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#navi(ゼロと迷宮職人)
ゼロと迷宮職人 第六「階」 よろしく、デルフリンガー
/1/
日がとっぷりと暮れたある日のトリステイン魔法学院。厨房の片隅でルイズは祈りをささげていた。
(始祖ブリミルよ。どうか私の願いを聞き届けてください。黒はダメなんです。赤か白を、赤か白を!)
瞳を閉じ一心不乱に願いを送る。そして、やおら目を開くと全力を込めた右手を前へと突き出した。
そこには、羊皮紙を巻かれて中が見えないワインのビン。口から、三本の棒が延びていた。
ルイズはその中の一本を掴む。
(私に、勝利をッ!)
棒を引き抜く。その先端の色は、黒。ルイズ は ちからつきた。
「よっしッ!」
その様を、全力で喜ぶギーシュ。そしてアレンがいつもの如く淡々という。
「決まりましたね。今日のご主人様の夕食は『スライムにこみ』です」
スライムとは、ダンジョンの低階層に現れる魔物である。外見は大きな緑色のゼリー。背中に
カタツムリのような殻を背負っている。物理攻撃に強く魔法に弱い。体力も高い魔物である。
この魔物が落とす物のなかに『スライムのひもの』というものがある。これとカラスコウモリが
落とす『カラスのももにく』と一緒に煮込んだ料理、それがスライムにこみである。
食べるとHPが+2、じょうぶさが+1される。
「さーて、僕は、と……赤! 『ブタイノシシなべ』! よっしゃー!」
ギーシュは、掴み取った棒を杖の如く掲げた。こんな時でも格好をつけるのを忘れない。
迷宮に出るブタイノシシが落とす食材『ブタイノシシのバラ』をホウレンソウと一緒に
煮込んだ『ブタイノシシなべ』はHP、つよさがそれぞれ+1される料理だ。
「じゃ、ぼくは『ホウレンソウサラダ』ですね。ではいただきましょうか」
ホウレンソウサラダは名前の通りの料理である。食べるとHPが+1される。
「う、うう。アレン! ソッチと交換しなさい」
「だめです」
即座に拒否。
「じゃ、じゃあご飯抜き! お預け!」
「いいですけど、ご主人様はスライムにこみ、絶対食べてくださいね。HPが上がればちょっとしたケガ
ならへっちゃらになりますし、じょうぶさが上がればケガそのものをし辛くなります」
正に今がクライマックスとばかりに、壮絶なにらみ合いをかます両者。そんな二人をほったらかし、
ギーシュは始祖ブリミルに感謝をささげると、ブタイノシシなべを早速パクつく。
ちなみに、何故貴族の二人まで厨房で夕食を食べているのかといえば、ダンジョンの事を秘匿するため、の
一言に尽きる。魔物料理を他の生徒や教師に見せるわけにはいかない。さらに厨房の面々は
ダンジョンの事を知っているため、ここでならそういった事柄を話すこともできるからだ。
「んまぁぁい! 。いささか野味の強い肉だが、それがいい!
ミスタ・マルトー! 僕は貴方の料理の技に敬服する!」
ハイテンションで料理を食べ、絶賛するギーシュ。スライムにこみから逃れたため、彼の心は
今までにないほど解放されていた。何故ここまでルイズとギーシュがこの料理を嫌がるのか。
それはスライムが集まる部屋に理由がある。その部屋に設置される家具は『ゴミばこ』なのだ。
貴族の子弟が、ごみをあさっていた生き物を食べるのに、躊躇するのは当然である。
貴族の子弟でなくても大抵は嫌がるだろう。
「さあご主人様、冷めてしまいますのでお早く」
アレンが促す。ルイズの耳には、アレンの背後からプレッシャーを表す地鳴りに似た擬音が
聞こえる気がした。もちろん幻聴である。
「どーしても、コレを私に食べさせるって言うのね……いいわ、だったら……」
ルイズの思考が加速する。無いか、何か無いか。逆転の一手がッ! そして、天恵が降りてきた、と
ルイズは感じた。こちらももちろん幻覚である。
「私がコレを食べたらッ! アレン、あんた明日の洗濯物全部一人でやるのよッ!」
「……ッ!」
まるでこめかみにいいパンチを食らったようにアレンがぐらついた。もちろん顔は真っ赤だ。
ふふふ、と笑うルイズ。ルイズが着替え出しただけで顔を赤くする純情少年である。
ましてや下着など、ふれることもできはしまい。勝利を確信する。
が、アレンは足を使って倒れるのを防ぐ!
「それで……それでご主人様がご飯を食べてくれるならッ!」
カウンター! 逆転の一手は諸刃の剣だった。ルイズ は ふたたび ちからつきた。
「……というかだね、君ら。そろそろその珍妙なやりとりは終わりにしたまえ」
ワイングラスを片手に、ギーシュが半眼で口を開いた。
覚悟を決めて口にしたスライムにこみは意外に美味しいとルイズは感じた。そもそも食感が
今まで口にしたものと全く違う。弾力があり程よい歯ごたえがある。食欲が無い時でも
食べられそうだった。あっというまに完食。そして、ふとした疑問を口にする。
「ねえアレン。HPやじょうぶさが上がったら、病気もへっちゃらになるかしら?」
ホウレンソウサラダを口一杯にしていたアレンは、しっかり噛んでから飲み込んだ。
苦いのは苦手のようで、眉間に少し皺がよっている。
「多分、効果はあると思いますよ。よっぽど重い病でもないかぎりは」
「うーん」
ルイズの二人目の姉、カトレアはその『重い病』なのだ。が、この常識外れの魔物料理があれば、
もしかしたら、と思ってしまう。どういう食材なのかは伏せて、レシピと食材を送ってしまおうか。
しかし、それには問題点が一つ。
「もっと部屋を多くしないと……」
その言葉に、シチューを完食したアレンが反応する。
「そうですね。家具がないと部屋が作れません」
「とはいえ、使用人からもらった分は使い切っちゃったし……」
いくら国立機関である魔法学院とはいえ、資金は有限である。壊れたものは直して使うのが普通。
以前シエスタたちが用意してくれたものは、かなり無理をして集めてもらったものだ。
「と、なれば、買うしかないわけだが、資金は大丈夫かい?」
「ダンジョンでたまった分が銀貨にして60枚ぐらいだけど……」
「拾った武器を売れば、足しになると思います」
アレン曰く、一階で手に入る武器はギーシュの造った槍と同等かそれ以下の威力しかない。
で、あれば売ってしまった方がいいとのこと。防具も手に入れているが、そちらはまだ売るほど
余っていない。
「ふむ、じゃあ明日買出しに出かけるとしようか。丁度虚無の曜日だ」
「そうね……でも、いいものがあるかしら?」
「……? それってどういうことですか?」
軽く首をかしげるアレンにルイズが答える。
「エサ桶とかごみ箱とか簡単なものは平民が作るでしょ? だから品質がピンキリなのよ」
「僕が聞いた一番ひどい話は、寝て起きたら壊れていた、かな」
「うわあ……」
アレンは絶句する。産業の基盤をメイジが押さえているハルケギニアだ。手のかかるものの
大半は魔法の産物であり、簡単なものは平民が作る。職人もいることはいるが、
大量生産しているかといえば否である。売れるか売れないかわからないものを毎日作る
余裕は無い。大抵は注文されてから生産するものだ。と、そこまで説明を受けてアレンは
考え込んだ。
「どーしたの?」
「あ、いえ、ちょっと考えてて。エサ桶とごみ箱ぐらいだったら、材料と道具をかってきて
