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「プレデター・ハルケギニア-16」(2008/04/25 (金) 20:48:35) の最新版変更点
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#navi(プレデター・ハルケギニア)
夕日の差し込む学院長室でオスマンは一人椅子に腰掛け、パイプをふかしていた。
その目は半ば鋭い眼差しで手に持たれた号外を見つめている。
―ラ・ロシェールで傭兵が惨殺・ブルドンネと同一犯か?―
号外の見出しには大きな文字でそう書かれている。
しばしそうやって号外を読んでいると突然ドアを激しくノックする音が響く。
確認しなくても誰かは想像できた。
「入りたまえ。ミスタ・コルベール」
パイプを置き少し面倒臭そうな口調で言う。
ドアが力強く開け放たれると予想通りの禿げ頭がツカツカと走るように入ってきた。
その手にはオスマンの読んでいる物と同じ号外が握られていた。
「た、大変ですぞ学院長!ミス・ヴァリエールたちが向かったラ・ロシェールで……」
「落ち着きなさいミスタ。殺されたのは傭兵の一団だけと書いてあるじゃろうが」
コルベールをなだめるようにオスマンが言う。
「し、しかし……」
困惑した表情を見せるコルベールにオスマンは一つ、深いため息をつくと立ち上がった。
「明日の朝一番で出かけるぞい。君も付き合いなさい」
ルイズと子供たちは遊び疲れて地べたに座り込んでいた。
こんな風に遊んだのは本当に何年ぶりだろうか。幼少の頃アンリエッタの遊び相手を務めていた時以来だろう。
何か子供の頃に戻ったような心地よい感覚にルイズは浸っていた。
見ればもうすっかり陽も落ちている。
「みんな、もう家に入りましょう。晩御飯もできてるから」
後方からテファニアの声がかかった。子供たちとルイズもその声に応え家の中に入っていった。
「それじゃあ、食べましょう」
テファニアの一声とともに一同が夕食を食べようとしたその時、ズシン、と何か巨大な物が落ちたような重い音とともに
テーブルが、いや小屋全体が大きく揺れた。
「な、何!?」
ルイズが思わず驚嘆の声を上げる。一人の子供が窓に駆け寄り外を見た。
そして間髪入れずに絶叫を上げた。
「どうしたの!?」
テファニアが急いでその子供の元へと駆け寄るとともに自身も外を見る。
そしてその瞬間、テファニアも驚愕の表情を浮かべた。
筋骨隆々とした巨体に巨大な二つの翼。
小屋の前にいるのは巨大な竜であった。
竜が巨大な咆哮を上げるとともに前足で強く地面を叩いた。
先程よりも大きな揺れにテーブルの上の料理が床にひっくり返る。
「みんな逃げるのよ!」
テファニアが半ばパニック状態の子供たちを裏口へと促す。
ルイズも一緒に子供たちを誘導する。
「テファニア、何してるの!?」
子供たちを誘導し自身も外に出ようとした時、何を思ったかテファニアは急に寝室へと走ったのだ。
「ごめんなさい、行きましょう!」
戻ってきた彼女の手には琴が持たれていた。
ルイズは一瞬怪訝そうな顔をしたが今は逃げることが先決だ。テファニアと共に裏口へと走った。
ルイズとテファニアが外に出るのと同時に振り上げられた竜の前足が小屋の屋根を轟音とともに叩き潰した。
もう数回、竜が同様の動作を繰り返すと小屋は完全に崩壊し木片の山の如き有様となった。
エレオノールたちは小屋から少し離れた森の中で一部始終を見守っていた。
「本当にこんな作戦で現れますかね?」
「闘争の場に現れるのはわかってるわ。現にヤツは内戦中だったアルビオンまで来ているじゃない」
小屋を破壊した竜はルイズたちが逃げた方向へと飛んでいった。
「移動するわよ」
エレオノールの言葉とともに隊員たちも移動し始める。
「みんな、がんばって!」
テファニアが子供たちを励ますように言う。
