「ゼロの軌跡-07」(2008/03/19 (水) 05:16:11) の最新版変更点
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第八話 別れの舞踏
ルイズの退学申請は滞りなくオールド・オスマンに受理された。
ただ一つ問題があったとすれば、それはオスマンの隠し切れない喜びと安堵の衝動であっただろう。
ルイズが彼の部屋を訪い陰気な読経を連想させる声に扉を開けば、オスマンは濁った魚のような目をして椅子に凭れ掛かっていた。
彼がルイズの話を聞くにつれてその目は煌々とした輝きを取り戻し、口ひげは反り返り、言葉は次第に暗い夜想曲から陽気な行進曲を連想させるものになった。
それには幾ばくかの不興を覚えずにはいられなかったルイズとレンだったが、自分達が彼にかけた心労がどれほどのものであるかを思えば逆に同情もしようかというものである。
後腐れなくこの学院を後に出来ることでもあるし、オスマンの祈りの言葉を有り難く受け取って二人は学院長室を辞した。
今夜にでも出立したい、今から準備をしようというルイズの提案により、二人はルイズの部屋へと向かう。
自身を過剰に飾り立てることを好まなかったルイズには然程の持ち物もなかった。
服は枚数こそ多くてもその種類は少なかった。十六歳の女の子にしては色気が足りないんじゃないかしらとレンがルイズをからかえば、
その顔に大人っぽい下着(だとルイズは思っている)が投げつけられて、そのまま二人ともお互いの着せ替えに夢中になった。
高価な魔道書だけでなく多くの書き込みがされた教科書、丁寧に書き取られたノートをレンは見つけた。
努力の人という、オスマンやコルベールから聞いたルイズの評価が間違いでなかったことを知る。
処分に困ったレンだったが、ルイズはそれを級友に惜しげもなく配り歩いた。
夕食後には整理も終わり、荷物を全て<パテル=マテル>に括り付ければそれで終わりだった。
杖も一本を残したのみで他は全て処分した。燃やされる杖を見ながらルイズは何を思ったのか。レンは焚き火の横にたたずむルイズの顔を盗み見たが、何も読み取ることは出来なかった。
その火も燃え尽きようかというときに、ルイズに四人の来客の姿があった。
キュルケ、タバサ、ギーシュ、コルベールらが思い思いの顔で立ち尽くしていた。
口火を切ったのは赤毛の少女だった。彼女の二つ名らしくない冷静さでルイズに問いかけた。
「どうして退学するの?ルイズ」
「ゼロの私がこの学院にいる意味はないでしょう。キュルケ」
今日まで忌避し続けてきたその言葉でルイズは返す。幾度となく侮蔑のために投げつけられたその言葉。
虚を突かれたキュルケだったが、ルイズの言葉に悪意も自嘲も含まれていないことを感じ取り言葉を重ねた。
「サモンサーヴァントは成功したじゃない。もうあなたはゼロではないわ」
「サモンサーヴァントだけよ。そしてそれすらも成功とは呼べないの。私は従属することを望まないものを召喚した。そして結果的にレンを傷つける契約までしてしまった」
沈黙の帳が夕闇の庭に降りた。今のキュルケにいつもの軽口を叩くことは出来ず、その白い喉に形をなさない言葉を遊ばせるだけだった。
「それでもこんなっ「それでもこの学院にいる意味が失われたわけではないだろう」」
キュルケを遮り話し始めたのはギーシュだった。
「この学院で学ぶことは魔法だけじゃない。
多くの友人を作ること。社会的な振る舞いや作法。そしてなにより貴族としての精神。それは今日君達が教えてくれたことだ」
「ええ、私は多くを学んだわ。
馬鹿にされることは辛い。無視され、嘲笑の的になるのは身を切り刻まれるよう。そうして覚えた痛みを他の人に味わって欲しくない。
そして貴族が平民をどう見ているか。
私達を支えてくれている平民の、その上で胡坐をかく連中のどれだけ多いこと。髪を掴み地べたに擦りつけ、そうやって下げられた頭を見て満足している奴等に私はなりたくはない」
ギーシュも二の句をつげなかった。それはまさしく今日の彼自身のことに他ならなかった。
「私はここで人であることの痛みを知った。私はメイジより貴族でありたい。なによりそのためには貴族としての責任や権利を知り、領民を理解しなくてはならないと思った。それにはこの学院よりヴァリエール領の方が相応しい。だから私は実家に帰るの」