自分で作った方がはやいかな、って」
「ほう、作れるのかい?」
「サウスアークは家具作りの村でしたから、やったことはありませんが小さいころから見てました」
なるほど、と頷くルイズとギーシュ。
「そっちのほうが安上がりになりそうね」
「じゃ、決まりだね」
「よーし、明日は荷馬車を用意して王都に行くわよー!」
おー、と声をそろえる三人だった。
/2/
翌朝、日が昇って間もない時刻。ルイズとアレンは学院の馬小屋へとやってきていた。
そこにはすでに荷馬車が用意されていた。支度をしたのはシエスタである。
「おはよう、シエスタ。悪いわね、朝から」
「いいえ、とんでもありませんミス・ヴァリエール。アレン君もおはよ……ってどうしたの!?」
シエスタが驚くのも無理はなかった。顔が赤く足取りがはっきりとしていない。
「な、なんでもないです! なんでも!」
思いっきり顔を振ってアピールするアレン。が、すぐにシエスタへの視線をそらした。
シエスタの第六感が囁きかける。なにか、あった、と。正解である。ルイズは先日の宣言どおり、
アレンに今日の洗濯を『全部』やらせたのだった。ご飯抜きの刑を撤回してもらっていたアレンは
不意打ちに驚いたが、約束したのは自分である。ふらふらになりながら完遂した、というわけだ。
じょうぶさの数字が255でも、耐えられないものはある。
「……ミス・ヴァリエール、アレン君に何を?」
「いーえ、なーんにも?」
笑顔でプレッシャーを放つシエスタ。笑顔で受け流すルイズ。今のルイズは無敵だった。
真っ赤になって動きを止めるアレンの背中にくっつき、手を取って洗濯指導を行ったのだ。
はわ、はわわ、と可愛らしい悲鳴を上げるアレンの耳元で囁きながら。
元々嗜虐の気があるルイズだ。おかげで満足度は限界一杯、今ならゼロのあだ名を聞いても
余裕でスルーできる。
「それにしても、ギーシュは遅いわねー」
「あ、それでしたら言伝を承っております」
「え?」
不思議そうな顔をするルイズの前でシエスタは咳払いを一つ。
「ルイズとアレンへ。すまないが今日は一緒にいけない。約束を違えることは許されざる行為だと
いうことは分かっているが、どうか理由を聞いてほしい。アレンとの決闘の後謝りに行って
よりを戻したモンモラシーが拗ねている。ここ最近、授業が終わるとすぐにダンジョンへ行っていた
だろう? それが彼女の機嫌を損ねてしまった。女性を悲しませるのは本意ではない。
だからすまないが、王都へは二人で行ってくれたまえ。この埋め合わせは必ずする。
君たちの友人、ギーシュ・ド・グラモンより親愛をこめて」
何も見ずにそこまで諳んじて、シエスタは以上でございます、と頭を下げた。
おおー、と思わず拍手するアレンだ。
「全く、しょうがないわね……それじゃ、出発するわよアレン」
「はい」
二人は荷馬車の御者台に乗り込む。
「あ。アレン君」
なんでしょ、とシエスタに振り向いた手を取ると、自分の胸元にもっていく。というかその豊かな
胸に軽く押し付ける。
「ミス・ヴァリエールに何かいかがわしいことをされたら、私に言ってね」
「はわ、はわわっ!」
「いかがわしいことをしてるのはどっちよ、このエロメイドー!」
そんなやりとりが聞こえたわけではないのだが、生徒宿舎での一室で一人の少女が目覚めた。
キュルケである。体を起こすと頭を軽く振る。豊かな赤い髪が大きく揺れた。別のところの
豊かな部分も。寝巻きである扇情的なベビードールを脱ぎ捨てると、手早く制服に身を包む。
水差しから汲んだ水で顔を洗うと、化粧台の前に座った。念入りに鏡とにらめっこをし、
顔を整えていく。毎日この作業に手を抜くことはなかったが、今日は念入りである。
それもそのはず。今日のターゲットはウィンク一つで陥落するような有象無象の男子生徒ではない。
ルイズの使い魔、アレンである。
決闘騒ぎからこっち、キュルケは毎日のようにアレンにアタックを仕掛けようとした。が、しかし
その成果は芳しくなかった。足だの胸元だの軽く見せて、アレンを真っ赤にさせて楽しめたのは
決闘後のみ。授業が終わるとルイズと共にどこかに消えてしまうし、夜はすぐに寝てしまうのだ。
夜は大人の時間。故に子供のアレンは夢へと旅立つ。
しかし今日は虚無の曜日。アタックをかけるチャンスはきっとある。ついでに授業後に何を
しているのかも調べておきたい。恋愛にリサーチは大切なことである。
「よっし、待ってなさいよーアレンくーん?」
バッチリと年上のおねーさんの顔を作りこむと、アレンが見たら逃げ出しそうな笑顔で
部屋を出る。キュルケとルイズの部屋はすぐ近くだ。まず、ノック。反応がないので
開けてみようとするも鍵がかかっている。もちろんそこで諦めるキュルケでもなく、
禁止されているアンロックを使用して進入。
「おっはよー……って、いないじゃない」
内部はもぬけの空。アレンがいつも肌身離さず持ち歩いているシャベルもないので間違いない。
洗濯でもしに出たのかと窓の外を覗いてみれば。
「……なんで荷馬車に乗ってるのよ、あの二人」
今正に、校門から出ようとするアレンとルイズが見えた。今からフライの魔法で追いかければ追いつくのは
たやすいのだが、さて、どうしたものかと考え込む。その時、近くの森から青い物体が飛び出すのが
見えた。タバサの使い魔、風竜のシルフィードだ。そのまま学院に近づいてくると、羽ばたきながら
宿舎に身を寄せた。その場所は主であるタバサの部屋だった。
「珍しいわね……タバサー!」
名前を呼ばれて上を見れば大きな胸、ではなく友。シルフィードを移動させ、キュルケが身を乗り出す
窓まで近づいてきた。
「どこいくのよ、タバサ」
タバサは無言で、ルイズたちが乗った荷馬車を指差す。
「ちょーどいいわ! 私も乗っけて」
タバサが頷くのを確認して、シルフィードの背に昇る。大きく羽ばたき、あっという間に学園を見下ろす
高さまで昇る。
「それにしても、何で二人をタバサが追いかけるの?」
「……気になる」
その言葉に、にんまりとした表情を作るキュルケ。
「そっかー、遂にタバサも男に興味を持つようになったのねー」
「違う」
キュルケの邪推を斬って捨てる。
「異質な魔法、奇妙なシャベル、放課後の行動。彼らには謎が多い」
「まー、確かにそうね」
「王都までの馬車が出るのに、わざわざ荷馬車を仕立てたのも不可解」
そこまで喋ったあと、視線をキュルケに向けて一言。
「恋?」
いきなり話がぶっ飛んだ。が、それなりに付き合っているキュルケには分かる。
また恋絡みなのか、と聞いているのだ。
「んー、それがねー。アレン君に感じているのは、いつもの浮っついた感情じゃないのよねー。
もっとこう、体の奥底から湧き上がるような、原始的な……そう、強いて言うなら」
眉根に皺を寄せ、胸の前で腕を組み考える。そして、この上もなく真剣な顔で口を開いた。
「性欲?」
「……自重」
/3/
道は続くよ王都まで。荷馬車は揺れるよボロだから。日差しは暖かく、風は気持ちよく。
そして朝が早かった二人は、居眠りの衝動と戦っていた。両目のまぶたはかろうじて開いている、
という程度でやがて閉じる。荷馬車が揺れると、バランスを崩して体が倒れる。そこで危うく目覚め、
