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#navi(ピノキオの大冒険)
青髪の少女の言うとおり、厨房は食堂の裏にあった。二、三度程、扉を叩くとメイドが出てきた。シエスタではなかったが、とりあえず皿を渡すと笑顔で受け取ってくれた。
礼を言うと、ジローは食事が終わっただろう主人の下へと向かった。
入り口前では食事を終えた生徒たちで入り口はごった返していたが、その中でルイズを発見できたのは、ジローの能力だけで無く、彼女の桃色の髪のお陰だろう。
他の生徒の邪魔にならぬよう、間をすり抜けながら、ジローはルイズの下へと向かった。
「ちょうど良い時間だったみたいだね」
「アンタねぇ……素直かと思えば、自分勝手な行動をするし……いい? 次こんなことしたら、ご飯抜きだからね!」
ジローを指差しながら、ルイズは怒鳴った。
随分とご立腹のようだ。食事抜きで一向に構わないのだが、一々荒波を立てることも無いだろうと思い、ジローは一応、謝っておくことにした。
「悪かった」
「ふん……どこまでが本気なんだか……」
疑いの目を向けながらルイズは歩き始める。何も言わず、ジローもその後を追う。
しばらく歩いていると食堂程ではないが大きな扉があった。すでにあけられた扉の向こうには石造りの階段状の机が並んでいた。
席にはすでに生徒たちが座っており、ルイズもあいている席へと移動した。
恐らく教室だろう。次々と部屋に入ってくる生徒を眺めながら、ジローはルイズにたずねた。
「今から授業かい?」
「そうよ。分かっていると思うけど……」
「使い魔は席には座れない……だろ?」
朝の食堂でのやり取りから考えればあたり前の結果だろう。ジローはその場に座り込んだ。
この教室に入ってからだが、周りの生徒たちは自分たちを見てはクスクスと笑っていた。本人たちは聞こえていないつもりだろうが、ジローの耳にはルイズへの誹謗の言葉が聞こえていた。
中にはあからさまに馬鹿にした視線を向ける者もいたが、ルイズは慣れなのかそれとも気にしていないのか、それらを無視していた。
しかし、だんだんとルイズの顔が険しくなっていくのを見れば、爆発も時間の問題かも知れなかった。
そんな中、扉が開くと中年の女性が入ってきた。それと同時に生徒たちの話し声は無くなり、全員一斉に女性へと向いた。
教卓まで移動した女性は一度回りを見渡すと、微笑みながら言った。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、皆さんの様々な使い魔を見るのがとても楽しみです」
そう言いながら、シュヴルーズは右端から順番に生徒たちの使い魔を見渡していた。そして、ジローに目が留まった。
嫌な予感がした。ジローは叶うはずの無い願いを祈っていた。
「おやおや、ミス・ヴァリエールは変わった使い魔を召喚したようですね」
的中。嫌なぐらいに見事にジローの予想は的中した。
恐らくシュヴルーズに悪気は無かったのだろう。しかし、彼女の言葉が引き金となり、教室中は一斉に騒がしくなった。
ジローは『頭痛』がするとしたらこういった場面なのだろうと悟った。こめかみを押さえながら、小さくため息をついた。
「ゼロのルイズ! 使い魔を召喚出来ないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」
ルイズの近くに座っていた小太りの少年の言葉に遂に堪忍袋の尾が切れたのか、ルイズは立ち上がり、いつもの要領で怒鳴った。
「ちゃんと召喚したわ! こいつが勝手にやってきただけよ!」
「嘘をつくなよ! サモン・サーヴァントができなかったんだろう?」
その後、ルイズと少年の言い争いが続いたが、見かねたシュヴルーズが杖を振るうとルイズと少年の口に粘土が現れ、口を防いだ。騒がしかった教室は一変して静かにはなったが、やはり小さな声でルイズを馬鹿にする言葉は聞こえてくる。
