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きーんこーんかーん・・・・
終業のベルが鳴った。
校庭では野球部が白球を追い、陸上部が高跳びを練習する。
部活が無い生徒は、ようやく暑さも和らいだ街の間をダラダラと帰っていく。
せんせー、さよならー
おー、また明日なー
よーマックいかねー?
ええでー。でも、その前にTUTOYA寄ってくでー
そんな、いつもと変わらない下校風景。ジュンも帰ろうとしていたら、後ろから声をか
けられた。
「やぁ、桜田」
「あ、梅岡先生・・・」
外に出ようとしていたジュンが振り返ると、若い男性教師がいた。担任の梅岡先生。
「どうだ、調子は?」
「…いや、別にどうも」
ジュンの返答は、あくまで素っ気ない。
「別にどうも、か・・・先生には、そうは見えないぞ?」
「そうすか?まぁ、学校戻って大して経ってないですから。まだ調子悪いかもしれません
ね」
「いや、そういう事でなくて、な・・・」
教師は、髪をボリボリかきながら、言いにくそうにしている。
「用が無いなら、帰りますけど」
「ま!待った!」
立ち去ろうとしたジュンを、慌てて呼び止める。
「あ、あのな・・・何か、大変な悩みを抱えてないか?」
「・・・悩み?」
「う、うん。あのな、先生がこんな事言うと、変に思うかもしれないんだけど・・・
桜田な、その…学校来なかった間と、今とでは、全然印象が違うんだ」
「印象が・・・」
「そうなんだ。昔は、なんていうか、確かに勉強は出来るんだが、繊細というか。家庭訪
問しても、顔も見せてくれなかったし」
「要は、神経質でプライドばかり高くて脆そう、という事でしょ?」
「う、うん・・・言いにくいけど、今だから言えるけど、そうなんだ。でも、今は違う。
・・・というか、違いすぎる。ほとんど別人じゃないか?というくらい、印象が違いすぎ
るんだ。
先週、何日も休んだ事があったろ?その時、桜田のお姉さんから『また調子が悪くなっ
たから』て電話で説明受けたんだ。けど、その前後の桜田の様子からは、全然そんな感じ
がしなかったんだ。すごく元気そうだったぞ。
なぁ、先生に教えてくれないか。桜田に、何があったのか。もしかして、大変なトラブ
ルに巻き込まれてるんじゃないか?ずっと右手に巻きっぱなしの包帯と、何か関係がある
のかな?」
「それは・・・」
ジュンは正直、どう答えるべきか困ってしまう。試しに、今日までの事を思い返してみ
た。
――中学受験失敗が原因で引きこもりをしていたら、伝説の生き人形『薔薇乙女』達の戦
いに巻き込まれた。騒がしい毎日と激戦の末、自分も生きる意思と力を取り戻した。
戦いが終わった直後、偶然ハルケギニアに使い魔として召喚された。召喚されたついで
に、死んだ雛苺と蒼星石を生き返らせるため、ハルケギニアの探索と併せて魔法学院での
勉強も始めた。
先週は、王女からの密命で浮遊大陸アルビオンに潜入、皇太子を連れ帰った。だがそれ
が原因で、アルビオンと戦争になってしまった。これから、トリステインの兵士として零
戦に乗り、アルビオン艦隊と戦う――
・・・言えるかーー!
思い返してみて、自分で思いきりツッコミ入れてしまった。
「う~ん、まぁ、先生が心配するのも当然とは思うけど。ホント個人的な事だから、言い
たくないんです」
「そ、そうか・・・しょうがないな。でも、いつか先生にも教えてくれよ」
そういって、ぎこちない作り笑いを残して教師は職員室へ去っていった。
自分を心配してくれる担任の姿に、その担任に黙って再び学校をしばらく休まなければ
いけない事に、ジュンも胸がチクリと痛む。
正門から出て、ふとジュンは校舎を振り返る。
何の変哲もない、四角いコンクリートの校舎。生徒だってごく普通。
ジュンにとっては夏休みの終わりまで、見るだけで吐き気がした、大嫌いだったはずの
公立中学校。
対アルビオン戦争の間は地球に帰らず、しばらくハルケギニアにいるつもりだ。生きて
帰れる保証なんか無い。死ぬ気はないが、現実はそう甘くない事は分かっていた。『もし
かしたら、この校舎を見るのは最後になるかもしれない』…そう思うと、何故か後ろ髪を
ひかれる想いがしてしまう。
くるっと校舎の方を向き、軽く頭を下げる。
そして、学校をあとにした。
第五部
第一話 課外授業
桜田家の中に入ると水銀燈、のり、巴がリビングでお茶を飲んでいた。
「遅いじゃないのぉ、待ちくたびれたわよぉ」
水銀燈がジュンの前にふわりと飛んで来て、懐中時計を渡した。ジュンが先日イザベラ
に渡した物だ。それを見たとたん、ジュンが悪役風にニヤリと笑ってしまった。
「無事、回収したわ。これで、あんたの言う4thフェーズとやらも終了ねぇ」
「ありがとうな、水銀燈。これでミッションコンプリートだ」
のりが、しげしげと懐中時計をのぞきこむ。
「へぇ~。それが、この前話していた時計なのねぇ」
「ああ、柴崎さん特製の懐中時計。超小型高性能マイク入れてもらったヤツ」
巴は手に持っていたiPadを示す。
「データは移しておいたわ。私には何を言ってるのか分からないけど、上手く盗聴出来て
るらしいわ」
「オッケー、ありがとな柏葉。んじゃ早速、部屋で聞くとしようか」
ジュンの部屋では、真紅と翠星石が茶飲み話をしていた。
「あら、ジュン。お帰りなさい。待ちくたびれたわよ」
「よーやく帰ってきたですかぁ。それじゃ、ちゃっちゃと聞くですよぉ!」
「そーだな、どれどれ・・・」
iPadをステレオに繋ぎ、盗聴した音声を再生させる。
『 ・・・でして、これは宮殿の警備上の致命的な・・・責任が・・・
遺留品はこの時・・・何も魔法の反応が無く、安全としか・・・
・・・つらは今回ただのイタズ・・・もし、本気になれ・・・
プチ・トロ・・・が消・・・次は皆殺しにされ・・・秘密をつかま・・・』
「やった!あいつら、この時計を会議室に持ち込んだらしいぞ!」
「ふふふ、当然よ。そのためにわざわざ安全にしか見えない遺留品を残したのだから」
「しーですっ!今、大事な所です!」
と言ってる翠星石は、小さくガッツポーズ。
ハルケギニア語の分かる使い魔達は、じっとスピーカーから流れる会議の話を聞き入っ
てる。のりと巴は、そんな彼等を黙ってジッと眺めている。
「へへへ・・・思った通りだ。あいつら、僕たちの事、すっごく怖がってる」
「当然ですよぉ、どうやって宝物庫に侵入したかも、どこから逃げたかも分からないんで
すからぁ…イヒヒヒヒヒィ~」
「いつ自分たちを暗殺に来るか分からないものね。これでうかつに手出ししようなんて、
考えないでしょう」
スピーカーから流れる異国の言葉に聞き入り、ほくそ笑む使い魔達。そんな彼等の姿を
見るのりと巴は、さすがにちょっとひいてしまった。
ふと視線をずらすと、二人の前には水銀燈の後ろ姿がある。黙ってジュン達を見ている
水銀燈の背中で、黒い翼がパタパタと羽ばたいている。
ツヤツヤの黒、キラキラ輝く、ふわふわの、柔らかそうな羽・・・
「・・・ちょっと、あんた達ぃ…何のつもりぃ?」
水銀燈がジロリと振り向くと、二人は黒い翼に手を伸ばそうとしていた。
「あ、あははは、その、ねぇ?巴ちゃん?」
「そ、その、すっごくステキな、翼だなーって…ねぇ?のりさんも」
「う、うーんと、そのモフモフってしたら、気持ちいいかなーって」
「バカ言ってないでないでよねぇ」
「「はぁーい・・・」」
二人とも、シュンとして小さくなってしまった。
ジュンが、再生を止めた。と同時に両手でガッツポーズ。
「よーっし!これで多分ガリアの方は大丈夫だ!」
「やったですねぇ!あとは、アルビオンですよぉ」
「そうね、でも油断したらダメよ。nのフィールドも地球の事も、ちゃんと隠し通さない
とね」
ジュン達が三人だけで大喜びしているのを見て、水銀燈ものりも巴も興味津々。
「ねぇねぇジュンくん、どうなったの?結局、ガリアの王宮はどうするって?」
「ああ、うーんとね、簡単に言うと・・・」
ジュンがかいつまんで話す内容は、こうだ。
ガリア王宮の人々は、『あの使い魔達を本気で怒らせたら、次は自分たちを暗殺に来る
んじゃないか』と恐れている。
今回の件から、使い魔達の行動を阻む手段が無いことは疑いない。
