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#navi(ゼロと迷宮職人)
/1/
よく晴れた青空の下、ここトリステイン魔法学院では、使い魔召喚の儀式が行われてる。
多くの生徒が蛙だの梟だの火蜥蜴だの飛竜だのを呼び出している中、何回やっても
失敗している生徒が一人。名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
通称「ゼロのルイズ」魔法成功率0のルイズである。
周りにバカにされつつも、召喚を続ける。そして、ひときわ大きな爆発が起きた。
煙の中に現れたそれは、一抱えもある金色のシャベルを持った少年だった。
ゼロと迷宮職人(ダンジョンメーカー) 第一「階」 ダンジョン作れます
ゼロのルイズが平民を召喚したぞー、ガキなんて呼んでどうすんだー。
そんな周りの騒ぎはさておき。
「先生! やり直させてください!」
訳:まともな使い魔呼んで周りを見返したい。
「やり直しは認めません。使い魔の召喚は神聖な儀式。召喚者の属性を見極めるものです。
なんであろうと、呼び出したものを使い魔にしなければなりません」
訳:やっと成功したんだから契約しちゃいなさい。時間ないし。
そんなルイズと監督教師コルベールのやりとりを、呼び出された少年はぼんやりと見上げている。
年のころは12、3歳。背は低く、ルイズの目元ほどである。ちなみにルイズにしたって
150サント(cm)あるかないか、である。ぼさぼさの髪に半そで半ズボン。どこから見ても
子供である。
コルベールに言い含められたルイズは「なんで平民なんか」などとぶつぶつ言いながら
少年の目の前に立つと、契約の呪文を唱え始めた。
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そして少年の唇に口付けをした。おどろいて目をぱちくりさせ、真っ赤になる少年。
ちょっと可愛いかも、と思うルイズである。
「……わ、熱い。熱い熱い熱い」
ぶんぶんと左手を振り、さらに転げまわる少年。
「わ。……ああ、使い魔のルーンが刻まれているだけだから、辛いけどがまんしてね」
そういい終わるか終わらないかで、少年は転げまわるのをやめた。
「なおりました」
「無事に終わったようですね。……おや、めずらしいルーンだ」
屈み込んで左手を見るコルベール。見事に禿げ上がった頭が光を反射して少々眩しい。
刻まれたそれをスケッチすると、周りにいた生徒たちを学び舎へと促した。
次の授業まで時間が無いのである。
次々とフライの呪文を唱え移動を始める生徒たち。中には飛べないルイズをバカにする
発言を残していく者もいる。ぐ、と手を握って耐える。
少年は少年で、わ、すごいなー、などといっている。
「……立ちなさい。私たちもいくわよ」
「なんでですか?」
「授業があるから」
「……ぼく、何でここにいるんでしょう?」
はあ、とため息をつくルイズ。平民を呼び出してしまったため、使い魔召喚について
全部説明しなければならない。劣等感に苛まれつつも、一つ一つおしえてやる。
・トリステイン魔法学院では、二年生になると使い魔を召喚する。
・使い魔の仕事は主の目となり耳となること。必要な秘薬の材料を探して来ること。
主を守ることである。相手が人間のためか少年の視界も聴覚もルイズとリンクできないが。
・使い魔の契約は一生のものであり、消すことも元の場所に戻すことも出来ない。
その話を聞いた少年は、しばらく黙っていた。とくにトリステイン魔法学院のところでは
首を傾げてもいた。
が、ひとつ頷くと
「わかりました、ぼく、使い魔やります」
と承諾したのだった。
「じゃ、教室に行くわよ」
「はい」
二人はそろって学び舎へと向かう。
「はあ、でもなんで平民なのかしら……秘薬の材料集めも、護衛も無理だろうし……」
「できますよ」
「……へ?」
思わず足が止まるルイズ。
