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「ゼロのロリカード-04」(2010/06/20 (日) 22:30:53) の最新版変更点
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#navi(ゼロのロリカード)
「待て」
不穏な空気を感じたアーカードは、シエスタを庇うように金髪の少年の前へと割って立つ。
「なんだ、君は。給仕同士庇い合いかね?」
「そうだな、そういうことで構わん。確か・・・・・・ギーシュと言ったか」
不意に己の名前を呼ばれ、ギーシュがまともに目をアーカードへと向ける。
「君みたいな平民に名を名乗った覚えはないが・・・・・・」
と、そこで気付く。妙なメイド服を着ていてわかりづらい。
が、よくよく見ると召喚の儀と午前の講義とで二度も見ている顔であった。
「ああ、ルイズの使い魔か。まったく、いよいよ以て平民じみているようだねぇ」
「フッ」
アーカードは鼻で笑った。
貴族だの平民だの、自分にもそうやって区別していた時期があったことに。
今思えば狭量であった。そういう風に生まれ、そういう風に育ったから仕方のなかったことであるが。
だが人としての本質は、そんな瑣末なことを超えたところにあると・・・・・・今は知っている。
「・・・・・・何が可笑しい?」
ギーシュは自分が笑われたと思って、アーカードを睨む。
自分よりも年下の少女に、まして平民に笑われるなど己のプライドに関わる。
「いや、何でもないさ」
アーカードとしては、本当に純粋な意味で何でもないつもりだった。
が、ギーシュからすればその言葉は大いに含みを持たせた侮蔑に見えた。
「・・・・・・言いたいことがあるなら言いたまえ
「だから何でもないと言っておろう」
アーカードが余裕をもって流してる為、ギーシュと火花を散らせることはない。
「あっあの、アーカードさん。私が悪いんです。私が・・・・・・――――――」
しかし見かねたシエスタが、口を挟み説明する。
「なるほど喃」
要するに、ギーシュが落とした香水の壜をたまたま拾い上げて渡した。
それはモンモランシーという名の女と交際をしているという、証拠物品であった。
さらにもう一人付き合っているケティという名の女の目の前で起きたやり取りの為に、二股がバレたというわけである。
結果その様子を傍から見ていたモンモランシーにも、愛想をつかされたというのが顛末である。
「あぁそうさ。彼女が拾ったばかりに・・・・・・」
ギーシュは最初に知らない振りをしたが、シエスタはそれを察せずに渡してしまった。
尤も平民のシエスタからすれば、貴族が落とした持ち物をきちんと返すなど当たり前のこと。
後々盗んだとか因縁でもつけられたら、己の人生すら危ぶまれるのだ。
「貴様の自業自得だろうに。シエスタの行為は親切心からきたもの、結果は不可抗力に過ぎん」
アーカードはゆっくりと、ギーシュの目を見据えて理路整然と反論する。
周りで観ていた者達も、それに呼応しての野次があがった。
「そうだそうだ」
「大体二股かけてるお前が悪いんじゃねーか」
ギーシュはプルプルと震えだす。アーカードはその様子を見てやれやれと言った面持ちでシエスタに告げる。
「仕方ない、善意とは言え迷惑を被るきっかけとなったのは事実。シエスタ、不本意かも知れんが今一度謝るんだ」
アーカードに促され、シエスタは慌てつつも改めて謝罪をした。
「よし、これで解決だな。無駄な時間を過ごしてしまった、仕事に戻――――――」
背を向けていたその肩を、ギーシュにグッと掴まれて強引に引き戻される。
「待ちたまえ」
「まだ何か用が?」
ギーシュは俯きながら敵愾心を抑えた笑みで、半眼のアーカードを見る。
「無駄とは言ってくれるね。そもそも君は、貴族に対する礼を知らんようだな。平民の・・・・・・それも使い魔の分際で」
「それは失敬、性分でな。ケツの穴の小さい男に敬語を使う主義は、生憎と持ち合わせていない」
アーカードは嘆息をつきながら、ヒドく面倒臭そうに告げる。
その一言で尚一層周りから笑いが起こる。
「君には少し、礼儀というものを教えてあげないといかないようだね。とはいえ、平民でもレディに手荒な真似はしたくはない。
僕にもプライドはある、が・・・・・・同時に僕は寛大な男でもある。今すぐに誠意をもって謝罪をするならば許してあげよう、さあ!!」
