「風林火山-05」(2008/02/27 (水) 19:28:10) の最新版変更点
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―――――決闘からしばらくしたある日の廊下、腹這いに寝そべっているサラマンダーの姿があった。
勘助の姿を見つけると、ジッと見つめ、やがて立ち上がった。
ついてこい、とでもいうように、勘助を見ながら、ゆっくりと歩いている。
(この使い魔の主人は、キュルケだったはずだが・・・使い魔を通して呼んでいるのか?)
不思議に思いながらも、しかし、無視することはできない。
仕方なしについて行くと、サラマンダーは、キュルケの部屋の前で止まった。
「ここに、入れというのか」
コクリ、と頷くとサラマンダーはそのままどこかへ行ってしまった。
少しためらいながらも、ガチャリ、とドアを開けて入った。
入ると、部屋は真っ暗だった。
窓から入る月光だけが、唯一の光であった。
「扉を閉めて?」
奥から、キュルケのと思われる声が聞こえた。
何のことかわからず、しかし危険はないだろうと、とりあえず扉を閉める。
パチン、と指が鳴る音がして、部屋の中に建てられた蝋燭が、一つずつ灯されて行く。
ぼんやりと、淡い幻想的な雰囲気な光の中に、半裸のキュルケの姿があった。
「あなたは、あたしをはしたない女と思うでしょうね。いえ、思われても仕方ないの。私の二つ名は『微熱』。松明みたいに燃え上がりやすいの」
その格好と相まって、何となく、キュルケの魂胆が読めてきた。
大方、自分に惚れたのなんだのと、色仕掛けでもするつもりなのだろう。
伊達に70近く生きてはいない。
そこいらの娘など、大した問題では無い程度には、勘助はその道に通じていた。
いくら姿が二十歳前後だと言っても、性欲なんぞ操るすべは心得ている。
そもそも、齢70の老人に色仕掛けなぞ、通じるはずもない。
「だから、いきなりこんな風に及び立てしてしまうの。わかってる。いけないことよ。でも、貴方はあたしを許してくれると思うの。あたし、恋しているのよ、貴方に。まったく、恋は突然ね」
とうに、キュルケに興味は失せていた。
何も言わずに、ドアノブに手をかける。
「ま、待って!」
焦ったような声が聞こえた。
「あなたを愛しているのよ、あたし!」
いうと、勘助の手をひっぱり、ベッドの上へと押し倒そうとする。
「迷惑!」
勘助が言い、それから逃れようとする。
だが、キュルケはグイッと引っ張り、中々離れない。
「迷惑!」
再び一喝し、強引に手を離した。
あかないドアを蹴破り、勘助は強引に外へと出て行った。
「あ!勘助!あんたなんでキュルケの部屋から出てきたのよ!」
(なんとも面倒臭い・・・)
思いながら、くどくどと説教をしようとするルイズを適当にあしらった。
―――――虚無の曜日
「街へ買い物にいくわよ」
唐突に、ルイズが勘助に言った。
突然なにを、と思ったが、自分にそれを拒否する理由もない。
特に何を言うでもなく、それに従った。
が、突然何しに行くのかは興味がある。
「何故、街へ?」
その言葉に、そっぽを向きながら、ルイズが答える。
「こ、この前、確かにあんたは、貴族の腕を切っちゃったけど・・・でも、その、ご、ご主人様のためを思ってやったことなんだし、それに対して、何もご褒美を出さない私じゃ無いわよ」
全く要領を得ない答えだったが、それに聞き返す暇もなく、そのままどんどんと歩いて行ってしまった。
仕方なしに、ルイズの後に勘助はついて行く。
と、ルイズの前方にそこそこの大きさの小屋が見えた。
「あそこで馬を借りて、町まで行くの。あんた、軍師してたんでしょ?馬ぐらい乗れるわよね?」
「ああ」
「そう。じゃ、自分が乗りたい馬選んでいいわよ。話は通してあるから」
その言葉に、適当に頷く勘助。
しかし、いざ馬を見ると、勘助の顔は驚愕に染まった。
「なんと・・・これが馬と!」
その驚きを見て、逆にルイズが驚いた。
「え!?あんた本当は馬見たことないの?・・・本当に軍師なの?」
「い、いや・・・しかし、これほど荒々しく、巨大な・・・」