戦闘能力も、少なく見積もってすらスクウェア。プチ・トロワを消し飛ばすヤツらと、
策も無く戦うのは無謀。
今回のアルビオンとトリステインの戦争では直接介入せず、まずは使い魔達の情報を収
集するのが得策。間者を増やし、大使を送る振りをしてジュン達を監視し、その秘密を少
しでも暴くべき・・・。
説明に疲れてお茶をずずずぅ~っと飲むジュンのあとを、翠星石が得意げに引き継いで
話し出す。
「それとですねぇ、今回のあたし達の作戦のことはですねぇ、どうにかして秘密にしよう
としてるようですよぉ」
「でも、そんなのは無理ね。あっという間に噂は広がるわ。ちょっとやりすぎたかもしれ
ないわね」
「ちょっと真紅ぅ!あたしのセリフを横からとるなですぅ!」
「あら、ごめんなさい」
謝る真紅も、言葉とは裏腹に得意満面。
水銀燈も、満足げに三人の話を聞いて頷いた。
「そう、大方は上手く行ったようねぇ。ま、あたしをあれだけこき使ったんだもの。それ
くらいは当然よねぇ?」
そう嫌味っぽく笑う水銀燈へ、真紅がニッコリと微笑む。
「本当ね。時計の回収といい、ミーディアムがいなくても自由にnのフィールドを動ける
あなたがいなかったら、上手く行かなかったわ。
ありがとうだわ、水銀燈」
そういって真紅がすぃっと頭を下げると、水銀燈が今度はオタオタしてしまう。
「な、なによう、気持ち悪いわねぇ」
「あら、本当に感謝しているのよ?」
「ふ、ふんっ!うるさいわね、まったく。もうやる事は全部やったんでしょ!?さぁっさ
とハルケギニア行ってきなさいなぁ」
「そうだな、んじゃ行くとするか・・・あの、服着替えるから、先に出てくれる?」
ジュンが小姓の服に着替えるのを待って、一行はぞろぞろと倉庫の大鏡へと降りていっ
た。
着替える間、ふと勉強机が視界に入る。
大量の軍事・戦争・武器・兵法関連書物が、パソコンの周囲に山と積まれている。この
一週間、ルイズからもらった金貨を売った金で皆が買いあさり、勉強そっちのけで読みま
くった資料だ。ネットからプリントアウトしたデータも分厚いファイルに収めてある。
「付け焼き刃だけど、無いよりましか」
少し部屋を見渡してから、部屋をあとにした。
一同が倉庫に入ると同時に、輝く鏡から大小の人影が降り立った。金糸雀と、デルフリ
ンガーを抱えた草笛が出てきた所だ。
「はぁううう・・・疲れたぁ・・・」
出てきたとたんに草笛はヘナヘナと座り込んむ。
「お帰りなさいですぅ。アルビオンの方はどうでしたぁ?」
翠星石に聞かれた金糸雀と草笛は顔を見合わせ、はぁ~っとため息をついてしまった。
『いや~、すまん。やっぱだめだったわ。学院の嬢ちゃん達も連れて、あちこち探し回っ
たんだけどよぉ。
アルビオン大陸なら行けるんだがよ。ロンディニウムのハヴィランド宮殿に、ロサイス
の空軍工廠、特に発令所。必死で出入り口探したんだけどよぉ、みつかんねーわ』
「「「そっかぁ~、残念」」」
デルフリンガーの言葉に、ジュンも真紅も翠星石も肩を落としてしまう。
「ねぇ、ジュンくん。この前の宮殿の出入り口は、あんなに沢山簡単に見つかったのに、
どうしてアルビオンの方は見つからないの?」
首をひねるのりの疑問に、草笛が重たげに口を開いた。
「あの宮殿はですね、ほら、あの青い短い髪の、タバサさんがよく知っていたんですよ。
だから、鏡の向こうが宮殿なのか、グラン・トロワ内部のどこなのか、すぐ分かったんで
す」
「でも、かしら。アルビオンに詳しい人がいないのかしら?だから、鏡の向こうがアルビ
オンの一体どこなのかは、nのフィールドからでは分からないの。危ないから、鏡の外に
出て確かめたりは、うかつに出来ないかしら」
『おまけに貴族が生活するこぎれーな宮殿と違ってよぉ、軍事施設は大きな鏡とかガラス
とか、ほとんど置いていねぇらしいんだよ。お偉い軍人は貴族なんだし、身だしなみくら
い気をつけろってーの!
だからロサイスの空軍工廠なんかは、出入り口自体も少ねぇようだから、みつからねー
んだなぁ』
金糸雀とデルフリンガーも、重そうな口を開く。相当にnのフィールド内を飛び回った
のだろう、金糸雀はもうヘトヘトだ。
話を聞いていた巴も残念そうだ。
「そう…ヴェルサルティル宮殿みたいに襲撃出来ればよかったのだけど。そう上手くは行
かないわね」
その巴の言葉を横で聞いてるのりは、「なんかみんな、言う事が過激になってきちゃっ
てるなぁ…」と、少し顔を引きつらせている。
水銀燈も浮かない顔で、ふぅ、と溜め息をつく。
「それにしてもねぇ、これだけハルケギニアを飛び回ってもローザミスティカの気配を感
じないなんてねぇ・・・。一体、雛苺と蒼星石のローザミスティカ、どこ行っちゃったの
かしらぁ?」
水銀燈の言葉に、その場の全員も肩を落としてしまう。
「本当ですねぇ・・・近ければ気配を感じるはずなのに」
翠星石の悔しげなぼやき。ジュンも不安を隠せない。
「もしハルケギニアにあるなら、ガリアやゲルマニアとかの、他国の学院で召喚されたか
も知れない。聖地や東方かもしれないし・・・最悪、地球ともハルケギニアとも違う、全
然別の異世界に迷い込んだかも・・・」
「・・・本当に、先は長そうねぇ・・・」
真紅の言葉に、皆、さらに溜め息をついてしまう。
ジュンが金糸雀の肩をポンと叩き、床にへたりこんでた草笛が立ち上がるのに手を貸し
た。
「まぁ、しょうがないよ。みんな本当によく頑張ってるんだから」
「そうねぇ、気長に行かないと。それじゃ、あたしそろそろ仕事に戻るわね」
「んじゃ、また会うのかしらー!」
「それじゃ、あたしも一旦さよならするわねぇ」
草笛と金糸雀と水銀燈は、鏡面の中に消えていった。
「それじゃ、僕らはもう行くとするよ」
「ええ、そうね」「わかったですぅ」『おっしゃ、行くとしようぜ』
草笛から受け取ったデルフリンガーを背負い、鏡の前に立つ。その左右に真紅と翠星石
も立つと大鏡が再び光り出し、nのフィールドへの扉が開かれる。
「ジュンくん・・・」
のりは、涙を浮かべて弟の名を呼ぶ。だがジュンはちょっと振り返るだけで、鏡へ手を
伸ばす。
「分かってる、大丈夫だよ姉ちゃん。やる事は沢山あるんだから、絶対に死なない。ルイ
ズさんも真紅も翠星石も、誰も死なせない。必ず、みんな無事に帰ってくるよ」
「ええ、きっとよ。必ず、無事に帰ってくるのよ」
真紅と翠星石も、鏡に入る前に少しだけ振り返る。
「ほんの少しの辛抱よ。すぐに帰ってくるわ」
「のり、任せるですよ。必ずこのチビ守ってみせるですぅ」
三人の姿は、鏡の中に消えていった。
あとには、涙を流して肩を抱き合う二人の少女が残された。
~対アルビオン戦争二日前 昼
昼食の時間。
学院の正門の外でジュンが立っている。
腰にナイフを装備し、デルフリンガーを左手に握り、右手にメリケンサックを着け、大
勢の女性達に囲まれていた。軍事教練とルイズ達の警護をしてる女性武官達だ。その中に
は、コルベールの姿もある。皆ジュンから10メイル以上離れ、手に木切れを持ち、丸太
や机の後ろに隠れている。
ジュンは皮のベストの様な物を着用している。そのベストには、沢山の大きなクギの様
な物が収められていた。その何本かが彼の右手にも握られている。
「ジュンよ、準備はいいかぁ?」
「いいぜ、デル公。それじゃ、お願いします」
ジュンの合図を受け、コルベールが杖を掲げる。女性武官達が大きく振りかぶって、木
切れをジュンへ全員同時に、全方位から思いっきり投げつけた。
鉄の棒を持つジュンの右手も翻る。
カカカカッカカカカッカカカッ!
投げつけられた木片は、全て弾き返された。
ジュンが目にも止まらぬ速さで投げつけた、毛筆の様な形をした鉄の棒――棒手裏剣に
撃ち落とされていた。弾かれた木片がいくつか、手裏剣に貫かれた勢いで、女官達の隠れ
た机や盾にまで当たっている。
「おでれーたなぁ。こんだけの鉄棒を、あの一瞬でたっぷり抜き放ってるぜ」
コルベールも感心しながら木片と棒手裏剣を確認し、抜いていく。
「おまけに、全弾命中だよ。いやはや、私の練成した鉄の棒が、こんな恐ろしい武器にな
るとは、驚きですぞ」
「いや、その、そんな、へへへ・・・これで接近戦だけじゃなく、離れた敵とも戦えます
ね」
おお~、パチパチパチ…ピューピュー!