憤りを必死に体の内に抑え込みギーシュは告げた。しかしその様子を見て思わずアーカードはニヤリと笑う。
「いらぬ世話だ。教えてもらおうではないか、礼儀とやらを」
「へぇ・・・・・・出来損ないな『ゼロ』のルイズの使い魔にしては度胸があるじゃないか」
そう口にしたギーシュの言葉に初めて、アーカードは感情らしい感情を見せる。
薄ら寒いほどにおぞましい気を、それでも内に隠して平静を装った。
「それとも平民だから、単に世間を知らないだけのかな?」
口調は変に爺むさい時があり、妙に大人びた雰囲気こそあれ、見た目はただの少女。
平民と貴族の決定的な違いを、甘く見ているとしか思えなかった。
「ははっ、私の主を侮辱するとは・・・・・・。ぶち殺すぞ、&ruby(ヒューマン){人間}」
殺気は込めない。しかし瞳は笑っていない。
まだまだルイズとは短い付き合いであるし、出来損ないというのも事実だろう。
まして餓鬼の言うこと。躍起になる方が大人気ないというものだが・・・・・・それでもアーカードの心は冷める。
「おお、恐ろしい恐ろしい。本当に口だけは一丁前のようだね」
その様子を見ていたシエスタは、怯えた表情でアーカードの服を引っ張る。
「ま・・・・・・待ってください、元はと言えば私の所為です。アーカードさんには――――――」
しかしアーカードはシエスタを手で制し遮り、首を左右に振る。ギーシュがそれに付け加えるように言った。
「もはや君は関係ないのだよ、給仕くん」
アーカードはその言葉に同意する。
「その通り。これは我々の・・・・・・そう、云うなればガキの喧嘩だ。小僧に世間様というモノを教える理由のな」
「教えられるのはどちらかな。もう君が無様に泣いて謝るまでは、許してあげないよ」
ギーシュの言葉には反応せず、アーカードはシエスタにのみ語りかける。
「少しばかり運動するのも悪くない。今すぐ厨房の皆も呼んでくるといい、面白いものが見れるからな」
無視されることに怒りを隠せないギーシュが歯をギリッと言わせる。
「いい度胸だ」
そしてアーカードはふっとギーシュへと体を向けると腰を落とし、左手を前へと出して構える。
心底楽しそうに――――わかりきった結末を――――闘争を楽しむように。
「クク・・・・・・さぁ、おいで。遊んでやるよ坊や」
一触即発の空気になるが、ギーシュがそれを破り告げる。
「待ちたまえ、貴族の食卓を平民に血で汚すわけにはいかない。ヴェストリの広場に移ろう」
そういってギーシュは返答を聞くまでもなく、背を向け歩いていった。
やれやれといった面持ちでアーカードもそれに続こうとする・・・・・・が、突如行く手を遮られた。
「ちょっとアーカード!何やってんのよ」
ルイズが駆け寄って来る。それに続いてキュルケも。
ケーキは既に二人仲良く配り終えていたようだった。トレイとトングをアーカードの隣にいるシエスタへと渡す。
「見ての通りだ」
ルイズはうんざりとした表情を見せて呟く。
「勝手に決闘の約束なんかしちゃって、もう・・・・・・」
アーカードはきっと強いと思う。けれど確証はない。
何よりもこちらの世界のメイジの実力というものをアーカードは知らないのだ。
アーカードは顔を歪ませて笑う。
「安心しろ」
その表情と、その言葉に、異様な恐怖をルイズは覚えた。
そう、まるでアーカードを最初に召喚したときのソレであった。
ルイズはもしかしたら自分の杞憂はもっと別のところにあったんじゃないかと、この時半ば確信した。
アーカード自身に危険が及ぶのではなく、それに相対する全ての存在に危険が及ぶのだと。
◇
ヴェストリの広場は野次馬で溢れ返っていた。
食堂での騒ぎからの流れでそのまま来ている者、噂を聞きつけ現れた者、賑わっているのでとりあえず見に来た者。
それらが集まり大きな円を形作っていた。
「諸君!決闘だ!」
バラの花を投げ野次馬をギーシュは煽った。周囲から歓声が上がる。
いつの間にか普段着に着替え、腕を組み目を瞑っていたアーカードは、片目だけを開き問いかけた。
「決着は?」
「いずれかの戦闘不能か、降参の言葉を以て終了にしようじゃないか」
「りょーかい」
アーカードは指をポキポキと鳴らし、軽く構えを取る。
「そうそう、言っておくが僕はメイジだ。勿論魔法を使わせてもらうが・・・・・・卑怯とは言うまいね?」
「私は一向に構わん」
ルイズは最前列で決闘の様子を見守っていた、近くにキュルケもいる。
