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#navi(いぬかみっな使い魔)
いぬかみっな使い魔 第11話(実質10話)
川平家初代当主、川平 慧海。
彼は、いつも笑っているような、それも自分の言った下品な冗談に
自分で笑うような、ちょっとエッチでお馬鹿な人であったらしい。
彼は本当に困った人が、魂の底から助けを求めるようなときには、
『そこに居てくれる』『呼べば来てくれる』人だったという。
彼は、大妖孤との戦いの最中に、犬神達のもとにふらりと現れたのだそうだ。
その戦い方は独特で、自らが戦うよりも、多くの配下を見事に束ね、
自在に指揮することによって強さを発揮する、指揮官タイプだったらしい。
もう、300年ほども昔の話である。
ヴァリエール別邸に移動した啓太達は、すぐにルイズ達と合流した。
ヴァリエール別邸、つまり領地の本城とは別に王都での社交や政治のために
使用されるセカンドハウス・・・は、250メルテ四方ほどの敷地を誇る。
狭い王都において、個人が所有する屋敷としては破格である。
実にシャン・ド・マルスの錬兵場に匹敵する広さ(2万が集結可能)だ。
やろうと思えば、一軍を敷地内に集結させることすら可能である。
さて、その広い別邸は大騒ぎだった。なにしろ、塀の向こう側で
トライアングルクラスのゴーレムが暴れていたのである。
老年に差し掛かりつつあるヴァリエール公爵自身が庭に出て
いざというときは魔法を行使しようとしていた。
そこに来たのが(出来が悪いが故に)かわいい娘のルイズ達である。
自ら駆けつけて来た。
「ルイズ! お前か! まさかあの騒ぎに巻き込まれたのか?」
渋みがかったバリトン。年のころは50過ぎ、白くなり始めたブロンドの
髪と口ひげを揺らし、王侯もかくやのの豪華な衣装に身を包んでいる。
左目にはグラスがはまり、鋭い眼光をこの瞬間だけわずかに緩める。
「はい、お父様。ちょうど王立銀行脇を通った時に巨大なゴーレムが
立ち上がったのですわ。そのようなわけですので突然来た事をお許しください。」
そういってルイズはぺこりと頭を下げる。つられて他の皆も頭を下げた。
「ふむ、王都に来てこのような目に会うとは災難だったな。」
王立銀行のほうを見る。まだ土煙が舞っている。
「はい、お父様。あ、紹介しますわ。こちらは私の友人達です。」
ルイズは、皆を紹介した。
「ふむ、災難であったな。さぞ恐ろしかったであろう。しばし休んでいかれよ。」
みなが、一斉にお礼を言う。ルイズは馬車の世話を従僕に命じると、
ヴァリエール公爵に続いて屋敷に向かった。
啓太達はルイズとは別室を用意され、くつろいでいる。
ルイズは久しぶりに会った父と親子水入らずの時を満喫しているのだろう。
啓太はこの時、ギーシュ達からフーケや王立銀行について
聞き込みを行っていた。
「そうか、ナイエフルト店長が悪名高い、ってのはやはりそういうことか。」
「ああ、賄賂請求に不正融資に流用、何でもござれって事らしいが
証拠が無いんだよね。あくまで単なる噂なんだ。」
「それでナイエフルト店長の派閥は? わからない?
土くれのフーケについては・・・そっちも、あまりわからないか。」
執事が来て香草水や最近流行しだした香草入り麦茶(実は啓太作)を出す。
豪華なお菓子類も並べられる。
啓太は、これ幸いと聞き込み先をそちらに変えた。
「ありがとう、おかげで欲しい情報が手に入った。そうか、やはりフーケは
魔法のアイテムを貴族限定で盗んでいるのか。そしてナイエフルト店長の
派閥は領地がフリースラントにあるだけあってフリースラント公爵か。
王家には今ひとつ批判的、かつヴァリエール公爵と対立する。なるほどな。」
(エドワード・ヴァン・ヘイレン・ド・レーワルデン・ル・フリースラント公爵)
(オランダのフリースラント州レーワルデンから。ナイエフルトは同州の地名)
啓太はぶつぶつ呟いた後、物騒な笑みを浮かべた。
「啓太様、どうなされたのですか?」
「うむ、なにかたくらんでる顔だな。」
「そうね。たくらんでるわ。」
「ま、それは後のお楽しみ。一旦終わりだ。それよりも。」
啓太が、顔を引き締めて姿勢を正す。
「姫様に献上するポーションの問題だが。」
皆も姿勢を正して相談に参加した。
その話も一段落した頃、啓太はふと傍らに立てかけてあったデルフリンガーに
目をやった。トイレに行くといって席を立ち、そこで密かに聞く。
「おい、デルフリンガー。おもちゃ屋で俺の事を使い手といったよな?
