「ゼロの魔獣-38」(2008/03/08 (土) 10:14:34) の最新版変更点
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#navi(ゼロの魔獣)
旧タルブ村跡地。
そこに、かつての人々の営みの跡は見受けられない。
目の前に広がるのは、ペンペン草一本生えていない荒野。
明らかに自然の作ったものではない、断層と陥没。
そして、その中央にポッカリと開いた 『 地獄の釜 』・・・。
最後の調査隊が引き上げを決め、今や無人となった惨劇の場に、一組の男女が立ち尽くしている。
女の方は、ズタボロのマントに全身を包んだ緑髪。
端正な顔立ちを台無しにする異常な目付きの悪さ、加えて、やたら大仰且つ悪趣味な煙管をふかしている。
一目見れば分かる危険人物 ― 『土くれ』のフーケだった。
「・・・旦那もまた えらくこっぴどくブチのめされたもんだねえ・・・」
フーケがしみじみと言う。
男の方は、右手は手首から先が、左は肩口から先が丸々存在せず
羽織っただけの上着の袖を、風にはためかせていた。
「お前には随分と世話をかけたな 『土くれ』」
「貸し借りは無しだよ ワルド」
それっきり、二人は無言となり、暫らくの間釜の底を睨み続けていた・・・。
「・・・結局 あの光柱はなんだったんだい?」
「さて な・・・」
フーケの問いに、虚空を見上げながらワルドが答える。
「本来交わるはずの無い 異なる世界が出会った結果なのか
あるいは この眼前の惨状すら 大いなる始祖ブリミルの 導きの一部なのか・・・」
「・・・・・・」
「・・・かつての俺は あのシャフトと同じだった
異界のもたらす力を求め それにおぼれた挙句 このザマだ」
「今は 違うとでも?」
「今はもっと強欲さ
力はいらん 真理が知りたい
あの魔獣は何処から来たのか? そして俺達は何処へ行くのか・・・」
「懲りない男だねえ アンタも・・・ 勝手に身を滅ぼすがいいさ」
フウゥゥっと、大きくケムリを吐き捨てた後、フーケが煙管を高々と振り上げる。
直後、背後にいたゴーレムの関節が回転を繰り返し、瞬く間に巨大なバギーへと変貌を遂げた。
「これからどうする?」
「怪盗のやる事はただ一つ・・・ だろ?
ただ これからは貴族のお宝なんてケチくさい事は言わないよ
魔獣は虚空に去ったが あたしにはヤツとの戦いで得た最強の力がある
コイツであたしは天下を盗む!
口だけのスカした貴族どもを片っ端から蹴散らして
世界中をあたしのシマに塗り替えてやる!」
「・・・懲りないのはどっちだ
魔法学院のガキどもにブチのめされたヤツの台詞じゃあないだろ」
「過去の事を蒸し返すんじゃないよ
そういうアンタこそどうするんだい? アルビオンに戻るのかい?」
「そうだなあ・・・」
言いながら、ワルドは躊躇いもせずバギーへと乗り込む。
「俺はヤツとの戦いで 全ての力を失ったが
未だに好奇心と 小賢しい頭脳の方は残ってる
とりあえず暫らくは 女極道の片腕をやらせて貰うとしようか・・・」
「つくづくけったいな男だねえ・・・ 当分の間給金は出ないよ! ワルド」
フーケは煙管を持ち替え、トン、トン、トーン、と、三度ゴーレムを叩いた。
四つの巨大なローラーが土煙を巻き上げ、二人を乗せたバギーが荒野へと消えた・・・。
・
・
・
タルブでの戦闘から二週間。
「地獄の釜」から10リーグ程離れた草原地帯に、タルブ村の移住作業が始まっていた。
最終的な勝者にこそなったとはいえ、異界の技術がもたらした被害は事のほか大きく、
軍の再編、負傷者の介抱、虜囚の保護、難民の支援と、
トリステイン軍は猫の手も借りたいほどの忙しさに追われていた。
その為、魔法学院も授業の一時休止を決め、貴族の子弟たちはタルブの復興支援に参加していた。
「―それにしても これからハルケギニアはどうなっちゃうのかしら・・・?」
再建が進む村を一望できる丘の上で、キュルケが呟く。
眼下には、タルブ復興のシンボルとして、
子供達の英雄となった巨大な青銅乙女が、木材を運ぶ姿が見える。
「なーにしみったれた事言ってんのよ まったく似合ってないわよ キュルケ」
「だって あんな物を目の当たりにしちゃったら ねえ ・・・タバサ」
「・・・・・・・」
ルイズの反発を受け、キュルケは青髪の少女へと同意を求める。