「故郷の村で魔物退治してましたし、ダンジョンがあれば色々物が手に入りますから」
「……魔物退治? ダンジョン? なによそれ」
少年の説明を要約するとこのようになる。
・少年の生まれ育った村、サウスアークでは12歳になると一人前とされ仕事を持つようになる。
・12歳になりどんな仕事に就くか迷っていた時、「魔法のシャベル」を拾った。
・魔法のシャベルは簡単に土を掘ることができ、ダンジョンを作ることができる。
・当時、クローランド王国には魔物が大量発生していた。そのためダンジョンに魔物をおびき寄せ
魔物退治をした。
なんとも荒唐無稽の話である、とルイズは思った。クローランド王国もサウスアークの村も
聞いた事が無いし、そんな魔物退治の方法も初耳である。しかしそれ以上に興味を引かれた
ことがあった。
「ダンジョンって何?」
「魔物が住む洞窟のことです」
「それ……作れるのね?」
「はい、ダンジョン作れます。ダンジョンメーカーですから」
むう、と腕を組んで考え込むルイズ。ダンジョンを作る使い魔なんて聞いた事が無い。
この子にしかできないとしたら、特別なことだ。メイジの実力を見たければ使い魔を、という。
自分をバカにする連中を見返せるかな、どうかな。難しいかな……。
ひとしきり悩むものの、結論はでない。少年はその間ルイズを見ているだけだ。
「よし。キミ、ダンジョン作りなさい」
結局出た結論は、とりあえずやってみようである。行き当たりばったりとはこの事だ。
「じゃあ、山へ行きましょう」
「ここじゃダメなの?」
「人の住んでいるところじゃ危ないですし魔物も入ってきてくれません」
「そうなの。……それもそうね。じゃ、ついてきなさい」
二人は学院の裏山へと向かった。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったわね」
「アレンです」
「そ。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
ご主人様って呼びなさい」
「はい、ご主人様」
/2/
裏山の斜面に着いたアレンは、持っていた魔法のシャベルをぽんと叩いた。
「起きろ、仕事だぞ」
「……ふへ。おう、おう相棒! あれか、あれをやるんだな?」
「喋った! インテリジェンスソード? ……インテリジェンスシャベル、かしらこの場合」
「なんですかそれ?」
魔法のシャベルと聞いてはいたが、まさか喋るとは! よく見れば土を掘る三角の
面に、笑っているような溝がある。これが口だろうか?
「なんだ? いつものねーちゃんじゃない! おい相棒、おい、このねーちゃんだれだ?」
「ぼくのご主人様。ねーちゃんっていっちゃだめ」
「そっか! よろしくなご主人様!」
とりあえず、悪いやつではなさそうである。
「じゃあやろうぜあれ! あれをよ! 仕事だもんな!」
あまり喋るのは上手くないようだが。
アレンはシャベルを掴むと、斜面に着きたてた。その途端、光り輝く六芒星が
浮かび上がり、四角い穴が開いた。
「すごい……」
はじめて見るダンジョン作りに圧倒されるルイズ。
土のドットメイジでもできるだろうが、こんなに速くは無理だろう。
アレンは穴の中に入ると、地面にシャベルを突き立てる。またも六芒星が現れ
今度は穴とはしごが出現した。
「ご主人様、降りますよ」
「わ、わかったわ」
アレンに促されて洞窟に入る。壁はしっかりしていて崩れる様子はまったくない。
「そのシャベル、一体どうなってるの?」
「よく知りません。なんでも、昔ダンジョンを使って魔物退治をしていた魔法使いが
作ったそうなんですけど」
はしごを降りながら答えるアレン。しっかり下を向きながら、だ。決して上を見ない。
「今、上見たら怒るからね?」
「見ません。学習済みです」
「学習?」
「村でダンジョン作っていたとき、一緒に女の子いましたから」
「……見たんだ」
「みてません!」
アレン、珍しく大きな声で反論。上を向いて。白。
「こ、こ、こ、コラー!」