気が滅入るのでそれらの言葉にはフィルターを掛け、授業を見ることにした。
シュヴルーズの教える内容は『錬金』というものらしい。
意外に魔法の授業というのは聞いているだけでも面白いものだった。
シュヴルーズが杖を振るう度に、石ころが別の金属へと変化する。さすがは魔法といったところだった。どういう理屈かは分からないが、ここまで物質を変化させるのはたいしたものである。
それ以外にもジローが興味を持ったのは、この世界における魔法の位置づけであった。シュヴルーズの話を聞く限りでは彼女の属性は『土』、この属性は人々の生活に大きく関わっていた。『錬金』によって金属を生み出し、
加工する。石などもこの『錬金』を用いて加工するらしい。
他にも『土』の属性らしく、田畑を耕すのにも使用され、農作物などにも関係してくる。他の魔法の属性がどのような役割を担うのかは不明ではあるが、
この世界では機械技術に変わって魔法がそれらの変わりを担っていた。
魔法を扱えるのは貴族、メイジのみと限られれば、魔法使いたちの立場が上になるのは当たり前だろう。
(この関係はそう簡単には崩れないな)
元いた世界では貴族制度は幾多の革命により衰退していった。貴族という存在は残っていてもそれらにはこの世界ほどの権力はすでに無い。
革命により貴族の立場が弱まったのは彼らがただの人間だったからだ。しかし、この世界では貴族は魔法を使うことが可能であり、その力は平民たちを恐れさせた。ルイズを初めとして、
貴族が平民を馬鹿にするのはそれらの関係があるからだろう。
この世界での革命が成功するとしたら、ジローの世界で言う近代のレベルまでは待たなければいけないだろう。
しかし、それはジローには関係のないことだった。
(このまま、こういった生活が続けばそれでいい)
少々……だいぶ我が儘だが可愛らしい主人に仕える生活は悪くはない。贅沢を言えば、もう少し生活環境の改善を求めるのだが、この少し騒がしい日常が続けばいい。
ただそれだけをジローは求めていた。
静かな教室には箒を履く小さな音だけが聞こえていた。箒を履くのはジロー。ルイズは椅子に座りながら、割れた窓を眺め、時折横目でジローを見ているという動作が繰り返された。
ジローは手を止めて、ルイズに言った。
「君はやらないのかい?」
「うるさい」
短い言葉で返され、ジローは肩をすくめた。
授業中の出来事であった。シュヴルーズに『錬金』の実践を指名されたルイズは若干、緊張しながらも、『錬金』を行った。何故かルイズが『錬金』を行う際に周囲の生徒たちは必死になってそれを止めようとしていた。
仕切りに『ゼロのルイズ』という言葉が聞こえたが、それが何をしていたのかはすぐに分かった。
周囲の懇願むなしく、ルイズは『錬金』を行った。結果は大爆発。何の比喩表現も無く、ただ爆発が起きたのだ。そのお陰で教室中は大騒ぎに陥った。主人に従順とは言え、本来は野生の獣であった使い魔たちは爆発音に驚き、
主人の命令を聞くことなく暴れだした。それは主人たちも例外ではなく、使い魔が暴れると同時に彼らもまた混乱し始めた。
魔法成功率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』とは言い得て妙なあだ名ではあった。
それからしばらくは両者とも無言だった。その間もジローは黙々と仕事をこなしていった。
「わかったでしょう」
長い沈黙に耐えられなかったのか、小さな声でルイズは言った。
「皆が私のことを『ゼロのルイズ』って呼ぶ理由が。何をやっても成功しない、初歩的な魔法すらもできない。魔法成功率ゼロだから『ゼロのルイズ』……」
自嘲気味に話すルイズの姿はどこか儚げな印象があった。
ジローはそんなルイズの気持ちが分からないでもなかった。自身もまた『心』について苦しんだことがある。それは今でも続いている。
