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「ゼロのMASTER-08」(2007/12/12 (水) 20:39:23) の最新版変更点
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日が沈んでいく。
ルイズも大変な目に遭ったが、もう落ち着いたようだ。キートンは窓辺に立つと、夕焼けを眺めていた。
綺麗だな――
この世界に連れて来られてから、こういったものをゆっくりと眺める余裕も無かった。
だが、今こうして鑑賞出来るのは、自分が別世界に適応してきたという証明なのだろうか?
「なんで、軍隊を辞めたの?」
背後のルイズがぽつりと言う。ルイズは内心、気になっていた。
キートンはいつも笑顔で優しい雰囲気を持つが、よく見ると、陰がある。
自分がゲルマニアや戦争のことを話すと、寂しそうな顔をしたことを思い出していた。
「…軍隊に要求されるものは、徹底したリアリズムだからね。僕には向いてなかったんだな」
そう言うと、また夕焼けを見る。
「僕は保険調査員を名乗ってるけど、学校で教える身でもあるんだよ」
「教師なの?」
ルイズが驚いた声を出す。本当に、何者なのだろうか。軍人だったり、教師だったり。
「専門は考古学でね。…昔、素晴らしい恩師に出会ってね。その時から、考古学を修めようと決心したんだ」
キートンは微笑むと、話を続ける。
「僕が目指しているのは…未だに発見されていない、ある文明を見つけることだ。
さっき言った恩師の人はもう亡くなられてしまったけど――。僕は諦めてはいない。その人の意思を継いで、絶対に発掘したいんだよ」
ルイズは黙って聴いていた。キートンがここまで活き活きとしているのは初めて見たからだ。
一子がいるとは思えない、子供のように快活な表情をしていた。
「あ」
急にキートンが間の抜けた声を出す。何事かと思うと
「いけないいけない。ちょっと用事があるから出てくるよ。夕食は先に食べていてくれ」
そう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
後に残されたのはルイズ。逃げられた…。
「…バカ」
呟くと、ベッドにごろんと転がった。
キートンは学園の庭を歩いていた。やはり、彼女には―ルイズには、過去の出来事は、あまり深く喋りたくは無いものだ。
特に、戦争のことは。ルイズが知るには、あんまりすぎるし、理解も出来ないだろう。
フォークランド紛争、湾岸戦争…。
アルゼンチン軍の情け容赦の無い狙撃の中、敵の塹壕まで辿り着き、ナイフや銃剣で敵と殺しあったSASの隊員たち。
実の息子を殺され、復讐心のみで自分と仲間達を追い回した老獪な軍人と彼の末路。
あまりにも過酷というものだ、彼女に話すには。
この世界にも、戦乱は続いているのだろうか―― そう思うと、少し物悲しくなった。
空を見上げる。前にも思ったが、この世界にも太古の遺跡があるだろう。
自分が元の世界に帰るための情報も見つけられるかも知れない。
情報を集める必要があるが、その為には行動をしなければならない。ルイズから聞いたのだが、この学院にも立派な図書館があるらしい。
しかし、平民は使えないのだろう。自分が入るためには、彼らに認めさせる必要があるかもしれない。
どうすればよいものか…。
「ん?」
キートンが空を見上げていると、何かが動いた。それは、魔法学院の本塔に向けて去ってゆく。
鳥では無いようだ。何よりも、それは不思議なことに塔の外壁に『立っている』ように見えた。
あれは、人間なのだろうか?
「忌々しいね…。物理衝撃が弱点にしても、いくらなんでも厚すぎる。お宝は目の前だってのに!」
外壁に立っている影がさも悔しそうに呟く。溜め息をつくと、地面に降り立った。
黒ローブを身に纏ったそれは腕組みをして考える。自分ではどうにも出来ないという悔しさからか、かなりイラついているようだ。
「このフーケの名にかけても、必ず盗んでやる…。さて、どうするかね」
そう呟いていると
「こんばんは」
フーケはびくっとして後ろを振り向く。そこには男が一人立っていた。なぜか、微笑を浮かべながら。
何者か、気配を全く感じなかった。このフーケにこうもあっさり近づくなんて!
