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「ゼロの使い魔ももえサイズ-7」(2013/03/29 (金) 20:02:27) の最新版変更点
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#navi(ゼロの使い魔ももえサイズ)
「うえ~ん!!! びえ~ん!!! うわあああああん!!!」
翌朝、ルイズはベッドの上でおいおいと泣いていた。
「なんで!? なんで私がこんな目に遭わなきゃいけなかったのよ!」
ルイズは泣き喚きながらももえの胸をぽかぽかと叩く。
原因はあの時のネギである。はじめ、ルイズは頭が呆けていてよくわかっていなかったのだが翌日、下腹部から血が出ているのを見た途端にルイズは青ざめた。
「まあまあ、処女膜なんて新体操をやってる人は練習中に突き破っちゃうぐらい軟い物らしいし」
「新体操って何よ! それに全然フォローになってないわよぉ!」
殴り疲れたルイズはまたえんえんと泣き始めた。これにはキュルケもタバサもももえもなす術がない。
「だいたいあんたがネギをあんなところに突き刺すからこんなことになったんじゃないのよぉ! 無機物にバージンを奪われるなんて……うっ、うわああああああんんんん!!!!」
ルイズはベッドをドコドコと叩きながら泣き喚き続ける。
「………じゃあ、後ろ…は…これで…」
メイドのメイが取り出したのはルイズが持っていた杖だった。
「いいいいい、そっ、そんな太くて硬いので逞しいので貫かれたら大変なことになるじゃない!」
それを聞いたメイは残念そうにその杖を自らの懐にしまった。
「………ってそれ、私の杖じゃないのよ! あんた何勝手に自分のものに……ってあれ?」
「…ようやく…泣き…止んで…くれ…まし…た…。」
そう言って、メイはルイズにあっさりと杖を返したのであった。
「あっ、ありがと……。」
ルイズがこの館に来て初めて口にした感謝の言葉であった。
有馬記念で四位と武に殺意を抱いたあなたに贈る「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」
落ち着きを取り戻したルイズは朝食を取ると杖を持って誰もいない裏庭へと向かった。
空は昨日とはうってかわって快晴である。太陽の光が眩しいくらいだ。
だからこそルイズは誰もいない日陰を求めて裏庭へとやってきたのだ。
杖を掲げたルイズは目の前にある大木に向かって呪文を唱える。
「メラゾーマ!」
そう言うと、杖は急激に光を帯びて周りを包み込む。そして………
ちゅどーん
見事杖は暴発を起こし、爆発した。
「もう、全然駄目じゃないのよ! この前は大きな炎を上げることができたのにぃ!」
確かに周りは爆風でめちゃくちゃになっていたのだが、自分自身はなぜか無傷という事実の重要性にルイズはまだ気づいていない。
その後ルイズは、イオ・ヒャダルコ・ザラキーマ等々の呪文を唱えてみるものの結果は同じだった。
「なんでっ…! どうして……っ!!」
ルイズは悔しさのあまり地面をドンドンと叩いた。
繰り返すがルイズの半径数メートルは爆風でぼろぼろになっているのに、ルイズは全くの無傷である。
「そうだ…。これは、杖……うん、この杖が悪いのよ! ダンジョンの中では、他の杖使ってたし。うん!」
ルイズはそう結論付けた。
「あっ、でも………。」
しかし、ルイズは思い直す。さっき使った魔法はダンジョン内でよく使ってた魔法だけだ。ひょっとしたら他の魔法は使えるかもしれない。
「だめもとでしてみようかしら………」
そうつぶやきながら、ルイズは目の前の大木に向かって杖を構える。
「はああああああああああっ!!!」
ルイズは精神を集中させ、そのすべてを指先に注ぎ込む。そして杖が光りだす。
「ファイアーボール!」
そう唱えた瞬間、光が丸くて大きな炎へと変わってルイズの杖先から発射される。そして、目の前の大木がそれをもろに受けて爆発した。
「………できた。 私、できたっ! できたぁーーーーっ!!!」
しばし呆然としていたルイズだったが実感がわくと、飛び上がらんばかりに喜びを表現した。
「いやっほう! 私はもう"ゼロのルイズ"なんかじゃない! 魔法が使える! 使えるんだー!だー!だー!」
ルイズは拳を何度も振り上げて喜びまわる。さっきまで物のせいにして落ち込んでいた人物とは思えないぐらいのはしゃぎっぷりだ。
「おーすごい、そのファイアーボールってなんかかっこいいね。」
すると、影から見ていたももえが手を叩いてルイズのことをこう褒め称えた。
「さすが私の見込んだ使い魔だねっ!」
「………えっ?」
ルイズは突然の言動に頭が真っ白になりつつも状況を冷静に整理しようとした。
「っていうか私がご主人様であんたが使い魔よね? 間違ってないわよね?」
「じゃあ証拠見せてよ。」
対するももえは気だるそうにそう言った。まるで自分が主人で使い魔の反抗をあしらっているかのようだ。
「しょ、証拠ってあんた……だいたいあんたには体に紋章が
「だって私あんたより強いし。」
「いや、強い弱いとか関係ないから。だいたい、私は貴族なのよ、わかる?」
ルイズは無い胸を張って自分が貴族であることを強調する。
「そう、私は誇り高きヴァリエール家の三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよ! あなたは使い魔なんだから私に平伏しなさい!」
ルイズは自分でしゃべりながらテンションが上昇していた。そしてそれにももえが追い討ちを掛けるかのように
「ルイ…ルイ…ルイボスゴールド?」
「ルイしかあってないじゃのよ! あんたいい加減に私の名前を覚えなさいよ!」
ルイズはももえのせいで完全に頭に血が上っていた。さっきまで長年の目標を達成して喜びの境地に達した人物とは思えないぐらいの苛立ちっぷりだ。まあ原因はももえにあるのだが
怒りのあまり、ルイズはがしっと目の前の肩に掴み掛かる。ももえの肩は肩代わりされている死神の手がついているのだがそんな事はお構い無しに、がくがくと上下に揺らす。
「だいたいあんたここに来てから使い魔らしい事何一つしてないじゃないのよぉっ!」
「え~~~~~だってぇ~~~~~わたしも下僕とかぁ~~~~はべらせたいしぃ~~~~~だいたいあんたのいう使い魔ってぇ~~~~
どうせ下着とか洗わせてぇ~~~食事とかでわざと屈辱的なことをさせてぇ~~~~キレたら鞭とかで叩いたりするんでしょぉ~~~~~~」
ももえが突然こんなしゃべりになっているのはルイズががくがくと揺らしているので首も上下にがくがく揺れているからである。
「わっ、私をなんだと思ってるのよ!」
と聞かれたももえは即答で、
「ロリツンデレピンク髪。あとぺたんこ」
ぶちっとルイズのどこかが切れた音がした。ルイズは顔を真っ赤にさせてあらん限りの力を込めてももえを突き飛ばす。
「うるさいうるさいうるさい! 属性で私を表現するなぁーーー!!!!」
怒り狂ったルイズがももえに杖を構えたその瞬間―――
「頭に乗るな小娘。」
凍てつくような声によりはっと我に返ったルイズは、恐る恐る声のした方を振り返ってみるとそこには水兵服を着た女性がいた。
「あっ、あなたは確かももえのお母さんの……もごもご
「おっと、ももえの母親についての話はそこまでだ。」
水兵服姿の女性はすかさずルイズの口に封をする。しばしルイズは腕やら身体をもがきながら暴れていたがそれも収まってルイズはその場に崩れ落ちた。
彼女はようやくルイズの口から手を離した。
「じゃ、じゃああなたの名は…」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた。」
ルイズが崩れ落ちたままなのを気にすることなく彼女はこう宣言した。
「ある時はドクター、ある時は鍋奉行、またある時は時の神。話が変われば職も変わる。 その名は"流しの悪魔"!」
流しの悪魔と名乗った彼女はそう言って颯爽とポーズを決める。
すると今まで様子を見ていたももえが彼女に話しかけてきた。
「流しの悪魔さん、私たちに何か用ですか?」
「ああ、お前達が勝負事をはじめようとしているのを見てたらいてもたってもいられなくなってな。」
「えっ? 反応それだけ!? っていうかもうちょっと驚くなり何なりしたらどうなのよ!
