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一八五
タバサと会って話をしようと心に決めるが、困惑したことに、君は彼女の部屋がこの寄宿舎のどこにあるのかを知らない。
椅子に腰掛けて≪始祖の祈祷書≫を開き、なにか文字は現れぬかと白紙の頁をじっとにらんでいるルイズか、隣室に戻っているはずの
キュルケに訊いてみようかとも考えるが、そうした場合、彼女たちは君の行動にいらぬ興味を持つかもしれない。
君は、タバサの部屋の位置をルイズに尋ねてみるか(八四へ)、キュルケに訊くことにするか(三二へ)、それともまだ部屋に戻っていないことを願って寄宿舎の外を探してみるか(三一〇へ)?
三一〇
寄宿舎の玄関を通り抜けて外に出た君は、思いがけずも目当ての人物を見つけることになる。
眼の前にぼうっと立って無言で君を見つめるタバサは、ちょうど寄宿舎に戻ろうとしていたところのようだ。
小柄な魔法使いの少女は、白いシャツの上から黒いマントを羽織ったいつもどおりの学院の制服姿をしているが、眼を凝らすとその服には汚れが目立ち、
何箇所かにはほつれや鉤裂きさえ見受けられる。
肩から大きな鞄を袈裟懸けにしているのもいつもと異なった点だが、六日間の外出から帰ってきたところなのだから、これはとくに驚くには値せぬことだろう。
君はタバサに挨拶し、戻ってきたばかりのところを悪いが、少し話がしたいと言う。
彼女はしばらく黙って君の眼を見ていたが、やがて小さくこくりとうなずき、
「わかった。部屋へ」と言うと君の脇を通り抜け、
寄宿舎の廊下を大股に進んでいく。
後に続きながら、君は考える――眼鏡越しに彼女の青い瞳が爛と輝いたように見えたのは、気のせいだろうか?
タバサの部屋は、間取りや家具の数はルイズのものとほぼ同じなのだが、あちらこちらに本が積み上げられ、いささか汚く見える。
隅には乱れたままの寝台があり、彼女がこの部屋を大急ぎで飛び出したことがうかがえる。
室内には本以外の私物や装飾品がほとんど見られず、年頃の少女の部屋としては殺風景といってもよいものだ。
タバサは君に椅子を勧めると、自身は寝台に腰掛ける。
茶の一杯も出ないところからして、あまり歓迎されてはいないようだと考えた君は、単刀直入に質問をぶつけてみることにする。
開口一番に、この六日間どこへ行っていたのだと尋ねるが、タバサはなんの答えも返してはこない。
質問を変え、≪使い魔≫のシルフィードは元気だったか、アルビオンに行ったことはあるか、アルビオンを解放する戦争が始まるという噂だがどう思う、
などと次々に問いかけて話の糸口をつかもうと奮闘するが、彼女はいくつかの質問に対してうなずくかかぶりを振るかするだけで、まったく口を開こうとはしない。
彼女に較べれば、カレーの街のクアガ神像のほうがよほど饒舌だ!
いっそのこと、読心や魅了の術でも使ってやろうかと考える君だが、タバサはいかなる感情も示さぬ瞳でじっと君を見つめているため、
彼女に気づかれずに術を使うことは不可能だろう。
なにかを聞き出すことをあきらめ、いいかげんに席を立とうかと考えた矢先、タバサがこの部屋に入って初めて口を開く。
「あなた……癒しの魔法は使える?」と。
どう答える?
癒しの術が使えると思うなら、次のなかから選べ。
使える術はないかと思い出そうとするだけなので、どの術を選んでも体力点や持ち物を失うことはない。
PEP・四七〇へ
MAG・四五二へ
YAG・四三三へ
RES・四八七へ
DOC・四二四へ
どの術も選べぬ、または自分は癒しの術は使えぬということにしたければ、二〇五へ。
四二四
君が選んだのは、まさしく治癒の術だ。
この術には水薬かブリム苺の汁が必要であり、それらを服んだ者が負った傷を瞬時に完治させる効果がある。
また、毒や疫病にもある程度の効果を示すが、けっして万能ではない。
君が術の説明をすると、タバサは瞳を輝かせる――今度は見間違いではない!