「立派になりましたね、ミス・ヴァリエール」
「先生…」
コルベールは今まで見せたことのない表情でルイズを見つめていた。
「あなたのような優秀な生徒がいなくなるなんて、とてもとても悲しいことです」
寂しさ、一人の教師としての。
「魔法は使えなくとも、貴族としての精神は確かにあなたに宿っています。それはなによりも大事なことです」
誇り、同じ貴族としての。
「私にはそれが出来なかった。だから私の分まで。
お元気で、ミス・ヴァリエール」
後悔、過去に囚われた大人としての。
ルイズは深く深く感謝の言葉を紡いだ。
「今まで有難うございました。先生、コルベール先生」
最後にタバサがルイズとレンに歩み寄った。そして一言、心から祈りを贈った。
ルイズとレンもそれに続いた。
「この二人に始祖ブリミルの導きがあらんことを」
「この学院に始祖ブリミルの加護があらんことを」
「女神エイドスの光がこの世界を照らしますように」
四人が去り、場にはルイズとレンの二人だけ。既に月が真上に昇っている。
「そろそろ出発しましょうか、レン」
「ええ。<パテル=マテル>、お願い」
「まってくださーーいっ!」
<パテル=マテル>が激しい蒸気とバックファイアを出したとき、聞き覚えのある声と共にまろびでてくる人影があった。
白と黒のエプロンドレスを着た少女といえば心当たりは一人しかいなかった。
「どうしたの?シエスタ」
「いえ、あのっ、引き止めて申し訳ありません。ですが、昼間助けてもらったのにお礼も言えてなくて、明日言おうと思ったらもういなくなってしまうって聞いて。
ヴァリエール様、レンちゃん、本当に有難うございました」
そういえば、啖呵をきって和解して決闘して学院長室へ向かって部屋の整理して。他人の入り込む余地がなかったなと二人は思い返す。
ともかくも、シエスタの心遣いがルイズとレンにはただ嬉しかった。
「ヴァリエール領まで結構ありますし、お腹が空くと思ってお弁当作りました。何分時間がなくてたいした物は作れなかったのですが」
「有難う、喜んでいただくわ」
感謝を述べ、包みを渡し、別れの言葉を告げると、もうシエスタに二人を引き止める方法も理由もなくなった。
ルイズとレンは<パテル=マテル>に飛び乗る。
「あと…レンちゃん」
最後にシエスタはレンに語りかけた。
「レンちゃんと一緒にいた時間、短かったけれど、かわいい妹が出来たみたいで私本当に楽しかった。また、会おうね」
返答までには少しの空白があった。
シエスタの言葉に驚いて息を呑み、言うべき言葉を慌てて探したらこのくらいの時間になるだろうとルイズは思った。辺りは暗くてレンの横顔は確認出来なかったけれども。
「レンも楽しかったわ。色々わがまま言ってごめんなさい。今度会うときはシエスタお手製のデザートと紅茶お願いね」
「さあ、出発よ」
レンの掛け声で<パテル=マテル>は飛び立った。後方で次第に小さくなるトリステイン魔法学院。
それでも後ろを振り向き続けるルイズを思ってか、<パテル=マテル>は中空で動きを留めた。
「別に明日にしても構わないわよ、ルイズ?」
「…いいの、行きましょう。レン」
その時、炸裂音と共に暗闇に天高く一条の光が昇る。それは<パテル=マテル>よりも高く舞い上がり夜空に大輪の花を咲かせた。
「花火…」
辺りが色とりどりの炎に照らされる。北の塔近くで手を振る四人も、赤く青く白く黄色くその姿を浮き上がらせた。
「錬金で花火を造って打ち上げたんだわ。全くギーシュったら、こういうのは本命の女の子相手にやるものよ。キュルケはともかく、タバサとコルベール先生まで手伝って。
ねぇ、ルイズ。
…ルイズ?」
返事をしないのではなく出来ないのだと悟り、レンは四人に手を振り返す。
こういう時は素直に涙を見せてもいいのに。
その場の誰よりも本性を心の奥深くに、自分でも隠したことを知らずにいる少女は、そう思った。
午前一時の鐘、時計塔の上で風竜の嘶きが一度、高く鋭く響いて辺りは元の暗さと静けさを取り戻した。
<パテル=マテル>は再びその進路を北に向けた。
それからしばらく後、突然魔法学院に王女アンリエッタが訪れた。名目は学院の視察。
折から予定されていた使い魔の品評会も含めそれは無事に終わったが、学院に彼女の親友の姿はどこにもなかった。
