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ゼロと迷宮職人 第四「階」 みんなでダンジョン行きましょう
/1/
決闘騒ぎの翌日。授業が終わったルイズは、アレンに先導され学院の敷地内を歩いていた。
昨日はあの騒ぎのおかげでダンジョンに行けなかったのだが、今日こそは、である。
腰に杖(に見えるただの棒)を挿したアレンの後を歩くルイズ。今日は少し機嫌が悪い。
昨晩、部屋に尋ねてきたコルベールと一緒にアレンの魔法について尋ねたのだが、毎度おなじみの
返答が帰ってきただけだったのだ。そう、即ち。
『よくわかりません。そーいうものなんです』
これである。結局分かったことといえば
・アレンの村サウスアークには「魔法屋」という施設があり、そこで魔法が「買える」
・買った魔法は勉強して覚えることができる。アレン曰く「読めば使えます」
・本人の性格によって使える魔法が変わる。「やさしい」と「はげしい」の二種類。
・アレンは「やさしい」魔法が使える。その種類と能力は以下の通り。
ひとりかいふく:傷を癒す魔法。対象一人を癒す。
ぜんいんかいふく:最大三名を一度に癒す魔法。
ひとりなおす:対象一名の健康状態を回復させる。毒も一発。
すいみん:最大三名を眠らせる魔法。ギーシュに使ったやつ。強い魔物には効果が無いらしい。
つよくなれ:対象一名の攻撃力を挙げる魔法。
せいなる光:攻撃魔法。邪悪な相手に使うとダメージが上がるらしい。
はねかえせ:魔法を跳ね返す(!)障壁を張る魔法。
リターン:ダンジョン専用魔法。入り口に戻る。消費MP(精神力)0
ワープ:こちらもダンジョン専用魔法。望んだ階層の昇り階段に移動する。やはり消費MP0
聞き終わった後、ルイズはもう突っ込みを入れる気力が無かった。でもブツブツと座った目で
呟き続けた。本当それって何系統? 回復や睡眠はまだいいとしても、まずせいなる光って何?
邪悪って何が基準なの? つよくなれって、どんなネーミングセンスよ。はねかえせって
メイジに対しては無敵じゃない。何よりワープとリターンの消費精神力0って何なのよー!
最後は叫んだ。アレンの答えは省略。コルベールは必死になって原理を聞き出そうとしたが、
アレン自身よく分かっていなかったために無駄骨に終わった。しかしながら、ワープとリターンの
呪文を聞いて、
『やはり先住魔法とは別であることは間違いなさそうですな。彼らの魔法は自然的であり、
このような便利な技術ではありませんから』
という結論に達した。これでアレンの先祖エルフ疑惑が晴れたのだが、依然としてこの奇怪な魔法が
なんであるかという疑問は残った。アレン君の故郷に赴いて調査しない限り答えは出そうに無い、と
コルベールがいい出したところでこの話はお終いとなった。
なお、アレンには誤解を招かないように「杖を持って魔法を使うこと」と盗賊に狙われぬよう
「人前でみだりにシャベルを使わぬこと」の二つが言い渡された。
そんなわけでアレンが杖に見せかけた棒を持つことになったのだが……ルイズとしては心中複雑
極まりない。その理由は三つ。
まず、使い魔が魔法使えて自分が使えないってのが第一。
今までアレンが魔法について黙っていたのが第二。
周りの生徒がゼロのあだ名をさらに面白おかしく言い始めたのが第三、である。
第一も第三も、自分が魔法を使えるようになれば全て解決する問題であり、その誓いも立てた。
アレンに当たるのは筋違いであるというのは分かっている。第二についてもダンジョンに意識が
行っていて、決闘騒ぎまで詳しくアレンのできることについて聞かなかった自分にも非がある、と
理解しているルイズである。
通常であれば八つ当たりの一つもかますのがルイズであるが、アレンに対してはそれができない。
アレンは有能である。戦え、魔法が使え、ダンジョンが作れる。
アレンは礼儀正しいよい子である。魔法が使えるのに自分をバカにしない。
何より、自分より小さい子に当たるなどということは、ルイズの中にある「貴族」が許さない。
そんなの、この間のギーシュと同じではないか。
しかしながら、頭が納得していても、心はそうはいかない。不満の捌け口が無いのが不満、と
いったところである。
こーいうのは気持ちの切り替えが重要なのよ、と心の中で呟くルイズ。
「着きましたよー」
アレンの声で我にかえる。そこは、学園内でも初めて足を運ぶ、使用人たちの宿舎の裏だった。
目の前では、使用人たちがいろいろなものを集めていた。馬や使い魔に使うエサ桶がいくつか。
古びたベットが二つ。これまた古いごみ箱、さらに鉄製のチェスト(宝箱)が一つ。
「あによこれ」
「ダンジョンに使う家具なんだそうですよ」
答えたのはエサ桶をもう一つ運んできたシエスタである。
「ダンジョンって……なんでメイドが知ってんのよ!」
「夕べご飯の時に聞かれたので答えました」
はい、と手を上げてアレンが返答。
「あ、ああああアレン! ダンジョンのコトは内緒って言っておいたでしょ!」
「……そうでしたっけ?」
「そーよ! いった! いったの!」
残念、いってません。第一「階」でコルベールにごまかした時、思っていただけです。
「ご安心くださいミス・ヴァリエール。アレン君のことは決して外に漏らしたりいたしませんから」
「そのとーりですぜ! 我らがシャベルの迷惑になることは、ぜってぇしません!