周囲の女官達からも、どよめきと口笛と拍手がわき起こり、ジュンは真っ赤になって照
れてしまった。
金のショートヘアーに鎖帷子の武官、アニエスが引き抜いた棒手裏剣をしげしげと観察
している。
「本当に大したモノだ。我らのマスケット銃より速く威力もある。何より連続で放てる。
こういう棒形の刃物は、当てるのが難しいというのに・・・」
しきりに驚嘆の言葉を呟きながら、ジュンに棒手裏剣を手渡した。周囲の女官達も棒手
裏剣を木片から引き抜き、手渡していく。
「いやー、本当に大したモンだねぇ。これ、東方の武器なのかい?」
「そんな小さな体で、若いのに、これほどの腕を持つとは・・・驚きだわ」
「おまけにそんな長剣まで使えるのだねぇ~、ホント大した剣士だね」
「ホントね。あたし達と同じ平民だし、可愛い子よね・・・」
「ねえねぇ、今夜ヒマ?うふふふ…お姉さん達のテントでいろいろお話しない?」
「おでれーたなぁ、ジュンよ。モテモテじゃねぇかよ~」
「あう…あの、その…」
どんどん赤くなって小さくなってくジュンを、女官達が艶やかな微笑みを浮かべつつ囲
んでいく。棒手裏剣を手渡すついでに、わざとらしくジュンの手を握ったり肩に手を置い
たり頬に触れたり。
キッ
アニエスの青い瞳に睨まれて、女官達は慌ててジュンから離れて整列した。
「おほん!部下達が失礼した。ともかく、サクラダ殿の訓練に付き合うのはこれくらいで
よかろう。部下達は解散させてもらう」
「うむ、ミスタ・サクラダ。私もそろそろ戻りますぞ」
「はい。皆さん、ありがとうございました」
頭を下げるジュンに小さく手を振りつつ、女官達は駆け足で学院へ戻っていった。コル
ベールは『フライ』で飛び去った。
「さて、そろそろ昼食も終わった頃だろう。ミス・ヴァリエールと合流するとしよう」
「あ、はい」
ジュンとアニエスは並んで学院の食堂へ向かって歩き出す。
「ところでサクラダ殿、その長剣なのだが」
「おう!デルフリンガーってんだ、よろしくな!」
「デル公が、なんですか?」
アニエスはデルフリンガーの刀身、特に柄をジッと見つめている。
「これは、もっと大柄な人間が振るためのモノだ。そのため、柄も大きな手に合わせて太
くなっている。君の小さな手では、しっかり握れないのではないか?」
「そう、なのかな?意識した事はないんですが」
「そうなのか、だと?貴殿ほどの剣士が、信じられんな。重心の位置といい重さといい、
君に合わないと思うのだ。腰のナイフと、そのシュリケンとかいう武器が、君には最適だ
と思うぞ」
「いえ、デル公はすっごく役に立つんですよ。メインの武器はデル公で行きますよ」
「そうだぜ姉ちゃん!ジュンと俺っちの力を見れば納得するさね!」
「ふむ…マジックアイテム使いの貴殿がそういうのなら、その剣はただのインテリジェン
スソードではないのだろうな」
そんな話をしながら歩いていると、食堂から出てきたルイズと真紅と翠星石がジュン達
を見つけて駆けてきた。
「さて、これでミス・ヴァリエールと使い魔達は全員揃ったようだ。これより王宮からの
通達を伝える。
貴殿等の暗号名は『ゼロ』。ミス・ヴァリエールは『ミス・ゼロ』、サクラダ殿は『ミ
スタ・ゼロ』、シンク殿は『ルビー・ゼロ』、スイセイセキ殿は『エメラルド・ゼロ』と
呼称される。
所属は公爵率いるヴァリエール軍。公爵直属の小隊として、公爵の直接指揮下にて動か
れよ。別命あるまで待機を継続。以上」
アニエスは居並ぶルイズ達に連絡事項だけ伝え、すぐに礼をして去っていった。
あとには、肩を震わせるルイズが居た。
「な・・・何よ、なんであたしの暗号名が、『ゼロ』なのよ!?私はもうゼロじゃないっ
てーの!」
まーまー、どうどうどう、とジュンと人形達になだめられるルイズだった。
「た、多分、王宮や軍の人たちは、単なるあだ名だと思ってたんじゃないかなぁ?」
「そう!そうね、ジュン。それに、タダの暗号名よ、気にしたらいけないわ!」
「そうですぅ、真紅の言うとおりですぅ!それに、もうゼロじゃないんだから、いいじゃ
ないですかぁ」
「あ、スイ、お前・・・」
デルフリンガーが指摘するまでもなく、ルイズが翠星石を引きつった笑顔で見下ろして
いた。
「ゼロって言うなー!」
ルイズの叫びが学院に響き渡る、まだ今は平和なトリステインだった。
ルイズ達女生徒は全員午後の教練中。武官達に広場でしごかれている。
真紅と翠星石は広場の端からルイズに、走れ走れーですぅ、とか、その程度で息が切れ
るなんて情けないわ、とか声援を…というよりチャチャを入れていた。
そしてジュンは滑走路横のテントにいた。女官達がテントを警護する中、ゼロ戦の操縦
席で機械をいじっている。
「あーあー、聞こえますか?」
――・・ああ、ようやく聞こえたよ。どうやら上手くいったようですぞ・・――
雑音は混じっているが、操縦席右の機械から聞こえてくるのはコルベールの声だ。
「ほほー、おでれーたな。ホントにあんな離れた場所から声が届いてるぜ」
座席後ろのデルフリンガーが、通信機に感心している。
――まったく凄いですな、このつーしんきというのは。風魔法を使った魔道具でも、
ほんの短い距離しか話が出来ないというのに。これだけ離れた距離から――
「あー、でもそっちのトランシーバーからは、1リーグくらいしか声を送れないですよ。
こっちのゼロ戦のヤツなら、50リーグくらいいけるはずです。これで、トリステインか
らでも、戦況を伝えるくらいは出来ると思います。
でも、離れれば離れるほど、雑音がひどくて聞き取りにくくなるんですけど」
――いやいや、それで十分ですぞ。無理を言って申し訳ない。ところで、ひこおきか
ら下ろしたモノも同じようなモノと言ってましたな。なら、あれでも会話出来るの
ですかな?――
「あ、それ無理です。あれは実は正確には通信機じゃなくて、ク式無線方位測定器といっ
て・・・えと、簡単に言うと、自分の居場所を確かめるためのアイテムだそうです。構造
とか原理とかは、大体この無線機と同じだと思うんですけど、会話は出来ません。
あれは、いらないので差し上げます。自由に調べて下さい」
――おお、ありがとう!感謝しますぞ。・・・ところで、実は君に見て欲しいモノが
あるのです。申し訳ないが、こっちに来てくれますか――
そんな風に、ジュンとコルベールが通信機のダイヤルをいじっていると、テントの外か
ら女性達の声が聞こえてくる。どうやら、ジュンに差し入れを持ってきた人が、テントの
外で警護の女官に中へ入るのを止められたらしい。
よく聞けば、それはシエスタの声だ。
「あ、すいませーん!僕が出ますからー!」
「へへへ、ジュンよ。年上の恋人から差し入れだなぁ」
「か、からかうなよデル公!そんなんじゃねーよ!」
デルフリンガーをつかんでゼロ戦を飛び降り、テントを出る。テント前には籠を持った
シエスタが立っていた。
夕焼け空の下、シエスタとジュンが並んで歩いている。差し入れのサンドイッチを頬張
りながら、学院近くの村へ向かっていた。
「ふわ~、改めてみると凄いねぇ。こんな大きな船を落としちゃっただんて!」
「う、うん、でも学院の『破壊の杖』の力だから。ところで、例の場所って」
「あ、もうすぐよ。森の向こうなの」
「ん~?なんかテントが沢山ならんでるなぁ」
デルフリンガーの言うとおり、遙か彼方にテントが集まっているのが見えた。
先日ジュンが撃墜した戦艦の残骸や、シルフィードが寝床にしている森の横を通り過ぎ
ると、小さな村が見えてくる。そしてその付近に出現した、粗末なテントの群れも。
テント村の近くで、コルベールが手を振っていた。
「お待たせしました、先生。ところで、見て欲しいモノというのはこれですか?」
「うん・・・実は、このトリスタニアからの避難民だよ」
「これ、みんな、城下からの・・・」
そこには、ジュンには名前しか知らないモノがあった―――難民キャンプだ。
粗末なテントの群れ、不安で疲れ果てた子供、たき火の周りに肩を寄せ合う老人達、学
院では見る事も出来ない粗末な食事を分け合う母娘、くぼんだ目でジロリと睨み付けてく
る男・・・。
城下から避難してきた人々が難民キャンプを作って、まだ数日しか経っていないはずな
のに、既に悪臭がそこかしこから漂ってくる。衛生状態が良くないのは、臭いだけでよく
分かる。
戦争を逃れて来た。ただそれだけで、タニアっ子と呼ばれていただろう人々を、あっと
いう間にただの難民へと変えていた。
「あ!シエスター!また来てくれたのかい!?」
「まー、シエちゃん!ホントありがとうねぇ~」
「もちろんですよ!はい、サンドイッチです」
シエスタが、避難民の中の男女に籠を渡していた。その人物を見て、ジュンは目が点に
なっていた。コルベールも微妙な表情を浮かべて沈黙。
女の方はシエスタと同年代くらいの、普通の女性。ストレートの黒髪に大きな胸。服も
普通。
ただ、男の方は・・・格好は周りの避難民と同じで、旅行用の服装…ただし紫と赤の、
ド派手な服。そしてその言動は、見るからにオカマ。クネクネとした動き、お姉言葉、見
るだけでキツイ。鼻の下と顎のヒゲに、筋肉質の長身と合わさって、失礼と百も承知で目
を背けたくなる。
シエスタがその男女を固まってる二人の前に連れてきた。その後方から、なーになに?
