「T-0 15」(2008/04/06 (日) 19:19:25) の最新版変更点
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機械である彼は、人間のように手触りなどを懐かしんだり、
触覚から妙な馴染みを感じることは出来ない。
だが、もともとから銃器のスペシャリストと設定されているT-800にとって、
銃器の扱いは呼吸をするに等しい行為である。
T-0 15話
月明かり照らす部屋の中に、カチャカチャと小刻みな音が不気味に響いている。
ルイズは普段あまり聞き慣れないリズムを刻むそれを追い払うように寝返りを打ち、
胸の辺りに無造作に掛けていた毛布を掴むと、頭からかぶり直した。
しかし、布団をかぶって耳を閉じてみても、耳障りな音はやむ気配が無く、
不規則なリズムをルイズの脳に刻んでいく。
右向きに寝返りを打つ、左向きに寝返りを、今度はうつ伏せに、また、また――――――
目を閉じたまま、片眉だけが痙攣したようにぴくぴく動き、
イライラした感情が抑えられないことを体に伝える。
また、彼女が中々寝付けない理由はそれだけではなく、昼過ぎまで続いたオスマンの昔話……
その中に登場した『ある人物』について、およそ自分でも意識しないうちに考えているからでもあった。
そんなルイズの吐き出しにくく、募る想いの一方で、音の発信源である当の本人はまったく無表情であった。
無表情のまま、オスマンからそのまま受け取った(半ば強奪した)ショットガンを、
まるで長年付き添っていた得物のように、流麗な手さばきで迷惑顧みずにガチャガチャいじくっていた。
目の前には組み立てが終わった新品同様のショットガンがある。
ターミネーターはショットガンを手の中で反転させ、二つの目線をショットガンに集中させる。
彼は銃を股の間に斜めに下ろし、椅子に転がしてあった6発の銃弾を掴んで一つずつ銃に込めた。
そして一回、ポンプをガシャリとスライドさせると、ついでに受け取っていた大きな布袋を取り出して
大雑把にくるんだ。
いつでもすぐ取り出せるようにと、トリガーには指かけたままである。
これを手に取った瞬間、わかったことがあった。
このショットガンは間違いなく、嘗て人為的に手を加えられている中古品ということ、
それも機械的なほど効率のいい手の加え方と、実践で幾度か使用したであろうこと。
いうなれば銃の『経験』が、ただ手に取っただけだというのに手に取るように理解できた。
情報が流れてきたのだ。まるでこの銃そのものが人工知能を持っていて、自分の行った経験を逐一記録しているかのように。
しかもその記録は、機械媒体も通すことなくターミネーターの記録の中にするりと入り込み、イヤに鮮明に写りこんだ。
そして流れ込む情報とほぼ同時に、熱が発生した。
初めてここに来たとき、ギーシュとの決闘で感じたのと、同じ熱。
極端な謎の過負荷は感じさせずとも、またしてもそれは先日記録した謎の熱の波長と非常に似通っており、
同時に左手甲の部分に焼けるような謎の『痛み』を強く感じさせた。
だが、これについては「考えてもわからないものだ」と、彼のCPUは既に判断を下している。
無駄なことは一切省くように造られている彼は、今考えるべき内容は別と認識し、『痛み』のことは
データを上書きしてメモリ・バンクにしっかりと保存した。
ターミネーターはショットガンを肩に抱え、出入り口のドアを睨みつけ、塞ぐ様に立ち尽くした。
何かとカチャカチャ煩わしかった音が途切れ、ルイズはのどのすぐ下にまで迫ってきていたムカムカを、
悶えきった上で今しがた、どうにか飲みこんでやった。
眠れていないのをターミネーターに悟られるのは嫌だったが、人間的なものに興味を示さないだろう彼は、
おそらく気づいてないだろう。仮に気づいていたとしても、どうこう言ってくるわけはないが。
