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「狼と虚無のメイジ-03」(2008/06/17 (火) 19:41:54) の最新版変更点
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#navi(狼と虚無のメイジ)
そのトリステイン魔法学院学生寮。
一室から「くしゅん」と可愛らしいくしゃみが聞こえた。
「うう、この姿は嫌いではないが、いかんせん寒い。毛が少なすぎる」
「マント羽織っただけじゃ当たり前じゃないの!あ~、しょうがないわね!」
頭を抱えながら、ルイズはクローゼットを漁る。下着の他、プラウスやスカートを手に取ると、ホロに向かって押し付けた。
よくよく見ればルイズのものと同じ、魔法学院の制服だ。おそらく予備のものだろう。
「とりあえず、これ着てて。勘違いしないでよね。心配してる訳じゃなくて、使い魔に風邪なんか引かれたら主人の沽券に関わるのよ」
「ふふ。そういうことにしておくかの」
「んなっ!?」
顔をまた赤くするルイズを横目に、ホロはぱぱっと着替えを終えた。
「うむ、さすが貴族と言う程のことはある。良い生地を使っておるの」
見せびらかす様に、ホロはくるりと回る。
「大きさもよい塩梅じゃな。どうじゃ。似合うかや」
むう、とルイズは言葉を飲み込んだ。悔しいけれど、似合っている。それに、可愛い。
仮にも貴族の息子や令嬢を預かる魔法学院だ。制服はシンプルとはいえ最高の素材を使っている。
ブラウスには貴族ご用達の100%シルク生地だし、スカートなどはグリフォンなど、幻獣の羽毛まで使われているのだ。
もちろん絹などの痛みやすい素材には固定化がかけられており、もし市場に出るような事になれば、相当な値がつくだろう。
それ程の一品をホロは身に纏っている訳だ。
ルイズ本来のペースならば「貴族の服が着れるなんて普通は一生ないんだからね!」などと自慢気に言うところだが、
ともすれば神々しさも伴うその可愛さに、どうにも言い出すきっかけがつかめない。
「雪のような上等の絹じゃ。黒だともっとわっちの髪も映えたんじゃが、まあ、よかろ。しかしこっちの腰巻は少しいただけんの。長さも短いし、巻いているところが丁度わっちの尻尾に当たる。穴をあけてよいかや?」
さらりと言うが、そうそう穴開きにしてよい安物ではない。ルイズはぶんぶんと首を振った。
「ふうむ。まあ、ずっとこれという訳にもいかぬしの。とりあえずはこれでよいじゃろ」
やや窮屈そうにしながらも、ホロはぽすんとベットに腰を落とした。
その動作があまりにも自然だったので、ルイズはまたも怒鳴る機会を失う。
「さっきから何を黙っておる。聞きたいことが、山とあるのであろ?」
「う゛……ま、まあ、その態度はゆくゆく教育するとして、主人の考えていることに気づいたのは褒めてあげるわ!」
よし、これなら主人としての威厳を保ちつつ、寛大さもアピールできた筈。と、ルイズはいつもの強気を取り戻す。
一方のホロは毛づくろいなどを始めていたが。
「じゃあまず……あんたは誰?どっから来たの?」
「ふむ、そうさの。ここに来る前はパスロエという村におったな。生まれは北の地でな。ヨイツ、てところじゃ」
「聞いたこと無いわね。でも、村ってことは凄い未開の地、って訳でもないのかしら……」
しかし、ルイズの知識では北方にそんな地名は聞いたことがない。少なくともトリステインには存在しないだろうし、
方角として北の大部分を占めるのはゲルマニアだ。
癪ではあるがゲルマニア出身の隣人に聞いてみようかと考えた時、ふと別のことが浮かんだ。