私はこいつに口を押さえられてきいずみ行きの馬車に乗せられてどっかへ行こうとしていたのよ! だいたいこの人はあんたの
「よくぞ聞いてくれたっ!」
いつの間にか復活したルイズの話を完璧に無視した流しの悪魔は、今回の目的について説明し始めた。
「今回は流しの悪魔立会人! お前達の勝負私がしかと立会いして見せようではないか!」
おー。とももえは手をぱちぱちさせている。ルイズはももえに貶され、流しの悪魔に殺されかけてますます機嫌が悪くなっていく。
「ところでお前達。さっきまでどちらが強いかについて争っていたのだな?」
ルイズとももえは頷いた。すると、流しの悪魔は
「どちらが強いかなどと争うことは不毛極まりない!」
そう怒鳴ると流しの悪魔がその場で大きく足踏みをする。
すると地面がわずかながらに隆起し、ルイズのいた場所はわずかに地割れしているではないか。ルイズは戦慄した。
「いいか、逆に考えるのだよ。"どちらが主人にふさわしいのか"ではなく"どちらが使い魔にふさわしいのか"と」
「という訳で」
流しの悪魔のその宣言によって急遽はじまった、ももえとルイズのタイマン勝負。
「第1回チキチキ使い魔三本勝負~~~~~!!!!」
ギャラリーは多ければ多いほど良いという理由で呼び出された、死神家一同とキュルケとタバサもいた。
彼女らは焼け野原の上に線を引いただけの特設ステージの外から二人の様子を見守る事にした。
「やるからには勝って上下関係をはっきりとつけさせてもらうわよ。モモエ」
「それはこっちの台詞だね、ルイズちゃん。」
顔を見合わせて火花を散らせる両者。キュルケとタバサはいまいち状況が飲み込めない様子で二人とも顔を見合わせるしかなかった。
「端的に言いますとももえお嬢様の挑発にルイズさんがまんまと乗ってしまわれたのであります。」
「はあ………」
キュルケは唖然としながらも博士の話を聞いていた。すると、メイやヒルから横槍が入れられる。
「……でも、…ルイズ…さん…は……、…とても…いい…人だ…と…思いま…す」
「ああ、俺もそう思うな。あそこまでお嬢さんの行動に対してノリノリの奴なんてそうはいないからな。」
「そうなんだ………。」
オクタイ君やケモンもうんうんと頷いているのを見るとどうやらルイズは、死神家の使い魔たちからは良い印象をもたれているようだった。
「ただ、肝心のお母様がねえ………」
キュルケは流しの悪魔のほうを向いて小さくため息をついた。
「私にもわからない………。」
タバサもそう呟いた。流しの悪魔が時折向けるルイズに対する鋭い視線がタバサにとって気がかりであった。
「ちなみに、流しの悪魔=お館様というのはコナン=新一のようなものだと解釈していただけると幸いであります。」
「…最近の…だと……マコト=マコちゃん…みたい…なもの…です……。」
「あんたたち誰に向かって説明してるの?」
そして流しの悪魔からまだ明かされていなかったルールについて言い渡される。
「使い魔というのは、感覚の共有、秘薬の捜索、主人の護衛。大きく分けて3つあるのだが………」
ルイズとももえがごくりと息を呑む。
「今回はそんな非現実的なことはしない。なのでかわりに家来、下僕、パシリ。この3つの称号をかけて争い、より多くのポイントをゲットしたものを勝者とする。」
「………はぁ?」
「では、そう決まったところで"家来"の称号を得るための第一勝負についてだが………」
「ちょ、ちょっと! あんたいい加減にしなさいよ! なんど私を無視すれば気が済むの………って、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! みっ、耳は引っ張らないでぇ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
「すでに勝負は始まっている。油断するな、小娘」
流しの悪魔は無表情のままルイズの右耳を引っ張っていた。ルイズの耳がだんだん赤く腫れ上がっていくのがわかる。
「おー、二人とも楽しそうにじゃれあってるねえ」
「これのどこがじゃれあってるように見えるのよぉ!」
ルイズは涙目になりながらそう叫んだ。
「仕方ないなぁ………何とかしてほしい?」
ルイズは首を激しく縦に動かす。そして、それを見たももえはカマを取り出してルイズの耳元に構える。
「じゃあ…それごとルイズの耳を切断……」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!」
「大丈夫、大丈夫 盲目の人でも皇帝暗殺をしようとした元気な人もいるから。だから耳ぐらいどうってことないって」
???ものしり館???