「止めなくていいの?」
「もうここまできちゃったら、私が止めても聞かないわよきっと」
キュルケはそれ以上話しかけることはなかった。どちらを応援するでもなく、くだらないといった表情で見ている。
貴族と平民、彼我の実力差は火を見るより明らかだ。その根拠とは魔法の有無。
余程の技量差がない限り、平民はメイジには決して勝てない。
暗殺であればまだしも真正面からの勝負となれば、飛び道具を持っていて初めて勝負になると言えるほど。
ギーシュと相対する少女が百戦錬磨の戦士か、と問われればそれは否だろう。
武器らしい武器も持っていない。どう見ても徒手空拳で渡り合うつもりにしか見えない。
魔法がロクに使えないルイズが相手ならともかく、ギーシュがただの平民の少女に負ける道理はない。
野次馬連中もそれはわかりきっていた。求めるものは刺激。簡単な話、血が見たいのである。
人は群集心理でかくも簡単に狂気へと染まる。一方的な虐殺ショーは勉学に励む生徒達にとって絶好の刺激。
「僕の二つ名は『青銅』このワルキューレがお相手する」
そう言ってバラを振ると、青銅製と思しき戦士の形をしたゴーレムが7体出現した。
「ほォ・・・・・・」
アーカードが感心していると、一体のワルキューレが動き距離を詰めてきた。
魔法とはつくづく面白いものだと見ていたアーカードの腹に、勢いの乗った拳を叩き込まれる。
鈍い音と共に少女の体躯は軽々と吹き飛んだ。受身すら取らずアーカードはそのまま倒れ込む。
少女の肉体では悪くすれば即死。良くても内臓破裂くらいは免れないかも知れない。
すぐに歓声が上がり、ルイズはいたたまれない気持ちになる。
己の使い魔が打ちのめされる姿を見て気持ち良いわけがない。思わずアーカードの元へと駆け寄った。
「やぁルイズ、残念だったね」
キッっとルイズはギーシュを睨みつけた。
「大人気ないわよ、ギーシュ」
ギーシュは髪をかき上げながら告げる。
「決闘の場に大人も子供もないよ、全力で叩き潰すだけさ。」
「んむ・・・・・・その通りだ」
と、アーカードは何事も無かったかのようにムクリと立ち上がる。
「ふぅ・・・・・・しかし本当に日差しが強いな、今日は」
苛立だしげに空を仰ぎ見、アーカードは呟いた。しかしその照りつけにすぐ顔を反らす。
「ははぁ、なかなか根性もあるようだね」
少し手加減し過ぎたかも知れない。それでもダメージはある筈だ。
痩せ我慢がどこまで続くのか見るのも一興であるが、あまり時間を掛けて嬲るのは紳士的ではない。
「このままではあまりにも可哀想だ、・・・・・・これを使うといい」
ギーシュがバラを振って落ちた一枚の花びらが一本の剣へと変化した。ギーシュはそれをアーカードへと投げる。
ストンッと音を立てて近くに突き刺さった。
「これを抜いたらギーシュは本気でくるわ、やめるなら今よ・・・・・・?」
アーカードは無言で剣を一瞥し、ルイズの頭にポンッと手を置いた。
心配無用と言ったように。ルイズの中にあった不安が霧散するかのように掻き消える。
「覚悟なさい、ギーシュ」
安堵したルイズはギーシュに警告する。ギーシュはやれやれといった感じで両手をあげ首を振っている。
既に実力差は思い知らせた。どうせ剣など取らず、降参するのはわかりきっている。
退路を断ち、追い詰め、心からの謝罪をさせる。そうギーシュは考えていた。
「剣なら・・・・・・自分のがあるさ」
そう言うとアーカードは、手品が如く剣を取り出した。
鞘に納まったオーソドックスな長剣。十字型で無駄な意匠はなく、ただ敵を撃滅するだけの鉄。
広場にいた誰しもがその光景を見ていたが、その瞬間はよくわからなかった。
否、体の中にある虚空から出したように見えたものの、認識出来なかった。
「な・・・・・・!?一体どこから!?」
「少女の体には秘密が一杯詰まってるのさ」
くっくっくと笑いながら鞘を抜き捨て、長剣を右手の中で弄ぶ。
「・・・・・・しかし、折角出してもらったモノだ。こっちも使わせてもらおう」
そう言ってアーカードは突き立てられていた剣を左手で拾う。
右手で己の剣を、左手でギーシュの剣を持ち構える。
ギーシュは溜息を吐く、想定と違う展開に。
少女はまだまだやる気である。しかしこうなった以上は――――――。
「ふんっ・・・・・・まぁいい、もう手加減はしないぞ」
多少のイレギュラーに戸惑いながらも、ギーシュはワルキューレをけしかける。
(むっ・・・・・・?)