なあ、お前ら!」
「「「はい、親方!」」」
シエスタに追随したマルトー、さらに周りにいた使用人たちが声を揃えて同意する。
本当なんでしょうね、とかなり疑うルイズである。
「っていうか、なのよその我らがシャベルって」
「それはですね……」
シエスタが夕食時に起きたことを説明する。
アレンが夕食をもらいに厨房を訪れると、使用人たちが複雑な表情で迎えた。無理も無い。
今まで平民の子供だと思っていたアレンが魔法を使ったのだ。日ごろ貴族に虐げられる
彼らにとって、支配者と同じメイジであるアレンを今までどおりで迎えることはできない。
が、しかし、それでも笑顔で迎えたものがいた。
我らがマルトー親方である。彼はアレンと貴族たちの違いを力説した。
アレンは威張り散らさない。アレンは平民であるシエスタを庇って決闘した。
そしてなにより、と強調してマルトーは語った。アレだけの魔法が使えるのに、
貴族の小僧(ギーシュ)に怪我をさせることなく勝った。そんなアレンを貴族と同じと
考えるのは間違いだ、と。
なるほど、と納得した使用人たちは態度を改めた、というわけである。
その後、シャベルについて尋ねられ、流れからダンジョンについても語ってしまったという
訳である。我らがシャベルのあだ名はその時に付いたもの。魔法のシャベルについて
語るときは「我らのシャベルのシャベル」となる。
ちなみに、時間の流れはギーシュとの決闘→夕食時の騒ぎ→部屋にコルベール来訪、である。
「あーもう、秘密だだもれ……」
「でも、おかげで家具が集まりました」
頭を抱えるルイズの隣で、家具の状態を確かめるアレン。
「そんなぼろっちいので大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。多少壊れてても魔物が直しますし」
「……直すんだ」
「使うのは魔物ですからね」
ルイズは空を見上げた。晴れている。突っ込む気力はここ三日で失われた。目線を戻せば、
いつもの表情のアレンがいる。
「……そーいうものなのね?」
「そーいうものなのです」
ルイズは気持ちを切り替えることにした。そうでなくてはこの使い魔の主はやってられない。
「じゃ、早速ダンジョンへ……って、この量、とても二人じゃもっていけないわよ?」
「荷馬車でも仕立てますか?」
「あ、大丈夫です」
アレンは魔法のシャベルを家具へと向ける。
「仕事だよ」
「おう! おう相棒! 家具だな! いいな!」
おお、しゃべったよ、と周りの使用人たちが騒ぐ。
「……?」
ルイズは後ろを振り向く。いま、後からも驚く声が聞こえなかったか?
「じゃ、いつもみたいに」
「おう! ばっち任せろ相棒!」
ルイズが視線を戻すと家具の置かれた地面に、あの六芒星の光が浮かび上がった。
それの輝きが消えると、家具もまた目の前から消失していた。
「き、きえたぁぁぁ!?」
ルイズも使用人たちも、目の前の光景に驚く。が、この声は彼らから離れたところから
発せられた。
ルイズは再び振り向いた。そこには、目を見開いた金髪の少年が一人。
「ああ、あんた! ギーシュじゃない!」
「あ……や、やあ」
なんともバツの悪そうな表情で、ギーシュは手を上げた。
「……見たわね?」
「わ、わざとじゃないんだ! そこの使い魔君に話があって、教室から追いかけていたんだ!
そーしたら、その、なんというか……」
「……見たのね?」
「ごめん」
潔く頭を下げるギーシュにルイズは深く頷いた。
「アレン、ギーシュの記憶が飛ぶように思いっきりぶん殴りなさい」
「勘弁してくれ!? グラモン家の名に懸けてこのことは秘密にするから! このとおり!」
「……破ったら本当に殴らせるからね?」
家の名を出した以上、一応信じることにするルイズだった。これで破ったら家名に泥を塗る
ことになる。貴族にとって名誉は重要だ。さすがのギーシュもそこまで愚かではないだろう。
許しの言葉が出て胸を撫で下ろすギーシュとアレン。
「……アレン君? なんでキミまで安心してるの?」
シエスタの問いに、アレンは真顔で答える。
「だって、僕が思いっきり殴ったら、記憶じゃなくて頭が飛びます」
アレン以外の動きが一瞬止まる。
「あ、あは、あっはっはっはっはっはっは」
アレン以外が、全く笑ってない笑い声を上げる。笑え、流せ、笑えないけど笑って流せ。
「って、ちょっと待ってくれ使い魔君! 何かい、君はそんな殺人ブローを決闘の時
僕にぶちかまそうとしててたのかい!?」
が、流せない男が一人。決闘で殴り合い寸前まで言ったギーシュである。
アレンは頷く。
「大丈夫です。ボディ狙いなら治せますから」
「怖! それ殴ったら壊れるって確定で言ってるよね!?」
「がんばれば、お腹壊さずにいけると思います」
「がんばらないと内臓破裂なのかい!? どんなパンチだいそれはっ!」
「うるさーーーい!」
二人のやり取りに、ルイズがキれる。
「そんな事はどうでもいいの!」
「いやルイズ、僕としては先日、気付かずに命を拾っていたという事態を捨て置けないんだが……」
「いいの! で、あんた何の用なのよ」
「そ、そうだった。衝撃の事実で目的を忘れていたよ」
咳払いをして居住まいを正すと、ギーシュはアレンへ頭を下げた。
「先日は、すまなかった。心からお詫びしたい」
「皆さんに謝ってもらえましたか?」
「もちろんだよ。モンモラシーにもケティにも、そこにいるメイド……シエスタにも」
視界の隅でシエスタが頷くのを確認して、アレンもまた顎を引いた。
「じゃあ、それで十分です」
「いいやッ、それじゃ僕の気がすまないッ!」
胸に手を当ててギーシュ演説開始。反省はしたものの、かっこつけは止められないようだ。
「キミは僕の目を覚まさせてくれた恩人! お礼をしなければこのギーシュ・ド・グラモンの
気がすまない!」
「……どうしましょう?」
珍しく困った顔をしてアレンは主を見る。
「……好きにさせなさい。どーせ昨日の決闘騒ぎで評判下がりまくって、誰も相手してくれないから
私たちのところに来たって感じだろうし」
「うぐっ!? ル、ルイズ……何故それを」
「同じ教室で授業受けてればイヤでも分かるわよ」
それでなくても嘲笑侮蔑には敏感なルイズである。教室がどんな空気かなど分かって当然。
望んで得たスキルではないが。
「じゃ、みんなでダンジョン行きましょう」
「そーね。……しっかり役に立ちなさいよ、ギーシュ」
「任せてくれたまえ! ……で、ダンジョンってなんだい?」
/2/
三人は、ダンジョンのある裏山まで歩いてきた。道すがら、ギーシュに簡単な説明を終わらせる。
「ふうむ。お金にくわえて珍しい品々まで集められるなんて……いや、アレンは凄いんだね」
「そーですか?」
「僕のヴェルダンデは鉱石や宝石を集めてくれるけど、直接お金は稼げないからね」
「それってアンタの使い魔?」
ギーシュは誇らしげに頷く。
「その通り。僕の美しくいとおしいヴェルダンデさ。紹介しよう」
気取って指を鳴らすギーシュ。足元の地面が突如盛り上がり、豚よりも大きなモグラが
顔を出した。
「ジャイアントモール……なるほどね」
「どうだい、可愛いだろう!」
「よくわかりません」
「あ、アレン……」
がっくりとうな垂れるギーシュである。
「分かってもらえないのは悲しいが、しかしヴェルダンデは凄いんだよ? 宝石を嗅ぎ分ける鼻に
加えて、馬と同じ速度で地中を移動可能!」
「おお」
それには驚くアレン。ギーシュの気分復活。
「ヴェルダンデならきっとアレンのダンジョン製作にも役立つさ」
「あ、それは結構です」
「そんなっ!?」
再び落ち込むギーシュ。シーソーのように気分が上下する。
「普通に掘るわけじゃないんです」
「そういえば……魔法のシャベルを使うんだったね」
「はい。例えばですけど、広い範囲を無計画に掘ったら、どうなります?」
唐突の質問に意図を計りかねつつも、ギーシュは思案する。
「それは……まあ。支えの土を失うわけだから、天上が落ちてくるんじゃないかな?