「はぶっ!」
ルイズ落下、アレン直撃。
※はしごで降りている最中にこのようなことをすると大変危険ですので真似しないでください※
「いーい? 次も同じことしたらお仕置きだからね? 絶対だからね?」
「しませんしません……痛いし」
地下一階。二人はそんなやりとりをしている。掘ったばかりのそこは正方形の部屋だった。
ランタンが置いてあり、部屋を明るく照らしている。
「ねえ、このランタンといい、はしごといい、これもそのシャベルの力なの?」
「そうみたいですね」
「みたいって……」
「ぼくはシャベルを使っているだけですから」
アレンは壁にシャベルを突き立てる。光と共に土が消え、はしごの部屋と同じ広さの
空間ができる。その先に進んでまたシャベルを使う。さらに進んでシャベルを使う。
使う。使う。使う。
「……真っ直ぐ掘るだけ?」
「岩盤に突き当たるまでは、そうです」
「岩盤?」
「シャベルの力でも掘れないところです。もうそろそろ着きますよ」
さらに二回、シャベルを使うと色の違う壁に突き当たった。ルイズに見せるように
シャベルを突き刺そうとするが、硬くて無理だった。
「ほんとだ……っていうか、何で解ったの?」
「シャベルの力です。さわってみてください」
差し出されたシャベルの取っ手を掴んだルイズの脳裏に、突如映像が浮かび上がった。
「うわぁぁ! って、あ」
それはこの洞窟を上から俯瞰し簡略化した図だった。掘った場所は明るく、自分たちのいる場所は点で、
そして岩盤は色の違いで表現されていた。
「本当、どうなってるのかしらそのシャベル……」
「よくわかりません。でもダンジョンは作れます」
「あんたね……」
この子、けっこういい加減だ。そうルイズが思っている傍らでアレンは作業を再開。
今度は横の壁を三部屋掘り、真ん中をさらに掘る。図解するとこうである。
#asciiart(){
↑階段 ■壁 □床
■■■□■
■■■□■ これを
■■■□■
■■■□■
■■■■■
■■■□■
■■□□■ こう掘り
■■□□■
■■□□■
■■■■■
■■■□■
■■□□■ 真ん中を掘る。
■□□□■
■■□□■
■■■■■
}
「何? この形」
「戦いやすい形にしたんですよ」
ぐるり、と周囲を見渡す。確か狭い通路よりはマシに見えるが。
「……ただ広くなったようにしか見えないんだけど?」
「部屋をつけないと意味無いんですけどね」
「部屋? つければいいじゃない」
ぶんぶん、と首を振るアレン。
「家具を買ってこないとダメです」
・家具を設置すると、そこに必ず魔物が入る
・一度に戦える魔物は三匹まで
・魔物は隣の部屋に入ると襲ってい来る。
・この形にすることで、確実に三匹の魔物と戦える。
・三匹まとめて倒すと、ほぼ確実になんらかのアイテムが手に入る
なるほど、と頷く。さすがダンジョンメーカーを名乗ることはある。
ダンジョンを熟知している。が。
「なんで三匹いっぺんに倒すとアイテムが手に入るの?」
「わかりません。そういうものらしいです」
これだ。なんというか、手段と結果さえわかっていればいい、という。
ルイズは目眩を振り払う。
「じゃあ、家具持ってこないといけないのね? ……お金足りるかしら」
運ぶのも大変そうだわ、と悩むルイズ。ダンジョン作るの止めさせようかしら。
「あ、洞窟さえあれば魔物は入ってきますし、それ倒してお金を貯めましょう」
「……なんですって?」
「だから、魔物を倒してお金を」
「魔物ってお金持ってるの!?」
アレンには驚かされてばかりだが、その中で最大級である。
「持ってますよ」
「何で魔物が……って、聞いても知らないわよね」
「すみません。そういうものらしいです。……人間から取ったんでしょうかね?」
とはいえ、である。ダンジョンでお金が手に入る。これは重要だ。秘薬の材料を
集めて売るなんてちゃちなものじゃない。強烈な収入源だ。こんな使い魔もってるメイジ、
まずいない。間違いない、自分が呼び出した使い魔はすごい!
