あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

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  四人が学院長室を辞した後、風見はコルベールの部屋に誘われていた。どうやら彼は、二人が元いた“異世界”に多大なる興味があるらしい。 
  才人も、風見について行くべきか迷ったが、やめておいた。 
  彼にとっては、自分がTVの再放送で観ていたヒーローが、一人の人間として、当然のように自分の隣にいるという現実は、この魔法の国以上に受け入れがたいものだったからだ。 
 
 ――ひょっとして俺は、本当は今頃、病院の集中治療室で、植物状態になって、覚めない悪夢でも見ている最中なんじゃないか? 
 
  風見を見ていると、そんな想像が頭をよぎり、気が狂ってしまいそうになってくる。 
  だったら、かなりムカつく女ではあるが、まだコイツと一緒にいる方がマシかも知れない。そう思ってしまう。 
  幸い――かどうかはともかく、少女は部屋までついてこい、と言う。 
  御主人様のお供を務めるのは、使い魔の当然の義務だと。 
  才人は――やっぱりムカついたが―― 一応素直について行くことにした。 
 「おいルイズ、“それ”が今日の『サモン・サーヴァント』で笑わせてくれた平民か?」 
 「スッゲェな、お前。どこまで俺たちを楽しませれば気が済むんだ?」 
 「公爵家の御令嬢は、何事にも手を抜くって事を知らないらしいからな」 
 
  学院長室からの帰り、女子寮のルイズの個室に向かう道すがら、才人を従えた彼女は、こんな調子の嘲りを、何度も浴びせられていた。 
  どうやら、彼女が平民を使い魔として召喚したという珍事件は、もはや全校に知れ渡っているらしく、廊下で顔を合わせた者たちの殆どが、自分たちに後ろ指を差す。 
  聞こえよがしな悪口を言ってくる連中だけでも7~8人。いや、それ以上に、眼引きし、袖引き合い、聞こえぬように失笑冷笑を送ってくる者数れず。 
  しかし、ルイズは、そのいずれにも取り合わず、毅然と胸を反らして廊下を闊歩する。 
  才人は、最初のうちこそ、ザマア見やがれと思わぬでもなかったが、そのうちさすがに気が引けてきた。 
 
 「お前……ひょっとしてイジメられてんのか?」 
 「――違うわ」 
 「でも、よう……ちょっとコレ、ひどいんじゃね?」 
 「バカは相手にしない主義なの。だから何を言われても、気にはならないわ」 
  ルイズは、振り返りもせず言い捨てたが、その肩が震えているのが、才人には見えた。 
 「泣いてんのか……?」 
 「泣いてないわよバカァッ!!」 
  そう言いながら才人に向き直ったルイズの瞳は、確かに涙で潤んでいた――しかし、その形相は、とても『イジメられて泣かされた女の子』といった、しおらしいものではなかった。 
 「なんでなの……!?」 
 「――え?」 
 「なんでアンタなの……? なんで平民なの……!? 今度の『サモン・サーヴァント』は、わたしが……わたしが『ゼロ』じゃないって証明する、最大のチャンスだったのよ……!! なのに、なんで……なんでアンタなんかがノコノコきちゃうのよぉっ!!」 
 
  むちゃくちゃ言うな。 
  そんなこと俺が知るか。 
  無理やり勝手に、俺を召喚したのはテメエじゃねえか。 
 
 ――普段の才人ならば、たちまち、そう言い返しただろう。 
  しかし、この場合、誰がそれを言えただろう。 
  必死に涙をこらえて、全身を震わせながら自分を睨み据える、この小柄な少女に。 
 
 「――すまん」 
 
  才人は謝っていた。 
  この少女の言い分は、理不尽極まりない。そんな事は分かっていた。 
  しかし――自分が召喚に“応じた”ことで、この少女の名誉を毀損したというのも、また、一面の事実なのだ。そう思った瞬間、思いが素直に口から出ていた。 
 
 「え……?」 
  しかし、才人のこの反応は彼女にとって、かなり意外だったらしく、一瞬、その形相から険が抜ける。 
  だが……。 
 
 ――おいおい、『ゼロ』のルイズが、今度は平民に八つ当たりしてるぜ? 
 ――おおかた、給料の額で揉めたんじゃねえのぉ。 
 ――給料って、使い魔のか? 
 ――ちげ~よ、使い魔の『フリをしてもらう』給料だよっ!! 
 ――ぎゃはははははっ!! 
  これ以上は無いほどにあからさまな侮辱の声が、廊下の向こうから響き、ルイズは再び唇を噛みしめると、拒絶するように才人に背を向けた。 
 