「……」
本来なら何か言ってあげたいところだが、ジローには言葉が思いつかなかった。
下手なことをいってルイズを怒らせてしまうという心配もあったが、自分も偉そうにいえる立場でないことも理由の一つだった。
しかし……ジローはほうっては置けなかった。
「ある所にウサギとカメがいました」
おもむろにジローは自分のよく知る物語を語り始めた。
「その歩みの鈍さをウサギに馬鹿にされたカメはウサギに山のふもとまで駆けっこの勝負を挑みました。駆けっこを始めると、当然のようにウサギはカメをどんどんと引き離していきました」
「そりゃそうよ……カメがウサギに勝てるはずないわ……何が言いたいの?」
「ウサギは引き離したカメを待ってやろうと余裕綽々で居眠りをしてしまいました。その間にもカメは少しずつ、けれども確実に進み、遂にはウサギを追い越してしまいました。
そして、ウサギが目を覚ますと、そこにはゴールに到着して大喜びするカメの姿がありましたとさ……ルイズ、どうしてカメが勝って、ウサギが負けたと思う?」
突然の質問にルイズは一瞬戸惑ったが、答えは簡単だった。
「ウサギは油断したのよ。カメは絶対にウサギには勝てないって思っていたから。だけど、カメは諦めずに休むことも無くゴールを目指したわ。ウサギのように居眠りもせずにただひたすらゴールを目指したのよ」
「そう。例えばウサギを君を馬鹿にしていた生徒、カメを君とすれば、ルイズ、君さえ諦めなければ、他の生徒にも追いつける、いや、もっと高いところまでいける。誰も追いつけないような場所へ」
「そんな物語のように……上手くいくはずないわよ」
「何故諦める! 君はそれで良いのかい? ずっと、このまま馬鹿にされて、悔しくないのか! ここで諦めるのなら君は一生、ゼロのままだ、それでいいのか!」
「……ッ! 良いわけないでしょ!」
ジローの激励にも負けない大声でルイズは返した。
「時々思っていたけれど、やっぱりアンタ生意気だわ! 見てなさい、いつかそんな態度もできないようなメイジになってやる! 馬鹿にしていた奴らを見返してやる!」
「ふふ……」
「な、何笑っているのよ!」
「いや、元気になったみたいだから」
「あ……私は元々元気よ! ジロー、いいからちゃっちゃっと片付けるわよ!」
照れ隠しのつもりか、ルイズは頬を赤らめながら、大声をだした。
ジローはルイズの言うとおりに掃除を再開した。
苦労の甲斐あってか、教室の片付けは思いのほか早く済んだ。とは言え、昼食の時間を大きく削ってしまったことには変わりなく、二人は急ぎ食堂へと向かった。
「あぁ、ルイズ」
「なに?」
「僕の料理だけど……」
「あぁ~そのこと何だけど……」
あそこまで励まされたにも関わらず、ルイズが用意していたのは朝食と同じ料理であった。とはいえ、わざとではない。これはまさかあのような出来事があるとは思っても見なかったし、朝昼晩全てその質素な料理を出すように料理人に命じたからである。
「厨房に行って何か貰ってくるよ。まかない位は貰えるさ」
「そう……」
ジローもそれを察していた。酷い言い方かも知れないが、ジローにとってこれはまた好都合であった。料理を食べる必要が無くなる機会を巧い具合に手に入れることができたのだから。
「それじゃ」
そういってジローはとりあえず、厨房へと向かった。しかし、その中に入ることはせず、どうしたものかと立ち往生していた。
暇ができてしまった。今頃になって、質素な料理をあの子供の竜に持っていってあげればよかったなどと後悔していた。さらに邪魔になると思いギターをルイズの部屋に置いてきてしまったのはミスであった。
あれこれ考えていると、突然後ろから声がした。
「あら、ジローさん?」
「ウン?」
振り返るとそこには大きなトレイでデザートを運ぶシエスタの姿があった。今朝のときのように人当たりの良い笑顔をこちらに向けていた。
