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―――――――深夜の裏路地には、怒号と絶叫と悲鳴と何かが壊れる音が炸裂していた。
コンクリートに挟まれた、狭い裏路地。
一人の少年を取り囲むように、10人くらいの少年が立っている。
中にはナイフを持っているものもや、催涙スプレー、棍棒を持っているものまで。
何も知らない人間がこの光景を見たら思うだろう。
ああ、あの囲まれている少年は殺される、と。
しかし、その囲まれている少年は全く気にしたそぶりを見せない。
そして、彼の事を知っていた人間がこの光景を見たら思うだろう。
ああ、あの囲んでいる少年達は殺される、と。
囲まれている少年の名は、一方通行。
囲んでいる少年の一人が、ナイフを手に全力で少年へ突進する。
だが、一方通行は避けない。どころか、どうでもいいように力を抜いたまま歩いている。
一方通行が何をするでもなく、突進した少年は地面にひれ伏した。
同時に、周りの少年が何かをする。
一方通行は、それが何をしたのかすら考えない。
ただ、自動でそれを反射した。
そして、そして次々と少年が倒れていく。
目の前が急にひかりだした。
一方通行は、それすらも気に留めずに、よけずに突っ込んだ。
瞬間、世界が光に満ちた。
さすがに異常なことになったと彼が気づいた時には後の祭り。
あたりは明るくなり、目の前にはピンク色の髪の毛の色の少女が立っていた。
トリステイン魔法学院にて、春の使い魔召喚の儀式がおこなわれている。
二年生になった生徒たちが、次々に自分の使い魔を召喚していく中、ただ一人の生徒は使い魔を呼び出すことができないでいた。
周りのすべての人が使い魔を召喚している。
もう誰も呪文を唱えているものはいない。
しかし、彼女だけは必死に、周りの人間から囃し立てながらも、懸命に呪文を唱え、爆発を繰り返している。
もう何度笑われたのかもわからないし、彼女の失敗に飽きて談笑している人も多い。
何人かは、すでに帰ろうとして、教師にとがめられている。
彼女は、目に涙を浮かべながら、しかし成功するという奇跡を起こすため、必死に呪文を唱え続ける。
「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・」
この詠唱はすでに何度目なのだろう。
「五つの力をつかさどるペンタゴン・・・」
これに失敗すれば、あるいは留年。
「我が運命に従いし・・・」
もしかしたら、家族にまで見捨てられてしまうかもしれない。
「使い魔を・・・」
今までだって、この魔法に限らず何度も練習を重ねた。
しかし、一度も成功したことはない。
自分がどれだけ努力しても、努力のかけらもしていない者たちだけが成功していく。
そう思うと、悲しさを通り越して怒りがわいてくる・・・
「この世界のどこか!いいえ、もうこの世界じゃなくてもいい!」
突然、少女が唱える呪文が変わり、叫ぶような声に変わった。
周りの生徒たちは、突然の声に驚き顔を向ける。
「どこかにいる使い魔!召喚されなさい!」
今までの、どの爆発音よりも激しい爆発音。
今までの、どの爆発よりも激しい爆発。
今までの、どの爆煙よりも激しい爆煙。
そして、その爆煙が晴れた頃。
少女の目の前に、白く、白く、白い。
眼だけが真っ赤に赤い、少年が立っていた。
「あ・・・」
ピンク色の髪の毛の色をした少女が、口を開いた。
「あんた誰?」
少女の体格は、一方通行とあまり変わらない。
一方通行は、こんな制服の学校なんてあったっけなァ、と間抜けなことをふと考えた。
しかし、瞬時に状況を把握しようとし、明らかにおかしいことに気づく。
まず、さっきの場所と違う。
いや、移動したのが一方通行ではない、普通の能力者ならばあの光の壁によって別の場所に移動したと考えてもおかしくはないだろう。
空間移動能力者は数こそ少ないものの、割と有名な能力なので空間移動で飛ばされただけだと考えることができる。
しかし、飛ばされたのは一方通行だ。
一方通行はあらゆる「力」の「向き」を変更できる。
それが、1次元だろうが2次元だろうが3次元だろうが、11次元であろうが、だ。
つまり、一方通行には空間移動は適用されない。
仮に「あの少年」の「右手」に触れられている状態だった別かもしれないが、それならいくらなんでも気づくはずだ。
というか、一方通行が知っている全ての能力は(右手以外)反射可能なので、彼に考えられる範囲で彼に何かあったと思うことは、とてもじゃないがありえない。
ならば、一体どういうことなのか。
あれかこれかと考えていると
「ゼロのルイズが平民を召喚したぞォォォォ!」
「さすがゼロのルイズ!僕たちがやろうともしないことを平然とやってのける!そこにシビレル!アコガレルゥ!」
「ルイズ、サモンサーヴァントで平民を呼び出してどうするのよ」
口々に周りで退屈していた者たちが囃し立てる。
一方通行もさすがにその大きな声には気付いた。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
そういうや否や、ピンク少女は教師らしき禿頭の中年男性の元へ詰め寄る。
「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「もう一度召喚させてください!」
とんでもないとでもいうように肩をすくめ、
「それはできない。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生になる際君たちは「使い魔」を召喚する。今やっている通りだ。」
・・・使い魔?召喚?