範囲とか補強にもよると思うけど」
「僕もそう思います。でも、こいつで掘ると、どんなに広く、深く掘っても平気なんです」
「そう! そのとーり!」
アレンとシャベルの言葉に、感嘆のため息をつくメイジ二人。
「ますますもって凄いマジックアイテムだね、そのシャベルは」
「へへん!」
ほめられて、うれしそうな声を上げるシャベル。
「ねえアレン? 前はどれくらい深く掘ったの?」
「地下二十階です」
「にじゅっかい!?」
脅威の数が飛び出した。この世界、メイジの魔法で城やら砦は作られ強化される。人手で作るより
遥かに楽ではあるが限界は存在する。地階を作る労力は人手で行うよりマシであるものの、
二十階ともなればスクエアメイジをどれほど投入しても足りそうに無い。
「着きました。先に下りますね」
斜面に空けられた入り口に入ると、即座にはしごを降りていく。初めの日と同じイベントを
回避するためである。
降りていくアレンを見ながら、ギーシュは呆然と呟く。
「ルイズ。キミは本当にとんでもない使い魔を呼び出したんだね……」
「……私もこの三日間、驚きっぱなしなんだけどね」
規格外の使い魔に、笑うしかない二人であった。揃ってダンジョンへと入る。
ルイズに続いて地下に降りたギーシュは、その場をぐるりと見渡した。
等間隔に壁に据え付けられた蝋燭の明かりのおかげで、地下だというのに
昼間のように明るい。
「これがダンジョン……もっと息苦しくて汚い場所を想像していたけど、いや、
いい意味で裏切られた」
杖を取り出してディテクトマジックを唱える。
「……なるほど、壁だけじゃない。空間全体から魔力を感じる。『固定化』……うん、
そのものじゃないけど、同じような力がかかってるね」
その言葉に、おー、と感心するのがアレン。疑わしげに眉をひそめるのがルイズだ。
「……なにかいいたそうだねルイズ」
ええ、と頷いて真顔で質問する。
「あんた本当にギーシュ?」
「……失礼なことを言うねキミは」
「でもなんていうか……キャラじゃないわよ、そういうの?」
「本当に失礼なことを言うね! 僕は土のドットメイジだ! 土の中の事だよ?
興味もあれば調べもするさ!」
「……そういうことにしておいてあげるわ」
「うっわ、何かねその百歩譲ったみたいな発言はっ。悔しかったらキミもやってみたらどうだい!」
「で、できるならとうにやってるわよ!」
「だっろーね! なんたってキミはゼロの……」
「ギーシュさん」
氷点下まで下がっていそうなアレンの声が、ダンジョンに響いた。二人の口論は即座に停止。
油を差していない扉のように、鈍い動きでアレンに振り向く。
案の定、両眉が少しだけ釣り上がっていた。
「すまない、謝罪する失言だったッ!」
「ぼくではなくて」
「ルイズ! すまないッ!」
「い、いいわよ。許す、許してあげるわ!」
一も二もなく謝るギーシュ、許すルイズ。アレンの怒りというものをハルケギニアで一番知っているのが
ギーシュである。ルイズとしても、この場で自分の使い魔がギーシュを撲殺、否、爆殺するところは
見たくない。
「ご主人様も」
「ちょっ! わ、私も!?」
怒りの矛先がルイズに向いた。ギーシュと違い、爆殺されることはないだろうが、怖いものは怖い。
「ギーシュさん、別におかしくなかったのに、変な因縁を……」
「そうね! その通りだわ! ギーシュ、謝罪の言葉を受け取ってほしいのだけど!」
「もちろんだよルイズ! このギーシュ・ド・グラモンは寛大の精神でできているッ!」
両者ともに、引きつった笑顔でシェイクハンド。それを見たアレンの眉が、通常位置に移動した。
「じゃ、いきましょうか」
背を向けて歩き出すアレン。二人は額に浮かんだイヤな汗を拭った。
「お二人とも、無闇に移動しないでくださいね」
定期的に立ち止まりつつ、アレンは周りを見回す。
「どうかしたの、アレン?」
「いえ、魔物を探しているだけです」
はた、とルイズは思い出す。そういえば、ダンジョンを作ったあとアレンがいっていた。
翌日になったら魔物が入っている、と。
「ま、ままま魔物かい!? よ、よろしい! 僕のワルキューレにまかせたまえ!」
「思いっきり震えてるわよギーシュ」
「あ、ゴーレムだめです」
「そんな!?」
アレンはダンジョンの内部を指差して説明する。
「ダンジョン、そんなに広くないです。一つの部屋でまとまって戦うとなると、大人数じゃ
無理なんです」
二人はなるほど、と頷く。
「なので、1チーム3人まで。ゴーレムが入っちゃうと定員オーバーです」
「……しかし、魔物が三体以上一度に襲ってきたら大変だね」
「それ、大丈夫です。魔物は縄張り意識があるので、必ず一部屋に一匹しかいません。
同じ理由で、隣の部屋に人の気配があると襲い掛かってくるので、敵の数は最大必ず3体まで
なんです。あ、魔物とぼくらの間に壁があった場合はきません。気付いていないのか
壁があるからこれないのかは知りませんけど」
珍しく、理由つきの説明である。
「で、は……魔物への準備は、どうしようか?」
「武器を作ってくださると助かります」
「任せたまえ。錬金!」
ギーシュが造花の杖を振るう。花びらが落ちた地面から、青銅の剣が生えてきた。
アレンはそれを掴んで一回、二回と振ってみる。少し首をかしげる。
「む? なにかまずかったかね?」
「いえ、大丈夫です。ご主人様たちは槍とかのほうがいいですね」
「え~!? 私たちも武器を持つの?」
「はい」
貴族のとしてそれってどうなのかしら、とブツブツ呟きつつ、ギーシュの作った
短槍を掴むルイズ。長すぎると壁に当たって取り回しが悪くなるのではないか、
という配慮であった。