「どうしたんです、こんなところで?」
「ルイズの食事が終わるまで暇でね。どうしたものかと思っていたんだ……」
ふと、ジローはトレイに目を落とした。そのときあることひらめいた。これならいい具合に暇が潰れると思った。
「シエスタ……」
「もしよろしければ、デザートを配るのを手伝っていただけないでしょうか? 今日は数が多くて、人手が足りないんです」
「あぁ、まかせて」
ジローが手伝いを申し出ようとした瞬間、申し訳なさそうにシエスタが手伝いを求めてきた。少し意表をつかれてしまったが、それを了承する。
厨房からトレイを受け取ったジローはシエスタと共にデザートを運ぶことになった。難なく出来ると思った仕事ではあったが、どうやら食器の配置に決まりがあるらしく、何気なくデザート
を置こうとした瞬間にシエスタに注意された。
「面倒なものなんだね?」
「はい。貴族らしい食事の仕方というものがあるみたいで、少しでも間違えるとお怒りになる貴族様もいらっしゃるんです。ジローさんも気をつけてくださいね」
「わかった」
その後もジローが失敗しそうになったり、どうしたらよいのかわからない時はシエスタに色々と教えてもらいながらデザートを配ってゆく。従者の仕事を何も知らないジローに親切に内容を
教えてくれるシエスタにジローはどこか懐かしいものを感じた。
「ジローさん?」
『ジロー』
ほんの一瞬、シエスタの顔に別の女性の顔が映し出された。反応の遅れたジローは重なった女性に対しての返事をしてしまった。
「あ、はい」
「ふふ、どうしたんです。改まってしまわれて?」
「あ、いや……はは、少し懐かしい人を思い出してね」
最初で最後、ジローが愛した女性。何故かシエスタを見ているとその女性を思い出す。改めてみれば、瓜二つというわけではない、似ているとしたら黒髪とそして……
「さぁ、早く仕事を終わらせましょう」
優しい声であった。
唯一、思い出しても心が痛まない記憶を思い出したジローはほんの少しだけ癒された気分がした。
シエスタの言う通りにジローは仕事を再開した。二人でデザートを配っていると近くで貴族の少年たちの談笑が耳に入る。話の中心にいるのは金髪の少年だった。フリルのついたシャツを着た
少年は周りの少年たちになにやら冷やかしを受けているようだったが、焦ることも無く余裕の顔で対応していた。
「おい、ギーシュ! お前、今誰と付き合ってるんだよ?」
「付き合う? 僕に特定の女性なんていないさ。薔薇を多くの人を楽しませるためにあるのだから」
薔薇を片手に語る少年、ギーシュ。出てくる台詞は所々キザったらしいが、話している内容は他愛もないものだった。元の世界の学生たちもこれくらいの会話はしている。
貴族などと言ってはいるが、こういう場面を見れば学生らしいというものだ。
「おや?」
そんな少年たちを見ていると彼らの足元にビンが転がっているのを発見する。紫色の液体の入ったビンであった。
(断定はできないが香水か……)
瞬時に液体の成分を調べるとジローは男が香水とはまた洒落たものだなと思いながら、拾ってやろうと歩みだした。
「待ってください」
しかし服の袖をシエスタに捉まれてしまい、足を止めた。
「拾わないほうがいいですよ。面倒な事に巻き込まれます」
「え……どういう意味だい?」
「勘ですよ。とにかく、あのビンからは嫌なものが感じられるんです。さ、行きましょう」
「あぁ……わかった」
本当に良いのだろうかと思いながらもシエスタの後を追うジロー。その後もしばらくデザートを配っていったのだが、突然シエスタが顔色を変えた。
「いけない!」
柄にも無くおろおろとしている様子のシエスタは急ぎ足で先ほどの少年たちの下へと向かった。ジローも何事かと思い後を追いかける。
「シエスタ、どうしたんだ?」
「あぁ……!」
少年たちの近くまで移動した二人の目の前にはシエスタと同じくメイド服を着込んだ少女がビンを拾う瞬間であった。