それはもしかしてガンダールヴのことか? お前は虚無にかかわりがあるのか?」
見せるのは左手のルーンである。
「ガンダールヴ!? 聞き覚えがある。聞き覚えがあるぞ?
それに、虚無? …だめだ、わからねえ。知っていたのは確かなんだが。
長いこと生きてるからな。忘れちまったんだろう。」
啓太は、つくづくと錆びた剣を見つめた。
普通の鞘では引き抜くのが難しいほど長い片刃の大剣。
剣先1/3を除いてⅤ字型の覆いと外れないように押さえる留め金だけの鞘。
いかにも古めかしく、だが強い力を感じさせるインテリジェンスソード。
学院の図書館でも情報の少ない始祖の虚無についての手がかりが、
なぜか向こうから転がり込んできた。
随分と都合のいいことであるが、自分はそういう星回りなのだろうか。
啓太は、初代、川平慧海に思いをはせた。
部屋に戻ると、公爵とルイズが来ていた。
上座に座っていた公爵が立ち上がって啓太を歓迎する。
「おお、ミスタ・ケェタァ・カゥワーヒェラ殿! 先ほどは失礼した!
娘がサモン・サーヴァントで異国の貴族を呼んで大変な迷惑をかけてしまった、
とは知っていたのだが、何分手紙では発音が一致せんでな!
いやはや、娘が迷惑をかけてしまったね。謝罪と礼を言わせてくれ。」
そういって、公爵は心持ち、体を前に傾けた。皆が息を呑む。
どうやら、公爵が平貴族にするものとしては滅多にない事らしい。
あわてて恐縮する啓太である。
「いやいや、この程度は当然だ。それだけ迷惑をかけてしまった
にもかかわらずカトレアの薬まで作ってくれたそうじゃないか。
カトレアは、ここのところ発作が少ないそうだ。
その上ルイズの魔法を目覚めさせてくれた上にフーケのゴーレムから
逃げ出すときにはしんがりを勤めてくれたとか!
まったくもって感謝の言葉も無い。この恩と迷惑の代償として、
何か出来ることは無いだろうか? できない事も無論あるが、
私はぜひ君にお礼がしたいのだよ。」
公爵はすさまじく上機嫌だ。魔法的に徹底的に無能と思っていたルイズが、
コモンルーンとはいえいくつもの魔法を危なげなく成功させて見せたのである。
これで上機嫌にならなければ親といえないだろう。
「公爵様にそのようなもったいなきお言葉を賜り、ケータ・カワヒラ、
大変恐縮に存じます。」
歯が浮くなあ、こういった言い方はどうにも苦手だ、と思いつつ
事実のみを語ろうと考える啓太である。
「生国はサハラ砂漠の東の端からおおよそ東へ1万リーグ程、
生家は国境から北東へ約900リーグといった場所にございます。」
嘘ではない。
地球のサハラ砂漠とハルケギニアのサハラが別物だと言っていないだけである。
「カワヒラ家は代々霊能者、こちらで言うメイジとして(中略)
何分迎えが来るまで何年かかるかわからず、帰れたとしても継承順位は2位、
こちらでの栄達を視野に入れて活動をしております。
つきましては、王宮に討伐任務の口利きをお願いいたしたく思います。」
「討伐任務?」
「は、聞きますところによると、ハルケギニアにはモンスターの群れに襲われ、
開拓民が逃げ出し、放棄された村が掃いて捨てるほどあるとか。
それらはモンスターとの戦争によって領主から奪われた領土。
これらを討伐し、勝ち得たものには当然領主としての権利が発生します。
これらがまとまっている地域も少なくありません。
そこに難民を呼び、住まわせ、保護してやれば立派な領地となりましょう。
現在薬草クラブの次男三男派の仲間に調べてもらっておりますが、
困難ではあれど実現の可能性は高いとの事。ぜひとも奏上し、
計画を実行に移したいと考えております。なにとぞ便宜を図っていただきたく。」
「ほう! 確かにな。奏上せずに勝手に討伐するのも可能だろうが、
王宮に話を通しておけば格段に軋轢が減る。面白い。だが、困難な計画だぞ。
領地の維持にかかる手間も桁違いだ。それでもやりたいのかね。」
