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「・・・あのな、お前等、ちょっとは手加減しろよな?イテテテ」
「わ、悪かったわよぉ~。でも、でもでも、しょうがないじゃない!だってあたし、ジュ
ンを愛してるモン!」
愛してる、とハッキリ言われて、ジュンは真っ赤になって俯いてしまう。
ルイズも言ったとたんに我に返り、真っ赤になった顔を手で覆ってしまう。
キッ!
薔薇乙女二人に睨み付けられ、二人は小さくなってしまう。
ビシィッと、ルイズにステッキが突きつけられた。
「いいこと?覚えておきなさい・・・抜け駆けは、許さないわ!」
「ぬ、抜け駆けって、そんな、ただ、あたしは女で、愛は大事で、その、好きな人がいれ
ば、やっぱりぃ・・・」
もじもじするルイズ。指は床にのの字書き書き
スビシっと、今度は如雨露が突きつけられる。
「る・い・ず・さぁ~ん?もしかして、あたし達が人形だからって、自分が人間の女だか
らって、ジュンを自分のモノに出来るって、思ってませんですかぁ~?」
ルイズはタジタジになりつつも、ポッと頬を染めて顔を逸らす。
「甘いです、お前はあんまいですぅっ!あたし達がアリスになったら、ペッタンコのお前
なんか、相手にならんですぅーだっ!!」
「あの、アリスになるって、それはローザミスティカを見つけて、しかも全てを奪い集め
てからの話じゃ?しかも、人形だし」
「違うわ」
真紅が、遠い目をして語りはじめる。
「アリスとは、お父様の中だけに生きる少女。夢の少女。
どんな花よりも気高くて
どんな宝石よりも無垢で
一点の穢れもない
世界中のどんな少女でも敵わない程の至高の美しさを持った少女。
確かにローザミスティカを全て集めれば、そのアリスになれるわ。でも、お父様はおっ
しゃったの。アリスゲームだけが、アリスになる方法ではない、と」
「少女って・・・えっ!?他の方法って、まさか、それじゃあ」
「そのとーりですぅ!アリスになるためには、ローザミスティカが7つ集まらなくても、
というか集める必要もないんです!」
「えー!?って、ちょっと待ってよ、それじゃ、あなた達二人が、みんながそんな、アリ
スとかいう『究極の少女』なんかになったら」
ジュンの言葉にルイズの顔は青ざめ、全身に冷たい汗が流れる。
そんなルイズを前に、真紅と翠星石は腰に手を当てふんぞり返る。
ビシッ
今度はルイズが真紅と翠星石に杖を向けた。
「負けない・・・負けないんだから!
いーい?アリスがどんなのか知らないけど、今はあたしが一番有利な地位にあるんだか
らね!」
「望む所だわ!」「正々堂々、女の戦いをするですよっ!!」
ステッキと如雨露と杖が、力強く交差する。
そんな修羅場を見せつけられてるジュンは、はあぁ~~っと、特大の溜め息をついてし
まった。
「おめえ、きっと女難の相が憑いてんだろうなぁ」
「デル公・・・」
気力が尽きたジュンの目が、壁に立てかけられたデルフリンガーを見る。
「なんで、真紅達を止めてくれなかったの?」
「・・・俺だって、巻き添え喰らいたくねぇよ」
「そんな空気、読まなくていいのに」
「すまねぇ。ところで、実は今、庭に・・・だな」
「庭?」
ジュンは、ひょいと庭へ目を向けた。
「え~っと・・・諸君。そろそろ、いいだろうか?」
庭から、妙に緊張感のない、そして聞き覚えのある声がした。
テラスの向こう、ルイズ達が降り立った庭に、穴が開いていた。
その穴からひょっこり顔を覗かせていたのは、ジャイアントモールのヴェルダンデ。そ
してギーシュ。
なんだかギーシュもヴェルダンデも、ひじょお~に気まずそうに、あさっての方を向い
ていた。
場を、沈黙が支配する。
誰も、何も言えない。動けない。
ジュンが、やっとのことで、頬を引きつらせながら口を開けた。
「ぎ、ぃ~しゅ、さん?」
「う、うむ、何かな?『ミスタ・ゼロ』」
ギーシュも、赤く染めた頬をポリポリかきながら答える。
「い、いい、いつから、そこに、いました、か?」
「うむ、いつからだったカナ?なあ、ヴェルダンデ」
聞かれた大モグラが頭をひねり、しばらくして、何かを熱く抱擁するようなゼスチャー
をした。
「う、うん、そうだね。その辺りから、だったかな?いやー、いいものを見せて」
ギーシュの言葉は、最後まで語られる事はなかった。
彼は、ルイズと真紅と翠星石に、一瞬でギタギタにされてしまった。
「だ、だって、しょうがないじゃないか!いつ敵が来るかも分からないから、立ち去るわ
けにもいかないし。かといって声をかけられる雰囲気じゃないし!」
バコッ
ルイズのミドルキックが彼の尻に炸裂する。
「言い訳してないで、早く案内なさい!」
「あうう、せっかく迎えに来たのに、酷いよ君たち・・・」
ギーシュはボロボロにされた体を引きずって、地中の穴へルイズ達を案内していた。
所々に灯りがともされ、人間二人が横に並んで歩けるほどの通路が続いている。通路は
木枠で補強が入れられ、あちこちに分かれ道もあった。天井には空気穴、灯りの炎が常に
揺れているので、換気も完璧らしい。
翠星石を抱えるルイズが、珍しげに地下通路を見渡す。
「へぇ~、知らなかったなぁ。まさかトリスタニアの地下に、こんな秘密の通路があった
なんて」
「いや、無かったよ」
ヴェルダンデを後ろに従えたギーシュの言葉に、案内される全員が「?」となった。
「これはね、この数日でヴェルダンデが作ってくれたんだ」
「・・・数日で、作ったというの?こんな果てしなく長い通路を、冗談でしょう?」
「ふっはははは!!それが冗談ではないのだよ、『ルビー・ゼロ』よ!」
ギーシュは、ジュンに抱えられた真紅に向かって高笑いしながら胸を張った。
「忘れたのかい?諸君、わが使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデは、地中を馬並
みの速さで走れるのだよ!
我がグラモン家が軍を率いてトリスタニアに来て以来、ヴェルダンデは街の地下を走り
回ってくれたんだ。そして出来た穴に国中のメイジと平民が総掛かりで補強を入れ、拡張
し、そして僅か数日で作り上げたのだよっ!
君たち『ゼロ』に匹敵するトリステインの切り札、この巨大地下要塞『ヴェル・ギー』
をねっ!!」
「お、おでれーた。まさかおめーさん達が、そんなスゲェ事できるたぁなぁ」
ジュンの背のデルフリンガーも、あのちょっと抜けた優男だったはずのギーシュに、驚
きを隠せない。
その時、彼等の頭上から地響きが聞こえてきた。パラパラと土が天井から落ちてくる。
「ふふふふ、始まったようだ。さあ、君たち空海軍の仕事は終わりだ。次は、我々陸軍の
出番だよ!」
トリステイン城門前、夕方。
アルビオン陸戦隊五千は、トリステイン軍二万に完全包囲されていた。
陸戦隊は当初、まったく何の抵抗もなく城門前に到着した。彼等の前には、城門を固く
閉ざし、城壁から大砲を向けるトリステイン城だけが見えていた。
だが、索敵をしていたメイジ、特に土系メイジ達が、ホーキンス将軍の下へ緊急の報告
を持って駆けてきた。
「大変ですっ!地中から、地下10メイル以下に、敵です!!」
「へぇ、なるほど。やつら塹壕にも立て籠もっているのか」
「ちっ違いますっ!!」
ノンビリ飄々としたホーキンスに、報告に来たメイジは一気にまくし立てた。
「塹壕なんて、そんなモノではありませんっ!!我々の周囲を地中から完全に包囲してい
ます!!
