「二人のルイズ」(2008/05/17 (土) 21:59:14) の最新版変更点
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二人のルイズ
「なによ、これは……」
彼女にとって今日は記念すべき日になるはずだった。
自らの系統を見定め、より内容的に特化した二年への進級試験も兼ねた春の使い魔召喚の儀式。
何度も失敗し、今度こそは意を決して杖を振り下ろした先に現れたのがコレだった。
「なんだあれは!?
「まさかゼロのルイズが」
「信じられない」
周りの生徒たちが驚愕から喧々囂々の騒ぎを巻き起こす中、ルイズはまるで瀕死の魚のように口をパクパクさせることしかできなかった。
出来ればドラゴンやグリフォンのような幻獣であれば言うことはない、虎や獅子でも大歓迎だ、それが無理なら犬猫でも構わない、いやオールドオスマンのようにネズミでもしょうがないし、さっき頭上を飛んでいった雀でもこの際贅沢は言うまい。
そんな気持ちで挑んだサモンサーヴァントだからと言って、よもやこんなものが出てくるとはルイズは夢にも思わなかった。
それはまず巨大だった、ルイズのすぐ前の生徒が呼び出した風竜の幼生よりも尚大きい。いや大きさだけなら今年と言わずこれまでこの学院で呼び出された使い魔のなかでも最大の部類に入るに違いない。
次にぬめぬめしている、濡れ光る緑の皮膚は周囲の光を反射して微妙な光沢に照り輝いている。
最後にそれは不気味だった、足を全く動かすことなく地面をまるで滑るように動き回り、その巨大な瞳はピクリとも動くことはない。
だが結局のところ、その生物を表すにはただ一言で事足りる。
「なんで、こんなでっかい蛙が出てくるのよ……!」
そうルイズは蛙が苦手だった、もはやルイズ自身覚えていないが幼少の頃に刻まれたトラウマがぬるぬるべたべたした生物を忌避させるのだ。
しかしそんな自分に呼び出されたのは自身がもっとも苦手としている蛙。
それも超特大サイズ。
ルイズは泣き出したくなった、始祖ブリミルよ。私が何か貴方のお怒りに触れるようなことをしたのでしょうか?
貴方は私に貴族だと言うのに魔法の才能を与えなかったばかりか、私がもっとも嫌うものを終生のパートナーにせよと申すのですか?
もし私の言葉が届くのなら……
「もう一度、召喚をやり直させてください」
「駄目です、使い魔召喚の儀式は神聖なものですから」
ほとんど無意識から出たルイズの魂からの叫びは、すぐ隣に居た輝く教師に一言で切って捨てられた。それはそうだいちいち生徒が使い魔が気に入らないからと言って再召喚させていてはきりがないし、それにコルベールの目にはルイズがあたりを引いたように思えた。
なにしろこれほど巨大な蛙である、ルイズの学友が普通の手のひらに乗るような蛙を召喚したことも分かるように一目で見て桁外れの存在だと分かる。
コルベールは教師としてルイズに自らの才能に自信を持って欲しかった、多少本人が呼び出した使い魔を嫌っていようとこのご立派な使い魔は周囲の者たちの目にルイズが「ゼロ」でない証として映るだろう。
実際、普通のアマガエルを召喚したモンモラシ家の一人娘などはロビンと名づけた自分の使い魔とルイズが呼び出した蛙とを見比べて、嫉妬交じりの視線を送っている。
「分かりました……」
コルベールの言葉にルイズは諦めたように頭を垂れた、上目遣いに見上げればルイズの前で彼女の使い魔は候補は間抜けな面を晒している。
その間抜け面を見ているとだんだん憎らしくなってくる、コイツが出てきたばっかりにと言うどうしようもならない運命に対する憤りが現実の相手として現れたことで心のなかで形を成す。
「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
コルベールにレビテーションで浮かばせて貰いながら、ルイズははんばヤケクソな気持ちでその呪文を唱える。
新たなる運命の扉を開く、その呪文を。
「きゃっ!?」
「なんだっ、なにが……」
――その場で何が起こったのか理解できた者はいなかった。
ルイズが巨大蛙に口付けし、その左手にルーンが刻まれた途端に巨大な蛙は猛烈な光と共に塵が砕けるように消えてしまったのだから。
光と塵の乱舞が収まった時、ヴェストリ広場に集まった生徒たちはその声を聞いた。
「守らなきゃ……」
それは涼やかで悲しげな、硝子で出来た鈴のような声だった。
ルイズを含めた全員は、その声に聞き覚えがあるような気がした。
「あの人が愛した世界を、守らなきゃ……」
そこには一人の少女が立っていた。
儚げな姿で、まるでレビテーションでも使っているように地面から僅かに浮きながら。
静かに、その場に佇んでいた。
ルイズは愕然とする。
着ている衣装こそ周辺の国々で見たこの無いものだが、少女の姿はあまりにも見慣れたものだったから。
見慣れたものでありすぎたから。
「あなた……誰…………?」
ルイズは、毎朝鏡のなかで出会うもう一人の自分に向かって問いかけた。
桃色の髪の少女は、僅かに笑って。
「わたしは――グロリア」
己に与えられた名を応えた。
それがゼロと馬鹿にされ続けてきた虚無の魔法使いと、朽ちて尚約束を守ろうと足掻いていた竜との出会いでした。
二人のルイズがこれからどのような物語を紡ぐのかは、我々には知ることは叶いません。
ならばせめて祈りましょう。
傷つき続けた彼女たちがもう二度と傷つくことの無いように。
惨禍に巻き込まれることがないように。
せめて栄光の賛歌〈グロリア〉を贈りましょう。
――願わくば、ああ願わくば、その旅路の最果てが幸福なものでありますように
スクラップドプリンセスから竜機神No7 グロリア を召喚。
二人のルイズ
「なによ、これは……」
彼女にとって今日は記念すべき日になるはずだった。
自らの系統を見定め、より内容的に特化した二年への進級試験も兼ねた春の使い魔召喚の儀式。
何度も失敗し、今度こそは意を決して杖を振り下ろした先に現れたのがコレだった。
「なんだあれは!?