確かにルイズは魔法が苦手だった。もしや使い魔を呼べなかったのではないか。
不安に思い、オスマンに問いただすと意外な事実がアンリエッタに示された。
「鉄のゴーレムと見たこともない魔法を操る少女を召喚して殺されそうになって、上級生との決闘の最中に和解して、立派な貴族になるために実家に帰った?」
アンリエッタの思考に思い切り急停止がかかる。
意味が分からなかった。
不可解で理不尽な事態、それに対するアンリエッタの怒りはオールド・オスマンの管理責任の糾弾という形で顕現した。サモンサーヴァントの危険性、生徒の素行に対する指導、学院で働く平民への接し方等々。
オスマンこそいい迷惑であった。裸に剥かれるわ、学院の一部は壊されるわ、王女に怒られるわ。
最も王女の怒りの大部分は、多少不純な動機から来るものがあるとはいえ、正当なものであったから、彼としても王女の雷を大人しく受けざるをえなかったが。
オスマンにひとしきり説教をたれたアンリエッタは案内された客室に引き取った。
ルイズに頼む予定だったアルビオンへの使い。その人選を考え直さねばならない。極秘の潜入作戦に必要な家柄、性格、能力と指を折って騎士やメイジの名を思い出していく。
しかし、王家の醜聞を扱える人間などそう多くいるはずもない。そう長くもない逡巡の後に机上のベルを鳴らす。やってきたメイドに一人の男の名前を告げ、ここに来るよう言付ける。
数分後、礼儀正しいノックの音があった。
「こんな夜分にご苦労様です、ミスタ・ワルド」
「姫様の護衛を任されておりますれば、いつ何時のお呼びであろうと参上仕ります。
して、一体どのようなご用件でしょうか」
翌朝、アルビオンへ向けて旅立つワルドをアンリエッタは部屋の窓から見送っていた。
最高の人選だろうと思う。彼以上にこの任務を任せられる人材は他にはいない。そう確信しているのに胸騒ぎがどうしても止まらないのだった。
ルイズがいてくれたらこんな心配はしなくても済んだだろうに。
その彼女からの便りも未だない。それが不安でもあり不満でもあった。
王宮に戻れば手紙が届いているかもしれないと彼女は立ち上がる。
去り際に馬車から魔法学院を返り見て、アンリエッタは始祖ブリミルに祈った。
皮肉なことに、この朝は平和への別れ、動乱の幕開けになるのだった。
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第七話 狂ったお茶会
その日、オスマンは自室で昼食をとっていた。
人の生に必要な栄養と熱量を摂るにしては、それは不必要なまでに贅と趣向を凝らされたものであったが、間断なく痛みを訴える胃を無視しええず、料理人への冒涜ともとれる速さで彼は箸を置いた。
しかし食事の前後に捧げた祈りは、食事量とは対照的に平時に比して遥かに長いものであり、皮肉なことに既にその在り様が一種の不信心といえた。
とはいえ、その真摯であるところは誰にも否定できないだろう。果たしてそれが報われたのかどうか、ノックもなしに部屋に上がりこんだロングビルが一声にしたのは彼の待ち望んでいた吉報だった。
「ミス・ヴァリエールがミス・レンと和解したようです」
快哉が口をつく。一瞬にして天上の人となったオスマンだったが、やはり始祖ブリミルは彼の日頃の乱行に目こぼしをくれなかったようで、ロングビルの第二声によって彼は深淵にまで叩き落された。
「五人の生徒がミス・レンに決闘を吹っかけました」
「君は一人で我々は五人だ。流石に一対五では君に勝ち目などあるまい。ここは一対一の勝負を五回行うということでどうかな」
レンとルイズがヴェストリの広場に着くと、相手から決闘の方法について提案が出された。その内容にルイズはおろか、周囲の観客までもその馬鹿馬鹿しさに思わず耳を疑った。
いかに言葉を重ねようと、彼らの魂胆はあまりも露骨で見え透いていた。小柄なレンに連戦が出来るほどの体力はあるまいと踏んで、思うままに嬲ろうということか。
「そんなの面倒だわ、貴方達五人一斉に掛かってきてもレンは構わないわよ」
「君がそう言っても、我々には我々の誇りがある。年端も行かない少女を大勢で囲んだなどと言われては、その信念は拠って立つ場所を失うだろう」
誇りとか信念とか、言葉の意味を軽んじる連中ばかりがそういう重い言葉を口にする。自分の中身が空洞だから言葉で埋めようとしているのか。
