「風林火山-08」(2008/02/27 (水) 19:29:44) の最新版変更点
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―――――ふと、誰かが自分を呼んでいるような気がした。
「・・・助」
誰だろうか。
「勘助」
自分を呼ぶ、この声の主は。
「勘助!」
「ハッ!ひ、姫様!」
白く染まる視界の中、そこに、姫・・・諏訪の館で死んだはずの、姫様がいた。
「勘助。何をしているのですか」
「は、某は・・・」
「こんなところで、何をしているのか、と聞いているのです。勘助。貴方には、仕えるべき姫がいるではありませんか」
何を言っているのだろうか。
自分が仕える者は、この世に姫様と御屋形様のみだ。
「使えるべき、姫、ですか・・・?」
「何を呆けた顔をしているのです。ルイズは、貴方を待っていますよ」
その言葉に、勘助の顔が驚きに染まった。
「ひ、姫様!しかし、某は姫様に・・・」
「私は、もう死にました。かの者は生きているではありませんか。私は、御屋形様と共に、勘助達を見て楽しみます」
「姫、様・・・」
「ほら、何をしているのですか。戻りなさい。貴方の姫が、待っていますよ」
姫―――由布姫は、そう言うと、スウと姿を消した。
瞬間に、勘助の視界は黒く染まった。
―――――姫様・・・
ボソリ、と勘助の唇から言葉が漏れた。
そして、同時に勘助の目がうっすらと、開いた。
ぼやけている視界の中、こくり、こくりと揺れながら、ルイズは眠っている。
(はて、何やら夢を見ていたようだが・・・)
何やら、とても重要な夢を見ていた気がした。
しかし、思いだせない。
それでも、考えてみる。
何の夢だったか。
・・・思い出せない。
(思い出せないものは、仕方あるまい)
所詮は、夢だ。
これ以上考えても、特に意味も無いだろう。
それより、何故目の前でルイズが寝ているのか。
何故、自分はここで寝ているのだろうか。
(そうだ。何故忘れていた・・・まず、考えねばならなかったこと)
ルイズは、確かにあの時潰されたはずだ。
そう、ゴーレムに潰された。
死体すら無かった事が、それを示している。
(・・・死体が、無い?)
眉に自然に皺が出来た。
そうだ、死体が無いはずがない。
いくら潰されたとはいえ、血痕、肉片の一欠けらも無かった。
それは、何よりも、ルイズは潰されてはいない、ということ示しているのではないか。
あの時潰されたのは、魔法で作られた別の何かだったのだろう。
勘助の知識で思い当たるのは・・・
ルイズそっくりな、ゴーレムだったのだろうか?
(そうか・・・間に合っていたのだな)
恐らく、コルベールを始めとする、教師達が間に合ったのだ。
彼らが、間一髪でルイズを助けてくれたのだろう。
(だが、それからの記憶が無いな)
ルイズが潰されてから、自分は何をしたのか、どうなったのか、全く分からない。
もしかしたら、すぐにフーケにやられ、それから教師達に救出されたのだろうか。
あるいは、フーケを逃がしてしまったかも知れない。
とりあえず、ルイズに話を聞くのが先だろう。
「姫様。起きて下され。聞きたいことがございます」
ルイズの肩に手を置き、起こそうとする。
ゆさゆさと、体を揺らす。
「姫様。起き―――」
そこまで言って、違和感を覚えた。
それも、とてつもなく大きな。
まるで、自分そのものが、それを拒絶するかのような、大きな・・・
「な・・・ば、馬鹿な!」
違和感の正体に気づき、そして、愕然とした。
(今、姫様と・・・姫様と!)