やつらは我々土メイジの索敵範囲外から、ずっと地中を移動していたのですっ!!信じ
がたい程に広範囲の地下通路、いえ、地下要塞が!ご丁寧にも、わざわざ我々の進軍ルー
トを予想して、それを避けて構築されていたんですぅっっ!!!」
「なっ!?・・・」
その報告を聞き終えると同時に、陸戦隊の周囲4方向から地鳴りが響いてきた。
陸戦隊の左右、そして斜め後方の左右から、20メイルはある土ゴーレム達が立ち上が
る。トライアングルクラスの土メイジ達が生み出した物だ。それぞれに、作成者の家の幟
が掲げてある。
おおおおおおおおおお・・・・・
そして、ゴーレムを生み出すために使用した地面の穴から、吹き出すように兵士達が雄
叫びと共に飛び出してきた。津波のごとき勢いで、陸戦隊に四方から襲いかかる。
ドドドドドンッッ!!
浮遊砲台からの砲撃が、ゴーレム達をバラバラに砕き、土くれに戻していく。
先陣を切る短槍隊が、大砲弾でえぐられた地面と一緒に宙へ吹き飛ばされる。
後に続く銃兵隊が、陸戦隊へ銃撃を開始する。同時に城壁からも砲撃が始まった。
旗艦『竜の巣』号から全ての竜騎兵が飛び立ち、地上へと降下する。
地上戦が始まった。
城門からの砲撃が、魔法が、巨大な弓が、地上へ向けて撃ち込まれる。
空からは浮遊砲台が城へ大砲を撃ち込み、炸裂弾や焼夷弾を落とす。
竜騎兵達が空から紅蓮の炎で、地上の兵士を小隊単位で焼き尽くしていく。
そして陸戦隊の周囲各所に空いた大穴が、トリステイン兵士を次々と吐き出す。
浮遊砲台からの支援砲火も、竜騎士達の炎も、陸戦隊からのあらゆる魔法も、地中から
止めどなく湧き出すトリステイン軍の勢いを阻む事が出来ない。
何より、トリステイン軍の大部分は、未だに地中に潜んでいる。おまけに陸戦隊のすぐ
近く、四方八方から這い出してくるため、敵味方が入り乱れて空からの支援砲火も有効な
打撃を与える事が出来なかった。
戦いは、完全な混戦に陥っていた。
トリステイン城、謁見の間。
玉座に座り続けるマリアンヌの前に、大勢のメイジや兵士達を連れたマザリーニが跪い
ていた。
「陛下!ここは危険です。どうぞ、地下へ待避して下さい」
「妾はここを動かぬ。それより、アンリエッタは」
「姫は既に、城外へ」
「よろしい。マザリーニ、早くそなたも行くのです!」
「・・・聞けません」
「愚か者!死ぬ気ですか!?」
「陛下と同じです。下々の者を死地に追いやって、何故のうのうと逃げおおせる事が出来
ますか?」
「・・・口が過ぎました、許して下さい。教皇の地位を捨ててまでトリステインに尽くし
てくれたそなたを、愚弄するなど」
「そのお言葉だけで十分にございます」
彼等のいる謁見の間にも、城に直撃する大砲弾の振動が響いてくる。そんな中、女王と
枢機卿は、国に殉ずるが如く逃げようとしない。
枢機卿が引き連れていた警護の兵士とメイジ達が、目配せし合い、頷きあった。王女の
命に反する事になろうとも、彼等を捕縛してでも脱出させるために。
そんな城門側の激戦と火災をよそに、天守を挟んだ反対側には人はほとんどいなかった。
ただ一人いたのは、城壁の上のリッシュモンだ。
彼は手鏡を掲げ、『竜の巣』号へ夕日の光を断続的に送っていた。
「誘導ご苦労様。もういいわ」
突然、リッシュモンの背後から声がした。
慌てて杖を持って振り向いたが、そこには誰もいなかった。
「『不可視のマント』よ。気にしないで」
何もない空間に、ほんのちょっとだけ女性の口元が現れた。口の端を釣り上げて笑うそ
の人物は、シェフィールドだ。
「驚かさんでくれ。こんな所で鏡を掲げているだけで、危険極まりないのだぞ」
「申し訳ありません。それにしても、あの地下要塞…どうして教えて下さらなかったのか
しら?」
「あ、ああ。あれは最後の報告後に構築が決まったんだ。以後は連絡の方法が無かったか
らな」
「そうですか。まあ、いいでしょう」
そういってシェフィールドは、再び姿を消した。ただ声だけが響いてくる。
「後は私の仕事。あなたは早く逃げる事ね・・・」
城壁に一人の超されたリッシュモンは、慌てて城の地下へと走っていった。
トリステイン城西方、地下20メイル。地下要塞『ヴェル・ギー』中央司令部。
巨大なデスクの上に広げられた地図を杖で指し示しながら、将軍や元帥達が指示を飛ば
している。上座に座っている総司令官ド・ポワチエ大将が、額に血管を浮かべながら机を
殴りつけた。
「陛下は!何故待避して下さらぬっ!既に軍司令部も国家機能も、この要塞と周辺都市に
移したのだぞ!?もはやあの城は、ただの飾りだというのに!!」
「飾りだからこそ、でしょう。城に旗を掲げれば、それは戦争での勝利を世に知らしめま
すからな」
「やかましいぃっ!!ウィンプフェン!早く陛下と枢機卿をお連れするのだっ!多少、手
荒な手を使っても構わんっ!」
「はっはいっ!」
将軍に怒鳴りつけられたウィンプフェンは、大慌てで司令部を飛び出していった。
はぁっはぁっはぁ・・・全く、陛下も鳥の骨も、頭が固すぎる。陛下に何かあれば、
ワシの元帥への昇進もへったくれもないじゃないか!
コップの水を一気飲みしながら、将軍は自分の元帥昇進どころか、地位すら危うくなっ
ている現実を頭に浮かべている。もはや怒りを抑えきれなかった。
そんな熱気と怒気と殺気が充満する司令部の片隅で、どよめきと拍手が湧いた。
ようやく落ち着いたド・ポワチエが視線を向けると、そこにはギーシュに連れられたル
イズ達が歩いてきていた。司令部にいた全員が杖と剣から手を離し、拍手と声援で彼等を
迎えている。
ド・ポワチエは慌てて彼等に駆け寄った。
「おお!ミス・ゼロよっ!ご無事だったか、いやぁよかった!
ミスタ・グラモン、よくぞ彼等を救出してくれた!諸君の、その全身の傷。やはり敵の
追撃隊と、激しい戦闘があったのだな?」
「うえぇっ!?えと、その・・・ぎにゃっ!」
口ごもるギーシュは、ルイズと真紅と翠星石に、思いっきり尻をつねられた。
「はぅい!そ、それはもう、追いすがる竜騎兵を振り切って、はい!」
「そうかそうか!ともかく、無事で何より!さぁ、奥に部屋を用意させよう。今はとにか
く休んでくれたまえ。
ああ!もちろん諸君等の働きは見事だった!皆、地上から見ていたよっ!戦艦7隻!数
え切れないほどの竜騎兵!一体どれ程の叙勲をすればよいものか、検討もつかんっ!
