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「ベルセルク・ゼロ-13」(2008/03/20 (木) 17:10:33) の最新版変更点
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#navi(ベルセルク・ゼロ)
ルイズの先導のもと、一行は狭い路地裏へと入っていく。
道にはゴミや汚物が散らばっており、悪臭が鼻をついた。
キュルケは嫌悪感を露骨に浮かべ、鼻をつまむ。
「ちょっとルイズ。ホントにこっちであってるんでしょうね?」
「うるさいわね。嫌ならついてこなければいいじゃない」
やがて、剣の形をした看板が見えてきた。
「あ、あった」
ルイズは嬉しそうに呟いた。どうやらそこが武器屋であるらしい。
一行は石段を上り、羽扉をあけ、店内へ足を踏み入れた。
店の奥でパイプをくわえた五十がらみの親父が入ってきたルイズたちに目を向ける。
昼間だというのに店内は薄暗かった。
壁や棚に所狭しと並べられた剣や槍がランプの光を反射している。
「……」
タバサはランプの下まで進み、そこでまた本を読み始めた。
「お~、いろいろあるなあ」
パックは飾られている甲冑の内側に入り込み、感嘆の声を上げた。
「なんか陰気な店ねえ……」
キュルケは店内を見回して目を細める。
「旦那方、冷やかしなら帰ってくだせえ」
胡散臭げにこちらを見る店主にガッツは歩み寄った。
ルイズもその後に続く。
ガッツが目の前に迫り、ようやくその巨躯に気づいた店主は一瞬たじろいだ。
そしてガッツが背負っている大剣(というにはあまりにも馬鹿げた鉄の塊)に目がつく。
(なんじゃありゃあ……! 剣…なのか? 傭兵が伊達を気取って歩くにも大袈裟過ぎる!!)
ふと店主はガッツの隣に立つルイズを見る。
その首元の紐タイ留めには貴族であることを示す五芒星が刻まれていた。
(な~るほど。この兄ちゃんはそこのお嬢ちゃんの従者で、格好つけるために無理やり持たせてるってわけか。貴族ってのはつくづく見栄っ張りでいけねえ)
店主はふんっ、と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「あ~…それで、兄さんはどういった御用で?」
「この店ではこういった形式の矢はあつかってるか?」
「うん…? 随分短い矢だなこりゃ」
ガッツは鞄から矢を取り出すとそれを店主に見せる。
しばらくガッツの横で二人の会話を聞いていたルイズだったが、すぐに退屈になった。
武器のことに疎いルイズはガッツと店主がしている専門的な会話にはついていけなかったのだ。
ルイズはガッツの元を離れ、パックやキュルケに倣って品物を眺め始めた。
「けっ、貴族の娘っ子に見栄っ張り剣士、おまけにちび妖精!! 今日もろくな客がきやしねえ!!」
と、突然聞こえてきた声にルイズたちはキョロキョロと辺りを見回す。
しかし店内には店主を除いて、自分たち以外には誰もいない。
「なんだ今の声は?」
「こっちの方から聞こえてきたよ」
パックが指差す方向には乱雑に詰まれた剣があるだけだ。
パックは剣のほうへひらひらと近づいていく。
ルイズ、キュルケ、そしてタバサも興味を惹かれたのかじっとその様子を見守っている。
「剣があるだけで何もいないや」
「この店にゃあ幽霊でも居ついてんのか?」
冗談交じりにガッツは言った。
バサッ。
タバサの手から本が落ちる。
皆の視線がタバサに集中する。
タバサは本を拾い上げると何事もなかったように読書を再開した。本がさかさまだが。
店主は困ったように頭を掻いた。
「いや、実はですね……」
「やれやれだ!! 揃いも揃って目が節穴らしいや!!」
「おぉッ!? も、もしかしてこの剣が喋ってる!?」
パックの目の前に乱雑に置かれた剣。そのうちの一本がカタカタと震えていた。
錆の浮いたボロボロの剣。なんとそれが声の主であるらしい。
「へえ、インテリジェンスソードなんて置いてるのね」
キュルケは感心したように声を出す。
インテリジェンスソード。ハルケギニアでは魔術によって魂を込められた剣のことを総じてそう呼ぶ。
「やかましいデル公!! てめえいい加減にしねえと貴族に頼んで溶かしちまうぞ!!」
「おぉ上等だ!! やれるもんならやってみやがれ!! 軟弱なクソッタレ剣士ばっかりの世の中に飽き飽きしてたところだ!!