「じゃ、戦いますね。二つ先に魔物いますから、次の部屋に入ると襲ってきます」
何でもない事のようにいうアレン。
「うぇ!? い、いるのかね、魔物がっ!」
「そういうことは早く言いなさいよ!」
「すみません。あと、次の魔物はお二人で倒してください」
「「えええ~~~~~!」」
悲鳴と非難の声を片手で制して話を続ける。
「一階に出る魔物は弱いです。一匹どころか三匹でも一人で倒せます。なので、
お二人に戦いを学んでもらういい機会なんです」
「な、なるほど……本当に弱いんだね?」
「弱いです。もし強そうなのだったらぼくが倒します」
ルイズはむう、と考える。まさかいきなり実戦とは。正直怖い。何で自分が、という気持ちも
当然浮かぶ。が、ここで引いていては先には進めない。こちとらハルケギニア一のメイジという
大きな大きな目標がある。覚悟を決めるしかない。
「わ、わかったわ。やる、やるわよ!」
「ぼ、僕もやるぞ! やるとも! なあに、アレンと戦うのに比べれば、たかが魔物の
一匹や二匹!」
空元気も元気の内、のような二人に頷いて、アレンは先に進む。
短槍を握り締めてアレンに続く二人。少し歩いてみるとアレンのいうとおり、
前方にいた何かが、こちら目掛けて接近してきた。
「……鳥?」
「カラスコウモリです」
ルイズの呟きにアレンが答える。全体的にはカラスであるが、羽に小さな鍵爪がついている。
なるほど、たしかにカラスでコウモリだ。が。
「あ、ああああんなの初めて見るわ!」
「僕もだ! 少なくともトリステインにゃあんなのいない!」
「襲ってきますよー」
アレンの声と共に、カラスコウモリがギーシュに飛び掛る。硬いクチバシが、ギーシュの
肩を突っついた。
「いった! 痛いなっ!」
棒で突かれたような痛みだが、たいしたことはない。ギーシュは怒り任せに反撃、持っていた
短槍をカラスコウモリに向けて突き出した。右羽の真ん中に命中。
「よっし!」
「まだですよ。ご主人様、攻撃を」
「え、え~い!」
ルイズは勢いよく槍を突き出す。……目をつぶって。当たるはずもなく、穴の開いた羽を
バタつかせてカラスコウモリは健在。
「ルイズっ! なにやってんだい!」
「だ、だってッ!」
「攻撃きますよー」
やりやすし、と見たのか今度はルイズを突っつくカラスコウモリ。頭をしたたかに
小突かれる。
「痛いっ! こ、ここここの、カラスだかコウモリだかわかんない分際で、この私にッ!」
杖を取り出し、ファイアーボールを唱えるルイズ。見当違いの場所が爆発する。
「わー! こっちくんな、こっちくんな!」
ギーシュはギーシュで槍を振り回してカラスコウモリを追い払っている。
生まれてこの方、全く危険と無縁だった貴族の子供二人である。いきなりの実戦で
パニックに陥っても無理はなかった。
そんな二人のマントを、小さな手が引っ張る。
「ご主人様、ギーシュさん」
二人の視線がアレンに集まる。いつもの如く、落ち着いた表情だ。そんなアレンをカラスコウモリが
突っつく。が、眉一つ動かさない。
「大丈夫です。お二人なら簡単に倒せます」
魔力など欠片も篭っていなかったが、その言葉は二人に落ち着きを取り戻させた。
「よし、もう一度っ」
ギーシュが槍をしっかり握って突き出す。かろうじて攻撃を避けるカラスコウモリだったが、
そこに二本目の槍が。ルイズである。今度は目をしっかり開いている。
「こんの~!」
さくり、と穂先が胴体に入る。途端、カラスコウモリが小さく爆発した。
「ふえ!?」
魔物は跡形もなく消え去り、小さな金属がいくつも地面に落ちる。
「ル、ルイズ、魔法を使ったのかい!?」
「つ、使ってない! 今のは使ってないわ!」
「魔物って動かなくなると爆発して消えますよ」
床にしゃがみながらアレンが答える。
「どんな生き物だいそれ!?」
「魔物ですから」
「いいのかいそれで!? おかしいじゃないかッ!」
「ギーシュ」
騒ぐギーシュの肩に手が置かれる。ルイズだ。その目には諦め、口元には薄ら笑い。
「そーいうものなのよ」
「そーいうものって、ルイズ! 明らかにおかしいだろ!?」
「ええ、そうね。でもそーいうものなんだからしょーがないの」
ルイズは無性に空が見たくなった。しかし、ここはダンジョン。天井が見えるだけだった。
「アレンと一緒にいるとね、こういう話ばかりなの。いちいち突っ込んでると体が持たないし、
アレン自身全然気にしてないから答えも分からないし。だからもう、そーいうものとして
流すしかないの」
「……ルイズ、心から同情するよ」
「あんたもアレンとかかわる以上、そのうちこーなるわよ」
うわ、とギーシュは嫌そうな顔をする。同じ境遇の人間を一人作り出したことに暗い愉悦に
浸るルイズ。
「ご主人様、これ見てください」
「んー? あら、銅貨ね」
「にーしーろく……20ドニエか。これ、どうしたいんだい?」
アレンの手に乗った銅貨を数えギーシュは質問する。
「魔物が持ってたんですけど……ぼくの所のお金とちがったので」
「そうなの。って、魔物が落とすお金ってこれだけなの……」
「はっは、まあ、ドットも五人集まればスクエアに勝るともいう。数倒せば大きなお金に
なるさ、ルイズ」
ギーシュの言葉にアレンも頷く。大金を想像していただけにルイズは少々凹み気味だ。
「じゃ、多分もう一匹いるとおもうので探しましょう」
「おお、次はもっとスマートに勝って見せるさ!」
元気よく答えるギーシュを見て、気持ちを切り替えるルイズ。そう、気持ちの切り替え。
じゃないとこの使い魔の主はやってられない。
「よし! 次も私が倒して見せるわッ!」