あくまで淡々とした口調のままではあるが、先ほどまでの無関心ぶりが嘘のような勢いで、彼女は次々と質問を浴びせてくる。
その術は心に影響を及ぼすような病には効くのか、何年も続く症状を治癒できるのか、必要とする秘薬は貴重なものなのか、と。
寡黙な少女の見せた思わぬ反応にいくらか面喰らった君は、実際にやってみなければなんとも言えぬと答えるばかりだ。
家族のなかに病に臥せっている者でも居るのかという君の問いに、タバサはそうだと答える。
都合がよければ次の≪虚無の曜日≫(四日後だ)にでも術を試してみるので、シルフィードに乗せて患者のところまで連れて行ってもらえるだろうか、
という君の提案はタバサに受け入れられたらしく、彼女は黙って頭を下げる。
君の術が実際にその患者に通じるかどうかは、いくぶん心許ないが、やってみるだけの価値はあるだろう。
タバサのかたくなな態度が少しはやわらいだと考えた君は、あらためてどこへ行っていたのかと彼女に尋ねるが、しばらくの沈黙ののち返ってきたのは
「あなたには関係ない」という一言だけだ。
君は自らの考えの甘さを痛感する――この少女は、そうやすやすと打ち解けてくれるような相手ではない!
「もうひとつだけ、訊きたいことがある」
タバサは言う。
「あなたの国にも、吸血鬼はいる? いるなら、特徴を教えてほしい」と。
妙な質問だ。
歳若き少女がなぜ、おぞましい不死の怪物ことなど知りたがるのだろう?
あのような邪悪きわまりない存在について語るのは、いまだ日の光の射す刻限とはいえ、あまり気の進まぬことだ。
君は彼女の質問に答えて、吸血鬼について知っていることを教えてもよいし(三二六へ)、なにも知らぬと言って席を立ってもよい(七二へ)。
三二六
君は咳払いをすると、吸血鬼――『闇の貴族』とも呼ばれる、不死のなかでももっとも強大な恐怖の存在――について語りだす。
幸いにして、君自身は吸血鬼と出くわしたことはないのだが、邪悪な魔力と永遠に近い生命の持ち主であることは、
幾多の伝説や文献によって広く知れわたっているのだ。
伝説が真実ならば、彼らは魔法使いの神秘の業をもってしても、打ち勝つのはきわめて困難な相手だ。
吸血鬼は人間の暖かい血を常食とし、長く伸びた牙で獲物の首筋に咬みつくのだが、これを容易にするために強力な催眠効果のある視線を用いる。
赤く輝く眼にとらえられた者は虜とされて自分の意思というものを失い、呆然と立ちつくして血を吸われるがままになるのだ。
大半の犠牲者はそのまま血を吸い尽くされて殺されてしまうのだが、吸血鬼は稀に、気に入った人間を自らの同族へと変えてしまうことがある。
その場合は三晩続けて目当ての相手のもとを訪れ、少しずつ血を吸い、同時に人間を吸血鬼へと変貌させてしまう毒のようなものを注ぎ込んでいく。
三晩めに犠牲者は死にいたるのだが、すぐに吸血鬼としてよみがえり、もとの自分と同じような人間を探し求めて夜な夜な徘徊することになる。
君がそこまで語ると、タバサが質問をさしはさんでくる。
「咬まれたのが二晩だけなら助かる?」と。
君はうなずき、三晩めに血を吸われて死ななければ吸血鬼になることはない、咬まれた者もいずれ健康な体に戻る、と答える。
それを聞いたタバサはしばらくなにごとかを考えていたようだが、やがて
「どうやったら死ぬ?」と新たな質問をしてくるので、
君はいくつかの方法を教えることにする。
吸血鬼はなぜか大蒜(にんにく)を毒のごとく忌み嫌うが、これを突きつけてみたところでほんの数分の時間稼ぎにしかならない。
直射日光にさらされれば一瞬にして塵と化し崩れ去るが、曙光の兆しが見えるや安全な場所――たいていは古い納骨堂の棺桶の中――に逃げ帰るため、
この手段で仕留めるのは難しい。
武器や火による攻撃はほとんど通用しない。
命中すれば傷を負わせたかのように見えるのだが、実際はなんの効果もあげておらず、傷はすぐにふさがってしまう。
銀でできた武器なら吸血鬼を傷つけ、殺すことができるのだが、その場合は崩れる体から吸血鬼の霊魂である一匹のコウモリが出現し、