諸君等のおかげで我らは、地に伏し身を隠し、泥沼の長期戦に持ち込む必要が無くなっ
たのだよ!地上の陸戦隊を全滅させれば、一気に勝利をもぎ取る事ができるからなっ!戦
いが終わったら、叙勲申請をしておくともっ!
さぁ諸君!英雄達を拍手で送りたまえ!!」
一気にまくし立てたド・ポワチエに、嵐のような拍手。
ルイズ達は、何も言う事も聞く事も出来ない雰囲気の中、ギーシュに連れられて司令部
を後にした。
「お見事でしたよ、ミス・ヴァリエール」
「あら!ミス・シュヴルーズ。ご無事でしたか!」
ギーシュに案内されるルイズ達の前に現れたのは、学院の教師で土のトライアングル、
「赤土」のシュヴルーズ。ニコニコと微笑みながら、ルイズの手を取り再会と健闘を喜ん
でいる。
そして彼女の後ろにいる若い男性にジュンが気付いた。
「あ、ギトー先生も。お久しぶりです」
ペコリと頭を下げたジュンに、「疾風」ギトーは少し頷いただけだった。
ギーシュが相変わらずのキザッたらしいポーズを決めながら、二人の紹介を始めた。
「説明しておこう!このお二方は、僕が築いた地下要塞『ヴェル・ギー』の運営を任され
ているのだよ!」
「そうなのですよ、ミス・ヴァリエール。私の土系統で、この要塞の補強や拡張、通路の
開閉を行っているの」
「そして私の風の魔法が、この巨大な通路全体に風を起こし、外の空気を取り込んでいる
のだ。でなければ、こんな狭苦しい場所に万もの人がいれば、あっという間に窒息してし
まう。
・・・何故だ、なんで私がこんな地味な仕事を!私の『遍在』で、竜巻で、地上の侵略
者共を!」
肩を震わせるギトーを、まぁまぁとシュヴルーズがなだめる。ルイズ達は二人に礼をし
て、部屋へ案内された。
「さっ、ここは貴賓室として作られた部屋だよ。ここでゆっくり・・・」
と言って扉を開けようとしたギーシュを、走ってきた兵士が突き飛ばしていった。
「こっこら!貴様、僕を誰だと!」
「も、申し訳ありません!緊急事態なんで・・・」
と言って兵士は走り去っていった。
顔を見合わせた彼等に、遠くで大声を上げるのが聞こえる。
・・・城壁に、敵兵が・・・城内に侵入・・・ガーゴイルの大群・・・
戦局は、再び動いた。
シェフィールドが生み出した『スキルニル』の兵士達が、いきなり城壁の兵士とメイジ
達を背後から襲ったのだ。完全に虚をつかれた彼等は、更に浮遊砲台からの砲撃と火竜の
ブレスに灼かれ、瞬く間に数を減らしていった。主力が地下要塞に移っていた事も災いし
て、今や城門近くにすら魔法人形の侵入を許してしまっていた。
そして―――
「城門が開いたぞっ!突撃ぃーーー!!!」
ホーキンスの号令を待つまでもなく、陸戦隊は城内へ流れ込んだ。
その報告を受けた総司令官は、全身から血の気が引いていった。
「まずいっ!この地下司令部への直通路が開きっぱなしではないかっ!第一、城内には、
まだ陛下が!
者どもぉっ!上だっ!突撃ぃーーー!!」
戦いは、とうとうトリステイン城内へ移った。
あちこちで火の手が上がる城内は、もはや混乱の極みにあった。
杖が、矢が、剣が、槍が、魔法が、銃が、椅子が、鍋が、本が、燭台が、包丁が、こわ
れた扉が、その辺に落ちていた石ころが、松明が、宝箱と中の金貨が宝石が。
武器となりうる全ての物が飛び交い、火花を散らして激突し、血しぶきをまき散らし、
肉を焼き、心臓を凍らせ、骨を砕く。
ある者は魔法人形の持つメイスに頭を潰された。
またある者は『ジャベリン』で陸戦隊数人をまとめて串刺しにした。
そしてまたある者は浮遊砲台からの砲弾が直撃し、上半身が消えた。
砲撃で崩れ落ちた天井に、敵味方無関係に潰された。
煙に巻かれて窒息した者もいる。
だが、混乱した城内にも、戦いの中心となる存在がいた。全ての殺戮は、その存在を中
心に展開していた。トリステイン王国の大后マリアンヌだ。
「陛下!こちらです、お急ぎ下さい!!」
「く・・・なんたる屈辱!我が城が、敵に土足で踏みにじられようとは」
ここにいたり、ようやくマリアンヌも待避を受け入れた。護衛に囲まれて、枢機卿と共
に地下司令部への直通路を目指す。
「いたぞ!女王だっ!!」
「くそっ!者ども、構えぃっ!!」
だが、彼等の前に侵入してきた陸戦隊が立ち塞がった。その数、王女の護衛達とほぼ同
数。
双方とも、前衛に槍と剣と盾を構えた兵士達、中衛に銃とボウガンを構えた銃士隊、後
衛にメイジ達が3列に展開する。
うぅおおおああああああっっ!!
雄叫びと共に双方の銃と弓が、前衛の兵士の隙間から放たれる。半分は盾に跳ね返され、
残り半分は兵士達の肉体によって阻まれる。そして後衛のメイジ達のルーンが詠唱を終え、
魔法が正面から激突した!
ずどどどどどどおぉぉぉ・・・
「陛下、さぁ、こちらです!お早くっ!!」
風と冷気と炎と雷がぶつかり合う通路を背にして、数名のみの護衛に率いられた女王と
枢機卿が別の通路を目指そうとした。
だが
「ちぃっ!ここにまでっ!」
彼等の背後には、巨大な斧やボウガンを手にした兵士達が向かってきていた。
とっさに数名の護衛と枢機卿が、女王の前に立つ。
女王をかばう彼等に、容赦なくボウガンが放たれ、護衛は次々と倒れていく!