「でもそんな耳の亜人見たことも聞いたことも無いわよ?目立つだろうし、伝承ぐらいあると思うけど」
「さっきからよく聞くが、その「あじん」と言うのは何かの?」
「亜人は亜人よ。エルフとかオーク鬼とか、人間似た存在のこと。一度ぐらい見たことあるでしょ?」
「おとぎ話程度にの。人と化身以外にそんな者共がいると言うことも初耳じゃ」
「ちょっと待ちなさいよ、だったらあんたはなんなのよ!」
よくぞ聞いた、とでも言いたげに、ホロは牙を見せてにやりと笑った。
「今言うたであろ。人以外と言えば、化身。とな」
「化身?」
頭に相変わらず『?』マークを浮かべるルイズに、耳と尻尾を触りながら、ホロは言葉を続けた。
「わっちはこの耳と尻尾を見てわかるとおり、それはそれは気高き狼よ。仲間も、森の動物も、村の人間もわっちには一目置いていた。
この先っぽだけ白い尻尾はわっちの自慢じゃった。これを見れば皆が褒め称えたものよ。」
得意げな……しかし何処か遠くを見るような瞳だ。ともすれば虚言ともとれるその話に、ルイズは何故か聞き入っていた。
「この尖った耳も自慢じゃった。この耳はあらゆる災厄とあらゆる嘘を聞き漏らさず、たくさんの仲間達をたくさんの危機から救ってきた。
ヨイツの賢狼と言えば、それは他ならぬわっちのことよ」
ふん、と鼻をならしホロは堂々と胸をはった。
「ちょっと……待って。狼って、あんたどう見ても狼じゃないじゃない。そりゃあ、人じゃないのはわかるけど」
「あははは。確かにの。狼でも、今は人でもある。わっちゃあホロ以外の何者でもありゃあせん」
からからと笑うホロに対して、ルイズは目の前の存在に混乱していた。
聞けば聞くほどにわからない。
年齢は自分と同じぐらいなのに、人を惑わすような老獪さ。
しかも、話によれば狼の姿にもなれるという。
嘘と言えばそれまでだが、さっきの遠吠えは明らかに狼のもの。人が声真似のできる範囲を超えている。
「しょ……」
「うん?」
「証拠見せなさいよ!耳と尻尾だけじゃ本当かわかんないじゃない!化身っていうぐらいなんだから、狼にもなれるんでしょう!?」
ルイズが叫ぶと、ホロは少しの間ぽかんとしてから、ふと何かに気がついたような顔をした。
「ああ、ぬしはわっちに狼の姿を見せろと?」
暫しの思案の後、ホロは嫌そうな顔をした。「なれるのだけれど……云々」などと続けられるよりも説得力がある。
「嫌じゃ」
「な、なんでよ!」
「そっちこそなんでじゃ」
「そ、それは、その、私はあんたの主人だもの! 主人として、使い魔がどういう力を持っているか、知っておく必要があるわ! 使い魔の実力は
直接主人の実力と言われるぐらいなんだから!」
「……ふむ、そういえばそれも気になっておった。いつの間にかぬしが主人でわっちが僕ということになっとるが、どういうことかの?」
待ってました。と、言わんばかりにルイズの目が輝いた。
神聖なるサモン・サーヴァントの儀式で召喚された使い魔は、死んだり行方不明にでもならない限り一生主人に仕えることになる。
とにかくそういう決まりなのだそうだ。
そして召喚された使い魔には幾つかの力と義務が与えられる。
「まず、使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられるわ」
「何も見えぬの」
「う……じゃあ次よ。使い魔は主人の望む物を見つけてくるの。鉱物とか薬草とか」
「いきなり呼ばれたこの地で「望む物を見つけよ」と言われても困る。ぬしの知恵や知識でも読めぬ限りの」
