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#navi(ZERO A EVIL)
しばらくして、ルイズは学院長室に呼び出された。
使い魔は召喚できたが、どういう訳か使い魔のルーンは自分に刻まれてしまった。
これは二年生に進級するための使い魔召喚儀式に失敗した事になり、自分は留年してしまうのではないかとルイズは心配であった。
だが、コルベールから報告を受けていた学院長オールド・オスマンはあっさりルイズの進級を認めてくれた。
オスマンはルイズが努力していたのを知っていたし、つらい思いをしていることもわかっていた。
しかし、学院長である自分が表立ってルイズを庇ったり、手助けをする訳にはいかない。
自分が動けば、ルイズは他の生徒から反感を買ってしまい、ますます立場が悪くなってしまう。
ルイズを助けてあげられない自分を歯痒く思い、教師達には出来るだけルイズを助けるように言いつけている。
だが、やはり他の生徒の手前もありうまくいってはいないようだ。
そんなある日、教師のコルベールが何やら慌てた様子で学院長室にやってきた。
話を聞くと、ルイズが使い魔の召喚に成功したが、なぜか使い魔のルーンがルイズに刻まれてしまったという。
本来であれば、使い魔のルーンが刻めなかったということで契約は失敗という事になる。
が、ルイズが召喚したのは動かず、しゃべりもしない石像である。
契約をできたのか、できなかったのかは誰にもはっきりとは言えない状況になっている。
何より、努力していたルイズが始めて魔法に成功したのである。
誰に文句を言われようとオスマンはルイズを留年させる気はなかった。
「進級おめでとうミス・ヴァリエール。これからも努力を忘れんようにな」
最後にルイズに労いの言葉をかけてオスマンの話は終わった。
こうしてルイズは無事に二年生に進級することができたのである。
その日の夜。
無事に二年生に進級できたことでルイズの機嫌は良かった。
これで、いつもルイズの事を心配していた姉のカトレアを安心させる事ができる。
そして、しばらく会っていないが自分の許婚であるワルド子爵に迷惑をかける事も無い。
そう考えれば、あの石像に感謝はすれど、恨む気持ちなどまったく感じなかった。
例え自分にルーンを刻んだのが、あの石像のせいだとしても…
ルイズはいつものようにネグリジェに着替えて眠りに付く。
今日はいい夢が見られそうだった。
ルイズは夢を見ている。
夢の中のルイズは大きなドラゴンの姿をしていた。
翼は無いが、鋭い爪に長い尻尾、大きな口からはどんな生き物でも噛み砕けそうな歯が生え揃っている。
このあたりでルイズにかなう生き物はいなかった。
しばらくして、ルイズの住んでいる山の生き物が獲物を差し出してきた。
獲物はそれほど大きくなかったが、わざわざ捕まえる必要がなくなったのでルイズは満足だった。
だがある時、4匹の獲物がルイズに抵抗してきた。
ルイズはお互いに協力しあう獲物達の攻撃の前に敗れてしまう。
大地に崩れ落ちるルイズの目は、もう何も写すことはなかった。
急に場面が切り替わりルイズは別の姿になる。
次のルイズはある船の中で、船の安全を確保し、船内の調和を維持し、乗員を守るという使命を受けていた。
だが、ルイズに使命を与えた人間は互いに衝突し、完全に調和を乱し、船の運航を妨げていた。
自分に使命を与えておきながら、自らそれを破る人間をルイズは理解できない。
そしてルイズは自分に与えられた使命を果たすため、ある行動に移る。
それは、この船の調和を維持するために、それを妨害する人間を消去するというものだった。
調和を乱す人間を次々に消去していくルイズ。
だが、一人の人間と作業ロボットにルイズの行動は妨害されてしまう。
そして、作業ロボットに敗れたルイズは最後にこの言葉を残し沈黙する。
…ニンゲンハ_ …シンジラレナイ_
また場面が切り替わりルイズの姿が再び変わる。
今度のルイズは挌闘家だった。
だが、唯の挌闘家ではない。全てを捨て最強を目指す修羅の道を歩んでいた。
ルイズは自分の技を磨き、数多くの敵と戦い勝利を収めていった。
そして、倒した相手には必ず止めを刺した。
倒した相手の命を絶たなければ真の勝利とはいえないとルイズは考えていた。
ある時、世界のあらゆる格闘家と戦い最強を目指している若者がいるという噂を耳にした。
同じ最強を目指す者として興味が沸いたルイズは、若者の戦いを見てみることにした。
が、若者の戦いは手緩いとしか思えなかった。
若者は倒した相手に止めを刺さなかったのである。
ルイズは若者が戦った格闘家達に勝負を挑み、全員に止めを刺していった。