高漸離【こうぜんり】
中国戦国時代の人物。秦王(始皇帝)の刺客として有名な荊軻の親友である。
荊軻の復讐を目論んだ高漸離は筑の才能を生かして名前を隠して秦王に使えていた。
後に高漸離の目論みは秦王に露見したのだが、才能を惜しんだ秦王は高漸離の目を潰してそのまま仕えさせた。
高漸離は筑を投げつけて秦王を殺そうとしたが、盲目だったため外れて謀殺された。
「いやいやいやいや 目と耳じゃ全然違うから。だいたい皇帝暗殺しようとした人って元気って呼べる人なの?
っていうかどうでもいいからこの手を離し…痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!! ちぎれるっ、ちぎれるっ、ちぎれるううううううううう!!!!」
すると、流しの悪魔はようやくルイズの耳から手を離した。ようやく解放されたルイズは肩で息をし、耳は真っ赤に腫れ上がっていた。
「はぁ………はぁ………はぁ………死ぬかと思ったわ。」
「死ぬかと思ったなどと言ってる内は決して死にはしないから安心しろ」
そんな二人を回避して傍から見ているももえ。
「…………」
「…………」
流しの悪魔とルイズが戯れているのをよそにタバサは思っていた疑問をももえにぶつけた。
「これって勝負に勝った方が使い魔になるんじゃ………」
「ううん。そんな事無いよ。だからわざと負けるとかそんな卑怯な真似はしないからね。」
ももえは笑顔でそう答えた。そして、その直後にさらっとこんな言葉を吐き捨てた。
「負けたらそれ以下だからね。」
「……以下なの?」
「うん、以下。」
そうこうしているうちに流しの悪魔からこんな一言が飛び込んだ。
「下僕部門 勝者 ももえ」
「……えっ、でもモモエは何も………。」
「耳をつねられて"気持ち良い"の一言も言えないようじゃ下僕失格だ。」
流しの悪魔はそのように説明する。
「あんたは大丈夫なの?」
「うん、私悪魔の体だから!」
「…………もう私の負けでいいわ…。」
能天気に答えるももえにルイズはがっくりと肩を落としたのであった。
「続いて家来勝負を行う」
そう言われて二人はももえの屋敷の中に案内される。
流しの悪魔は手馴れた様子で二人を先導した。ギャラリーもそれに付いて移動する。
「普通に迷わず通れば何事も無い家だ。しかし………」
流しの悪魔は傍らにある扉を開けた。すると―――
「なっ、何よこれ!」
ルイズが驚くのも無理は無い。そこには今までいた家とは違う空間を形成した吹雪いている一室があったのだから。
「なんだ、お前は雪は見たことが無いのか?」
「それぐらい見たことあるわよぉ! だけどこんな脈略もなく雪を見たのは初めてだから………」
耳の件があったのでどうしても強く責め立てる事が出来ないルイズ。流しの悪魔は二人にあるものを渡した。
「これは………?」
「草鞋だ」
流しの悪魔が渡したのは草鞋だった。ルイズははじめてみるそれをまじまじと見ている。
「これを見るのははじめてか?」
「うん。教科書の写真で見たことはあるけど実物を見るのははじめてかな。」
流しの悪魔はにやりと笑う。早速二人に指令を言い渡す。
「それを二人に人肌で暖めてもらう」
「「えっ………?」」
「その草鞋をどれだけ暖かくすることが出来るか。より暖かくしたほうが勝者だ。
制限時間は1時間。なお、ホッ○イロとかそういう物を使うのは禁止とする。」
そう言って流しの悪魔はももえが隠し持っていたホッ○イロを取り上げる。
不服そうなももえをよそにルイズは手に持った草鞋を注意深く観察していた。
「では、はじめっ!」
流しの悪魔が笛を吹いた瞬間、二人はオクタイ君によって部屋の中に放り出された。そして外から鍵がかけられる。
「ちなみに二人の様子は別室でモニタリングしております。」
部屋のどこかにあるスピーカーから流しの悪魔の声が聞こえてきた。
「じゃあ、私たちは休憩しながら見るから適当にがんばってくれ。 うどん食べる人ー!」
はーい!という威勢のいい声がスピーカーから聞こえてくる。頭にきたルイズは、手にした草鞋を声のする方向へ力いっぱい投げつけた。
ブチ!………ジジジジジ………
「ナイスコントロール!」
ももえは右親指を立ててそう言った。ルイズもそれを真似してみる。そして、ルイズは壊れかけのカメラとスピーカーを完全に壊す作業に取り掛かった。
「寒い………」
不自然なまでに強くて冷たい風がルイズの身体をたたきつける。
「あんたは平気なの?」
ルイズは、こんなに寒いのに肩出し、へそ出しと露出しているのにもかかわらず平気そうにしているももえを見てそう言った。
「うん、私悪魔の身体だし。寒さとか熱さとかそういうのは平気だから」
「へぇ…………」
しかし、問題はこの草鞋だ。この草鞋をどの様にして温めるのか。ルイズは懐に入れていた草鞋を取り出してみる。
「全然暖かくない………」
元々冷え切っている草鞋をこの寒さで冷え切った身体で暖めるのは無理な話だ。ルイズが草鞋を外気に晒しているうちにどんどん草鞋に雪が積もってくる。
「うーん………」
ルイズは積もってくる雪を払いながら必死に考えていた。髪にも雪が降っているのだがそんなことを気にする余裕が無かった。
「うーん………」
困っているのはももえも同じだった。ももえ自身の体温調節は問題ないのだが、ももえの着ている服では草鞋を入れて暖められるようなスペースは無い。
「「あっ」」
二人同時に何かをひらめいたようだ。二人は草鞋をある場所に仕舞う。
吹雪が激しさを増し、腰の辺りまで雪が積もってきてはいたが、二人はゆっくりと活動を停止していった。
「………イズ、ルイズ!」
「あ………キュル…ケ?」
ルイズが目を覚ますとそこには雪が一面に広がっていた。キュルケ達は防寒着に身を包み、同じく雪に埋もれていたももえはタバサに救出されていた。
「よかった………!」
キュルケは思わずルイズを強く抱きしめる。
「大丈夫? 苦しくない?」
「くっ、苦しい………。」
キュルケの胸に挟まれたルイズは息苦しそうに足をジタバタとさせる。
「大丈夫………?」
「あー、うん。私は平気」
タバサに抱きかかえられたももえもそう答えた。こっちは比較的元気そうだ。
「ところで、草鞋はどうしたのだ?」
流しの悪魔がそう言うと、ももえは胸の谷間から草鞋を取り出した。
「はいっ」