 
  校舎を出て、女子寮へと続く渡り廊下を歩いている時だった。 
  見事な巻き毛とそばかすの少女と、フリルのついたシャツの胸ポケットに薔薇を挿した、キザったらしい少年のカップルとすれ違った。 
 「――ほら、あれが例の……くくっ」 
 「ダメよギーシュ、笑っちゃ可哀想よ……ふふっ」 
  ルイズの肩が、また、かすかに震える。 
 
  その瞬間、才人の中で何かが切れた。 
 
 「オイ待てよ!」 
  そう言うや否や、才人はすれ違った少年の頬に、渾身の右ストレートを叩き込んでいた。 
 
 「ぴぎゃっ!!」 
 
  才人の右拳は、振り向こうとしていた少年にとって、丁度カウンターになったらしく、2・3m転がって、彼は、そのまま動かなくなった。 
  突然の出来事に、少年の隣にいたカノジョも、数秒間ほど呆然としていたが、やがて悲鳴をあげて、ギーシュと呼ばれた少年の元へと駆け寄る。 
 「ギーシュ! ギーシュ!! しっかりしてギーシュ!! ――ちょっとアンタ、いったい、一体何をするのよっ!?」 
 
  巻き毛の少女が、才人を睨みつけた瞬間、ようやくルイズの時間も動き出したようだった。少女と才人の間に入り、彼の胸倉を掴み上げる。 
 「なっ、何やってるのよアンタっ!! ……あっ、あのっ、ごめんなさいモンモランシー、 すぐにコイツにも謝らせるからっ!!」 
 「……」 
 「なに黙ってるのよっ!! 早く、早く謝りなさいって言ってるのよっ!!」 
 「……」 
 「平民っ!! 御主人様の命令が聞こえないのっ!?」 
 「『ヘイミン』じゃねえっ!!」 
  まさか自分が怒鳴られるとは思わなかったのだろう。ルイズは、びくりと震えて彼の胸倉から手を離した。 
 「俺の名前は『ヒラガサイト』だ!! 『ヘイミン』なんて呼び方するんじゃねえっ!!」 
 「じゃあ、君は自分が平民じゃない、とでも言いたいのかい……!?」 
  声のした方向に才人が目をやると、少年――ギーシュが唇から血を流しながら上体を起こそうとしているところだった。 
  モンモランシーと呼ばれた少女が、彼の腫れ上がった頬に手を当て、何かを小声で唱えている。すると、見る見るうちに少年の傷が癒えてゆく。 
 (また“魔法”か、――くそっ!!) 
  しかし才人は、その奇跡の業を見ながらも、何故か自分の戦意が止む事は無かった。 
 
 「人を後ろから不意打ちして、恥じもせず名乗りをあげるなんて、いかにも平民に相応しい下品さだと思うがね」 
 「女の子を平気で傷つけて恥じないような貴族サマよりは、かなりマシだと思うがな」 
 
 「え……?」 
  その言葉を聞いて、ようやくルイズは理解した。 
  この平民が、他の誰でもない、自分のために怒ってくれているのだ、と。 
  さっきまで、さんざん罵りあい、つかみ合いをしていたはずの、自分のために。 
  何よりも、さっきあれだけ理不尽な言葉を投げつけた自分のために。 
 「なん、で……?」 
  しかし、才人が、その問いに答える事は無かった。 
 
 「言ったな、平民……!!」 
  ギーシュの瞳に、凶暴な光が宿る。 
  しかし才人も、全く気圧される事無くギーシュを睨み返す。その眼差しには、もはや何の躊躇いも無い。 
 
 「どうした? 来いよ貴族サマ。まさかコレで終わりってワケじゃないんだろ?」 
 「あわてるなよ平民」 
  ギーシュはズボンのポケットから左手の手袋を取り出し、才人に投げつけた。 
 「ぎっ、ギーシュっ!!」 
  ルイズが悲鳴のような声を上げる。 
 「――決闘だ。30分後にヴェストリの広場で待っている。来たまえ」 
 「……上等だよ」 
 「その意気だ。逃げるなよ平民!」 
  それだけ言うと、彼はきびすを返して立ち去った。 
 「誰が逃げるか、この――」 
 「――逃げなさいっ!!」 
 