ルイズを、姫と呼んだのだ。
それも、長年口にしてきたかのように、ごく自然に。
しかし、それは決してありえない。
あってはいけないのだ。
勘助にとって、真に仕える姫とは、由布姫のみだ。
姫様というのは、ある種神聖な響きを持った言葉として、勘助の中にある。
それを、ルイズに対して使うのか。
そんな事が、あっていいはずがない。
(ならぬ。それだけは、絶対にならぬ)
一体、何故自分は、ルイズを姫様と呼んだのだろうか。
例え無意識でも、自分が姫様と呼び間違えるはずがない。
さっきの、一瞬の間の自分は、自分では無いような気すらした。
あの時、自分は、自分では無い、何かに支配されていたのだろうか。
普段ならば、そんな考えは一笑の元、切り捨てるものだ。
だが、今の勘助には、それが本当のことのように思えた。
自分の意識を、自分の存在を侵されているのだ。
「馬鹿な。そんな筈が―――ッ!」
ズキン、と、唐突に激しい頭痛がした。
だんだんと、だんだんと激しくなってくる。
痛み以外の感覚が消えていく。
視界が真っ白に染まり、そして、暗転した。
ズキン、という頭痛のみを残して、再び勘助は目を閉じた。
―――――視界に、白い光が広がった。
「勘助?勘助、目が覚めたのね!?」
そして、その光の先には、ルイズが居た。
「姫様・・・」
「勘助・・・良かったわ、もう二日も眠っていたよの・・・もう、目が覚めないかと思ったの。それに、さっきからずっとうなされていて。でも、本当によかった・・・」
自分をずっと看病してくれていたのだろうか。
疲れているようで、目に隅ができている。
(はて、何か夢を見ていたような気がするが・・・)
とても大事で、恐ろしい事のような気がする。
「勘助、大丈夫?」
「あ、はっ、心配をおかけ致しました、姫様」
だが、所詮は夢の事。
(・・・些事に過ぎんさ)
「勘助・・・今、姫様って?」
ルイズが、少し困惑した顔で問いかけてくる。
「?何か、おかしなことでも、言いましたでしょうか?」
「えと・・・その、姫様って、もしかして、私の事?」
何を言っているのだろうか。
「それ以外にございますまい」
「そ、そうなの。なら、いいわ」
何か不味かったのだろうか。
しかし、昔からずっと姫様と呼んでいるはずだ。
おかしなことは見当たらない。
すると、
「あ、そうだ。勘助が目を覚ましたら呼んできなさいって、先生に頼まれていたんだ。ちょっと、行ってくるわね」
と言い残し、ルイズは部屋を出て行ってしまった。
(姫様の様子が変だったが・・・)
いや、自分の様子が変だったのかもしれない。
何しろ、丸二日眠っていたというのだ。
そのまま、勘助は深く考える事はしなかった。
―――――やがて、部屋にオスマンとコルベールが入ってきた。
「すまんが、席を外してくれるかの」
ルイズは、その言葉でこの場から離れることになった。
二人は、ルイズが部屋から離れたのを確認してから、言った。
「さて・・・まずは、礼から言わねばなるまい。ミスタ・カンスケ。そなたのお陰で、被害を出すことなく、フーケを捕らえる事が出来た。ありがとう」
オスマンとコルベールが、揃って頭を下げた。
「いえ。礼を言われるほどのことではありません。すべては、姫様を守るための事」
勘助が言うと、二人は驚いたように顔を見合わせた。
「ふむ・・・そうか。そういってくれると、助かるわい」
鬚をなでながら、オスマンは続ける。
「そして、次は詫びじゃ。今回の事件、最も貢献してくれたのはそなたじゃと思っとる。しかし、そちは貴族では無い。ほかの3人と同じように、シュバリエを申請しても通らなんだ。」
「姫様が栄誉を受け取れたのであれば、某は、十分です」
またもや、驚いたように顔を合わせる二人。
「のう、ミスタ・カンスケ。その、姫様というのは・・・」
「?姫様とは、ルイズ様の事ですが」
ふむ、とオスマンは頷く。
「まぁ、いいじゃろ。我々は、そなたに大した礼をすることは出来ない。じゃが、我々学院はそなたの味方であるつもりじゃ。いきなり異国の地へと召喚され、何かと不便も多いことと思う。」
