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「ゼロがタンクでやってくる!」(2008/03/09 (日) 07:43:59) の最新版変更点
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7万のアルビオン軍。
それをただ一人で撃退した彼女は、しかし力尽き、その場に崩れ落ちた。
「あ……申し訳、ありません、マスター」
うわごとのように、彼女は呟く。
「……自己診断プログラムによると、このままでは、全ての機能が停止。再起動は不能……のようです」
見ればその姿は、既に片腕を失くしている。両足にも数箇所大きな傷を受け、既に歩くことすら出来ない。更に言えば、全身が傷だらけ。焦げたような痕もあれば、凍りついた痕もある。失った片腕の断面からは、ばちばちと火花が散っていた。
「申し訳ありません……。これ以上、マスターのお役に、立てそうにはありません……」
その呟きを聞く者は、誰かいるだろうか。
荒野に倒れ臥した彼女は、一人呟き続ける。
「……私には、感情というものがありません。ですが……。
マスターと過ごした時間は……短い間でしたが、とても、印象深いものでした……。
さようなら、ルイズさま。
わたしの、マスター……」
その呼びかけを最期に、彼女は動かなくなった。
ルイズが召喚したのは、ひとつの大きなカプセルであった。
高さは1.5メイル、長さは3メイル程もあろうか。上面は透き通った硝子のようなもので覆われており、中には一人の少女が横たわっていた。
ルイズがよく中を見ようと、しかし恐る恐るカプセルに触れた時、突如カプセルから声が聴こえてきた。
「アルファX02D、起動開始。
システムチェック、動力チェック、各種センサーチェック、各部駆動チェック……オール・グリーン。
アルファX02D、起動します」
思わず後ずさったルイズの目の前で、ゆっくりとカプセルが開き、中の少女が身を起こした。カプセルから降り立ち、軽く辺りを見渡す。
紺の髪をポニーテールに束ね、白いゆったりとしたワンピースを纏った少女。頭から伸びる二本の紐のようなものは何だろうか? その可憐だがどこか異様な姿の少女は、目の前にいる桃色の髪の小柄な少女……ルイズと目を合わせると表情ひとつ変えることなく尋ねた。
「あなたが……私のマスター・コマンダーですか?」
「マスター……そ、そうよ。私があんたのご主人様よ」
「マスター」、すなわち、「主人」。
全くの無表情で問うその少女に気圧されたのか一瞬口ごもるが、ルイズはしっかりと頷いた。
「了解しました。
パーソナルインフォメーションの取得を開始します」
「はぁ?」
突然わけのわからない事を言い出したその少女に、ルイズは怪訝な顔をする。
「……収録完了、識別子生成完了。貴女をマスター・コマンダーと認識します。
はじめまして、マスター。私はアルファX02Dです」
そう言って、ポニーテールの少女は軽く会釈した。
……それが、ルイズとアルファの出会いだった。
端的に言ってしまえば、アルファは人間ではない。地上を襲った『大破壊』以前に建造され、暴走を続けていた巨大地上戦艦『ティアマット』の中で眠りについていた、人間型の戦闘兵器である。
従って、彼女は食事を必要とせず、まずは食事から躾けようとしたルイズの怒りを買う羽目になった。
睡眠も必要としない。当然藁のベッドも毛布も使わず、ルイズの部屋の一角に佇むその姿は当然ルイズの常識を超越しており、気味悪がったところもあっただろう。
結局、彼女の素性がはっきりしたのは、『土くれのフーケ』と呼ばれる盗賊が学院の宝物庫にある『破壊の杖』を狙い、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムを差し向けた時であった。
ゴーレムに立ち向かおうとするルイズの前に立ち、アルファは勢いよくワンピースを脱ぎ捨てる。そこにあったのは、見たこともない薄い鎧のような肩当て・胸当て・腰当で構成されたプロテクターを身に着けた、戦乙女の姿だった。
片腕をゴーレムに向け、アルファは一言。
「レーザーライフル、発射」
ばくん、とゴーレムに向けた腕が上下に分割され、その間から光が迸る。それは正確に、ゴーレムの片足に直撃し、見事吹き飛ばした。
……その光景を見て、ようやくルイズは、そして彼女の友人達は、彼女が人間でないことを理解するのであった。
アルビオンとの戦いから数日後。
トリステイン魔法学院には、奇跡的に生き延びたコルベールからアルファの戦死を聞かされ、泣き崩れるルイズの姿があった。
確かに彼女は人間ではなかった。その上感情を持たず、淡々と自分に付き従うアルファだったが、それでも彼女はルイズにとってかけがえのない存在となっていたのだ。友とすら、思えていたのだ。
コルベールは涙を流すルイズに、静かに告げる。
「アルファ君から、貴女に渡すよう頼まれたものがあります。ミス・ヴァリエール、ついて来なさい」
そう言って彼がルイズを連れて行った先は、タルブ村から回収した『鋼の地龍』が置かれている格納庫であった。
「彼女はこれを一人で乗りこなしていましたが、これは本来、車長・操縦手・砲手の3名で使うのだそうです」
地龍に手を当て、コルベールは言う。
「それを一人で使えるようにしたのが、Cユニットという部品なのだと、彼女は言っていました」
「……それが、アルファと何の関係があるんですか」
泣きはらした瞳を、ルイズはコルベールに向けた。
「アルファ君が人ではなかった事は、今更言うまでもありませんね」
コルベールも、ルイズに向き直る。
「彼女本人から聞いた話によれば、形や使い方が違うだけで、彼女もこの地龍と同じようなつくりになっているとのこと。
特に思考を司る部分は、このCユニットとほぼ同じなのだそうです。
……彼女は恐らく、自分が早晩こうなることを予見していたのでしょう。彼女の思考と記憶を司る部品の外し方を、教えてくれていました。
そして、その使い方も」
そう言って、コルベールはルイズの手に何かを握らせた。小さくて硬い感触。
ルイズが手を開いて目を落とすと、そこには小さな鍵があった。
「彼女の身体は回収され、私に預けられました。そして私は彼女の意志に従い、貴女にこれを託します」
ルイズは視線を地龍に向ける。その地龍を動かす為の鍵こそが、今ルイズの持っている鍵であった。
「動かし方は解りますね?」
コルベールの問いに、操縦席で小さく頷くルイズ。何度かアルファが動かすのを見ていたので、鍵の使い方は把握していた。
鍵を差込み、軽く捻る。力強い咆哮を上げ、地龍が吠えた。その時である。
「――『零式』管制システム・アルファX02D、起動開始。
システムチェック、動力チェック、各種センサーチェック、各部駆動チェック……オール・グリーン。
『零式』、起動します」
ノイズが混じった少女の声。聞きなれたその声に耳を疑う。
「あ……アルファ!? あんた……」
「お久しぶりです、マスター。『零式』管制システム、アルファX02Dです」
……鋼の地龍、いや、零式と呼ばれた戦車のCユニットとして、身体を失いつつも復活を遂げた、アルファの目覚めだった。
その後の彼女たちの活躍については、語るまでもないだろう。
『ゼロのルイズ』と『零式の戦車』。その奇妙な符号も手伝い、彼女らの名と姿は対『無能王』ジョゼフの旗印として長く語り継がれる事となる。
また、人々の生活を脅かす魔の手からの鋼の守り手、『ハンター』としても。
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