殺るか――見られた以上は。
「散歩ですか?それにしても、立派な塔ですよねえ。ピサの斜塔とはまた違う趣きがあって、実に興味深いですよね」
「は?」
思わず、間の抜けた声を出す。こいつは何を言っているのか。なによりも、そのニヤけた顔を見ていると腹が立ってくる。
このわたしを前にして、この余裕。
それが気にいらなかった。
だが、そんなわたしを無視して、男は石を拾うと、ひょいひょいと両手を使って遊び始める。
「…とりあえず、わたしを恐れずに近づいてきた褒美に名乗っておくわ。『土くれのフーケ』と言えば、わかるでしょう?」
だが、男は首を傾げる。おかしい、並みの奴なら恐れるはずなのに。
「すみませんが、こっちの世界には連れてこられたばかりでして。あ、もしかして有名な方なんですか?」
殺す。
そう思い、素早く杖を握る。土の魔法で――!
「痛ッ!?」
そのとき、手に痛みが走る。思わず、杖を取りこぼしてしまう。杖は空中をくるくると回りながら――
いつの間に走り寄ってきたのか、男は杖を受け取ると、また不思議そうに掌で弄び始めた。
足元に石が転がっている。どうやら、この石を投げつけられたらしい。
「へえ…。意外に軽いんですねえ、これ」
そう言うと、男はくるくると器用に杖を回し始める。
――舐められている。
フーケは怒りのあまり、男に殴りかかる。だが、男はそんなフーケをひょいひょいとかわしながら、尚も不思議そうに杖を見ている。
「くっ、返せっ!このぉ!!」
「あっとと、すみません。もうちょっとだけ見せて下さい」
そんなやりとりをしている内に、近くから人の声が聞こえてくる。
喧騒を聞きつけられた―!?このフーケが、こうも、こうも…!
「あんた…!覚えておきなさい!今は退くけど、次はあんたを倒して杖を返してもらうからね!!」
怒りと屈辱で顔を真っ赤にしながらフーケは素早く去っていく。
「キートン!!」
少女が大声で男を呼ぶ。男はまた微笑むと、少女に向けて手を振った。
「…で、話を聞かせていただけるかな。使い魔君。いや、先に名前を聞いておいた方が良いかな」
学院長室。ルイズとキートンは学院長のオールド・オスマンに呼ばれていた。
学院内での喧嘩、その聴取という名目で呼ばれたのだが、実際には違う。
それを一番理解しているのはキートンだった。
オスマンの隣にはコルベール氏が控えている。彼も呼ばれたということは、相当重要な話をする気なのだろう。
「平賀・キートン・太一です」
「…すまんが、どれが名字なのかね。ヒラガ・キートン・タイチ君」
オスマンは少し困ったように言った。召喚されて以来、不思議な男だと思っていたが、どうにもこの男をつかめない。
「平賀もキートンもどちらも名字なんです」
「わたしはキートンと呼んでいます」
横からルイズが口を挟む。
「あー、おほん。では、キートン君。一体、何があったのか詳しく話してくれんかね」
オスマンはようやく理解したのか、話を進める。
本塔での出来事、それは学院長として見過ごすことの出来ない事例だからだ。
「私が散歩していると、塔に向けて人が去っていくのが見えました。それで、気になったので追いかけたんですが…」
そう言うと、キートンは一本の杖をオスマンに差し出す。
「黒いローブを身に着けた女性…だと思いますが。彼女は『土くれのフーケ』と名乗っていました」
「なんじゃと!!」
学院長室に大声が響く。ルイズも少しびっくりしたようだ。
オスマンは難しい顔をすると、キートンが差し出した杖をまじまじと観察する。
「…確かに、これはメイジ、それもかなりの者が持つものじゃ。キートン君、きみは知らんだろうが―」
オスマンはごほん、と咳払いをすると話をし始める。
長い話になりそうだな…。
「フーケはな、この国を騒がせている大怪盗じゃ。手並みも鮮やかなもので、未だに尻尾がつかめておらんのじゃよ」
オスマンは溜め息をつくと、窓の方へと目を向ける。