すう、と息を吸う。
「何か困ったこと、わからない事があったら、我々を訪ねてほしい。出来る限り、力になろう」
ふむ、と勘助は、自分の中の疑問をいくつか頭に思い浮かべる。
「聞きたいことがございます」
オスマンとコルベールが、促す。
「まず、この身の事。使い魔になってから、剣を握ると体が軽く、強くなります。今まで、そのような事は、ありませんでした」
二人が目を見合わせ、いくつかの間をおいて、コルベールが口を開いた。
「それは、伝説の使い魔、『ガンダールヴ』のルーンです。詳しい事は、私たちにもわからりません。ですが、それはあらゆる武器を使いこなしたといいます。もし、本当に貴方が『ガンダールヴ』であるならば、それの影響なのかもしれません」
そして・・・と、オスマンが続ける。
「このことは、わしら以外の人間には、可能な限り内密にしてほしい。このことが王宮にでも知られれば、何をするかわからん。ヴァリエール家は王家の氏族。そこから、伝説にある『ガンダールヴ』が現れたとなっては、それを種に戦を行う事も、あり得ん話ではないのじゃ」
「わかりました。可能な限り、内密に取り計らいましょう。・・・それと、頼みたいことがございます」
「なんじゃね?」
「『破壊の杖』・・・いえ、鉄砲を、私に預けては頂けないでしょうか」
「ふむ?」
戸惑うように、二人は首をかしげた。
「あの、『破壊の杖』には、もともと、私が仕えていた国の、家紋が記されていました。」
勘助は、顔の角度を少し落として、言った。
「恐らく、我が国の者でありましょう。」
「なんと!」
二人は、目を見開いて、思わず声を上げた。
「勿論、出来ればで構いませぬ。」
「いや。構わんよ」
オスマンが、言った。
「あれは・・・私の、恩人が持っていたものなのじゃ。まともに話すことなく亡くなってしまったのじゃが・・・そう、わしの・・・わしの、命を救ってくれた、恩人のものじゃ」
遠い眼をして、語る。
「その当時、まだ銃というものは世に出回っておらんでの。わしは、あれが何らかのマジックアイテムだと思っておった。」
じゃが、と続ける。
「それから数年した頃・・・銃が、軍に出回り始めた。その時、わしは思った。おそらく、あれはゲルマニアや、もしかしたら、東方で開発された兵器なのだろう、とな。」
コルベールが、後を続ける。
「私は、せめて持ち主の家族にでも会いたいという、オールド・オスマンの言葉を受け、手がかりを探しました。その一環で、出回っている銃も調べたのです。・・・ですが、どの銃もその銃より威力が低く、使い勝手も又、悪いものだったのです。」
辛いものをこらえるように、声を出した。
「もし、この銃が出回れば、戦争は変わるでしょう。平民が、貴族並の攻撃力を持ちます。そうすれば、どこの国も、こぞって開発を進め・・・やがて、大きな戦争が起きるかもしれません。」
憂いた顔で、コルベールは語る。
「もしかしたら、もう何所かの国は、量産に踏み切っているかもしれません。ですが、それを国に報告すれば、それこそ、こぞって戦が巻き起こることでしょう。だからこそ、我々は、これをマジック・アイテムとし、秘宝として保管したのです。」
それに、じゃが・・・と、オスマンが続ける。
「じゃが・・・これは、元々わしらのものでは無い。戦が起こらぬよう、一時的な措置として保管しておいたものじゃ。ミスタ・カンスケ」
「はい」
「わしは、そちを信じておる。主を守り、フーケをとらえてくれた、そちを・・・。そちなら、これを王宮に触れずに、己を、己の主を守るために、これを使ってくれると信じておる。」
「・・・ありがとう、ございます」
「なに、元々そちの国のものじゃ。それを、わしらが持っておったら、フーケと同じ泥棒になってしまうわい」
「あとで、私が持っていきましょう」
コルベールが、言った。
勘助は、姿勢を低くし、礼を言った。
「そして、もう一つ、お願いがございます」
「なんじゃ、まだあるのかね」