ルイズは、ふん、と胸を張り言った。
「確かに、中々の馬ね。でも、私の家にはこんなのよりももっと凄い馬がいっぱいいるわ」
「これほどの馬が、ほかにいくらでもいるとは・・・いや、しかし、まるで・・・そう、竜のようだ!」
馬は長く乗り、一頭金3つ4つどころか、10や20もする馬も目にしてきた。
いや、だからこそ、この馬達をみて驚きが止まらない。
これほどの馬、どれだけの金を積めば手に入れられるというのか。
信玄が竜と形容した馬など、この馬を見ればヤモリに等しい。
この馬たちは、ただの見かけだけでは無いとすぐわかる、力強さを持っている。
「竜?ドラゴンはこんな形してないわよ?タバサのシルフィードがそうね」
何言っているのかわからない、というようにルイズが言う。
「っていうか、ただの馬にこれだけ驚くなんて・・・本当に馬に乗れるの?」
珍しく、勘助があたふたとしている。
その姿に、ルイズは口を緩ませながら話している。
「さ、もういいでしょ?時間もあまりないんだし、さっさといくわよ」
―――――キュルケは、いつもより遅く目を覚ました。
目を開けてまず浮かんだのは、いかにして勘助を落とすかということであった。
(ふふ・・・私の魅力に屈しなかったダーリン・・・初めてだわ!でも、私の魅力に必ず気付かせてあげる!)
何度目になるか分からない程同じ事を考えていた。
すでに、胸の中には燃えたぎる炎が、さながら蛇のように這いまわっていた。
(今日は虚無の曜日・・・時間はたっぷりとあるわ)
まず、桶に入れた水で顔を洗い、簡単な身支度を済ませる。
そして、空気を入れ替えようと窓を開けた。
さわやかな風が、スウ、と入ってくる。
思わず目を細め、外を眺めると、2頭の馬が学院から出て行くのが目に入った。
(こんな朝早くから御苦労なことね)
と、2頭のうちの1頭にいる者の姿に、なんとなく勘助の姿が重なる。
見れば、もう1頭の馬に乗っている者の髪は、桃色がかった色をしていた。
「まさか・・・ダーリンとルイズが馬に乗ってどこかへ行くなんて・・・」
先を越されてしまう!
まさか、勘助はロリコンだったのだろうか。
だから、自分の姿を見て何も感じなかったのでは・・・
(い、いえ!そんなはずはないわ!)
自分の頭をよぎった妄想を切り捨て、二人が向かった場所を確認する。
「あの方角は・・・街ね!」
確認した瞬間、キュルケはある場所へと向かった。
―――――ルイズは、勘助をひきつれて街へと向かっていた。
いや、見れば勘助がルイズをつれて、という表現の方があっているかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、勘助!使い魔が、ご主人様、疲れさせて、どうするのよ!」
(っていうか、なんであんな乗り方であんなに早いのよ・・・)
勘助は、体を馬の首に抱きつけるような、作法も何もないような乗り方で走っていた。
にもかかわらず、ルイズは勘助について行くのがやっとだった。
魔法もろくに使えず、人に誇れるような能力もあまり持っていない。
でも、乗馬はルイズの数少ない特技の一つなのだ。
なのに―――
(本当なら、ヒーヒーいう勘助を叱咤しながら行く予定だったのに・・・うぅ・・・)
心の中で涙を流しながら、やっとのことで速度を緩めた勘助に追いついた。
「ようやく、追いついたわ・・・」
息を整えつつ、勘助に言う。
「あんた、まともな馬の乗り方しないくせに、何でそんなに早いのよ」
その質問に、こちらを見ようともしないで、しかし笑うように勘助が答えた。
「確かに、向こうにいた頃も、そのような事を言われたな。だが、これがこの勘助に、一番あっているのだ。作法など、しらん」
そういうと、また速度を上げ始めた。
「ちょ、ちょっと待ってってば!」
必死に追いかけているうちに、いつの間にか街へと到着した。
(予定してた時間より1時間近く早いじゃない・・・無駄に疲れたわ・・・)
「して、ルイズ。何の用があって街へと来たのだ?」
すました顔で、勘助が問うてくる。
いや、実際に今までの事は何でもなかったのだろう。
―――こっちが必死だったというのに。