「女王!お命もらったぁっ!!」
凶悪な光を放つハルバードが、マリアンヌをかばう枢機卿ごと切り裂くべく振り上げら
れ
「ぐはっ!」
振り下ろされることなく、兵士の背後にガランと音を立てて落ちた。
斧を持っていた両の手には、棒手裏剣が何本も突き刺さっていた。
手を押さえて振り返った兵士の首と目にも、棒手裏剣が一本づつ、深々と突き立つ。
絶命して倒れた兵士の向こうには、倒れた兵士達の中に立つ少年がいた。
血に濡れたデルフリンガーを左手に、メリケンサックと棒手裏剣を右手に、ボウガンを
構えていた兵士達の返り血に濡れたジュンが立っている。
ジュンは一瞬で飛び出し、女王と枢機卿を背にし、未だに戦う陸戦隊と護衛達へ向かっ
て立つ。そしてデルフリンガーを横一文字に構える。
その刀身に、飛んできた火球と氷が吸い込まれていった。
さらに棒手裏剣を抜き放ち、陸戦隊員を正確に撃ち抜き続ける。
戦闘は終わり、女王達は危機を脱した。後には全滅した陸戦隊小隊の死体が残った。
とたんに、ジュンは膝から崩れ落ちた。
「だっ大丈夫かサクラダ殿!」「ミスタ・ゼロよ!もう大丈夫です、気をしっかり!」
女王と枢機卿、そして生き残った護衛の人々に囲まれたジュンは、一言。
「もう動けないぃ~~~~」
「ははっ!ジュンよ、よく頑張ったぜぇ!おめぇの剣としても鼻がたけぇやっ!」
左手のルーンは、完全に光を失った。
ジューン!どこいったのーっ!こらー私達を置いていくなんて信じられんですぅー
遠くからは、ルイズ達の声も近づいてくる。
「まったくもう、本当に無茶するわねぇ!」「ほら、女王の前よ、しっかり立ちなさい」
「そんなバカなことしてたら、あたし達に振られちゃうですよ!?」
護衛の兵士達に両脇を支えられ、ジュンはどうにかこうにか女王達と一緒に地下通路へ
向かっていた。憎まれ口を叩きつつも、ルイズ達は心配げにジュンを見つめている。
そして、女王一行が城門側が見える窓の横をさしかかった時、それは起こった。
ドドドドドドッドドドドドッドドドンッッッ!!!
突如、空からひときわ大きな爆発音が、連続で響き渡った。
空の上では、浮遊砲台9隻と『竜の巣』号が、穴だらけになり火を噴いた。
さらに轟音は続き、穴がどんどん増え、火災は爆発へと繋がっていく。
あっという間に、陸戦隊を支援していた船が焼け落ち、墜落していった。
地上のアルビオン陸戦隊も、トリステイン陸軍も、宙を舞っていた竜騎兵も、郊外の林
にいた金糸雀と水銀燈と草笛も、女王達一行も。何が起きたのか分からなかった。
この時点で何が起きたのか把握出来たのは、トリスタニア上空にいた人々。学院からシ
ルフィードに乗って飛んできたタバサ、キュルケ、コルベール、アニエス、シエスタ、モ
ンモランシーだけだった。
キュルケ達の目には、信じられないものが映っていた。
「バイラテラル・フロッテ・・・」
タバサのつぶやきに、誰も答える事が出来ない。
そこには、夕日に浮かぶ戦列艦がいた。
全ての艦に交差する二本の杖、ガリアの旗だ。
ガリアが誇る両用艦隊が、いつの間にかトリスタニア上空にいた。その数、50。
まるで観艦式のように、見事な機動で並んでいる。
しかも、浮遊砲台列へ一斉砲火を加え、あっという間に全て撃墜してしまった。
その戦列艦の中に、ひときわ大きな艦がいた。全長150メイルの巨大木製空中戦列艦
『シャルル・オルレアン』号だ。
その艦の船首に、一人の人間が立っている。
おーーーーーほほほほほほおほほほほほほほほほほほほほほっ!
船首の人物は、下品な高笑いを地上まで響かせた。
トリステインのみぃなぁさぁまぁ~~~。よおーーーっく聞きなさい。
恐れ多くもこの!ガリアの美しく気高き王女!イザベラ様が!
わぁざぁわぁざ、助けに来てあげましたのよーーーーーっっ!!!
心の底から感謝しなさぁーーい!おほほーーほほほほおーーほほほほほっほほ!!
地上の人々は、敵も味方も等しく、あんぐりと開いた口が閉まらなかった。
ルイズ達は、腰が抜けた。
タバサとキュルケだけが、かろうじて状況を理解しようと頭を捻っていた。
「あ、え、ちょっと!待ってよぉっ!!どういう事よ!?ガリアは、あんだけ脅しをかけ
たのよおっ!!それが、なんでぇ!????」
「敵に、させないため、王宮を、襲った・・・から、味方に、なる、みたい」
「なうぐぅおぉっ!?そんな、そんなの、ありぃっ!?」
「・・・あり」
「ど、でぅ、だっ第一、アルビオンは、レコン・キスタは!ガリアの手下でしょーがっ!
あんな見事な作戦を立てるための情報は、ガリア王宮がバックにいない限り、絶対に手に
入らないわよ!!」
「ハルケギニアの覇権と、ローゼンメイデン・・・どっちか手にはいるとしたら、どっち
がいい?」
「んぎゃ」
ここまで話が進んで、ようやくコルベールが事態を理解した。
「え~っと、つまり彼等は、ローゼンメイデンを、選んだ・・・という事かな?でも、敵
にしたくはないから、まずは仲間になろう、と・・・」
タバサは、コクリと頷く。
アニエスも、ようやく我に返った。
「ちょちょちょっと待たれよっ!!だが、そのレコン・キスタがトリステインに攻め込ん
だのだぞ!仲間になるどころか・・・」
「ガリアとレコン・キスタの繋がりを示す証拠は、無い」
「なーなーなー無いって、それは、そうだろうが」
「あるのは、ガリアが、レコン・キスタからトリステインを救ったという事実、だけ」
「がーっ!」
アニエスは、彼女らしくもなく、両手で頭をかきむしる。
シエスタとモンモランシーは、もう頭が真っ白。
地上でも、同じ事をジュン達が考えていた。
「・・・やられた、な」
真紅は、もうお手上げ。
「やられた、わね。・・・なんて手の込んだ、強引な、まわりくどい仲直りなの!?」
翠星石が、キョトンとする。
「と、言う事は、どうすれば良いですか?」
枢機卿が答えた。
「ガリア王家に頭を下げて、援軍を送ってくれた礼をすべき、と言う事だ」
女王がぼやいた。
「全てはガリアの無能王が仕組んだ筋書き通り、ということですわね」
ルイズが、いやぁ~な未来像を思い描いた。
「おまけに、あのイザベラとも、仲良く握手しなくちゃいけない、のね・・・」
デルフリンガーは、もう、呆れかえっていた。
「お、おで、れーたなんて、もんじゃあねぇな、こりゃ」
だが周囲の護衛達は、いや、全トリステイン軍が同じ事を叫んだ。
「終わった・・・戦争は、終わったんだあーーーーーっっっ!!!」
トリステインは、歓喜の渦に包まれた。
夕日の中、イザベラの高笑いも響き渡る。
こうして、神聖アルビオン共和国とトリステインの戦争は終結した。
城壁の片隅で、シェフィールドもニッコリ微笑んでいる。
「うふふふ、今回はジョゼフさまの勝ちよ。また遊びましょうね」
シェフィールドことミョズニトニルンは、再び宙に消えていった。
―――この戦いは、後世に「薔薇戦争」と呼ばれた。
「薔薇」というのは『たった一機でアルビオン艦隊を半壊に追い込んだゼロ戦に乗る薔
薇乙女』とも、『地下要塞を築いたギーシュ・ド・グラモンのトレードマーク』とも言わ
れている。その双方を指す、と一般には考えられている。
戦力的にはアルビオンが圧倒しながら、トリステインが最後まで互角の戦いを見せた事
は、多くの歴史・戦史研究家達に希有な研究素材として受け入れられている。また、たっ
た2人の貴族と平民、一週間前まで一介の学生に過ぎなかった少女と少年が、神話級の戦
果を上げた事から、英雄物語としても永久に語り継がれる事となる―――
第4話 乙女達 END
第五部 終
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「・・・あのな、お前等、ちょっとは手加減しろよな?イテテテ」
「わ、悪かったわよぉ~。でも、でもでも、しょうがないじゃない!だってあたし、ジュ
ンを愛してるモン!」
愛してる、とハッキリ言われて、ジュンは真っ赤になって俯いてしまう。
ルイズも言ったとたんに我に返り、真っ赤になった顔を手で覆ってしまう。
キッ!
