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#navi(ゼロのMASTER)
ヴァリエールの屋敷に入る二人であったが、屋敷の内装もまた美しいものだった。整列していた使用人達が一斉に迎える。
「…予想以上に凄いね」
当然でしょ、と胸を張るルイズ。ふと、キートンが前を見ると、階段の踊り場に金髪の女性が立っている。
凛とした感じの女性である。ルイズの身内であろうか?
それならば、これから暖かく彼女を迎えるのだろう……と思ったのであるが、どうやらそういったものではないらしい。
正確には、"仁王立ち"と言っても良い感じである。何故ならば、その女性は腕組みをしたまま、キートンらを睨んでいるのだから。
「あー、ああ、うん。…お姉さん?」
ルイズの耳元で囁くと、俯いたまま無言で頷く。先ほどの元気に胸を張っていた時とは打って変わり、完全に意気消沈といったところか。
恐らく、これから自分に降りかかるであろう災難を予想しているのだろう。
──そのとき、キートンは己の背後から迫る人の気配を覚る。貴族の屋敷の中であるにもかかわらず、襲い掛かってくるつもりらしい。
すかさず、キートンは自分に向かって来た気配の主の腕を取り、地面に引き倒した。
腕を極めたのもあり、その気配の主は悲鳴を上げたのだが……。
「あ、あだだだだ!馬鹿者、何をする!放さんか!」
「父さま!」 「お父さま!!」
ルイズと金髪の女性が同時に叫ぶ。…どうやら、自分はとんでもないことをしでかしたらしい。
組み敷かれている男はずうっとキートンを睨んでおり、使用人達といえば、殺気満ちた表情で自分をぐるりと囲んでいる。
はたして、僕は生きて帰れるのだろうか…。
組み敷いたまま、キートンは俯いた。
「まあ、今回の所は特別に不問ということにしておこう。特別にな」
やや白が混じったブロンドの髪、立派な髭、豪華な衣装に身を包んだ、ルイズの父──ラ・ヴァリエール公爵が威厳に満ちた表情をしながら語る。
食堂の間にて夕食を摂っているのはラ・ヴァリエール公爵、ルイズの母であるカリーヌ・デジレ、長女エレオノール、次女カトレア、そしてルイズとキートンであった。
先ほどの一件もあり、非常に気まずい。
ルイズに向かって、「挨拶の接吻をしてくれ」などと言っているときは多少の笑顔こそ見せてはいたが、それぐらいのものである。
食事の量も、キートンの分だけあからさまに少ないのがわかる。
先ほどは、娘に声をかけようと思い、忍び寄っただけだ――
公爵自身はそう説明するが、
(その割には、妙に殺気立っていたような気が…)
「何か言ったか?」
「いえ!」
公爵はごほん、と咳払いをする。
「大体の話は娘から聞いておる。使い魔としてそれなりに主の為に貢献してはいるようだな」
「ありがとうございます」
とりあえず、キートンは相槌を打つ。
というよりも、この場合、相手に合わせなければどうなるのかは目に見えている。
そういった場の流れを変えようとしてか、ルイズが口を挟んだ。
「あの、父さま。領内は落ち着いていますか?」
「うん?なんだ、ルイズ。前に帰ってきたときも、同じことを尋ねたではないか。…まあ、今の所は平穏だな。国境の向こうの連中もちょっかいは仕掛けて来ん。ただ…」
「ただ?」
「あの忌々しいアルビオンの方が気がかりといえば気がかりか。陛下も気にしておられるようだし、五月蝿い枢機卿も軍の再編成について口出しをして来ておる」
ヴァリエール家の当主であるヴァリエール公爵は既に軍務から退いている身ではあるが、領内の豊かな物資、兵員の動員などを目当てに軍への再復帰を願う声が宮廷内には多い。
