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#navi(ドラゴンクエスト外伝―ゼロの家庭教師―)
『「おや?どうやら再開の鐘が鳴ったなったようですねぇ。
随分長いこと休んでいた気分ですが…ま、気にしないでいきましょう!」
『先生の長い一日!!!』の巻 続き
昼休みの終わりと、授業の開始を告げる鐘が学院に鳴り響き、
アバンはそれまでの長話を切り上げて大きく体を伸ばした。
この数刻ほどの間、教えたがりの説教くさい聞き上手と、
素直で好奇心に満ちたおしゃべり好きの会話は、
弥が上にも盛り上がりを見せていたが、少しばかり熱中し過ぎたようだ。
「おじさま、もう時間なの…?」
それまでとはうってかわってシルフィードは落胆の色を隠さなかったが、
「続きはまたの機会としておきましょう。その時はもっと面白い話を用意しておきますから」
との言葉に再び瞳を輝かせた。
「おじさま、きっとよ!待ってるのだわ!!」
シルフィードの言葉に送られて広場を去るアバン。
振り返って振ろうとした手が羽に変わっていることを思い出し、思わず苦笑して姿を改めた。
「ついつい時間を忘れてしまっていたようです。急いで戻りましょうか…ルーラ!」
次の瞬間、アバンの身は光弾となって空を切り裂いていた。
急いで学院に戻ったアバンではあったが、どうやら既に授業は開始してしまったようだった。
生徒でもない自分が「遅れてすいません」と入っていくのも妙な具合であり、
同時に次の授業の担当が、こらまた実に陰険そうな感じのする教師でもある。
自分はともかく、ルイズまで嫌みったらしく当てこすられたりしたら堪らない…
アバンはあらためて次の授業まで待つことにした。
(大型のものなど、使い魔が必ずしも同席する必要はないようですしねぇ)
これならばもう少しシルフィードと話しを続けてあげるべきであったか、とも考えたが、
今更いっても仕方が無いので食堂裏の厨房に顔を出すことにした。
――やぁやぁ皆さん、コンニチハ~
と、いつものように明るく乗り込もうしたアバンであったが、
この世の終わりが来たかのように暗く沈んだ厨房の雰囲気に言葉を呑んだ。
そこには普段の活気に満ちた姿は無く、酷く閑散とした光景があった。
入って直ぐにこちらに気付いたコック長のマルトーは、神妙な面持ちでアバンの顔をしばし眺めると、
部屋の奥で俯いたままのシエスタの方に視線を促し、自身は他の者を連れて席を外した。
「……どうかしましたか?」
「!アバン様!?」
ハッと顔を上げたシエスタの、その赤い目が事態の深刻さを物語っていた。
「その…なんでもないんです!!!なんでも…」
勢い立ち上がろうとするシエスタの両肩に手を置き、
静かに、そして優しく座るように促すと、片膝をついてシエスタを正面から見つめ、
ゆっくりと穏やかに語りかけた。
「シエスタ、シエスタ…いいんですよ。どんなことだっていいんです。
どんな些細なことでも、どんな深刻な難題だろうと、話してみてください。
そして一緒に悩んで、一緒に考えましょう。一人で抱え込む必要はありません。
どうにも頼りない私ではありますが、貴方のために惜しむ力はありません」
「アバン…さま…………」
初めは尚も言葉を続けようとしたが、途中からは言葉にならず、
終には堪えきれずに涙が溢れたシエスタをアバンがそっと抱き寄せると、
彼女は最早嗚咽を止めることはできなかった。
「…それで、その後もそのシエスタとかいうメイドの話に付き合ったがために、
次の授業にも間に合わず、主人である私に何の連絡もしないまま、
今の今まで外をほっつき歩いていた、と。こういうこと?」
「流石はルイズ、パーフェクトな回答です。いや~私も実に鼻が高いですよ!」
カンラカンラと大笑するアバンに、机をどんっ!と叩いたルイズ。
「あんたね~、絶っ対にわたしをおちょくってるでしょ!」
「いやいや、きっと心配してるだろうな~とは思ってましたとも」
「だだだ誰があんたの心配なんか、ああああんたのそういうことがね~!」
――まずい、言葉が震えてきたのは噴火の兆候だ。
アバンはさっと居住まいを正した。
「オッホン…失礼。勿論ルイズが怒るのも判りますよ。
最初に時間をすっぽかしたのは私ですからね、それについては申し訳ない」
この通り、と頭を下げるアバン。
「むむ…」
急に下手に出られたために、怒りをかわされ少し言葉に詰まったルイズ。
「でも見過ごしては置けなかった状況だった、というのもわかって貰えるでしょう?