「ま、まあそうよね……。それじゃあ使い魔は主人を守る。少なくともこれはできるでしょう?狼になれるって言うなら!」
ぜいぜいと肩を上下させるルイズ。
対してホロは受け答えの途中から毛づくろいなぞしている。
その様子にやや頭に血が上ったルイズだったが、息を整えてからホロを指差し、ぴしゃりと言った。
「と、とにかく! そのルーンが刻まれた以上、あんたはわたしの使い魔なの!人でも狼でも、契約したからにはこれは絶対動かせないのよ!だから狼の姿ってのを見せなさい!」
「嫌じゃ」
「そうね!嫌よね!わたしの命令だもの、嫌なはずよね!……って、待ちなさいよ!今なんて」
今度は底意地の悪そうな笑みを浮かべ、ホロは先ほどよりも強く拒否した。
「嫌じゃ、と言うたであろ?」
「ご、御主人様の命令が聞けないって言うの!?」
「ぬしの虚栄の為に姿を晒すのは願い下げじゃ」
「え?」
やや侮蔑も入ったホロの答えに、ルイズは目を丸くした。
「使い魔とやらの優劣ははあるじの力量によるらしいの。使い魔が優秀なれば、そのあるじも優秀。間違っておらんの?」
「そ、そんなことも、言ったけど……」
ルイズが肯定するのを確認し、ホロは続けた。
「わっちの狼の姿は、さっき野原で見た獣たちより大きかろうし、多分強く、優秀じゃろう。そうなれば、あるじであるぬしも強く優秀ということになる」
ルイズは生唾を飲み込んだ。目の前の存在は、たったあれだけの情報で何を得たと言うのだろう。
「使い魔とやらになることが嫌だとはいっておらぬ。じゃが、ぬしの自慢のためにわっちの姿を晒すのは嫌と言うことじゃ」
核心を突かれた。無意識だったにせよ、そういう考えが無かったとは言えない。
まだ本当にホロが狼になるところを見た訳でもないのに、そんな一縷の望みにすがったのだ。
情け無い。家族が見たらなんと言うだろうか。そう思い、ルイズは強く歯噛みした。
「ぬしは嘘をつくが、嘘が下手じゃな」
「う、うるさいばかぁ!」
使い魔に心を見透かされて、それでも言い返せなくて、悪態ばかりが出て。
情けなくて涙が出る。
「ぬ、これ、泣くな。そこまでするつもりもないでの」
えぐえぐとしゃくりあげるルイズに、ホロは困ったように謝った。
「ぬしがあまりに勝手なことを言うでな。ちと灸を据えようと思うただけじゃ」
「ふぇ?」
「ぬしがわっちの立場じゃったら、今頃顔を真っ赤にして暴れておるじゃろう?」
泣いて、すこしだけ冷静なった頭に、その言葉が染み込む。
いきなり召喚されて、僕になれだ。自分だったらそんな無礼は許せないだろう。
ホロのように、余裕を持って対応することも無理だ。
元に戻せと怒って、泣いて……建設的な場面が浮かんでこない。
「……ごめん」
「なに、わかればよい。それにの」
ホロは一呼吸おいた。少し言うのためらっているような、不自然な間だった。
「それに、わっちの狼の姿を見ればぬしは必ず恐れおののく。わっちの姿の前に、人も動物も畏怖の眼差しを持って道をあけ、わっちを特別な存在に祭り上げる。もう、わっちは人であっても動物であっても、そんなふうにされるのが嫌なんじゃ」
どちらかと言えばこちらが本音なのだろうか。もし言っている通り狼の姿になれるならば、しかも無二であったのならば、色々と妙な扱いをされていたのかもしれない……とルイズは思い至った。
ホロの真意は別だったが、どちらにしてもルイズはホロに対しての軽はずみな言動を後悔した。
「……じゃが、ぬしは嘘はつけど正直者のようじゃ。ぬしになら狼の姿を見せても良いし、使い魔とやらになってやらぬこともない」
「え、ほんと?本当に!?」
「わっちの話を信用してくれるならの。ちと長くなるが聞いてくりゃれ?」