ということは、イコール自分も凄いメイジ……に成る事ができる、ということだ。
「よーし! 堀なさい! どんどん掘って魔物を呼んでお金稼いで、ここを
トリステイン一のダンジョンにするのよ!」
「はい、ご主人様!」
/3/
しばらくして、ダンジョン掘りを終了した。シャベルのMPが尽きたとの事である。
MPとはどうやら精神力のことらしい。ということはダンジョン作りは全て魔法で
やっていたということか。シャベルのクセに魔法が使えるとは、と劣等感を刺激された
ルイズであったが、ガマンである。シャベルの力は使い魔の力。使い魔の力は自分の力、
である。
自分の偉大な可能性の写しなのだ。……土系統に目覚めるかしら、私、とルイズは考える。
何はともあれ、掘れないのであれば帰るだけだ。
「明日になったら魔物が入ってますよ。魔物は夜活動しますから」
と、アレン。明日が楽しみになるルイズである。
「月が二つある……外国ってすごいな」
などと帰り道でアレンが言っていた。何を素っ頓狂なことを、と思ったものだ。
学院に帰るとコルベールに怒られた。連絡無しで授業をボイコットしたのだから当然である。
どこに行っていたか聞かれたが適当にごまかした。まだダンジョンのことは内緒だ。
しっかりした成果を作り上げ、今までバカにしていたヤツラを見返すのだ。
アレンの食事は厨房の使用人たちに任せた。明日はダンジョン製作のほかに魔物退治も
やってもらわなければならない。食事代は投資である。
風呂に入って自室に戻り、就寝。使用人に言いつけてアレン用に藁を持ってこさせた。
当面のベット代わりである。毛布も渡してあげた。
「明日、授業終わったらすぐにダンジョンの準備よ。忙しくなるわ」
「はい。戦うための準備もしなきゃいけませんね」
いままで、ベットに入って思うことといえば、バカにされて悔しいとか、
何で魔法が使えないのかとか、ネガティブなことばかりだった。
こんなに明日を待ち遠しく思いながら眠りに着いたことが今まであっただろうか。
ルイズは未来を夢見る。凄いメイジになった自分。素晴らしいダンジョン。
そしてアレンとシャベル。
「おやすみ、アレン」
「おやすみなさい、ご主人様」
「おやすー、相棒、ねーちゃん」
「ご主人様だってば」
かくして、ルイズは眠りに落ちた。希望を胸に抱いて。
これは、少年と少女の物語。
たった一つのダンジョンが、国を、歴史を動かす物語。
そのことを知る者は、まだいない。
#navi(ゼロと迷宮職人)
#navi(ゼロと迷宮職人)
/1/
よく晴れた青空の下、ここトリステイン魔法学院では、使い魔召喚の儀式が行われてる。
多くの生徒が蛙だの梟だの火蜥蜴だの飛竜だのを呼び出している中、何回やっても
失敗している生徒が一人。名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
通称「ゼロのルイズ」魔法成功率0のルイズである。
周りにバカにされつつも、召喚を続ける。そして、ひときわ大きな爆発が起きた。
煙の中に現れたそれは、一抱えもある金色のシャベルを持った少年だった。
ゼロと迷宮職人(ダンジョンメーカー) 第一「階」 ダンジョン作れます
ゼロのルイズが平民を召喚したぞー、ガキなんて呼んでどうすんだー。
そんな周りの騒ぎはさておき。
「先生! やり直させてください!」
訳:まともな使い魔呼んで周りを見返したい。
「やり直しは認めません。使い魔の召喚は神聖な儀式。召喚者の属性を見極めるものです。
なんであろうと、呼び出したものを使い魔にしなければなりません」
訳:やっと成功したんだから契約しちゃいなさい。時間ないし。
そんなルイズと監督教師コルベールのやりとりを、呼び出された少年はぼんやりと見上げている。
年のころは12、3歳。背は低く、ルイズの目元ほどである。ちなみにルイズにしたって
150サント(cm)あるかないか、である。ぼさぼさの髪に半そで半ズボン。どこから見ても
子供である。
コルベールに言い含められたルイズは「なんで平民なんか」などとぶつぶつ言いながら
少年の目の前に立つと、契約の呪文を唱え始めた。
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そして少年の唇に口付けをした。おどろいて目をぱちくりさせ、真っ赤になる少年。
ちょっと可愛いかも、と思うルイズである。
「……わ、熱い。熱い熱い熱い」