「もちろんにございます。」
公爵は、自分の腹はまったく痛まないので快諾した。
「良かろう、それら全ての後押しは任せて置け。昔自分の領地だったから、
と言って権利を主張するやからも多いだろうが、なに、わしが保護してやる。
ヴァリエール公爵領の飛び地として登録すれば、誰も文句は言えぬ。」
つまりは、魔法学院の名門子弟たちを自分の派閥に大量に囲い込む
かわりに保護してやるという意味だ。わずかとはいえ上納金も期待できる。
最初は持ち出しも多かろうが、勢力拡大の葱しょったカモが来たのだ。
「公爵様のご厚情、大変ありがたく存じます。早速皆に諮りたいと存じます。」
話してみるけど、派閥や血筋の問題もあるからダメだったときはごめん。
という意味である。これでヴァリエール家に来た目的のうち、
公爵との顔つなぎ、後見になってもらう、領地獲得=爵位獲得の後援願い、
については達成できた。
「うむうむ、ケータ殿の活動に触発されて同じ事を狙うものも増えようが、
なに、あらかじめ主だった場所を知らせてくれておれば手は打つ。」
あらかじめまとまった範囲=領地候補の優先権を確保してくれるというのだ。
「ありがとうございます。他の領主も同じ事をすれば、我々だけでは
とても手の回らぬほど広範囲の農地が解放されましょう。
農地が無料で与えられると聞けば国外からの移住者も増えましょう。
農家の次男三男達にも門戸を開けばより感謝され、治安もよくなりましょう。
さらに討伐に熱心になる以上領主軍の軍事訓練となって錬度が増します。
基本的な国力が大きく上がる事が期待できます。さすればトリスティンも安泰。」
「ふむ!」
啓太の説明に、公爵は感心する。自分が話を通す折に使おうとしていた
利点のいくつかが一致している。政治能力もあるようだ。
これはいよいよ味方に引き込んでおいたほうが良い人材である。
「つきましては、まずは王宮との顔つなぎをしたく存じます。」
「娘に聞いたが、献上品を姫様に直接渡したいとな? 任せるが良い。
すでに王宮に使いは出した。明日は無理だがあさってには謁見できるだろう。」
「ありがとうございました。では、早速献上品の準備に取りかかりたいと
存じます。時間や手順、場所などの仔細を学院までお願いできましょうか?」
「うむ、返事が来次第知らせよう。」
「お願いいたします。時に公爵。」
「うむ?」
「先ほどフーケが国立銀行を襲った一件についてでございますが。
気になる点がいくつかございまして。いま少しだけお時間をいただけますか?」
「ほう。聞こう。」
啓太は、歯が浮き舌をかみそうになるのをこらえながら
もったいぶった口調を必死で続けている。偉い奴をおだてて使うには
これが最も効率的だからだ。そう考えると小気味いい。
「は。恐縮でございます。では。件のフーケと思われるゴーレムの
国立銀行襲撃ですが、いくつかの不審な点がございます。」
「まず一つ目はフーケの狙いが通常マジックアイテムである点。
現金を直接狙うは不自然です。二つ目は、今までは貴族個人の所有物を
狙っていた点。公共機関を狙うは不自然です。3つはあまりにも
これ見よがしな犯行。あれでは、まるで現金よりも銀行が襲われたことを
知らしめる事が目的に思えます。これだけならまだ問題はございません。」
「問題なのは、これに国立銀行店長、ナイエフルト子爵の悪名が加わる事です。
さすれば恐ろしい可能性が見えてまいります。店長は賄賂請求に
不正融資に予算流用、何でもござれと噂されています。
しかし、証拠が無い。そのため強硬な捜査もされず、地位を保っています。」
公爵の眉が、ぴくりと動いた。面白い話だ、というように。
「もし、フーケの襲撃が自作自演であったら? フーケとナイエフルト子爵に
つながりがあり、公金に手をつけたのをごまかすために強盗されて奪われた、
という体裁をつけるために一芝居打ったのであれば?