アーカードは不思議な感覚に囚われる。何やら力が溢れてくる事に気付いた。
(なんだ?)
疑問に思っている間にワルキューレがすぐそこまで迫っていた。
アーカードは慌てた様子もなく、左手に持ったギーシュの剣を、ただ無造作に、水平に、振った。
ただそれだけでゴーレムはゴシャッという音と共にバラバラに粉砕し、同時にギーシュの剣も呆気なく折れた。
ほんの一瞬で起こった予想を裏切る出来事に、アーカード以外の者達は絶句した。
たかが剣を二本持ったところで平民の少女が青銅のゴーレム、ワルキューレ一体にすら敵う筈もない。
しかし大多数の予想を裏切り目の前で起こったそれは、ただただ見ている者の思考を停止させた。
「・・・・・・は!?あ・・・あはははは、そうか!僕の剣だもの、あ・・・・・・当たり前さ」
現実を直視できず、乾いた笑いを上げながら残ったワルキューレを突撃させる。
依然湧き出る不可思議な力に疑問を抱きながら、アーカードはギーシュの破損した剣の柄を放り捨てた。
ギーシュの剣が原因ではないようだった。何らかの魔法が付与されていた・・・・・・とか、そういうわけでもないようである。
六体のワルキューレがそれぞれ順に突進してくる。
最初に近付いたゴーレムを右手に持った剣で下から上に斬りあげる。
縦に真っ二つから分断されたゴーレムの左右半身は、そのまますぐに地へと崩れ落ちて動かなくなった。
続いて近付いてきた二体目の攻撃を、スウェイバックだけで空振らせる。
アーカードはそのまま回転すると、後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
吸血鬼の持つ強靭なパワーと神速のスピードで蹴り抜かれたゴーレムは、粉々に砕け散る。
次に近付いてこようとするゴーレムに向かい、右手に持っていた長剣を投擲した。
弾丸が如き速さでアーカードの手から撃ち出された剣は、一体のみに留まらず続いてきたもう一体も撃ち貫き破壊した。
貫くだけではなく余波も含めて粉砕され吹き飛び、長剣は大地へと突き立てられる。
そして五体目のゴーレムが繰り出す攻撃を、投擲したままの態勢の突き出た右手で難なく受け止め、掴み、放り投げる。
圧倒的な膂力で投げ飛ばされたゴーレムは、凄まじい勢いで外壁に激突し・・・・・・沈黙した。
最後の一体へと向き直り、アーカードは跳躍した。
忌々しい太陽を破壊せんとする勢いで以て、天高く向かって突き上げられた右足。
顔部分を蹴り上げられ、首から上が消し飛んだゴーレムは――――――。
アーカードが続けざまに打ち下ろしたカカト落としで胴体をも磨り潰された。
その一つ一つが、瞬きすれば見逃してしまうほどの時間。
ものの十数秒で全てを終わらせたアーカードはゆっくりと、思考の回復していないギーシュの前へと立った。
アーカードが足を払うとギーシュは無様に尻餅をつく。アーカードはその紅い瞳で冷たく見下ろした。
「ボーっとしてるなよ坊主」
ギーシュは呆然としていた。自分のゴーレム達が無残に破壊されるその圧倒的暴力が揮われた惨状。
そして何より、それを実行した目の前の少女への畏怖で。
「お前みたいな糞ガキが、この私に勝てるわきゃあ無えだろう!!」
その迫力にギーシュはガタガタと震えだす。周囲の野次馬も完全に沈黙していた。
ルイズも呆気に取られていた。ゴーレム達を歯牙にもかけぬ余りの強さに。
アーカードはポフッっと手をギーシュの頭に置く。
ギーシュの体が強張り、反射的に目を瞑った。己が召喚したワルキューレの末路が脳裏に浮かぶ。
あのパワーで以って投げ飛ばされるか、或いはこのまま頭を握りつぶされるのではないかと。
「なんてな」