  ルイズの顔は、蒼白になっていた。 
 「いいからっ、いいから逃げなさいっ!! でないとアンタ、本当に殺されちゃうわっ!!」 
 「もう、遅いわよ」 
  半狂乱になって、才人の服を引っ張るルイズの背後から、モンモランシーが冷たく言い放つ。 
 「ギーシュは手袋を投げつけた。――平民のアンタが知ってるかどうか分からないけど、これは、決闘に於ける正式な作法なの。逃げる事など認められないわ」 
  そう言いながらモンモランシーは、瞳に嗜虐的な光を宿らせる。 
 「安心なさい。ギーシュはあれでも優しいから、いくら平民でも殺したりはしないわ。殺された方がマシだって目には遭うかも知れないけどね」 
 「でも、学院内での勝手な決闘は、校則で禁じられているはずよっ!!」 
 「それは貴族同士の場合でしょ? 校則は無礼討ちまで禁じてはいないわ」 
 「無礼討ちって――そんな……!!」 
 「勘違いしちゃダメよルイズ。この場合、あくまで先に手を出したのは、そこの平民の方なんだからね」 
 
  そう言い捨てると、モンモランシーはマントをなびかせて振り返り、ギーシュが去った方角に歩いてゆく。交渉はもう終わりだと言わんばかりに。 
 
 「待って、――ねえ、ちょっと待ってよモンモランシー! そんなこと言わないで。使い魔に代わって主のわたしが謝るから! このバカにも謝らせるから!! だからギーシュに機嫌を直すように言って!! お願い!!」 
  モンモランシーの背に、ルイズが叫ぶ。 
  その血を吐くような声に、さすがのモンモランシーも、ちょっと躊躇うものがあったのか、ちらりと才人に振り向く。 
 「御主人様はこう言ってるけど、あなたはどうしたいの、平民?」 
 「案内しろよ、テメエの彼氏のところへよ」 
 「つまり、謝罪する気は無いって事?」 
 「当然だろ」 
  モンモランシーは、やれやれとばかりに肩をすくめ、 
 「――だ、そうよ、『ゼロ』のルイズ。ホント躾がなってない使い魔ね」 
  そう言って、また歩き出し、才人も無言でそれに続く。そして彼を、さらにルイズが追う。「何で? 何で分かってくれないの? アンタ殺されるのよ? メイジの使う魔法がどういうものかって事は、コルベール先生の『ファイアボール』で見当付いてるでしょう!?」 
  そう言いながら才人を見上げるルイズは、もはや涙をこらえてはいなかった。 
  このときルイズを見下ろした才人は、この少女が意外なまでの美貌の所有者である事に、初めて気付いた。 
  桃色がかったブロンド。 
  さらさらの長髪。 
  きめ細かい白い肌。 
  鳶色の大きな瞳。 
 
  しかし、その瞬間、才人の脳裡に浮かんだのは、彼女がその美貌を歪ませた姿。 
 ――屈辱に肩を震わせ、唇を噛みしめ、必死になって涙をこらえる姿だった。 
 
  わからねえ。 
  何でだよ、何で、おれはこんなにたまらない気分になってるんだ!? 
  一体おれは何に腹を立ててるんだ!? 
  わからねえ! わからねえ! わからねえ!! 
 ――いや、ちがう。わかってる。答えは最初から出ていたはずなんだ。 
   
 「俺が死んだら……今度こそ、ちゃんとした使い魔を召喚しろよ」 
 
  女の子を泣かせる男は、最低だって事だ。 
  そんなクソ男をぶん殴るのに、理由なんざ必要ないって事だ!! 
 
 「仇はその時とってくれりゃあいい」 
 
  ぱーん。 
  平手打ちのいい音が響いた。 
 「アンタ……本気でそんなこと思ってたの……!? そんなこと考えて、わたしの心配を無視して勝手に、勝手に決闘なんかおっ始めようって言うの……!?」 
  その顔を支配していたのは怒り。 
  使い魔になる事を拒絶された時も、周囲から散々バカにされた時も浮かべなかった、純粋な怒り。 
 
 「死んじゃいなさい! あんたなんか、あんたなんか、死んじゃえばいいのよっ、このばかぁっ!!」 
 
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