雪のせいで部屋の室温が冷え切ってる中でももえの草鞋はほかほかと湯気を漂わせている。
「なるほど………服の表面積の圧倒的な少なさから言ってももえが不利になると思っていたのだが………よくやったな。」
流しの悪魔はももえのアイデアにいたく感心していた。
「では、ルイズの方だな。」
そう言うと、皆がルイズのほうに注目する。
「ルイズ、お前は草鞋をどこで暖めたのだ?」
「えっ」
それを問われたルイズはまたたくまに顔が紅潮し、目が泳ぎ始めた。
「えっ、えっと……草鞋は………その…」
「わしならここにおる!」
「我もここにいるぞ!」
どこからともなく甲高い男の声が聞こえてきた。ももえ達も辺りを見渡す。しかし、ルイズの顔は見る見るうちに青ざめていた。
「ま、まさか……ひょっとして…いやああああああああっ!!!」
ルイズの叫び声とともに草鞋がルイズの背中から飛び出てきた。
その草鞋もほかほかと湯気を漂わせており、暖まっているのがわかる。しかしその湯気は暖まったというより草鞋の怒りによるものだと思えて仕方が無かった。
「誇り高き、我が草鞋を尻に敷くなどの粗末な扱いをしたのはどこのどいつだ!」
「その通りじゃ! 物の正しい使い方を知らぬ小娘め! わしらを馬鹿にすると痛い目にあうぞ!」
「えっ、えっ、ええええっ!?」
「あー………ルイズちゃん、草鞋をお尻に敷いちゃったんだ。」
二足の草鞋がしゃべっているこの状況に戸惑いまくるルイズに対し、ももえは両手を開いてやれやれといった表情を作る。
「草鞋を尻に敷くなんて御法度なんだよ。この草鞋は人の足に履かれるのを喜ぶんだけど尻にしかれるとむちゃくちゃ怒るんだよ。」
「ええーーっ!!!」
「その通りじゃ! 草鞋は尻に敷くものではないのじゃ!尻に敷かれるのは女房だけで十分なのじゃ! こりごりなのじゃ! こりごりなのじゃ!」
「我も同じ意見である! 胸に挟むならまだしも尻に敷くとは言語道断! 全く、貧乳娘の発想の貧困さには困ったものである!」
草鞋はそう言いながらルイズの頭を執拗に叩き付ける。すっかり雪がやんだ部屋はパーンパーンと無駄に軽快な音とルイズが徐々に鬱陶しそうになる声で支配されていた。
「あっ、あの………草鞋さんもそれぐらいで………」
珍しくももえが仲裁に入ろうとする。しかし、興奮状態の草鞋の片割れは勢いあまってももえの頭にも軽快に叩きを食らわせる。
スパーン……ズバッ
一瞬の出来事であった。草鞋の片割れがももえの頭に叩きつけた瞬間、ももえは手にしていたカマを軽く振りかぶる。
草鞋の片割れは見事に真っ二つに割れて、ぽとりと地面に落ちてそのまま動かなくなった。
『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』
「ひいっ!」
恐れをなした草鞋は一目散に逃げてしまおうと試みた。しかし、逃げようとした草鞋をルイズは左手でがっちりと掴んでいる。中指の爪は草鞋に食い込みかけていた。
「あっ、あのっ、そのっ………」
さっきとは一転して弱気になっている草鞋。ルイズは右手に持っている杖を草鞋にこすり付けた。
「あんたね………誇り高きヴァリエール家の三女である私の尻に敷かれる事がどれだけ価値があって、どれだけ需要があるのかわかってないわね。」
ルイズは冷静な口調で草鞋に語りかける。何百年も女の尻に敷かれ続けた草鞋にはそれが並々ならぬ怒りを表現していることは十分にわかっていた。
「だから………私が焼いてあげるわ」
「ひいいいいいいっ!!!!!」
草鞋は思わず悲鳴を上げた。それに構わずルイズの杖は光りだす。そして呪文は詠唱された。
「ファイアーボーォォォォォォォォル!!!!!」
刹那、大きな光に包まれた玉が至近距離で発射され、草鞋を直撃する。草鞋は断末魔の声を上げることなく爆発した。
しかし、このルイズの渾身の呪文は部屋にいるルイズ以外の人物・物を黒焦げにしてしまったのであった。
「で、使い魔勝負はどうなったの?」
とりあえず風呂に入ってさっぱりした一同は、死神家の大広間に集っていた。メイからフルーツ牛乳が振舞われそれを飲みながらももえは流しの悪魔に質問した。
「ああ、その件についてだが…………。」
皆の視線が流しの悪魔に集まる。
「とりあえず家来勝負はももえの勝ちだ。」
「えっ………でも、私ちゃんと暖めて
「いくら説明不足とはいえ、尻に草鞋を敷くのはマナー違反だぞ、ルの字
尻に敷かれたホカホカの草鞋を欲しがるのは特殊な趣向をもった大きなお友達しかおらん」
「はい………」
色々と突っ込みたいところはあったがそれに突っ込むのは危険だと察したルイズは何も言うことができなかった。
「ちなみにパシリ勝負は大きなしゃもじをもってガリア王国の王宮に進入して、イザベラ皇女と激戦の末に晩御飯をご馳走になる……なんて事を作者は考えてたらしいぞ」
「馬鹿じゃないの!?」
思わず、キュルケからの突っ込みが入った。
「じゃあ結局私がモモエの使い魔になるのね………全然釈然としないけど。」
どこか諦めの混じった声でルイズはため息をつく。しかし、
「あっ、じゃあ私が代わり使い魔になってあげようか?」
「えっ、いいの?」
ももえの突然の提案にルイズはすぐさま食いついた。
「その代わり私にも条件があるんだけど………ルイズちゃんのこと『スレイヴ』って呼んでもいい?」
「スレイヴ?」
「うん、スレイヴ。ご主人様に変わる新しい呼び名だよ。」
ももえはさわやかな笑顔でそう言った。ルイズもその呼び名が気に入ったらしく『スレイヴ』と何度も口の中で呟き続ける。
「いいわよ。いいわよ。あんたが使い魔で私がスレイヴ あー、なんか私のほうがなんかカッコイイ感じじゃない? あっはっはっはっはっはっ」
「あっはっはっはっはっはっ」
よほど嬉しかったのかルイズの高笑いは止まるところを知らなかった。
しかし、ももえの本当の意図に気づいたタバサは思わず口を開く。
「でも、スレイヴって確かど………もごもごもごもごもごもご」
「……知らぬが……仏……です…。」
メイはタバサの口を押さえつけながらそう呟いたのであった。
※おわり これまでのご愛読 ご支援ありがとうございました
※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水草鞋下級生ももえサイズ」に乞うご期待!