オスマンが、愉快そうに笑った。
「図書館の使用許可を・・・それと、文字を教えていただきたい」
これは、兼ねてより考えていたことだ。
図書館は貴族でなければ使用できないらしく、それに、使用できても文字が読めない。
あれほどの本があるというのに、それでは勿体無いことだ。
いや、文字が読めなければ後々困るかもしれないし、この地をもっと理解するためにも、文字は必要なのだ。
二人は、顔を見合わせると、又、笑って言った。
「もちろんじゃよ。ミスタ・カンスケ」
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#navi(風林火山)
―――――ふと、誰かが自分を呼んでいるような気がした。
「・・・助」
誰だろうか。
「勘助」
自分を呼ぶ、この声の主は。
「勘助!」
「ハッ!ひ、姫様!」
白く染まる視界の中、そこに、姫・・・諏訪の館で死んだはずの、姫様がいた。
「勘助。何をしているのですか」
「は、某は・・・」
「こんなところで、何をしているのか、と聞いているのです。勘助。貴方には、仕えるべき姫がいるではありませんか」
何を言っているのだろうか。
自分が仕える者は、この世に姫様と御屋形様のみだ。
「使えるべき、姫、ですか・・・?」
「何を呆けた顔をしているのです。ルイズは、貴方を待っていますよ」
その言葉に、勘助の顔が驚きに染まった。
「ひ、姫様!しかし、某は姫様に・・・」
「私は、もう死にました。かの者は生きているではありませんか。私は、御屋形様と共に、勘助達を見て楽しみます」
「姫、様・・・」
「ほら、何をしているのですか。戻りなさい。貴方の姫が、待っていますよ」
姫―――由布姫は、そう言うと、スウと姿を消した。
瞬間に、勘助の視界は黒く染まった。
―――――姫様・・・
ボソリ、と勘助の唇から言葉が漏れた。
そして、同時に勘助の目がうっすらと、開いた。
ぼやけている視界の中、こくり、こくりと揺れながら、ルイズは眠っている。
(はて、何やら夢を見ていたようだが・・・)
何やら、とても重要な夢を見ていた気がした。
しかし、思いだせない。
それでも、考えてみる。
何の夢だったか。
・・・思い出せない。
(思い出せないものは、仕方あるまい)
所詮は、夢だ。
これ以上考えても、特に意味も無いだろう。
それより、何故目の前でルイズが寝ているのか。
何故、自分はここで寝ているのだろうか。
(そうだ。何故忘れていた・・・まず、考えねばならなかったこと)
ルイズは、確かにあの時潰されたはずだ。
そう、ゴーレムに潰された。
死体すら無かった事が、それを示している。
(・・・死体が、無い?)
眉に自然に皺が出来た。
そうだ、死体が無いはずがない。
いくら潰されたとはいえ、血痕、肉片の一欠けらも無かった。
それは、何よりも、ルイズは潰されてはいない、ということ示しているのではないか。
あの時潰されたのは、魔法で作られた別の何かだったのだろう。
勘助の知識で思い当たるのは・・・
ルイズそっくりな、ゴーレムだったのだろうか?
(そうか・・・間に合っていたのだな)
恐らく、コルベールを始めとする、教師達が間に合ったのだ。
彼らが、間一髪でルイズを助けてくれたのだろう。
(だが、それからの記憶が無いな)
ルイズが潰されてから、自分は何をしたのか、どうなったのか、全く分からない。
もしかしたら、すぐにフーケにやられ、それから教師達に救出されたのだろうか。
あるいは、フーケを逃がしてしまったかも知れない。
とりあえず、ルイズに話を聞くのが先だろう。
「姫様。起きて下され。聞きたいことがございます」
ルイズの肩に手を置き、起こそうとする。
ゆさゆさと、体を揺らす。
「姫様。起き―――」
そこまで言って、違和感を覚えた。
それも、とてつもなく大きな。
まるで、自分そのものが、それを拒絶するかのような、大きな・・・
「な・・・ば、馬鹿な!」
違和感の正体に気づき、そして、愕然とした。
(今、姫様と・・・姫様と!)