今使い魔つったかあのハゲ。
「それによって現れた「使い魔」によって君たちは「属性」を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。そして、一度呼び出した「使い魔」は召喚できない。なぜなら、サモン・サーヴァントは神聖な儀式だからだ。好むと好まざると、彼を使い魔にしなければならない。」
「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!」
ピンクがそういうとドッと周りの人が笑う。
・・・神聖な使い魔の儀式?
なんだそれ。どこの新興宗教だよ。
彼はそう思うと同時に、顔を悔しそうにゆがめたピンクが歩いてくる。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから。」
貴族?イギリスか中世ヨーロッパじゃあるまいし、何イカレたこといってンだ?
頭腐ってんのか?
と、ルイズはあきらめたように目をつぶり、
「わが名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力をつかさどるペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
彼からすればまさに狂人としかいうことのできないような呪文を唱え始め、やがてゆっくりと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
一方通行は、さすがにそんな事態を想定していなかったので、思考が停止する。
恥ずかしいのか、悔しいのか、ゆっくりと、蚊でも止まるような速さで彼に近づくと
一方通行の唇に、己の唇を合わせた。
そして、ゆっくりと唇を離すと
「終わりました。」
そう、蚊の鳴くような声で告げた。
顔を真っ赤にしている。
照れているらしい。
「オイ、お前、いきなりこンなことしておいて、一体何なンだよ」
だが、ピンクはそれをまるっきり無視した。
一方通行の頭に青筋が浮かびかける。
「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはうまくできたようだね」
禿頭が嬉しそうに言った。
「相手が平民だからできたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったら「契約」なんて出来ないって」
周りの人が馬鹿にしたようにピンクに言った。
「馬鹿にしないでよね!私だってたまにはうまくいくわよ!」
「本当にたまによね、「ゼロ」のルイズ」
すかさず野次が入る。
・・・どうやら、こいつはゼロのルイズって呼ばれているらしい。
わかったのはそれだけである。
それ以外は、はっきり言って頭がわいているとしか思えない話だ。
「ガッッ!」
突然、一方通行の右手が激しく痛みだした。
「あの少年」に会うまで「痛み」とは無縁だった一方通行である。
彼がそんな痛みに耐えられるはずもなく、意識がぷつりと途絶えた。
#navi(とある使い魔の一方通行)
―――――――深夜の裏路地には、怒号と絶叫と悲鳴と何かが壊れる音が炸裂していた。
コンクリートに挟まれた、狭い裏路地。
一人の少年を取り囲むように、10人くらいの少年が立っている。
中にはナイフを持っているものもや、催涙スプレー、棍棒を持っているものまで。
何も知らない人間がこの光景を見たら思うだろう。
ああ、あの囲まれている少年は殺される、と。
しかし、その囲まれている少年は全く気にしたそぶりを見せない。
そして、彼の事を知っていた人間がこの光景を見たら思うだろう。
ああ、あの囲んでいる少年達は殺される、と。
囲まれている少年の名は、一方通行。
囲んでいる少年の一人が、ナイフを手に全力で少年へ突進する。
だが、一方通行は避けない。どころか、どうでもいいように力を抜いたまま歩いている。
一方通行が何をするでもなく、突進した少年は地面にひれ伏した。
同時に、周りの少年が何かをする。
一方通行は、それが何をしたのかすら考えない。
ただ、自動でそれを反射した。
そして、そして次々と少年が倒れていく。
目の前が急にひかりだした。
一方通行は、それすらも気に留めずに、よけずに突っ込んだ。
瞬間、世界が光に満ちた。
さすがに異常なことになったと彼が気づいた時には後の祭り。
あたりは明るくなり、目の前にはピンク色の髪の毛の色の少女が立っていた。
トリステイン魔法学院にて、春の使い魔召喚の儀式がおこなわれている。
二年生になった生徒たちが、次々に自分の使い魔を召喚していく中、ただ一人の生徒は使い魔を呼び出すことができないでいた。
周りのすべての人が使い魔を召喚している。
もう誰も呪文を唱えているものはいない。
しかし、彼女だけは必死に、周りの人間から囃し立てながらも、懸命に呪文を唱え、爆発を繰り返している。
もう何度笑われたのかもわからないし、彼女の失敗に飽きて談笑している人も多い。
何人かは、すでに帰ろうとして、教師にとがめられている。
彼女は、目に涙を浮かべながら、しかし成功するという奇跡を起こすため、必死に呪文を唱え続ける。
「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…」
この詠唱はすでに何度目なのだろう。
「五つの力をつかさどるペンタゴン…」
これに失敗すれば、あるいは留年。
「我が運命に従いし…」
もしかしたら、家族にまで見捨てられてしまうかもしれない。
「使い魔を…」
今までだって、この魔法に限らず何度も練習を重ねた。
しかし、一度も成功したことはない。
自分がどれだけ努力しても、努力のかけらもしていない者たちだけが成功していく。
そう思うと、悲しさを通り越して怒りがわいてくる…
「この世界のどこか!いいえ、もうこの世界じゃなくてもいい!」