ホロが話し出したのは、それこそお伽話のように突拍子もない話だった。
#navi(狼と虚無のメイジ)
#navi(狼と虚無のメイジ)
そのトリステイン魔法学院学生寮。
一室から「くしゅん」と可愛らしいくしゃみが聞こえた。
「うう、この姿は嫌いではないが、いかんせん寒い。毛が少なすぎる」
「マント羽織っただけじゃ当たり前じゃないの!あ~、しょうがないわね!」
頭を抱えながら、ルイズはクローゼットを漁る。下着の他、プラウスやスカートを手に取ると、ホロに向かって押し付けた。
よくよく見ればルイズのものと同じ、魔法学院の制服だ。おそらく予備のものだろう。
「とりあえず、これ着てて。勘違いしないでよね。心配してる訳じゃなくて、使い魔に風邪なんか引かれたら主人の沽券に関わるのよ」
「ふふ。そういうことにしておくかの」
「んなっ!?」
顔をまた赤くするルイズを横目に、ホロはぱぱっと着替えを終えた。
「うむ、さすが貴族と言う程のことはある。良い生地を使っておるの」
見せびらかす様に、ホロはくるりと回る。
「大きさもよい塩梅じゃな。どうじゃ。似合うかや」
むう、とルイズは言葉を飲み込んだ。悔しいけれど、似合っている。それに、可愛い。
仮にも貴族の息子や令嬢を預かる魔法学院だ。制服はシンプルとはいえ最高の素材を使っている。
ブラウスには貴族ご用達の100%シルク生地だし、スカートなどはグリフォンなど、幻獣の羽毛まで使われているのだ。
もちろん絹などの痛みやすい素材には固定化がかけられており、もし市場に出るような事になれば、相当な値がつくだろう。
それ程の一品をホロは身に纏っている訳だ。
ルイズ本来のペースならば「貴族の服が着れるなんて普通は一生ないんだからね!」などと自慢気に言うところだが、
ともすれば神々しさも伴うその可愛さに、どうにも言い出すきっかけがつかめない。
「雪のような上等の絹じゃ。黒だともっとわっちの髪も映えたんじゃが、まあ、よかろ。しかしこっちの腰巻は少しいただけんの。長さも短いし、巻いているところが丁度わっちの尻尾に当たる。穴をあけてよいかや?」
さらりと言うが、そうそう穴開きにしてよい安物ではない。ルイズはぶんぶんと首を振った。
「ふうむ。まあ、ずっとこれという訳にもいかぬしの。とりあえずはこれでよいじゃろ」
やや窮屈そうにしながらも、ホロはぽすんとベットに腰を落とした。
その動作があまりにも自然だったので、ルイズはまたも怒鳴る機会を失う。
「さっきから何を黙っておる。聞きたいことが、山とあるのであろ?」
「う゛……ま、まあ、その態度はゆくゆく教育するとして、主人の考えていることに気づいたのは褒めてあげるわ!」
よし、これなら主人としての威厳を保ちつつ、寛大さもアピールできた筈。と、ルイズはいつもの強気を取り戻す。
一方のホロは毛づくろいなどを始めていたが。
「じゃあまず……あんたは誰?どっから来たの?」
「ふむ、そうさの。ここに来る前はパスロエという村におったな。生まれは北の地でな。ヨイツ、てところじゃ」
「聞いたこと無いわね。でも、村ってことは凄い未開の地、って訳でもないのかしら……」
しかし、ルイズの知識では北方にそんな地名は聞いたことがない。少なくともトリステインには存在しないだろうし、
方角として北の大部分を占めるのはゲルマニアだ。
癪ではあるがゲルマニア出身の隣人に聞いてみようかと考えた時、ふと別のことが浮かんだ。
「でもそんな耳の亜人見たことも聞いたことも無いわよ?目立つだろうし、伝承ぐらいあると思うけど」
「さっきからよく聞くが、その「あじん」と言うのは何かの?」