この後、もう一匹カラスコウモリと遭遇。今度は混乱することなく倒すことに成功した。
第5「階」に続く
NGシーン
「あんた本当にギーシュ?」
「失礼なことを言うねキミは!」
「実は渋谷有利とかいわない?」
「声優ネタは分かりづらいから止めようよ三千院ナギ!」
「誰がヒキコモリよー!」
#navi(ゼロと迷宮職人)
ゼロと迷宮職人 第四「階」 みんなでダンジョン行きましょう
/1/
決闘騒ぎの翌日。授業が終わったルイズは、アレンに先導され学院の敷地内を歩いていた。
昨日はあの騒ぎのおかげでダンジョンに行けなかったのだが、今日こそは、である。
腰に杖(に見えるただの棒)を挿したアレンの後を歩くルイズ。今日は少し機嫌が悪い。
昨晩、部屋に尋ねてきたコルベールと一緒にアレンの魔法について尋ねたのだが、毎度おなじみの
返答が帰ってきただけだったのだ。そう、即ち。
『よくわかりません。そーいうものなんです』
これである。結局分かったことといえば
・アレンの村サウスアークには「魔法屋」という施設があり、そこで魔法が「買える」
・買った魔法は勉強して覚えることができる。アレン曰く「読めば使えます」
・本人の性格によって使える魔法が変わる。「やさしい」と「はげしい」の二種類。
・アレンは「やさしい」魔法が使える。その種類と能力は以下の通り。
ひとりかいふく:傷を癒す魔法。対象一人を癒す。
ぜんいんかいふく:最大三名を一度に癒す魔法。
ひとりなおす:対象一名の健康状態を回復させる。毒も一発。
すいみん:最大三名を眠らせる魔法。ギーシュに使ったやつ。強い魔物には効果が無いらしい。
つよくなれ:対象一名の攻撃力を挙げる魔法。
せいなる光:攻撃魔法。邪悪な相手に使うとダメージが上がるらしい。
はねかえせ:魔法を跳ね返す(!)障壁を張る魔法。
リターン:ダンジョン専用魔法。入り口に戻る。消費MP(精神力)0
ワープ:こちらもダンジョン専用魔法。望んだ階層の昇り階段に移動する。やはり消費MP0
聞き終わった後、ルイズはもう突っ込みを入れる気力が無かった。でもブツブツと座った目で
呟き続けた。本当それって何系統? 回復や睡眠はまだいいとしても、まずせいなる光って何?
邪悪って何が基準なの? つよくなれって、どんなネーミングセンスよ。はねかえせって
メイジに対しては無敵じゃない。何よりワープとリターンの消費精神力0って何なのよー!
最後は叫んだ。アレンの答えは省略。コルベールは必死になって原理を聞き出そうとしたが、
アレン自身よく分かっていなかったために無駄骨に終わった。しかしながら、ワープとリターンの
呪文を聞いて、
『やはり先住魔法とは別であることは間違いなさそうですな。彼らの魔法は自然的であり、
このような便利な技術ではありませんから』
という結論に達した。これでアレンの先祖エルフ疑惑が晴れたのだが、依然としてこの奇怪な魔法が
なんであるかという疑問は残った。アレン君の故郷に赴いて調査しない限り答えは出そうに無い、と
コルベールがいい出したところでこの話はお終いとなった。
なお、アレンには誤解を招かないように「杖を持って魔法を使うこと」と盗賊に狙われぬよう
「人前でみだりにシャベルを使わぬこと」の二つが言い渡された。
そんなわけでアレンが杖に見せかけた棒を持つことになったのだが……ルイズとしては心中複雑
極まりない。その理由は三つ。
まず、使い魔が魔法使えて自分が使えないってのが第一。
今までアレンが魔法について黙っていたのが第二。
周りの生徒がゼロのあだ名をさらに面白おかしく言い始めたのが第三、である。
第一も第三も、自分が魔法を使えるようになれば全て解決する問題であり、その誓いも立てた。
アレンに当たるのは筋違いであるというのは分かっている。第二についてもダンジョンに意識が
行っていて、決闘騒ぎまで詳しくアレンのできることについて聞かなかった自分にも非がある、と
理解しているルイズである。
通常であれば八つ当たりの一つもかますのがルイズであるが、アレンに対してはそれができない。
アレンは有能である。戦え、魔法が使え、ダンジョンが作れる。
アレンは礼儀正しいよい子である。魔法が使えるのに自分をバカにしない。
何より、自分より小さい子に当たるなどということは、ルイズの中にある「貴族」が許さない。
そんなの、この間のギーシュと同じではないか。
しかしながら、頭が納得していても、心はそうはいかない。不満の捌け口が無いのが不満、と
いったところである。
こーいうのは気持ちの切り替えが重要なのよ、と心の中で呟くルイズ。
「着きましたよー」
アレンの声で我にかえる。そこは、学園内でも初めて足を運ぶ、使用人たちの宿舎の裏だった。
目の前では、使用人たちがいろいろなものを集めていた。馬や使い魔に使うエサ桶がいくつか。
古びたベットが二つ。これまた古いごみ箱、さらに鉄製のチェスト(宝箱)が一つ。
「あによこれ」
「ダンジョンに使う家具なんだそうですよ」
答えたのはエサ桶をもう一つ運んできたシエスタである。
「ダンジョンって……なんでメイドが知ってんのよ!」
「夕べご飯の時に聞かれたので答えました」
はい、と手を上げてアレンが返答。
「あ、ああああアレン! ダンジョンのコトは内緒って言っておいたでしょ!」
「……そうでしたっけ?」
「そーよ! いった! いったの!」
残念、いってません。第一「階」でコルベールにごまかした時、思っていただけです。
「ご安心くださいミス・ヴァリエール。アレン君のことは決して外に漏らしたりいたしませんから」
「そのとーりですぜ! 我らがシャベルの迷惑になることは、ぜってぇしません!