「しかし、困ったことじゃ。あのフーケが我が学び舎に来るとはのう。ミスタ・コルベール、恐らく奴の狙いは…」
「塔の五階にある宝物庫でしょうな」
尋ねられたコルベールが即答する。というよりも、怪盗が狙うものといえば、この学院だと宝物庫に間違いは無い。
そして、フーケはキートンの妨害に遭い、失敗した。杖をも奪われたとなると、恐らくまた襲ってくるに違いない。
「しかし、あのフーケの杖を奪うとは、君は何者なのかね?」
オスマンは鋭い目でキートンを見る。ギーシュのときもそうだったが、やはり一筋縄ではいかない男であることは確かなようだ。
もっとも、目の前で照れ笑いをしながら頭を掻く姿を見ていると、そうは思えないのだが。
「…とにかく、フーケの杖は私が預かる。キートン君、ミス・ヴァリエール」
「はい」
二人は同時に声をあげる。キートンが急にビシッとしたもんだから、オスマンはやや気圧されてしまった。
「う、うむ。すまんが、君達は明日からフーケの警戒にあたってくれ。彼奴のことじゃ、これで諦めはすまい」
「え…!?」
ルイズが驚く。無理も無い。いきなりこんな大任を押し付けられたのだから。
「それは、極秘の依頼、と言う事ですか?」
落ち着いた口調でキートンがオスマンに尋ねる。ちょっと、あんた!何を―とルイズが言おうとしたのだが、二人はどんどんと話を進めてしまう。
「無論じゃ。学院内部にフーケ出現なんて広まったら、動揺が起きるからのう。
これは私個人が君達に依頼することじゃ。奴は必ず君達に食いついてくるだろうしな」
オスマンはそう言うと、からからと笑い出した。
「なに、別に奴と戦えと言っとる訳じゃない。ミスタ・コルベールを君達の連絡役につけるから、彼を頼るといい。良いな、ミスタ・コルベール」
「はい、学院長。キートンさん、よろしくお願いします」
コルベールはそう言うと、キートンに一礼した。
「では、解散!くれぐれも深追いはせんようにな」
二人が退出した後、部屋にはオスマンとコルベールの二人だけとなった。
「のう、ミスタ・コルベール」
「なんでしょうか、学院長」
「ミス・ロングビルが何処に行ったか知らんか?寂しいのう…」
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#navi(ゼロのMASTER)
日が沈んでいく。
ルイズも大変な目に遭ったが、もう落ち着いたようだ。キートンは窓辺に立つと、夕焼けを眺めていた。
綺麗だな――
この世界に連れて来られてから、こういったものをゆっくりと眺める余裕も無かった。
だが、今こうして鑑賞出来るのは、自分が別世界に適応してきたという証明なのだろうか?
「なんで、軍隊を辞めたの?」
背後のルイズがぽつりと言う。ルイズは内心、気になっていた。
キートンはいつも笑顔で優しい雰囲気を持つが、よく見ると、陰がある。
自分がゲルマニアや戦争のことを話すと、寂しそうな顔をしたことを思い出していた。
「…軍隊に要求されるものは、徹底したリアリズムだからね。僕には向いてなかったんだな」
そう言うと、また夕焼けを見る。
「僕は保険調査員を名乗ってるけど、学校で教える身でもあるんだよ」
「教師なの?」
ルイズが驚いた声を出す。本当に、何者なのだろうか。軍人だったり、教師だったり。
「専門は考古学でね。…昔、素晴らしい恩師に出会ってね。その時から、考古学を修めようと決心したんだ」
キートンは微笑むと、話を続ける。
「僕が目指しているのは…未だに発見されていない、ある文明を見つけることだ。
さっき言った恩師の人はもう亡くなられてしまったけど――。僕は諦めてはいない。その人の意思を継いで、絶対に発掘したいんだよ」
ルイズは黙って聴いていた。キートンがここまで活き活きとしているのは初めて見たからだ。
一子がいるとは思えない、子供のように快活な表情をしていた。
「あ」
急にキートンが間の抜けた声を出す。何事かと思うと
「いけないいけない。ちょっと用事があるから出てくるよ。夕食は先に食べていてくれ」