ルイズを、姫と呼んだのだ。
それも、長年口にしてきたかのように、ごく自然に。
しかし、それは決してありえない。
あってはいけないのだ。
勘助にとって、真に仕える姫とは、由布姫のみだ。
姫様というのは、ある種神聖な響きを持った言葉として、勘助の中にある。
それを、ルイズに対して使うのか。
そんな事が、あっていいはずがない。
(ならぬ。それだけは、絶対にならぬ)
一体、何故自分は、ルイズを姫様と呼んだのだろうか。
例え無意識でも、自分が姫様と呼び間違えるはずがない。
さっきの、一瞬の間の自分は、自分では無いような気すらした。
あの時、自分は、自分では無い、何かに支配されていたのだろうか。
普段ならば、そんな考えは一笑の元、切り捨てるものだ。
だが、今の勘助には、それが本当のことのように思えた。
自分の意識を、自分の存在を侵されているのだ。
「馬鹿な。そんな筈が―――ッ!」
ズキン、と、唐突に激しい頭痛がした。
だんだんと、だんだんと激しくなってくる。
痛み以外の感覚が消えていく。
視界が真っ白に染まり、そして、暗転した。
ズキン、という頭痛のみを残して、再び勘助は目を閉じた。
―――――視界に、白い光が広がった。
「勘助?勘助、目が覚めたのね!?」
そして、その光の先には、ルイズが居た。
「姫様・・・」
「勘助・・・良かったわ、もう二日も眠っていたよの・・・もう、目が覚めないかと思ったの。それに、さっきからずっとうなされていて。でも、本当によかった・・・」
自分をずっと看病してくれていたのだろうか。
疲れているようで、目に隅ができている。
(はて、何か夢を見ていたような気がするが・・・)
とても大事で、恐ろしい事のような気がする。
「勘助、大丈夫?」
「あ、はっ、心配をおかけ致しました、姫様」
だが、所詮は夢の事。
(・・・些事に過ぎんさ)
「勘助・・・今、姫様って?」
ルイズが、少し困惑した顔で問いかけてくる。
「?何か、おかしなことでも、言いましたでしょうか?」
「えと・・・その、姫様って、もしかして、私の事?」
何を言っているのだろうか。
「それ以外にございますまい」
「そ、そうなの。なら、いいわ」
何か不味かったのだろうか。
しかし、昔からずっと姫様と呼んでいるはずだ。
おかしなことは見当たらない。
すると、
「あ、そうだ。勘助が目を覚ましたら呼んできなさいって、先生に頼まれていたんだ。ちょっと、行ってくるわね」
と言い残し、ルイズは部屋を出て行ってしまった。
(姫様の様子が変だったが・・・)
いや、自分の様子が変だったのかもしれない。
何しろ、丸二日眠っていたというのだ。
そのまま、勘助は深く考える事はしなかった。
―――――やがて、部屋にオスマンとコルベールが入ってきた。
「すまんが、席を外してくれるかの」
ルイズは、その言葉でこの場から離れることになった。
二人は、ルイズが部屋から離れたのを確認してから、言った。
「さて・・・まずは、礼から言わねばなるまい。ミスタ・カンスケ。そなたのお陰で、被害を出すことなく、フーケを捕らえる事が出来た。ありがとう」
オスマンとコルベールが、揃って頭を下げた。
「いえ。礼を言われるほどのことではありません。すべては、姫様を守るための事」
勘助が言うと、二人は驚いたように顔を見合わせた。
「ふむ・・・そうか。そういってくれると、助かるわい」
鬚をなでながら、オスマンは続ける。
「そして、次は詫びじゃ。今回の事件、最も貢献してくれたのはそなたじゃと思っとる。しかし、そちは貴族では無い。ほかの3人と同じように、シュバリエを申請しても通らなんだ。」
「姫様が栄誉を受け取れたのであれば、某は、十分です」
またもや、驚いたように顔を合わせる二人。
「のう、ミスタ・カンスケ。その、姫様というのは・・・」
「?姫様とは、ルイズ様の事ですが」
ふむ、とオスマンは頷く。
「まぁ、いいじゃろ。我々は、そなたに大した礼をすることは出来ない。じゃが、我々学院はそなたの味方であるつもりじゃ。いきなり異国の地へと召喚され、何かと不便も多いことと思う。」
すう、と息を吸う。
「何か困ったこと、わからない事があったら、我々を訪ねてほしい。出来る限り、力になろう」
ふむ、と勘助は、自分の中の疑問をいくつか頭に思い浮かべる。
「聞きたいことがございます」
オスマンとコルベールが、促す。