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#navi(ゼロの使い魔ももえサイズ)
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「うえ~ん!!! びえ~ん!!! うわあああああん!!!」
翌朝、ルイズはベッドの上でおいおいと泣いていた。
「なんで!? なんで私がこんな目に遭わなきゃいけなかったのよ!」
ルイズは泣き喚きながらももえの胸をぽかぽかと叩く。
原因はあの時のネギである。はじめ、ルイズは頭が呆けていてよくわかっていなかったのだが翌日、下腹部から血が出ているのを見た途端にルイズは青ざめた。
「まあまあ、処女膜なんて新体操をやってる人は練習中に突き破っちゃうぐらい軟い物らしいし」
「新体操って何よ! それに全然フォローになってないわよぉ!」
殴り疲れたルイズはまたえんえんと泣き始めた。これにはキュルケもタバサもももえもなす術がない。
「だいたいあんたがネギをあんなところに突き刺すからこんなことになったんじゃないのよぉ! 無機物にバージンを奪われるなんて……うっ、うわああああああんんんん!!!!」
ルイズはベッドをドコドコと叩きながら泣き喚き続ける。
「………じゃあ、後ろ…は…これで…」
メイドのメイが取り出したのはルイズが持っていた杖だった。
「いいいいい、そっ、そんな太くて硬いので逞しいので貫かれたら大変なことになるじゃない!」
それを聞いたメイは残念そうにその杖を自らの懐にしまった。
「………ってそれ、私の杖じゃないのよ! あんた何勝手に自分のものに……ってあれ?」
「…ようやく…泣き…止んで…くれ…まし…た…。」
そう言って、メイはルイズにあっさりと杖を返したのであった。
「あっ、ありがと……。」
ルイズがこの館に来て初めて口にした感謝の言葉であった。
有馬記念で四位と武に殺意を抱いたあなたに贈る「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」
落ち着きを取り戻したルイズは朝食を取ると杖を持って誰もいない裏庭へと向かった。
空は昨日とはうってかわって快晴である。太陽の光が眩しいくらいだ。
だからこそルイズは誰もいない日陰を求めて裏庭へとやってきたのだ。
杖を掲げたルイズは目の前にある大木に向かって呪文を唱える。
「メラゾーマ!」
そう言うと、杖は急激に光を帯びて周りを包み込む。そして………
ちゅどーん
見事杖は暴発を起こし、爆発した。
「もう、全然駄目じゃないのよ! この前は大きな炎を上げることができたのにぃ!」
確かに周りは爆風でめちゃくちゃになっていたのだが、自分自身はなぜか無傷という事実の重要性にルイズはまだ気づいていない。
その後ルイズは、イオ・ヒャダルコ・ザラキーマ等々の呪文を唱えてみるものの結果は同じだった。
「なんでっ…! どうして……っ!!」
ルイズは悔しさのあまり地面をドンドンと叩いた。
繰り返すがルイズの半径数メートルは爆風でぼろぼろになっているのに、ルイズは全くの無傷である。
「そうだ…。これは、杖……うん、この杖が悪いのよ! ダンジョンの中では、他の杖使ってたし。うん!」
ルイズはそう結論付けた。
「あっ、でも………。」
しかし、ルイズは思い直す。さっき使った魔法はダンジョン内でよく使ってた魔法だけだ。ひょっとしたら他の魔法は使えるかもしれない。
「だめもとでしてみようかしら………」
そうつぶやきながら、ルイズは目の前の大木に向かって杖を構える。
「はああああああああああっ!!!」
ルイズは精神を集中させ、そのすべてを指先に注ぎ込む。そして杖が光りだす。
「ファイアーボール!」
そう唱えた瞬間、光が丸くて大きな炎へと変わってルイズの杖先から発射される。そして、目の前の大木がそれをもろに受けて爆発した。
「………できた。 私、できたっ! できたぁーーーーっ!!!」
しばし呆然としていたルイズだったが実感がわくと、飛び上がらんばかりに喜びを表現した。
「いやっほう! 私はもう"ゼロのルイズ"なんかじゃない! 魔法が使える! 使えるんだー!だー!だー!」
ルイズは拳を何度も振り上げて喜びまわる。さっきまで物のせいにして落ち込んでいた人物とは思えないぐらいのはしゃぎっぷりだ。
「おーすごい、そのファイアーボールってなんかかっこいいね。」
すると、影から見ていたももえが手を叩いてルイズのことをこう褒め称えた。
「さすが私の見込んだ使い魔だねっ!」
「………えっ?」
ルイズは突然の言動に頭が真っ白になりつつも状況を冷静に整理しようとした。
「っていうか私がご主人様であんたが使い魔よね? 間違ってないわよね?」
「じゃあ証拠見せてよ。」
対するももえは気だるそうにそう言った。まるで自分が主人で使い魔の反抗をあしらっているかのようだ。
「しょ、証拠ってあんた……だいたいあんたには体に紋章が
「だって私あんたより強いし。」
「いや、強い弱いとか関係ないから。だいたい、私は貴族なのよ、わかる?」
ルイズは無い胸を張って自分が貴族であることを強調する。
「そう、私は誇り高きヴァリエール家の三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよ! あなたは使い魔なんだから私に平伏しなさい!」
ルイズは自分でしゃべりながらテンションが上昇していた。そしてそれにももえが追い討ちを掛けるかのように
「ルイ…ルイ…ルイボスゴールド?」
「ルイしかあってないじゃのよ! あんたいい加減に私の名前を覚えなさいよ!」
ルイズはももえのせいで完全に頭に血が上っていた。さっきまで長年の目標を達成して喜びの境地に達した人物とは思えないぐらいの苛立ちっぷりだ。まあ原因はももえにあるのだが
怒りのあまり、ルイズはがしっと目の前の肩に掴み掛かる。ももえの肩は肩代わりされている死神の手がついているのだがそんな事はお構い無しに、がくがくと上下に揺らす。
「だいたいあんたここに来てから使い魔らしい事何一つしてないじゃないのよぉっ!」
「え~~~~~だってぇ~~~~~わたしも下僕とかぁ~~~~はべらせたいしぃ~~~~~だいたいあんたのいう使い魔ってぇ~~~~
どうせ下着とか洗わせてぇ~~~食事とかでわざと屈辱的なことをさせてぇ~~~~キレたら鞭とかで叩いたりするんでしょぉ~~~~~~」
ももえが突然こんなしゃべりになっているのはルイズががくがくと揺らしているので首も上下にがくがく揺れているからである。
「わっ、私をなんだと思ってるのよ!」
と聞かれたももえは即答で、
「ロリツンデレピンク髪。あとぺたんこ」
ぶちっとルイズのどこかが切れた音がした。ルイズは顔を真っ赤にさせてあらん限りの力を込めてももえを突き飛ばす。
「うるさいうるさいうるさい! 属性で私を表現するなぁーーー!!!!」
怒り狂ったルイズがももえに杖を構えたその瞬間―――
「頭に乗るな小娘。」
凍てつくような声によりはっと我に返ったルイズは、恐る恐る声のした方を振り返ってみるとそこには水兵服を着た女性がいた。
「あっ、あなたは確かももえのお母さんの……もごもご
「おっと、ももえの母親についての話はそこまでだ。」
水兵服姿の女性はすかさずルイズの口に封をする。しばしルイズは腕やら身体をもがきながら暴れていたがそれも収まってルイズはその場に崩れ落ちた。
彼女はようやくルイズの口から手を離した。
「じゃ、じゃああなたの名は…」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた。」
ルイズが崩れ落ちたままなのを気にすることなく彼女はこう宣言した。
「ある時はドクター、ある時は鍋奉行、またある時は時の神。話が変われば職も変わる。 その名は"流しの悪魔"!」
流しの悪魔と名乗った彼女はそう言って颯爽とポーズを決める。
すると今まで様子を見ていたももえが彼女に話しかけてきた。
「流しの悪魔さん、私たちに何か用ですか?」
「ああ、お前達が勝負事をはじめようとしているのを見てたらいてもたってもいられなくなってな。」
「えっ? 反応それだけ!? っていうかもうちょっと驚くなり何なりしたらどうなのよ!
