「妖精からの伝言」(2008/04/11 (金) 21:53:21) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
『妖精からの伝言』
ルイズは、小高い丘の上から、これから戦場となる場所を見下ろしていた。
「ここが、わたし達の最後の見せ場ってことね……」
傍らの使い魔を仰ぎ見る。
「無敵」と称され、「トリステインの守護神」とまで呼ばれた”彼”の雄姿。
しかし、ルイズは知っていた。
勇壮な外見に反して、"彼"の身体が、もはやボロボロであることを。
それが証拠に、かつて召喚した直後は、彼女を乗せてシルフィードよりも速く、高く
飛ぶことすらできた"彼"が、もはや立って歩くのがやっとなのだ。
それは――彼女を守り続けて来たから。
そのことを考えると、ルイズはありし日の自分を叱りつけ殴り飛ばしたくなってくる。
なぜ、彼を労らなかったのか。なぜ、無茶ばかりして彼に無理を強いるのか……と。
しかし、そんなことを"彼"が望んでいないことも、ルイズは知っていた。
だから……大切な、大好きなパートナーの肩に立って、彼女はただこう囁くのだ。
「いままで、ありがとう。もうちょっとだけど……ふたりでがんばりましょ」
感謝の意を込めて、あの"契約"時のキス以来の口づけを"彼"の鋼の貌に贈る。
ヴヴヴ……。
物言わぬ機械の瞳がキラリと光り、微かに身じろぎしたように思えた。
×××××××××××××××××××××××××××××××××
「どうして? どうしてなのよーーーッ!?」
撤退するトリステイン軍のしんがりをつとめるため、"彼"へと乗り込んだルイズが7万人もの大軍勢へとまさに"決死"の特攻をかけようとした時。
彼女は、自分が乗る操縦席に強烈な衝撃とともに射出されるのを感じた。
無論、ルイズの意志ではない。
"彼"が、自らの主(マスター)を護るべく、独断で行ったことだ。
モニターには何も写らなくなり、周囲の状況は何ひとつわからなかったが、ルイズは
確信していた。
"彼"が自分を戦場から遠ざけようと……単身(ひとり)で死地に赴こうとしているのだと。
「バカぁ! ずっと一緒だって言ったじゃない!! 最後までふたりで戦おうって
決めてたのに……」
幼子のように泣きじゃくり、叫び続けるルイズの乗ったコクピットは、しばしの後、
トリステイン軍に発見され、無事に保護されることとなる。
その直後にコンキスタと"彼"が戦っているはずの方向から、見る者すべての
視界を奪うほどの強烈な白い閃光と、雷鳴を数百束ねたような衝撃音が走り……。
それらが収まった時には、戦の趨勢は既に決していた。
残骸すらほとんど残さぬまでに木っ端微塵に砕かれた旗艦を始め、レコンキスタ軍の
空中戦艦はことごとく撃墜。
また、最後の爆発の際の衝撃波によって薙ぎ倒され、死者こそ少ないものの、満身
創痍となった地上の兵士たち。無論、空を飛んでいた竜騎士などもすべて叩き落とされ
生きている方が稀な有り様だ。
そして……これだけの戦果をあげたはずの"トリステインの守護神"の姿も、どこにも
見当たらなかった。
もはや"彼"との唯一の絆と言える円筒―夢の中で"起動キー"と呼ばれていた物体を
握り締め、呆然と空を上げていたルイズだが、掌の中で微かに起動キーが震えている
ことに気づいた。
そこにから淡い光りが漏れて、空中に拙い文字を描きあげる。
――春の召喚の儀で、初めて出会った時のこと。
――教室を魔法の失敗で爆発させ、落ち込んでいた彼女に、無骨で巨大な手で野の花を
差し出し、慰めてくれたときのこと。
――土くれのフーケをめぐる騒動と、そのあとの舞踏会。バルコニーで、"彼"に何も
あげられないことを謝罪したが、"彼"は気にせず、せめてものお礼として(恥ずかしか
ったが)歌を歌ってあげたこと。
――アンリエッタ王女の密命でのアルビオン行。そして裏切ったワルドとの戦いで、
ニューキャッスルの壁を壊してまで乱入し、助けてくれたこと。
――メイドのシエスタの故郷に赴いたとき、彼女の祖母もかつて"彼"の"同族"の
マスターであったと判明したときのこと。
様々な思い出が脳裏をよぎる中、ルイズはただ目の前の文字を見つめていた。
"ダ イ ス キ"
「バカ…知ってるわよ……」
言葉を話せぬはずの"彼"から贈られた、最初で最後のメッセージに、ようやくせき止め
たはずのルイズの涙腺が再び決壊した。
<fin>
----
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: