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「ZERONATORオーガン-5」(2008/10/27 (月) 06:48:44) の最新版変更点
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第五話「真夜中のシエスタ」
スリの大群を全滅させてから約30分後、ようやくオーガンはルイズたちと合流した。
勢いあまってスリの集団を皆殺しにした事を報告したオーガンを、ルイズたちは絶句しながら見ていた。
一方、衛士たちは混乱していた。
裏通りから聞こえる怒号と悲鳴を聞いて駆けつけたときには、既に死体が浮かぶ血の海だけが残されていたからだ。
隊長は、死体の中で見覚えのある顔を多数発見した。
そして、瞬時に死体の山がスリグループの成れの果てであることに気付いた。
「皆殺しか…」
さらに死体の切断面を見て顔を歪めた。
「骨ごとバッサリか…」
「隊長、その程度は序の口ですよ。アッチにあったメイジのなんかスポンジケーキですよ」
「マジかよ…」
「あとコイツらが武器を手に、トリステイン学院の生徒と、その付き人のメイドと執事を追い回していたのを目撃した人が結構いました。証言を統合すると、コイツらを殺ったのはどうも執事みたいですよ」
「襲い掛かってきた百人以上の暴漢をたった一人で返り討ち。正当防衛ってワケね。で、その執事の特徴は?」
「ポケットがたくさん付いたジャケットを着ていて、1.5メイル以上の剣を背負っていたそうです。ひょっとしたらあの武器屋にいた、両手にインテリジェンス・ウェポンを持ってた執事かもしれません」
「となると、残りの3人はあの時の生徒2人と黒髪のメイドさんか」
「どうします?」
「貴族の子女に襲いかかろうとしてその付き人に皆殺しにされたって報告するしかないな」
その頃、ルイズたちは洒落た宝石店に入っていた。
ギーシュの目的である、「モンモランシーとケティとシエスタへの侘びの品」を買うためである。
ちなみに、シエスタへの侘びの品は、ルビー、サファイア、エメラルドがついた高そうなブローチであった。
店の中でルイズだけは微妙に浮いていた。
この店による途中、露店で買った頭巾みたいな奇妙な帽子を被っていたからだ。
ルイズは買った際に、「ヒコー帽」という帽子であることを露店の親父に教えてもらっていた。
店員が店内にいる間は帽子を脱いでもらおうと注意しようとしたが、店長が止めた。
この店の店長、ルイズが被っている飛行帽を本来被るべき人種と縁ある女であった。
ちなみに彼女は、さっきまでオーガンのボマージャケットを「褒め回すように」見ていたが、今度はルイズの飛行帽を「魅入るように」見ていた。
仕事しろよ。
つばの広い帽子を深々と被ったメイジがルイズとオーガンをまじまじと見た後、気付かれないように店を出た。
「カトレア宛の手紙を盗み読んだときは面食らったけど…、本当みたいね。ちびルイズが『究極の使い魔』を召喚したのは。そして…あれが人間に化ける能力を習得したことも」
エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール嬢は、最高の研究対象を見つけたせいか、舌なめずりしながらそう言った。
一方、ヴァリエール公爵邸にある、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの私室。
カトレアの横で跪いている人の形をした紫の異形が、言葉を発した。
「マダム・カトレア、報告が来ました」
「彼女は何と?」
「ルイズ様が召喚した使い魔、監視の結果、我らが知る『デトネイター・オーガン』で間違いないとのことです」
「あらあら」
ヴァリエール家に送られた連絡には、「ルイズが自我を有したゴーレムらしきものを召喚した」程度の内容しか書かれていなかった。
もし「デトネイター・オーガンを召喚した」と書いたら最後、『アカデミー』に所属する長姉、エレオノールが黙っていない事は明らかだし、両親の方も力ずくでオーガンを領軍に組み込む可能性があったからだ。
しかし次姉、カトレアだけは、ルイズが自分宛に送った手紙から、妹が召喚したのが「デトネイター・オーガン」である事を知っていた。
手紙の内容を一緒に見ていた自分の使い魔たちの発言と反応から、彼らが知っている「オーガン」と同一の存在であるかどうかが気になったので、前日から使い魔の片割れである『彼女』に監視させていたのだ。
「ただ、エレオノール様もその事に勘付いたそうです。どうやらあの手紙を盗み読んだかと」
「あらら…釘を刺しておかないと。それと、いくら因縁があるからといっても、彼を襲撃してはだめですよ」
「御意」
場所は宝石店に戻る。
シエスタは気付いていなかったが、貴族の一人が彼女を数回チラ見していた。
数分後、モンモランシーとケティの分の侘びの品も買い終え、宝石店を出たルイズたちは足早にその場を離れた。
数十分前にオーガンがやらかした「スリグループ皆殺し」が原因である。
帰りの馬車の中、ルイズがオーガンを叱った後は朗らかな会話が続いた。
「人間に化ける能力ねぇ…。まるで先住魔法だな」
「人間に化ける魔法がるの?」
「ああ、韻竜が使うヤツでな、面倒ごとを避けるために使うのが殆どだ」
「もっとも、肝心の韻竜そのものには滅多なことじゃお目にかかれないのが実情さ」
オーガンの人間に化ける能力について談議するルイズとデルフリンガーとフリッケライガイスト。
その一方でシエスタがギーシュに話しかけていた。
「ミスタ・グラモン、ありがとう御座います。わざわざこのような高価な物を…」
「シエスタ、そのブローチは君へのお詫びとしてプレゼントしたんだ。遠慮する事はないよ」
ギーシュに続いて、今度はオーガンが口を開いた。
「ギーシュの言うとおりだ」
「オーガンもこう言っているんだからさ、ね?」
会話を弾ませながら、馬車は学院へと走っていった。
その上空を一匹のドラゴンが飛んでいたが、談笑に夢中だったオーガンは気付かなかった。
その日の夕食後、オーガンはオスマンに呼ばれ、学院長室の前に来た。
ノックしてからオーガンは自分が来た事を告げた。
「誰じゃ?」
「フレッシュ・オスマン、私だ」
「鍵は開いておる。入りなさい」
「失礼する」
オーガンが部屋に入ると、室内にはオスマンだけでなくコルベールもいた。
「コルベール先生、一体どうしてここに?」
オーガンは何故か教師陣の中でコルベールだけは「先生」と呼ぶ。
「実はね、君に教えておきたいことがあってね」
「それならわざわざフレッシュ・オスマンの部屋でなくとも…」
「この部屋でなければ話せぬことだからじゃ」
オスマンが会話に割って入った。
「この部屋でなければ?」
「オーガン君、これから話す事は、オールド・オスマンの許しが出るまで絶対に他言しないでほしい。ミス・ヴァリエールにもだ」
「それ程知られてはマズイことなのか?」
コルベールは無言で首を縦に振り、『始祖ブリミルの使い魔たち』の「始祖の使い魔のルーン」のページを見せた。
「このページの『神の盾』のルーンと、君自身のルーンを見比べてくれ」そう言われたオーガンは本に書かれているルーンと、自分の左手に刻まれているルーンを見比べ、完全に一致している事に気付いた。
「ガンダールヴ………!!」
「その通り、もう分かっただろう? 他言しないよう頼んだ理由が」
「私が、ガンダールヴだからか…」
「オーガン、強大な力を持つおぬしがミス・ヴァリエールによってこの地に再び召喚されたことは既に王宮に知られ、おぬしを引き渡せとの声も出始めとる。もしおぬしがガンダールヴになったのを知られたら最後、王宮のバカヤローどもは確実に強硬手段に出るぞ」
「例えば?」
「ミス・ヴァリエールを人質にとるか…、最悪身内を人質にしておぬしに王宮へ出向するように命令させるか。いくらでも考え付くのぉ」
直後、オーガンは元の姿に戻った。
左手のルーンが禍々しく鈍い輝きを放っていた。
「二百数十年…、それ程経ったのに、王宮に仕える者たちは今になってもあの時のような連中しかいないのか!?」
怒りに震えながら、言葉を搾り出すオーガンの姿を、オスマンとコルベールは見ることしか出来なかった。
「オーガン…」
「オーガン君…」
数分後、うな垂れながらオーガンは学院長室を出た。
ガンダールヴのルーンは未だに鈍い輝きを放っていたが、ルイズの部屋に戻る頃にはすっかり沈静化していた。
ルイズは何について話していたのかをオーガンに問いただしたが、オーガンは口止めされている旨を正直に報告した。
「口止めされてる?」
「はい、フレッシュ・オスマンの許可が出るまで絶対に他言しないようにと、コルベール先生に言われました」
「そう…。よほど重要な事なのね」
「はい」
さらに数分後、ルイズはオーガンを連れて大浴場にいた。
「御主人様、流石にそれはマズイのでは?」
「大丈夫よ。元の姿に戻っているんだから」
「説明になっていませんが」
「シャラップ! 大人しくついて来なさい!!」
「……はい」
「素直でよろしい。ところで、人間に化けている時に着ている服とかはどうなってるの?」
ルイズの疑問に答えるように、オーガンは黙って胸部装甲を開き、中心部の窪みから人間に化けている時に着ている執事服とボマージャケット、デルフリンガーを出した。
「圧縮空間?」
「だと思われます」
「本当に何でもアリね…」
「色々ありましたから」
デルフリンガーが出てきたことはとりあえずスルーしたルイズであった。
「おいコラ! 二人とも俺のことスルーすんじゃねぇ!!」
半強制的にオーガンを連れて、ルイズは女湯へと入っていった。
当然先に入っていた女子たちは騒然となった。
モンモランシーが文句を言ったが、ルイズの反応はにべもないものだった。、
「ちょっとルイズ、何で女湯にオーガンを連れてきてるのよ!」
「使い魔だから」
「理由になってない!」
「いいじゃない、人間に化けていないんだから」
モンモンがさらに吼えたが、ルイズにはどこ吹く風であった。
しばらくして入ってきたキュルケとタバサが見たのは、満面の笑みで浴槽につかっているルイズと、その横で正座しながら浴槽につかるオーガンであった。
「何でオーガンもいるのよ」
「オーガンが私のものだってことをあんたに見せ付けるためよ」
「それだけのために…?」
「大人気ない」
ルイズの回答に、キュルケだけでなくタバサまで呆れ返った。
一方、モンモランシーはオーガンの様子が少し変なことに気付き、声をかけた。
「オーガン、少し呼吸が荒いわよ」
「……分かるのか?」
「お風呂場は音が響くから」
ルイズのとっても甘い匂いにクラクラきているオーガンを見て、何となく気の毒に思ったモンモランシーであった。
キュルケはルイズの暴走に呆れながら、心の中で呟いた。
(探してた武器屋は店主が連行されてて潰れてたし、オマケにルイズがオーガンを連れて女湯に入ってるのを見せ付けられるなんて…。今日も散々だったわ…)
次の日、学院長室。
オスマンが書き終えた書状が巻かれ、それを待っていた貴族に渡された。
その貴族は、あの宝石店でシエスタをチラ見していた男であった。
「学院のご理解とご協力に感謝致します」
「王宮の勅命に理解も感謝もないと思うがの」
「これは手厳しい。ところでオールド・オスマン、つかぬ事をお聞きします」
「何じゃ?」
「かの「デトネイター・オーガン」がこの世界に再び現れたそうですが、彼の新たな主は「禁機」の保有許可証をお持ちですかな?」
その貴族の一言に眉をひそめながらオスマンは言い返した。
「モット伯、オーガンは「禁機」にあらず。命を有するものじゃ」
「これは失礼、何せ我々が知る「ソリッドアーマー」は人が身に纏うものばかりですから。では、これにて失礼します」
そう言って、その貴族―ジュール・ド・モット伯爵―は学院長室を後にした。
「禁機」、それは異世界から流れ着いた幾多の「機械」の内、世界に悪影響を及ぼしかねないが故に許可なき使用を禁じられた物の総称。
オーガンが眠っていた間、いくつかの「地球製ソリッドアーマー」がリンクマンごとこの世界に流れ着いた。
その当時は、リンクマン以外の人間を経由してもたらされた機械の構造を知り、錬成で機械を作れるメイジたちが出始めていた頃だった。
そのため、機械を危険視する声が既に出ていたが、ソリッドアーマーの流入がそれに拍車をかけた。
結果、ソリッドアーマーを始めとする、世界に悪影響を及ぼしかねない物は「禁機」と称されるようになり、保有許可証無き者の所持と使用が禁止される事となった。
もっとも、闇工房で作られたソリッドアーマーを秘密裏に有するメイジは多かったりするが。
モットが退室したのを見て、外で待機していたオスマンの秘書、ロングビルは頭を下げた。
「今度、ご一緒に食事でもどうですか、ミス・ロングビル」
モットの視線がすぐに自分の胸に移ったことに気付いたロングビルは、思わず両手で胸を覆った。
「そ、それは光栄ですわ、モット伯」
「フフフ、楽しみにしていますよ…」
「は、はい…」
モットが立ち去り、完全に姿が見えなくなった直後、ロングビルは敵意がこもった顔でその方向を睨み、すぐに学院長室に入った。
「王宮は今度はどのような無理難題を?」
「最近巷を騒がせる、「土くれのフーケ」なるに気をつけるようにと勧告に来ただけじゃ」
「あの、義賊気取りで有名な?」
「そうじゃ、ここ最近派手に動き回っておるらしい。それにこの学院には『魔人の槍』や『守護者たちの鎧』があるからの」
その一言を聞いたロングビルは、妖しい笑みを浮かべた。
「『魔人の槍』に『守護者たちの鎧』…随分と勇ましい名前で」
「フーケとやらが如何に優れていようとも、数名のスクウェアクラスが幾重にも固定化を重ねたここの宝物庫を破る事はできぬよ。それに、今はオーガンがおる」
「彼にかかれば、泥棒の一人や二人、楽勝と言うわけですね」
「その通りじゃ」
さらに次の日。
シエスタは女子寮を見上げていた。
しかし、彼女は両手に大きなカバンを持ち、服は私服だった。
その旨には、ギーシュからプレゼントされたブローチがついていた。
時間は過ぎて昼食時、オーガンは厨房で食事にありついていた。
食事をあらかた平らげ、ふと違和感を感じたオーガンはそれを言葉にした。
「親方さん、シエスタの姿が見当たらないが、どうかしたのか?」
周囲の空気が凍り、マルトー親方はやっとの思いで口を開いた。
「……我らの槍よ、聞いてくれるか?」
「その表情…、何かあったんだな」
オーガンがマルトー親方から聞いたのは、モットによってシエスタが強引に召し上げられたこと、モットが学院を訪問するたびにそれをやっていた事であった。
オーガンのルーンが禍々しい光を放つ。
周囲の者たちはそれを見て、オーガンが『怒っている』ことを悟った。
「我らの槍よ、どうするつもりだ」
「決まっている。シエスタを助ける!」
「殴りこみかい? オーガン」
その言葉を聴いたオーガンが顔を向けると、出入り口のドアを開けたギーシュが立っていた。
「ギーシュ、いつの間に」
「今朝からシエスタの姿が見えないのが気になってね。料理長なら何か知っていると思って来てみたら、まさかモット伯に召し上げられていたとは」
「止める気か?」
「まさか、僕の方は手伝う気満々だよ」
「ギーシュ…」
「これも彼女への償いさ。それに、僕はモット伯が大嫌いだ。男なら、自分の魅力だけで女性を虜にすべきだ」
「感謝する」
「君は僕の「友人」だからね。世の中、友の無茶に手を貸す友情だってあるのさ」
ギーシュはキザにウインクして見せた。
「こちそうさま、親方さん。失礼する」
「ああ、晩飯時になったらまたこいや。……我らの槍、貴族の坊ちゃん」
「どうした?」
「何か?」
厨房を後にしようとしたオーガンとギーシュに、マルトー親方はいきなり頭を下げた
「シエスタの事、よろしく頼むぜ」
オーガンとギーシュの答えは決まっていた。