どこへともなく飛び去ることとなる。
コウモリは二、三日もすればふたたび本来の姿を取り戻ししまうのだ。
吸血鬼の息の根を絶つ最良の方法は、心臓に杭や槍を突き刺すことだ。
昼間、棺桶の中で眠っているところを狙うのが確実だが、夜に行うのも不可能ではない――催眠の視線と、人間離れした怪力に対抗できるならばの話だが。
心臓を貫かれると怪物は苦悶のうちに死んでいくが、努力を無駄にせぬためにはそのまま炎で焼きつくして灰にするか、
日光の当たる場所に引きずり出す必要がある。
杭が引き抜かれると、ふたたびよみがえってしまうからだ。一四三へ。
一四三
君の話に熱心に聞き入っていたタバサだが、最後のくだりを聞くと唐突に寝台から立ち上がり、
「……終わってない」と小さくつぶやく。
その顔はあいかわらず無表情をたもっているが、心なしか青ざめているようにも見える。
突然の動きに驚き、どうしたのだと問う君を無視して、タバサは床に放り出していた鞄を拾い上げて袈裟懸けにし、身の丈よりも長い杖を手にすると、
窓を大きく開け放つ。
呼びかける君のほうを向いて一言
「出かける」と言い、
高く響き渡る口笛を吹き鳴らすと、すぐに窓の外で突風が巻き起こる。
彼女の≪使い魔≫である青い竜、シルフィードが窓のすぐそばではばたき、空中にとどまっているのだ。
どこへ行くのだという君の問いに答えようとせぬタバサは、外へ出ようとと窓枠に片脚をかけるが、思い直したように君のほうを振り返る。
「≪虚無の曜日≫までに戻る。薬を」と言うと、窓の外に飛び出し、そのままシルフィードの背中へと降り立つ。
矢のような勢いで飛び去る竜の後ろ姿を見送った君は、溜息をつくと窓を閉め、鍵を掛ける。
結局、彼女について新たに解ったことといえば、家族に重い病の者が居ること、吸血鬼に並ならぬ興味を持っているということだけだ!
話の進まぬ少女を相手にして妙に気疲れした君は、タバサの部屋を出ると扉を閉め、とぼとぼと廊下を歩むが、別の扉の陰から、
一対の青い瞳がその様子を覗いていることには気づかない。
夕食まではもう少し時間がある。
君は続いてシエスタに会いに行くか(四五へ)、それともコルベールのもとへ向かうか(九六へ)?
どちらも気がすすまぬのなら、ルイズの部屋に戻ってもよい(一五五へ)。
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一八五
タバサと会って話をしようと心に決めるが、困惑したことに、君は彼女の部屋がこの寄宿舎のどこにあるのかを知らない。
椅子に腰掛けて≪始祖の祈祷書≫を開き、なにか文字は現れぬかと白紙の頁をじっとにらんでいるルイズか、隣室に戻っているはずの
キュルケに訊いてみようかとも考えるが、そうした場合、彼女たちは君の行動にいらぬ興味を持つかもしれない。
君は、タバサの部屋の位置をルイズに尋ねてみるか(八四へ)、キュルケに訊くことにするか(三二へ)、それともまだ部屋に戻っていないことを願って
寄宿舎の外を探してみるか(三一〇へ)?
三一〇
寄宿舎の玄関を通り抜けて外に出た君は、思いがけずも目当ての人物を見つけることになる。
眼の前にぼうっと立って無言で君を見つめるタバサは、ちょうど寄宿舎に戻ろうとしていたところのようだ。
小柄な魔法使いの少女は、白いシャツの上から黒いマントを羽織ったいつもどおりの学院の制服姿をしているが、眼を凝らすとその服には汚れが目立ち、
何箇所かにはほつれや鉤裂きさえ見受けられる。
肩から大きな鞄を袈裟懸けにしているのもいつもと異なった点だが、六日間の外出から帰ってきたところなのだから、これはとくに驚くには値せぬことだろう。
君はタバサに挨拶し、戻ってきたばかりのところを悪いが、少し話がしたいと言う。
彼女はしばらく黙って君の眼を見ていたが、やがて小さくこくりとうなずき、
「わかった。部屋へ」と言うと君の脇を通り抜け、
寄宿舎の廊下を大股に進んでいく。
後に続きながら、君は考える――眼鏡越しに彼女の青い瞳が爛と輝いたように見えたのは、気のせいだろうか?