シエスタよりも年下に見える少女は親切心でそのビンを拾ったのだろうが、それが思わぬ事態を招くなどとはその少女は思わなかっただろう。
「あの、落し物でございます」
少女は何のためらいも無くそのビンを少年たちの中心にいるギーシュへと渡そうとした。恐らく自分たちよりも前にそのビンが落ちる瞬間を目にしていたのだろう。
「何のことかな? これは僕のじゃないよ」
ギーシュは特にそのビンを見るわけでもなく否定したが、周りの友人たちがそのビンに心当たりがあったらしく騒がしくなった。
「おや? それはモンモランシーの香水じゃないのか?」
「確かに、その鮮やかな紫はモンモランシーが自分のためだけに調合するもののはずだ!」
「それがお前のだとしたら、お前が今付き合っているのはモンモランシーだな!」
「おいおい、何を言い出すんだい? 彼女の名誉のために言っておくが……」
ギーシュがなにやら言い訳を言おうとした時、一人の少女が彼の下へとやってきた。小柄な体格から見ると、彼らより年下と見える。
少女は彼の目の前に立つや否や、ボロボロと涙を流しはじめた。
「酷いです、ギーシュさま……」
「あぁ、違うんだよ、僕の可愛いケティ……これには深いわけが……」
何とかなだめようしたギーシュだったが、最後まで言う前にケティの平手打ちが右頬に炸裂した。
「その香水をギーシュさまが持っていたことが何よりの証拠ですわ! さようなら!」
頬をさすりながら走り去るケティを唖然と見送るギーシュ。しかし、彼の不幸はそれだけでは収まらなかった。
騒ぎを聞きつけたのか、遠くの席に座っていた金髪の巻き毛の少女が険しい形相でギーシュの下へとやってくる。
「やっぱり、あの一年に手を出していたのね」
口調は穏やかそうに聞こえるが怒りがひしひしと伝わってくるようだった。
「ち、違うんだよモンモランシー! 彼女とはラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」
冷や汗をかきながら、ギーシュは何とか冷静な態度を装っていた。
しかし、モンモランシーは黙ってテーブルに置かれたワイングラスを持つと中身をギーシュにかけた。
「貴方とはもうおしまいよ!」
ケティに叩かれた頬とは反対側に平手打ちを食らわせ、その場から去ってゆく。
その場に取り残されたギーシュはハンカチを取り出し、顔を拭きながら、芝居がかった仕草で言った。
「彼女たちは薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
一通り顔を拭き終えたギーシュはゆっくりと体を回転させ、ビンを拾った少女へ向く。
ギーシュはやれやれといった感じの顔を少女に向けると足を組みながら、言った。
「さて……君の軽率な行動のお陰で、二人のレディの名誉に傷がついてしまった」
「あ……あの」
少女は体を強張らせ、恐怖で顔が蒼白になっていた。
それまで黙っていたジローはギーシュのあまりの身勝手さに怒りを覚え、彼らの下へと向かう。
「ジローさん!」
シエスタの声も無視して、ジローは未だ少女を責め続けるギーシュに向かって大声で抗議した。
「いい加減にしないか!」
「ン? 誰かと思えば、君はゼロのルイズが召喚した平民じゃないか。君には関係のないことだ。引っ込んでいたまえ」
「さっきから見ていたが、彼女は何も悪くない。君にこの子を責める筋合いはない!」
「そうだぞ、ギーシュ! もとはお前が二股していたのが悪い!」
野次を飛ばす友人たちがどっと笑うとギーシュの顔にさっと赤みが差した。
どう考えても非があるのはギーシュの方である。それなのに少女を責めるギーシュをジローの良心が許さなかった。いや、これはそんなものが働かずともジローの意思で彼に抗議しただろう。
「彼女に謝れ。そしてさっきの女の子たちにも謝るんだ」