『絶対に連れて帰る』
厨房を出て、歩きながらオーガンとギーシュは話を進めた。
「モット伯とは一体何者だ?」
「ジュール・ド・モット伯爵、王宮に仕える水のトライアングルクラスで、二つ名は「波濤」。自分の役職の性質をいいコトに、平民の女性を見繕っては汚い手段で買い入れ、自分の夜の相手も兼ねたメイドにしている。それ以外にも黒い噂が絶えない」
「汚い手段とは?」
「家族のことを持ち出す、故郷に累が及ぶと脅かす、相手の懐事情に漬け込んで金に物を言わせる、とにかく反吐が出るものばかりだ」
「シエスタは、家族か故郷の話を持ち出されたと見るべきか?」
「そう考えるべきだな」
「さっき言っていたモット伯の黒い噂とは?」
「媚薬の中でも使用が禁止されているタチが悪いものの常用、許可証を持っていないのに「禁機」を保有している、他にも色々あるが、真実味があるのは今言った二つぐらいだ」
「そうか。話の腰を折るようで悪いが、「禁機」とは何だ?」
「禁機っていうのは、世界に悪影響を及ぼしかねない機械の総称だ」
「いつの間に機械がこの世界に…」
「君が元いた世界に戻って、再び召喚されるまでの二百数十年間、ハルケギニアには様々な種類の機械が異世界から来た。「ホチョウキ」や「サイレン」などの『あってもいいな』と思えるものから、「ソリッドアーマー」みたいな『あったらマズイ』だろと思えるものまで」
「ソリッドアーマーがこの世界に?」
「少し長くなるが、説明しよう」
ギーシュは、「禁機」という言葉ができた経緯を説明した。
「……その結果、ソリッドアーマーやその他の強力な武器は「禁機」として、所持と使用には保有許可証が必要になった、という訳だ。ちなみに、許可証の取得は試験こそないが、国家や王家への忠誠心や精神状態といった人間面で厳しく審査されるから、そこら辺が疎かだと確実に落とされるね」
「もし許可証無しで所持していたらどうなる?」
「罰則自体は禁機の没収と収入に見合った分の罰金、月単位の謹慎で済む。犯罪目的で使用でもしない限り厳罰にはならないな。ただし、基本的に罰則が軽い分、王宮や司法院から長期に渡って監視される事になるけどね。」
「そうか。しかし、いいのか? もし殴り込みがバレたら君の実家に累が及びかねないぞ」
「覚悟の上だ。君だって、後でルイズにお仕置きされるのを承知の上で助けるつもりなんだろ?」
「ああ……。で、モット伯の屋敷はどこに?」
「人間が歩いて1時間ほどかかるところだ。僕が案内する」
「いつ決行する?」
「流石に今すぐは無理だ。時間帯とタイミングを考えると、夕食が終わった直後だな。その頃になったら宝物庫の前に集合だ。」
「分かった。それで、移動手段はどうする? 私はこの姿でもかなり早く走れるが、君の方は馬を使った方がいいぞ」
「そうさせてもらおう」
数時間後、宝物庫前。
いつもより早く夕食を終え、一足先に待っていたオーガンの前に、馬に乗ったギーシュが現れた。
「遅れたかな?」
「私のほうが早く夕食を終えただけだ。早く出発しよう、シエスタが危ない」
「了解」
ギーシュを乗せた馬とオーガンは、足早にモット邸へと走り去った。
二人がいないことに気付いたルイズとモンモランシーが、マルトー親方から殴りこみのことを聴かされ、偶然側でそれを聞いたキュルケとタバサと一緒に、シルフィードに乗ってモット邸に向かったのはそれから40分後であった。
モット邸、モットの自室。
室内には、モットとシエスタの二人がいた。
シエスタの着ているメイド服は、胸の谷間が露出し、スカートも短かった。
「他のものから聞いたが、なかなか優秀なようだな」
「もったいないお言葉です…」
「そう謙遜するな…」
「はい…」
「雑用のためだけに雇ったわけではないのだからな…」
モットはシエスタの肩を抱き、顔をうなじに近づけた。
シエスタはほほを赤くし、同時に心の中でつぶやいた。
(オーガンさん…)
「こんな時間だ、身を清めてきなさい」
「はい…」