今日はなかなかいい面構えの奴がやってきたと思ったらなんだいそのこけおどしのだんびらは! 扱えやしねえ武器をご大層に背負ってよぅ、まったくくだらねえや!!」
デル公と呼ばれた剣が激しく揺れる。
その剣の言葉を聞いて、
「あはは、随分な言われようだなガッツ!!」
パックは愉快そうに笑い、
「………」
ルイズとキュルケは不機嫌そうに黙りこくり、タバサもまた沈黙を保っていた。
「あんたねえ……」
ルイズが我慢できずに口を開いた時、ガッツが剣の元へと歩み寄った。
「なんだい、図星さされて頭に来たか?」
「随分とご大層な口をきく剣だな。さぞ多くの戦場で振るわれてきたんだろうな」
「そんなもん覚えちゃいねえや。あんまり多すぎてな!!」
ガッツはその剣を取る。
盲点だった。様々な人間には聞き込んでいたが、まさか意思を持つ剣があろうとは。
この剣が何年前に作られたのかは知らないが、そこらの町人に聞くより余程希望が持てる。
「ミッドランド、という国に聞き覚えは?」
「知らね」
しかしあっさりと否定された。
ガッツはため息をつくと剣を元の位置に戻す。
だが、その時―――
「おでれーた。おめ、『使い手』か」
剣を戻そうとしたガッツの手が止まった。
ガッツの左手―――鉄の義手には淡く『ガンダールヴ』のルーンが輝いている。
「お前…何を知ってる?」
「お? 何のことだ? それよりてめ、俺を買え」
どうするか。ガッツは思案した。
ドラゴンころしがある以上、はっきりいって新たな剣などは必要ない。
しかしどうやらこの剣は自身に宿った『ガンダールヴ』の力について何やら知っている様子だ。
今は少しでも多くの情報が欲しい。無論、『ガンダールヴ』の能力についても。
ガッツはちらりとルイズを見た。ガッツはこの世界の金など持ち合わせていない。
もしこの剣を買うならば、ルイズに頼るしかないのである。
ガッツの考えていることを察したルイズはやれやれと肩をすくめた。
「わかったわよ。買ってあげるわ」
「ありがとよ」
素直に礼を述べる。
ルイズは得意げに笑うと店主のほうに向き直った。
「聞いての通りよ。あの剣をいただくわ。おいくら?」
「そいつはありがてえや。こっちも厄介払いが出来てせいせいするってもんです。あれだったら百でけっこうでさ」
「え゛っ!」
ルイズの顔が青く染まる。
「そ、そんなにするの?」
「お言葉ですが若奥様、あのサイズの剣になるとどんなに安くても二百が相場でさ。これでも破格の安さでございます、へえ」
ルイズの額に汗が流れた。
いや、足りる。足りるのだ。
今日持ってきたお金は百とちょっと。今ここでこの剣を買うことは出来る。
しかしここでこの剣を買ってしまうと―――『足りなくなってしまう』のだ。
「もしかして百エキューも払えないの? ルイズ」
ギクリ。ルイズの体が揺れた。
キュルケの顔ににんまりと笑みが浮かぶ。
「おっほっほ!! たった百エキューも払えないなんて!! 公爵家の名が泣くわよヴァリエール!!」
キュルケはポケットから金貨を取り出すと勢いよくカウンターの上に叩きつけた。
店主は金貨の数を慎重に数え上げる。
「へい、確かに。毎度!!」
店主は金貨を懐に納めると、ガッツに鞘を手渡した。
「どうしてもうるさかったら鞘に収めれば喋らなくなりますんで」
ガッツは頷いて鞘を受け取る。
パックが剣のつばをぽんぽんと叩いた。
「よろしくな、デルコー!!」
「デル公じゃねえ!! デルフリンガー様だ!!」
「オッケー。よろしくデルデル!!」
「うおぉ!? その呼び方はやめれ!!」
なるほど、騒がしいことこの上ない。
ガッツはデルフリンガーを鞘に収めた。
「ダーリン!! それは私からのプレゼントよ!! 私からの!! 私からのね!!! お~ほっほっほ!!」
「うがががが……!!」
キュルケの高笑いとルイズの歯軋りが店内に響く。
デルフリンガーが黙っても騒がしいのは変わらない。
やれやれだ。ガッツは疲れた顔で天井を仰いだ。
武器屋を出て―――
ガッツは馬を預けていた駅の前に一人立っていた。
「ちょっと先に行ってて。そろそろ仕上がってるはずだから」
ルイズはそう言って武器屋を出てすぐに去っていき、パックもそれについていった。
キュルケとタバサは一足先にシルフィードに乗って学院に帰っていった。
先程まではデルフリンガーを抜いて『使い手』という言葉の意味を尋ねていたのだが、デルフの答えは「知らん」、「忘れた」の一点張りで埒があかなかった。
