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いぬかみっな使い魔 第7話(実質6話)
所変わって学院長室。決闘騒ぎを遠見の鏡で観察していた
オールド・オスマンとコルベールは、深刻な顔で相談していた。
「どう見た? 炎蛇よ。」
「はい。途中からしか見れませんでしたが。恐るべき強さですね。」
「うむ。ガンダールヴの名にふさわしい強さじゃ。しかし。」
「あれがガンダールヴゆえの強さかどうか、ですか?」
「うむ。」
「ケータ君は最初から圧倒的に強かった。素手でメイジを圧倒しています。
しかし、途中の要所要所で強さがまったく変わったと見ました。」
「ほう?」
コルベールは、己が軍人時代だった過去の経験から話している。
「ただでさえ速い速度が、武器を握ることによって倍加している、
と見ました。速度は戦いにおいて圧倒的なアドバンテージを与えます。
ガンダールヴの“あらゆる武器を使いこなし”という条件に合致します。」
「ふむ。やはり、そうなるか。」
「学長、早速王宮に伝えましょう、これは素晴らしい発見です!」
「ダメじゃ。」
オールドオスマンが、即座に止めた。
「これは当分の間内密にするのじゃ。こんなおもちゃを手に入れたら
王宮のクサレ将軍どもが戦争おっぱじめる格好の口実にするぞい。
その時、魔法の使えないミス・ヴァリエールも真っ先に巻き込まれる。
同時に国中が戦争に巻き込まれるのじゃ。それを望むわけではあるまい?」
「なるほど! 学長の深謀遠慮、感服しました。」
「大きな力を持つものはその力に対して責任を取らねばならん。
学院に抱えているということではわしらもまた、責任があるのじゃ。
わかってくれるな? 君は、まずはミスヴァリエールの能力開発をしてくれ。」
「! 虚無の担い手を育てよ、と!?」
「そうじゃ。やがて隠し切れなくなるその時に備えて。」
オールド・オスマンは遠くを見る目つきになった。
「啓太君が言ったように、ミス・ヴァリエールの無能ぶりは欠点ではなく
個性じゃった。失われた系統ゆえに伸ばし方がわからず、埋もれた才能。
わしらは、彼女の才能を伸ばしてやらねばならん。やがて彼女の双肩には
想像も付かないほどの重い運命と責任がのしかかるじゃろう。
そのとき潰れないよう、今は大切に育てる時期じゃ。」
「責任重大ですな。」
「うむ。禁書の持ち出しも許可する。学院内限定じゃがな。たのむぞ?」
コルベールが部屋を出て行った後。
オールドオスマンは、深いため息をついた。
「わしはいつ全てを打ち明けるべきなんじゃろう?」
その日の昼食時。アルヴィーズの食堂にて。
「ああっ!? ぼ、僕の座る場所が無い!?」
「俺の座る場所も無い!?」
「マリコルヌにギムリだったか? 場所は開いてるんだ、椅子持ってきて
座ればいいだろ。おおい、ちょっと詰めてやってくれ!」
「ケータどの。あなたはこちらで一緒に食事をするのですか?」
マリコルヌはそう言って、ケータに確認した。目で追うのはルイズ、ともはね、
ケータの3人が並ぶ席順だ。なぜか圧倒的強さを誇るケータが下座にいる。
「そんなかしこまった言い方しないでため口でいいぜ。
俺も今日から生徒だからこっちで一緒に食べることになったんだ。
まあ、しばらくはこっちの文字や魔法の基礎を習う補習授業だけどな。
よろしく頼むぜ?」
そういって、啓太は手を差し出した。二人と握手する。
その後二人は椅子を持ってきて食事をするのであるが、
啓太の気さくな性格に大いに感銘を受け、話は随分弾んだのである。
「ふむ、うまいけど野菜が少なくて栄養のバランスが悪いな。
貴族がこういう食事ばかり取ってるなら体調崩しやすそうだ。」
「エーヨーのばらんす? なんです、それ?」
小太りなマリコルヌが尋ねる。
「はいは~~い、それ、私が説明しちゃいます!」
ともはねが口を出してきた。ルイズは、昨夜姉の薬作りを頼んだのを
思い出し身を乗り出して聞き入る。
「あのですね、ご飯はおもに3種類に分かれていて、役目が違うんです。
お肉やお魚は主に体を作るのに役立ちます。ご飯やパンは体を動かすのに
役立ちます。そしてお野菜は体の調子を整えるのに役立つのです!