どうやら件のモット伯は、王宮からの勅命ということで度々この学院を訪れていて、
目に付いた平民の娘を強引に召し上げて自分の召使としてるらしいのですよ」
「別にそれは…」
「しかも!その目的は美しい娘を手篭めにするためだというのですよ!!
こんなことが見過ごされていいのでしょうか!!?否、断じて否です!!!」
今度は一転、拳をグッと握り締めバックの炎を背負いながら熱弁を振るうアバン。
この辺りから、ルイズは段々嫌な予感を覚え始めていた。
確か以前もこんな流れでやり込められて…
「私はねルイズ、力はあるだけじゃ何の意味もないと思いますよ
人のために使ってこそ初めて意味があるのだと…」
突然の話題転換である。
「…それで?」
「思えばこの世界の魔法の力は実に素晴らしい。ありとあらゆる事が可能です。
この世界でメイジが貴族として崇めたてられるのも、ある意味尤もなことで、
これだけの力の持ち主には、人々の幸福を担う責任と義務があるでしょう」
「…そうね」
「そうであるなら、貴族とは人々のためにその異能を発揮し導いてこそ尊いのであって、
いたずらに特権を振りかざし、人を不幸にするようなものが名誉ある貴族と言えるでしょうか?
今回のようなことは完全に…」
「~~~ッもう!」
ダン!と再び机を叩いたルイズ。
「アンタの長口上は聞き飽きたわ!!話しは簡潔に纏めなさいよ簡潔に!!!」
「一緒に悪い貴族を成敗して彼女を助けましょう」
本当に簡潔に纏めたアバン。
(薄々判ってはいたけど、ホントに一言にまとめちゃったわね…)
言いたいことはルイズにも良く判る、モット伯は確かに嫌な男だ。
アバンの主張には同意できる、シエスタの境遇には同情もできる、けれど…
「そんなことできるわけないじゃない…あなた伯爵家の当主を手にかけて無事で済むと思ってるの?」
どうにかしてやりたくても、無理なものは無理なのだ。
そう主張するルイズに対し、
「手にかける?物騒なことを言わないで下さいよルイズ。バレたらことじゃあないですか」
他人の苦悩を知ってか知らずでか、あっさりと否定するアバン。
「?…じゃあどうやって助けるっていうのよ?」
金かなにかで取引でも持ちかける心算だろうか、と訝しむルイズだが
「ここは盗んでしまいましょう。何からなにまで全てです」
返って来たのはとても教育者を名乗るものとも思えぬ言葉であった。
先生の長い一日は、まだ終わらない。
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「おや? どうやら再開の鐘が鳴ったなったようですねぇ。随分長いこと休んでいた気分ですが…ま、気にしないでいきましょう!」
昼休みの終わりと、授業の開始を告げる鐘が学院に鳴り響き、アバンはそれまでの長話を切り上げて大きく体を伸ばした。
この数刻ほどの間、教えたがりの説教くさい聞き上手と、素直で好奇心に満ちたおしゃべり好きの会話は、弥が上にも盛り上がりを見せていたが、少しばかり熱中し過ぎたようだ。
「おじさま、もう時間なの…?」
それまでとはうってかわってシルフィードは落胆の色を隠さなかったが、
「続きはまたの機会としておきましょう。その時はもっと面白い話を用意しておきますから」
との言葉に再び瞳を輝かせた。
「おじさま、きっとよ! 待ってるのだわ!!」
シルフィードの言葉に送られて広場を去るアバン。
振り返って振ろうとした手が羽に変わっていることを思い出し、思わず苦笑して姿を改めた。
「ついつい時間を忘れてしまっていたようです。急いで戻りましょうか…ルーラ!」
次の瞬間、アバンの身は光弾となって空を切り裂いていた。
急いで学院に戻ったアバンではあったが、どうやら既に授業は開始してしまったようだった。
生徒でもない自分が「遅れてすいません」と入っていくのも妙な具合であり、同時に次の授業の担当が、こらまた実に陰険そうな感じのする教師でもある。
自分はともかく、ルイズまで嫌みったらしく当てこすられたりしたら堪らない…
アバンはあらためて次の授業まで待つことにした。
(大型のものなど、使い魔が必ずしも同席する必要はないようですしねぇ)
これならばもう少しシルフィードと話しを続けてあげるべきであったか、とも考えたが、今更いっても仕方が無いので食堂裏の厨房に顔を出すことにした。
――やぁやぁ皆さん、コンニチハ~
と、いつものように明るく乗り込もうしたアバンであったが、この世の終わりが来たかのように暗く沈んだ厨房の雰囲気に言葉を呑んだ。
そこには普段の活気に満ちた姿は無く、酷く閑散とした光景があった。
