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フーケの脱走から数日後、魔法学院はてんやわんやの騒ぎとなっていた。
それはフーケ脱走の報を聞いたからではない。
ゲルマニアを訪問していた王女アンリエッタがその帰りに急遽、魔法学院を訪問することとなったのだ。
教師も生徒もみな自分ができる限り身なりを整え、メイドたちも準備に追われ
調理場のコック達はできうる限りの最高の料理を用意しなければならなかった。
そしてそれはもちろんルイズも同じことであり自室で一人身なりを整えていた。
幼馴染でもあり親友でもあるアンリエッタの訪問であったがルイズの頭の中には常にあることが消えないでいた。
自身の召喚したあの亜人のことである。はっきり言って何一つ事態は進展していない。
フーケに深手を負わせ『破壊の銃』を持ち去ったのはおそらくあの亜人で間違いないだろう。
もしそのマジックアイテムをあの亜人が使いこなすことができるのなら相手はルイズの得体の知れぬ武器を手に入れたことになる。
はっきり言って暗く沈んだ気分のルイズであったがアンリエッタの前でそのようなところを見せるわけには行かない。
気持ちを何とか切り替え、ルイズは部屋を出た。
正門から多くの護衛を引き連れたアンリエッタの一行が入場してくる。
生徒も教師ももな一様にアンリエッタ姫殿下万歳、と声を張り上げる。
その声に応えアンリエッタが馬車の中より笑顔をみせながら優しく手を振る。
ルイズも同様にアンリエッタを『歓迎』していたがふと護衛のグリフォン隊の一人の顔を見ると
はっとした表情を浮かべた。それはルイズの婚約者でもあり現在魔法衛士隊のグリフォン隊隊長でもある
ワルド子爵その人であった。
盛大な歓迎会が終わった夜、自室でぼんやりとしていたルイズの部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」
ルイズが素っ気無く応えるとフードを深く被った人物が入ってきた。
背格好や体のラインから女性であることはわかるのだが顔が見えない。
「あの…あなたは?」
ルイズが怪訝そうに尋ねると女性が顔からフードを剥がした。現れた顔にルイズは頓狂な声を上げた。
「ひ、ひ、姫さまッ!!?ど、どうして!?」
ルイズがどもっているとアンリエッタが抱きついてきた。
「ああ、ルイズ本当に久しぶりだわ!私の大切なお友達!!」
それからしばしの間、二人は再会を喜びあった。
たわいもない昔話に花を咲かせたり、アンリエッタが王宮での窮屈さに不満を洩らしたり、と。
しばらく談笑していた二人であったが不意にアンリエッタが真面目な表情になった。
「ルイズ、実はあなたに報告することがあるのです」
「はい、姫さま」
「私はゲルマニアに嫁ぐこととなりました」
「そんな、あんな野蛮な成り上がりどもの国に!?」
「しかたないのです。ルイズ…実は今アルビオンの貴族達が不穏な動きをしています」
「アルビオン?今内乱状態になっているとは聞いていますが?」
「ええ、その通りよ。争っているのは王族派と貴族派、そしてその闘いはもうじき決着がつくでしょう。
貴族派の勝利という形で…」
アンリエッタが悔しそうに歯を食いしばる。王族派とは由緒正しきアルビオン王家であり
貴族派とは古くからの王家を打ち滅ぼしハルケギニアを統一しようと企む集団である。戦力でいえば貴族派の軍力は強大であり
王族派には全くといっていいほど勝ち目は無かった。
ルイズは事態が飲み込めた。つまりはアルビオンからの侵攻に備えての政略結婚なのだ。
美しい娘というのは政治において大きな武器ともなりうるのである。
「貴族派はこの動きをもう察知していると聞きます。そして私とゲルマニア皇帝の婚姻の妨げになるものを
血眼で探しているのです」
「もしかして……あるのですかそんな物が!?」
アンリエッタは小さく頷いた。
「ルイズ、あなたにお願いがあるの!それは今アルビオン王家のウェールズ皇太子が持っているはずです。
それを大使として訪れ持ち帰ってきて欲しいのです」
「姫さま……」
「もちろん最高の護衛をつけます。……そして今のあなたの状況も学院長から聞きました。
安心して。あなたが居ない間、全力を挙げてその召喚した使い魔を探し出して見せるわ」
「姫さま、断る理由などありません。この命に代えてもかならずお勤め果たして見せます!」
「ああルイズ、本当にごめんなさい。こんな危険なことをあなたに……でもあなたしか居ないの」
再びアンリエッタがルイズに泣きながら抱きついた。
ルイズとアンリエッタが再会したその夜、ブルドンネ街には夜中だというのに
衛士たちがいたる所に歩き回っていた。
その様子を一際高い教会の屋根の上から見下ろしている者がいた。
あの亜人だ。無論姿は消しているためそこに亜人がいると気づくもはいない。
「はぁー、随分探してるね相棒。いたる所に衛士だらけ。
……しかし自分の姿が透明になるってのはなんか不思議な感じだね。何千年も生きてきたが初めてだぜ」
亜人の腰に差された大剣の姿も亜人同様見えなくなっている。
「どうだい相棒?いっちょ違う所にでも行ってみねぇか?おいらの記憶によれば
南のほうに行けば港かなんかがあったと思うが……」
亜人は剣の言葉に小さく喉を鳴らした。