私はこいつに口を押さえられてきいずみ行きの馬車に乗せられてどっかへ行こうとしていたのよ! だいたいこの人はあんたの
「よくぞ聞いてくれたっ!」
いつの間にか復活したルイズの話を完璧に無視した流しの悪魔は、今回の目的について説明し始めた。
「今回は流しの悪魔立会人! お前達の勝負私がしかと立会いして見せようではないか!」
おー。とももえは手をぱちぱちさせている。ルイズはももえに貶され、流しの悪魔に殺されかけてますます機嫌が悪くなっていく。
「ところでお前達。さっきまでどちらが強いかについて争っていたのだな?」
ルイズとももえは頷いた。すると、流しの悪魔は
「どちらが強いかなどと争うことは不毛極まりない!」
そう怒鳴ると流しの悪魔がその場で大きく足踏みをする。
すると地面がわずかながらに隆起し、ルイズのいた場所はわずかに地割れしているではないか。ルイズは戦慄した。
「いいか、逆に考えるのだよ。"どちらが主人にふさわしいのか"ではなく"どちらが使い魔にふさわしいのか"と」
「という訳で」
流しの悪魔のその宣言によって急遽はじまった、ももえとルイズのタイマン勝負。
「第1回チキチキ使い魔三本勝負~~~~~!!!!」
ギャラリーは多ければ多いほど良いという理由で呼び出された、死神家一同とキュルケとタバサもいた。
彼女らは焼け野原の上に線を引いただけの特設ステージの外から二人の様子を見守る事にした。
「やるからには勝って上下関係をはっきりとつけさせてもらうわよ。モモエ」
「それはこっちの台詞だね、ルイズちゃん。」
顔を見合わせて火花を散らせる両者。キュルケとタバサはいまいち状況が飲み込めない様子で二人とも顔を見合わせるしかなかった。
「端的に言いますとももえお嬢様の挑発にルイズさんがまんまと乗ってしまわれたのであります。」
「はあ………」
キュルケは唖然としながらも博士の話を聞いていた。すると、メイやヒルから横槍が入れられる。
「……でも、…ルイズ…さん…は……、…とても…いい…人だ…と…思いま…す」
「ああ、俺もそう思うな。あそこまでお嬢さんの行動に対してノリノリの奴なんてそうはいないからな。」
「そうなんだ………。」
オクタイ君やケモンもうんうんと頷いているのを見るとどうやらルイズは、死神家の使い魔たちからは良い印象をもたれているようだった。
「ただ、肝心のお母様がねえ………」
キュルケは流しの悪魔のほうを向いて小さくため息をついた。
「私にもわからない………。」
タバサもそう呟いた。流しの悪魔が時折向けるルイズに対する鋭い視線がタバサにとって気がかりであった。
そして流しの悪魔からまだ明かされていなかったルールについて言い渡される。
「使い魔というのは、感覚の共有、秘薬の捜索、主人の護衛。大きく分けて3つあるのだが………」
ルイズとももえがごくりと息を呑む。
「今回はそんな非現実的なことはしない。なのでかわりに家来、下僕、パシリ。この3つの称号をかけて争い、より多くのポイントをゲットしたものを勝者とする。」
「………はぁ?」
「では、そう決まったところで"家来"の称号を得るための第一勝負についてだが………」
「ちょ、ちょっと! あんたいい加減にしなさいよ! なんど私を無視すれば気が済むの………って、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! みっ、耳は引っ張らないでぇ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
「すでに勝負は始まっている。油断するな、小娘」
流しの悪魔は無表情のままルイズの右耳を引っ張っていた。ルイズの耳がだんだん赤く腫れ上がっていくのがわかる。
「おー、二人とも楽しそうにじゃれあってるねえ」
「これのどこがじゃれあってるように見えるのよぉ!」
ルイズは涙目になりながらそう叫んだ。
「仕方ないなぁ………何とかしてほしい?」
ルイズは首を激しく縦に動かす。そして、それを見たももえはカマを取り出してルイズの耳元に構える。
「じゃあ…それごとルイズの耳を切断……」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!」
「大丈夫、大丈夫 盲目の人でも皇帝暗殺をしようとした元気な人もいるから。だから耳ぐらいどうってことないって」
???ものしり館???
高漸離【こうぜんり】
中国戦国時代の人物。秦王(始皇帝)の刺客として有名な荊軻の親友である。
荊軻の復讐を目論んだ高漸離は筑の才能を生かして名前を隠して秦王に使えていた。
後に高漸離の目論みは秦王に露見したのだが、才能を惜しんだ秦王は高漸離の目を潰してそのまま仕えさせた。
高漸離は筑を投げつけて秦王を殺そうとしたが、盲目だったため外れて謀殺された。
「いやいやいやいや 目と耳じゃ全然違うから。だいたい皇帝暗殺しようとした人って元気って呼べる人なの?