(いっそのこと、何もしないで帰っちゃおうかしら)
なんて思いが頭を廻ったが、せっかく来たんだし、まぁ、名誉の為にがんばったんだし、このくらいでお預けには・・・
歩きながら、ご主人様からの贈り物を貰って喜ぶ勘助の姿が思い浮かんだ。
「・・・どうした、ルイズ」
怪訝な顔をして勘助がこちらに問いかけてきた。
「へ?え、いや、なんでもひゃいわよ」
(か、顔に出てたのかしら)
何とか取り繕い、顔を引き締め、毅然として歩く。
となりでは、勘助がほお、おぉ、と一々街の様子を見て驚いていた。
それを見て、また顔が弛みだす。
「こら、勘助!よそ見しないでちゃんとご主人様についてきなさい!」
むぅ、と勘助がうなった。
「ルイズ、どこへ向かっているのか、それくらいは教えても差支えないだろう」
その言葉に、内心ウキウキしながら、しかしそれを隠しながら言った。
「それはついてからのお楽しみよ。ほら、ここを入っていけばすぐ、ね」
その先に、古びた看板の武器屋があった。
―――――素晴らしい、と思った。
甲斐や駿河の市場も、確かに賑わっている。
だが、それは座に支配され、いくつかの大きな店が支配するものでしか無く、いわばどれも、閉塞的なのだ。
これほど活気にあふれ、どの店も多種多様な商品を扱っている。
甲斐や駿河においては、全く考えられなかった。
「こら!勘助!よそ見しないでちゃんとご主人様についてきなさい!」
突然、ルイズから声が放たれた。
知らず知らずのうちに、大分離れていたようだ。
(だが、これほどの街・・・聞きはしていたが、この目に見ては、やはり驚かずにはいられん)
驚くと言えば、今のルイズはどこかおかしな感じがする。
これから行く場所と、何か関係があるのだろうか。
「ルイズ、どこへ向かっているのか、それくらいは教えても差支えないだろう」
「それはついてからのお楽しみよ。ほら、ここを入っていけばすぐ、ね」
いえば、妙に浮ついた答えが返ってきた。
(要領を得ない話ばかりする・・・)
後ろに続いて歩いて行くと、小汚く狭い小道に入った。
やがて、剣を模した看板をつけた、そこそこ大きい、武器屋と思われる店を見つけた。
「いらっしゃ・・・旦那、貴族の旦那、うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことは何一つございやせん」
「客よ」
ルイズが短く言うと、店主は驚いたように目を剥いた。
ルイズが短く、店主に要求を伝えると、奥へと引っ込んでいった。
「むぅ・・・ルイズ、武器を買いに来たのか?」
「そうよ。あんた、そんなほそっちい、レイピアみたいな物しか持ってないでしょ?」
細いのは切ることに特化したからであって、殺傷力は西洋の大型の剣よりも勝るとも劣らないのだが、せっかくの好意を無碍にする勘助では無い。
やがて、店主が剣を抱えて戻ってきた。
「貴族様、貴族様。これが、店一番の業物でさぁ。といっても、これほどの剣、よほどの大男でなきゃ、腰から下げるのは無理でございやす。お連れ様には、背中から背負うなきゃ、いかんですな」
どれ、と勘助も近づいて剣を見る。
剣は、見るも美しく、大きな剣だった。
(これが、一番の業物だと?なるほど、魔法が掛かっているのならば見た目は関係ないのやもしれん。)
装飾品のような印象を受けたが、魔法が掛かっているとなれば、勘助にはてんで分からない。
だが、これほどの大きさの剣、持ち歩くには不便すぎるし、戦に出ても使いようがない。
護身用にしては、目立ちすぎる。
使おうと思えば、片手で扱えるくらいのものでなければ、いざという時に扱うことができないのだ。
しかし、ルイズは気に入った様子で、値段を聞いていた。
だが、魔法がかかっているといわれ、見せ一番の業物である。
到底、買うことのできるものでは無かった。
「ルイズ。なにも無理して剣など買う必要はないだろう。そもそも、戦で剣を扱うこと自体が稀なのだ」
軽くルイズを慰める。
と、どこからともなく声がした。
「そいつの言う通りだぜ嬢ちゃん!そんなデカブツのナマクラ、そこの武人には似合わねえよ!