と若い女性達も寄ってくる。
「紹介しますね。この二人、あたしの親戚なんです。母方の叔父のスカロン叔父さんと、
従姉妹のジェシカです」
「あ、初めまして。僕は桜田ジュンって言います。ミス・ヴァリエー」「んまー!あなた
があの噂の少年剣士なのねー!なんて可愛い子なのぉ~~!!お願いキスさせてー!!」
んぎゅーぶちゅうぅ~~「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁ」
スカロンに思いっきり抱きしめられて頬にキスされ、ジュンは悲鳴と共に、意識がどこ
か異世界に飛びそうになった。さらにその妖しいというより怪しい唇がジュンの顔の真正
面へ
「きゃー止めて止めてやめてええーーー!!」
「ちょっちょっちょっと!落ち着いてえー」
「あ、あらごめんなさいなぁ、興奮しちゃってぇ~」
「うあああおでれーたな、ジュンよ、大丈夫かー!?」
シエスタとジェシカに割って入られ、ようやくスカロンはジュンを離した。ジュンはア
ルビオン戦を前に、三途の川を渡りそうになってたり。
「はうぐ、げほ、おええぇ・・・と、ところで、どうして皆さんここに?シエスタさんの
親戚なら、タルブの村が故郷なんじゃ」
息も絶え絶えのジュンの質問に、スカロンもジェシカも、後ろの女性達も顔を曇らす。
スカロンが力なく答えた。
「タルブの村はね…アルビオンとラ・ロシェールの間にあるの。だから、上空で艦隊が戦
うかもしれないのよ。多分、無事じゃ済まないわ」
スカロンの言葉に、後ろの女性達も口々に窮状を語り始める。
「でも、もうすぐトリスタニアも火の海になるっていうし、逃げないわけにいかなくなっ
たのよ。王宮からも、アルビオンから城までの通り道になりそうな町や村に、避難命令が
出てるの」
「でもねぇ、ここにいるあたいらみんなワケありで、店以外に行く場所無くてさぁ。逃げ
るに逃げられなくて困ってたのよ」
「そしたらシエスタがさ、学院近くなら安全かもって言うんだよ!」
「そうそう!なにせ、戦う貴族はみーんなとっくに出て行ったし、残っているのは女生徒
ばっかだし、この辺は学院以外何にもないから戦場にならないかもって!」
「おまけに、トリステインの切り札!学院の秘密兵器!最強の使い魔達が守ってるんだっ
てぇ!?」
「向こうの戦艦の焼け跡みたよぉ!あんた、そんなちっこいのに凄いんだねぇ!一昨日あ
たし等の頭の上を飛んでくのもみたよぉ!」
ジュンはもう、スカロンの店の女の子達に囲まれていた。
「あ、あんたなら、坊や達ならトリステインを守れるんでしょ!?みんな、そう言ってる
よぉ!!」
「お願いします、トリステインを守って下さい!城下の、ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大
隊に、あたしの恋人がいるんです。どうか、守って下さい。お願いします!」
「ロッシャ連隊には、あたしのただ一人の家族が、弟がいて・・・敵艦隊の的にされるか
と思ったら、もう、あたし・・」
「私達、ほとんどがワケありの流れ者で、もう店長の所にしか居場所が無いんです!!」
「あ、あたいに出来る事なら、何でもします!今夜一晩、いえ、いくらでもお相手します
から、だから、だから、トリステインを、いえ、あたい達だけでも・・・」
ジュンは、泣きながら懇願する女性達に囲まれ、どうしていいのか分からなかった。
ローザ・ミスティカを探すため、魔法を勉強するためにトリステインへ来たはずだ。本
来、この戦争にも何の関係もない。なのに、そんな彼の思惑とはかけ離れた事態に巻き込
まれ・・・。
今の彼には、ただ顔を伏せて立ちつくすしかなかった。
コルベールが、言葉が見つからないジュンの肩を抱いた。
「皆さん、言いたい事は沢山あるでしょう。でも、今日の所はこの辺でお願いします」
「そ、それじゃスカロン叔父さん、ジェシカ、みんなも、また来るから」
コルベールとシエスタに背を押され、ジュンはトボトボと学院へ向けて歩き出した。
もう沈みかけの夕日の中、ジュンが小さな声で呟いた。
「・・・先生は、どうして彼等と僕を会わせたんですか?」
コルベールは前を見たまま、ただ自然に答えた。
「戦争がどういうものか、君に知って欲しくてね」
「ジュンよ、戦争ってもんがどういうもんかシラねーから、おでれーたんだろ?でも戦争
が長引けば、もっと酷くなるぜ」
「ごめんなさい、ジュンさん。あなたには、ちょっときつかったね」
ジュンは俯いたまま、力なく歩き続ける。
「ジュン君、君は彼等を守るために戦おう、と思うかい?」
「…え?」
「いや、別に戦えなんて言いませんぞ。むしろ逆だ。戦いに行けば、君が兵士を殺せば殺
すほど、アルビオン側にも彼等のような人々がどんどん増えていくんです」
「おうおうコルベールさんよぉ!戦いの前にやる気なくさすようなこと言うなよぉ。戦争
なんだからしゃーねーだろ?」
「いいんだよ、デル公。敵も味方も人間で、殺し合えば誰も幸せになれない。そういう事
だよ。・・・頭で分かってても、実際に見ると、きついなぁ・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!ミスタ・コルベール!」
シエスタが慌てて口を挟んだ。
「でも、ジュンさんが戦わなかったら、トリステインが負けて、あたし達が死ぬかもしれ
ないんですよ!?
メイジの人たちや兵隊さん達がいなくなったのを良い事に、周りの国も攻めこんで来た
りして、国がバラバラにされて、奴隷になんかされて、賠償金とか言うスッゴイ高い税金
とられて」
「それは、アルビオンも同じですよ」
「で、でも、私は死にたくないです。どうせなら、今まで通りみんなと生活したいです。
だからジュンさんには」
「そうだね…選ぶのはジュン君、いや、君の主のミス・ヴァリエールですかな?」
ハッとしてジュンはコルベールを見上げる。ただ真剣な顔の、彼の教師の顔を。
しばし見上げて、ゆっくりと口を開いた。
「先生は・・・戦争に行った経験はありますか?」
教師は、夕日を見つめた。血のように赤い夕日を。
「ありますぞ。・・・いや、戦争よりもっと酷い作戦を、何度も指揮しました」
「そう…ですか」
「今は、この学院で教師をしています。ですが、本来私は、こんな所で研究にふける資格
など無いのです。今すぐにでも、贖罪の炎に身を投げねばならないほど、罪深い人間なの
です」
ジュンとコルベールは、沈んでゆく夕日を前に、ただ立っている。
シエスタも、ジュンの背のデルフリンガーも、何も口を挟めない。
「ジュン君、君は優秀な生徒です。魔法は使えないが、魔法以外の全てを身につける事が
出来ますぞ。おそらく、その力は魔法を超えるでしょう。あのひこおきや、つーしんきの
ように」
コルベールは、まっすぐにジュンを見つめた。
「だからこそ、戦争に行かないで欲しい。その力を破壊に使わないで欲しいのです。君の
人形達と共に平和を生み、人々を幸せにするために、力を使って欲しいのです。みっとも
なくてもいいから、血を流さず生きて欲しいのです」
ジュンには、どう答えたらいいのか分からなかった。
雛苺と蒼星石を生き返らせる、ルイズやシエスタや学院のみんなを守る、そのために敵
を殺さねばならないという事実。自分が幸せになるために、相手を不幸にしなければなら
ないという現実。
だが、それでも・・・
「先生・・・先生の言いたい事、分かります。でも僕は、大事な人たちを守ります。それ
が、今の僕には出来るから。
逃げたくは、ないから。後悔したくないから。大事な人の死を、もう二度と見たくはな
いから。ルイズさんも、シエスタさんも、マルトーさんも、先生だって、みんな守りたい
から
たとえ、そのために誰かを殺さなければいけないとしても」
「そうですか・・・」
コルベールは、視線を落とす。寂しげに、哀しげに。
「すまねえな、オッサンよ。あんたの言う事はもっともだけどよ、現実ってやつぁそんな
に甘くねーんだわ。
それに、ジュンはなりはちっせえけどよ、もう子供じゃねえんだ。惚れた女ぐれえ、自
分で守らせてやれって!」
後ろで黙って聞いていたシエスタは、ジュンの『大事な人~シエスタ』の言葉、おまけ
に『惚れた女』というデルフリンガーの言葉に、真っ赤になってモジモジしていた。
「・・・そうですな、軍から逃げた私に、何も言う資格はありますまい。
だがジュン君、これだけは言わせて欲しい。人の死に『慣れ』てはいけない。戦争に慣
れてはいけない。目の前に折り重なる死者を、ただの数字として数えてはいけませんぞ」
「・・・分かりました。僕が殺す人々の顔、決して忘れません」
教師の杖と生徒の剣とが交差し、誓いの十字を描く。
もうほとんど沈んだ夕日、赤く染まる草原。
長く伸びる十字の影が、どこまでも遠くへ続いていた。
第一話 課外授業 END
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&setpagename(第五部 第一話 『課外授業』)
[[back>薔薇乙女も使い魔 20]]/ [[薔薇乙女も使い魔menu>薔薇乙女も使い魔]]/ [[next>薔薇乙女も使い魔 22]]
きーんこーんかーん・・・・
終業のベルが鳴った。
校庭では野球部が白球を追い、陸上部が高跳びを練習する。
部活が無い生徒は、ようやく暑さも和らいだ街の間をダラダラと帰っていく。
せんせー、さよならー
おー、また明日なー
よーマックいかねー?