入って直ぐにこちらに気付いたコック長のマルトーは、神妙な面持ちでアバンの顔をしばし眺めると、部屋の奥で俯いたままのシエスタの方に視線を促し、自身は他の者を連れて席を外した。
「……どうかしましたか?」
「! アバン様!?」
ハッと顔を上げたシエスタの、その赤い目が事態の深刻さを物語っていた。
「その…なんでもないんです!!! なんでも…」
勢い立ち上がろうとするシエスタの両肩に手を置き、静かに、そして優しく座るように促すと、片膝をついてシエスタを正面から見つめ、ゆっくりと穏やかに語りかけた。
「シエスタ、シエスタ…いいんですよ。どんなことだっていいんです。どんな些細なことでも、どんな深刻な難題だろうと、話してみてください。そして一緒に悩んで、一緒に考えましょう。一人で抱え込む必要はありません。どうにも頼りない私ではありますが、貴方のために惜しむ力はありません」
「アバン…さま…………」
初めは尚も言葉を続けようとしたが、途中からは言葉にならず、終には堪えきれずに涙が溢れたシエスタをアバンがそっと抱き寄せると、彼女は最早嗚咽を止めることはできなかった。
「…それで、その後もそのシエスタとかいうメイドの話に付き合ったがために、次の授業にも間に合わず、主人である私に何の連絡もしないまま、今の今まで外をほっつき歩いていた、と。こういうこと?」
「流石はルイズ、パーフェクトな回答です。いや~私も実に鼻が高いですよ!」
カンラカンラと大笑するアバンに、机をどんっ! と叩いたルイズ。
「あんたね~、絶っ対にわたしをおちょくってるでしょ!」
「いやいや、きっと心配してるだろうな~とは思ってましたとも」
「だだだ誰があんたの心配なんか、ああああんたのそういうことがね~!」
――まずい、言葉が震えてきたのは噴火の兆候だ。
アバンはさっと居住まいを正した。
「オッホン…失礼。勿論ルイズが怒るのも判りますよ。最初に時間をすっぽかしたのは私ですからね、それについては申し訳ない」
この通り、と頭を下げるアバン。
「むむ…」
急に下手に出られたために、怒りをかわされ少し言葉に詰まったルイズ。
「でも見過ごしては置けなかった状況だった、というのもわかって貰えるでしょう? どうやら件のモット伯は、王宮からの勅命ということで度々この学院を訪れていて、目に付いた平民の娘を強引に召し上げて自分の召使としてるらしいのですよ」
「別にそれは…」
「しかも! その目的は美しい娘を手篭めにするためだというのですよ!! こんなことが見過ごされていいのでしょうか!!? 否、断じて否です!!!」
今度は一転、拳をグッと握り締めバックの炎を背負いながら熱弁を振るうアバン。
この辺りから、ルイズは段々嫌な予感を覚え始めていた。
確か以前もこんな流れでやり込められて…
「私はねルイズ、力はあるだけじゃ何の意味もないと思いますよ。人のために使ってこそ初めて意味があるのだと…」
突然の話題転換である。
「…それで?」
「思えばこの世界の魔法の力は実に素晴らしい。ありとあらゆる事が可能です。この世界でメイジが貴族として崇めたてられるのも、ある意味尤もなことで、これだけの力の持ち主には、人々の幸福を担う責任と義務があるでしょう」
「…そうね」
「そうであるなら、貴族とは人々のためにその異能を発揮し導いてこそ尊いのであって、いたずらに特権を振りかざし、人を不幸にするようなものが名誉ある貴族と言えるでしょうか? 今回のようなことは完全に…」
「~~~ッもう!」
ダン! と再び机を叩いたルイズ。
「アンタの長口上は聞き飽きたわ!! 話しは簡潔に纏めなさいよ簡潔に!!!」
「一緒に悪い貴族を成敗して彼女を助けましょう」
本当に簡潔に纏めたアバン。
(薄々判ってはいたけど、ホントに一言にまとめちゃったわね…)
言いたいことはルイズにも良く判る、モット伯は確かに嫌な男だ。
アバンの主張には同意できる、シエスタの境遇には同情もできる、けれど…
「そんなことできるわけないじゃない…あなた伯爵家の当主を手にかけて無事で済むと思ってるの?」
どうにかしてやりたくても、無理なものは無理なのだ。
そう主張するルイズに対し、
「手にかける? 物騒なことを言わないで下さいよルイズ。バレたらことじゃあないですか」
他人の苦悩を知ってか知らずでか、あっさりと否定するアバン。
「? …じゃあどうやって助けるっていうのよ?」
金かなにかで取引でも持ちかける心算だろうか、と訝しむルイズだが
「ここは盗んでしまいましょう。何からなにまで全てです」
返って来たのはとても教育者を名乗るものとも思えぬ言葉であった。
先生の長い一日は、まだ終わらない。
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