っていうかどうでもいいからこの手を離し…痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!! ちぎれるっ、ちぎれるっ、ちぎれるううううううううう!!!!」
すると、流しの悪魔はようやくルイズの耳から手を離した。ようやく解放されたルイズは肩で息をし、耳は真っ赤に腫れ上がっていた。
「はぁ………はぁ………はぁ………死ぬかと思ったわ。」
「死ぬかと思ったなどと言ってる内は決して死にはしないから安心しろ」
そんな二人を回避して傍から見ているももえ。
「…………」
「…………」
流しの悪魔とルイズが戯れているのをよそにタバサは思っていた疑問をももえにぶつけた。
「これって勝負に勝った方が使い魔になるんじゃ………」
「ううん。そんな事無いよ。だからわざと負けるとかそんな卑怯な真似はしないからね。」
ももえは笑顔でそう答えた。そして、その直後にさらっとこんな言葉を吐き捨てた。
「負けたらそれ以下だからね。」
「……以下なの?」
「うん、以下。」
そうこうしているうちに流しの悪魔からこんな一言が飛び込んだ。
「下僕部門 勝者 ももえ」
「……えっ、でもモモエは何も………。」
「耳をつねられて"気持ち良い"の一言も言えないようじゃ下僕失格だ。」
流しの悪魔はそのように説明する。
「あんたは大丈夫なの?」
「うん、私悪魔の体だから!」
「…………もう私の負けでいいわ…。」
能天気に答えるももえにルイズはがっくりと肩を落としたのであった。
「続いて家来勝負を行う」
そう言われて二人はももえの屋敷の中に案内される。
流しの悪魔は手馴れた様子で二人を先導した。ギャラリーもそれに付いて移動する。
「普通に迷わず通れば何事も無い家だ。しかし………」
流しの悪魔は傍らにある扉を開けた。すると―――
「なっ、何よこれ!」
ルイズが驚くのも無理は無い。そこには今までいた家とは違う空間を形成した吹雪いている一室があったのだから。
「なんだ、お前は雪は見たことが無いのか?」
「それぐらい見たことあるわよぉ! だけどこんな脈略もなく雪を見たのは初めてだから………」
耳の件があったのでどうしても強く責め立てる事が出来ないルイズ。流しの悪魔は二人にあるものを渡した。
「これは………?」
「草鞋だ」
流しの悪魔が渡したのは草鞋だった。ルイズははじめてみるそれをまじまじと見ている。
「これを見るのははじめてか?」
「うん。教科書の写真で見たことはあるけど実物を見るのははじめてかな。」
流しの悪魔はにやりと笑う。早速二人に指令を言い渡す。
「それを二人に人肌で暖めてもらう」
「「えっ………?」」
「その草鞋をどれだけ暖かくすることが出来るか。より暖かくしたほうが勝者だ。
制限時間は1時間。なお、ホッ○イロとかそういう物を使うのは禁止とする。」
そう言って流しの悪魔はももえが隠し持っていたホッ○イロを取り上げる。
不服そうなももえをよそにルイズは手に持った草鞋を注意深く観察していた。
「では、はじめっ!」
流しの悪魔が笛を吹いた瞬間、二人はオクタイ君によって部屋の中に放り出された。そして外から鍵がかけられる。
「ちなみに二人の様子は別室でモニタリングしております。」
部屋のどこかにあるスピーカーから流しの悪魔の声が聞こえてきた。
「じゃあ、私たちは休憩しながら見るから適当にがんばってくれ。 うどん食べる人ー!」
はーい!という威勢のいい声がスピーカーから聞こえてくる。頭にきたルイズは、手にした草鞋を声のする方向へ力いっぱい投げつけた。
ブチ!………ジジジジジ………
「ナイスコントロール!」
ももえは右親指を立ててそう言った。ルイズもそれを真似してみる。そして、ルイズは壊れかけのカメラとスピーカーを完全に壊す作業に取り掛かった。
「寒い………」
不自然なまでに強くて冷たい風がルイズの身体をたたきつける。
「あんたは平気なの?」
ルイズは、こんなに寒いのに肩出し、へそ出しと露出しているのにもかかわらず平気そうにしているももえを見てそう言った。
「うん、私悪魔の身体だし。寒さとか熱さとかそういうのは平気だから」
「へぇ…………」
しかし、問題はこの草鞋だ。この草鞋をどの様にして温めるのか。ルイズは懐に入れていた草鞋を取り出してみる。
「全然暖かくない………」
元々冷え切っている草鞋をこの寒さで冷え切った身体で暖めるのは無理な話だ。ルイズが草鞋を外気に晒しているうちにどんどん草鞋に雪が積もってくる。
「うーん………」
ルイズは積もってくる雪を払いながら必死に考えていた。髪にも雪が降っているのだがそんなことを気にする余裕が無かった。
「うーん………」
困っているのはももえも同じだった。ももえ自身の体温調節は問題ないのだが、ももえの着ている服では草鞋を入れて暖められるようなスペースは無い。
「「あっ」」
二人同時に何かをひらめいたようだ。二人は草鞋をある場所に仕舞う。
吹雪が激しさを増し、腰の辺りまで雪が積もってきてはいたが、二人はゆっくりと活動を停止していった。
「………イズ、ルイズ!」
「あ………キュル…ケ?」
ルイズが目を覚ますとそこには雪が一面に広がっていた。キュルケ達は防寒着に身を包み、同じく雪に埋もれていたももえはタバサに救出されていた。
「よかった………!」
キュルケは思わずルイズを強く抱きしめる。
「大丈夫? 苦しくない?」
「くっ、苦しい………。」
キュルケの胸に挟まれたルイズは息苦しそうに足をジタバタとさせる。
「大丈夫………?」
「あー、うん。私は平気」
タバサに抱きかかえられたももえもそう答えた。こっちは比較的元気そうだ。
「ところで、草鞋はどうしたのだ?」
流しの悪魔がそう言うと、ももえは胸の谷間から草鞋を取り出した。
「はいっ」
雪のせいで部屋の室温が冷え切ってる中でももえの草鞋はほかほかと湯気を漂わせている。
「なるほど………服の表面積の圧倒的な少なさから言ってももえが不利になると思っていたのだが………よくやったな。」
流しの悪魔はももえのアイデアにいたく感心していた。
「では、ルイズの方だな。」