「亜人は亜人よ。エルフとかオーク鬼とか、人間に似た存在のこと。一度ぐらい見たことあるでしょ?」
「おとぎ話程度にの。人と化身以外にそんな者共がいると言うことも初耳じゃ」
「ちょっと待ちなさいよ、だったらあんたはなんなのよ!」
よくぞ聞いた、とでも言いたげに、ホロは牙を見せてにやりと笑った。
「今言うたであろ。人以外と言えば、化身。とな」
「化身?」
頭に相変わらず『?』マークを浮かべるルイズに、耳と尻尾を触りながら、ホロは言葉を続けた。
「わっちはこの耳と尻尾を見てわかるとおり、それはそれは気高き狼よ。仲間も、森の動物も、村の人間もわっちには一目置いていた。
この先っぽだけ白い尻尾はわっちの自慢じゃった。これを見れば皆が褒め称えたものよ。」
得意げな……しかし何処か遠くを見るような瞳だ。ともすれば虚言ともとれるその話に、ルイズは何故か聞き入っていた。
「この尖った耳も自慢じゃった。この耳はあらゆる災厄とあらゆる嘘を聞き漏らさず、たくさんの仲間達をたくさんの危機から救ってきた。
ヨイツの賢狼と言えば、それは他ならぬわっちのことよ」
ふん、と鼻をならしホロは堂々と胸をはった。
「ちょっと……待って。狼って、あんたどう見ても狼じゃないじゃない。そりゃあ、人じゃないのはわかるけど」
「あははは。確かにの。狼でも、今は人でもある。わっちゃあホロ以外の何者でもありゃあせん」
からからと笑うホロに対して、ルイズは目の前の存在に混乱していた。
聞けば聞くほどにわからない。
年齢は自分と同じぐらいなのに、人を惑わすような老獪さ。
しかも、話によれば狼の姿にもなれるという。
嘘と言えばそれまでだが、さっきの遠吠えは明らかに狼のもの。人が声真似のできる範囲を超えている。
「しょ……」
「うん?」
「証拠見せなさいよ!耳と尻尾だけじゃ本当かわかんないじゃない!化身っていうぐらいなんだから、狼にもなれるんでしょう!?」
ルイズが叫ぶと、ホロは少しの間ぽかんとしてから、ふと何かに気がついたような顔をした。
「ああ、ぬしはわっちに狼の姿を見せろと?」
暫しの思案の後、ホロは嫌そうな顔をした。「なれるのだけれど……云々」などと続けられるよりも説得力がある。
「嫌じゃ」
「な、なんでよ!」
「そっちこそなんでじゃ」
「そ、それは、その、私はあんたの主人だもの! 主人として、使い魔がどういう力を持っているか、知っておく必要があるわ! 使い魔の実力は
直接主人の実力と言われるぐらいなんだから!」
「……ふむ、そういえばそれも気になっておった。いつの間にかぬしが主人でわっちが僕ということになっとるが、どういうことかの?」
待ってました。と、言わんばかりにルイズの目が輝いた。
神聖なるサモン・サーヴァントの儀式で召喚された使い魔は、死んだり行方不明にでもならない限り一生主人に仕えることになる。
とにかくそういう決まりなのだそうだ。
そして召喚された使い魔には幾つかの力と義務が与えられる。
「まず、使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられるわ」
「何も見えぬの」
「う……じゃあ次よ。使い魔は主人の望む物を見つけてくるの。鉱物とか薬草とか」
「いきなり呼ばれたこの地で「望む物を見つけよ」と言われても困る。ぬしの知恵や知識でも読めぬ限りの」
「ま、まあそうよね……。それじゃあ使い魔は主人を守る。少なくともこれはできるでしょう?狼になれるって言うなら!」
ぜいぜいと肩を上下させるルイズ。
対してホロは受け答えの途中から毛づくろいなぞしている。