ええでー。でも、その前にTUTOYA寄ってくでー
そんな、いつもと変わらない下校風景。ジュンも帰ろうとしていたら、後ろから声をか
けられた。
「やぁ、桜田」
「あ、梅岡先生・・・」
外に出ようとしていたジュンが振り返ると、若い男性教師がいた。担任の梅岡先生。
「どうだ、調子は?」
「…いや、別にどうも」
ジュンの返答は、あくまで素っ気ない。
「別にどうも、か・・・先生には、そうは見えないぞ?」
「そうすか?まぁ、学校戻って大して経ってないですから。まだ調子悪いかもしれません
ね」
「いや、そういう事でなくて、な・・・」
教師は、髪をボリボリかきながら、言いにくそうにしている。
「用が無いなら、帰りますけど」
「ま!待った!」
立ち去ろうとしたジュンを、慌てて呼び止める。
「あ、あのな・・・何か、大変な悩みを抱えてないか?」
「・・・悩み?」
「う、うん。あのな、先生がこんな事言うと、変に思うかもしれないんだけど・・・
桜田な、その…学校来なかった間と、今とでは、全然印象が違うんだ」
「印象が・・・」
「そうなんだ。昔は、なんていうか、確かに勉強は出来るんだが、繊細というか。家庭訪
問しても、顔も見せてくれなかったし」
「要は、神経質でプライドばかり高くて脆そう、という事でしょ?」
「う、うん・・・言いにくいけど、今だから言えるけど、そうなんだ。でも、今は違う。
あ~、というか、違いすぎる。ほとんど別人じゃないか?というくらい、印象が違いすぎ
るんだ。
先週、何日も休んだ事があったろ?その時、桜田のお姉さんから『また調子が悪くなっ
たから』て電話で説明受けたんだ。けど、その前後の桜田の様子からは、全然そんな感じ
がしなかったんだ。すごく元気そうだったぞ。
なぁ、先生に教えてくれないか。桜田に、何があったのか。もしかして、大変なトラブ
ルに巻き込まれてるんじゃないか?ずっと右手に巻きっぱなしの包帯と、何か関係がある
のかな?」
「それは・・・」
ジュンは正直、どう答えるべきか困ってしまう。試しに、今日までの事を思い返してみ
た。
――中学受験失敗が原因で引きこもりをしていたら、伝説の生き人形『薔薇乙女』達の戦
いに巻き込まれた。騒がしい毎日と激戦の末、自分も生きる意思と力を取り戻した。
戦いが終わった直後、偶然ハルケギニアに使い魔として召喚された。召喚されたついで
に、死んだ雛苺と蒼星石を生き返らせるため、ハルケギニアの探索と併せて魔法学院での
勉強も始めた。
先週は、王女からの密命で浮遊大陸アルビオンに潜入、皇太子を連れ帰った。だがそれ
が原因で、アルビオンと戦争になってしまった。これから、トリステインの兵士として零
戦に乗り、アルビオン艦隊と戦う――
・・・言えるかーー!
思い返してみて、自分で思いきりツッコミ入れてしまった。
「う~ん、まぁ、先生が心配するのも当然とは思うけど。ホント個人的な事だから、言い
たくないんです」
「そ、そうか・・・しょうがないな。でも、いつか先生にも教えてくれよ」
そういって、ぎこちない作り笑いを残して教師は職員室へ去っていった。
自分を心配してくれる担任の姿に、その担任に黙って再び学校をしばらく休まなければ
いけない事に、ジュンも胸がチクリと痛む。
正門から出て、ふとジュンは校舎を振り返る。
何の変哲もない、四角いコンクリートの校舎。生徒だってごく普通。
ジュンにとっては夏休みの終わりまで、見るだけで吐き気がした、大嫌いだったはずの
公立中学校。
対アルビオン戦争の間は地球に帰らず、しばらくハルケギニアにいるつもりだ。生きて
帰れる保証なんか無い。死ぬ気はないが、現実はそう甘くない事は分かっていた。『もし
かしたら、この校舎を見るのは最後になるかもしれない』…そう思うと、何故か後ろ髪を
ひかれる想いがしてしまう。
くるっと校舎の方を向き、軽く頭を下げる。
そして、学校をあとにした。
第五部
第一話 課外授業
桜田家の中に入ると水銀燈、のり、巴がリビングでお茶を飲んでいた。
「遅いじゃないのぉ、待ちくたびれたわよぉ」
水銀燈がジュンの前にふわりと飛んで来て、懐中時計を渡した。ジュンが先日イザベラ
に渡した物だ。それを見たとたん、ジュンが悪役風にニヤリと笑ってしまった。
「無事、回収したわ。これで、あんたの言う4thフェーズとやらも終了ねぇ」
「ありがとうな、水銀燈。これでミッションコンプリートだ」
のりが、しげしげと懐中時計をのぞきこむ。
「へぇ~。それが、この前話していた時計なのねぇ」
「ああ、柴崎さん特製の懐中時計。超小型高性能マイク入れてもらったヤツ」
巴は手に持っていたiPadを示す。
「データは移しておいたわ。私には何を言ってるのか分からないけど、上手く盗聴出来て
るらしいわ」
「オッケー、ありがとな柏葉。んじゃ早速、部屋で聞くとしようか」
ジュンの部屋では、真紅と翠星石が茶飲み話をしていた。
「あら、ジュン。お帰りなさい。待ちくたびれたわよ」
「よーやく帰ってきたですかぁ。それじゃ、ちゃっちゃと聞くですよぉ!」
「そーだな、どれどれ・・・」
iPadをステレオに繋ぎ、盗聴した音声を再生させる。
『 ・・・でして、これは宮殿の警備上の致命的な・・・責任が・・・
遺留品はこの時・・・何も魔法の反応が無く、安全としか・・・
・・・つらは今回ただのイタズ・・・もし、本気になれ・・・
プチ・トロ・・・が消・・・次は皆殺しにされ・・・秘密をつかま・・・』
「やった!あいつら、この時計を会議室に持ち込んだらしいぞ!」
「ふふふ、当然よ。そのためにわざわざ安全にしか見えない遺留品を残したのだから」
「しーですっ!今、大事な所です!」
と言ってる翠星石は、小さくガッツポーズ。
ハルケギニア語の分かる使い魔達は、じっとスピーカーから流れる会議の話を聞き入っ
てる。のりと巴は、そんな彼等を黙ってジッと眺めている。
「へへへ・・・思った通りだ。あいつら、僕たちの事、すっごく怖がってる」
「当然ですよぉ、どうやって宝物庫に侵入したかも、どこから逃げたかも分からないんで
すからぁ…イヒヒヒヒヒィ~」
「いつ自分たちを暗殺に来るか分からないものね。これでうかつに手出ししようなんて、
考えないでしょう」
スピーカーから流れる異国の言葉に聞き入り、ほくそ笑む使い魔達。そんな彼等の姿を
見るのりと巴は、さすがにちょっとひいてしまった。
ふと視線をずらすと、二人の前には水銀燈の後ろ姿がある。黙ってジュン達を見ている
水銀燈の背中で、黒い翼がパタパタと羽ばたいている。
ツヤツヤの黒、キラキラ輝く、ふわふわの、柔らかそうな羽・・・
「・・・ちょっと、あんた達ぃ…何のつもりぃ?」
水銀燈がジロリと振り向くと、二人は黒い翼に手を伸ばそうとしていた。
「あ、あははは、その、ねぇ?巴ちゃん?」
「そ、その、すっごくステキな、翼だなーって…ねぇ?のりさんも」
「う、うーんと、そのモフモフってしたら、気持ちいいかなーって」
「バカ言ってないでないでよねぇ」
「「はぁーい・・・」」
二人とも、シュンとして小さくなってしまった。
ジュンが、再生を止めた。と同時に両手でガッツポーズ。
「よーっし!これで多分ガリアの方は大丈夫だ!」
「やったですねぇ!あとは、アルビオンですよぉ」
「そうね、でも油断したらダメよ。nのフィールドも地球の事も、ちゃんと隠し通さない
とね」
ジュン達が三人だけで大喜びしているのを見て、水銀燈ものりも巴も興味津々。
「ねぇねぇジュンくん、どうなったの?結局、ガリアの王宮はどうするって?」
「ああ、うーんとね、簡単に言うと・・・」
ジュンがかいつまんで話す内容は、こうだ。
ガリア王宮の人々は、『あの使い魔達を本気で怒らせたら、次は自分たちを暗殺に来る
んじゃないか』と恐れている。
今回の件から、使い魔達の行動を阻む手段が無いことは疑いない。
戦闘能力も、少なく見積もってすらスクウェア。プチ・トロワを消し飛ばすヤツらと、
策も無く戦うのは無謀。
今回のアルビオンとトリステインの戦争では直接介入せず、まずは使い魔達の情報を収