(なによ、ガタガタうるさいと思ったら、急に静かになっちゃって……)
頭の半分まで毛布をずらして、さっきまでうるさかった方をそっと見る。
ターミネーターは窓から入る光に半分だけ照らされ、布で包んだ銃を片手に
こちらに背を向けて立っていた。
正確に言うと扉の方をじっと睨みつけているのだが、横面さえ見えない今
ルイズはターミネーターのやっていることの意味が、しばしの間わからなかった。
ただ、眠らないのだろうか? と頭に思い浮かべたが、オスマンの思い出話がよぎり、
風で飛ばされる紙くずのようにふっと考えを吹き消した。
『――堀の深い顔、凛々しい視線、逞しい体。
よく見てみると、まるでガラス球のように綺麗だというのに、
それはただ綺麗なだけで、一切の感情が見事に映っておらん。
ワイバーンと遭遇したときよりゾッとした。意志有って命無き偽者の瞳。
何もかもが……あのときと同じ』
背筋を真っ直ぐにピンと伸ばし、それでいて石造のように微動だにしない彼は、
確かに人間ではないのかもしれないと思えてきた。
心の奥深く、深層意識では否定していたのだが、ルイズはターミネーターのことを人間であると
信じていたかったのかもしれない。特にコレといった理由はわからないが、彼の冷たくて悲しそうな目を
見ていると、そう思いたくなっていたのだ。
まぁ、それでもいい。
ターミネーターはわたしの言うことをちゃんと聞いてくれるし、オスマンの話で戦闘的なことが強い事もわかった。
理想的な使い魔に近いことになんらかわりはない、それをわたしが召喚した事実。
使い魔が、メイジの実力を測る物差しならば、自分はきっと『ゼロ』ではなかったのだろう。
その事実が現実として理解できたことに、ルイズは思わず笑ってしまった。
ばふっと毛布を被る。ターミネーターが一瞬ルイズの方を見たが、何もないとわかると視線を戻した。
(わたしは、ゼロなんかじゃなかった……!)
心で思った途端に、感極まった感情が体中に一気に流れた。
笑顔がさらににこやかなものになり、自身を抱きしめた手に力が篭って、ぐっとこわばった。
(ふふ、やだ、なんだか眠くなってきちゃった)
普通興奮したときって、眠くなるものじゃないのかしら? などと疑問に思ったのと同時にあくびを
かまし、ルイズはぼうっと輪郭のゆがんで見えなくなった天井を眺めた。
(……どうか、あの夢だけはみませんように)
ぱっと思い出した嫌な記憶を合図に、ルイズのまぶたはゆっくりと落ちた。
■
ミス・ロングビルは学院内の自室で、一枚の紙を真剣な表情で眺めていた。
椅子に座り込み、机の上に広げられた一枚の紙は、机を多い尽くすくらいに大きいものである。
彼女は腕を組んで、足を組み合わせた。次いで悩ましげに頭を傾けると、手に持っていたペンで
頭の端を2、3回たたく。
普段の――オスマンや教師達――に見せるのとはあまりにギャップの大きい態度であったが、
それが様になっているのはひとえに彼女の容姿故のことだろう。
「だーもう。なんなんだろうねここの宝物庫の念の入れ様は? スクウェア数人がかりの扉の固定化。
それだけでも厄介なのに、物理的な破壊が困難なよう、ご丁寧に壁自体の強度もハンパじゃない、
ってんだからねーもう……」
背もたれに思いっきりもたれかかり、ため息をつく。
眼鏡を邪魔くさそうに外し、ベッドに放り投げた。
「どっか穴があれば、と思ってわざわざ学院の内部地図引っ張り出してきたってのに……
隣り合った壁は鉄扉と同様の固定化が掛けてあることがわかっただけで、てんで役にたちゃしない」
頭を抱えて机にひじを突く。どうしようもないため息が、口の端から漏れた。
「ま、そーいいなさんなよ女主人。いつかきっといいことあるさね」
机の側に立てかけてある剣がカタカタ体を揺らし、陽気な声で笑いながら言った。