薔薇乙女二人に睨み付けられ、二人は小さくなってしまう。
ビシィッと、ルイズにステッキが突きつけられた。
「いいこと?覚えておきなさい・・・抜け駆けは、許さないわ!」
「ぬ、抜け駆けって、そんな、ただ、あたしは女で、愛は大事で、その、好きな人がいれ
ば、やっぱりぃ・・・」
もじもじするルイズ。指は床にのの字書き書き
スビシっと、今度は如雨露が突きつけられる。
「る・い・ず・さぁ~ん?もしかして、あたし達が人形だからって、自分が人間の女だか
らって、ジュンを自分のモノに出来るって、思ってませんですかぁ~?」
ルイズはタジタジになりつつも、ポッと頬を染めて顔を逸らす。
「甘いです、お前はあんまいですぅっ!あたし達がアリスになったら、ペッタンコのお前
なんか、相手にならんですぅーだっ!!」
「あの、アリスになるって、それはローザミスティカを見つけて、しかも全てを奪い集め
てからの話じゃ?しかも、人形だし」
「違うわ」
真紅が、遠い目をして語りはじめる。
「アリスとは、お父様の中だけに生きる少女。夢の少女。
どんな花よりも気高くて
どんな宝石よりも無垢で
一点の穢れもない
世界中のどんな少女でも敵わない程の至高の美しさを持った少女。
確かにローザミスティカを全て集めれば、そのアリスになれるわ。でも、お父様はおっ
しゃったの。アリスゲームだけが、アリスになる方法ではない、と」
「少女って・・・えっ!?他の方法って、まさか、それじゃあ」
「そのとーりですぅ!アリスになるためには、ローザミスティカが7つ集まらなくても、
というか集める必要もないんです!」
「えー!?って、ちょっと待ってよ、それじゃ、あなた達二人が、みんながそんな、アリ
スとかいう『究極の少女』なんかになったら」
ジュンの言葉にルイズの顔は青ざめ、全身に冷たい汗が流れる。
そんなルイズを前に、真紅と翠星石は腰に手を当てふんぞり返る。
ビシッ
今度はルイズが真紅と翠星石に杖を向けた。
「負けない・・・負けないんだから!
いーい?アリスがどんなのか知らないけど、今はあたしが一番有利な地位にあるんだか
らね!」
「望む所だわ!」「正々堂々、女の戦いをするですよっ!!」
ステッキと如雨露と杖が、力強く交差する。
そんな修羅場を見せつけられてるジュンは、はあぁ~~っと、特大の溜め息をついてし
まった。
「おめえ、きっと女難の相が憑いてんだろうなぁ」
「デル公・・・」
気力が尽きたジュンの目が、壁に立てかけられたデルフリンガーを見る。
「なんで、真紅達を止めてくれなかったの?」
「・・・俺だって、巻き添え喰らいたくねぇよ」
「そんな空気、読まなくていいのに」
「すまねぇ。ところで、実は今、庭に・・・だな」
「庭?」
ジュンは、ひょいと庭へ目を向けた。
「え~っと・・・諸君。そろそろ、いいだろうか?」
庭から、妙に緊張感のない、そして聞き覚えのある声がした。
テラスの向こう、ルイズ達が降り立った庭に、穴が開いていた。
その穴からひょっこり顔を覗かせていたのは、ジャイアントモールのヴェルダンデ。そ
してギーシュ。
なんだかギーシュもヴェルダンデも、ひじょお~に気まずそうに、あさっての方を向い
ていた。
場を、沈黙が支配する。
誰も、何も言えない。動けない。
ジュンが、やっとのことで、頬を引きつらせながら口を開けた。
「ぎ、ぃ~しゅ、さん?」
「う、うむ、何かな?『ミスタ・ゼロ』」
ギーシュも、赤く染めた頬をポリポリかきながら答える。
「い、いい、いつから、そこに、いました、か?」
「うむ、いつからだったカナ?なあ、ヴェルダンデ」
聞かれた大モグラが頭をひねり、しばらくして、何かを熱く抱擁するようなゼスチャー
をした。
「う、うん、そうだね。その辺りから、だったかな?いやー、いいものを見せて」
ギーシュの言葉は、最後まで語られる事はなかった。
彼は、ルイズと真紅と翠星石に、一瞬でギタギタにされてしまった。
「だ、だって、しょうがないじゃないか!いつ敵が来るかも分からないから、立ち去るわ
けにもいかないし。かといって声をかけられる雰囲気じゃないし!」
バコッ
ルイズのミドルキックが彼の尻に炸裂する。
「言い訳してないで、早く案内なさい!」
「あうう、せっかく迎えに来たのに、酷いよ君たち・・・」
ギーシュはボロボロにされた体を引きずって、地中の穴へルイズ達を案内していた。
所々に灯りがともされ、人間二人が横に並んで歩けるほどの通路が続いている。通路は
木枠で補強が入れられ、あちこちに分かれ道もあった。天井には空気穴、灯りの炎が常に
揺れているので、換気も完璧らしい。
翠星石を抱えるルイズが、珍しげに地下通路を見渡す。
「へぇ~、知らなかったなぁ。まさかトリスタニアの地下に、こんな秘密の通路があった
なんて」
「いや、無かったよ」
ヴェルダンデを後ろに従えたギーシュの言葉に、案内される全員が「?」となった。
「これはね、この数日でヴェルダンデが作ってくれたんだ」
「・・・数日で、作ったというの?こんな果てしなく長い通路を、冗談でしょう?」
「ふっはははは!!それが冗談ではないのだよ、『ルビー・ゼロ』よ!」
ギーシュは、ジュンに抱えられた真紅に向かって高笑いしながら胸を張った。
「忘れたのかい?諸君、わが使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデは、地中を馬並
みの速さで走れるのだよ!
我がグラモン家が軍を率いてトリスタニアに来て以来、ヴェルダンデは街の地下を走り
回ってくれたんだ。そして出来た穴に国中のメイジと平民が総掛かりで補強を入れ、拡張
し、そして僅か数日で作り上げたのだよっ!
君たち『ゼロ』に匹敵するトリステインの切り札、この巨大地下要塞『ヴェル・ギー』
をねっ!!」
「お、おでれーた。まさかおめーさん達が、そんなスゲェ事できるたぁなぁ」
ジュンの背のデルフリンガーも、あのちょっと抜けた優男だったはずのギーシュに、驚
きを隠せない。
その時、彼等の頭上から地響きが聞こえてきた。パラパラと土が天井から落ちてくる。
「ふふふふ、始まったようだ。さあ、君たち空海軍の仕事は終わりだ。次は、我々陸軍の
出番だよ!」
トリステイン城門前、夕方。
アルビオン陸戦隊五千は、トリステイン軍二万に完全包囲されていた。
陸戦隊は当初、まったく何の抵抗もなく城門前に到着した。彼等の前には、城門を固く
閉ざし、城壁から大砲を向けるトリステイン城だけが見えていた。
だが、索敵をしていたメイジ、特に土系メイジ達が、ホーキンス将軍の下へ緊急の報告
を持って駆けてきた。
「大変ですっ!地中から、地下10メイル以下に、敵です!!」
「へぇ、なるほど。やつら塹壕にも立て籠もっているのか」
「ちっ違いますっ!!」
ノンビリ飄々としたホーキンスに、報告に来たメイジは一気にまくし立てた。
「塹壕なんて、そんなモノではありませんっ!!我々の周囲を地中から完全に包囲してい
ます!!