しかし、当の公爵自身は軍への復帰は勿論のこと、娘達を戦に参加させる気は毛頭無い。
「食事中ぐらい、そういった話は後にして下さい」
カリーヌがそう言うと、公爵は黙り込む。再び、気まずい空気が流れる。ルイズにとっては場の雰囲気を変えるつもりが、藪蛇だったようだ。
(父さまったら、以前にも増してお悩みみたい。それにしても…)
『陛下』という言葉を聞き、ルイズは考え込む。トリステイン王国王女である、アンリエッタ・ド・トリステインはルイズの幼馴染ということもあり、彼女が大いに悩んでいるであろうことは容易に想像できる。
アルビオンが不穏な動きをしているというのも、その悩みの種の一つであろう。
夕食が終わり、それぞれの部屋に戻る…と、思いきや、なぜかキートンだけが公爵の私室へと呼ばれることとなった。
どうやら、二人だけで話したいことがあるらしい。
「なんだろうなぁ…」
公爵の私室の椅子に座らされたキートンが一人呟く。肝心の公爵自身はいまだに現れず、キートンのみが部屋で待機している状況だ。
ジェロームという名の執事に連れてこられたのは良いが、なんとも言えない緊迫感が漂う。
外はすっかり暗くなっており、ランプの灯がゆらゆらと揺れている。
「待たせたな」
そう思っていると、公爵が入ってきた。慌てて立ち上がろうとするキートンに対し、公爵は、そのままで良いと一言告げた。
公爵は黙ったまま椅子に座ると机からパイプを取り出し、マッチを擦る。
辺りに独特の香りが漂う。紙巻煙草とはまた違った懐かしい感じである。
「本当は、あまり吸わんのだ。妻に言われていてな」
「あの…、どのようなご用件でしょうか」
公爵はパイプを持ったまま、静かに語り始めた。
「娘だ」
(ルイズのことか…)
組み伏せたことについての説教では無いことに、キートンは内心ホッとする。
しかし、娘のこととなると…、やはり、"使い魔"ということになっている自分に聞くのが良いと公爵も思ったのだろう。
使い魔ゆえに、主人の内心も知っているだろうと考えたのである。
「知っているとは思うが、あの子は…。ルイズは、系統魔法がまだ目覚めておらぬ。ゆえに、学院で孤立していないか、気がかりでな」
「私はこちらに来てから、まだ日が浅いのですが…。彼女は、友人達ともうまくやっていると思いますが」
「思いますが、ではない!」
公爵がくわっと目を剥いて怒鳴る。あまりの剣幕にキートンは椅子から倒れそうになった。
ふうっ、と煙を吐き出すと公爵は窓辺に向かい、夜空を見上げる。
「しかし、人間の使い魔とは古今聞いたことが無いがな。よもや、娘に手を出したりなどは…」
「してませんよ!!」
キートンが慌てて反論すると、公爵は急に笑顔になった。どうやら、キートンを少しからかっていただけのようらしい。
「冗談だ。思えば、あの子の表情が以前よりも明るくなったような気がするからな。聞けば、お主も妻子がいるのだろう?」
どうやら、キートンが思っているよりも、ルイズは家族に色々と話しているようだ。
(…妻とは別れました、とは言わない方が良さそうだな)
そう考えていると、公爵がキートンの方を向き、話を続ける。
「わしはな、あの子に婿をとらせようと思っておる」
「はぁ…」
「先ほどは娘達の手前、ああは言ったが…、ここ最近、国外の情勢は不安定の一途を辿っておる。我が国向けの輸送船が度々、何者かに沈められておるからな」
公爵は、また夜空を見上げると、溜め息をついた。
「仮に戦乱を始まったとしても、わしはあの子達を戦争に参加させたくはないのだ。そういったものに触れずに、生涯を送ってほしい。喜び勇んで、向かわせる親もいるが…。大抵は、陰で泣いておるのだからな」
厳しそうな人だけど、やはり根は優しいのだろう。