そう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
後に残されたのはルイズ。逃げられた…。
「…バカ」
呟くと、ベッドにごろんと転がった。
キートンは学園の庭を歩いていた。やはり、彼女には―ルイズには、過去の出来事は、あまり深く喋りたくは無いものだ。
特に、戦争のことは。ルイズが知るには、あんまりすぎるし、理解も出来ないだろう。
フォークランド紛争、湾岸戦争…。
アルゼンチン軍の情け容赦の無い狙撃の中、敵の塹壕まで辿り着き、ナイフや銃剣で敵と殺しあったSASの隊員たち。
実の息子を殺され、復讐心のみで自分と仲間達を追い回した老獪な軍人と彼の末路。
あまりにも過酷というものだ、彼女に話すには。
この世界にも、戦乱は続いているのだろうか―― そう思うと、少し物悲しくなった。
空を見上げる。前にも思ったが、この世界にも太古の遺跡があるだろう。
自分が元の世界に帰るための情報も見つけられるかも知れない。
情報を集める必要があるが、その為には行動をしなければならない。ルイズから聞いたのだが、この学院にも立派な図書館があるらしい。
しかし、平民は使えないのだろう。自分が入るためには、彼らに認めさせる必要があるかもしれない。
どうすればよいものか…。
「ん?」
キートンが空を見上げていると、何かが動いた。それは、魔法学院の本塔に向けて去ってゆく。
鳥では無いようだ。何よりも、それは不思議なことに塔の外壁に『立っている』ように見えた。
あれは、人間なのだろうか?
「忌々しいね…。物理衝撃が弱点にしても、いくらなんでも厚すぎる。お宝は目の前だってのに!」
外壁に立っている影がさも悔しそうに呟く。溜め息をつくと、地面に降り立った。
黒ローブを身に纏ったそれは腕組みをして考える。自分ではどうにも出来ないという悔しさからか、かなりイラついているようだ。
「このフーケの名にかけても、必ず盗んでやる…。さて、どうするかね」
そう呟いていると
「こんばんは」
フーケはびくっとして後ろを振り向く。そこには男が一人立っていた。なぜか、微笑を浮かべながら。
何者か、気配を全く感じなかった。このフーケにこうもあっさり近づくなんて!
殺るか――見られた以上は。
「散歩ですか?それにしても、立派な塔ですよねえ。ピサの斜塔とはまた違う趣きがあって、実に興味深いですよね」
「は?」
思わず、間の抜けた声を出す。こいつは何を言っているのか。なによりも、そのニヤけた顔を見ていると腹が立ってくる。
このわたしを前にして、この余裕。
それが気にいらなかった。
だが、そんなわたしを無視して、男は石を拾うと、ひょいひょいと両手を使って遊び始める。
「…とりあえず、わたしを恐れずに近づいてきた褒美に名乗っておくわ。『土くれのフーケ』と言えば、わかるでしょう?」
だが、男は首を傾げる。おかしい、並みの奴なら恐れるはずなのに。
「すみませんが、こっちの世界には連れてこられたばかりでして。あ、もしかして有名な方なんですか?」
殺す。
そう思い、素早く杖を握る。土の魔法で――!
「痛ッ!?」
そのとき、手に痛みが走る。思わず、杖を取りこぼしてしまう。杖は空中をくるくると回りながら――
いつの間に走り寄ってきたのか、男は杖を受け取ると、また不思議そうに掌で弄び始めた。
足元に石が転がっている。どうやら、この石を投げつけられたらしい。
「へえ…。意外に軽いんですねえ、これ」
そう言うと、男はくるくると器用に杖を回し始める。
――舐められている。
フーケは怒りのあまり、男に殴りかかる。だが、男はそんなフーケをひょいひょいとかわしながら、尚も不思議そうに杖を見ている。
「くっ、返せっ!このぉ!!」
「あっとと、すみません。もうちょっとだけ見せて下さい」
そんなやりとりをしている内に、近くから人の声が聞こえてくる。
喧騒を聞きつけられた―!?このフーケが、こうも、こうも…!