「やい、デル公!お客様に失礼いうんじゃねぇ!」
「お客様!?そんな、まともに剣の価値も分からねぇような娘っ子がかぁ!」
そのやり取りにルイズが当惑する。
インテリジェンスソードというらしい、デルフリンガーという銘の剣は、突然やり取りを中断し、勘助に向かって言った。
「おでれーた!おめぇ、『使い手』か」
「『使い手』だと?」
「自分のことも知らねぇのか。まあいい、おめェさん!俺を買ってくれ!」
「・・・勘助、『使い手』ってなに?」
ルイズが、困惑した様子で勘助に問いかける。
「知らん。だが、面白い。ルイズ、こいつを買えないか?」
勘助は、ルイズに頼む。
実際、剣など脇差の一本か二本あれば構わないのだ。
それなら、何もあんなものでは無く、これの様に面白い剣でも構わない。
それに、この剣は錆びついており、店主も疎んでいるようだった。
おそらく、ずいぶんと安い値で買えるだろう。
しばらく、怪訝な顔をして、本当にこれでいいのか、もっと他の物がいいのではないか、と尋ねてきたルイズだったが、やがて
「おいくら?」
と尋ねる。
案の定、新金貨100枚という、ぎりぎり買える範囲で値が付けられた。
「どうしても煩いと思ったら、鞘に納めれば静かになりまさぁ」
勘助は頷き、デルフリンガーを受け取った。
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#navi(風林火山)
―――――決闘からしばらくしたある日の廊下、腹這いに寝そべっているサラマンダーの姿があった。
勘助の姿を見つけると、ジッと見つめ、やがて立ち上がった。
ついてこい、とでもいうように、勘助を見ながら、ゆっくりと歩いている。
(この使い魔の主人は、キュルケだったはずだが・・・使い魔を通して呼んでいるのか?)
不思議に思いながらも、しかし、無視することはできない。
仕方なしについて行くと、サラマンダーは、キュルケの部屋の前で止まった。
「ここに、入れというのか」
コクリ、と頷くとサラマンダーはそのままどこかへ行ってしまった。
少しためらいながらも、ガチャリ、とドアを開けて入った。
入ると、部屋は真っ暗だった。
窓から入る月光だけが、唯一の光であった。
「扉を閉めて?」
奥から、キュルケのと思われる声が聞こえた。
何のことかわからず、しかし危険はないだろうと、とりあえず扉を閉める。
パチン、と指が鳴る音がして、部屋の中に建てられた蝋燭が、一つずつ灯されて行く。
ぼんやりと、淡い幻想的な雰囲気な光の中に、半裸のキュルケの姿があった。
「あなたは、あたしをはしたない女と思うでしょうね。いえ、思われても仕方ないの。私の二つ名は『微熱』。松明みたいに燃え上がりやすいの」
その格好と相まって、何となく、キュルケの魂胆が読めてきた。
大方、自分に惚れたのなんだのと、色仕掛けでもするつもりなのだろう。
伊達に70近く生きてはいない。
そこいらの娘など、大した問題では無い程度には、勘助はその道に通じていた。
いくら姿が二十歳前後だと言っても、性欲なんぞ操るすべは心得ている。
そもそも、齢70の老人に色仕掛けなぞ、通じるはずもない。
「だから、いきなりこんな風に及び立てしてしまうの。わかってる。いけないことよ。でも、貴方はあたしを許してくれると思うの。あたし、恋しているのよ、貴方に。まったく、恋は突然ね」
とうに、キュルケに興味は失せていた。
何も言わずに、ドアノブに手をかける。
「ま、待って!」
焦ったような声が聞こえた。
「あなたを愛しているのよ、あたし!」
いうと、勘助の手をひっぱり、ベッドの上へと押し倒そうとする。
「迷惑!」
勘助が言い、それから逃れようとする。