集するのが得策。間者を増やし、大使を送る振りをしてジュン達を監視し、その秘密を少
しでも暴くべき・・・。
説明に疲れてお茶をずずずぅ~っと飲むジュンのあとを、翠星石が得意げに引き継いで
話し出す。
「それとですねぇ、今回のあたし達の作戦のことはですねぇ、どうにかして秘密にしよう
としてるようですよぉ」
「でも、そんなのは無理ね。あっという間に噂は広がるわ。ちょっとやりすぎたかもしれ
ないわね」
「ちょっと真紅ぅ!あたしのセリフを横からとるなですぅ!」
「あら、ごめんなさい」
謝る真紅も、言葉とは裏腹に得意満面。
水銀燈も、満足げに三人の話を聞いて頷いた。
「そう、大方は上手く行ったようねぇ。ま、あたしをあれだけこき使ったんだもの。それ
くらいは当然よねぇ?」
そう嫌味っぽく笑う水銀燈へ、真紅がニッコリと微笑む。
「本当ね。時計の回収といい、ミーディアムがいなくても自由にnのフィールドを動ける
あなたがいなかったら、上手く行かなかったわ。
ありがとうだわ、水銀燈」
そういって真紅がすぃっと頭を下げると、水銀燈が今度はオタオタしてしまう。
「な、なによう、気持ち悪いわねぇ」
「あら、本当に感謝しているのよ?」
「ふ、ふんっ!うるさいわね、まったく。もうやる事は全部やったんでしょ!?さぁっさ
とハルケギニア行ってきなさいなぁ」
「そうだな、んじゃ行くとするか・・・あの、服着替えるから、先に出てくれる?」
ジュンが小姓の服に着替えるのを待って、一行はぞろぞろと倉庫の大鏡へと降りていっ
た。
着替える間、ふと勉強机が視界に入る。
大量の軍事・戦争・武器・兵法関連書物が、パソコンの周囲に山と積まれている。この
一週間、ルイズからもらった金貨を売った金で皆が買いあさり、勉強そっちのけで読みま
くった資料だ。ネットからプリントアウトしたデータも分厚いファイルに収めてある。
「付け焼き刃だけど、無いよりましか」
少し部屋を見渡してから、部屋をあとにした。
一同が倉庫に入ると同時に、輝く鏡から大小の人影が降り立った。金糸雀と、デルフリ
ンガーを抱えた草笛が出てきた所だ。
「はぁううう・・・疲れたぁ・・・」
出てきたとたんに草笛はヘナヘナと座り込んむ。
「お帰りなさいですぅ。アルビオンの方はどうでしたぁ?」
翠星石に聞かれた金糸雀と草笛は顔を見合わせ、はぁ~っとため息をついてしまった。
『いや~、すまん。やっぱだめだったわ。学院の嬢ちゃん達も連れて、あちこち探し回っ
たんだけどよぉ。
アルビオン大陸なら行けるんだがよ。ロンディニウムのハヴィランド宮殿に、ロサイス
の空軍工廠、特に発令所。必死で出入り口探したんだけどよぉ、みつかんねーわ』
「「「そっかぁ~、残念」」」
デルフリンガーの言葉に、ジュンも真紅も翠星石も肩を落としてしまう。
「ねぇ、ジュンくん。この前の宮殿の出入り口は、あんなに沢山簡単に見つかったのに、
どうしてアルビオンの方は見つからないの?」
首をひねるのりの疑問に、草笛が重たげに口を開いた。
「あの宮殿はですね、ほら、あの青い短い髪の、タバサさんがよく知っていたんですよ。
だから、鏡の向こうが宮殿なのか、グラン・トロワ内部のどこなのか、すぐ分かったんで
す」
「でも、かしら。アルビオンに詳しい人がいないのかしら?だから、鏡の向こうがアルビ
オンの一体どこなのかは、nのフィールドからでは分からないの。危ないから、鏡の外に
出て確かめたりは、うかつに出来ないかしら」
『おまけに貴族が生活するこぎれーな宮殿と違ってよぉ、軍事施設は大きな鏡とかガラス
とか、ほとんど置いていねぇらしいんだよ。お偉い軍人は貴族なんだし、身だしなみくら
い気をつけろってーの!
だからロサイスの空軍工廠なんかは、出入り口自体も少ねぇようだから、みつからねー
んだなぁ』
金糸雀とデルフリンガーも、重そうな口を開く。相当にnのフィールド内を飛び回った
のだろう、金糸雀はもうヘトヘトだ。
話を聞いていた巴も残念そうだ。
「そう…ヴェルサルティル宮殿みたいに襲撃出来ればよかったのだけど。そう上手くは行
かないわね」
その巴の言葉を横で聞いてるのりは、「なんかみんな、言う事が過激になってきちゃっ
てるなぁ…」と、少し顔を引きつらせている。
水銀燈も浮かない顔で、ふぅ、と溜め息をつく。
「それにしてもねぇ、これだけハルケギニアを飛び回ってもローザミスティカの気配を感
じないなんてねぇ・・・。一体、雛苺と蒼星石のローザミスティカ、どこ行っちゃったの
かしらぁ?」
水銀燈の言葉に、その場の全員も肩を落としてしまう。
「本当ですねぇ・・・近ければ気配を感じるはずなのに」
翠星石の悔しげなぼやき。ジュンも不安を隠せない。
「もしハルケギニアにあるなら、ガリアやゲルマニアとかの、他国の学院で召喚されたか
も知れない。聖地や東方かもしれないし・・・最悪、地球ともハルケギニアとも違う、全
然別の異世界に迷い込んだかも・・・」
「・・・本当に、先は長そうねぇ・・・」
真紅の言葉に、皆、さらに溜め息をついてしまう。
ジュンが金糸雀の肩をポンと叩き、床にへたりこんでた草笛が立ち上がるのに手を貸し
た。
「まぁ、しょうがないよ。みんな本当によく頑張ってるんだから」
「そうねぇ、気長に行かないと。それじゃ、あたしそろそろ仕事に戻るわね」
「んじゃ、また会うのかしらー!」
「それじゃ、あたしも一旦さよならするわねぇ」
草笛と金糸雀と水銀燈は、鏡面の中に消えていった。
「それじゃ、僕らはもう行くとするよ」
「ええ、そうね」「わかったですぅ」『おっしゃ、行くとしようぜ』
草笛から受け取ったデルフリンガーを背負い、鏡の前に立つ。その左右に真紅と翠星石
も立つと大鏡が再び光り出し、nのフィールドへの扉が開かれる。
「ジュンくん・・・」
のりは、涙を浮かべて弟の名を呼ぶ。だがジュンはちょっと振り返るだけで、鏡へ手を
伸ばす。
「分かってる、大丈夫だよ姉ちゃん。やる事は沢山あるんだから、絶対に死なない。ルイ
ズさんも真紅も翠星石も、誰も死なせない。必ず、みんな無事に帰ってくるよ」
「ええ、きっとよ。必ず、無事に帰ってくるのよ」
真紅と翠星石も、鏡に入る前に少しだけ振り返る。
「ほんの少しの辛抱よ。すぐに帰ってくるわ」
「のり、任せるですよ。必ずこのチビ守ってみせるですぅ」
三人の姿は、鏡の中に消えていった。
あとには、涙を流して肩を抱き合う二人の少女が残された。
~対アルビオン戦争二日前 昼
昼食の時間。
学院の正門の外でジュンが立っている。
腰にナイフを装備し、デルフリンガーを左手に握り、右手にメリケンサックを着け、大
勢の女性達に囲まれていた。軍事教練とルイズ達の警護をしてる女性武官達だ。その中に
は、コルベールの姿もある。皆ジュンから10メイル以上離れ、手に木切れを持ち、丸太
や机の後ろに隠れている。
ジュンは皮のベストの様な物を着用している。そのベストには、沢山の大きなクギの様
な物が収められていた。その何本かが彼の右手にも握られている。
「ジュンよ、準備はいいかぁ?」
「いいぜ、デル公。それじゃ、お願いします」
ジュンの合図を受け、コルベールが杖を掲げる。女性武官達が大きく振りかぶって、木
切れをジュンへ全員同時に、全方位から思いっきり投げつけた。
鉄の棒を持つジュンの右手も翻る。
カカカカッカカカカッカカカッ!
投げつけられた木片は、全て弾き返された。
ジュンが目にも止まらぬ速さで投げつけた、毛筆の様な形をした鉄の棒――棒手裏剣に
撃ち落とされていた。弾かれた木片がいくつか、手裏剣に貫かれた勢いで、女官達の隠れ
た机や盾にまで当たっている。
「おでれーたなぁ。こんだけの鉄棒を、あの一瞬でたっぷり抜き放ってるぜ」
コルベールも感心しながら木片と棒手裏剣を確認し、抜いていく。
「おまけに、全弾命中だよ。いやはや、私の練成した鉄の棒が、こんな恐ろしい武器にな
るとは、驚きですぞ」
「いや、その、そんな、へへへ・・・これで接近戦だけじゃなく、離れた敵とも戦えます
ね」
おお~、パチパチパチ…ピューピュー!