デルフリンガーを鞘に収めてから、無用な買い物をしたか、とガッツは若干後悔していた。
これではルイズに無駄な借りを作ってしまっただけである。
「お待たせ!」
そんなことを考えていたらルイズがやってきた。
その手には綺麗にラッピングされた包みを持っている。
パックは何やらニヒヒと笑いながら己の定位置であるガッツの鞄に潜り込んだ。
ガッツはそれについては特に詮索せず、馬にまたがる。
再び三時間の道のりを走り、魔法学院に帰り着くころには陽はとっぷりと暮れて既に夕食の時間に差しかかろうとしていた。
二人は一度ルイズの部屋に寄って荷物を置くと食堂へ向かう。
「あれ、ガッツ? どこに行くの?」
食堂を通りすぎたガッツをルイズは呼び止める。
「俺は厨房で食わせてもらう」
「な、何で? い、いいわよ別にこっちで食べても!」
ルイズは慌てた。
かつては確かに使い魔が貴族と同じ席で食事を取るのはいかがなものかと感じてはいたが、それは既に過去のこと。
『土くれ』のフーケの一件以来、ルイズにはガッツを下僕として扱う気などさらさら無くなっていた。
が、別にガッツもそんなこと微塵も気にしちゃいない。
「いや、ほら、ルイズ。ガッツが食堂に入っちゃうとさ……」
「あっ…」
パックに言われて気がついた。
そうなのだ。いくらフーケを捕らえたということで、学院で英雄扱いされても、生徒たちの中ではまだガッツのことを快く思っていない者が大半だった。
その感情は貴族を愚弄したガッツへの怒り、反感、あるいは恐怖―――と様々であったが、とにかくガッツが食堂に入ることはあまりよろしくない。
ルイズは何ともいえない気持ちで食堂に入っていった。
ちなみにパックはふつーに食堂で食べている。曰く、
「だってこっちのがうめーじゃん」
ということだそーだ。
ガッツが厨房に入るとわっ、と歓声が起こる。
ギーシュとの決闘、フーケ捕獲を経て、ガッツは学院で働く平民達からヒーロー扱いされていた。
特に厨房を仕切るマルトー親方はガッツに対して若干行きすぎといえるほど好意的に接していた。
それはシエスタも同様で、今日も彼女はニコニコしながらガッツが賄いのスープを食べるのを見つめていた。
「おいしいですか?」
「あぁ…」
正直、この現状はガッツからしたらうっとうしい限りだった。
元の世界に帰るまで、厄介ごとはごめんだとガッツは考えている。
そのため、このように目立つのは好ましくなかった。
「あれ?」
すると、シエスタが突然目を丸くした。
「ガッツさん、いつタルブの村に行ったんですか?」
「…?」
よくわからないことを言う。
そんな村、行ったどころか名前すら知らない。
ガッツがそう言うとシエスタは首をかしげた。
「あれぇ…? でも、あれえ…? だったら―――」
シエスタはガッツの腰元を指差す。
そこにかけられているのは、今日トリステイン城下町の武器屋で購入した一本の剣。
「その剣は、一体どこで手に入れたんですか?」
ピチョン―――
どこかから水の音が聞こえている。
冷たい石の壁に背を預け、『土くれ』のフーケは静かに目を閉じた。
チェルノボーグの監獄。トリステインで最も防備と監視が厳重な場所。
ルイズ達によって捕らえられたフーケは、魔法衛士隊に引き渡されるなりここに入れられた。
フーケは自嘲するように笑った。
「しかし、わたしも運が悪いねえ」
もともと失敗するような仕事ではなかった。
随分前に魔法学院に入り込んで念入りに下調べをした上で取り組んだ仕事だ。
警備の穴。教鞭をとる教師たちの質。
失敗する確率など微々たるものだった。
―――そのはずだった。
にもかかわらず、見事なまでに失敗し、今自分はここにいる。
失敗した要因は二つ。
魔法学院の生徒としては異質な程の手練のメイジの存在。
ゴーレムを破壊しうるほどのポテンシャルを持った『ゼロ』のルイズ、そしてその使い魔である―――『黒い剣士』の存在。
『黒い剣士』などは、召喚されたのは計画の決行直前だ。これを運が悪いと言わずしてなんと言おう。
ピチョン―――
そしてフーケはこれからの自分の処遇について思う。
散々トリステインの貴族達をおちょくるように盗みを働いてきた。
自分に対するこれまでの扱いから考えても、軽い刑罰であるとはとても思えない。
よくて島流し。悪ければ縛り首もありえるだろう。
「わたしもここで終わりかね……」
ぽつりと小さく呟く。
―――脳裏にたったひとりの家族の顔が浮かんだ。
ガツン!!