だが、キュルケはグイッと引っ張り、中々離れない。
「迷惑!」
再び一喝し、強引に手を離した。
あかないドアを蹴破り、勘助は強引に外へと出て行った。
「あ!勘助!あんたなんでキュルケの部屋から出てきたのよ!」
(なんとも面倒臭い・・・)
思いながら、くどくどと説教をしようとするルイズを適当にあしらった。
―――――虚無の曜日
「街へ買い物にいくわよ」
唐突に、ルイズが勘助に言った。
突然なにを、と思ったが、自分にそれを拒否する理由もない。
特に何を言うでもなく、それに従った。
が、突然何しに行くのかは興味がある。
「何故、街へ?」
その言葉に、そっぽを向きながら、ルイズが答える。
「こ、この前、確かにあんたは、貴族の腕を切っちゃったけど・・・でも、その、ご、ご主人様のためを思ってやったことなんだし、それに対して、何もご褒美を出さない私じゃ無いわよ」
全く要領を得ない答えだったが、それに聞き返す暇もなく、そのままどんどんと歩いて行ってしまった。
仕方なしに、ルイズの後に勘助はついて行く。
と、ルイズの前方にそこそこの大きさの小屋が見えた。
「あそこで馬を借りて、町まで行くの。あんた、軍師してたんでしょ?馬ぐらい乗れるわよね?」
「ああ」
「そう。じゃ、自分が乗りたい馬選んでいいわよ。話は通してあるから」
その言葉に、適当に頷く勘助。
しかし、いざ馬を見ると、勘助の顔は驚愕に染まった。
「なんと・・・これが馬と!」
その驚きを見て、逆にルイズが驚いた。
「え!?あんた本当は馬見たことないの?・・・本当に軍師なの?」
「い、いや・・・しかし、これほど荒々しく、巨大な・・・」
ルイズは、ふん、と胸を張り言った。
「確かに、中々の馬ね。でも、私の家にはこんなのよりももっと凄い馬がいっぱいいるわ」
「これほどの馬が、ほかにいくらでもいるとは・・・いや、しかし、まるで・・・そう、竜のようだ!」
馬は長く乗り、一頭金3つ4つどころか、10や20もする馬も目にしてきた。
いや、だからこそ、この馬達をみて驚きが止まらない。
これほどの馬、どれだけの金を積めば手に入れられるというのか。
信玄が竜と形容した馬など、この馬を見ればヤモリに等しい。
この馬たちは、ただの見かけだけでは無いとすぐわかる、力強さを持っている。
「竜?ドラゴンはこんな形してないわよ?タバサのシルフィードがそうね」
何言っているのかわからない、というようにルイズが言う。
「っていうか、ただの馬にこれだけ驚くなんて・・・本当に馬に乗れるの?」
珍しく、勘助があたふたとしている。
その姿に、ルイズは口を緩ませながら話している。
「さ、もういいでしょ?時間もあまりないんだし、さっさといくわよ」
―――――キュルケは、いつもより遅く目を覚ました。
目を開けてまず浮かんだのは、いかにして勘助を落とすかということであった。
(ふふ・・・私の魅力に屈しなかったダーリン・・・初めてだわ!でも、私の魅力に必ず気付かせてあげる!)
何度目になるか分からない程同じ事を考えていた。
すでに、胸の中には燃えたぎる炎が、さながら蛇のように這いまわっていた。
(今日は虚無の曜日・・・時間はたっぷりとあるわ)
まず、桶に入れた水で顔を洗い、簡単な身支度を済ませる。
そして、空気を入れ替えようと窓を開けた。
さわやかな風が、スウ、と入ってくる。
思わず目を細め、外を眺めると、2頭の馬が学院から出て行くのが目に入った。
(こんな朝早くから御苦労なことね)
と、2頭のうちの1頭にいる者の姿に、なんとなく勘助の姿が重なる。
見れば、もう1頭の馬に乗っている者の髪は、桃色がかった色をしていた。
「まさか・・・ダーリンとルイズが馬に乗ってどこかへ行くなんて・・・」
先を越されてしまう!