周囲の女官達からも、どよめきと口笛と拍手がわき起こり、ジュンは真っ赤になって照
れてしまった。
金のショートヘアーに鎖帷子の武官、アニエスが引き抜いた棒手裏剣をしげしげと観察
している。
「本当に大したモノだ。我らのマスケット銃より速く威力もある。何より連続で放てる。
こういう棒形の刃物は、当てるのが難しいというのに・・・」
しきりに驚嘆の言葉を呟きながら、ジュンに棒手裏剣を手渡した。周囲の女官達も棒手
裏剣を木片から引き抜き、手渡していく。
「いやー、本当に大したモンだねぇ。これ、東方の武器なのかい?」
「そんな小さな体で、若いのに、これほどの腕を持つとは・・・驚きだわ」
「おまけにそんな長剣まで使えるのだねぇ~、ホント大した剣士だね」
「ホントね。あたし達と同じ平民だし、可愛い子よね・・・」
「ねえねぇ、今夜ヒマ?うふふふ…お姉さん達のテントでいろいろお話しない?」
「おでれーたなぁ、ジュンよ。モテモテじゃねぇかよ~」
「あう…あの、その…」
どんどん赤くなって小さくなってくジュンを、女官達が艶やかな微笑みを浮かべつつ囲
んでいく。棒手裏剣を手渡すついでに、わざとらしくジュンの手を握ったり肩に手を置い
たり頬に触れたり。
キッ
アニエスの青い瞳に睨まれて、女官達は慌ててジュンから離れて整列した。
「おほん!部下達が失礼した。ともかく、サクラダ殿の訓練に付き合うのはこれくらいで
よかろう。部下達は解散させてもらう」
「うむ、ミスタ・サクラダ。私もそろそろ戻りますぞ」
「はい。皆さん、ありがとうございました」
頭を下げるジュンに小さく手を振りつつ、女官達は駆け足で学院へ戻っていった。コル
ベールは『フライ』で飛び去った。
「さて、そろそろ昼食も終わった頃だろう。ミス・ヴァリエールと合流するとしよう」
「あ、はい」
ジュンとアニエスは並んで学院の食堂へ向かって歩き出す。
「ところでサクラダ殿、その長剣なのだが」
「おう!デルフリンガーってんだ、よろしくな!」
「デル公が、なんですか?」
アニエスはデルフリンガーの刀身、特に柄をジッと見つめている。
「これは、もっと大柄な人間が振るためのモノだ。そのため、柄も大きな手に合わせて太
くなっている。君の小さな手では、しっかり握れないのではないか?」
「そう、なのかな?意識した事はないんですが」
「そうなのか、だと?貴殿ほどの剣士が、信じられんな。重心の位置といい重さといい、
君に合わないと思うのだ。腰のナイフと、そのシュリケンとかいう武器が、君には最適だ
と思うぞ」
「いえ、デル公はすっごく役に立つんですよ。メインの武器はデル公で行きますよ」
「そうだぜ姉ちゃん!ジュンと俺っちの力を見れば納得するさね!」
「ふむ…マジックアイテム使いの貴殿がそういうのなら、その剣はただのインテリジェン
スソードではないのだろうな」
そんな話をしながら歩いていると、食堂から出てきたルイズと真紅と翠星石がジュン達
を見つけて駆けてきた。
「さて、これでミス・ヴァリエールと使い魔達は全員揃ったようだ。これより王宮からの
通達を伝える。
貴殿等の暗号名は『ゼロ』。ミス・ヴァリエールは『ミス・ゼロ』、サクラダ殿は『ミ
スタ・ゼロ』、シンク殿は『ルビー・ゼロ』、スイセイセキ殿は『エメラルド・ゼロ』と
呼称される。
所属は公爵率いるヴァリエール軍。公爵直属の小隊として、公爵の直接指揮下にて動か
れよ。別命あるまで待機を継続。以上」
アニエスは居並ぶルイズ達に連絡事項だけ伝え、すぐに礼をして去っていった。
あとには、肩を震わせるルイズが居た。
「な・・・何よ、なんであたしの暗号名が、『ゼロ』なのよ!?私はもうゼロじゃないっ
てーの!」
まーまー、どうどうどう、とジュンと人形達になだめられるルイズだった。
「た、多分、王宮や軍の人たちは、単なるあだ名だと思ってたんじゃないかなぁ?」
「そう!そうね、ジュン。それに、タダの暗号名よ、気にしたらいけないわ!」
「そうですぅ、真紅の言うとおりですぅ!それに、もうゼロじゃないんだから、いいじゃ
ないですかぁ」
「あ、スイ、お前・・・」
デルフリンガーが指摘するまでもなく、ルイズが翠星石を引きつった笑顔で見下ろして
いた。
「ゼロって言うなー!」
ルイズの叫びが学院に響き渡る、まだ今は平和なトリステインだった。
ルイズ達女生徒は全員午後の教練中。武官達に広場でしごかれている。
真紅と翠星石は広場の端からルイズに、走れ走れーですぅ、とか、その程度で息が切れ
るなんて情けないわ、とか声援を…というよりチャチャを入れていた。
そしてジュンは滑走路横のテントにいた。女官達がテントを警護する中、ゼロ戦の操縦
席で機械をいじっている。
「あーあー、聞こえますか?」
――・・ああ、ようやく聞こえたよ。どうやら上手くいったようですぞ・・――
雑音は混じっているが、操縦席右の機械から聞こえてくるのはコルベールの声だ。
「ほほー、おでれーたな。ホントにあんな離れた場所から声が届いてるぜ」
座席後ろのデルフリンガーが、通信機に感心している。
――まったく凄いですな、このつーしんきというのは。風魔法を使った魔道具でも、
ほんの短い距離しか話が出来ないというのに。これだけ離れた距離から――
「あー、でもそっちのトランシーバーからは、1リーグくらいしか声を送れないですよ。
こっちのゼロ戦のヤツなら、50リーグくらいいけるはずです。これで、トリステインか
らでも、戦況を伝えるくらいは出来ると思います。
でも、離れれば離れるほど、雑音がひどくて聞き取りにくくなるんですけど」
――いやいや、それで十分ですぞ。無理を言って申し訳ない。ところで、ひこおきか
ら下ろしたモノも同じようなモノと言ってましたな。なら、あれでも会話出来るの
ですかな?――
「あ、それ無理です。あれは実は正確には通信機じゃなくて、ク式無線方位測定器といっ
て・・・えと、簡単に言うと、自分の居場所を確かめるためのアイテムだそうです。構造
とか原理とかは、大体この無線機と同じだと思うんですけど、会話は出来ません。
あれは、いらないので差し上げます。自由に調べて下さい」
――おお、ありがとう!感謝しますぞ。・・・ところで、実は君に見て欲しいモノが
あるのです。申し訳ないが、こっちに来てくれますか――
そんな風に、ジュンとコルベールが通信機のダイヤルをいじっていると、テントの外か
ら女性達の声が聞こえてくる。どうやら、ジュンに差し入れを持ってきた人が、テントの
外で警護の女官に中へ入るのを止められたらしい。
よく聞けば、それはシエスタの声だ。
「あ、すいませーん!僕が出ますからー!」
「へへへ、ジュンよ。年上の恋人から差し入れだなぁ」
「か、からかうなよデル公!そんなんじゃねーよ!」
デルフリンガーをつかんでゼロ戦を飛び降り、テントを出る。テント前には籠を持った
シエスタが立っていた。
夕焼け空の下、シエスタとジュンが並んで歩いている。差し入れのサンドイッチを頬張
りながら、学院近くの村へ向かっていた。
「ふわ~、改めてみると凄いねぇ。こんな大きな船を落としちゃっただんて!」
「う、うん、でも学院の『破壊の杖』の力だから。ところで、例の場所って」
「あ、もうすぐよ。森の向こうなの」
「ん~?なんかテントが沢山ならんでるなぁ」
デルフリンガーの言うとおり、遙か彼方にテントが集まっているのが見えた。
先日ジュンが撃墜した戦艦の残骸や、シルフィードが寝床にしている森の横を通り過ぎ
ると、小さな村が見えてくる。そしてその付近に出現した、粗末なテントの群れも。
テント村の近くで、コルベールが手を振っていた。
「お待たせしました、先生。ところで、見て欲しいモノというのはこれですか?」
「うん・・・実は、このトリスタニアからの避難民だよ」
「これ、みんな、城下からの・・・」
そこには、ジュンには名前しか知らないモノがあった―――難民キャンプだ。
粗末なテントの群れ、不安で疲れ果てた子供、たき火の周りに肩を寄せ合う老人達、学
院では見る事も出来ない粗末な食事を分け合う母娘、くぼんだ目でジロリと睨み付けてく
る男・・・。
城下から避難してきた人々が難民キャンプを作って、まだ数日しか経っていないはずな
のに、既に悪臭がそこかしこから漂ってくる。衛生状態が良くないのは、臭いだけでよく
分かる。
戦争を逃れて来た。ただそれだけで、タニアっ子と呼ばれていただろう人々を、あっと
いう間にただの難民へと変えていた。
「あ!シエスター!また来てくれたのかい!?」
「まー、シエちゃん!ホントありがとうねぇ~」
「もちろんですよ!はい、サンドイッチです」
シエスタが、避難民の中の男女に籠を渡していた。その人物を見て、ジュンは目が点に
なっていた。コルベールも微妙な表情を浮かべて沈黙。
女の方はシエスタと同年代くらいの、普通の女性。ストレートの黒髪に大きな胸。服も
普通。
ただ、男の方は・・・格好は周りの避難民と同じで、旅行用の服装…ただし紫と赤の、
ド派手な服。そしてその言動は、見るからにオカマ。クネクネとした動き、お姉言葉、見
るだけでキツイ。鼻の下と顎のヒゲに、筋肉質の長身と合わさって、失礼と百も承知で目
を背けたくなる。
シエスタがその男女を固まってる二人の前に連れてきた。その後方から、なーになに?