その様子にやや頭に血が上ったルイズだったが、息を整えてからホロを指差し、ぴしゃりと言った。
「と、とにかく! そのルーンが刻まれた以上、あんたはわたしの使い魔なの!人でも狼でも、契約したからにはこれは絶対動かせないのよ!だから狼の姿ってのを見せなさい!」
「嫌じゃ」
「そうね!嫌よね!わたしの命令だもの、嫌なはずよね!……って、待ちなさいよ!今なんて」
今度は底意地の悪そうな笑みを浮かべ、ホロは先ほどよりも強く拒否した。
「嫌じゃ、と言うたであろ?」
「ご、御主人様の命令が聞けないって言うの!?」
「ぬしの虚栄の為に姿を晒すのは願い下げじゃ」
「え?」
やや侮蔑も入ったホロの答えに、ルイズは目を丸くした。
「使い魔とやらの優劣ははあるじの力量によるらしいの。使い魔が優秀なれば、そのあるじも優秀。間違っておらんの?」
「そ、そんなことも、言ったけど……」
ルイズが肯定するのを確認し、ホロは続けた。
「わっちの狼の姿は、さっき野原で見た獣たちより大きかろうし、多分強く、優秀じゃろう。そうなれば、あるじであるぬしも強く優秀ということになる」
ルイズは生唾を飲み込んだ。目の前の存在は、たったあれだけの情報で何を得たと言うのだろう。
「使い魔とやらになることが嫌だとはいっておらぬ。じゃが、ぬしの自慢のためにわっちの姿を晒すのは嫌と言うことじゃ」
核心を突かれた。無意識だったにせよ、そういう考えが無かったとは言えない。
まだ本当にホロが狼になるところを見た訳でもないのに、そんな一縷の望みにすがったのだ。
情け無い。家族が見たらなんと言うだろうか。そう思い、ルイズは強く歯噛みした。
「ぬしは嘘をつくが、嘘が下手じゃな」
「う、うるさいばかぁ!」
使い魔に心を見透かされて、それでも言い返せなくて、悪態ばかりが出て。
情けなくて涙が出る。
「ぬ、これ、泣くな。そこまでするつもりもないでの」
えぐえぐとしゃくりあげるルイズに、ホロは困ったように謝った。
「ぬしがあまりに勝手なことを言うでな。ちと灸を据えようと思うただけじゃ」
「ふぇ?」
「ぬしがわっちの立場じゃったら、今頃顔を真っ赤にして暴れておるじゃろう?」
泣いて、すこしだけ冷静なった頭に、その言葉が染み込む。
いきなり召喚されて、僕になれだ。自分だったらそんな無礼は許せないだろう。
ホロのように、余裕を持って対応することも無理だ。
元に戻せと怒って、泣いて……建設的な場面が浮かんでこない。
「……ごめん」
「なに、わかればよい。それにの」
ホロは一呼吸おいた。少し言うのためらっているような、不自然な間だった。
「それに、わっちの狼の姿を見ればぬしは必ず恐れおののく。わっちの姿の前に、人も動物も畏怖の眼差しを持って道をあけ、わっちを特別な存在に祭り上げる。もう、わっちは人であっても動物であっても、そんなふうにされるのが嫌なんじゃ」
どちらかと言えばこちらが本音なのだろうか。もし言っている通り狼の姿になれるならば、しかも無二であったのならば、色々と妙な扱いをされていたのかもしれない……とルイズは思い至った。
ホロの真意は別だったが、どちらにしてもルイズはホロに対しての軽はずみな言動を後悔した。
「……じゃが、ぬしは嘘はつけど正直者のようじゃ。ぬしになら狼の姿を見せても良いし、使い魔とやらになってやらぬこともない」
「え、ほんと?本当に!?」
「わっちの話を信用してくれるならの。ちと長くなるが聞いてくりゃれ?」
ホロが話し出したのは、それこそお伽話のように突拍子もない話だった。
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