#navi(プレデター・ハルケギニア)
フーケの脱走から数日後、魔法学院はてんやわんやの騒ぎとなっていた。
それはフーケ脱走の報を聞いたからではない。
ゲルマニアを訪問していた王女アンリエッタがその帰りに急遽、魔法学院を訪問することとなったのだ。
教師も生徒もみな自分ができる限り身なりを整え、メイドたちも準備に追われ
調理場のコック達はできうる限りの最高の料理を用意しなければならなかった。
そしてそれはもちろんルイズも同じことであり自室で一人身なりを整えていた。
幼馴染でもあり親友でもあるアンリエッタの訪問であったがルイズの頭の中には常にあることが消えないでいた。
自身の召喚したあの亜人のことである。はっきり言って何一つ事態は進展していない。
フーケに深手を負わせ『破壊の銃』を持ち去ったのはおそらくあの亜人で間違いないだろう。
もしそのマジックアイテムをあの亜人が使いこなすことができるのなら相手はルイズの得体の知れぬ武器を手に入れたことになる。
はっきり言って暗く沈んだ気分のルイズであったがアンリエッタの前でそのようなところを見せるわけには行かない。
気持ちを何とか切り替え、ルイズは部屋を出た。
正門から多くの護衛を引き連れたアンリエッタの一行が入場してくる。
生徒も教師ももな一様にアンリエッタ姫殿下万歳、と声を張り上げる。
その声に応えアンリエッタが馬車の中より笑顔をみせながら優しく手を振る。
ルイズも同様にアンリエッタを『歓迎』していたがふと護衛のグリフォン隊の一人の顔を見ると
はっとした表情を浮かべた。それはルイズの婚約者でもあり現在魔法衛士隊のグリフォン隊隊長でもある
ワルド子爵その人であった。
盛大な歓迎会が終わった夜、自室でぼんやりとしていたルイズの部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」
ルイズが素っ気無く応えるとフードを深く被った人物が入ってきた。
背格好や体のラインから女性であることはわかるのだが顔が見えない。
「あの…あなたは?」
ルイズが怪訝そうに尋ねると女性が顔からフードを剥がした。現れた顔にルイズは頓狂な声を上げた。
「ひ、ひ、姫さまッ!!?ど、どうして!?」
ルイズがどもっているとアンリエッタが抱きついてきた。
「ああ、ルイズ本当に久しぶりだわ!私の大切なお友達!!」
それからしばしの間、二人は再会を喜びあった。
たわいもない昔話に花を咲かせたり、アンリエッタが王宮での窮屈さに不満を洩らしたり、と。
しばらく談笑していた二人であったが不意にアンリエッタが真面目な表情になった。
「ルイズ、実はあなたに報告することがあるのです」
「はい、姫さま」
「私はゲルマニアに嫁ぐこととなりました」
「そんな、あんな野蛮な成り上がりどもの国に!?」
「しかたないのです。ルイズ…実は今アルビオンの貴族達が不穏な動きをしています」
「アルビオン?今内乱状態になっているとは聞いていますが?」
「ええ、その通りよ。争っているのは王族派と貴族派、そしてその闘いはもうじき決着がつくでしょう。
貴族派の勝利という形で…」
アンリエッタが悔しそうに歯を食いしばる。王族派とは由緒正しきアルビオン王家であり
貴族派とは古くからの王家を打ち滅ぼしハルケギニアを統一しようと企む集団である。戦力でいえば貴族派の軍力は強大であり
王族派には全くといっていいほど勝ち目は無かった。
ルイズは事態が飲み込めた。つまりはアルビオンからの侵攻に備えての政略結婚なのだ。
美しい娘というのは政治において大きな武器ともなりうるのである。
「貴族派はこの動きをもう察知していると聞きます。そして私とゲルマニア皇帝の婚姻の妨げになるものを
血眼で探しているのです」
「もしかして……あるのですかそんな物が!?」
アンリエッタは小さく頷いた。
「ルイズ、あなたにお願いがあるの!それは今アルビオン王家のウェールズ皇太子が持っているはずです。
それを大使として訪れ持ち帰ってきて欲しいのです」
「姫さま……」
「もちろん最高の護衛をつけます。……そして今のあなたの状況も学院長から聞きました。
安心して。あなたが居ない間、全力を挙げてその召喚した使い魔を探し出して見せるわ」
「姫さま、断る理由などありません。この命に代えてもかならずお勤め果たして見せます!」
「ああルイズ、本当にごめんなさい。こんな危険なことをあなたに……でもあなたしか居ないの」
再びアンリエッタがルイズに泣きながら抱きついた。
ルイズとアンリエッタが再会したその夜、ブルドンネ街には夜中だというのに
衛士たちがいたる所に歩き回っていた。
その様子を一際高い教会の屋根の上から見下ろしている者がいた。
あの亜人だ。無論姿は消しているためそこに亜人がいると気づくもはいない。
「はぁー、随分探してるね相棒。いたる所に衛士だらけ。
……しかし自分の姿が透明になるってのはなんか不思議な感じだね。何千年も生きてきたが初めてだぜ」
亜人の腰に差された大剣の姿も亜人同様見えなくなっている。
「どうだい相棒?いっちょ違う所にでも行ってみねぇか?おいらの記憶によれば
南のほうに行けば港かなんかがあったと思うが……」
亜人は剣の言葉に小さく喉を鳴らした。
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