その少女の顔は、悪戯っ子のような笑みに変わっていた。
「ひぇ?」
分相応な少女の笑顔にギーシュは我を取り戻す。
しかしその瞬間にアーカードはギーシュの目を冷たく見据えた。
「まだ貴様には言うことがあるな?」
コクコクとギーシュは頷き、その言葉を紡ぐ。
「ま・・・・・・参りました」
その言葉に満足気に頷いたアーカードは、踵を返しルイズの元へと向かう。
一拍置いた後、歓声が巻き起こった。ルイズは嘆息をつきつつも、その顔は嬉しそうだった。
気付けば湧き出るように溢れていた謎の力は――――――いつの間にか消えていた。
#navi(ゼロのロリカード)
#navi(ゼロのロリカード)
「気にすることはない」
講義が中止となり、爆発で滅茶苦茶になった教室の後片付けをし、煤だらけだったローブと服を着替えた後。
アーカードとルイズは食堂へと向かっていた。
「慰めなんて不要よ」
「・・・・・・他意はないぞ」
「変に気を回さなくていいわ。この程度のこと、慣れてるもの」
ルイズは淡々と答える。
(これは何を言っても無駄のようだな)
そもルイズはきちんと自己分析はしているようだし、現状を把握して今を見据えてるようだった。
多少なりと意地になっているのも、次こそは成功させるといった気持ちの裏返しなのかも知れない。
失敗を糧に、後悔をバネに努力し、いずれはその想いを成就させる日もくるだろう・・・・・・恐らく。
なにかしら助言をするのは主が重圧に耐え切れなくなり、落ち込んだ時にで十分と判断する。
少なくとも、今はまだその時ではない。
「ねぇアーカード、食堂へ向かってるわけだけど・・・・・・あなたは食事するの?」
人間に於ける食物は、アーカードにとって血液である。
一般的な食事は嗜好品の域を出ず、無理して食べる必要性がないのは既に聞いている。
「いや・・・・・・こちらの食文化を堪能するのは、また別の機会にしておこう」
「ふ~ん、じゃあどうするの?」
「そうさの・・・・・・寝る」
昼にさしかかって陽も高くなり、あまり起きて行動したい時間帯ではない。
ルイズの部屋に戻り、また夜になるまで眠るのが丁度良いだろう。
「わかったわ、それじゃまた夜に」
◇
真昼のギラつく太陽の光は、容赦なくアーカードを照りつけた。
日光が大嫌いなアーカードにとって、あまり動きたくないくらいの晴天。
たまたまいい感じの日陰を見つけたので、とりあえずそこで休むことにした。
その場に座り込み、壁にもたれかかる。心地よさに思わず目を瞑った。
「ふぅー」
息が漏れる。度重なる未知との遭遇、自分で思ってるより疲れているのかもしれない。
(血が飲みたい喃・・・・・・)
「あのぅ・・・・・・大丈夫ですか?」
瞼を薄っすらと開く、目の前にいたのは黒髪ショートで黒瞳の少女だった。
顔には微かにそばかすがあり、あどけない少女の顔には似つかわしくないほどの、豊満な胸をメイド服で包んでいる。
「あぁ、気にするな。少々疲れていただけさ」
その少女の視線は、何故かアーカードの左手に注がれていた。
「・・・・・・もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔ですか?」
「むっ、私を知っているのか」
「はい。なんでも平民の少女を召喚したって、噂になってまして」
左手に描かれたルーンを見て、使い魔と判断したのだろう。
と、同時にコルベールと会った時の疑問が浮かんだ。
何故あのハゲ教師は、わざわざ自分のルーンを夢中になって書き写していたのか。
昨夜ルイズに聞いた話では、使い魔にルーンが刻まれるのは当然の事である。
思い返せば、鼻息荒げてまで書き写す程のモノだったのか。
(やはり変態か・・・・・・?)