その精神をなくした言葉に意味も力もあろうはずがない。彼らに使われる言葉があまりにも哀れだ。
キュルケとギーシュがよく似た思考を巡らせているうちに決闘の準備が整ったのか、辺りのざわめきは急速に静まっていった。
どこか喧騒にも似たしばしの静寂、合図が出され決闘が始まった。
さて、どうしてやろうか。平民の女風情、一ひねりにしてやってもいいのだがそれでは些か興をそぐというものだ。そう考えた貴族はすぐに己の浅はかさを悔いることになった。
レンが大鎌を取り出し、その右手を動かした瞬間までは彼はレンの姿を捉えていた。その後、右手の草むらでたった音にほんのわずか気を取られる。石を投げたのだと気づき視線を正面に戻した時にはレンの姿は見えなくなっていた。
どこに消えたか迷ったのも一瞬、視界に差した影がレンの形を成す。彼が上を向くのとレンの上空からの一撃がほぼ同時。
「うふふ、ごきげんよう」
理解も納得も追いつかぬうちに叩き込まれた柄の一閃。
スカートの裾を持ち、愛らしく別れを告げる少女の足元に彼は声もなく崩れ落ちた。
「卑怯だぞ!小娘!」
石で気をそらすという戦法を採ったレンに残りの四人から批判が浴びせられる。だがその声からは怒りは微塵も感じ取れず、怯えと恐れのみがはっきりと表れていた。石などを使わなくても彼女の力はあまりにも明らかだったからだ。
そこにレンから再び提案がなされた。彼らが先ほどその空虚なプライドのために拒絶したそれ。
「だから言ったでしょ、まとめて相手してあげるからいらっしゃい」
彼我の戦力差を思い知り、彼らも今度は甘んじて受け入れた。彼らの理念とやらは、仲間の一人が気絶した程度で羽を生やして逃げおおせるものらしかった。
「せいぜい楽しいお茶会にして欲しいものね」
レンがこちらの世界に来てからこの方、まともな戦闘は行っていない。自分がこの世界でどのくらい通用するのかどうか確かめておかなくてはならなかった。
無論、この程度の連中に負けるつもりは毛頭ない。レーヴェやヴァルター、カシウスといった猛者相手ならともかくも、戦歴も実力も三流の猟兵以下の彼らに遅れを取るようでは<殲滅天使>の異名も泣こうというものだ。
勝つ、彼らを完膚なきまでに叩きのめす。
その上で、この世界で使われる魔法、戦術を知り、<パテル=マテル>とオーバルアーツを有効に利用する土台を構築しなければならない。
そう考えとりあえず見にまわったレンだったが、彼らのとった行動を見て、開始早々に期待の半分はたやすく打ち砕かれたことを知った。
レンを遠巻きに半包囲した彼らは各々勝手に呪文を唱え始めたのだ。それを一瞥しただけで彼らがいかに戦闘に慣れていないか分かろうというものだった。更には敗北を見ても何も学ばない連中ですらあるらしい。
互いに援護できない位置に陣取れば、何人いようが単なる各個撃破の対象となるに過ぎない。ましてやレンの機敏さを考えれば、仲間同士の距離を取ることが愚の骨頂であると何故理解できないのか。
距離を生かしてアウトレンジから魔法を放つにしても、それが戦術的な意味を何ら持たない、思考の放棄の末に生まれた散漫なものである限り、レンを追い詰めることなど出来ようはずもない。
統制の取れていない散発的な攻撃は微塵も脅威にはなりえない。エアハンマーやファイヤーボールがレンめがけて飛んでくるが、それら全てを難なくかわしていく。
決闘の第二幕が始まってわずか数分。彼らから戦術を学ぶ愚を悟り、レンは攻勢に出た。
金色の鎌を振りかざしてレンに向かって放たれた火球を払いのける。作り出した一瞬の空白の利用して戦術オーブメントを起動させた。
見せてやる。そして震え慄くといい。これが導力魔法オーバルアーツだ。
貴族社会体制と特権階級意識の温床であるこの世界の魔法とは似て非なるもの。
無数の人間のたゆまざる克己と努力が育てた知恵の果実。
女神エイドスの息吹を受けたセピスの結晶と人の生み出した導力理論、その申し子。
大鎌を頭上に振り上げ、レンは高らかに呪を唱えた。
「請い願うは遥か地の底のひとやの瘴気、迸るその白き災いをもたらさん! ホワイトゲヘナ!」
レンの詠唱が終わった瞬間、一人の足元に魔方陣が浮き出た。彼の知っている如何なる図形文様とも異なる規則で描かれたそれは大地と異界とを結ぶ道となる。