また体制を立て直す。そんなことを二人交互にやっているのだからほほえましい。が、危ない。
それは二人も気付いているので、何とか目を覚まそうと手を動かしたり体をゆすったり顔を叩いたりと
するのだが、状況は芳しくない。
「……マズイ、このままじゃマズイわ」
「はい……」
荷台に乗っているならともかく、御者台から落ちたら命にかかわる。
「ぅ~アレン、なんか喋りなさい」
「ん~……王都って、どんなところです?」
「おーきな街よー」
眠いのでかなりおざなりな答えを返す。
「街ってどんなところです?」
「街は街よ。行った事あるでしょ?」
「ないです」
思わず噴出すルイズ。おかげで眠気も一緒に飛んでった。アレンへ振り向けば、こちらは相変わらず
眠そうだ。
「ないの!?」
「ないです。ご主人様に呼び出される前は、サウスアークの村から出たことなかったんで」
うそでしょ、と思ったが色々アレンの話を思い返してみると納得できる。村は山奥のあり、魔物も
多かったという国。おまけにダンジョンメーカーになる前はただの子供だったはずのアレンだ。
そういうこともあるだろう。
「なるほどね。んじゃあ教えてあげるわ。まず、とーっても人がいるの」
「学院よりもですか?」
「とーぜんよ!」
「ふわー」
一つ話をするたびに驚くアレンを見ているうちに、ルイズは時間を忘れて話を続ける。
気がつけば、王都の近くまで来ていた。
「おーきいですねー」
「そりゃあ、トリステインの王都ですもの。あったりまえよ」
そんなやりとりをしながら、二人は荷馬車を王都の入り口へと近づける。トリステインの
通りは狭い。故に何箇所も馬や馬車を預かるところがある。需要があるところに商売が生まれるのは
当たり前のことだ。荷馬車を預け、チップを大目に渡す。コレだけで扱いが段全に変わるのだ。
ついでなので『わらのベット』につかう藁を頼んでおく。馬に使うのでツテがあるはずと思った
ルイズの推測は正しく、預かり人は笑顔で請け負ってくれた。
「さ、しっかりついてきなさいね」
「えーと、ご、ご主人様」
初めて聞く、アレンの不安そうな声。その視線は通りを行く人々に向けられていた。相手がメイジだろうと魔物だろうとまったく怯むことがないのに、はじめて見る人の多さにはこの状態。それがルイズには
可笑しく、可愛らしかった。
「しょーがないわね。ほら!」
アレンに向かって手を差し出す。
「離れないように手繋いでってあげるから」
「はい!」
暖かい手が重ねられる。何故か、ルイズの胸にむず痒い何かが広がった。
「し、しっかり着いてきなさいよ」
「はい、ご主人様!」
それを振り切るように、ルイズは通りへと足を踏み出した。ルイズは、自分の頬が赤くなっているのを
気付いていない。
王都の人通りは多かった。来る途中にスリに注意しろといっておいたおかげか、アレンは両眉を
少し吊り上げてあたりを見ながら歩いている。アレは怒ってるんじゃなくて気を引き締めているのね、
とルイズは思った。最近、大分アレンの感情が読めるようになってきたルイズである。
アレンが歩くたびに金物や硬い物が当たりにぎやかな音を立てる。ダンジョンで手に入れた武装を
背負い袋に入れてるのだ。
二人は多少迷いつつも、目的の店にたどり着く。剣の形をした看板が架かったそこは、武器屋だった。
「いら……っさいませ! ようこそおいでくださいました!」
入店早々、最初はおざなり、その後気合の入った挨拶が飛んできた。店の奥に設えられた
カウンターから、店主が愛想笑いを浮かべている。
「ここって、買取はやってるかしら?」
「はあ、買取。もちろんできますが……お嬢様の作品で?」
「そんなところよ。アレン」
重量感のある背負い袋をカウンターに乗せる。ふう、と一息つくアレン。さすがに人ごみの中を
大荷物抱えて歩くのは彼にとっても重労働だったらしい。
「拝見させていただきます。しばらくお待ちください」
断ってから、店主は背負い袋から短剣を取り出す。時間が経つにつれ、見る目を変えていく店主。
次々と袋から武装を取り出し、品定めしていく。そして、一本の棍棒を取り出した。
「ありゃん? 棍棒?」
「何? なんかおかしい?」
素っ頓狂な声を上げる店主にルイズは問いかけつつ焦った。なんせ、魔物から手に入れた武器である。
変なところがあってもおかしくはないからだ。
「いえその、なんといーますか。ほら、貴族の皆様は『錬金』でお作りになるでしょう?
金属じゃなくて木製ってのに、驚きまして」
その指摘を受けて、ルイズの表情が固まった。感情を顔に出すのはギリギリ押さえた。
何とか言いつくろおうと頭を高速回転させる。が。
「あの、そ、それぼくが」
アレンがいきなり、隣で手を上げた。
「へぇ、おまえさんが?」
「は、はい。狩りで使えるかな、と」
「狩りぃ?」
「そ! その、獣の中には、切ったり刺したりより、叩いた方がいいのも、いますから」
口調はしどろもどろ、目は上へ下へと泳いでいる。アレンは嘘をつくのがヘタだった。
「んー、まあ、そういうもんか」
店主はその様子を不信に思ったようだが、すぐに興味を棍棒へと移した。ちなみにこの棍棒、
『こぶりん』という小鬼が落とす『デカすぎこんぼう』という名である。店主は棍棒を
振ったり、手で叩いたりして質を確かめ、また別の武器を見始める。
ほっと胸を撫で下ろす主従だった。
袋に入った武器を全て調べ終えた店主は、一つ頷くとルイズたちに向き直った。
「……いっやぁ、若いのに良い物をお作りになる! わたしゃ感服いたしました!」
にっこりと、愛想笑いではない笑顔を向けてくる。
「そ、そうかしら。まだ習作なんだけど」
「なんと! これで、ですかい。いやぁ、おでれーた……しまった、ウツった」
口を押さえて眉をしがめる店主。何故か売り物が置いてある一角が物音を立てた。
「何?」
「いやいやこっちのことで! しっかし、お嬢様はすごい! いやね、こんな見事なモンを
お作りなるお嬢様だからこそこっそりいっちゃうんですが、もー最近はろっくな武器が
入ってこねぇんですよ。ちょいと待っててくださいね?」
店主は店の奥から、一本の大剣を持ってくる。曇り一つなく磨き上げられた刀身。柄には
宝石まであしらってある。
「あら、綺麗な剣じゃない」
「でしょう? コイツ、ゲルマニアのシュペー卿の作って触れ込みで入ってきたは
いいんですが、どっこい剣としちゃー駄作もいいところで。『固定化』がかかちゃー
いるものの、刀身は型に鉄流し込んだだけで芯がまるでない。こんなんまで売らなきゃ
ならんちゅーのは、もう、武器を売る身としちゃあ恥ずかしい限りで」
店主は、心底から出すため息をつく。興味深い話に思わず聞き入る二人。
「それじゃあ、簡単に折れちゃいますね」
「そのとーりなんだよボウズ! 小競り合いはあっちこっちで起きるから武器の需要はあるのに、
いい武器はろくに作られない。貴族様方は趣味人でもない限りマトモな武器を作らない。
中には平民にもいい職人がいて作ったりもしますが、そーいったモンはロクに出回らない。
回ってくるのは駄作ばかり。もー、武器屋としちゃあたまったもんじゃないですよ」
まるで大雨後の濁流のように喋り倒す。よほど鬱憤が溜まっていたようだ。