そこではたと気付く、目の前の少女の指に。そこには包帯が巻かれていた。
「それは?」
指をさして質問をする。
「はい?あぁ・・・・・・これですか。実はついさっき洗い物をしていたらお皿が割れてて切っちゃったんですよ、包帯は大袈裟なんですけどね」
少女は「あはは」と笑いながら答える。アーカードはスッと手を伸ばすと、いきなり包帯を取る。
指には思ったよりも大きな傷があった。本当につい先刻のことのようで、まだ血が滲んでいる。
アーカードはそのまま衝動的に少女の手をとると、指を舐め口に含んだ。
「あっ・・・・・・ん・・・」
一瞬刺さるような痛みがするものの、すぐにそれは快感へと変わった。
患部を舐められて気持ちいいなんて、少女は自分が変態なのかなどと邪推する。
「もう痛くあるまい」
あっという間の出来事だった。離れた唇からは微かに糸を引き、痛みはなくなっていた。
患部を見ると傷痕まで目立たなくなっていた。
「え・・・・・・?何で?」
「ちょっとしたおまじないさ」
本当は血を少しばかりもらったのだが、適当な理由で誤魔化す。
少女は少し腑に落ちてない様子であったが、すぐに笑顔に切り替わった。
「あの、私シエスタっていいます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「私はアーカードだ、よろしく」
「はい!よろしくおねがいします」
屈託のない笑顔だった。思わず嬲りたい衝動に駆られる。
しかし本人は知らないものの、勝手に血を貰ったという借りもあるし自制する。
「それでは失礼しますね」と言い残しシエスタは去っていく。
アーカードはシエスタに興味を持った。
個人的にそそられたのもそうだが、先程血を飲んだ時に少々不可解な点があったからである。
太陽は相も変わらずギラギラと照りつけている。アーカードは少しばかり悩んだが、我慢して追いかけることにした。
◇
追いかけ巡りついたその場所は食堂の裏手であった。
「・・・・・・アーカードさん?」
扉に入ろうとするところでシエスタはアーカードに気付く。
「どうしたんですか?お腹でも空きました?」
「いやなに、もう少しシエスタと語り合いたいと思ってな」
その言葉を聞きシエスタは悩む仕草を見せる。
「う~ん・・・・・・それはいいんですけど、お仕事があるんですよ。もう指も大丈夫みたいなので」
アーカードは考える。少量だが血を貰った、借りを返す丁度いい機会かもしれない。
それにこの昼日中、シエスタの仕事が終わるまでただ待つのも正直苦痛だった。
今更ルイズの部屋まで行って、寝るのというのも些か面倒だ。
「ふむ、では私がその仕事とやらを手伝っていいか?」
「アーカードさんがですか?そんな、無理して手伝っていかなくても結構ですよ」
確かにシエスタにしてみれば、理由なくアーカードに手伝ってもらう謂われはない。
よって、アーカードは適当な理由を振りかざすことにした。
「んむ、その服を着てみたいのだ」
そういってアーカードはシエスタが着ているメイド服を指さした。
「これをですか?」
アーカードは無言で首を縦に振り肯定する。シエスタは少し悩んだ後に告げる。
「そうですね、とりあえずこちらに来て下さい」
扉を開け中へ入ると厨房へと繋がっていた。ヌッと大きな人影が現れる。
「おう、シエスタどうした?」
恰幅のいいおじさんだった。服装から判断するにコックのようだ。
「はい、怪我も大丈夫そうなので、やっぱりお仕事しに戻ってきました」
「そうか、無理はするなよ。ところでそちらのお嬢ちゃんは誰だ?」
おっさんコックの視線がアーカードに注がれる。
「こちらはミス・ヴァリエールの使い魔のアーカードさんです」
「ほほ~、お前さんが噂の・・・・・・」
珍しいものでも見るかのようにアーカードを覗き込む。いや、事実珍しいのだろう。
なにせ人間、平民の使い魔、と流布されているのだから。
「アーカードさん、こちらはコック長のマルトーさんです」