朝ごはんのときはそれほどでも無かったですけど、昼ごはんのこれは
野菜が少なくてお肉が多すぎるんです。お肉でも多少のビタミンは
入ってますしカロリー補給も出来ますけど、やっぱりちょっと
バランス悪いんです。これだと、病気になりやすくなったり
病気になったときに抵抗力が弱くて酷い症状になりやすくなるんですよ。」
啓太が、よしよしとともはねの頭をなでてやる。
むふ~~、と自慢げにともはねが鼻を鳴らす。
マリコルヌ、ギムリ、ルイズは良くわからない、という顔をしている。
「いきなりじゃあわからなくて当然だよな。要するに野菜を今の3倍から4倍、
肉を半分、パンは白パンじゃなくて良く挽いた粉で作った黒パンを2倍から3倍。
それくらいが体の調子を良くするのに最高のバランスだってことさ。」
「その、そんな事を気にして食べないといけないの?」
「ダメとは言わない。若いうちは結構何とかなるもんさ。けど、そういった
不摂生は必ず体に跳ね返ってくる。特に歳を取ってからは。
太りすぎて内臓が悪くなったり。」
マリコルヌが自分の腹を押さえた。
「肌がぼろぼろになったり。」
ルイズが自分の頬に手を当てた。
「病気になりやすくなったりする。」
ギムリが、あごに手を当てて何事か考え込む。
ルイズが、ともはねと啓太に聞いた。
「ねえ、もしかして、私の姉さまも食事を変えるだけで良くなるの?」
「それは今までの食事内容を聞いてみないとわからないですよ~~~」
「そうだな。あとは、生活環境とかも、だな。」
啓太が、ともはねの頭をなでる。心地よさそうにともはねが目を細める。
「私、思い出せる限りのことを教えるわ。実家にも問い合わせて
そのあたりの詳しいことを確かめるわ。だから、お願い、姉さまを助けて。」
「出来るかどうかわからないですけど、やってみますよ!」
「そうだな、医者の卵の俺たちじゃ、出来ることに限りがある。
それでもいいなら力を貸すぜ。」
「お願いします。」
ルイズが、わずかに頭を下げる。矜持の高い彼女にしては珍しい。
マリコルヌとギムリは、滅多に見れないそんなルイズを、
ぽかんとして見つめていた。ひそひそと話し合う。
「今日すでに何度目だ!?」
「あのとんでもないじゃじゃ馬を!」
「ここまでおとなしくさせるとは。」
「猛獣を飼いならす秘訣でも知っている職業なのかな?」
※↑そのとおりです!
マリコルヌとギムリの二人は。
「これだけでも尊敬に値する人物だ。」
とひそひそうなずきあったのであった。
その日の放課後。
啓太、ルイズ、ともはね、マロちんはかごや移植べら、鎌などを借りて
薬草採取に出ようとしていた。しかし。
「あのね、なんであんたがここにいるのよ!?」
「面白そうだったんだもの。」
なぜか同じ装備でキュルケがここにいる。
食ってかかるルイズを、なんだか妙に生暖かい目で見ている。
さらに。
マリコルヌ、ギムリ、ペリッソン、スティックス、マニカン、エイジャックス。
なんだか大量の男子までいる。啓太は、戸惑いながら聞いてみた。
「あ~~、すまない。君達は一体?」
「ケータ君がポーションを調合すると聞いたので。実に興味深くて。」
「ケータ君はロバ・アル・カイリエ仕込みだそうじゃないですか。」
マリコルヌとギムリが、誇らしげにケータ君、とタメ口をきいた。
啓太に許可をもらっているのは今のところこの二人だけなのだ。
「薬草を探しに森の奥まで行くと聞いた。」
「そう、暗い森の奥まで。」
「キュルケ嬢とともに行くと聞いて。」
「ちょっと気になっただけさ。」
「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
そう言って、5人の男子がわざとらしい笑いをあげる。
小太りなマリコルヌが、不思議そうにそれを見ている。
隣で、ともはねも不思議そうに見ていた。
実はこの5人、キュルケに5股をかけられている連中なのであり、
ケータについてキュルケが森へ行く、と聞いて気になってやってきたのだ。
マリコルヌはギムリがカモフラージュにと連れてきたのである。
啓太は、そんな事はわからない。
が、薬草摘みに人手があるのはありがたい。素直に認めることにした。
とりあえず歩き出しながら話す。
「おし、じゃあ一緒に行くか。採った薬草のうち余った分は
町まで売りに行く予定だったからな。その売上金は労働量なんかに
合わせて分配することにしよう。」
「「「ええ!?」」」
一同から驚きの声が上がる。
