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「アカイロマジカル-04」(2007/12/13 (木) 18:08:41) の最新版変更点
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第四幕
零の涙事
0
願えばきっと、夢は叶うよ。
本当にそう思うか?
1
ルイズは、体に風が当たるのを感じた。
寒い。でも、あれ? 私は窓でも閉め忘れたのだろうか。
いや。それにしたって寒すぎる。まるで冬の風の様だ。しかし、今は春のはず。
ルイズは目を開く。そこには、一面の星空。黒い雲。そして、赤い背中。
――――あぁ、夢じゃなかったのね。
つまり、自分が召喚したとんでもない平民《哀川潤》だと、気付く。
この、悪魔の様な平民の行動力は恐ろしく。召喚してからすぐに学園を歩き回り、多種多様な被害をルイズや他の生徒に与えた事を思い出す。
そして、疑問が口をついて出た。
「って、ここどこ?」
潤は振り返り。満面の笑顔で言う。
「お。起きたか。おはよー」
「ああ、おはよ。……で、ここどこ?」
ルイズは極めて冷静に努める。目の前の人間を刺激してはいけないから。
「んー。空、もしくは竜の背中かな。具体的な場所は……どこだっけ?」潤は竜の前に座る少女、タバサに問う。
「ガリア」タバサは手元の本から目を離さず言った。心なしか声に元気がない。
「だそうだ」
「ななな、何でそんな所にいるのよ!!」
ルイズの冷静は粉々に瓦解した。
「面白そうだし、暇だったからな」悪びれもせず言う。
「……振り落とせなかったから」タバサ、アンタ……振り落とそうとしたんだ。
「何で私がこんな所にいるのよ!」
「拉致、いや誘拐かな。ほら、よく言うじゃん。可愛い子には旅、いや、虐待しろって」
言わないし。更に言い直して、酷くなってるし。
「……それで、ガリアくんだりまで何しに来たのよ?」
「うむ、聞いて驚け。吸血鬼退治だ。なんやらタバサの任務らしいぞ。ちなみに怪談百選を第十話まで聞かせたら快く乗せてくれたんだ」
任務? タバサは騎士の仕事でもしているのだろうか。怪談? 知らん。
「それで何故、私が?」
「ほら、お前言ってたじゃん。朝には服を着替えさせるのよ、って」
ルイズは自分の服が、寝間着から制服になっていた事に気付く。ついでに空は暗い。
「朝じゃないじゃない!」
潤は空を指差す。
「さぁ、見てごらん。太陽がこんな綺麗」
「あれは月よっ!」
「……諦めなよっ!」潤は器用にタバサの声で言った。
「タバサはそんな事言わない!」
「へえ、ふうん。そうかそうか、お前はそんなにあたしを困らせたいのか」
潤は漏絡を諦めたのか、目を細め恐喝に移行した。
「うぅぅ」
潤の迫力により、知らずの内に、呻き声が漏れる。
「お前は、昨日言ったよな? 《お願いします。馬鹿にされたからって、いきなり生徒を殴らないで下さい。何でも言う事聞くから。ねっ! ねっ!》って。ああ? 約束を破るのかお前は?」
言わされたのだ。だが、そう言わなかったら、学園中に死屍累々の屍を生産しただろう。
「分かった、分かったわよ」
潤は、うん、よろしい、と呟き。親指をぐっど立てルイズに向けた。
ルイズはタバサに近付き。
「その。任務らしいけど、いいの?」
「いい、私に拒否権はない。……紫鏡……ベッドの下……だるまさんころんだ……」タバサは酷く怯えていた。
「お、あれじゃねーの。件の村って」
「……くだん」
ルイズは目を細め先を見渡す。しかし村などまるで見えない。あと、タバサの事もあえて見ない。申し訳ないから。
「ほれ、あの山の所」
山はある、確かにある。ただし、目算で50リーグ位はあるだろうか。
――どういう視力してんのよ。
「測ったことないから分かんない」
「あ、あたし今喋ってないわよ!」
潤はニヒルな笑みを浮かべルイズを見た。
「読心術だよ。ただのテクニック。訓練すりゃ誰でも出来るさ」
ルイズはため息をつく。
「ほんと、アンタ何でもありね」
潤はシニカルに。そして皮肉げに笑い。
「言っただろ。人類最強の請負人だって。あたしは何でもできるし、全てのことに対して誰よりも長けている。それが、哀川潤なのさ」
――請負人……か。ルイズは召喚した時に話した事を思う。
2
召喚の儀式が終わり、皆が空を飛んで、寮に帰った。私は、それを見て悔しさに唇を噛んでいた。
私は平民を召喚した。その平民は――彼女は威風堂々とした佇まいで私を射抜くように観る。