やつらは我々土メイジの索敵範囲外から、ずっと地中を移動していたのですっ!!信じ
がたい程に広範囲の地下通路、いえ、地下要塞が!ご丁寧にも、わざわざ我々の進軍ルー
トを予想して、それを避けて構築されていたんですぅっっ!!!」
「なっ!?・・・」
その報告を聞き終えると同時に、陸戦隊の周囲4方向から地鳴りが響いてきた。
陸戦隊の左右、そして斜め後方の左右から、20メイルはある土ゴーレム達が立ち上が
る。トライアングルクラスの土メイジ達が生み出した物だ。それぞれに、作成者の家の幟
が掲げてある。
おおおおおおおおおお・・・・・
そして、ゴーレムを生み出すために使用した地面の穴から、吹き出すように兵士達が雄
叫びと共に飛び出してきた。津波のごとき勢いで、陸戦隊に四方から襲いかかる。
ドドドドドンッッ!!
浮遊砲台からの砲撃が、ゴーレム達をバラバラに砕き、土くれに戻していく。
先陣を切る短槍隊が、大砲弾でえぐられた地面と一緒に宙へ吹き飛ばされる。
後に続く銃兵隊が、陸戦隊へ銃撃を開始する。同時に城壁からも砲撃が始まった。
旗艦『竜の巣』号から全ての竜騎兵が飛び立ち、地上へと降下する。
地上戦が始まった。
城門からの砲撃が、魔法が、巨大な弓が、地上へ向けて撃ち込まれる。
空からは浮遊砲台が城へ大砲を撃ち込み、炸裂弾や焼夷弾を落とす。
竜騎兵達が空から紅蓮の炎で、地上の兵士を小隊単位で焼き尽くしていく。
そして陸戦隊の周囲各所に空いた大穴が、トリステイン兵士を次々と吐き出す。
浮遊砲台からの支援砲火も、竜騎士達の炎も、陸戦隊からのあらゆる魔法も、地中から
止めどなく湧き出すトリステイン軍の勢いを阻む事が出来ない。
何より、トリステイン軍の大部分は、未だに地中に潜んでいる。おまけに陸戦隊のすぐ
近く、四方八方から這い出してくるため、敵味方が入り乱れて空からの支援砲火も有効な
打撃を与える事が出来なかった。
戦いは、完全な混戦に陥っていた。
トリステイン城、謁見の間。
玉座に座り続けるマリアンヌの前に、大勢のメイジや兵士達を連れたマザリーニが跪い
ていた。
「陛下!ここは危険です。どうぞ、地下へ待避して下さい」
「妾はここを動かぬ。それより、アンリエッタは」
「姫は既に、城外へ」
「よろしい。マザリーニ、早くそなたも行くのです!」
「・・・聞けません」
「愚か者!死ぬ気ですか!?」
「陛下と同じです。下々の者を死地に追いやって、何故のうのうと逃げおおせる事が出来
ますか?」
「・・・口が過ぎました、許して下さい。教皇の地位を捨ててまでトリステインに尽くし
てくれたそなたを、愚弄するなど」
「そのお言葉だけで十分にございます」
彼等のいる謁見の間にも、城に直撃する大砲弾の振動が響いてくる。そんな中、女王と
枢機卿は、国に殉ずるが如く逃げようとしない。
枢機卿が引き連れていた警護の兵士とメイジ達が、目配せし合い、頷きあった。王女の
命に反する事になろうとも、彼等を捕縛してでも脱出させるために。
そんな城門側の激戦と火災をよそに、天守を挟んだ反対側には人はほとんどいなかった。
ただ一人いたのは、城壁の上のリッシュモンだ。
彼は手鏡を掲げ、『竜の巣』号へ夕日の光を断続的に送っていた。
「誘導ご苦労様。もういいわ」
突然、リッシュモンの背後から声がした。
慌てて杖を持って振り向いたが、そこには誰もいなかった。
「『不可視のマント』よ。気にしないで」
何もない空間に、ほんのちょっとだけ女性の口元が現れた。口の端を釣り上げて笑うそ
の人物は、シェフィールドだ。
「驚かさんでくれ。こんな所で鏡を掲げているだけで、危険極まりないのだぞ」
「申し訳ありません。それにしても、あの地下要塞…どうして教えて下さらなかったのか
しら?」
「あ、ああ。あれは最後の報告後に構築が決まったんだ。以後は連絡の方法が無かったか
らな」
「そうですか。まあ、いいでしょう」
そういってシェフィールドは、再び姿を消した。ただ声だけが響いてくる。
「後は私の仕事。あなたは早く逃げる事ね・・・」
城壁に一人の超されたリッシュモンは、慌てて城の地下へと走っていった。
トリステイン城西方、地下20メイル。地下要塞『ヴェル・ギー』中央司令部。
巨大なデスクの上に広げられた地図を杖で指し示しながら、将軍や元帥達が指示を飛ば
している。上座に座っている総司令官ド・ポワチエ大将が、額に血管を浮かべながら机を
殴りつけた。
「陛下は!何故待避して下さらぬっ!既に軍司令部も国家機能も、この要塞と周辺都市に
移したのだぞ!?もはやあの城は、ただの飾りだというのに!!」
「飾りだからこそ、でしょう。城に旗を掲げれば、それは戦争での勝利を世に知らしめま
すからな」
「やかましいぃっ!!ウィンプフェン!早く陛下と枢機卿をお連れするのだっ!多少、手
荒な手を使っても構わんっ!」
「はっはいっ!」
将軍に怒鳴りつけられたウィンプフェンは、大慌てで司令部を飛び出していった。
はぁっはぁっはぁ・・・全く、陛下も鳥の骨も、頭が固すぎる。陛下に何かあれば、
ワシの元帥への昇進もへったくれもないじゃないか!
コップの水を一気飲みしながら、将軍は自分の元帥昇進どころか、地位すら危うくなっ
ている現実を頭に浮かべている。もはや怒りを抑えきれなかった。
そんな熱気と怒気と殺気が充満する司令部の片隅で、どよめきと拍手が湧いた。
ようやく落ち着いたド・ポワチエが視線を向けると、そこにはギーシュに連れられたル
イズ達が歩いてきていた。司令部にいた全員が杖と剣から手を離し、拍手と声援で彼等を
迎えている。
ド・ポワチエは慌てて彼等に駆け寄った。
「おお!ミス・ゼロよっ!ご無事だったか、いやぁよかった!
ミスタ・グラモン、よくぞ彼等を救出してくれた!諸君の、その全身の傷。やはり敵の
追撃隊と、激しい戦闘があったのだな?」
「うえぇっ!?えと、その・・・ぎにゃっ!」
口ごもるギーシュは、ルイズと真紅と翠星石に、思いっきり尻をつねられた。
「はぅい!そ、それはもう、追いすがる竜騎兵を振り切って、はい!」
「そうかそうか!ともかく、無事で何より!さぁ、奥に部屋を用意させよう。今はとにか
く休んでくれたまえ。
ああ!もちろん諸君等の働きは見事だった!皆、地上から見ていたよっ!戦艦7隻!数
え切れないほどの竜騎兵!一体どれ程の叙勲をすればよいものか、検討もつかんっ!