ただの厨房担当の一人かと思ったら、コック長だったか。となると一番偉いのだろうか。
「余分なメイド服ってありますか?」
マルトーはアーカードの観察をやめシエスタの方へと向く。
「もう一着欲しいのか?」
「いえ私がじゃなくて、アーカードさんが着てみたいそうなんですよ」
アーカードはシエスタの言葉に付け加える。
「んむ、シエスタを見ていたら試しに着てみたくてな。ついでに手伝いくらいしてやるぞ」
マルトーは再びアーカードへと向き直る。
「う~ん・・・・・・あるにはあるが、見る限りサイズが合わなそうだな。シエスタも別の意味でサイズがないんだがな」
「何を言ってるんですか!!」
シエスタは抗議の声を上げ、マルトーはがっはっはと笑いながらアーカードの肩をバシバシと叩いた。
馴れ馴れしいがこれも人柄なのだろう。シエスタは少々うつむき加減で自分の胸を見始める。
聞こえるか聞こえないかギリギリの溜息が聞こえる。こういったやりとりも日常茶飯事と見える。
「無理みたいですね」
今まで見せてきたそれよりも、少し乾いた笑顔でシエスタが言ってくる。
と、マルトーの笑い声が止まった。何かを考えているようだった。
「いや・・・・・・少し待ってろ」
そう言うやいなやマルトーは席をはずす。暫しの間待つとなにやら袋を持って戻ってきた。
「ほれっ」と言ってその袋をアーカードに手渡す、アーカードは躊躇なく袋を開け中身を取り出した。
「これは・・・・・・」
「これって・・・・・・」
出てきたのは黒を基調としたメイド服、市販品には見えなかった。
しかもアーカードが着れそうなくらいのサイズ、オーダーメイドかはたまた手作りか。
「これ、どうしたんですか?」
シエスタが疑問を投げかける、マルトーは口を濁しながら答えた。
「ん、あ~~~その・・・・・・貰い物だ」
目が泳いでいた、怪しい、限りなく怪しすぎる。
そもそも何故これをすぐ持って来れたのか、シエスタは依然として疑いの眼差しを向けている。
「俺は物を大切にするんだ」
苦しい言い訳が虚しさをさらに引き立てる。一方アーカードはそのメイド服を気に入っていた。
最初は適当に言った理由だったが、素直に着てみたい。そう思わせるほどの完成されたデザインのメイド服だった。
マルトーの人格は兎も角として、これが趣味であるならば極まっていると言えるかもしれない。
「いい、いいぞ!気に入った!!その服はお前さんにやる!!!」
「アーカードさん、すっごく似合ってます!」
着替え終えるといつの間にか厨房の人々がここぞとばかりに集まり、ちょっとしたお披露目会のようになっていた。
マルトーは鼻息を荒げ興奮し、シエスタは感心していた。
黒く流れるような長髪と、紅く輝く瞳のアクセント。少女特有のスレンダーさと、アーカード自身から放たれる妖艶さ。
それら全てが黒いメイド服と調和し、一つの芸術と言えるくらいに美しかった。
「んむ、悪くない」
そうだろうそうだろうとマルトーは頷く。他の者達も各々様々な反応を見せている。
アーカードはふと、『英国名物』"メイド隊"として、メイド服を着させられたような記憶が甦る。
あの時は&ruby(・・・・・・・・・){少女姿ではなかった}所為で、それはもう酷い有様だった。
というか、自分も主人も従僕も執事も。
しっくりと似合ってる者が一人もいなかったという、ある種の惨事であった。
「・・・・・・ところでこのメイド服、予め計算されていたかの如くピッタリなんだが?」
空気が止まり、周囲者達の冷たい視線がコック長マルトーへと突き刺さった。
マルトーは慌てて身振り手振り弁解する。
「いやいやまてまて、誤解だ。それは知らん」
「それ・・・・・・は?」
シエスタの容赦ないツッコミが入った。
「ちっ違うッ!何も知らん!」
冷たい視線は未だやまずマルトーを見つめ続けた。
「だぁあああ!さっさと持ち場に戻れー!貴族どもに何言われるかわからんぞ!」