「まさかゼロのルイズが」
「信じられない」
周りの生徒たちが驚愕から喧々囂々の騒ぎを巻き起こす中、ルイズはまるで瀕死の魚のように口をパクパクさせることしかできなかった。
出来ればドラゴンやグリフォンのような幻獣であれば言うことはない、虎や獅子でも大歓迎だ、それが無理なら犬猫でも構わない、いやオールドオスマンのようにネズミでもしょうがないし、さっき頭上を飛んでいった雀でもこの際贅沢は言うまい。
そんな気持ちで挑んだサモンサーヴァントだからと言って、よもやこんなものが出てくるとはルイズは夢にも思わなかった。
それはまず巨大だった、ルイズのすぐ前の生徒が呼び出した風竜の幼生よりも尚大きい。いや大きさだけなら今年と言わずこれまでこの学院で呼び出された使い魔のなかでも最大の部類に入るに違いない。
次にぬめぬめしている、濡れ光る緑の皮膚は周囲の光を反射して微妙な光沢に照り輝いている。
最後にそれは不気味だった、足を全く動かすことなく地面をまるで滑るように動き回り、その巨大な瞳はピクリとも動くことはない。
だが結局のところ、その生物を表すにはただ一言で事足りる。
「なんで、こんなでっかい蛙が出てくるのよ……!」
そうルイズは蛙が苦手だった、もはやルイズ自身覚えていないが幼少の頃に刻まれたトラウマがぬるぬるべたべたした生物を忌避させるのだ。
しかしそんな自分に呼び出されたのは自身がもっとも苦手としている蛙。
それも超特大サイズ。
ルイズは泣き出したくなった、始祖ブリミルよ。私が何か貴方のお怒りに触れるようなことをしたのでしょうか?
貴方は私に貴族だと言うのに魔法の才能を与えなかったばかりか、私がもっとも嫌うものを終生のパートナーにせよと申すのですか?
もし私の言葉が届くのなら……
「もう一度、召喚をやり直させてください」
「駄目です、使い魔召喚の儀式は神聖なものですから」
ほとんど無意識から出たルイズの魂からの叫びは、すぐ隣に居た輝く教師に一言で切って捨てられた。それはそうだいちいち生徒が使い魔が気に入らないからと言って再召喚させていてはきりがないし、それにコルベールの目にはルイズがあたりを引いたように思えた。
なにしろこれほど巨大な蛙である、ルイズの学友が普通の手のひらに乗るような蛙を召喚したことも分かるように一目で見て桁外れの存在だと分かる。
コルベールは教師としてルイズに自らの才能に自信を持って欲しかった、多少本人が呼び出した使い魔を嫌っていようとこのご立派な使い魔は周囲の者たちの目にルイズが「ゼロ」でない証として映るだろう。
実際、普通のアマガエルを召喚したモンモラシ家の一人娘などはロビンと名づけた自分の使い魔とルイズが呼び出した蛙とを見比べて、嫉妬交じりの視線を送っている。
「分かりました……」
コルベールの言葉にルイズは諦めたように頭を垂れた、上目遣いに見上げればルイズの前で彼女の使い魔は候補は間抜けな面を晒している。
その間抜け面を見ているとだんだん憎らしくなってくる、コイツが出てきたばっかりにと言うどうしようもならない運命に対する憤りが現実の相手として現れたことで心のなかで形を成す。
「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
コルベールにレビテーションで浮かばせて貰いながら、ルイズははんばヤケクソな気持ちでその呪文を唱える。
新たなる運命の扉を開く、その呪文を。
「きゃっ!?」
「なんだっ、なにが……」
――その場で何が起こったのか理解できた者はいなかった。
ルイズが巨大蛙に口付けし、その左手にルーンが刻まれた途端に巨大な蛙は猛烈な光と共に塵が砕けるように消えてしまったのだから。
光と塵の乱舞が収まった時、ヴェストリ広場に集まった生徒たちはその声を聞いた。
「守らなきゃ……」
それは涼やかで悲しげな、硝子で出来た鈴のような声だった。
ルイズを含めた全員は、その声に聞き覚えがあるような気がした。
「あの人が愛した世界を、守らなきゃ……」
そこには一人の少女が立っていた。
儚げな姿で、まるでレビテーションでも使っているように地面から僅かに浮きながら。
静かに、その場に佇んでいた。
ルイズは愕然とする。
着ている衣装こそ周辺の国々で見たこの無いものだが、少女の姿はあまりにも見慣れたものだったから。
見慣れたものでありすぎたから。
「あなた……誰…………?」
ルイズは、毎朝鏡のなかで出会うもう一人の自分に向かって問いかけた。
桃色の髪の少女は、僅かに笑って。
「わたしは――グロリア」
己に与えられた名を応えた。
それがゼロと馬鹿にされ続けてきた虚無の魔法使いと、朽ちて尚約束を守ろうと足掻いていた竜との出会いでした。
二人のルイズがこれからどのような物語を紡ぐのかは、我々には知ることは叶いません。
ならばせめて祈りましょう。
傷つき続けた彼女たちがもう二度と傷つくことの無いように。
惨禍に巻き込まれることがないように。
せめて栄光の賛歌〈グロリア〉を贈りましょう。
――願わくば、ああ願わくば、その旅路の最果てが幸福なものでありますように
スクラップドプリンセスから竜機神No7 グロリア を召喚。
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