ぶんぶんと左手を振り、さらに転げまわる少年。
「わ。……ああ、使い魔のルーンが刻まれているだけだから、辛いけどがまんしてね」
そういい終わるか終わらないかで、少年は転げまわるのをやめた。
「なおりました」
「無事に終わったようですね。……おや、めずらしいルーンだ」
屈み込んで左手を見るコルベール。見事に禿げ上がった頭が光を反射して少々眩しい。
刻まれたそれをスケッチすると、周りにいた生徒たちを学び舎へと促した。
次の授業まで時間が無いのである。
次々とフライの呪文を唱え移動を始める生徒たち。中には飛べないルイズをバカにする
発言を残していく者もいる。ぐ、と手を握って耐える。
少年は少年で、わ、すごいなー、などといっている。
「……立ちなさい。私たちもいくわよ」
「なんでですか?」
「授業があるから」
「……ぼく、何でここにいるんでしょう?」
はあ、とため息をつくルイズ。平民を呼び出してしまったため、使い魔召喚について
全部説明しなければならない。劣等感に苛まれつつも、一つ一つおしえてやる。
・トリステイン魔法学院では、二年生になると使い魔を召喚する。
・使い魔の仕事は主の目となり耳となること。必要な秘薬の材料を探して来ること。
主を守ることである。相手が人間のためか少年の視界も聴覚もルイズとリンクできないが。
・使い魔の契約は一生のものであり、消すことも元の場所に戻すことも出来ない。
その話を聞いた少年は、しばらく黙っていた。とくにトリステイン魔法学院のところでは
首を傾げてもいた。
が、ひとつ頷くと
「わかりました、ぼく、使い魔やります」
と承諾したのだった。
「じゃ、教室に行くわよ」
「はい」
二人はそろって学び舎へと向かう。
「はあ、でもなんで平民なのかしら……秘薬の材料集めも、護衛も無理だろうし……」
「できますよ」
「……へ?」
思わず足が止まるルイズ。
「故郷の村で魔物退治してましたし、ダンジョンがあれば色々物が手に入りますから」
「……魔物退治? ダンジョン? なによそれ」
少年の説明を要約するとこのようになる。
・少年の生まれ育った村、サウスアークでは12歳になると一人前とされ仕事を持つようになる。
・12歳になりどんな仕事に就くか迷っていた時、「魔法のシャベル」を拾った。
・魔法のシャベルは簡単に土を掘ることができ、ダンジョンを作ることができる。
・当時、クローランド王国には魔物が大量発生していた。そのためダンジョンに魔物をおびき寄せ
魔物退治をした。
なんとも荒唐無稽の話である、とルイズは思った。クローランド王国もサウスアークの村も
聞いた事が無いし、そんな魔物退治の方法も初耳である。しかしそれ以上に興味を引かれた
ことがあった。
「ダンジョンって何?」
「魔物が住む洞窟のことです」
「それ……作れるのね?」
「はい、ダンジョン作れます。ダンジョンメーカーですから」
むう、と腕を組んで考え込むルイズ。ダンジョンを作る使い魔なんて聞いた事が無い。
この子にしかできないとしたら、特別なことだ。メイジの実力を見たければ使い魔を、という。
自分をバカにする連中を見返せるかな、どうかな。難しいかな……。
ひとしきり悩むものの、結論はでない。少年はその間ルイズを見ているだけだ。
「よし。キミ、ダンジョン作りなさい」
結局出た結論は、とりあえずやってみようである。行き当たりばったりとはこの事だ。
「じゃあ、山へ行きましょう」
「ここじゃダメなの?」
「人の住んでいるところじゃ危ないですし魔物も入ってきてくれません」
「そうなの。……それもそうね。じゃ、ついてきなさい」
二人は学院の裏山へと向かった。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったわね」
「アレンです」
「そ。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
ご主人様って呼びなさい」
「はい、ご主人様」
/2/
裏山の斜面に着いたアレンは、持っていた魔法のシャベルをぽんと叩いた。
「起きろ、仕事だぞ」
「……ふへ。おう、おう相棒! あれか、あれをやるんだな?」
「喋った! インテリジェンスソード? ……インテリジェンスシャベル、かしらこの場合」
「なんですかそれ?」
魔法のシャベルと聞いてはいたが、まさか喋るとは! よく見れば土を掘る三角の
面に、笑っているような溝がある。これが口だろうか?