しかし、"婿をとる"など、あのルイズが了承するであろうか。いや、天地がひっくり返っても無いであろう。
キートンが一人考えていると、公爵は『ルイズに見合う男を既に見つけてある』と自身ありげに胸を張った。
どうやら、公爵の話からその人物は相当立派な男性らしい。
「やれやれ…」
ようやく、公爵から解放されたキートンはルイズの私室へと向かう。
部屋の指定などは、特に受けていないので、同室で寝ろということなのだろう。
しかし…、婿の件は、ルイズに話してよいものだろうか?部屋へと繋がる通路を腕組みしたまま、キートンは考える。
そもそも、こういった話は、本人の意思が重要なのだが…。
公爵の態度から、恐らく有無をいわさずに婚約させる気なのだろう。
(…ルイズが納得するかどうか)
そう思いつつ、ルイズの部屋のドアをノックする。
「ルイズ、いいかい?」
返事は無い。その代わり、変な声が聞こえる。泣き声の様な、或いは呻き声の様な、そんな感じの声だ。
「ルイ…」
部屋に入ったキートンは、その有様に一瞬呆気に取られた。
食卓でも一緒だったルイズの姉であるエレオノールが、そこにいた。いたのだが…。
別に、妹と談笑している訳ではない。見れば、ルイズの頬を抓っている。漫画の様に頬を引っ張られたルイズが泣きながら姉に許しを請うており、もう一人の姉であるカトレアがそれをなだめている。
どうやら、またもや大変なときに顔を出してしまったらしい。
「あ、あの…、とりあえず乱暴は…」
「ら・ん・ぼ・う?」
エレオノールの目が光る。いや、どちらかといえば、眼鏡がキラリと光ったというべきであろうか。
迂闊だった──
仕事柄、こういった発言は非常に不味いのはよく承知しているのだが、この世界に連れて来られてから、どうにも油断していたらしい。
「平民がわたしのやることに口出ししようなんて、い~い度胸じゃないの、んんん!?これは乱暴じゃなくて、お仕置き!」
そう言いつつ、ますますルイズの頬を抓る。お仕置き…ではない、どう見ても。
凄むエレオノールの迫力はなかなかのもので、さながら女傑といったところか。公爵の話によると、エレオノールの婚約が間近らしい。それもあってか、ピリピリしているのだろう。
公爵曰く"今度こそ"だとか。
「まったく!わたしの婚約も近いというのに、おちびったら未だに魔法が碌に使えないなんて!こんなのじゃ、バーガンディ伯爵に紹介出来ないわよ!」
「はぁ…。その、素晴らしい方だそうで」
キートンが相槌を打つと、一転、エレオノールは嬉しそうに目をキラキラと光らせながら喋り始めた。
余程の激情家なのだろうか。
「そうよ、愛しのバーガンディ伯爵様…!ようやく、めぐり合えた人!今度こそ…」
聊か、ルイズから注意が離れたらしい。それを見計らってか、カトレアが泣きじゃくるルイズを連れて、部屋から出て行った。
すかさずキートンもそれに続き、部屋から去る。
「…だから、あなたもしっかりしなきゃいけないでしょ、おち…」
話しつかれたのか、エレオノールが部屋を見渡す。
静かな部屋の中で一人、残されていた。
「どうもすみません、助けて頂いて」
キートンが一礼すると、カトレアはくすくすと笑いながら答えた。
「慣れたものですから。それよりも、大丈夫?ルイズ」
カトレアがハンカチでルイズの涙を拭う。エレオノールには頭が上がらないのだろうが、このカトレアには懐いているらしい。
見た目通り、包容力のある優しい人といった感じであるカトレアは、ルイズにとっては憧れなのだろう。
(…だけど、どことなく病弱みたいな気もするな)
元気そうに振舞ってはいるが、時々咳き込むカトレアを見て、キートンは思う。
持病でも患っているのだろうか?