まさか、勘助はロリコンだったのだろうか。
だから、自分の姿を見て何も感じなかったのでは・・・
(い、いえ!そんなはずはないわ!)
自分の頭をよぎった妄想を切り捨て、二人が向かった場所を確認する。
「あの方角は・・・街ね!」
確認した瞬間、キュルケはある場所へと向かった。
―――――ルイズは、勘助をひきつれて街へと向かっていた。
いや、見れば勘助がルイズをつれて、という表現の方があっているかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、勘助!使い魔が、ご主人様、疲れさせて、どうするのよ!」
(っていうか、なんであんな乗り方であんなに早いのよ・・・)
勘助は、体を馬の首に抱きつけるような、作法も何もないような乗り方で走っていた。
にもかかわらず、ルイズは勘助について行くのがやっとだった。
魔法もろくに使えず、人に誇れるような能力もあまり持っていない。
でも、乗馬はルイズの数少ない特技の一つなのだ。
なのに―――
(本当なら、ヒーヒーいう勘助を叱咤しながら行く予定だったのに・・・うぅ・・・)
心の中で涙を流しながら、やっとのことで速度を緩めた勘助に追いついた。
「ようやく、追いついたわ・・・」
息を整えつつ、勘助に言う。
「あんた、まともな馬の乗り方しないくせに、何でそんなに早いのよ」
その質問に、こちらを見ようともしないで、しかし笑うように勘助が答えた。
「確かに、向こうにいた頃も、そのような事を言われたな。だが、これがこの勘助に、一番あっているのだ。作法など、しらん」
そういうと、また速度を上げ始めた。
「ちょ、ちょっと待ってってば!」
必死に追いかけているうちに、いつの間にか街へと到着した。
(予定してた時間より1時間近く早いじゃない・・・無駄に疲れたわ・・・)
「して、ルイズ。何の用があって街へと来たのだ?」
すました顔で、勘助が問うてくる。
いや、実際に今までの事は何でもなかったのだろう。
―――こっちが必死だったというのに。
(いっそのこと、何もしないで帰っちゃおうかしら)
なんて思いが頭を廻ったが、せっかく来たんだし、まぁ、名誉の為にがんばったんだし、このくらいでお預けには・・・
歩きながら、ご主人様からの贈り物を貰って喜ぶ勘助の姿が思い浮かんだ。
「・・・どうした、ルイズ」
怪訝な顔をして勘助がこちらに問いかけてきた。
「へ?え、いや、なんでもひゃいわよ」
(か、顔に出てたのかしら)
何とか取り繕い、顔を引き締め、毅然として歩く。
となりでは、勘助がほお、おぉ、と一々街の様子を見て驚いていた。
それを見て、また顔が弛みだす。
「こら、勘助!よそ見しないでちゃんとご主人様についてきなさい!」
むぅ、と勘助がうなった。
「ルイズ、どこへ向かっているのか、それくらいは教えても差支えないだろう」
その言葉に、内心ウキウキしながら、しかしそれを隠しながら言った。
「それはついてからのお楽しみよ。ほら、ここを入っていけばすぐ、ね」
その先に、古びた看板の武器屋があった。
―――――素晴らしい、と思った。
甲斐や駿河の市場も、確かに賑わっている。
だが、それは座に支配され、いくつかの大きな店が支配するものでしか無く、いわばどれも、閉塞的なのだ。
これほど活気にあふれ、どの店も多種多様な商品を扱っている。
甲斐や駿河においては、全く考えられなかった。
「こら!勘助!よそ見しないでちゃんとご主人様についてきなさい!」
突然、ルイズから声が放たれた。
知らず知らずのうちに、大分離れていたようだ。
(だが、これほどの街・・・聞きはしていたが、この目に見ては、やはり驚かずにはいられん)
驚くと言えば、今のルイズはどこかおかしな感じがする。
これから行く場所と、何か関係があるのだろうか。