「と、すみませんベラベラと益体もないことを」
「気にしてないわ。興味深かったし。で、買取なんだけど……」
「おお! そうでした、そうでしたとも。そーですね、数もありますし質もいい。
そーすっと……」
店主は羊皮紙に羽ペンを走らせると、ルイズの前に見せる。買い取り書に書かれた数字は、
ルイズの一年間の小遣い額に迫った。具体的な数字を出せば、エキュー金貨千枚強。
「ほ、ほんとにこの数字でいいの?」
「もちろんでさ。これからも御ひいきにしてくださればうれしいんですがね」
「そ、そうね。そうさせてもらうわ」
ダンジョンでお金が手に入る。そう初日に知ったがまさかこれほどとは、とルイズは
驚いていた。まったくもって、アレンに係わるとこういう衝撃に事欠かない。
「じゃあ、御代を持ってきますので少々お待ちを」
「分かったわ。アレン、お財布……って、なにやってんのアンタ」
アレンは、剣が何本も刺さった樽を引っ掻き回していた。
「いえ、なんか気配がするんです」
「気配?」
少しばかりの間、樽の中をあさるとこれか、と一本の刀身の錆びた剣を引っ張り出した。
大きさは、アレンの身長に届きそうなほど。
「……なにこのボロ剣」
「やぶからぼうにしっつれーなことを言うねーちゃんだ」
鍔元の金具がまるで喋っているかのように動いた。というか喋った。
「イ、インテリジェンスソード!」
「ああ! ボウズ、そんなもんから手はなしな!」
カウンターから店主が叫ぶ。
「うっせーよオヤジ! ……って、こりゃおでれーた」
「「おでれーた?」」
二人は店主に振り返る。すこぶるばつの悪そうな表情をしていた。なるほど、この剣が感染先か、と
ルイズは思った。
「ボウズ、おめぇさん『使い手』か。それに、はは、何の冗談だおい? 使い手、おめぇさん
本当に人間か?」
「人間ですよ」
剣とアレンのやりとりを横目に見つつ、ルイズはカウンターに歩み寄った。
「アレ、何?」
「へえ。デルフリンガーって名の剣でして。口が悪くてお客とケンカするちゅー、もう
どーしよーもねー駄剣でさぁ」
「ご主人様」
アレンが錆剣デルフリンガーを抱えたままこちらに話しかける。
「これ、買っちゃダメですか?」
「えー。よしなさいよそんなボロ剣」
「でも、質はいいです」
「おー、使い手はわかってるね! そのとーりだ!」
アレンが言うのだから、それなりの剣なのだろう。ならば、買ってあげてもいいだろう。
そこまで考えたルイズの脳裏に、ひらめきが走る。早速実行。
「どーしても、ほしい?」
「はい」
「んー、じゃあ、特別に買ってあげるわ」
「ありがとうございます」
このやりとりだけなら、不信なところは何もない。が、『特別』といったことが重要。アレンが
何か無茶を言い出したとき、このことを持ち出せば多少は効果があるだろう。なんだったら、
今朝のようにもう一度洗濯させる、というのもいい。あれはいいものだ。と、ルイズは
不埒極まりないことを考える。アレン、無残である。
「じゃ、デル公の代金は買取金から引いときますから」
「え? ええ、おねがい」
店主から声をかけられ、邪悪な思考から抜け出すルイズ。
「よろしく、デルフリンガー」
「おう、よろしくな相棒」
「おい! ちょっと待て!」
アレンとデルフの挨拶に、割って入る声一つ。誰であろう魔法のシャベルだった。
「この錆剣野郎、今相棒を相棒っていいやがったな! 相棒の相棒はオレ! 魔法のシャベル様だ!」
「なにぃ? 使い手の相棒はこのデルフリンガーって6000年前から決まってるんだよこの
シャベル野郎。お前はどっかで土でもほじくってやがれ!」
「おうよ! おりゃダンジョンメーカーの相棒だ! それが仕事よ! んだからお前の出番は
ないんだよ! お前こそどっかでばらされて釘になってろ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」
ぎゃあぎゃあと喚きまくるインテリジェンスマジックアイテムたち。喋りがヘタという話はどこへ
いったのか、魔法のシャベルは絶好調で舌戦をかましている。もちろんデルフも負けはしない。
「うるさいわよ、あんたたち!」
ルイズの言葉も届かず、二本は己こそが相棒と主張し続けた。
/4/
その様子を、店の外から覗くタバサとキュルケ。シルフィードで先回りし、二人をあとをつけて
この店の中での一部始終を見ていたのだ。
「ゼロのルイズが錬金、ねぇ……あやしいわね」
面白いおもちゃを見つけたといわんばかりの表情で、キュルケ。
「タンジョンメーカー……」
聞きなれぬ単語を反芻するタバサ。店の中の二人は、今だ二本の喋る道具に翻弄されている。
「どうするタバサ? この場を押さえちゃえば言い逃れできないと思うけど」
「あとでもいい。まだ二人が荷馬車を使った理由が分からない」
「……そーいえばそーだったわね。アレン君、大荷物運んでたけど、荷馬車は必要ない。とすれば」
「これから買い込む」
そう話しているうちに二人が武器屋から出てくる。身を潜めるタバサとキュルケ。
主に手を引かれ、剣とシャベルを背負った使い魔が通りへと歩いて行く。
「追いかける」
「りょーかい。おっもしろくなってきたわー」
追跡が始まった。周りをきょろきょろと見回しながら歩くアレンが少々厄介だったが、まるで気付いて
いる様子はない。王都の街並みと人の多さに目を引かれているようだ。二人はまず、被服店に入店。
何かの皮を売り、服を何着か購入。続いて雑貨屋で何かを買っていた。
「あれって、アレン君のものかしら」
「たぶん」
「ふーん……って、なんでノコギリまで買ってるのかしら」
「本題に入ってきた」
追跡は続く。主従は道を変え、職人たちが集う通りへ移動。木材屋に入ると交渉を始めた。しばらくして、
ルイズたちが店から出る。何人かの平民が十数枚に及ぶ木の板を街の外へと運んでいった。主従も
街の外へと移動する。
「板……荷馬車の理由は多分あれだろうけど……」
「謎が増えた」
首をかしげながらも追いかけると、主従は荷馬車にたどり着いた。荷台には買って来た板のほかに、
藁束がいくつも乗っている。二人はなにやら楽しげに話をしながら、荷馬車を学院へと向けた。
「……追跡、あんまり見入りがなかったわねぇ」
「不信であったことは間違いない」
「そーね。んじゃ私たちも戻って武器屋の一件をネタに聞き出してみましょうか」
タバサは頷くと、シルフィードを呼んだ。日はまだ高いが、ルイズたちがたどり着くころには
暮れているだろう。さて、ルイズの秘密とは何かしら。キュルケは夜が待ち遠しくなった。
今回のNG
※ルイズとアレンの洗濯シーンはあまりにもエロイので脳内検閲がかかり書かない方向となりました。
ご了承ください※
今回の注釈
食材『ブタイノシシのバラ』なんですが誤字じゃないです。たぶんバラ肉のことだと思うんですけ。
ブタイノシシのニク、の方が分かりやすいのに……。
#navi(ゼロと迷宮職人)
#navi(ゼロと迷宮職人)
ゼロと迷宮職人 第六「階」 よろしく、デルフリンガー
/1/
日がとっぷりと暮れたある日のトリステイン魔法学院。厨房の片隅でルイズは祈りをささげていた。
(始祖ブリミルよ。どうか私の願いを聞き届けてください。黒はダメなんです。赤か白を、赤か白を!)