諸君等のおかげで我らは、地に伏し身を隠し、泥沼の長期戦に持ち込む必要が無くなっ
たのだよ!地上の陸戦隊を全滅させれば、一気に勝利をもぎ取る事ができるからなっ!戦
いが終わったら、叙勲申請をしておくともっ!
さぁ諸君!英雄達を拍手で送りたまえ!!」
一気にまくし立てたド・ポワチエに、嵐のような拍手。
ルイズ達は、何も言う事も聞く事も出来ない雰囲気の中、ギーシュに連れられて司令部
を後にした。
「お見事でしたよ、ミス・ヴァリエール」
「あら!ミス・シュヴルーズ。ご無事でしたか!」
ギーシュに案内されるルイズ達の前に現れたのは、学院の教師で土のトライアングル、
「赤土」のシュヴルーズ。ニコニコと微笑みながら、ルイズの手を取り再会と健闘を喜ん
でいる。
そして彼女の後ろにいる若い男性にジュンが気付いた。
「あ、ギトー先生も。お久しぶりです」
ペコリと頭を下げたジュンに、「疾風」ギトーは少し頷いただけだった。
ギーシュが相変わらずのキザッたらしいポーズを決めながら、二人の紹介を始めた。
「説明しておこう!このお二方は、僕が築いた地下要塞『ヴェル・ギー』の運営を任され
ているのだよ!」
「そうなのですよ、ミス・ヴァリエール。私の土系統で、この要塞の補強や拡張、通路の
開閉を行っているの」
「そして私の風の魔法が、この巨大な通路全体に風を起こし、外の空気を取り込んでいる
のだ。でなければ、こんな狭苦しい場所に万もの人がいれば、あっという間に窒息してし
まう。
・・・何故だ、なんで私がこんな地味な仕事を!私の『遍在』で、竜巻で、地上の侵略
者共を!」
肩を震わせるギトーを、まぁまぁとシュヴルーズがなだめる。ルイズ達は二人に礼をし
て、部屋へ案内された。
「さっ、ここは貴賓室として作られた部屋だよ。ここでゆっくり・・・」
と言って扉を開けようとしたギーシュを、走ってきた兵士が突き飛ばしていった。
「こっこら!貴様、僕を誰だと!」
「も、申し訳ありません!緊急事態なんで・・・」
と言って兵士は走り去っていった。
顔を見合わせた彼等に、遠くで大声を上げるのが聞こえる。
急に・・・城壁に、敵兵が・・・城内に侵入・・・ガーゴイルの大群・・・
戦局は、再び動いた。
シェフィールドが生み出した『スキルニル』の兵士達が、いきなり城壁の兵士とメイジ
達を背後から襲ったのだ。完全に虚をつかれた彼等は、更に浮遊砲台からの砲撃と火竜の
ブレスに灼かれ、瞬く間に数を減らしていった。主力が地下要塞に移っていた事も災いし
て、今や城門近くにすら魔法人形の侵入を許してしまっていた。
そして―――
「城門が開いたぞっ!突撃ぃーーー!!!」
ホーキンスの号令を待つまでもなく、陸戦隊は城内へ流れ込んだ。
その報告を受けた総司令官は、全身から血の気が引いていった。
「まずいっ!この地下司令部への直通路が開きっぱなしではないかっ!第一、城内には、
まだ陛下が!
者どもぉっ!上だっ!突撃ぃーーー!!」
戦いは、とうとうトリステイン城内へ移った。
あちこちで火の手が上がる城内は、もはや混乱の極みにあった。
杖が、矢が、剣が、槍が、魔法が、銃が、椅子が、鍋が、本が、燭台が、包丁が、こわ
れた扉が、その辺に落ちていた石ころが、松明が、宝箱と中の金貨が宝石が。
武器となりうる全ての物が飛び交い、火花を散らして激突し、血しぶきをまき散らし、
肉を焼き、心臓を凍らせ、骨を砕く。
ある者は魔法人形の持つメイスに頭を潰された。
またある者は『ジャベリン』で陸戦隊数人をまとめて串刺しにした。
そしてまたある者は浮遊砲台からの砲弾が直撃し、上半身が消えた。
砲撃で崩れ落ちた天井に、敵味方無関係に潰された。
煙に巻かれて窒息した者もいる。
だが、混乱した城内にも、戦いの中心となる存在がいた。全ての殺戮は、その存在を中
心に展開していた。トリステイン王国の大后マリアンヌだ。
「陛下!こちらです、お急ぎ下さい!!」
「く・・・なんたる屈辱!我が城が、敵に土足で踏みにじられようとは」
ここにいたり、ようやくマリアンヌも待避を受け入れた。護衛に囲まれて、枢機卿と共
に地下司令部への直通路を目指す。
「いたぞ!女王だっ!!」
「くそっ!者ども、構えぃっ!!」
だが、彼等の前に侵入してきた陸戦隊が立ち塞がった。その数、王女の護衛達とほぼ同
数。
双方とも、前衛に槍と剣と盾を構えた兵士達、中衛に銃とボウガンを構えた銃士隊、後
衛にメイジ達が3列に展開する。
うぅおおおああああああっっ!!
雄叫びと共に双方の銃と弓が、前衛の兵士の隙間から放たれる。半分は盾に跳ね返され、
残り半分は兵士達の肉体によって阻まれる。そして後衛のメイジ達のルーンが詠唱を終え、
魔法が正面から激突した!
ずどどどどどどおぉぉぉ・・・
「陛下、さぁ、こちらです!お早くっ!!」
風と冷気と炎と雷がぶつかり合う通路を背にして、数名のみの護衛に率いられた女王と
枢機卿が別の通路を目指そうとした。
だが
「ちぃっ!ここにまでっ!」
彼等の背後には、巨大な斧やボウガンを手にした兵士達が向かってきていた。
とっさに数名の護衛と枢機卿が、女王の前に立つ。
女王をかばう彼等に、容赦なくボウガンが放たれ、護衛は次々と倒れていく!