その言葉で皆々が我に返り散っていき、それぞれの仕事へと戻る。
仕事が滞ればどんな仕打ちを受けるかわからない、自分達の進退は貴族の心一つでどうとでも変わってしまうのだ。
とりあえずピンチを強引に有耶無耶にしてホッとするマルトーであったが、彼の評価が既に落ちているのは言うまでもない。
「何を手伝えばいい?」
「それじゃ私と一緒にデザートを配るのを手伝ってもらえますか?」
「了解した」
シエスタはにこやかに笑い、アーカードはそれに頷いた。
大多数の生徒達にとって、アーカードの存在ははちょっと変なメイド服を着た給仕がいる。
そんな程度でしかなかった、唯一人を除いては。
「なっ・・・・・・アーカード!?」
「やぁ、我が主」
二度も食事を食べ損ない、昨日から続く心身の疲弊と寝不足、駄目押しの午前講義の後片付け。
ただの一回の食事に、これほど感謝したのは初めてかもしれなかった。
少々量が足らないと感じたがそこは我慢する、最後のデザートでお腹を満たそうと思っていた。
配られるケーキ、普段は気にも留めない給仕の姿。
しかしいつもとは変わった服を着ていた給仕、それ故たまたま目に留まる。
昼前に分かれたはずの自分の使い魔、ニヤニヤ笑ってこちらを見ている。意味が分からない。
何故食堂にいるのか、何故メイド服を着ているのか、何故給仕としてデザートを運んでいるのか。
「な・・・・・・何やってんの?」
「見て分からないか?メイドだ」
ルイズの口元が引き攣る。
「そうじゃなくて、どうして!」
と、そこで周囲からくすくすと笑い声が漏れ始める。
「あっはっは、なんでルイズの使い魔が給仕やってんのよ」
「これはこれは、ミス・ツェルプストー」
アーカードは右手にデザートを乗せたトレイを持ちつつ、左手でスカートの端を持ち会釈をする。
「あら?ルイズの使い魔にしては礼節を知ってるのね」
アーカードはその態勢のまま顔を上げ笑みを浮かべ答える。
「無論。主に恥をかかせるわけには参りませんので」
"優秀な執事"の立ち振る舞いを近くで見てきたし、人間だった頃にはそういった者達を雇っていた側だ。
そうでなくとも己の中の膨大な命の中には、そういった職種についていた者と記憶がある。
ルイズは素直に驚いていた。アーカードがこんな礼儀を弁えた態度を取れるということに。
しかし怨敵ツェルプストーの女に、敬語を使っている姿を見るのは癪だった。
「アーカード、ツェルプストー家の者に礼節は要らないわ。こんなのはキュルケと、呼び捨てで十分よ」
「ほぉ・・・・・・言ってくれるじゃない、ルイズの癖に」
キュルケはルイズをグッと睨みつける、ルイズも負けじとキュルケをグッと睨みつけた。
二人の視線が交錯し、バチバチと火花が散っているようだった。
(犬猿の仲というやつか・・・・・・)
アーカードは一歩退いた位置から二人の様子を観察していた。
ふと、アーカードの・・・・・・吸血鬼の聴覚が本当に些細な言葉を鋭敏に感じ取る。
シエスタの声ともう一人、なにやら揉め事のようであった。
ルイズとキュルケは依然として睨み合い、アーカードは聞こえる方向へと視線を向ける。
金髪の少年とシエスタが話しているのが見える。
「ルイズ、キュルケ」
二人の視線が綺麗に揃ってアーカードへと向く、間髪入れずアーカードは言葉を紡いだ。
「これを頼んだ」
ケーキの乗ったトレイとトングを二人にそれぞれ手渡し、アーカードはシエスタの元へと向かった。
ルイズとキュルケはいまいち状況が把握出来ていなかった。
「ふん!やっぱりアンタなんか呼び捨てで十分ね」
「でもアンタも呼び捨てにされてたじゃない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の間には妙な沈黙が流れていた。
#navi(ゼロのロリカード)
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