「それは、どう分配するんだ!?」
なんだか妙に必死な男子が数名。
「そりゃあ、まずは当面使いそうな薬草を保存して、ルイズの部屋に
棚でも作って貯めることになるかな。残りを売りに行く。
摘んだ量と陰干しなんかの前加工作業に従事した時間で
割合決めて分配。そんなとこかな?」
「「「おお!」」」
異様に盛り上がってる。
「お前ら貧乏貴族なのか? この学院に通ってるのはトリスティンでも
名家の子女ばかりだと聞いてたんで金回りがいい奴ばかりだと思ってたんだが。」
マリコルヌが啓太に説明した。
「この学院に来る貴族の子は皆名家の出だよ。でも、名家と金回りは直接の
関係は無いんだ。世の貴族の半分は貧乏でね。事業に失敗したり戦争で
見栄を張ったり体面保つために収入に見合わないほど豪勢な暮らしを装ったり。」
「へえ~~、そうなんですか。」
ともはねが感心して聞き入っている。啓太ほど歴史を知らないのだ。
ギムリが説明を引き継ぐ。
「特に僕達はまだ爵位をついでいない書生の身だ。しかも次男三男
であることも多くて、名家であろうとお金を稼げるに越したことはないんだ。」
「大変なんですね。」
ともはねが、ちょこんとかわいく首をかしげて納得している。
「それだけじゃないわよ~~?」
キュルケが割り込んだ。
「メイジは強力な魔法を使うためにいろいろな秘薬を使わなくちゃ
いけない事が多いの。秘薬はそこいらから普通に見つけられることもあるけど
多くは購入する事になるわ。見栄を張って強力な呪文を
使いまくったりすると、とたんにお金が底を突くことになるのよ。」
「なるほどな。」
啓太は納得した。啓太自身、カエルの消しゴムを呪符として使っている。
手ごわい敵と相対すると、大量の呪符が必要になり出費が馬鹿にならない。
「どこも同じなんですね。」
ともはねも、納得したようにうなずいた。
啓太は、ふと暴力の海”を殺した余波で極貧生活をしていた頃を思い出した。
アパートを追い出され、稼いでも稼いでも金を落としたり
思わぬ出費を強いられたりで橋の下で暮らしていたあの日々。
当然電気もなく、スクーターをちょっと改造してかろうじて電化製品を使い。
それですらガソリンを滅多に買えないためにごくたまにだった。
米を買うのが精一杯でくず野菜を拾ってきたり河から採った魚を
おかずにし、それでも足りずに雑草を食べる必要に迫られ、薬草学の基礎を
学ばせてくれた祖母や猛省蘭土の仙人達にどれだけ感謝したか。
「あの頃の俺があるから、この世界でも金を稼ぐ目処が立っている。」
低くつぶやいた啓太は、誰にともなく感謝の祈りを捧げた。
学院を少し離れると、そこはすでに刈り込まれた芝生や手入れのされた
庭ではなくなり、自然の草原となる。森まではまだまだ距離があるが、
ともはねと啓太は早速薬草を見つけては摘むことを指示した。
「こんな普通の草原に生えてる草が薬草になるのかい?」
「ああ。薬草なんてどこにでもあるぜ?」
「必要な薬草かどうかはまた別なのですけどね!」
「うん。医食同源といってな。薬草探しの基本は、食べられる野草か、
食べられない野草かの見分け方から始まる。毒なら食べられない。
毒でなくて、食べておいしいもの。それが山菜や食べられる草だ。
食べられる草を栽培するのが農業。栽培種を品種改良したのが野菜。
その中で、食べられるだけでなく体を健康にする草が薬草。
薬草で作った料理を薬膳という。毒をうんと薄めれば薬になることもある。
それが、扱いの難しい薬草。どれも繋り身の回りに密接に関連している。
薬草もまた草の一種であるのだから、そこいらに生えていて当然なのさ。」
「「「「おお~~~」」」」
皆、感心して聞いている。水系統のメイジなら薬草学を採っていて
こういったことに詳しいものもいるだろうが、いいところのお坊ちゃん
ぞろいの彼らからしてみれば、薬草など買えばいい、というものなのだろう。
知らない知識のようだ。皆、素直に指示に従って摘み取りを開始する。
「いいか、全部は摘むな。せいぜい半分までにして置け。
薬草を採り尽くしたら次に薬草が必要になったときに困る。
摘む薬草は形の悪いもの、元気の無いものからにして、
形良く元気のあるものは残せ。そうすれば来年は少し質のいい薬草が生える。
自然から薬草をもらう以上、せめてもの恩返しをしないといけない。」
「「「「「は~~い」」」」」」
「いいですか~~~、憶測で摘み取らないで下さいね~~~!