タバサの部屋は、間取りや家具の数はルイズのものとほぼ同じなのだが、あちらこちらに本が積み上げられ、いささか汚く見える。
隅には乱れたままの寝台があり、彼女がこの部屋を大急ぎで飛び出したことがうかがえる。
室内には本以外の私物や装飾品がほとんど見られず、年頃の少女の部屋としては殺風景といってもよいものだ。
タバサは君に椅子を勧めると、自身は寝台に腰掛ける。
茶の一杯も出ないところからして、あまり歓迎されてはいないようだと考えた君は、単刀直入に質問をぶつけてみることにする。
開口一番に、この六日間どこへ行っていたのだと尋ねるが、タバサはなんの答えも返してはこない。
質問を変え、≪使い魔≫のシルフィードは元気だったか、アルビオンに行ったことはあるか、アルビオンを解放する戦争が始まるという噂だがどう思う、
などと次々に問いかけて話の糸口をつかもうと奮闘するが、彼女はいくつかの質問に対してうなずくかかぶりを振るかするだけで、まったく口を開こうとはしない。
彼女に較べれば、カレーの街のクアガ神像のほうがよほど饒舌だ!
いっそのこと、読心や魅了の術でも使ってやろうかと考える君だが、タバサはいかなる感情も示さぬ瞳でじっと君を見つめているため、
彼女に気づかれずに術を使うことは不可能だろう。
なにかを聞き出すことをあきらめ、いいかげんに席を立とうかと考えた矢先、タバサがこの部屋に入って初めて口を開く。
「あなた……癒しの魔法は使える?」と。
どう答える?
癒しの術が使えると思うなら、次のなかから選べ。
使える術はないかと思い出そうとするだけなので、どの術を選んでも体力点や持ち物を失うことはない。
PEP・四七〇へ
MAG・四五二へ
YAG・四三三へ
RES・四八七へ
DOC・四二四へ
どの術も選べぬ、または自分は癒しの術は使えぬということにしたければ、二〇五へ。
四二四
君が選んだのは、まさしく治癒の術だ。
この術には水薬かブリム苺の汁が必要であり、それらを服んだ者が負った傷を瞬時に完治させる効果がある。
また、毒や疫病にもある程度の効果を示すが、けっして万能ではない。
君が術の説明をすると、タバサは瞳を輝かせる――今度は見間違いではない!
あくまで淡々とした口調のままではあるが、先ほどまでの無関心ぶりが嘘のような勢いで、彼女は次々と質問を浴びせてくる。
その術は心に影響を及ぼすような病には効くのか、何年も続く症状を治癒できるのか、必要とする秘薬は貴重なものなのか、と。
寡黙な少女の見せた思わぬ反応にいくらか面喰らった君は、実際にやってみなければなんとも言えぬと答えるばかりだ。
家族のなかに病に臥せっている者でも居るのかという君の問いに、タバサはそうだと答える。
都合がよければ次の≪虚無の曜日≫(四日後だ)にでも術を試してみるので、シルフィードに乗せて患者のところまで連れて行ってもらえるだろうか、
という君の提案はタバサに受け入れられたらしく、彼女は黙って頭を下げる。
君の術が実際にその患者に通じるかどうかは、いくぶん心許ないが、やってみるだけの価値はあるだろう。
タバサのかたくなな態度が少しはやわらいだと考えた君は、あらためてどこへ行っていたのかと彼女に尋ねるが、しばらくの沈黙ののち返ってきたのは
「あなたには関係ない」という一言だけだ。
君は自らの考えの甘さを痛感する――この少女は、そうやすやすと打ち解けてくれるような相手ではない!
「もうひとつだけ、訊きたいことがある」
タバサは言う。
「あなたの国にも、吸血鬼はいる? いるなら、特徴を教えてほしい」と。
妙な質問だ。
歳若き少女がなぜ、おぞましい不死の怪物ことなど知りたがるのだろう?