瞳を閉じ一心不乱に願いを送る。そして、やおら目を開くと全力を込めた右手を前へと突き出した。
そこには、羊皮紙を巻かれて中が見えないワインのビン。口から、三本の棒が延びていた。
ルイズはその中の一本を掴む。
(私に、勝利をッ!)
棒を引き抜く。その先端の色は、黒。ルイズ は ちからつきた。
「よっしッ!」
その様を、全力で喜ぶギーシュ。そしてアレンがいつもの如く淡々という。
「決まりましたね。今日のご主人様の夕食は『スライムにこみ』です」
スライムとは、ダンジョンの低階層に現れる魔物である。外見は大きな緑色のゼリー。背中に
カタツムリのような殻を背負っている。物理攻撃に強く魔法に弱い。体力も高い魔物である。
この魔物が落とす物のなかに『スライムのひもの』というものがある。これとカラスコウモリが
落とす『カラスのももにく』と一緒に煮込んだ料理、それがスライムにこみである。
食べるとHPが+2、じょうぶさが+1される。
「さーて、僕は、と……赤! 『ブタイノシシなべ』! よっしゃー!」
ギーシュは、掴み取った棒を杖の如く掲げた。こんな時でも格好をつけるのを忘れない。
迷宮に出るブタイノシシが落とす食材『ブタイノシシのバラ』をホウレンソウと一緒に
煮込んだ『ブタイノシシなべ』はHP、つよさがそれぞれ+1される料理だ。
「じゃ、ぼくは『ホウレンソウサラダ』ですね。ではいただきましょうか」
ホウレンソウサラダは名前の通りの料理である。食べるとHPが+1される。
「う、うう。アレン! ソッチと交換しなさい」
「だめです」
即座に拒否。
「じゃ、じゃあご飯抜き! お預け!」
「いいですけど、ご主人様はスライムにこみ、絶対食べてくださいね。HPが上がればちょっとしたケガ
ならへっちゃらになりますし、じょうぶさが上がればケガそのものをし辛くなります」
正に今がクライマックスとばかりに、壮絶なにらみ合いをかます両者。そんな二人をほったらかし、
ギーシュは始祖ブリミルに感謝をささげると、ブタイノシシなべを早速パクつく。
ちなみに、何故貴族の二人まで厨房で夕食を食べているのかといえば、ダンジョンの事を秘匿するため、の
一言に尽きる。魔物料理を他の生徒や教師に見せるわけにはいかない。さらに厨房の面々は
ダンジョンの事を知っているため、ここでならそういった事柄を話すこともできるからだ。
「んまぁぁい! いささか野味の強い肉だが、それがいい!
ミスタ・マルトー! 僕は貴方の料理の技に敬服する!」
ハイテンションで料理を食べ、絶賛するギーシュ。スライムにこみから逃れたため、彼の心は
今までにないほど解放されていた。何故ここまでルイズとギーシュがこの料理を嫌がるのか。
それはスライムが集まる部屋に理由がある。その部屋に設置される家具は『ゴミばこ』なのだ。
貴族の子弟が、ごみをあさっていた生き物を食べるのに、躊躇するのは当然である。
貴族の子弟でなくても大抵は嫌がるだろう。
「さあご主人様、冷めてしまいますのでお早く」
アレンが促す。ルイズの耳には、アレンの背後からプレッシャーを表す地鳴りに似た擬音が
聞こえる気がした。もちろん幻聴である。
「どーしても、コレを私に食べさせるって言うのね……いいわ、だったら……」
ルイズの思考が加速する。無いか、何か無いか。逆転の一手がッ! そして、天恵が降りてきた、と
ルイズは感じた。こちらももちろん幻覚である。
「私がコレを食べたらッ! アレン、あんた明日の洗濯物全部一人でやるのよッ!」
「……ッ!」
まるでこめかみにいいパンチを食らったようにアレンがぐらついた。もちろん顔は真っ赤だ。
ふふふ、と笑うルイズ。ルイズが着替え出しただけで顔を赤くする純情少年である。
ましてや下着など、ふれることもできはしまい。勝利を確信する。
が、アレンは足を使って倒れるのを防ぐ!
「それで……それでご主人様がご飯を食べてくれるならッ!」
カウンター! 逆転の一手は諸刃の剣だった。ルイズ は ふたたび ちからつきた。
「……というかだね、君ら。そろそろその珍妙なやりとりは終わりにしたまえ」
ワイングラスを片手に、ギーシュが半眼で口を開いた。
覚悟を決めて口にしたスライムにこみは意外に美味しいとルイズは感じた。そもそも食感が
今まで口にしたものと全く違う。弾力があり程よい歯ごたえがある。食欲が無い時でも
食べられそうだった。あっというまに完食。そして、ふとした疑問を口にする。
「ねえアレン。HPやじょうぶさが上がったら、病気もへっちゃらになるかしら?」
ホウレンソウサラダを口一杯にしていたアレンは、しっかり噛んでから飲み込んだ。
苦いのは苦手のようで、眉間に少し皺がよっている。
「多分、効果はあると思いますよ。よっぽど重い病でもないかぎりは」
「うーん」
ルイズの二人目の姉、カトレアはその『重い病』なのだ。が、この常識外れの魔物料理があれば、
もしかしたら、と思ってしまう。どういう食材なのかは伏せて、レシピと食材を送ってしまおうか。
しかし、それには問題点が一つ。
「もっと部屋を多くしないと……」
その言葉に、シチューを完食したアレンが反応する。
「そうですね。家具がないと部屋が作れません」
「とはいえ、使用人からもらった分は使い切っちゃったし……」
いくら国立機関である魔法学院とはいえ、資金は有限である。壊れたものは直して使うのが普通。
以前シエスタたちが用意してくれたものは、かなり無理をして集めてもらったものだ。
「と、なれば、買うしかないわけだが、資金は大丈夫かい?」
「ダンジョンでたまった分が銀貨にして60枚ぐらいだけど……」
「拾った武器を売れば、足しになると思います」
アレン曰く、一階で手に入る武器はギーシュの造った槍と同等かそれ以下の威力しかない。
で、あれば売ってしまった方がいいとのこと。防具も手に入れているが、そちらはまだ売るほど
余っていない。
「ふむ、じゃあ明日買出しに出かけるとしようか。丁度虚無の曜日だ」
「そうね……でも、いいものがあるかしら?」
「……? それってどういうことですか?」
軽く首をかしげるアレンにルイズが答える。
「エサ桶とかごみ箱とか簡単なものは平民が作るでしょ? だから品質がピンキリなのよ」
「僕が聞いた一番ひどい話は、寝て起きたら壊れていた、かな」
「うわあ……」
アレンは絶句する。産業の基盤をメイジが押さえているハルケギニアだ。手のかかるものの
大半は魔法の産物であり、簡単なものは平民が作る。職人もいることはいるが、
大量生産しているかといえば否である。売れるか売れないかわからないものを毎日作る
余裕は無い。大抵は注文されてから生産するものだ。と、そこまで説明を受けてアレンは
考え込んだ。
「どーしたの?」
「あ、いえ、ちょっと考えてて。エサ桶とごみ箱ぐらいだったら、材料と道具をかってきて
自分で作った方がはやいかな、って」
「ほう、作れるのかい?」
「サウスアークは家具作りの村でしたから、やったことはありませんが小さいころから見てました」
なるほど、と頷くルイズとギーシュ。
「そっちのほうが安上がりになりそうね」