薬草ってのは似ているけどまったく効果が違う別の草も多いんです!
ちょっとでも自信が無かったら聞きにきてください!
何度でも見分け方を教えますから!」
「「「「お~~~う!」」」」
ともはねが元気良く駆け回り、草のにおいをかぎ、啓太と相談する。
相談の末、問題がなさそうだとなると摘み取りを啓太が指示する。
ハルケギニアのトリスティンと日本とでは当然ながら植生が違う。
生えている薬草も違う。だがそこはそれ、外国から輸入する薬草も多いし、
情報はパソコンですぐに検索できる環境だったしで、
外国のものだからまったく知らないというわけでもない。
さらには人間にはありえないほど高いともはねの嗅覚が物を言う。
匂いで薬効が同じかどうか、大体わかるのだ。そもそも同じ薬草でも
地味の肥え方や日射量などによって薬効成分の含有量は違う。
ともはねとごきょうやはそれを匂いで嗅ぎ分け、緻密な調合を行っていた。
同じ温帯域のこの程度の植生の違いならなんとでもなった。
どうせだからとマリコルヌに命じて地図を作らせ、どこにどのような薬草が
生えているかを記入していく。一同は、徐々に場所を森の奥へと移していった。
環境が変わるたびに違う薬草が得られる。季節が合わなくて
今は採取しても意味が無い薬草なども見つけ、それらの場所も記していく。
時間はあっという間に過ぎていく。皆、結構楽しそうだ。
「お~~い、そろそろ休憩にしよう。」
きれいな泉のほとりに倒木が1本。まだ倒木の上にコケは
生えておらず乾いている。絶好の自然のベンチだ。
厨房に頼んで分けてもらったクッキーと水でおやつにする。
会話が弾む。今までいじめられていたルイズが、普通に話している。
いい傾向だな、と啓太は目を細めた。こうやって少しずつでも
皆に打ち解けることを覚えていけば、過剰な警戒心から来る高慢さも
減っていくかもしれない。
「それにしても、ケータ君? あなた、すごいのね。魔力だけじゃなくて
肉弾戦も武器戦闘も出来て、さらに薬総学、さらにはお金儲けの才覚もある。
まさに万能じゃない。素敵だわ・・・どうやってこんなに優秀になったの?」
赤い長髪に褐色の肌、豊満な胸のキュルケが、啓太の隣に座って
しなだれかかってきた。場が一気に緊張した。
(「私の啓太様に昼日中から!」)と反対側に座っていたともはね。
(「私の使い魔に色目を使うなんて、なんてこと! ツェルプストーが
いるのに気を抜いていた私のバカ馬鹿馬鹿!」)と少し離れた所で
クラスメイトの男子と話していたルイズ。
(「うお! ボクのキュルケが!? でもポット出だけどケータは
すごく強くて優秀、どうやっても勝てない!?」)とギムリ、ペリッソン、
スティックス、マニカン、エイジャックス。
「い、いや、その、ちょっと、くっつきすぎじゃないかな?」
とずり下がりながら啓太。でもなんだか鼻の下が伸びている。
そして当のキュルケは、ルイズが嫉妬の炎をめらめら燃やして
今にも爆発しそうなのを見て、うっとりするような快感を感じているのだった。
その後。
森の奥では魔法が飛び交ったとかいう噂もあるが、
ともあれ薬草は離れたところにまとめていたために無事だったそうな。
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