フーケは立ち上がると石壁を拳で叩いた。
死ぬわけにはいかない。
わたしがいなくなったら誰があの子を守るというのだ―――!
唇をかみ締め、改めて牢獄を見回す。
石造りの壁、粗末な木のベッド。木の机。与えられた食器も全てが木製。
だめだ。脱獄する手立てはない。
得意の錬金も杖を取り上げられては使えない。
杖のないメイジのなんと無力なことか!!
フーケはぶんぶんと頭をふった。
血が上り、茹った頭ではいくら考えても妙案は浮かばない。
時間はまだある。冷静になれ。
フーケは自分にそう言い聞かせる。
どんな手を使ってでもここから脱走してみせる。
そう、どんな手を使ってでも―――!
コツン―――
「ッ!!」
水の音に混じって、足音が聞こえた。
フーケは牢の入り口を凝視して耳を澄ます。
コツン―――コツン―――
やはり、聞こえる。
牢番ではない。足音にはがしゃがしゃと拍車の音が混じっている。
牢番であるなら、足音に拍車の音が混じるはずがない。
「誰だい?」
鉄格子の向こう。現れたのは長身の黒マント。
顔には表情のない白仮面。
マントからは魔法の杖が突き出ている。
怪しさを絵に描いたような人物だった。
牢番は一体何をしていたのだ?
「君に選択を与えよう。マチルダ・オブ・サウスゴータ」
年若く、力強い男の声。
フーケの顔が蒼白になる。
何故その名を知っている。かつてアルビオン王家により奪われたその名を。
いまや誰も知るはずがないその名を。
「我々に協力し、無能なアルビオン王家を打倒するか」
男の手が杖にかかる。
「ここでこのまま死ぬか」
それは選択の名を借りたあきらかな強制。
拒否すれば殺す。男から発せられる静かな殺気がそう告げていた。
「どうしてわたしを?」
「力が要る。我々の至高目的はハルケギニアを統一し、『聖地』を奪い返すことだ。そのためには一人でも多くの優秀なメイジが必要なのだ」
馬鹿を言っている。
トリステイン王国、帝政ゲルマニア、アルビオン王国、ガリア王国……争いの絶えないこれらの国をひとつにまとめる? 一体どうやって?
ましてや『聖地』を奪い返すなどと、夢物語もいいとこだ。
聖地を守るエルフには、人間がどう足掻いたって勝てはしない。
『それがわかっているから私たちはエルフを受け入れることが出来ないんだろう』?
フーケは、笑った。
「答えを聞こうか。『土くれ』」
まあいいさ。わたしもここで死ぬわけにはいかない。
あんた達の馬鹿げた妄想がどうなるか見させてもらうのも、まあ悪くはないしね。
フーケは男に向かって手を差し出した。
「喜んで協力させてもらうわ。あなたたち…ええと」
白い仮面の男はフーケが差し出した手を優雅にとる。
仮面の奥で、男はきっと笑っていた。
「レコン・キスタ。それが我々の名だ」
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