子供たちは半ば泣きじゃくりながら必死に走っている。
「どこに逃げるの!?」
「とりあえず森のもっと深い所まで!でも何でこんな所に竜が……」
ルイズとテファニアが走りながら話していると不意に降り注いでいた月明かりが遮られた。
ルイズがハッとした表情で空を見上げる。そこには巨大な二つの翼を広げたシルエットがあった。
「ダメ、追いかけてきてるわ!」
竜のスピードは軽々とルイズたちを追い越し、轟音とともに彼女たちの前方に着地した。
竜が喉を鳴らしながら前足を振りかざし威嚇する。
その迫力に遂に子供たちは全員泣き崩れてしまった。
「泣かないで!早く逃げなきゃ!」
子供たちをルイズが励ます。しかし言いながら一体どうすればいいのか、と思った。
どこに逃げようと竜のスピードではたちまち追いつかれてしまう。
エレオノールは樹木の陰で驚愕の表情を浮かべていた。
彼女にとって正しく予想不可能な事が起こっていたのだ。
エレオノールの目線は真っ直ぐに桃色の髪の女の子、ルイズを、自身の妹を見つめていた。
「どうかされましたか?」
エレオノールの異変に気づいたのか傍らの隊員が声をかける。
エレオノールは数秒、何か悩むように目を閉じたがやがて決心したように目を力強く開けた。
「何でもないわ。目を離さないようにね」
その声と表情はもう先程の彼女の物に戻っていた。
ルイズが子供たちを何とか動かそうと四苦八苦する。
その時、彼女の傍らのテファニアが何を思ったか竜の前へと歩き出した。
「何をしてるの、テファニア!?」
テファニアの目の前で竜は口を大きく開けて威嚇する。
そしてその竜の目の前で彼女の取った行動にルイズも、そしてエレオノールたちも唖然とした。
何と手に持った琴を奏で始めたのだ。
琴の美しい音色が夜の森の中を流れる。竜が彼女に向かい前足を振り上げる。
テファニアは微動だにせず琴を引き続けている。
テファニアの予想外の行動にしばし唖然としていたルイズだったが我に戻り彼女へと走りよる。
竜の前足は今まさに彼女に振り下ろされようとしている。
「きゃっ!?」
ルイズのタックルによりテファニアの体は地面へと倒れこんだ。
それと同時に竜の前足は先程テファニアが立っていた1メイルほど前の地面を叩いた。
「何してるのよ一体!?死にたいのあなた!?」
ルイズがテファニアに掴み掛からんばかりの勢いで問い詰める。
「い、いや。違う、違うのルイズ。これは……」
テファニアが何か返答に困るような表情を浮かべる。
その時彼女たちの横方で竜の唸りが聞こえた。見ると竜は泣き崩れる子供たちを巨大な眼で見下ろしていた。
「いけない!逃げて、逃げるのよ!」
ルイズが叫ぶ。しかし子供たちは恐怖のあまり動くことができない。地面に座り込み泣きじゃくっている。
竜が巨大な口を広げながら子供たちへと首を伸ばしていく。
万事休すかとルイズが歯噛みした時、不意に竜が異様な動きをし始めた。
自分の背に何かが乗っているのか、前足を背部に向かい振り回す。しかし竜の背には何も乗っているようには見えない。
竜が不快そうな鳴き声を鳴らす。そして次の瞬間ドスッ、と重い音が響いた。まるで何かが肉を貫いたかのような音だ。
その音とともに竜が身をのけぞらせ絶叫を上げた。あまりの大きさにルイズが耳を塞ぐ。
次の瞬間、竜の前方に何かが着地したような音が聞こえた。しかしそこに姿は無い。あくまで音だけだ。
竜が怒りに満ちた眼差しを前方に向ける。その時、一瞬竜の目の前の地面に電流が走った。
瞬きをするような一瞬の間ではあったがルイズは見た。そしてエレオノールたちも。
そこにいたのは長槍を手にしたあの亜人であった。
「遂に見つけたわよ……」
亜人の姿は再び見えなくなっていたがエレオノールは薄く笑みを浮かべた。
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