あのような邪悪きわまりない存在について語るのは、いまだ日の光の射す刻限とはいえ、あまり気の進まぬことだ。
君は彼女の質問に答えて、吸血鬼について知っていることを教えてもよいし(三二六へ)、なにも知らぬと言って席を立ってもよい(七二へ)。
三二六
君は咳払いをすると、吸血鬼――『闇の貴族』とも呼ばれる、不死のなかでももっとも強大な恐怖の存在――について語りだす。
幸いにして、君自身は吸血鬼と出くわしたことはないのだが、邪悪な魔力と永遠に近い生命の持ち主であることは、
幾多の伝説や文献によって広く知れわたっているのだ。
伝説が真実ならば、彼らは魔法使いの神秘の業をもってしても、打ち勝つのはきわめて困難な相手だ。
吸血鬼は人間の暖かい血を常食とし、長く伸びた牙で獲物の首筋に咬みつくのだが、これを容易にするために強力な催眠効果のある視線を用いる。
赤く輝く眼にとらえられた者は虜とされて自分の意思というものを失い、呆然と立ちつくして血を吸われるがままになるのだ。
大半の犠牲者はそのまま血を吸い尽くされて殺されてしまうのだが、吸血鬼は稀に、気に入った人間を自らの同族へと変えてしまうことがある。
その場合は三晩続けて目当ての相手のもとを訪れ、少しずつ血を吸い、同時に人間を吸血鬼へと変貌させてしまう毒のようなものを注ぎ込んでいく。
三晩めに犠牲者は死にいたるのだが、すぐに吸血鬼としてよみがえり、もとの自分と同じような人間を探し求めて夜な夜な徘徊することになる。
君がそこまで語ると、タバサが質問をさしはさんでくる。
「咬まれたのが二晩だけなら助かる?」と。
君はうなずき、三晩めに血を吸われて死ななければ吸血鬼になることはない、咬まれた者もいずれ健康な体に戻る、と答える。
それを聞いたタバサはしばらくなにごとかを考えていたようだが、やがて
「どうやったら死ぬ?」と新たな質問をしてくるので、
君はいくつかの方法を教えることにする。
吸血鬼はなぜか大蒜(にんにく)を毒のごとく忌み嫌うが、これを突きつけてみたところでほんの数分の時間稼ぎにしかならない。
直射日光にさらされれば一瞬にして塵と化し崩れ去るが、曙光の兆しが見えるや安全な場所――たいていは古い納骨堂の棺桶の中――に逃げ帰るため、
この手段で仕留めるのは難しい。
武器や火による攻撃はほとんど通用しない。
命中すれば傷を負わせたかのように見えるのだが、実際はなんの効果もあげておらず、傷はすぐにふさがってしまう。
銀でできた武器なら吸血鬼を傷つけ、殺すことができるのだが、その場合は崩れる体から吸血鬼の霊魂である一匹のコウモリが出現し、
どこへともなく飛び去ることとなる。
コウモリは二、三日もすればふたたび本来の姿を取り戻ししまうのだ。
吸血鬼の息の根を絶つ最良の方法は、心臓に杭や槍を突き刺すことだ。
昼間、棺桶の中で眠っているところを狙うのが確実だが、夜に行うのも不可能ではない――催眠の視線と、人間離れした怪力に対抗できるならばの話だが。
心臓を貫かれると怪物は苦悶のうちに死んでいくが、努力を無駄にせぬためにはそのまま炎で焼きつくして灰にするか、
日光の当たる場所に引きずり出す必要がある。
杭が引き抜かれると、ふたたびよみがえってしまうからだ。一四三へ。
一四三
君の話に熱心に聞き入っていたタバサだが、最後のくだりを聞くと唐突に寝台から立ち上がり、
「……終わってない」と小さくつぶやく。
その顔はあいかわらず無表情をたもっているが、心なしか青ざめているようにも見える。
突然の動きに驚き、どうしたのだと問う君を無視して、タバサは床に放り出していた鞄を拾い上げて袈裟懸けにし、身の丈よりも長い杖を手にすると、
窓を大きく開け放つ。
呼びかける君のほうを向いて一言
「出かける」と言い、
高く響き渡る口笛を吹き鳴らすと、すぐに窓の外で突風が巻き起こる。
彼女の≪使い魔≫である青い竜、シルフィードが窓のすぐそばではばたき、空中にとどまっているのだ。
どこへ行くのだという君の問いに答えようとせぬタバサは、外へ出ようと窓枠に片脚をかけるが、思い直したように君のほうを振り返る。
「≪虚無の曜日≫までに戻る。薬を」と言うと、窓の外に飛び出し、そのままシルフィードの背中へと降り立つ。
矢のような勢いで飛び去る竜の後ろ姿を見送った君は、溜息をつくと窓を閉め、鍵を掛ける。
結局、彼女について新たに解ったことといえば、家族に重い病の者が居ること、吸血鬼に並ならぬ興味を持っているということだけだ!
話の進まぬ少女を相手にして妙に気疲れした君は、タバサの部屋を出ると扉を閉め、とぼとぼと廊下を歩むが、別の扉の陰から、
一対の青い瞳がその様子を覗いていることには気づかない。
夕食まではもう少し時間がある。
君は続いてシエスタに会いに行くか(四五へ)、それともコルベールのもとへ向かうか(九六へ)?
どちらも気がすすまぬのなら、ルイズの部屋に戻ってもよい(一五五へ)。
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