剣は抜き身で立てかけてあった。刀身に銅色の錆が付着した、長さにして1,5メイルはある長剣。
とても無骨なデザインをしており、ハルケギニアでは珍しい反りのあまりない片刃の剣。
見栄えからしてロングビルのような美人女性にはミスマッチである長剣は、つばの部分が笑うのと
同じリズムでカタカタ揺れている。
ロングビルは再びため息をつき、体を回して長剣と向かい合った。剣が笑うことをピタリと止める。
「ったく……ここんところいい収穫なしだよ」
「へー、たとえば?」
ロングビルは苦笑いを浮かべつつ、皮肉めいた口調と共に長剣を睨んだ。
「珍しいインテリジェスソードがあると聞いて盗んでみれば、さび付いて使えそうにないどころか、
『伝説の剣だった』とか嘘ばっかりのお気楽能天気だったりしたことだとか……だね」
「……そりゃあ手厳しいねぇ。でも伝説の類ってのはホントだぜ~。女主人、信じてくれよぉ」
芝居がかった口調で話す長剣を無視すると、机に向き直って頬杖をついた。
肘の下に潰れた紙は重さでクシャクシャになっていくが、そんなことはどこ吹く風と、
ロングビルはぼーっとやる気なさげに目を細めた。
「あーあ、せっかく異世界のお宝がすぐ傍にあるってのに……」
机に突っ伏して、紙の上に頬をぐりぐり押し付けた。
紙が余計に皺をつくり、とうとう何ヶ所か破れ始めたが気にしない。
「なんでぃ、異世界のお宝ってーのは?」
「あんたの数十倍は価値があるお宝のこったよ」
ロングビルはつぶやくと、めんどくさそうに顔を上げた。
「……お!」
「どしたい? なんかいい案でも思いついたん?」
剣の質問を無視し、ロングビルはふふふと笑った。
「フフフフフフフフフ…………」
「はぁ、不気味に笑うねぇ女主人。
別嬪なのに行き遅れてんのはそのせいじゃガコッ!!」
いつの間にか接近していたロングビルは、一瞬の早業で剣を鞘に収めた。
「ったく、あたしゃまだ……23……だ…………よ……………」
言いながら虚しくなったのか、瞳に涙を浮かべると剣を放置してベッドに潜り込み……
ロングビルは気の済むまで泣いたのだった。
#navi(T-0)
機械である彼は、人間のように手触りなどを懐かしんだり、
触覚から妙な馴染みを感じることは出来ない。
だが、もともとから銃器のスペシャリストと設定されているT-800にとって、
銃器の扱いは呼吸をするに等しい行為である。
T-0 15話
月明かり照らす部屋の中に、カチャカチャと小刻みな音が不気味に響いている。
ルイズは普段あまり聞き慣れないリズムを刻むそれを追い払うように寝返りを打ち、
胸の辺りに無造作に掛けていた毛布を掴むと、頭からかぶり直した。
しかし、布団をかぶって耳を閉じてみても、耳障りな音はやむ気配が無く、
不規則なリズムをルイズの脳に刻んでいく。
右向きに寝返りを打つ、左向きに寝返りを、今度はうつ伏せに、また、また――――――
目を閉じたまま、片眉だけが痙攣したようにぴくぴく動き、
イライラした感情が抑えられないことを体に伝える。
また、彼女が中々寝付けない理由はそれだけではなく、昼過ぎまで続いたオスマンの昔話……
その中に登場した『ある人物』について、およそ自分でも意識しないうちに考えているからでもあった。
そんなルイズの吐き出しにくく、募る想いの一方で、音の発信源である当の本人はまったく無表情であった。
無表情のまま、オスマンからそのまま受け取った(半ば強奪した)ショットガンを、
まるで長年付き添っていた得物のように、流麗な手さばきで迷惑顧みずにガチャガチャいじくっていた。
目の前には組み立てが終わった新品同様のショットガンがある。
ターミネーターはショットガンを手の中で反転させ、二つの目線をショットガンに集中させる。
彼は銃を股の間に斜めに下ろし、椅子に転がしてあった6発の銃弾を掴んで一つずつ銃に込めた。