「あんた…!覚えておきなさい!今は退くけど、次はあんたを倒して杖を返してもらうからね!!」
怒りと屈辱で顔を真っ赤にしながらフーケは素早く去っていく。
「キートン!!」
少女が大声で男を呼ぶ。男はまた微笑むと、少女に向けて手を振った。
「…で、話を聞かせていただけるかな。使い魔君。いや、先に名前を聞いておいた方が良いかな」
学院長室。ルイズとキートンは学院長のオールド・オスマンに呼ばれていた。
学院内での喧嘩、その聴取という名目で呼ばれたのだが、実際には違う。
それを一番理解しているのはキートンだった。
オスマンの隣にはコルベール氏が控えている。彼も呼ばれたということは、相当重要な話をする気なのだろう。
「平賀・キートン・太一です」
「…すまんが、どれが名字なのかね。ヒラガ・キートン・タイチ君」
オスマンは少し困ったように言った。召喚されて以来、不思議な男だと思っていたが、どうにもこの男をつかめない。
「平賀もキートンもどちらも名字なんです」
「わたしはキートンと呼んでいます」
横からルイズが口を挟む。
「あー、おほん。では、キートン君。一体、何があったのか詳しく話してくれんかね」
オスマンはようやく理解したのか、話を進める。
本塔での出来事、それは学院長として見過ごすことの出来ない事例だからだ。
「私が散歩していると、塔に向けて人が去っていくのが見えました。それで、気になったので追いかけたんですが…」
そう言うと、キートンは一本の杖をオスマンに差し出す。
「黒いローブを身に着けた女性…だと思いますが。彼女は『土くれのフーケ』と名乗っていました」
「なんじゃと!!」
学院長室に大声が響く。ルイズも少しびっくりしたようだ。
オスマンは難しい顔をすると、キートンが差し出した杖をまじまじと観察する。
「…確かに、これはメイジ、それもかなりの者が持つものじゃ。キートン君、きみは知らんだろうが―」
オスマンはごほん、と咳払いをすると話をし始める。
長い話になりそうだな…。
「フーケはな、この国を騒がせている大怪盗じゃ。手並みも鮮やかなもので、未だに尻尾がつかめておらんのじゃよ」
オスマンは溜め息をつくと、窓の方へと目を向ける。
「しかし、困ったことじゃ。あのフーケが我が学び舎に来るとはのう。ミスタ・コルベール、恐らく奴の狙いは…」
「塔の五階にある宝物庫でしょうな」
尋ねられたコルベールが即答する。というよりも、怪盗が狙うものといえば、この学院だと宝物庫に間違いは無い。
そして、フーケはキートンの妨害に遭い、失敗した。杖をも奪われたとなると、恐らくまた襲ってくるに違いない。
「しかし、あのフーケの杖を奪うとは、君は何者なのかね?」
オスマンは鋭い目でキートンを見る。ギーシュのときもそうだったが、やはり一筋縄ではいかない男であることは確かなようだ。
もっとも、目の前で照れ笑いをしながら頭を掻く姿を見ていると、そうは思えないのだが。
「…とにかく、フーケの杖は私が預かる。キートン君、ミス・ヴァリエール」
「はい」
二人は同時に声をあげる。キートンが急にビシッとしたもんだから、オスマンはやや気圧されてしまった。
「う、うむ。すまんが、君達は明日からフーケの警戒にあたってくれ。彼奴のことじゃ、これで諦めはすまい」
「え…!?」
ルイズが驚く。無理も無い。いきなりこんな大任を押し付けられたのだから。
「それは、極秘の依頼、と言う事ですか?」
落ち着いた口調でキートンがオスマンに尋ねる。ちょっと、あんた!何を―とルイズが言おうとしたのだが、二人はどんどんと話を進めてしまう。
「無論じゃ。学院内部にフーケ出現なんて広まったら、動揺が起きるからのう。
これは私個人が君達に依頼することじゃ。奴は必ず君達に食いついてくるだろうしな」
オスマンはそう言うと、からからと笑い出した。
「なに、別に奴と戦えと言っとる訳じゃない。ミスタ・コルベールを君達の連絡役につけるから、彼を頼るといい。良いな、ミスタ・コルベール」
「はい、学院長。キートンさん、よろしくお願いします」
コルベールはそう言うと、キートンに一礼した。
「では、解散!くれぐれも深追いはせんようにな」
二人が退出した後、部屋にはオスマンとコルベールの二人だけとなった。
「のう、ミスタ・コルベール」
「なんでしょうか、学院長」
「ミス・ロングビルが何処に行ったか知らんか?寂しいのう…」
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