ルイズも落ち着いたようで、カトレアと話し始めた。
今日は、カトレアの部屋で一緒に寝るらしい。
「僕はどこで寝たらいいのかな」
「納戸」
「…本気?」
ルイズはこくりと頷く。曰く、使い魔ならばそこで寝るべし。曰く、父と母に大目玉を食らっても良いのか。曰く、屋敷の使用人が殺気立っているので、刺激をしない方が良いと。
がっくりとうな垂れたキートンが部屋から出て行くと、カトレアはルイズの方を向き、またくすくすと笑い始めた。
「無理をしないで、自分の部屋で一緒に寝てあげたらいいのに」
そう言う姉に対して、ルイズは真っ赤になる。
「だって…、父さまや母さまに余計な誤解を与えたくないもの。それに…」
「それに?」
「キー…、あの人の立場が悪くなったら、嫌だから」
優しいのね、というカトレア。
「キートンさんって、わたし達とは違う世界から来たのよね?」
「うん…」
ルイズはキートンから聞いたことを話し始める。
遠く離れた人と会話したり、はるか遠方の国でも短時間で行けたり…。
"ジドウシャ"と呼ばれるもので移動したり、様々な国や、遺跡があったり…。
「凄いのね…。でも、一番驚きなのはルイズね」
「え?」
「以前と比べて、表情が明るくなったって。お父さまも言ってたから」
カトレアによると、父がそのことで喜んでいたらしい。子供の笑顔が増えることは、親にとっては何よりも喜ばしいことだろう。
だが、そんな父が娘の為に良かれと思って進めている事案をカトレアは知っていた。
「ルイズ、お父さまはね、あなたに―――」
翌朝、納戸から起きてきたキートンは、「ルイズがいなくなった」とカトレアから告げられた。
昨晩は一緒に寝たのだそうだが、起きてみると既に姿が消えていたという。
「失敗だったわ…。やっぱり、言わない方が良かったのかしら」
「何か、彼女に言ったんですか?」
カトレアが焦燥を浮かべながら話す。
「昨日、あの子に…。お父さまが婿を取らせようとしていると言ったんです。傷付けるつもりはなかったのに…。迂闊だったわ」
唇を噛むカトレア。
良かれと思って言ったつもりが、予想以上にルイズを追い詰めてしまったのではないか。
困惑するカトレアにキートンは笑顔で返した。
「私が探しに行きます。大丈夫ですよ。彼女は強い子ですから、心配は要りません」
ルイズは中庭の池を一人眺めていた。ここは、自分が『秘密の場所』と呼んでいる所…。
悲しいときには、いつもこの場所で池を見る。澄んだ色をした池は、悲しい気持ちにある自分をいつも落ち着かせてくれる。
昨晩、姉が自分に対して伝えた言葉…。
父は、自分の為にと思い、婿を取らせようと思っているのだろう。しかし、自分はまだ結婚する気など微塵もない。
まだ四系統魔法のどれかにも目覚めていないのだ。成長しないまま、誰からも認められないまま、結婚して人生を送るなど真っ平御免だ。
「ここにいたんだね」
不意に声がしたので、後ろを振り向く。そこには、バスケットケースを持ったキートンがいた。
「…本当に、あんたからは逃げられないわね」
「足跡があったんでね。朝御飯食べてないみたいだし、一緒に食べようか」
そう言いながら、ルイズの横にキートンが座る。
言われてみれば、ルイズは空腹だった。朝食も摂らずに飛び出したのだから、無理もない。
キートンから差し出されたサンドイッチを受け取り、頬張る。
「綺麗なところだね。故郷を思い出すよ」
「故郷?」
懐かしそうな目で池を眺めるキートンをルイズは見つめる。
興味が湧いたルイズは、故郷について尋ねてみることにした。
「あんたの故郷って、どんな処だったの?」
「うん…」
キートンはサンドイッチを齧りながら、遠くを見やる。
「なんというか、二つあってね。一つは母がいた国の故郷、もう一つは父がいた国の故郷。その…、僕が五歳の頃に、両親が別れてね」
「…ごめんなさい」
「いや、気にしなくてもいいよ。昔のことなんだから」
キートンの家庭は、ルイズが思っていたよりも複雑なものらしい。キートンが妻と別れたのは聞いてはいたものの、その両親まで別れたとは、さすがに予想しなかった。
「両親が別れた後、僕は母に連れられて、母方の故郷に帰った…。父は、そのまま残って事業のやり直しをすることになった」
「故郷に戻ったとき、寂しかった?」
「うーん、寂しくなかったといえば嘘になるかな。慣れない土地だし、同世代の子達ともなかなか合わなくってね」
そう言いながら、キートンは苦笑する。子供の頃から気丈で、なんでもこなす人―――
少なくとも、ルイズ自身はキートンのことをそう思っていた。
自分を悪漢の手から助けてくれたこともそうであったし、何よりも元軍人だということから、はじめから強い人物だと、そう考えていた。
だが、今の話を聴いているうちに、その考えも変わってきていた。
「卒論でDマイナーを付けられたこともあったからね」
「それって悪いの?」
「…落第点だよ」
なにそれ、と悪戯っぽく笑うルイズに対し、キートンもまた笑いながら返した。
「でも…。あの人のおかげで、僕は立ち直れた訳だから」
「あの人って誰?」
「前に言った僕の恩師。ユーリー・スコット先生だ。先生は教員用の書庫を貸して下さったんだ」
「で、成績を持ち直したんだ?」
キートンは頷く。
「思えば、あのときが一番楽しかった…。学ぶということがあれほど素晴らしく感じられたのは、あのときが初めてだった」
ルイズはキートンの言を頭に思い浮かべる。学ぶということ。"学ぶこと"が楽しいと考えたことは今までになかった。
キートンが来るまでは、ゼロゼロと嘲られ、魔法の実験では失敗ばかり。正直、学院での生活は…楽しかったのだろうか?