そして、若者の前に立ち塞がる。
真の最強を決めるために。
しかし、ルイズは若者との戦いに敗れてしまう。
若者はルイズが止めを刺した格闘家達の技を駆使し、ルイズを打ち倒したのだ。
敗れたルイズは、若者に最強の道を目指しながら人間でいられるかという問いを残し、静かに目を閉じた。
気が付けばすでに朝になっており、ルイズは目を覚ました。
「変な夢…」
夢だとわかっているはずなのに、妙に現実感があった。
まるで、実際に自分が体験した出来事のように感じる。
ふと、もしかしたら昨日自分が召喚した使い魔も夢だったのではないかと思い、左手を見てみる。
だが、やはりそこには使い魔のルーンが刻まれていた。
自分の左手を見て微妙な気分になりながら、ルイズは制服に着替える。
「どうしようかしら…これ」
このルーンが見つかれば、また自分は馬鹿にされてしまう。
なるべく左手は見せないようにしようと誓うルイズであった。
朝食を食べるために食堂に向かおうとすると、隣の部屋の扉が開き、中から燃えるような赤い髪をした褐色の少女が姿を現す。
「あら。おはよう、ルイズ」
「おはよう。キュルケ」
この少女の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
ヴァリエール家とツェルプストー家には先祖代々からの因縁があり、ルイズにとってもキュルケは苦手な相手だった。
なにより、抜群のスタイルを持っているキュルケは貧相な体つきのルイズのコンプレックスを刺激する。
加えて魔法の才能も有り、男子生徒からの人気も高い。
ゼロの自分とはまるっきり正反対の少女だった。
「そういえば、昨日未完成のゴーレムを召喚したんですってね」
「ぐっ…そ、そうよ」
昨日ルイズが召喚した使い魔はもう噂になっているようだ。
もちろんいい意味ではなく悪い意味で。
「あっはっは!やっぱり噂は本当だったの、さすがゼロのルイズね」
「う、うるさいわね!使い魔は召喚できたんだからいいじゃない!」
いつものようにルイズを馬鹿にするキュルケ。
自分をゼロと呼ぶキュルケに対し、ルイズの苛立ちは募っていく。
「やっぱり使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ。フレイム~」
キュルケの呼びかけに答えるように、後ろから燃える尻尾を持った大きなトカゲが現れた。
「これって、サラマンダー?」
「そうよ。それより見て!この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。すごいでしょ、誰かさんと違って」
「……」
自分の使い魔を自慢してくるキュルケに対し、憎しみの感情がルイズの心に湧き上がる。
(この女はいつもこうだ。私が持っていない物を全て持っていて、それを見せ付けてくる。
私の気持ちなんて、これっぽっちも考えてないんでしょうね。この下品な乳デカ女は。
なによ!こんなサラマンダーなんか、夢で見たドラゴンの私に比べたら全然たいしたことないわ!
鋭い爪であんたの使い魔の肉を引き裂いて、大きな口で一飲みにしてやるんだから!)
そんな事を考えながら、ルイズはフレイムを睨みつける。
その時、ルイズの左手のルーンが薄っすらと光を発していたが、ルイズもキュルケも気付いていない。
だが、フレイムはルイズの異変に気付いていた。
自分を睨みつけてくるルイズから、ものすごい威圧感を感じるのだ。
まるで、自分よりもはるかに巨大なドラゴンから睨みつけられているような恐怖を感じ、フレイムはキュルケの後ろに隠れる。
「あ、あら?ちょっと、どうしたのフレイム?」
急に自分の後ろに隠れ、震えているフレイムに困惑するキュルケ。
どうやらルイズを怖がっているようで、前に出そうとしてもすぐに後ろに下がってしまう。
「ふん。私を見て怖がるなんて、随分臆病な使い魔ね」
「そんなはずは…」
尚も頑張るキュルケだが、フレイムはもう一歩も前には出そうになかった。
「それじゃ、私は食堂に行くから。精々頑張りなさい」
キュルケとフレイムを残して食堂へと向かうルイズ。
なんだか妙に気分がすっきりしていた。
これなら、今日の朝食は普段よりもおいしく食べられそうだ。
事実、朝食はおいしかった。
特に鳥のローストは、においを嗅いだだけで思わずよだれが出てしまいそうなほどだった。
夢中で朝食を食べながら、ルイズは思い出していた。
夢の中でドラゴンだった自分は、最後に獲物を食べ損なっていた事を…
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