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#navi(異世界BASARA)
ニューカッスル城の上空……
巨大な戦艦『レキシントン号』。その甲板にその男は立っていた。
男は口の端を吊り上げ、眼下の城を見下ろしていた。
―――時は、真田幸村がギーシュとの決闘を終え、数日経った頃までさかのぼる―――
ガリアの宮殿ヴェルサルテイルには、プチ・トロワと呼ばれる小宮殿がある。
その中で、1人の少女がベッドに寝そべっていた。
年の頃は17ぐらいだろうか、絹のようにしなやかな青い髪に青い瞳。
そして頭には宝石の埋め込まれた王冠を被っている。
しかし、その顔にはそれら全てを台無しにする程、冷酷で傲慢な表情が浮かんでいた。
彼女の名はイザベラ。
ガリア王国の王女で、現ガリア王ジョゼフの娘である。
「あの人形娘はまだかい?」
イザベラが傍で待機していた1人の侍女に問い掛ける。
ひっ、という声を上げて侍女は震え上がった。
「シ、シャルロット様はまだお見えになっておられません」
「ただの人形でいいのよ。あいつを名前で呼ぶんじゃない!」
イザベラに怒鳴られ、侍女は震えながらはい……と口ごもった。
「人形7号様、おなり!」
その時、呼び出しの衛士がその人形娘とやらの到着を告げた。
「ふん、やっと来たか……通しなさい」
イザベラがそう言うと、正面の扉が開かれ、1人の少女が入ってきた。
イザベラと同じ青い髪と瞳を持った、タバサであった。
入ってきたタバサをイザベラは忌々しそうに睨みつける。
しかしタバサは動じず、ただ黙ってイザベラを見つめていた。
しばらくして、イザベラはふん、と鼻を鳴らすと口を開いた。
「お前、確か召喚の儀式はもう済んだわよね?一体どんなのを召喚したんだ?」
「人間」
タバサは短く答える。
それを聞いたイザベラは大声で、タバサを馬鹿にするように笑った。
「人間だって!?聞いたかいお前達、こんなに笑える話はないよ!!」
イザベラは笑い続ける。
侍女達も困ったように笑みを浮かべてイザベラに合わせた。
「何だ、あんたも大した事ないんだねぇ!てっきり風竜でも呼び出したのかと思えば……」
くくく、とイザベラはくぐもった笑い声を発した。
「そうかい、そんな珍しいのを召喚したのなら、一度見ておかないとね……」
イザベラはそこでやっと笑うのを止め、タバサを見下すように言った。
「人形娘、その使い魔をここに呼びな。皆にもお披露目してやろうじゃないか」
「……………」
「聞こえなかったのかい?お前の使い魔をここに呼びなさい」
タバサはしばらく黙っていたが、くるりと自分が入ってきた扉の方を見て呟いた。
「タダカツ」
(タダカツ?変な名前の人間だね、まぁ思う存分馬鹿にして……)
ズシン……ズシン……
と、イザベラや侍女達の耳に地響きが聞こえてきた。
ズシン……ズシン……ズシン
地響きの音は大きくなり、どんどんこちらに近づいて来ているのが分かる。
イザベラは戸惑った。人間の足音?それにしては大き過ぎる。
ズシン……ズシン!!
一際大きな地響きと共に、音が止んだ。
宮殿内に重苦しい空気が流れる。
沈黙の中、ゴクリ、とイザベラが唾を飲み込む音が聞こえた。
そして……
ガチャ
扉が開く音が聞こえる。
ゆっくりと開き、人が通れる程の隙間が出来ると……
その隙間から、およそ人の大きさとは思えぬ腕が出てきた。
とんでもないものを目にしたイザベラと侍女達は一斉に後じさる。
そんなイザベラ達を余所に、扉はその大きな腕によってどんどん開かれ……
完全に開かれた扉から、鎧を纏った巨人が現れた。
「ひいいぃぃぃっ!!!」
「あ、ああ……」
あまりに予想外な人間が現れたので、イザベラの侍女達は悲鳴を上げたり、腰を抜かす者までいた。
当のイザベラも、現れた巨人を見て呆然としている。
これが人間だろうか?人間とは思えぬ風貌…
そしてタバサのように何を考えているのか解らない瞳とは違い、この巨人の眼には見た者全てを威圧するような光が宿っていた。
「タダカツ」
「……!!」ブオオオォォー!!
タバサの言葉に応えるように、使い魔の巨人は体から蒸気を噴き出した。
「ふ、ふん……人形娘に人形みたいな使い魔……お、お似合いじゃないか」
タバサに翼人退治の任務を言い渡した後、イザベラは宮殿の中で言った。
しかし、そう思っている者はこの場においていなかった。
イザベラ本人でさえ思っていなかったのだ。
(忌々しい……)
イザベラは心の中で呟く。
(忌々しい……何故あの人形だけが優れている?)
血を分けた従妹でありながら、幼くしてシュヴァリエの称号を持つ程の魔法の才に溢れていた。
対して自分は王女であり、さらに北花壇警護騎士団の団長でありながらあまり魔法に秀でていなかった。
それをどうしても信じたくなかったのである。
「そんな訳ない……あいつに出来て、私に出来ないなんて事はないのよ」
徐ろに、イザベラは立ち上がって杖を手に取った。
「あのガーゴイルに呼べたんだ、私だって互角の……いや、それ以上のを呼べる筈だわ」
――そしてあのいけ好かない人形娘を見下してやろう――
そう思いながら杖を掲げ、イザベラは召喚の呪文を唱えると、勢いよく杖を振るった。
杖を振るうと、ボンッ!という音と共に白い煙が現れる。
最初は煙のせいでよく見えなった。が、しばらくすると少しずつ晴れていき、うっすらと召喚されたものの影が見えてきた。
そして煙が晴れた次の瞬間、イザベラの眼前に立っていたのは……
「マツナガ」
城を見下ろしていると、後ろから男の名を呼ぶ女の声がした。男……松永は振り返る。
「……これはシェフィールド殿。ご機嫌、如何かな?」
「別に。大して変わらないわ」
シェフィールドと呼ばれた女は淡々と答えると、一枚の紙を松永に差し出した。
「手紙よ、あなたのご主人様から」
松永は手紙を受け取って内容を読む。
しばらくして、溜息をつきながら指を弾く。その瞬間、小さな爆発が起こり、手紙は一瞬で灰となった。
「戻って来いか……どうやらイザベラ殿の機嫌を損ねてしまったようだ」
「どうせ何も言わずに出てきたんでしょう?あなた……ひょっとしてわざとやってない?」
「おや、ばれてしまったかね?」
さも面白そうに笑う松永を、シェフィールドは表情も変えず、ただ暗い瞳で見つめた。
「ところで……彼等はやはり女や子供を逃がすのだろうか?」
一頻り笑った松永がシェフィールドに尋ねてきた。
「あのジェームズ1世ならそうするだろうね」
「そうか……いや成る程、実に良き君主だ。か弱き者を守って死ぬのは素晴らしい美徳だろう」
松永は感心したように話す。
「だがね、残念だが私は善人ではないのだよ」
松永の顔に、見た者を震え上がらせるような笑みが浮かぶ。
イザベラとは比べ物にならない程に、邪悪な笑みであった。
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