自ら立ち向かい、負傷したとあっては、誰も疑うものは居ないでしょう。
あれだけの巨大ゴーレムを前の蛮勇も、それで説明がつきます。」
「ナイエフルト子爵の後見であるフリースラント公爵は今ひとつ王家には
批判的とか。その一派に膨大な金が流れ込んでいた可能性を考えますと、
緊急に徹底捜査し、不正を暴く必要があるかと存じます。口実は、そうですな、
襲われた銀行の被害実態把握ならびに証拠品探索とすればよろしいかと。
いかがでしょう、この推理は?」
「くくくく!」
公爵は含み笑いをしている。啓太は、これを好機と敵対派閥を叩け、
とたきつけているのである。
「よかろう、すぐに手を打とう。ジェイムス! 出かける支度をせよ!
王太后陛下に急ぎ奏上せねばならない事がある! それと王立銀行に人をやれ!
後始末の応援にやっていた者たちに伝える事がある。重大な犯罪への(後略)」
矢突き早に指示を出していく公爵に、啓太はもう一つたきつけた。
「悪事が明るみに出た場合は、無論領地没収や爵位降格、人事刷新等が
必要でしょうな。その際には、公爵が能力・人格・ともに信頼できる
高潔な人物を推挙なさる必要があるかと。再発防止には良い人物の
就任が必要でございます。さすれば事業を始める者や“軍事”で緊急に
金を必要とするものに円滑な融資が行われ、国力は増しましょう。」
ようするに、公爵に都合のいい奴を店長にしろ、その時は融資ヨロシク、
という意味である。公爵は呵呵大笑すると快諾した。
かくして、啓太はヴァリエール公爵というトリスティン第3の権力者に
いくつもの恩を売り、実益を与え、そのかわりに強力な後援者としたのである。
しかも、知らずとはいえレコンキスタに渡っていた金の出所の一つを叩き潰し、
後の戦争時に必要とされる戦費の賄いで売りに出す領地の確保にも一役買う。
まあ、今は関係ない、未来の話ではあるが。
「面白いな、君は。時に、モンスターの討伐となると、どうしても実力を備えた
戦力が必要だ。魔法学院の坊ちゃん共で大丈夫なのかね?」
出かける間際に聞く公爵に、啓太は、ニヤリと笑って豪語した。
「現在、特訓中にございます。才能のあるもの、基礎の出来ているものから
投入するのであれば、半月以内に計画を開始出来ましょう。
その頃には、全ての手続きは終わっていると考えてよろしゅうございますか?」
「無論だ。しかし、どんな訓練をしているのかね?」
ギーシュとルイズが、そっと顔を背けたのには、公爵は気付かなかった。
「なに。普通の訓練をしているだけにございます。」
啓太は特訓風景を思い出していた。
その日。ついに念動と浮遊を成功させ、いよいよ教導できる、
その気のある奴は放課後集まれ、と呼びかけた啓太は、薬草採取も調合も
ともはね達にまかせてヴェストリ広場に立った。
ずらりと並んだ絹の制服姿の男子生徒達の前を、のしのしと練り歩く。
最前列には、武器戦闘の基本を指導していたルイズの姿も当然ある。
マリコルヌ、ギーシュ、ギムリ。おもだった男子は全員そろっている。
啓太が声を張り上げる。
「俺が訓練教官を勤めるケータ・カワヒラである!
訓練である以上手加減はせん! 手加減しては訓練の意味が無い!
よってお前達はこれから地獄を見る! 死ぬほうがましな地獄だ!
途中で抜けることは許さん! 落ちこぼれを排除する権利があるのは俺だけだ!
わかったか、貴様ら!」
「「「は、はい!?」」」
全員、顔が青ざめている。もしかしなくてもまずい人に指導を頼んじゃったかも、
との思いがありありと見て取れる。当然ながら返事はか細いものだった。
「ふざけるな! 大声だせ! タマ落としたか! 」
「「「は、はい!?」」」「ていうかなんだよこの態度の豹変は!?」
「返事がなっとらん! 話しかけられたとき以外は口を開くな!
