに紛れ込んでしまえばよいのだ。あとは折を見て少しずつ海外に脱出すればよい。」
「で、では、あの財宝を運び出していた連中を捕らえねば…」
「その通りだ。おそらく、財宝の下には国王ジェームズI世が隠れていたはずじゃ。奴は老身で病がち、運んで逃げ出すしか方法は
ない。だがこの人数に紛れ込んだ200名。見つけ出すのは容易ではない。」
そこまで言うと、慌てて馬から飛び降りた。
「い、いかがなされたのです!?」
「わしは連中を追う!おそらく船を奪うはずだ!風系統を得意とするメイジがいるはずだ。風石が尽きた船でも、奪って魔力を補充
できる。いざというときはバビル2世がロプロスで船ごと運ぶこともできる!クロムウェル陛下には、太公望は預かった兵を失いし
責任をとりに向かったとお伝えくだされ!」
そう叫ぶと、呂尚は脚に札を貼り、そのまま駆け出した。あっという間に目にも止まらぬ速度になり、丘のむこうへと消えた。
「……馬、要らないんじゃないだろうか。」と呟くジョンストンであった。
呂尚の予感は的中していた。
船に老人女子供を中心に乗せた後、バビル2世たちは敵兵に扮して国王たちごと脱出していた。
船は秘密軍港に隠してある。簡単には見つからぬはずだし、特別に選ばれた船員の腕前は折り紙つきだ。
敵兵の格好は、昨晩孔明の命令で準備したものである。
「どうせ傭兵です。決まった格好はないでしょうから、適当でよろしいですぞ。」
また、財宝も大半は昨晩錬金で急遽作り上げたものである。
「全て変える必要はないのです。表面だけで充分。」
そして、どうしても船に乗り切れなかった人間が、財宝の下に隠れて出発した。
「ですから言ったでしょう。ウェールズ王子の仇を取らせる、と。」
爆炎を背に誇らしげに自らを扇ぐ孔明。200名の兵が、いつの間にか尊敬と、畏怖と、恐怖の視線を向けていた。
「しかし、敵が策に気づくのはそう遅くはないでしょう。急ぎ、船を奪わねばなりませぬ。私の計算ではこのままでは敵が到着する
のと、船が出るのはほぼ同時刻になってしまいます。万全を期すならもう少し急いでもらわねば。おそらく、ちょうど2,3隻船が残って
いるはずです。」
「なぜそれがわかります?」と孔明に黒覆面をつけた男が聞く。黒覆面というか、包帯で顔の上半分を覆っているのだ。
「簡単明瞭。おそらく先ほどの爆発で、残っていた船は急行したはずです。そして先に城を攻撃に来ていた船は、今頃最寄の港で
ある目的地に寄港したころでしょう。我々が到着するころには、緊急措置として風石を交換もしくは急速充電したはず。港は無警戒に
近い状況でしょうから、この人数で航行可能な船は充分に奪取可能、というわけです。」
はたして、港は孔明の行ったとおりの状況であった。
残っていた警備兵や整備員に襲い掛かり、猿轡を嵌めて港の小屋に放り込んだ。
そして全員が乗り終え、もやいを解いたくころ、現れたのは太公望呂尚である。
「しまった!遅かったか!」
歯噛みして地団太を踏む呂尚。船はあっという間に港から離れていく。風石はほとんど使っていない。自由落下を利用し、地表に
激突しないようにゆっくりブレーキをかけていくもっともスピードの出るやり方だ。
「おのれ、バビル2世。そしてコウメイ。こうなってはヨミ様に会わせる顔もない。ならば、わしの仙術を駆使して、その船ごと亡き者に
してくれよう!」
呂尚は勢いをつけ、そのままアルビオンから飛び降りた。
白の国、アルビオンがどんどん小さくなっていく。
船は猛烈な速度で滑空している。鍛え上げた軍人はともかく、船に乗りなれていないルイズたちにとっては非常に堪える操船方法
であった。
「だからむこうの船に乗るべきだと言ったんだが」
青い顔をしていうバビル2世。さすがの超能力少年も堪えているようだ。
タバサは風使いのため比較的平気である。キュルケと、ギーシュは天井に張り付いている。ルイズはそれでも悪態をついている。
「ですが、最短時間でつくのです。命を失うよりはマシでしょう。」
さすがロボット。孔明はびくともしていない。
「で、どこに行くんだい、この船は?」
「着陸の関係で、このタルブなる村がある平原に降ります。ラ・ロシェールは焼き討ちにあって混乱しており、降りられませんので。
そうなると、自然場所はここに限られてしまいます。」
タルブ、シエスタのいる村である。
そういえばタルブでシエスタと別れてまだ3日しか経っていない。鉄人28号の練習は上手く行ってるのだろうか?
と、その瞬間、見張りが素っ頓狂な声を上げた。
「た、大変です。人が、雲の上に!」
何を言っているんだと、どやどやと外に出て行く人々。当然ルイズたちも外を見る。
そこには―――
「とうとう見つけたぞ、王党派よ。バビル2世よ。」
雲に乗り、空を飛ぶ呂尚の姿が。
「そのちゃちな戦艦ごと、消え去るがいい。」
釣竿を振る呂尚。釣り針が、まるで水面に垂らしたように宙で消えた。
そして、獲物がかかったようになにかがその糸を引く。
「わしの仙術の恐ろしさ、たっぷりと思い知れ!」
釣りキチ三平のように釣竿を引き抜くと、釣り針にかかった長大な竜が現れたのだった。
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