と若い女性達も寄ってくる。
「紹介しますね。この二人、あたしの親戚なんです。母方の叔父のスカロン叔父さんと、
従姉妹のジェシカです」
「あ、初めまして。僕は桜田ジュンって言います。ミス・ヴァリエー」「んまー!あなた
があの噂の少年剣士なのねー!なんて可愛い子なのぉ~~!!お願いキスさせてー!!」
んぎゅーぶちゅうぅ~~「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁ」
スカロンに思いっきり抱きしめられて頬にキスされ、ジュンは悲鳴と共に、意識がどこ
か異世界に飛びそうになった。さらにその妖しいというより怪しい唇がジュンの顔の真正
面へ
「きゃー止めて止めてやめてええーーー!!」
「ちょっちょっちょっと!落ち着いてえー」
「あ、あらごめんなさいなぁ、興奮しちゃってぇ~」
「うあああおでれーたな、ジュンよ、大丈夫かー!?」
シエスタとジェシカに割って入られ、ようやくスカロンはジュンを離した。ジュンはア
ルビオン戦を前に、三途の川を渡りそうになってたり。
「はうぐ、げほ、おええぇ・・・と、ところで、どうして皆さんここに?シエスタさんの
親戚なら、タルブの村が故郷なんじゃ」
息も絶え絶えのジュンの質問に、スカロンもジェシカも、後ろの女性達も顔を曇らす。
スカロンが力なく答えた。
「タルブの村はね…アルビオンとラ・ロシェールの間にあるの。だから、上空で艦隊が戦
うかもしれないのよ。多分、無事じゃ済まないわ」
スカロンの言葉に、後ろの女性達も口々に窮状を語り始める。
「でも、もうすぐトリスタニアも火の海になるっていうし、逃げないわけにいかなくなっ
たのよ。王宮からも、アルビオンから城までの通り道になりそうな町や村に、避難命令が
出てるの」
「でもねぇ、ここにいるあたいらみんなワケありで、店以外に行く場所無くてさぁ。逃げ
るに逃げられなくて困ってたのよ」
「そしたらシエスタがさ、学院近くなら安全かもって言うんだよ!」
「そうそう!なにせ、戦う貴族はみーんなとっくに出て行ったし、残っているのは女生徒
ばっかだし、この辺は学院以外何にもないから戦場にならないかもって!」
「おまけに、トリステインの切り札!学院の秘密兵器!最強の使い魔達が守ってるんだっ
てぇ!?」
「向こうの戦艦の焼け跡みたよぉ!あんた、そんなちっこいのに凄いんだねぇ!一昨日あ
たし等の頭の上を飛んでくのもみたよぉ!」
ジュンはもう、スカロンの店の女の子達に囲まれていた。
「あ、あんたなら、坊や達ならトリステインを守れるんでしょ!?みんな、そう言ってる
よぉ!!」
「お願いします、トリステインを守って下さい!城下の、ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大
隊に、あたしの恋人がいるんです。どうか、守って下さい。お願いします!」
「ロッシャ連隊には、あたしのただ一人の家族が、弟がいて・・・敵艦隊の的にされるか
と思ったら、もう、あたし・・」
「私達、ほとんどがワケありの流れ者で、もう店長の所にしか居場所が無いんです!!」
「あ、あたいに出来る事なら、何でもします!今夜一晩、いえ、いくらでもお相手します
から、だから、だから、トリステインを、いえ、あたい達だけでも・・・」
ジュンは、泣きながら懇願する女性達に囲まれ、どうしていいのか分からなかった。
ローザ・ミスティカを探すため、魔法を勉強するためにトリステインへ来たはずだ。本
来、この戦争にも何の関係もない。なのに、そんな彼の思惑とはかけ離れた事態に巻き込
まれ・・・。
今の彼には、ただ顔を伏せて立ちつくすしかなかった。
コルベールが、言葉が見つからないジュンの肩を抱いた。
「皆さん、言いたい事は沢山あるでしょう。でも、今日の所はこの辺でお願いします」
「そ、それじゃスカロン叔父さん、ジェシカ、みんなも、また来るから」
コルベールとシエスタに背を押され、ジュンはトボトボと学院へ向けて歩き出した。
もう沈みかけの夕日の中、ジュンが小さな声で呟いた。
「・・・先生は、どうして彼等と僕を会わせたんですか?」
コルベールは前を見たまま、ただ自然に答えた。
「戦争がどういうものか、君に知って欲しくてね」
「ジュンよ、戦争ってもんがどういうもんかシラねーから、おでれーたんだろ?でも戦争
が長引けば、もっと酷くなるぜ」
「ごめんなさい、ジュンさん。あなたには、ちょっときつかったね」
ジュンは俯いたまま、力なく歩き続ける。
「ジュン君、君は彼等を守るために戦おう、と思うかい?」
「…え?」
「いや、別に戦えなんて言いませんぞ。むしろ逆だ。戦いに行けば、君が兵士を殺せば殺
すほど、アルビオン側にも彼等のような人々がどんどん増えていくんです」
「おうおうコルベールさんよぉ!戦いの前にやる気なくさすようなこと言うなよぉ。戦争
なんだからしゃーねーだろ?」
「いいんだよ、デル公。敵も味方も人間で、殺し合えば誰も幸せになれない。そういう事
だよ。・・・頭で分かってても、実際に見ると、きついなぁ・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!ミスタ・コルベール!」
シエスタが慌てて口を挟んだ。
「でも、ジュンさんが戦わなかったら、トリステインが負けて、あたし達が死ぬかもしれ
ないんですよ!?
メイジの人たちや兵隊さん達がいなくなったのを良い事に、周りの国も攻めこんで来た
りして、国がバラバラにされて、奴隷になんかされて、賠償金とか言うスッゴイ高い税金
とられて」
「それは、アルビオンも同じですよ」
「で、でも、私は死にたくないです。どうせなら、今まで通りみんなと生活したいです。
だからジュンさんには」
「そうだね…選ぶのはジュン君、いや、君の主のミス・ヴァリエールですかな?」
ハッとしてジュンはコルベールを見上げる。ただ真剣な顔の、彼の教師の顔を。
しばし見上げて、ゆっくりと口を開いた。
「先生は・・・戦争に行った経験はありますか?」
教師は、夕日を見つめた。血のように赤い夕日を。
「ありますぞ。・・・いや、戦争よりもっと酷い作戦を、何度も指揮しました」
「そう…ですか」
「今は、この学院で教師をしています。ですが、本来私は、こんな所で研究にふける資格
など無いのです。今すぐにでも、贖罪の炎に身を投げねばならないほど、罪深い人間なの
です」
ジュンとコルベールは、沈んでゆく夕日を前に、ただ立っている。
シエスタも、ジュンの背のデルフリンガーも、何も口を挟めない。
「ジュン君、君は優秀な生徒です。魔法は使えないが、魔法以外の全てを身につける事が
出来ますぞ。おそらく、その力は魔法を超えるでしょう。あのひこおきや、つーしんきの
ように」
コルベールは、まっすぐにジュンを見つめた。
「だからこそ、戦争に行かないで欲しい。その力を破壊に使わないで欲しいのです。君の
人形達と共に平和を生み、人々を幸せにするために、力を使って欲しいのです。みっとも
なくてもいいから、血を流さず生きて欲しいのです」
ジュンには、どう答えたらいいのか分からなかった。
雛苺と蒼星石を生き返らせる、ルイズやシエスタや学院のみんなを守る、そのために敵
を殺さねばならないという事実。自分が幸せになるために、相手を不幸にしなければなら
ないという現実。
だが、それでも・・・
「先生・・・先生の言いたい事、分かります。でも僕は、大事な人たちを守ります。それ
が、今の僕には出来るから。
逃げたくは、ないから。後悔したくないから。大事な人の死を、もう二度と見たくはな
いから。ルイズさんも、シエスタさんも、マルトーさんも、先生だって、みんな守りたい
から
たとえ、そのために誰かを殺さなければいけないとしても」
「そうですか・・・」
コルベールは、視線を落とす。寂しげに、哀しげに。
「すまねえな、オッサンよ。あんたの言う事はもっともだけどよ、現実ってやつぁそんな
に甘くねーんだわ。
それに、ジュンはなりはちっせえけどよ、もう子供じゃねえんだ。惚れた女ぐれえ、自
分で守らせてやれって!」
後ろで黙って聞いていたシエスタは、ジュンの『大事な人~シエスタ』の言葉、おまけ
に『惚れた女』というデルフリンガーの言葉に、真っ赤になってモジモジしていた。
「・・・そうですな、軍から逃げた私に、何も言う資格はありますまい。
だがジュン君、これだけは言わせて欲しい。人の死に『慣れ』てはいけない。戦争に慣
れてはいけない。目の前に折り重なる死者を、ただの数字として数えてはいけませんぞ」
「・・・分かりました。僕が殺す人々の顔、決して忘れません」
教師の杖と生徒の剣とが交差し、誓いの十字を描く。
もうほとんど沈んだ夕日、赤く染まる草原。
長く伸びる十字の影が、どこまでも遠くへ続いていた。
第一話 課外授業 END
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