突然、少女が唱える呪文が変わり、叫ぶような声に変わった。
周りの生徒たちは、突然の声に驚き顔を向ける。
「どこかにいる使い魔!召喚されなさい!」
今までの、どの爆発音よりも激しい爆発音。
今までの、どの爆発よりも激しい爆発。
今までの、どの爆煙よりも激しい爆煙。
そして、その爆煙が晴れた頃。
少女の目の前に、白く、白く、白い。
眼だけが真っ赤に赤い、少年が立っていた。
「あ…」
ピンク色の髪の毛の色をした少女が、口を開いた。
「あんた誰?」
少女の体格は、一方通行とあまり変わらない。
一方通行は、こんな制服の学校なんてあったっけなァ、と間抜けなことをふと考えた。
しかし、瞬時に状況を把握しようとし、明らかにおかしいことに気づく。
まず、さっきの場所と違う。
いや、移動したのが一方通行ではない、普通の能力者ならばあの光の壁によって別の場所に移動したと考えてもおかしくはないだろう。
空間移動能力者は数こそ少ないものの、割と有名な能力なので空間移動で飛ばされただけだと考えることができる。
しかし、飛ばされたのは一方通行だ。
一方通行はあらゆる「力」の「向き」を変更できる。
それが、1次元だろうが2次元だろうが3次元だろうが、11次元であろうが、だ。
つまり、一方通行には空間移動は適用されない。
仮に「あの少年」の「右手」に触れられている状態だった別かもしれないが、それならいくらなんでも気づくはずだ。
というか、一方通行が知っている全ての能力は(右手以外)反射可能なので、彼に考えられる範囲で彼に何かあったと思うことは、とてもじゃないがありえない。
ならば、一体どういうことなのか。
あれかこれかと考えていると
「ゼロのルイズが平民を召喚したぞォォォォ!」
「さすがゼロのルイズ!僕たちがやろうともしないことを平然とやってのける!そこにシビレル!アコガレルゥ!」
「ルイズ、サモンサーヴァントで平民を呼び出してどうするのよ」
口々に周りで退屈していた者たちが囃し立てる。
一方通行もさすがにその大きな声には気付いた。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
そういうや否や、ピンク少女は教師らしき禿頭の中年男性の元へ詰め寄る。
「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「もう一度召喚させてください!」
とんでもないとでもいうように肩をすくめ、
「それはできない。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生になる際君たちは「使い魔」を召喚する。今やっている通りだ。」
…使い魔?召喚?
今使い魔つったかあのハゲ。
「それによって現れた「使い魔」によって君たちは「属性」を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。そして、一度呼び出した「使い魔」は召喚できない。なぜなら、サモン・サーヴァントは神聖な儀式だからだ。好むと好まざると、彼を使い魔にしなければならない。」
「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!」
ピンクがそういうとドッと周りの人が笑う。
…神聖な使い魔の儀式?
なんだそれ。どこの新興宗教だよ。
彼はそう思うと同時に、顔を悔しそうにゆがめたピンクが歩いてくる。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから。」
貴族?イギリスか中世ヨーロッパじゃあるまいし、何イカレたこといってンだ?
頭腐ってんのか?
と、ルイズはあきらめたように目をつぶり、
「わが名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力をつかさどるペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
彼からすればまさに狂人としかいうことのできないような呪文を唱え始め、やがてゆっくりと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
一方通行は、さすがにそんな事態を想定していなかったので、思考が停止する。
恥ずかしいのか、悔しいのか、ゆっくりと、蚊でも止まるような速さで彼に近づくと
一方通行の唇に、己の唇を合わせた。
そして、ゆっくりと唇を離すと
「終わりました。」
そう、蚊の鳴くような声で告げた。
顔を真っ赤にしている。
照れているらしい。
「オイ、お前、いきなりこンなことしておいて、一体何なンだよ」
だが、ピンクはそれをまるっきり無視した。
一方通行の頭に青筋が浮かびかける。
「サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはうまくできたようだね」
禿頭が嬉しそうに言った。
「相手が平民だからできたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったら「契約」なんて出来ないって」
周りの人が馬鹿にしたようにピンクに言った。
「馬鹿にしないでよね!私だってたまにはうまくいくわよ!」
「本当にたまによね、「ゼロ」のルイズ」
すかさず野次が入る。
…どうやら、こいつはゼロのルイズって呼ばれているらしい。
わかったのはそれだけである。
それ以外は、はっきり言って頭がわいているとしか思えない話だ。
「ガッッ!」
突然、一方通行の右手が激しく痛みだした。
「あの少年」に会うまで「痛み」とは無縁だった一方通行である。
彼がそんな痛みに耐えられるはずもなく、意識がぷつりと途絶えた。
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