二人とも、タルブの地に『地獄の釜』を開けた光柱を、最も間近で見た生き証人だった。
あるいは、学生たちの中ではタバサこそが、事態の深刻さを最も理解していたのかもしれない。
世界が注目した、『レコン・キスタ』のトリステイン侵攻。
その中で明かされた、未知の力 ― 箱舟、ドグラ、魔獣・・・
そして・・・ 大地に巨大な風穴を開ける程の、膨大なエネルギー。
あの光柱で、世界ははっきりと、『異世界』の存在を認識してしまった・・・。
勿論、今すぐにどうという事ではない。
異世界の技術を御せず、手痛いしっぺ返しを喰らう形となったアルビオンは、
首脳部の責任問題に端を発した内乱により、外征に打って出る余力を完全に失った。
ガリア、ゲルマニアの諸国も、アルビオンの二の舞を恐れ、現在は静観に徹している。
だがそれも、所詮、喉元過ぎれば・・・ というヤツであろう。
追い詰められたアルビオンが、シャフトの残した技術力をテコに、巻き返しを謀る可能性は十分にある。
他の諸国も、あの巨大なエネルギーを己が物にせんと、いずれは独自の研究を始めるであろう。
『異世界』と出会ってしまったハルケギニアは、もはや引き返せない時代へと突入していた。
「大丈夫よ」
ルイズが断言する。
「異世界との遭遇がもたらしたものは 何も邪悪な力ばかりではないわ
シンイチと出会ったあたしも もう過去の臆病な自分ではない
あたしだけじゃない キュルケにも タバサにも ギーシュの中にも
シンイチと出会った全ての人たちの中に 彼の強烈な生き様が息づいている・・・
だから 世界が巨大な変革を遂げる事も あたしは恐れない
シンイチの世界の技術が ハルケギニアを脅かすのなら
彼の魂を受け継いだあたしが それを喰い止める力となって見せる!」
桃色髪の少女の大言壮語を、友人二人は呆れ顔で見ていた。
「あなた・・・ 前々からバカだとは思ってたけど いつの間にか本物のバカになってたのね」
「大風呂敷」
だが、そう語るキュルケもタバサも、どこか吹っ切れたような笑顔をしている。
「まったく 随分と大きく出たものだな ルイズ
今の君が心配しなきゃいけないのは 三日後の事じゃないのかい?」
ワルキューレの右肩に乗りながら、ギーシュがこちらへと近づいてくる。
三日後、トリステイン魔法学院の、授業再開の日。
その日の最初のプログラムは、学院史上でも異例の事態となる、
ルイズの2度目のサモン・サーヴァントの儀式と決まっていた。
「余計な心配は無用よ あたしを誰だと思っているの?」
かつての彼女の使い魔のように、不敵な笑みを浮かべながら、ルイズが言い放つ。
「楽しみにしてなさいよ デルフ
今度こそ アンタを持つにふさわしい 伝説の使い魔を呼び出して見せるわ!」
「おう! そいつはありがてえ
今度は俺をブン投げたり 置いてけぼりにしたりしない奴を頼むぜ!」
伝説の剣のおどけた口調に、その場に居合わせた一同が笑う。
「みなさーん 食事の準備ができましたよー」
風に乗って、遠くからシエスタの声が響いてきた―。
・
・
・
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ
神聖で美しく そして強力な使い魔よ
私は心より訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」
ド ワ オ オ ォ ッ ! !
― いつもの詠唱、 いつもの爆発。
今日もトリステインは平和であった・・・。
「何やってんだバカヤロー」「ふざけんなッ! ゼロのルイズ」
眼前で生じた爆発にも、学友たちの罵倒にも、ルイズは身じろきひとつしない。
腕組仁王立ちの体勢で、黒煙の中を凝視している。
「いいえ! 召喚は成功よ!!」
ルイズがピッ、と杖を指し示す。
立ち込める煙の中に、確かに何者かの影が動く。
「あれこそが あたしの新しい使い魔
この世で最も神聖で美しく そして強力な・・・ って ええッ!?」
いち早く使い魔を発見したルイズであったが、驚愕の声を上げたのも、彼女が最初だった。
さもありなん。 爆発の中央にいたのは平民の少年・・・。
―その日
虚空の果てまで吹き抜けるような青空の下
真理阿の最後の予言が、現実となった。
( ゼロの魔獣 完 )
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