なあ、お前ら!」
「「「はい、親方!」」」
シエスタに追随したマルトー、さらに周りにいた使用人たちが声を揃えて同意する。
本当なんでしょうね、とかなり疑うルイズである。
「っていうか、なのよその我らがシャベルって」
「それはですね……」
シエスタが夕食時に起きたことを説明する。
アレンが夕食をもらいに厨房を訪れると、使用人たちが複雑な表情で迎えた。無理も無い。
今まで平民の子供だと思っていたアレンが魔法を使ったのだ。日ごろ貴族に虐げられる
彼らにとって、支配者と同じメイジであるアレンを今までどおりで迎えることはできない。
が、しかし、それでも笑顔で迎えたものがいた。
我らがマルトー親方である。彼はアレンと貴族たちの違いを力説した。
アレンは威張り散らさない。アレンは平民であるシエスタを庇って決闘した。
そしてなにより、と強調してマルトーは語った。アレだけの魔法が使えるのに、
貴族の小僧(ギーシュ)に怪我をさせることなく勝った。そんなアレンを貴族と同じと
考えるのは間違いだ、と。
なるほど、と納得した使用人たちは態度を改めた、というわけである。
その後、シャベルについて尋ねられ、流れからダンジョンについても語ってしまったという
訳である。我らがシャベルのあだ名はその時に付いたもの。魔法のシャベルについて
語るときは「我らのシャベルのシャベル」となる。
ちなみに、時間の流れはギーシュとの決闘→夕食時の騒ぎ→部屋にコルベール来訪、である。
「あーもう、秘密だだもれ……」
「でも、おかげで家具が集まりました」
頭を抱えるルイズの隣で、家具の状態を確かめるアレン。
「そんなぼろっちいので大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。多少壊れてても魔物が直しますし」
「……直すんだ」
「使うのは魔物ですからね」
ルイズは空を見上げた。晴れている。突っ込む気力はここ三日で失われた。目線を戻せば、
いつもの表情のアレンがいる。
「……そーいうものなのね?」
「そーいうものなのです」
ルイズは気持ちを切り替えることにした。そうでなくてはこの使い魔の主はやってられない。
「じゃ、早速ダンジョンへ……って、この量、とても二人じゃもっていけないわよ?」
「荷馬車でも仕立てますか?」
「あ、大丈夫です」
アレンは魔法のシャベルを家具へと向ける。
「仕事だよ」
「おう! おう相棒! 家具だな! いいな!」
おお、しゃべったよ、と周りの使用人たちが騒ぐ。
「……?」
ルイズは後ろを振り向く。いま、後からも驚く声が聞こえなかったか?
「じゃ、いつもみたいに」
「おう! ばっち任せろ相棒!」
ルイズが視線を戻すと家具の置かれた地面に、あの六芒星の光が浮かび上がった。
それの輝きが消えると、家具もまた目の前から消失していた。
「き、きえたぁぁぁ!?」
ルイズも使用人たちも、目の前の光景に驚く。が、この声は彼らから離れたところから
発せられた。
ルイズは再び振り向いた。そこには、目を見開いた金髪の少年が一人。
「ああ、あんた! ギーシュじゃない!」
「あ……や、やあ」
なんともバツの悪そうな表情で、ギーシュは手を上げた。
「……見たわね?」
「わ、わざとじゃないんだ! そこの使い魔君に話があって、教室から追いかけていたんだ!
そーしたら、その、なんというか……」
「……見たのね?」
「ごめん」
潔く頭を下げるギーシュにルイズは深く頷いた。
「アレン、ギーシュの記憶が飛ぶように思いっきりぶん殴りなさい」
「勘弁してくれ!? グラモン家の名に懸けてこのことは秘密にするから! このとおり!」
「……破ったら本当に殴らせるからね?」
家の名を出した以上、一応信じることにするルイズだった。これで破ったら家名に泥を塗る
ことになる。貴族にとって名誉は重要だ。さすがのギーシュもそこまで愚かではないだろう。
許しの言葉が出て胸を撫で下ろすギーシュとアレン。
「……アレン君? なんでキミまで安心してるの?」
シエスタの問いに、アレンは真顔で答える。
「だって、僕が思いっきり殴ったら、記憶じゃなくて頭が飛びます」
アレン以外の動きが一瞬止まる。
「あ、あは、あっはっはっはっはっはっは」
アレン以外が、全く笑ってない笑い声を上げる。笑え、流せ、笑えないけど笑って流せ。
「って、ちょっと待ってくれ使い魔君! 何かい、君はそんな殺人ブローを決闘の時
僕にぶちかまそうとしててたのかい!?」
が、流せない男が一人。決闘で殴り合い寸前まで言ったギーシュである。
アレンは頷く。
「大丈夫です。ボディ狙いなら治せますから」
「怖! それ殴ったら壊れるって確定で言ってるよね!?」
「がんばれば、お腹壊さずにいけると思います」
「がんばらないと内臓破裂なのかい!? どんなパンチだいそれはっ!」
「うるさーーーい!」
二人のやり取りに、ルイズがキれる。
「そんな事はどうでもいいの!」
「いやルイズ、僕としては先日、気付かずに命を拾っていたという事態を捨て置けないんだが……」
「いいの! で、あんた何の用なのよ」
「そ、そうだった。衝撃の事実で目的を忘れていたよ」
咳払いをして居住まいを正すと、ギーシュはアレンへ頭を下げた。
「先日は、すまなかった。心からお詫びしたい」
「皆さんに謝ってもらえましたか?」
「もちろんだよ。モンモラシーにもケティにも、そこにいるメイド……シエスタにも」
視界の隅でシエスタが頷くのを確認して、アレンもまた顎を引いた。
「じゃあ、それで十分です」
「いいやッ、それじゃ僕の気がすまないッ!」
胸に手を当ててギーシュ演説開始。反省はしたものの、かっこつけは止められないようだ。
「キミは僕の目を覚まさせてくれた恩人! お礼をしなければこのギーシュ・ド・グラモンの
気がすまない!」
「……どうしましょう?」
珍しく困った顔をしてアレンは主を見る。
「……好きにさせなさい。どーせ昨日の決闘騒ぎで評判下がりまくって、誰も相手してくれないから
私たちのところに来たって感じだろうし」
「うぐっ!? ル、ルイズ……何故それを」
「同じ教室で授業受けてればイヤでも分かるわよ」
それでなくても嘲笑侮蔑には敏感なルイズである。教室がどんな空気かなど分かって当然。
望んで得たスキルではないが。
「じゃ、みんなでダンジョン行きましょう」
「そーね。……しっかり役に立ちなさいよ、ギーシュ」
「任せてくれたまえ! ……で、ダンジョンってなんだい?」
/2/
三人は、ダンジョンのある裏山まで歩いてきた。道すがら、ギーシュに簡単な説明を終わらせる。
「ふうむ。お金にくわえて珍しい品々まで集められるなんて……いや、アレンは凄いんだね」
「そーですか?」
「僕のヴェルダンデは鉱石や宝石を集めてくれるけど、直接お金は稼げないからね」
「それってアンタの使い魔?」
ギーシュは誇らしげに頷く。
「その通り。僕の美しくいとおしいヴェルダンデさ。紹介しよう」
気取って指を鳴らすギーシュ。足元の地面が突如盛り上がり、豚よりも大きなモグラが
顔を出した。
「ジャイアントモール……なるほどね」
「どうだい、可愛いだろう!」
「よくわかりません」
「あ、アレン……」
がっくりとうな垂れるギーシュである。
「分かってもらえないのは悲しいが、しかしヴェルダンデは凄いんだよ? 宝石を嗅ぎ分ける鼻に
加えて、馬と同じ速度で地中を移動可能!」
「おお」
それには驚くアレン。ギーシュの気分復活。
「ヴェルダンデならきっとアレンのダンジョン製作にも役立つさ」
「あ、それは結構です」
「そんなっ!?」
再び落ち込むギーシュ。シーソーのように気分が上下する。
「普通に掘るわけじゃないんです」
「そういえば……魔法のシャベルを使うんだったね」
「はい。例えばですけど、広い範囲を無計画に掘ったら、どうなります?」
唐突の質問に意図を計りかねつつも、ギーシュは思案する。
「それは……まあ。支えの土を失うわけだから、天上が落ちてくるんじゃないかな?