口でクソたれる前と後に“サー”と言え! 分かったか、ウジ虫ども!」
「「「サ、サー・イエス・サー!」」」
「ふざけるな! 大声だせ! タマ落としたか! 」
「「「サー・イエス・サー!」」」
全員、たった一人で十数人をなぎ倒したこの間の決闘を覚えている。
逆らうに逆らえない。
「よし、まあ最初としては上出来だ。もう一度言うがお前達は
これから地獄を見る! だがその地獄の先には―――栄光がある!
貴様ら雌豚どもが俺の訓練に生き残れたら―――各人が兵器となる。
平民の影に隠れてこそこそ魔法を撃つ事しか出来ない臆病マラではなく、
最前列に立ち、領地を荒らす盗賊や怪物を殺す兵器となる!
その時、お前達は始めて貴族としての義務を果たせる体となる!
この地獄の特訓を耐え抜いた暁には、貴様らに討伐任務を与えてやる!
モンスターの群れに襲われ、開拓民が逃げ出し、放棄された村は無数にある!
モンスターのしかけた戦争によってよって奪われた領地を討伐するのだ!
勝利の暁には当然領主としての権利が発生する!
そこに難民を呼び、住まわせ、保護してやれば立派な領地だ!
モンスターの徘徊するエリアゆえに統治は困難だろうが、
貴様ら自らの手で勝ち得る領土の領主となるのだ!
栄光ある初代! 実力で勝ち得た領地! 家名の創始者!
金、女、権力、名誉! 全ては一繋がりとなってお前達の手に入るだろう!」
「「「「「う、うおおおおおお!!!!!」」」」」
話を聞いていた男子達が、雄たけびを上げた。
「その日まではウジ虫だ! ハルケギニアで最下等の生命体だ!
平民が汗水たらして稼いだ金を横取りして生きる寄生虫だ!
義務を果たしてはじめて権利を主張できる。義務を果たすその日まで、
貴様らは貴族ではない。両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!
女にモテたいと、部屋住みの厄介者になりたくないと思う奴は付いて来い!
貴様らに実力と自信と栄光と名と金、何より女を与えてやる!」
「「「「「サー・イエス・サー!」」」」」
こうして、地獄の特訓が始まったのである。初日の軽い訓練ですら
軟弱な貴族の坊ちゃん達には全員がへたり込んで動けなるほどであり、
実に過酷なものであった。次の日からはより本格的な特訓の開始だ。
早朝に起きての柔軟運動、体操、ランニング、筋トレに始まり、
アスレチックや棒術、剣術、格闘、精神鍛錬まで含んだ総合訓練である。
領地獲得という明確なビジョンを得た男子達は、訓練に喰らい突いた。
人間は理想や奇麗事ではあまり動かない。もっとも行動の原動力となるのは、
明確で手の届くところにある実利と欲望である。
啓太は、実利と欲望をかなえる手段として特訓を位置づけた。
欲望にかられた男子達は、強いやる気を見せたのだ。
一部ルイズのように目的が違うものも居たが、熱心さに変わりはなかった。
隣で訓練をしている連中は、ともに戦う仲間であると同時に、先に手柄を
立てられていい領地を先に取られるかもしれないライバルとなった。
ライバルに負けられない。同級生に負けたくない。
単に成績の上下という名誉問題ではなく、いい領地を早く手に入れるという
“明確で現実的な利益”を鼻先にぶら下げられた彼らの努力は…
傍から見ても鬼気迫るものとなったのだった。
授業にも身が入るようになった。魔法の実力を高める事が領地獲得で
手柄を得るための最短手段である事を啓太が説いたからだ。
同時に、強いストレスを特訓でかけられた男子達は、
授業を簡単で楽しい時間と見るようになったのである。
彼らもまた、急速にその心身を鍛え、実力を増していった。
そして、噂を聞き新たに特訓に加わる連中は急速に増えていったのである。
啓太の夢は、多数の犬神を指揮して戦うことであった。
たった一人の犬神とともに戦うことではなく。
今啓太は、多数のメイジを指揮して戦うという、
ちょっと妥協した夢に向かって大邁進しているのであった。
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