すらりとした長身。眼の眩むような紅い様相。そして、とんでもない、どうしようもないほどの美貌。
正直にいうと、気後れする。
だが、私は、召喚した使い魔の平民に、歩いて帰るわよ。と言った。
たとえ、使い魔が平民でも魔法が使えない、とは思われたくなかったのだ。
しかし、この危うげに保たれた筈の、私の打算は、使い魔の一言により砕かれた。
『へぇ。お嬢ちゃん、あんた魔法が使えないのか。いや、絶対に失敗する、といった方がいいのかな』
……何、で。
『何でそんな事が分かるのよ!』
私は声を荒げていた。
事実を言われて悔しかったのだ。ただの平民の女に、私の使い魔に言われたせいで。
私は、高く薄いプライドによる打算を見抜かれたのだ。
それでも、使い魔は皮肉げに答えた。
『勘だ。いや、勘よりも確かなものかな? まぁいいや、そんな事は。とりあえず安心しろよ。お前は魔法が使えるようになる』
私は絶句した。
《魔法が使える》《安心》――何て、馬鹿な事を言う。私だって希望は捨てていない。だから、魔法を勉強して勉強して勉強して。練習して練習して練習して。
それでも、出来なかった。わたしは出来なかった。誰も、見てくれもしなかった。……わたしは認めて欲しいんだ。
でも、コントラクトサーヴァントは成功した。
これは、私が、何ヵ月も前から準備して、勉強して、練習して、研鑽して、構築して、会得して、約束して、決別して、演技して、傾向して、遅停して、停滞して、韜慨して、
決意して、挫折して、伝達して、忘却して、倦怠して、考察して、打算して、矛盾して、肯定して、更訂して、連鎖して、絶望して、嫉妬して、でも行動した。
――私はしたんだ。私は努力したんだ。
もしも、もしも失敗していたならば。私は壊れていただろう。これは確信する必然。
私は一つの可能性に賭けて、杖を振りフライを詠唱した。
コントラクトサーヴァントは成功した。それなら、今だって。成功するかもしれない。
だが、やはり、いつもと同じ手応え。少し先の地面が爆発するだけだった。
『あは』私は笑いを漏らす。
ああ、やっぱり。
それでも、それでもいつかは。きっといつかは、と確信の無い願いにすがるわたしに《安心》?
もしも、もしも失敗していたならば。私は壊れていただろう。これは確信する必然。
私は一つの可能性に賭けて、杖を振りフライを詠唱した。
コントラクトサーヴァントは成功した。それなら、今だって。成功するかもしれない。
だが、やはり、いつもと同じ手応え。少し先の地面が爆発するだけだった。
『あは』私は笑いを漏らす。
ああ、やっぱり。
それでも、それでもいつかは。きっといつかは、と確信の無い願いにすがるわたしに《安心》?
『出来ないじゃない! 何で、私に、希望を持たせるのよ!』
私は自分が泣いているのに気付いた。唇に涙が入る。私はそれを隠す為に、使い魔を捲し立てた。
しかし使い魔はシニカルに、今すぐってわけじゃねーよ。と、皮肉げに笑う。
『何故なら。このあたしを喚んでしまったからだ。人類最強の《請負人》哀川潤を喚んじまったからだ』
何を言っているのか分からない。だが、使い魔は確信のある口調で言った。
私は何故か、使い魔の話に聞き入ってしまった。この使い魔は私には無い、確信のある自信を持って言ったからだ。
『……何の…説明になるのよ?』
使い魔は迷いなど皆無であろう紅い瞳で私を視た。
『説明? わざわざ異世界から、このあたしを召喚したって時点で、既に理由なんていらないんだよ。ただの無能に、あたしを喚べる縁などあるわけがないんだ』
恐るほどのナルシスト具合だと思った。だが、何故だか、その確信を私は信じてみたくなった。
その自分に対する圧倒的なプライドで、お前は無能では無い、と言われたんだ。
私は信じていいのか? この使い魔の自信を。
私は信じていいのか? この使い魔の確信の中にある私を。
私は信じていいのか?
私はхххでは無いと。
ああ、最後なんだ。賭けよう。
『これも縁だ。だからお前の願い、この人類最強の請負人、哀川潤が請け負ってやる』
億に一つ、いや京に一つ賭けてみよう。私の使い魔に。私の願いを。
そして使い魔は、哀川潤は、私に笑いかけた。
『と、いうわけで。しばらくよろしくな。あたしにくっついていれば、一ヶ月位で使えるようになるんじゃねーの。わはは』
なんというか、いろいろ台無しだった。
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