範囲とか補強にもよると思うけど」
「僕もそう思います。でも、こいつで掘ると、どんなに広く、深く掘っても平気なんです」
「そう! そのとーり!」
アレンとシャベルの言葉に、感嘆のため息をつくメイジ二人。
「ますますもって凄いマジックアイテムだね、そのシャベルは」
「へへん!」
ほめられて、うれしそうな声を上げるシャベル。
「ねえアレン? 前はどれくらい深く掘ったの?」
「地下二十階です」
「にじゅっかい!?」
脅威の数が飛び出した。この世界、メイジの魔法で城やら砦は作られ強化される。人手で作るより
遥かに楽ではあるが限界は存在する。地階を作る労力は人手で行うよりマシであるものの、
二十階ともなればスクエアメイジをどれほど投入しても足りそうに無い。
「着きました。先に下りますね」
斜面に空けられた入り口に入ると、即座にはしごを降りていく。初めの日と同じイベントを
回避するためである。
降りていくアレンを見ながら、ギーシュは呆然と呟く。
「ルイズ。キミは本当にとんでもない使い魔を呼び出したんだね……」
「……私もこの三日間、驚きっぱなしなんだけどね」
規格外の使い魔に、笑うしかない二人であった。揃ってダンジョンへと入る。
ルイズに続いて地下に降りたギーシュは、その場をぐるりと見渡した。
等間隔に壁に据え付けられた蝋燭の明かりのおかげで、地下だというのに
昼間のように明るい。
「これがダンジョン……もっと息苦しくて汚い場所を想像していたけど、いや、
いい意味で裏切られた」
杖を取り出してディテクトマジックを唱える。
「……なるほど、壁だけじゃない。空間全体から魔力を感じる。『固定化』……うん、
そのものじゃないけど、同じような力がかかってるね」
その言葉に、おー、と感心するのがアレン。疑わしげに眉をひそめるのがルイズだ。
「……なにかいいたそうだねルイズ」
ええ、と頷いて真顔で質問する。
「あんた本当にギーシュ?」
「……失礼なことを言うねキミは」
「でもなんていうか……キャラじゃないわよ、そういうの?」
「本当に失礼なことを言うね! 僕は土のドットメイジだ! 土の中の事だよ?
興味もあれば調べもするさ!」
「……そういうことにしておいてあげるわ」
「うっわ、何かねその百歩譲ったみたいな発言はっ。悔しかったらキミもやってみたらどうだい!」
「で、できるならとうにやってるわよ!」
「だっろーね! なんたってキミはゼロの……」
「ギーシュさん」
氷点下まで下がっていそうなアレンの声が、ダンジョンに響いた。二人の口論は即座に停止。
油を差していない扉のように、鈍い動きでアレンに振り向く。
案の定、両眉が少しだけ釣り上がっていた。
「すまない、謝罪する失言だったッ!」
「ぼくではなくて」
「ルイズ! すまないッ!」
「い、いいわよ。許す、許してあげるわ!」
一も二もなく謝るギーシュ、許すルイズ。アレンの怒りというものをハルケギニアで一番知っているのが
ギーシュである。ルイズとしても、この場で自分の使い魔がギーシュを撲殺、否、爆殺するところは
見たくない。
「ご主人様も」
「ちょっ! わ、私も!?」
怒りの矛先がルイズに向いた。ギーシュと違い、爆殺されることはないだろうが、怖いものは怖い。
「ギーシュさん、別におかしくなかったのに、変な因縁を……」
「そうね! その通りだわ! ギーシュ、謝罪の言葉を受け取ってほしいのだけど!」
「もちろんだよルイズ! このギーシュ・ド・グラモンは寛大の精神でできているッ!」
両者ともに、引きつった笑顔でシェイクハンド。それを見たアレンの眉が、通常位置に移動した。
「じゃ、いきましょうか」
背を向けて歩き出すアレン。二人は額に浮かんだイヤな汗を拭った。
「お二人とも、無闇に移動しないでくださいね」
定期的に立ち止まりつつ、アレンは周りを見回す。
「どうかしたの、アレン?」
「いえ、魔物を探しているだけです」
はた、とルイズは思い出す。そういえば、ダンジョンを作ったあとアレンがいっていた。
翌日になったら魔物が入っている、と。
「ま、ままま魔物かい!? よ、よろしい! 僕のワルキューレにまかせたまえ!」
「思いっきり震えてるわよギーシュ」
「あ、ゴーレムだめです」
「そんな!?」
アレンはダンジョンの内部を指差して説明する。
「ダンジョン、そんなに広くないです。一つの部屋でまとまって戦うとなると、大人数じゃ
無理なんです」
二人はなるほど、と頷く。
「なので、1チーム3人まで。ゴーレムが入っちゃうと定員オーバーです」
「……しかし、魔物が三体以上一度に襲ってきたら大変だね」
「それ、大丈夫です。魔物は縄張り意識があるので、必ず一部屋に一匹しかいません。
同じ理由で、隣の部屋に人の気配があると襲い掛かってくるので、敵の数は最大必ず3体まで
なんです。あ、魔物とぼくらの間に壁があった場合はきません。気付いていないのか
壁があるからこれないのかは知りませんけど」
珍しく、理由つきの説明である。
「で、は……魔物への準備は、どうしようか?」
「武器を作ってくださると助かります」
「任せたまえ。錬金!」
ギーシュが造花の杖を振るう。花びらが落ちた地面から、青銅の剣が生えてきた。
アレンはそれを掴んで一回、二回と振ってみる。少し首をかしげる。
「む? なにかまずかったかね?」
「いえ、大丈夫です。ご主人様たちは槍とかのほうがいいですね」
「え~!? 私たちも武器を持つの?」
「はい」
貴族のとしてそれってどうなのかしら、とブツブツ呟きつつ、ギーシュの作った
短槍を掴むルイズ。長すぎると壁に当たって取り回しが悪くなるのではないか、
という配慮であった。
「じゃ、戦いますね。二つ先に魔物いますから、次の部屋に入ると襲ってきます」
何でもない事のようにいうアレン。
「うぇ!? い、いるのかね、魔物がっ!」
「そういうことは早く言いなさいよ!」
「すみません。あと、次の魔物はお二人で倒してください」