自信を持っては言えない。
「立派になる為に勉強するのは間違いなのかしら」
「うーん、間違いだとは言えないと思うよ。でも、それだけじゃ、なんか寂しいしね」
キートンは少し黙ると、隣にあった花を摘み、眺めながら言う。
「僕は勉強したけど、いまだに中途半端なままさ…。それでも、まだまだやりたいことがあるからね」
「文明の起源…だっけ。それの証明を目指してるのよね」
「ああ…」
「父さまから聞いたんでしょ。わたしに婿を取らせるって」
ルイズは小石を握ると、池に向かって放り投げる。ぴちょん、という音と共に石が水の中に沈み、波紋を作り上げていく。
「君のお父さんは、いい人を見つけているって言ってたけど」
「相手はわかっているわ」
溜め息をつくルイズ。
「ワルドって人よ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」
昔を思い出す。かつて、自分はワルドと共に遊び、共に過ごした。親同士の話がトントンと進み、"けっこん"という言葉を何回も聴いたのを覚えている。
そのときはまだよく理解できなかったが、今になって突然、結婚話が持ち上がってきたのだ。
勿論、自分だって何時かは誰かと婚約をすることになるのだろう。だが、いざそう言った話が出てくると、動揺してしまう。
10年前に別れて以来、ワルドとはほとんど会っていない。勿論、好きか嫌いかで言えば、今でも好きだ。
とは言え、結婚して将来付き合っていく上での"好き"なのかと言うと、はっきりとは断言出来なかった。
「わたし、どうしたらいいのかしら」
再び、池に小石を投げる。
「残念だけど…。僕の方からは何も言えないな」
「…もう少し、気の利いたこと言いなさいよ」
こういった方面は不得意らしい。
そう思っていると、キートンが石を投げた。
石は綺麗に池の上を跳ねていく…。水切り遊びではあるが、自分はまだ一度もうまくいったことがない。
とはいえ、キートンに『教えて』というのもルイズにとっては何か癪であった。
「教えるよ。やってごらん」
そんなルイズの心を見透かしてか、キートンが笑いながら言ってきた。
少し顔を赤くしたが、言われた通りに体勢を直し、狙いを付けて石を投げてみる。
「あ」
すると、先ほどと比べ、僅かだが水面を跳ねるようになった。
(…ほんと、遊びが上手いのよね。キートンって)
自分と共に水切り遊びに興じるキートンを見ると、幾分気持ちが軽くなった。
「そろそろ戻ろうか。親御さんも心配しているだろうし」
頷くと、屋敷の方に向かおうとしたのだが―――
がさっ、という音と共に茂みが揺れた。動物でも迷い込んだのだろうか?
ルイズが走り寄っていくと…
「きゃ……!」
そこには少年が倒れていた。少年と言っても、見慣れない服装に身を包んでいる。
だが、ルイズよりもっと驚いているのはキートンの方だった。
少年は気絶しているようであり、キートンは彼を背負うとルイズに叫ぶ。
「部屋に連れて行く。君は薬か何かを持ってきてくれ」
そう言うと、走り去って行ってしまった。後に残されたルイズも慌てて付いていく。
少年を背中に背負いながら、キートンは一つのことを考えていた。
自分だけではなかったのだ、と。
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