「じゃ、決まりだね」
「よーし、明日は荷馬車を用意して王都に行くわよー!」
おー、と声をそろえる三人だった。
/2/
翌朝、日が昇って間もない時刻。ルイズとアレンは学院の馬小屋へとやってきていた。
そこにはすでに荷馬車が用意されていた。支度をしたのはシエスタである。
「おはよう、シエスタ。悪いわね、朝から」
「いいえ、とんでもありませんミス・ヴァリエール。アレン君もおはよ……ってどうしたの!?」
シエスタが驚くのも無理はなかった。顔が赤く足取りがはっきりとしていない。
「な、なんでもないです! なんでも!」
思いっきり顔を振ってアピールするアレン。が、すぐにシエスタへの視線をそらした。
シエスタの第六感が囁きかける。なにか、あった、と。正解である。ルイズは先日の宣言どおり、
アレンに今日の洗濯を『全部』やらせたのだった。ご飯抜きの刑を撤回してもらっていたアレンは
不意打ちに驚いたが、約束したのは自分である。ふらふらになりながら完遂した、というわけだ。
じょうぶさの数字が255でも、耐えられないものはある。
「……ミス・ヴァリエール、アレン君に何を?」
「いーえ、なーんにも?」
笑顔でプレッシャーを放つシエスタ。笑顔で受け流すルイズ。今のルイズは無敵だった。
真っ赤になって動きを止めるアレンの背中にくっつき、手を取って洗濯指導を行ったのだ。
はわ、はわわ、と可愛らしい悲鳴を上げるアレンの耳元で囁きながら。
元々嗜虐の気があるルイズだ。おかげで満足度は限界一杯、今ならゼロのあだ名を聞いても
余裕でスルーできる。
「それにしても、ギーシュは遅いわねー」
「あ、それでしたら言伝を承っております」
「え?」
不思議そうな顔をするルイズの前でシエスタは咳払いを一つ。
「ルイズとアレンへ。すまないが今日は一緒にいけない。約束を違えることは許されざる行為だと
いうことは分かっているが、どうか理由を聞いてほしい。アレンとの決闘の後謝りに行って
よりを戻したモンモラシーが拗ねている。ここ最近、授業が終わるとすぐにダンジョンへ行っていた
だろう? それが彼女の機嫌を損ねてしまった。女性を悲しませるのは本意ではない。
だからすまないが、王都へは二人で行ってくれたまえ。この埋め合わせは必ずする。
君たちの友人、ギーシュ・ド・グラモンより親愛をこめて」
何も見ずにそこまで諳んじて、シエスタは以上でございます、と頭を下げた。
おおー、と思わず拍手するアレンだ。
「全く、しょうがないわね……それじゃ、出発するわよアレン」
「はい」
二人は荷馬車の御者台に乗り込む。
「あ。アレン君」
なんでしょ、とシエスタに振り向いた手を取ると、自分の胸元にもっていく。というかその豊かな
胸に軽く押し付ける。
「ミス・ヴァリエールに何かいかがわしいことをされたら、私に言ってね」
「はわ、はわわっ!」
「いかがわしいことをしてるのはどっちよ、このエロメイドー!」
そんなやりとりが聞こえたわけではないのだが、生徒宿舎での一室で一人の少女が目覚めた。
キュルケである。体を起こすと頭を軽く振る。豊かな赤い髪が大きく揺れた。別のところの
豊かな部分も。寝巻きである扇情的なベビードールを脱ぎ捨てると、手早く制服に身を包む。
水差しから汲んだ水で顔を洗うと、化粧台の前に座った。念入りに鏡とにらめっこをし、
顔を整えていく。毎日この作業に手を抜くことはなかったが、今日は念入りである。
それもそのはず。今日のターゲットはウィンク一つで陥落するような有象無象の男子生徒ではない。
ルイズの使い魔、アレンである。
決闘騒ぎからこっち、キュルケは毎日のようにアレンにアタックを仕掛けようとした。が、しかし
その成果は芳しくなかった。足だの胸元だの軽く見せて、アレンを真っ赤にさせて楽しめたのは
決闘後のみ。授業が終わるとルイズと共にどこかに消えてしまうし、夜はすぐに寝てしまうのだ。
夜は大人の時間。故に子供のアレンは夢へと旅立つ。
しかし今日は虚無の曜日。アタックをかけるチャンスはきっとある。ついでに授業後に何を
しているのかも調べておきたい。恋愛にリサーチは大切なことである。
「よっし、待ってなさいよーアレンくーん?」
バッチリと年上のおねーさんの顔を作りこむと、アレンが見たら逃げ出しそうな笑顔で
部屋を出る。キュルケとルイズの部屋はすぐ近くだ。まず、ノック。反応がないので
開けてみようとするも鍵がかかっている。もちろんそこで諦めるキュルケでもなく、
禁止されているアンロックを使用して進入。
「おっはよー……って、いないじゃない」
内部はもぬけの空。アレンがいつも肌身離さず持ち歩いているシャベルもないので間違いない。
洗濯でもしに出たのかと窓の外を覗いてみれば。
「……なんで荷馬車に乗ってるのよ、あの二人」
今正に、校門から出ようとするアレンとルイズが見えた。今からフライの魔法で追いかければ追いつくのは
たやすいのだが、さて、どうしたものかと考え込む。その時、近くの森から青い物体が飛び出すのが
見えた。タバサの使い魔、風竜のシルフィードだ。そのまま学院に近づいてくると、羽ばたきながら
宿舎に身を寄せた。その場所は主であるタバサの部屋だった。
「珍しいわね……タバサー!」
名前を呼ばれて上を見れば大きな胸、ではなく友。シルフィードを移動させ、キュルケが身を乗り出す
窓まで近づいてきた。
「どこいくのよ、タバサ」
タバサは無言で、ルイズたちが乗った荷馬車を指差す。
「ちょーどいいわ! 私も乗っけて」
タバサが頷くのを確認して、シルフィードの背に昇る。大きく羽ばたき、あっという間に学園を見下ろす
高さまで昇る。
「それにしても、何で二人をタバサが追いかけるの?」
「……気になる」
その言葉に、にんまりとした表情を作るキュルケ。
「そっかー、遂にタバサも男に興味を持つようになったのねー」
「違う」
キュルケの邪推を斬って捨てる。
「異質な魔法、奇妙なシャベル、放課後の行動。彼らには謎が多い」
「まー、確かにそうね」
「王都までの馬車が出るのに、わざわざ荷馬車を仕立てたのも不可解」
そこまで喋ったあと、視線をキュルケに向けて一言。
「恋?」
いきなり話がぶっ飛んだ。が、それなりに付き合っているキュルケには分かる。
また恋絡みなのか、と聞いているのだ。
「んー、それがねー。アレン君に感じているのは、いつもの浮っついた感情じゃないのよねー。
もっとこう、体の奥底から湧き上がるような、原始的な……そう、強いて言うなら」
眉根に皺を寄せ、胸の前で腕を組み考える。そして、この上もなく真剣な顔で口を開いた。
「性欲?」
「……自重」
/3/
道は続くよ王都まで。荷馬車は揺れるよボロだから。日差しは暖かく、風は気持ちよく。
そして朝が早かった二人は、居眠りの衝動と戦っていた。両目のまぶたはかろうじて開いている、
という程度でやがて閉じる。荷馬車が揺れると、バランスを崩して体が倒れる。そこで危うく目覚め、
また体制を立て直す。そんなことを二人交互にやっているのだからほほえましい。が、危ない。