そして一回、ポンプをガシャリとスライドさせると、ついでに受け取っていた大きな布袋を取り出して
大雑把にくるんだ。
いつでもすぐ取り出せるようにと、トリガーには指かけたままである。
これを手に取った瞬間、わかったことがあった。
このショットガンは間違いなく、嘗て人為的に手を加えられている中古品ということ、
それも機械的なほど効率のいい手の加え方と、実践で幾度か使用したであろうこと。
いうなれば銃の『経験』が、ただ手に取っただけだというのに手に取るように理解できた。
情報が流れてきたのだ。まるでこの銃そのものが人工知能を持っていて、自分の行った経験を逐一記録しているかのように。
しかもその記録は、機械媒体も通すことなくターミネーターの記録の中にするりと入り込み、イヤに鮮明に写りこんだ。
そして流れ込む情報とほぼ同時に、熱が発生した。
初めてここに来たとき、ギーシュとの決闘で感じたのと、同じ熱。
極端な謎の過負荷は感じさせずとも、またしてもそれは先日記録した謎の熱の波長と非常に似通っており、
同時に左手甲の部分に焼けるような謎の『痛み』を強く感じさせた。
だが、これについては「考えてもわからないものだ」と、彼のCPUは既に判断を下している。
無駄なことは一切省くように造られている彼は、今考えるべき内容は別と認識し、『痛み』のことは
データを上書きしてメモリ・バンクにしっかりと保存した。
ターミネーターはショットガンを肩に抱え、出入り口のドアを睨みつけ、塞ぐ様に立ち尽くした。
何かとカチャカチャ煩わしかった音が途切れ、ルイズはのどのすぐ下にまで迫ってきていたムカムカを、
悶えきった上で今しがた、どうにか飲みこんでやった。
眠れていないのをターミネーターに悟られるのは嫌だったが、人間的なものに興味を示さないだろう彼は、
おそらく気づいてないだろう。仮に気づいていたとしても、どうこう言ってくるわけはないが。
(なによ、ガタガタうるさいと思ったら、急に静かになっちゃって……)
頭の半分まで毛布をずらして、さっきまでうるさかった方をそっと見る。
ターミネーターは窓から入る光に半分だけ照らされ、布で包んだ銃を片手に
こちらに背を向けて立っていた。
正確に言うと扉の方をじっと睨みつけているのだが、横面さえ見えない今
ルイズはターミネーターのやっていることの意味が、しばしの間わからなかった。
ただ、眠らないのだろうか? と頭に思い浮かべたが、オスマンの思い出話がよぎり、
風で飛ばされる紙くずのようにふっと考えを吹き消した。
『――堀の深い顔、凛々しい視線、逞しい体。
よく見てみると、まるでガラス球のように綺麗だというのに、
それはただ綺麗なだけで、一切の感情が見事に映っておらん。
ワイバーンと遭遇したときよりゾッとした。意志有って命無き偽者の瞳。
何もかもが……あのときと同じ』
背筋を真っ直ぐにピンと伸ばし、それでいて石造のように微動だにしない彼は、
確かに人間ではないのかもしれないと思えてきた。
心の奥深く、深層意識では否定していたのだが、ルイズはターミネーターのことを人間であると
信じていたかったのかもしれない。特にコレといった理由はわからないが、彼の冷たくて悲しそうな目を
見ていると、そう思いたくなっていたのだ。
まぁ、それでもいい。
ターミネーターはわたしの言うことをちゃんと聞いてくれるし、オスマンの話で戦闘的なことが強い事もわかった。
理想的な使い魔に近いことになんらかわりはない、それをわたしが召喚した事実。
使い魔が、メイジの実力を測る物差しならば、自分はきっと『ゼロ』ではなかったのだろう。
その事実が現実として理解できたことに、ルイズは思わず笑ってしまった。
ばふっと毛布を被る。ターミネーターが一瞬ルイズの方を見たが、何もないとわかると視線を戻した。
(わたしは、ゼロなんかじゃなかった……!)