本能が警鐘を鳴らす間もなく、地の底から這い出た悪霊と瘴気が彼を包み込んだ。数瞬の後にそれは天高く消え去ったが、生気を吸い付くされたその貴族は杖を取り落とし顔から地面に倒れこんだ。
残る三人はアーツの範囲外におり無傷だったが、彼らもその顔からは完全に血の気が失せていた。
レンが行使した魔法は彼らの理解の範疇にはなかった。先の戦闘で見せた身体能力の高さなら理解もできようというものだが。
もしや先住魔法か、この一見良家の子女然とした少女はエルフかさもなくば精霊か幻獣、その類か。
到底敵し得る相手ではないと判断したものの、だからといって前言を翻して頭を下げる気にはなれなかった。半ば自暴自棄になって呪文を唱えようとする。しかし、再び始まったレンの詠唱を耳にして、その口は凍りついた。
その局面にあっても尚、矜持と命を天秤にかけその平衡を保っていられた彼らは一種の賞賛が送られるかもしれないが、それはしばしば無謀と呼ばれるものでもあり、そう呼ばれたものが例外なく辿った末路を彼らも歩むこととなった。
「全てを飲み込み土塊へとその姿を変えよ、大地を揺るがす怒号!ジオカタストロフ!」
毎日使用人達の手によって美しく整えられていたヴェストリの広場は当分の間見るも無残な姿を晒すことになるようだった。
木も花も草も折れて曲がり地中に埋まっている。柵は壊れ塀は崩れ、銅像は粉々になって既に誰を象って作られたものであるかもわからなくなっていた。スクウェアクラスのアーツを放ったのだからそれも道理。
しばらく庭師が暇をもてあまさずに済むだろう。
オスマンの命を受けてコルベールが広場に着いたのは全てが終わった後。無責任な述懐を胸の内にしまい、生徒を指揮して五人の救助にあたった。
決闘が終わり、レンはルイズの方に足を向けた。
本来ならばここまで大規模のアーツを使う必要などなかった。それでもレンがそうしたのはルイズを試したかったからだ。
<パテル=マテル>を操るだけでなく、一人の戦士としてもその強さを誇るレン。
その異能を目の当たりにしても、ルイズはレンと共にあろうとするのか。
そしてレンは正義の騎士などではない。つい半年前まで犯罪結社<身喰らう蛇>にいてその力を恣意的に振るっていたのだ。
今回の決闘の理由も、あの貴族達が貴族らしからぬ振る舞いをしたからレンが立ち上がったのではない。それがレンにとって不愉快で、認めることの出来ないものであったからだ。
結局、レンはトリステインやリベールの法律と道義に則って行動するのではなく、誰の掣肘も受けずにレン自身の価値基準で行動する。
ならば私も問わなくてはならない、とレンは思ったのだ。
ルイズは私に手を差し伸べた。真に貴族であろうとする誇りをその胸に秘めて。
私はそれを美しく、また心地よく感じたからその手をとった。
決闘の前に差し出されたルイズの手は、私に対する謝罪の証だ。
ならば今から私がルイズに差し出す手は、ルイズと私との盟約だ。
次は私がルイズに受け入れてもらう番だ。
この世界での私の在り様を彼女が肯定してくれるならば。
道を違えるまでのしばらくの間、私はルイズと共にあろう。
もう一度、ルイズの手を握らなくてはならない。
「一つ尋ねるわ、ルイズ」
ルイズの目を捉え、レンは語り始める。
「レンはあなた達の理では動かない。私は私の思うように行動するわ。
私はこの世界では異邦人で、持っている力は異質にして脅威」
そしてレンはルイズに手を差し伸べる。ルイズがレンにそうしたように。
「それでもルイズはレンを受け入れてくれるかしら?」
ルイズはレンの手を硬く握り、答えた。
「それでもレンと私は同じ道を歩いて行けるわ。
そして私はレンの力になれるし、なりたいと思っている」
「<身喰らう蛇>執行者NO.ⅩⅤ<殲滅天使> レンよ」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。よろしくね」
ルイズもまた、歩き出すために一つの決断をした。
握手の後、ルイズはレンに提案する。
「レン、私はこの魔法学院を退学することにしたの。一緒に来てもらえるかしら」
「もちろんよ、行きましょう。ルイズ」
二人はオールド・オスマンのいる学院長室へと歩き出した。
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