「「えええ~~~~~!」」
悲鳴と非難の声を片手で制して話を続ける。
「一階に出る魔物は弱いです。一匹どころか三匹でも一人で倒せます。なので、
お二人に戦いを学んでもらういい機会なんです」
「な、なるほど……本当に弱いんだね?」
「弱いです。もし強そうなのだったらぼくが倒します」
ルイズはむう、と考える。まさかいきなり実戦とは。正直怖い。何で自分が、という気持ちも
当然浮かぶ。が、ここで引いていては先には進めない。こちとらハルケギニア一のメイジという
大きな大きな目標がある。覚悟を決めるしかない。
「わ、わかったわ。やる、やるわよ!」
「ぼ、僕もやるぞ! やるとも! なあに、アレンと戦うのに比べれば、たかが魔物の
一匹や二匹!」
空元気も元気の内、のような二人に頷いて、アレンは先に進む。
短槍を握り締めてアレンに続く二人。少し歩いてみるとアレンのいうとおり、
前方にいた何かが、こちら目掛けて接近してきた。
「……鳥?」
「カラスコウモリです」
ルイズの呟きにアレンが答える。全体的にはカラスであるが、羽に小さな鍵爪がついている。
なるほど、たしかにカラスでコウモリだ。が。
「あ、ああああんなの初めて見るわ!」
「僕もだ! 少なくともトリステインにゃあんなのいない!」
「襲ってきますよー」
アレンの声と共に、カラスコウモリがギーシュに飛び掛る。硬いクチバシが、ギーシュの
肩を突っついた。
「いった! 痛いなっ!」
棒で突かれたような痛みだが、たいしたことはない。ギーシュは怒り任せに反撃、持っていた
短槍をカラスコウモリに向けて突き出した。右羽の真ん中に命中。
「よっし!」
「まだですよ。ご主人様、攻撃を」
「え、え~い!」
ルイズは勢いよく槍を突き出す。……目をつぶって。当たるはずもなく、穴の開いた羽を
バタつかせてカラスコウモリは健在。
「ルイズっ! なにやってんだい!」
「だ、だってッ!」
「攻撃きますよー」
やりやすし、と見たのか今度はルイズを突っつくカラスコウモリ。頭をしたたかに
小突かれる。
「痛いっ! こ、ここここの、カラスだかコウモリだかわかんない分際で、この私にッ!」
杖を取り出し、ファイアーボールを唱えるルイズ。見当違いの場所が爆発する。
「わー! こっちくんな、こっちくんな!」
ギーシュはギーシュで槍を振り回してカラスコウモリを追い払っている。
生まれてこの方、全く危険と無縁だった貴族の子供二人である。いきなりの実戦で
パニックに陥っても無理はなかった。
そんな二人のマントを、小さな手が引っ張る。
「ご主人様、ギーシュさん」
二人の視線がアレンに集まる。いつもの如く、落ち着いた表情だ。そんなアレンをカラスコウモリが
突っつく。が、眉一つ動かさない。
「大丈夫です。お二人なら簡単に倒せます」
魔力など欠片も篭っていなかったが、その言葉は二人に落ち着きを取り戻させた。
「よし、もう一度っ」
ギーシュが槍をしっかり握って突き出す。かろうじて攻撃を避けるカラスコウモリだったが、
そこに二本目の槍が。ルイズである。今度は目をしっかり開いている。
「こんの~!」
さくり、と穂先が胴体に入る。途端、カラスコウモリが小さく爆発した。
「ふえ!?」
魔物は跡形もなく消え去り、小さな金属がいくつも地面に落ちる。
「ル、ルイズ、魔法を使ったのかい!?」
「つ、使ってない! 今のは使ってないわ!」
「魔物って動かなくなると爆発して消えますよ」
床にしゃがみながらアレンが答える。
「どんな生き物だいそれ!?」
「魔物ですから」
「いいのかいそれで!? おかしいじゃないかッ!」
「ギーシュ」
騒ぐギーシュの肩に手が置かれる。ルイズだ。その目には諦め、口元には薄ら笑い。
「そーいうものなのよ」
「そーいうものって、ルイズ! 明らかにおかしいだろ!?」
「ええ、そうね。でもそーいうものなんだからしょーがないの」
ルイズは無性に空が見たくなった。しかし、ここはダンジョン。天井が見えるだけだった。
「アレンと一緒にいるとね、こういう話ばかりなの。いちいち突っ込んでると体が持たないし、
アレン自身全然気にしてないから答えも分からないし。だからもう、そーいうものとして
流すしかないの」
「……ルイズ、心から同情するよ」
「あんたもアレンとかかわる以上、そのうちこーなるわよ」
うわ、とギーシュは嫌そうな顔をする。同じ境遇の人間を一人作り出したことに暗い愉悦に
浸るルイズ。
「ご主人様、これ見てください」
「んー? あら、銅貨ね」
「にーしーろく……20ドニエか。これ、どうしたいんだい?」
アレンの手に乗った銅貨を数えギーシュは質問する。
「魔物が持ってたんですけど……ぼくの所のお金とちがったので」
「そうなの。って、魔物が落とすお金ってこれだけなの……」
「はっは、まあ、ドットも五人集まればスクエアに勝るともいう。数倒せば大きなお金に
なるさ、ルイズ」
ギーシュの言葉にアレンも頷く。大金を想像していただけにルイズは少々凹み気味だ。
「じゃ、多分もう一匹いるとおもうので探しましょう」
「おお、次はもっとスマートに勝って見せるさ!」
元気よく答えるギーシュを見て、気持ちを切り替えるルイズ。そう、気持ちの切り替え。
じゃないとこの使い魔の主はやってられない。
「よし! 次も私が倒して見せるわッ!」
この後、もう一匹カラスコウモリと遭遇。今度は混乱することなく倒すことに成功した。
第5「階」に続く
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「あんた本当にギーシュ?」
「失礼なことを言うねキミは!」
「実は渋谷有利とかいわない?」
「声優ネタは分かりづらいから止めようよ三千院ナギ!」
「誰がヒキコモリよー!」
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