そう言うと、皆がルイズのほうに注目する。
「ルイズ、お前は草鞋をどこで暖めたのだ?」
「えっ」
それを問われたルイズはまたたくまに顔が紅潮し、目が泳ぎ始めた。
「えっ、えっと……草鞋は………その…」
「わしならここにおる!」
「我もここにいるぞ!」
どこからともなく甲高い男の声が聞こえてきた。ももえ達も辺りを見渡す。しかし、ルイズの顔は見る見るうちに青ざめていた。
「ま、まさか……ひょっとして…いやああああああああっ!!!」
ルイズの叫び声とともに草鞋がルイズの背中から飛び出てきた。
その草鞋もほかほかと湯気を漂わせており、暖まっているのがわかる。しかしその湯気は暖まったというより草鞋の怒りによるものだと思えて仕方が無かった。
「誇り高き、我が草鞋を尻に敷くなどの粗末な扱いをしたのはどこのどいつだ!」
「その通りじゃ! 物の正しい使い方を知らぬ小娘め! わしらを馬鹿にすると痛い目にあうぞ!」
「えっ、えっ、ええええっ!?」
「あー………ルイズちゃん、草鞋をお尻に敷いちゃったんだ。」
二足の草鞋がしゃべっているこの状況に戸惑いまくるルイズに対し、ももえは両手を開いてやれやれといった表情を作る。
「草鞋を尻に敷くなんて御法度なんだよ。この草鞋は人の足に履かれるのを喜ぶんだけど尻にしかれるとむちゃくちゃ怒るんだよ。」
「ええーーっ!!!」
「その通りじゃ! 草鞋は尻に敷くものではないのじゃ!尻に敷かれるのは女房だけで十分なのじゃ! こりごりなのじゃ! こりごりなのじゃ!」
「我も同じ意見である! 胸に挟むならまだしも尻に敷くとは言語道断! 全く、貧乳娘の発想の貧困さには困ったものである!」
草鞋はそう言いながらルイズの頭を執拗に叩き付ける。すっかり雪がやんだ部屋はパーンパーンと無駄に軽快な音とルイズが徐々に鬱陶しそうになる声で支配されていた。
「あっ、あの………草鞋さんもそれぐらいで………」
珍しくももえが仲裁に入ろうとする。しかし、興奮状態の草鞋の片割れは勢いあまってももえの頭にも軽快に叩きを食らわせる。
スパーン……ズバッ
一瞬の出来事であった。草鞋の片割れがももえの頭に叩きつけた瞬間、ももえは手にしていたカマを軽く振りかぶる。
草鞋の片割れは見事に真っ二つに割れて、ぽとりと地面に落ちてそのまま動かなくなった。
『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』
「ひいっ!」
恐れをなした草鞋は一目散に逃げてしまおうと試みた。しかし、逃げようとした草鞋をルイズは左手でがっちりと掴んでいる。中指の爪は草鞋に食い込みかけていた。
「あっ、あのっ、そのっ………」
さっきとは一転して弱気になっている草鞋。ルイズは右手に持っている杖を草鞋にこすり付けた。
「あんたね………誇り高きヴァリエール家の三女である私の尻に敷かれる事がどれだけ価値があって、どれだけ需要があるのかわかってないわね。」
ルイズは冷静な口調で草鞋に語りかける。何百年も女の尻に敷かれ続けた草鞋にはそれが並々ならぬ怒りを表現していることは十分にわかっていた。
「だから………私が焼いてあげるわ」
「ひいいいいいいっ!!!!!」
草鞋は思わず悲鳴を上げた。それに構わずルイズの杖は光りだす。そして呪文は詠唱された。
「ファイアーボーォォォォォォォォル!!!!!」
刹那、大きな光に包まれた玉が至近距離で発射され、草鞋を直撃する。草鞋は断末魔の声を上げることなく爆発した。
しかし、このルイズの渾身の呪文は部屋にいるルイズ以外の人物・物を黒焦げにしてしまったのであった。
「で、使い魔勝負はどうなったの?」
とりあえず風呂に入ってさっぱりした一同は、死神家の大広間に集っていた。メイからフルーツ牛乳が振舞われそれを飲みながらももえは流しの悪魔に質問した。
「ああ、その件についてだが…………。」
皆の視線が流しの悪魔に集まる。
「とりあえず家来勝負はももえの勝ちだ。」
「えっ………でも、私ちゃんと暖めて
「いくら説明不足とはいえ、尻に草鞋を敷くのはマナー違反だぞ、ルの字
尻に敷かれたホカホカの草鞋を欲しがるのは特殊な趣向をもった大きなお友達しかおらん」
「はい………」
色々と突っ込みたいところはあったがそれに突っ込むのは危険だと察したルイズは何も言うことができなかった。
「ちなみにパシリ勝負は大きなしゃもじをもってガリア王国の王宮に進入して、イザベラ皇女と激戦の末に晩御飯をご馳走になる……なんて事を作者は考えてたらしいぞ」
「馬鹿じゃないの!?」
思わず、キュルケからの突っ込みが入った。
「じゃあ結局私がモモエの使い魔になるのね………全然釈然としないけど。」
どこか諦めの混じった声でルイズはため息をつく。しかし、
「あっ、じゃあ私が代わり使い魔になってあげようか?」
「えっ、いいの?」
ももえの突然の提案にルイズはすぐさま食いついた。
「その代わり私にも条件があるんだけど………ルイズちゃんのこと『スレイヴ』って呼んでもいい?」
「スレイヴ?」
「うん、スレイヴ。ご主人様に変わる新しい呼び名だよ。」
ももえはさわやかな笑顔でそう言った。ルイズもその呼び名が気に入ったらしく『スレイヴ』と何度も口の中で呟き続ける。
「いいわよ。いいわよ。あんたが使い魔で私がスレイヴ あー、なんか私のほうがなんかカッコイイ感じじゃない? あっはっはっはっはっはっ」
「あっはっはっはっはっはっ」
よほど嬉しかったのかルイズの高笑いは止まるところを知らなかった。
しかし、ももえの本当の意図に気づいたタバサは思わず口を開く。
「でも、スレイヴって確かど………もごもごもごもごもごもご」
「……知らぬが……仏……です…。」
メイはタバサの口を押さえつけながらそう呟いたのであった。
※おわり これまでのご愛読 ご支援ありがとうございました
※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水草鞋下級生ももえサイズ」に乞うご期待!
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