それは二人も気付いているので、何とか目を覚まそうと手を動かしたり体をゆすったり顔を叩いたりと
するのだが、状況は芳しくない。
「……マズイ、このままじゃマズイわ」
「はい……」
荷台に乗っているならともかく、御者台から落ちたら命にかかわる。
「ぅ~アレン、なんか喋りなさい」
「ん~……王都って、どんなところです?」
「おーきな街よー」
眠いのでかなりおざなりな答えを返す。
「街ってどんなところです?」
「街は街よ。行った事あるでしょ?」
「ないです」
思わず噴出すルイズ。おかげで眠気も一緒に飛んでった。アレンへ振り向けば、こちらは相変わらず
眠そうだ。
「ないの!?」
「ないです。ご主人様に呼び出される前は、サウスアークの村から出たことなかったんで」
うそでしょ、と思ったが色々アレンの話を思い返してみると納得できる。村は山奥のあり、魔物も
多かったという国。おまけにダンジョンメーカーになる前はただの子供だったはずのアレンだ。
そういうこともあるだろう。
「なるほどね。んじゃあ教えてあげるわ。まず、とーっても人がいるの」
「学院よりもですか?」
「とーぜんよ!」
「ふわー」
一つ話をするたびに驚くアレンを見ているうちに、ルイズは時間を忘れて話を続ける。
気がつけば、王都の近くまで来ていた。
「おーきいですねー」
「そりゃあ、トリステインの王都ですもの。あったりまえよ」
そんなやりとりをしながら、二人は荷馬車を王都の入り口へと近づける。トリステインの
通りは狭い。故に何箇所も馬や馬車を預かるところがある。需要があるところに商売が生まれるのは
当たり前のことだ。荷馬車を預け、チップを大目に渡す。コレだけで扱いが段全に変わるのだ。
ついでなので『わらのベット』につかう藁を頼んでおく。馬に使うのでツテがあるはずと思った
ルイズの推測は正しく、預かり人は笑顔で請け負ってくれた。
「さ、しっかりついてきなさいね」
「えーと、ご、ご主人様」
初めて聞く、アレンの不安そうな声。その視線は通りを行く人々に向けられていた。相手がメイジだろうと魔物だろうとまったく怯むことがないのに、はじめて見る人の多さにはこの状態。それがルイズには
可笑しく、可愛らしかった。
「しょーがないわね。ほら!」
アレンに向かって手を差し出す。
「離れないように手繋いでってあげるから」
「はい!」
暖かい手が重ねられる。何故か、ルイズの胸にむず痒い何かが広がった。
「し、しっかり着いてきなさいよ」
「はい、ご主人様!」
それを振り切るように、ルイズは通りへと足を踏み出した。ルイズは、自分の頬が赤くなっているのを
気付いていない。
王都の人通りは多かった。来る途中にスリに注意しろといっておいたおかげか、アレンは両眉を
少し吊り上げてあたりを見ながら歩いている。アレは怒ってるんじゃなくて気を引き締めているのね、
とルイズは思った。最近、大分アレンの感情が読めるようになってきたルイズである。
アレンが歩くたびに金物や硬い物が当たりにぎやかな音を立てる。ダンジョンで手に入れた武装を
背負い袋に入れてるのだ。
二人は多少迷いつつも、目的の店にたどり着く。剣の形をした看板が架かったそこは、武器屋だった。
「いら……っさいませ! ようこそおいでくださいました!」
入店早々、最初はおざなり、その後気合の入った挨拶が飛んできた。店の奥に設えられた
カウンターから、店主が愛想笑いを浮かべている。
「ここって、買取はやってるかしら?」
「はあ、買取。もちろんできますが……お嬢様の作品で?」
「そんなところよ。アレン」
重量感のある背負い袋をカウンターに乗せる。ふう、と一息つくアレン。さすがに人ごみの中を
大荷物抱えて歩くのは彼にとっても重労働だったらしい。
「拝見させていただきます。しばらくお待ちください」
断ってから、店主は背負い袋から短剣を取り出す。時間が経つにつれ、見る目を変えていく店主。
次々と袋から武装を取り出し、品定めしていく。そして、一本の棍棒を取り出した。
「ありゃん? 棍棒?」
「何? なんかおかしい?」
素っ頓狂な声を上げる店主にルイズは問いかけつつ焦った。なんせ、魔物から手に入れた武器である。
変なところがあってもおかしくはないからだ。
「いえその、なんといーますか。ほら、貴族の皆様は『錬金』でお作りになるでしょう?
金属じゃなくて木製ってのに、驚きまして」
その指摘を受けて、ルイズの表情が固まった。感情を顔に出すのはギリギリ押さえた。
何とか言いつくろおうと頭を高速回転させる。が。
「あの、そ、それぼくが」
アレンがいきなり、隣で手を上げた。
「へぇ、おまえさんが?」
「は、はい。狩りで使えるかな、と」
「狩りぃ?」
「そ! その、獣の中には、切ったり刺したりより、叩いた方がいいのも、いますから」
口調はしどろもどろ、目は上へ下へと泳いでいる。アレンは嘘をつくのがヘタだった。
「んー、まあ、そういうもんか」
店主はその様子を不信に思ったようだが、すぐに興味を棍棒へと移した。ちなみにこの棍棒、
『こぶりん』という小鬼が落とす『デカすぎこんぼう』という名である。店主は棍棒を
振ったり、手で叩いたりして質を確かめ、また別の武器を見始める。
ほっと胸を撫で下ろす主従だった。
袋に入った武器を全て調べ終えた店主は、一つ頷くとルイズたちに向き直った。
「……いっやぁ、若いのに良い物をお作りになる! わたしゃ感服いたしました!」
にっこりと、愛想笑いではない笑顔を向けてくる。
「そ、そうかしら。まだ習作なんだけど」
「なんと! これで、ですかい。いやぁ、おでれーた……しまった、ウツった」
口を押さえて眉をしがめる店主。何故か売り物が置いてある一角が物音を立てた。
「何?」
「いやいやこっちのことで! しっかし、お嬢様はすごい! いやね、こんな見事なモンを
お作りなるお嬢様だからこそこっそりいっちゃうんですが、もー最近はろっくな武器が
入ってこねぇんですよ。ちょいと待っててくださいね?」
店主は店の奥から、一本の大剣を持ってくる。曇り一つなく磨き上げられた刀身。柄には
宝石まであしらってある。
「あら、綺麗な剣じゃない」
「でしょう? コイツ、ゲルマニアのシュペー卿の作って触れ込みで入ってきたは
いいんですが、どっこい剣としちゃー駄作もいいところで。『固定化』がかかちゃー
いるものの、刀身は型に鉄流し込んだだけで芯がまるでない。こんなんまで売らなきゃ
ならんちゅーのは、もう、武器を売る身としちゃあ恥ずかしい限りで」
店主は、心底から出すため息をつく。興味深い話に思わず聞き入る二人。
「それじゃあ、簡単に折れちゃいますね」
「そのとーりなんだよボウズ! 小競り合いはあっちこっちで起きるから武器の需要はあるのに、
いい武器はろくに作られない。貴族様方は趣味人でもない限りマトモな武器を作らない。
中には平民にもいい職人がいて作ったりもしますが、そーいったモンはロクに出回らない。
回ってくるのは駄作ばかり。もー、武器屋としちゃあたまったもんじゃないですよ」
まるで大雨後の濁流のように喋り倒す。よほど鬱憤が溜まっていたようだ。