心で思った途端に、感極まった感情が体中に一気に流れた。
笑顔がさらににこやかなものになり、自身を抱きしめた手に力が篭って、ぐっとこわばった。
(ふふ、やだ、なんだか眠くなってきちゃった)
普通興奮したときって、眠くなるものじゃないのかしら? などと疑問に思ったのと同時にあくびを
かまし、ルイズはぼうっと輪郭のゆがんで見えなくなった天井を眺めた。
(……どうか、あの夢だけはみませんように)
ぱっと思い出した嫌な記憶を合図に、ルイズのまぶたはゆっくりと落ちた。
■
ミス・ロングビルは学院内の自室で、一枚の紙を真剣な表情で眺めていた。
椅子に座り込み、机の上に広げられた一枚の紙は、机を多い尽くすくらいに大きいものである。
彼女は腕を組んで、足を組み合わせた。次いで悩ましげに頭を傾けると、手に持っていたペンで
頭の端を2、3回たたく。
普段の――オスマンや教師達――に見せるのとはあまりにギャップの大きい態度であったが、
それが様になっているのはひとえに彼女の容姿故のことだろう。
「だーもう。なんなんだろうねここの宝物庫の念の入れ様は? スクウェア数人がかりの扉の固定化。
それだけでも厄介なのに、物理的な破壊が困難なよう、ご丁寧に壁自体の強度もハンパじゃない、
ってんだからねーもう……」
背もたれに思いっきりもたれかかり、ため息をつく。
眼鏡を邪魔くさそうに外し、ベッドに放り投げた。
「どっか穴があれば、と思ってわざわざ学院の内部地図引っ張り出してきたってのに……
隣り合った壁は鉄扉と同様の固定化が掛けてあることがわかっただけで、てんで役にたちゃしない」
頭を抱えて机にひじを突く。どうしようもないため息が、口の端から漏れた。
「ま、そーいいなさんなよ女主人。いつかきっといいことあるさね」
机の側に立てかけてある剣がカタカタ体を揺らし、陽気な声で笑いながら言った。
剣は抜き身で立てかけてあった。刀身に銅色の錆が付着した、長さにして1,5メイルはある長剣。
とても無骨なデザインをしており、ハルケギニアでは珍しい反りのあまりない片刃の剣。
見栄えからしてロングビルのような美人女性にはミスマッチである長剣は、つばの部分が笑うのと
同じリズムでカタカタ揺れている。
ロングビルは再びため息をつき、体を回して長剣と向かい合った。剣が笑うことをピタリと止める。
「ったく……ここんところいい収穫なしだよ」
「へー、たとえば?」
ロングビルは苦笑いを浮かべつつ、皮肉めいた口調と共に長剣を睨んだ。
「珍しいインテリジェスソードがあると聞いて盗んでみれば、さび付いて使えそうにないどころか、
『伝説の剣だった』とか嘘ばっかりのお気楽能天気だったりしたことだとか……だね」
「……そりゃあ手厳しいねぇ。でも伝説の類ってのはホントだぜ~。女主人、信じてくれよぉ」
芝居がかった口調で話す長剣を無視すると、机に向き直って頬杖をついた。
肘の下に潰れた紙は重さでクシャクシャになっていくが、そんなことはどこ吹く風と、
ロングビルはぼーっとやる気なさげに目を細めた。
「あーあ、せっかく異世界のお宝がすぐ傍にあるってのに……」
机に突っ伏して、紙の上に頬をぐりぐり押し付けた。
紙が余計に皺をつくり、とうとう何ヶ所か破れ始めたが気にしない。
「なんでぃ、異世界のお宝ってーのは?」
「あんたの数十倍は価値があるお宝のこったよ」
ロングビルはつぶやくと、めんどくさそうに顔を上げた。
「……お!」
「どしたい? なんかいい案でも思いついたん?」
剣の質問を無視し、ロングビルはふふふと笑った。
「フフフフフフフフフ…………」
「はぁ、不気味に笑うねぇ女主人。
別嬪なのに行き遅れてんのはそのせいじゃガコッ!!」
いつの間にか接近していたロングビルは、一瞬の早業で剣を鞘に収めた。
「ったく、あたしゃまだ……23……だ…………よ……………」
言いながら虚しくなったのか、瞳に涙を浮かべると剣を放置してベッドに潜り込み……
ロングビルは気の済むまで泣いたのだった。
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