「ふん、何故僕がそんなことしなければいけないのだい? 第一、平民が貴族に指図するとは……やはり、君はゼロのルイズの使い魔だ。礼儀もなっちゃいない」
「自分の非を認めない君よりは礼儀は知っている」
「なんだと?」
癇に障ったのか、ギーシュは声色を変えると目元を鋭くするとキッとジローをにらみつけた。ギーシュは怒りをあらわにしながら、高圧的な態度を崩さず、言い放った。
「先ほどから君の態度には腹が立つ……平民ごときが貴族に対して取って良い態度ではない……」
そういうとギーシュは薔薇をジローに向ける。
「君には教育が必要なようだね。貴族に対する礼儀というものを教えてやろう」
「遠慮しておこう。君に教わる礼儀はない」
それだけを言い放つとジローは怯える少女の肩を抱きながら、シエスタの方へと押しやった。自分もその場を立ち去ろうとしたのだが、ギーシュの言った言葉を無視することはできなかった。
「主人が主人なら使い魔もとんだろくでなしだな……」
「……」
ジローは立ち止まると無言でギーシュに顔を向けた。
それに気がついた、ギーシュは腕を組みながら、続けた。
「おや、聞こえたのかい? 気にしないでくれたまえ、本当のことだ」
髪を弄りながらギーシュは見下した視線をジローに向ける。その態度にジローの怒りは最高潮へと達した。
それは自分を馬鹿にされたからではない。明らかなルイズへの悪口。彼女の努力を知るジローにとってそれは聞き捨てならない言葉であった。
「ルイズを馬鹿にしたな?」
「だからどうしたというのだ? まさか主人を侮辱されたから僕に謝罪を求めているのかい?」
「そうだ」
ジローは短く返した。対するギーシュはその言葉を待っていたといわんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべる。
その瞬間、ジローは嫌な予感がした。
「そうか。ならば、決闘だ。君は僕を侮辱した……決闘に君が負ければ、君は僕に謝罪するんだ。そして、万が一にも僕が負けるようなことがあれば、僕は君に言う通りに四人に謝ろうじゃないか」
「……」
うかつだったと後悔しても遅い。まさか決闘などと、そんなものにまで発展するとは思っても見なかった。決闘とは戦いである。どのような形であれ、ジローは戦うことは避けたかった。
「どうしたんだい? まさか、アレだけの事を言って怖気ついたはないだろう?」
返事の無いジローをギーシュは挑発するように言った。
奥歯をギリリと噛み締め、ジローは決断を下した。
「いいだろう。約束は守れ」
「ふん、ならばヴェストリの広場まで来たまえ」
ギーシュは体を翻すと、すたすたと立ち去ってゆく。その後をわくわくした顔で仲間たちが追いかけていった。
ジローも後を追おうとするが、後ろからの聞き覚えのある声で足を止めた。
「ジロー!」
振り返ると顔を真っ赤にし、怒鳴りながらこちらに走ってくるルイズの姿があった。
息を切らせながら、ルイズは再度ジローに怒鳴った。
「アンタ、何考えてんの!」
「彼は君を馬鹿にした。それだけじゃない、他にも三人の女の子を傷つけた……」
「そんなの、ほうっておきなさい! 大体、平民が貴族に勝てると思ってるの?」
「勝つさ……勝たなきゃいけない」
ジローはそういいながらギーシュたちの後を追った。
許せなかったのだ。貴族とは言え、身勝手な理由で罪をなすりつけ、あまつさえ無関係の人間を侮辱する、ギーシュの態度を心から許せなかったのだ。
残されたルイズは何度もジローを呼び止めたが止まる気配は無かった。
「あぁもお! 待ちなさい!」
ルイズはいつもの大声をあげながらジローの後を追った。
そして、残された二人のメイド。シエスタは泣きじゃくる年下のメイドをあやしながら、これからおきる出来事に不安を募らせた。
「大丈夫かしら……」
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