「と、すみませんベラベラと益体もないことを」
「気にしてないわ。興味深かったし。で、買取なんだけど……」
「おお! そうでした、そうでしたとも。そーですね、数もありますし質もいい。
そーすっと……」
店主は羊皮紙に羽ペンを走らせると、ルイズの前に見せる。買い取り書に書かれた数字は、
ルイズの一年間の小遣い額に迫った。具体的な数字を出せば、エキュー金貨千枚強。
「ほ、ほんとにこの数字でいいの?」
「もちろんでさ。これからも御ひいきにしてくださればうれしいんですがね」
「そ、そうね。そうさせてもらうわ」
ダンジョンでお金が手に入る。そう初日に知ったがまさかこれほどとは、とルイズは
驚いていた。まったくもって、アレンに係わるとこういう衝撃に事欠かない。
「じゃあ、御代を持ってきますので少々お待ちを」
「分かったわ。アレン、お財布……って、なにやってんのアンタ」
アレンは、剣が何本も刺さった樽を引っ掻き回していた。
「いえ、なんか気配がするんです」
「気配?」
少しばかりの間、樽の中をあさるとこれか、と一本の刀身の錆びた剣を引っ張り出した。
大きさは、アレンの身長に届きそうなほど。
「……なにこのボロ剣」
「やぶからぼうにしっつれーなことを言うねーちゃんだ」
鍔元の金具がまるで喋っているかのように動いた。というか喋った。
「イ、インテリジェンスソード!」
「ああ! ボウズ、そんなもんから手はなしな!」
カウンターから店主が叫ぶ。
「うっせーよオヤジ! ……って、こりゃおでれーた」
「「おでれーた?」」
二人は店主に振り返る。すこぶるばつの悪そうな表情をしていた。なるほど、この剣が感染先か、と
ルイズは思った。
「ボウズ、おめぇさん『使い手』か。それに、はは、何の冗談だおい? 使い手、おめぇさん
本当に人間か?」
「人間ですよ」
剣とアレンのやりとりを横目に見つつ、ルイズはカウンターに歩み寄った。
「アレ、何?」
「へえ。デルフリンガーって名の剣でして。口が悪くてお客とケンカするちゅー、もう
どーしよーもねー駄剣でさぁ」
「ご主人様」
アレンが錆剣デルフリンガーを抱えたままこちらに話しかける。
「これ、買っちゃダメですか?」
「えー。よしなさいよそんなボロ剣」
「でも、質はいいです」
「おー、使い手はわかってるね! そのとーりだ!」
アレンが言うのだから、それなりの剣なのだろう。ならば、買ってあげてもいいだろう。
そこまで考えたルイズの脳裏に、ひらめきが走る。早速実行。
「どーしても、ほしい?」
「はい」
「んー、じゃあ、特別に買ってあげるわ」
「ありがとうございます」
このやりとりだけなら、不信なところは何もない。が、『特別』といったことが重要。アレンが
何か無茶を言い出したとき、このことを持ち出せば多少は効果があるだろう。なんだったら、
今朝のようにもう一度洗濯させる、というのもいい。あれはいいものだ。と、ルイズは
不埒極まりないことを考える。アレン、無残である。
「じゃ、デル公の代金は買取金から引いときますから」
「え? ええ、おねがい」
店主から声をかけられ、邪悪な思考から抜け出すルイズ。
「よろしく、デルフリンガー」
「おう、よろしくな相棒」
「おい! ちょっと待て!」
アレンとデルフの挨拶に、割って入る声一つ。誰であろう魔法のシャベルだった。
「この錆剣野郎、今相棒を相棒っていいやがったな! 相棒の相棒はオレ! 魔法のシャベル様だ!」
「なにぃ? 使い手の相棒はこのデルフリンガーって6000年前から決まってるんだよこの
シャベル野郎。お前はどっかで土でもほじくってやがれ!」
「おうよ! おりゃダンジョンメーカーの相棒だ! それが仕事よ! んだからお前の出番は
ないんだよ! お前こそどっかでばらされて釘になってろ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」
ぎゃあぎゃあと喚きまくるインテリジェンスマジックアイテムたち。喋りがヘタという話はどこへ
いったのか、魔法のシャベルは絶好調で舌戦をかましている。もちろんデルフも負けはしない。
「うるさいわよ、あんたたち!」
ルイズの言葉も届かず、二本は己こそが相棒と主張し続けた。
/4/
その様子を、店の外から覗くタバサとキュルケ。シルフィードで先回りし、二人をあとをつけて
この店の中での一部始終を見ていたのだ。
「ゼロのルイズが錬金、ねぇ……あやしいわね」
面白いおもちゃを見つけたといわんばかりの表情で、キュルケ。
「タンジョンメーカー……」
聞きなれぬ単語を反芻するタバサ。店の中の二人は、今だ二本の喋る道具に翻弄されている。
「どうするタバサ? この場を押さえちゃえば言い逃れできないと思うけど」
「あとでもいい。まだ二人が荷馬車を使った理由が分からない」
「……そーいえばそーだったわね。アレン君、大荷物運んでたけど、荷馬車は必要ない。とすれば」
「これから買い込む」
そう話しているうちに二人が武器屋から出てくる。身を潜めるタバサとキュルケ。
主に手を引かれ、剣とシャベルを背負った使い魔が通りへと歩いて行く。
「追いかける」
「りょーかい。おっもしろくなってきたわー」
追跡が始まった。周りをきょろきょろと見回しながら歩くアレンが少々厄介だったが、まるで気付いて
いる様子はない。王都の街並みと人の多さに目を引かれているようだ。二人はまず、被服店に入店。
何かの皮を売り、服を何着か購入。続いて雑貨屋で何かを買っていた。
「あれって、アレン君のものかしら」
「たぶん」
「ふーん……って、なんでノコギリまで買ってるのかしら」
「本題に入ってきた」
追跡は続く。主従は道を変え、職人たちが集う通りへ移動。木材屋に入ると交渉を始めた。しばらくして、
ルイズたちが店から出る。何人かの平民が十数枚に及ぶ木の板を街の外へと運んでいった。主従も
街の外へと移動する。
「板……荷馬車の理由は多分あれだろうけど……」
「謎が増えた」
首をかしげながらも追いかけると、主従は荷馬車にたどり着いた。荷台には買って来た板のほかに、
藁束がいくつも乗っている。二人はなにやら楽しげに話をしながら、荷馬車を学院へと向けた。
「……追跡、あんまり見入りがなかったわねぇ」
「不信であったことは間違いない」
「そーね。んじゃ私たちも戻って武器屋の一件をネタに聞き出してみましょうか」
タバサは頷くと、シルフィードを呼んだ。日はまだ高いが、ルイズたちがたどり着くころには
暮れているだろう。さて、ルイズの秘密とは何かしら。キュルケは夜が待ち遠しくなった。
今回のNG
※ルイズとアレンの洗濯シーンはあまりにもエロイので脳内検閲がかかり書かない方向となりました。
ご了承ください※
今回の注釈
食材『ブタイノシシのバラ』なんですが誤字じゃないです。たぶんバラ肉のことだと思うんですけ。
ブタイノシシのニク、の方が分かりやすいのに……。
#navi(ゼロと迷宮職人)
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