「なんだ? いつものねーちゃんじゃない! おい相棒、おい、このねーちゃんだれだ?」
「ぼくのご主人様。ねーちゃんっていっちゃだめ」
「そっか! よろしくなご主人様!」
とりあえず、悪いやつではなさそうである。
「じゃあやろうぜあれ! あれをよ! 仕事だもんな!」
あまり喋るのは上手くないようだが。
アレンはシャベルを掴むと、斜面に着きたてた。その途端、光り輝く六芒星が
浮かび上がり、四角い穴が開いた。
「すごい……」
はじめて見るダンジョン作りに圧倒されるルイズ。
土のドットメイジでもできるだろうが、こんなに速くは無理だろう。
アレンは穴の中に入ると、地面にシャベルを突き立てる。またも六芒星が現れ
今度は穴とはしごが出現した。
「ご主人様、降りますよ」
「わ、わかったわ」
アレンに促されて洞窟に入る。壁はしっかりしていて崩れる様子はまったくない。
「そのシャベル、一体どうなってるの?」
「よく知りません。なんでも、昔ダンジョンを使って魔物退治をしていた魔法使いが
作ったそうなんですけど」
はしごを降りながら答えるアレン。しっかり下を向きながら、だ。決して上を見ない。
「今、上見たら怒るからね?」
「見ません。学習済みです」
「学習?」
「村でダンジョン作っていたとき、一緒に女の子いましたから」
「……見たんだ」
「みてません!」
アレン、珍しく大きな声で反論。上を向いて。白。
「こ、こ、こ、コラー!」
「はぶっ!」
ルイズ落下、アレン直撃。
※はしごで降りている最中にこのようなことをすると大変危険ですので真似しないでください※
「いーい? 次も同じことしたらお仕置きだからね? 絶対だからね?」
「しませんしません……痛いし」
地下一階。二人はそんなやりとりをしている。掘ったばかりのそこは正方形の部屋だった。
ランタンが置いてあり、部屋を明るく照らしている。
「ねえ、このランタンといい、はしごといい、これもそのシャベルの力なの?」
「そうみたいですね」
「みたいって……」
「ぼくはシャベルを使っているだけですから」
アレンは壁にシャベルを突き立てる。光と共に土が消え、はしごの部屋と同じ広さの
空間ができる。その先に進んでまたシャベルを使う。さらに進んでシャベルを使う。
使う。使う。使う。
「……真っ直ぐ掘るだけ?」
「岩盤に突き当たるまでは、そうです」
「岩盤?」
「シャベルの力でも掘れないところです。もうそろそろ着きますよ」
さらに二回、シャベルを使うと色の違う壁に突き当たった。ルイズに見せるように
シャベルを突き刺そうとするが、硬くて無理だった。
「ほんとだ……っていうか、何で解ったの?」
「シャベルの力です。さわってみてください」
差し出されたシャベルの取っ手を掴んだルイズの脳裏に、突如映像が浮かび上がった。
「うわぁぁ! って、あ」
それはこの洞窟を上から俯瞰し簡略化した図だった。掘った場所は明るく、自分たちのいる場所は点で、
そして岩盤は色の違いで表現されていた。
「本当、どうなってるのかしらそのシャベル……」
「よくわかりません。でもダンジョンは作れます」
「あんたね……」
この子、けっこういい加減だ。そうルイズが思っている傍らでアレンは作業を再開。
今度は横の壁を三部屋掘り、真ん中をさらに掘る。図解するとこうである。
#asciiart(){
↑階段 ■壁 □床
■■■□■
■■■□■ これを
■■■□■
■■■□■
■■■■■
■■■□■
■■□□■ こう掘り
■■□□■
■■□□■
■■■■■
■■■□■
■■□□■ 真ん中を掘る。
■□□□■
■■□□■
■■■■■
}
「何? この形」
「戦いやすい形にしたんですよ」
ぐるり、と周囲を見渡す。確か狭い通路よりはマシに見えるが。
「……ただ広くなったようにしか見えないんだけど?」
「部屋をつけないと意味無いんですけどね」
「部屋? つければいいじゃない」
ぶんぶん、と首を振るアレン。
「家具を買ってこないとダメです」
・家具を設置すると、そこに必ず魔物が入る