「女王!お命もらったぁっ!!」
凶悪な光を放つハルバードが、マリアンヌをかばう枢機卿ごと切り裂くべく振り上げら
れ
「ぐはっ!」
振り下ろされることなく、兵士の背後にガランと音を立てて落ちた。
斧を持っていた両の手には、棒手裏剣が何本も突き刺さっていた。
手を押さえて振り返った兵士の首と目にも、棒手裏剣が一本づつ、深々と突き立つ。
絶命して倒れた兵士の向こうには、倒れた兵士達の中に立つ少年がいた。
血に濡れたデルフリンガーを左手に、メリケンサックと棒手裏剣を右手に、ボウガンを
構えていた兵士達の返り血に濡れたジュンが立っている。
ジュンは一瞬で飛び出し、女王と枢機卿を背にし、未だに戦う陸戦隊と護衛達へ向かっ
て立つ。そしてデルフリンガーを横一文字に構える。
その刀身に、飛んできた火球と氷が吸い込まれていった。
さらに棒手裏剣を抜き放ち、陸戦隊員を正確に撃ち抜き続ける。
戦闘は終わり、女王達は危機を脱した。後には全滅した陸戦隊小隊の死体が残った。
とたんに、ジュンは膝から崩れ落ちた。
「だっ大丈夫かサクラダ殿!」「ミスタ・ゼロよ!もう大丈夫です、気をしっかり!」
女王と枢機卿、そして生き残った護衛の人々に囲まれたジュンは、一言。
「もう動けないぃ~~~~」
「ははっ!ジュンよ、よく頑張ったぜぇ!おめぇの剣としても鼻がたけぇやっ!」
左手のルーンは、完全に光を失った。
ジューン!どこいったのーっ!こらー私達を置いていくなんて信じられんですぅー
遠くからは、ルイズ達の声も近づいてくる。
「まったくもう、本当に無茶するわねぇ!」「ほら、女王の前よ、しっかり立ちなさい」
「そんなバカなことしてたら、あたし達に振られちゃうですよ!?」
護衛の兵士達に両脇を支えられ、ジュンはどうにかこうにか女王達と一緒に地下通路へ
向かっていた。憎まれ口を叩きつつも、ルイズ達は心配げにジュンを見つめている。
そして、女王一行が城門側が見える窓の横をさしかかった時、それは起こった。
ドドドドドドッドドドドドッドドドンッッッ!!!
突如、空からひときわ大きな爆発音が、連続で響き渡った。
空の上では、浮遊砲台9隻と『竜の巣』号が、穴だらけになり火を噴いた。
さらに轟音は続き、穴がどんどん増え、火災は爆発へと繋がっていく。
あっという間に、陸戦隊を支援していた船が焼け落ち、墜落していった。
地上のアルビオン陸戦隊も、トリステイン陸軍も、宙を舞っていた竜騎兵も、郊外の林
にいた金糸雀と水銀燈と草笛も、女王達一行も。何が起きたのか分からなかった。
この時点で何が起きたのか把握出来たのは、トリスタニア上空にいた人々。学院からシ
ルフィードに乗って飛んできたタバサ、キュルケ、コルベール、アニエス、シエスタ、モ
ンモランシーだけだった。
キュルケ達の目には、信じられないものが映っていた。
「バイラテラル・フロッテ・・・」
タバサのつぶやきに、誰も答える事が出来ない。
そこには、夕日に浮かぶ戦列艦がいた。
全ての艦に交差する二本の杖、ガリアの旗だ。
ガリアが誇る両用艦隊が、いつの間にかトリスタニア上空にいた。その数、50。
まるで観艦式のように、見事な機動で並んでいる。
しかも、浮遊砲台列へ一斉砲火を加え、あっという間に全て撃墜してしまった。
その戦列艦の中に、ひときわ大きな艦がいた。全長150メイルの巨大木製空中戦列艦
『シャルル・オルレアン』号だ。
その艦の船首に、一人の人間が立っている。
おーーーーーほほほほほほおほほほほほほほほほほほほほほっ!
船首の人物は、下品な高笑いを地上まで響かせた。
トリステインのみぃなぁさぁまぁ~~~。よおーーーっく聞きなさい。
恐れ多くもこの!ガリアの美しく気高き王女!イザベラ様が!
わぁざぁわぁざ、助けに来てあげましたのよーーーーーっっ!!!
心の底から感謝しなさぁーーい!おほほーーほほほほおーーほほほほほっほほ!!
地上の人々は、敵も味方も等しく、あんぐりと開いた口が閉まらなかった。
ルイズ達は、腰が抜けた。
タバサとキュルケだけが、かろうじて状況を理解しようと頭を捻っていた。
「あ、え、ちょっと!待ってよぉっ!!どういう事よ!?ガリアは、あんだけ脅しをかけ
たのよおっ!!それが、なんでぇ!????」
「敵に、させないため、王宮を、襲った・・・から、味方に、なる、みたい」
「なうぐぅおぉっ!?そんな、そんなの、ありぃっ!?」
「・・・あり」
「ど、でぅ、だっ第一、アルビオンは、レコン・キスタは!ガリアの手下でしょーがっ!
あんな見事な作戦を立てるための情報は、ガリア王宮がバックにいない限り、絶対に手に
入らないわよ!!」
「ハルケギニアの覇権と、ローゼンメイデン・・・どっちか手にはいるとしたら、どっち
がいい?」
「んぎゃ」
ここまで話が進んで、ようやくコルベールが事態を理解した。
「え~っと、つまり彼等は、ローゼンメイデンを、選んだ・・・という事かな?でも、敵
にしたくはないから、まずは仲間になろう、と・・・」
タバサは、コクリと頷く。
アニエスも、ようやく我に返った。
「ちょちょちょっと待たれよっ!!だが、そのレコン・キスタがトリステインに攻め込ん
だのだぞ!仲間になるどころか・・・」
「ガリアとレコン・キスタの繋がりを示す証拠は、無い」
「なーなーなー無いって、それは、そうだろうが」
「あるのは、ガリアが、レコン・キスタからトリステインを救ったという事実、だけ」
「がーっ!」
アニエスは、彼女らしくもなく、両手で頭をかきむしる。
シエスタとモンモランシーは、もう頭が真っ白。
地上でも、同じ事をジュン達が考えていた。
「・・・やられた、な」
真紅は、もうお手上げ。
「やられた、わね。・・・なんて手の込んだ、強引な、まわりくどい仲直りなの!?」
翠星石が、キョトンとする。
「と、言う事は、どうすれば良いですか?」
枢機卿が答えた。
「ガリア王家に頭を下げて、援軍を送ってくれた礼をすべき、と言う事だ」
女王がぼやいた。
「全てはガリアの無能王が仕組んだ筋書き通り、ということですわね」
ルイズが、いやぁ~な未来像を思い描いた。
「おまけに、あのイザベラとも、仲良く握手しなくちゃいけない、のね・・・」
デルフリンガーは、もう、呆れかえっていた。
「お、おで、れーたなんて、もんじゃあねぇな、こりゃ」
だが周囲の護衛達は、いや、全トリステイン軍が同じ事を叫んだ。
「終わった・・・戦争は、終わったんだあーーーーーっっっ!!!」
トリステインは、歓喜の渦に包まれた。
夕日の中、イザベラの高笑いも響き渡る。
こうして、神聖アルビオン共和国とトリステインの戦争は終結した。
城壁の片隅で、シェフィールドもニッコリ微笑んでいる。
「うふふふ、今回はジョゼフさまの勝ちよ。また遊びましょうね」
シェフィールドことミョズニトニルンは、再び宙に消えていった。
―――この戦いは、後世に「薔薇戦争」と呼ばれた。
「薔薇」というのは『たった一機でアルビオン艦隊を半壊に追い込んだゼロ戦に乗る薔
薇乙女』とも、『地下要塞を築いたギーシュ・ド・グラモンのトレードマーク』とも言わ
れている。その双方を指す、と一般には考えられている。
戦力的にはアルビオンが圧倒しながら、トリステインが最後まで互角の戦いを見せた事
は、多くの歴史・戦史研究家達に希有な研究素材として受け入れられている。また、たっ
た2人の貴族と平民、一週間前まで一介の学生に過ぎなかった少女と少年が、神話級の戦
果を上げた事から、英雄物語としても永久に語り継がれる事となる―――
第4話 乙女達 END
第五部 終
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