「ルイズ、どこへ向かっているのか、それくらいは教えても差支えないだろう」
「それはついてからのお楽しみよ。ほら、ここを入っていけばすぐ、ね」
いえば、妙に浮ついた答えが返ってきた。
(要領を得ない話ばかりする・・・)
後ろに続いて歩いて行くと、小汚く狭い小道に入った。
やがて、剣を模した看板をつけた、そこそこ大きい、武器屋と思われる店を見つけた。
「いらっしゃ・・・旦那、貴族の旦那、うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことは何一つございやせん」
「客よ」
ルイズが短く言うと、店主は驚いたように目を剥いた。
ルイズが短く、店主に要求を伝えると、奥へと引っ込んでいった。
「むぅ・・・ルイズ、武器を買いに来たのか?」
「そうよ。あんた、そんなほそっちい、レイピアみたいな物しか持ってないでしょ?」
細いのは切ることに特化したからであって、殺傷力は西洋の大型の剣よりも勝るとも劣らないのだが、せっかくの好意を無碍にする勘助では無い。
やがて、店主が剣を抱えて戻ってきた。
「貴族様、貴族様。これが、店一番の業物でさぁ。といっても、これほどの剣、よほどの大男でなきゃ、腰から下げるのは無理でございやす。お連れ様には、背中から背負うなきゃ、いかんですな」
どれ、と勘助も近づいて剣を見る。
剣は、見るも美しく、大きな剣だった。
(これが、一番の業物だと?なるほど、魔法が掛かっているのならば見た目は関係ないのやもしれん。)
装飾品のような印象を受けたが、魔法が掛かっているとなれば、勘助にはてんで分からない。
だが、これほどの大きさの剣、持ち歩くには不便すぎるし、戦に出ても使いようがない。
護身用にしては、目立ちすぎる。
使おうと思えば、片手で扱えるくらいのものでなければ、いざという時に扱うことができないのだ。
しかし、ルイズは気に入った様子で、値段を聞いていた。
だが、魔法がかかっているといわれ、見せ一番の業物である。
到底、買うことのできるものでは無かった。
「ルイズ。なにも無理して剣など買う必要はないだろう。そもそも、戦で剣を扱うこと自体が稀なのだ」
軽くルイズを慰める。
と、どこからともなく声がした。
「そいつの言う通りだぜ嬢ちゃん!そんなデカブツのナマクラ、そこの武人には似合わねえよ!
「やい、デル公!お客様に失礼いうんじゃねぇ!」
「お客様!?そんな、まともに剣の価値も分からねぇような娘っ子がかぁ!」
そのやり取りにルイズが当惑する。
インテリジェンスソードというらしい、デルフリンガーという銘の剣は、突然やり取りを中断し、勘助に向かって言った。
「おでれーた!おめぇ、『使い手』か」
「『使い手』だと?」
「自分のことも知らねぇのか。まあいい、おめェさん!俺を買ってくれ!」
「・・・勘助、『使い手』ってなに?」
ルイズが、困惑した様子で勘助に問いかける。
「知らん。だが、面白い。ルイズ、こいつを買えないか?」
勘助は、ルイズに頼む。
実際、剣など脇差の一本か二本あれば構わないのだ。
それなら、何もあんなものでは無く、これの様に面白い剣でも構わない。
それに、この剣は錆びついており、店主も疎んでいるようだった。
おそらく、ずいぶんと安い値で買えるだろう。
しばらく、怪訝な顔をして、本当にこれでいいのか、もっと他の物がいいのではないか、と尋ねてきたルイズだったが、やがて
「おいくら?」
と尋ねる。
案の定、新金貨100枚という、ぎりぎり買える範囲で値が付けられた。
「どうしても煩いと思ったら、鞘に納めれば静かになりまさぁ」
勘助は頷き、デルフリンガーを受け取った。
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