・一度に戦える魔物は三匹まで
・魔物は隣の部屋に入ると襲ってい来る。
・この形にすることで、確実に三匹の魔物と戦える。
・三匹まとめて倒すと、ほぼ確実になんらかのアイテムが手に入る
なるほど、と頷く。さすがダンジョンメーカーを名乗ることはある。
ダンジョンを熟知している。が。
「なんで三匹いっぺんに倒すとアイテムが手に入るの?」
「わかりません。そういうものらしいです」
これだ。なんというか、手段と結果さえわかっていればいい、という。
ルイズは目眩を振り払う。
「じゃあ、家具持ってこないといけないのね? ……お金足りるかしら」
運ぶのも大変そうだわ、と悩むルイズ。ダンジョン作るの止めさせようかしら。
「あ、洞窟さえあれば魔物は入ってきますし、それ倒してお金を貯めましょう」
「……なんですって?」
「だから、魔物を倒してお金を」
「魔物ってお金持ってるの!?」
アレンには驚かされてばかりだが、その中で最大級である。
「持ってますよ」
「何で魔物が……って、聞いても知らないわよね」
「すみません。そういうものらしいです。……人間から取ったんでしょうかね?」
とはいえ、である。ダンジョンでお金が手に入る。これは重要だ。秘薬の材料を
集めて売るなんてちゃちなものじゃない。強烈な収入源だ。こんな使い魔もってるメイジ、
まずいない。間違いない、自分が呼び出した使い魔はすごい!
ということは、イコール自分も凄いメイジ……に成る事ができる、ということだ。
「よーし! 堀なさい! どんどん掘って魔物を呼んでお金稼いで、ここを
トリステイン一のダンジョンにするのよ!」
「はい、ご主人様!」
/3/
しばらくして、ダンジョン掘りを終了した。シャベルのMPが尽きたとの事である。
MPとはどうやら精神力のことらしい。ということはダンジョン作りは全て魔法で
やっていたということか。シャベルのクセに魔法が使えるとは、と劣等感を刺激された
ルイズであったが、ガマンである。シャベルの力は使い魔の力。使い魔の力は自分の力、
である。
自分の偉大な可能性の写しなのだ。……土系統に目覚めるかしら、私、とルイズは考える。
何はともあれ、掘れないのであれば帰るだけだ。
「明日になったら魔物が入ってますよ。魔物は夜活動しますから」
と、アレン。明日が楽しみになるルイズである。
「月が二つある……外国ってすごいな」
などと帰り道でアレンが言っていた。何を素っ頓狂なことを、と思ったものだ。
学院に帰るとコルベールに怒られた。連絡無しで授業をボイコットしたのだから当然である。
どこに行っていたか聞かれたが適当にごまかした。まだダンジョンのことは内緒だ。
しっかりした成果を作り上げ、今までバカにしていたヤツラを見返すのだ。
アレンの食事は厨房の使用人たちに任せた。明日はダンジョン製作のほかに魔物退治も
やってもらわなければならない。食事代は投資である。
風呂に入って自室に戻り、就寝。使用人に言いつけてアレン用に藁を持ってこさせた。
当面のベット代わりである。毛布も渡してあげた。
「明日、授業終わったらすぐにダンジョンの準備よ。忙しくなるわ」
「はい。戦うための準備もしなきゃいけませんね」
いままで、ベットに入って思うことといえば、バカにされて悔しいとか、
何で魔法が使えないのかとか、ネガティブなことばかりだった。
こんなに明日を待ち遠しく思いながら眠りに着いたことが今まであっただろうか。
ルイズは未来を夢見る。凄いメイジになった自分。素晴らしいダンジョン。
そしてアレンとシャベル。
「おやすみ、アレン」
「おやすみなさい、ご主人様」
「おやすー、相棒、ねーちゃん」
「ご主人様だってば」
かくして、ルイズは眠りに落ちた。希望を胸に抱いて。
これは、少年と少女の物語。
たった一つのダンジョンが、国を、歴史を動かす物語。
そのことを知る者は、まだいない。
#navi(ゼロと迷宮職人)
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