「まず、この身の事。使い魔になってから、剣を握ると体が軽く、強くなります。今まで、そのような事は、ありませんでした」
二人が目を見合わせ、いくつかの間をおいて、コルベールが口を開いた。
「それは、伝説の使い魔、『ガンダールヴ』のルーンです。詳しい事は、私たちにもわからりません。ですが、それはあらゆる武器を使いこなしたといいます。もし、本当に貴方が『ガンダールヴ』であるならば、それの影響なのかもしれません」
そして・・・と、オスマンが続ける。
「このことは、わしら以外の人間には、可能な限り内密にしてほしい。このことが王宮にでも知られれば、何をするかわからん。ヴァリエール家は王家の氏族。そこから、伝説にある『ガンダールヴ』が現れたとなっては、それを種に戦を行う事も、あり得ん話ではないのじゃ」
「わかりました。可能な限り、内密に取り計らいましょう。・・・それと、頼みたいことがございます」
「なんじゃね?」
「『破壊の杖』・・・いえ、鉄砲を、私に預けては頂けないでしょうか」
「ふむ?」
戸惑うように、二人は首をかしげた。
「あの、『破壊の杖』には、もともと、私が仕えていた国の、家紋が記されていました。」
勘助は、顔の角度を少し落として、言った。
「恐らく、我が国の者でありましょう。」
「なんと!」
二人は、目を見開いて、思わず声を上げた。
「勿論、出来ればで構いませぬ。」
「いや。構わんよ」
オスマンが、言った。
「あれは・・・私の、恩人が持っていたものなのじゃ。まともに話すことなく亡くなってしまったのじゃが・・・そう、わしの・・・わしの、命を救ってくれた、恩人のものじゃ」
遠い眼をして、語る。
「その当時、まだ銃というものは世に出回っておらんでの。わしは、あれが何らかのマジックアイテムだと思っておった。」
じゃが、と続ける。
「それから数年した頃・・・銃が、軍に出回り始めた。その時、わしは思った。おそらく、あれはゲルマニアや、もしかしたら、東方で開発された兵器なのだろう、とな。」
コルベールが、後を続ける。
「私は、せめて持ち主の家族にでも会いたいという、オールド・オスマンの言葉を受け、手がかりを探しました。その一環で、出回っている銃も調べたのです。・・・ですが、どの銃もその銃より威力が低く、使い勝手も又、悪いものだったのです。」
辛いものをこらえるように、声を出した。
「もし、この銃が出回れば、戦争は変わるでしょう。平民が、貴族並の攻撃力を持ちます。そうすれば、どこの国も、こぞって開発を進め・・・やがて、大きな戦争が起きるかもしれません。」
憂いた顔で、コルベールは語る。
「もしかしたら、もう何所かの国は、量産に踏み切っているかもしれません。ですが、それを国に報告すれば、それこそ、こぞって戦が巻き起こることでしょう。だからこそ、我々は、これをマジック・アイテムとし、秘宝として保管したのです。」
それに、じゃが・・・と、オスマンが続ける。
「じゃが・・・これは、元々わしらのものでは無い。戦が起こらぬよう、一時的な措置として保管しておいたものじゃ。ミスタ・カンスケ」
「はい」
「わしは、そちを信じておる。主を守り、フーケをとらえてくれた、そちを・・・。そちなら、これを王宮に触れずに、己を、己の主を守るために、これを使ってくれると信じておる。」
「・・・ありがとう、ございます」
「なに、元々そちの国のものじゃ。それを、わしらが持っておったら、フーケと同じ泥棒になってしまうわい」
「あとで、私が持っていきましょう」
コルベールが、言った。
勘助は、姿勢を低くし、礼を言った。
「そして、もう一つ、お願いがございます」
「なんじゃ、まだあるのかね」
オスマンが、愉快そうに笑った。
「図書館の使用許可を・・・それと、文字を教えていただきたい」
これは、兼ねてより考えていたことだ。
図書館は貴族でなければ使用できないらしく、それに、使用できても文字が読めない。
あれほどの本があるというのに、それでは勿体無いことだ。
いや、文字が読めなければ後々困るかもしれないし、この地をもっと理解するためにも、文字は必要なのだ。
二人は、顔を見合わせると、又、笑って言った。
「もちろんじゃよ。ミスタ・カンスケ」
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