シエスタが浴室に行ってから10分後、オーガンとギーシュは正門に到着していた。
馬は近くの森につなげ、待機させている。
「ここはどうする?」
「強行突破だね」
「ではそうしよう」
二人が正門に近づくと、門番が立ちふさがったが、オーガンのボディーブローで敢え無く気絶した。
門をデルフリンガーで切り裂き、オーガンとギーシュは屋敷の中目掛けて走り出した。
衛兵たちが立ちふさがったが、全員なす術もなくオーガンの鉄拳と、ワルキューレのみね打ちで叩きのめされた。
「今回は殺すなよ」
「分かっている」
屋敷の中に突入した二人を、今度はガーゴイルが待ち構えた。
「デルフリンガー、頼むぞ」
「まかしとけい!」
オーガンがデルフリンガーを振り回し、それと同時にガーゴイルたちが切り刻まれていった。
人間に化けている間は、元の姿と比べて格段に弱いとはいえ、それでもオーガンは強かった。
「お前、まさか『使い手』とはな。お前とオスマンに再会できたのが嬉しすぎて今まで気付かなかったぜ」
「口止めされているから、主には黙っていてくれ」
「りょーかい」
自室にいたモットは混乱していた。
突如として響き渡る悲鳴と、何かが切り裂かれる音が原因だ。
しかし、室内にノックもしないで入ってきた衛兵が敵襲を告げたことでで我に帰った。
そして敵が、メイジと平民の二人組みで、平民の方はガーゴイルを易々と切り捨てたと聞き、本棚を動かして抜け道へと姿を消した。
その抜け道は、禁制品を保管する地下の隠し倉庫に繋がっていた。
ガーゴイルを一通り片付け、ギーシュと二手に分かれていたオーガンは、シエスタの荷物を発見、回収してホールに戻った。
ほぼ同じタイミングで、シエスタを抱きかかえたギーシュが戻ってきた。
「ジャストタイミングだ、ギーシュ」
「そういう君はどうだった?」
オーガンは手に持ったカバンを両手で持ち上げながら答えた
「メイドたちの部屋にあった。ちゃんとブローチも入っているぞ」
そう言って、オーガンはカバンを投げ、ギーシュに抱きかかえられたシエスタは見事にキャッチした。
「長居は無用だ、急いで学院に……ガハッ!?」
突如として床から生えた腕がオーガンの脇腹に直撃し、壁に叩きつけた。
「オーガン!」
「オーガンさん!」
素早く立ち上がり、その腕を見たオーガンは戦慄した。
「ソリッドアーマー!」
床を突き破り、ソリッドアーマーがその全貌を現した。
そのソリッドアーマーを操縦しているは、モットであった。
「貴様が、衛兵が言っていた『ガーゴイルより強い平民』か。このソリッドアーマーの一撃を食らってもすぐに立てるところを見る限り、嘘ではないようだな」
「ジュール・ド・モット伯爵か!」
「如何にも。私こそ『波濤』のモット。何ゆえ我が屋敷に攻め入った?」
「貴様に強引に召し上げられたシエスタを助けるためだ!」
「シエスタ…、あのメイドは正式に雇い入れたのだ!」
「断れないように家族か故郷の事を持ち出してから雇い入れたんだろ?」
「ぐ…」
一瞬、モットの言葉が詰まった。
「図星か…。貴様のした事は誘拐と大して変わらん!」
「貴族をここまで愚弄するとは…。貴様のような愚かな平民は初めてだ!」
モット伯のその一言を否定するようにオーガンは叫び、元の姿に戻った。
左手のルーンから禍々しい輝きを放ちながら。
「悪魔めっ、許さんっ!」
オーガンが元の姿に戻る様を見て、モットは驚愕し、ギーシュとシエスタは固まった
「何だ、あの濁った色合いの輝きは!!」
「怒ってる…。オーガンさんが怒ってる…」
モットが口を開く。
「貴様、何者だ!」
「私は…オーガン……かつての「デトネイター・オーガン」だ。そして今は…ゼロネイター・オーガンだ!!」
「デトネイター・オーガンだと……!! 噂には聞いていたが、本当にあの絵とは姿が変わっていたと…」
今度はモットが言い終わる前にオーガンのパンチがソリッドアーマーの頭部に命中した。
直後に額のカバーが開き、オーガンはP.E.Cキャノン発射態勢に入った。
それを見たデルフリンガーが叫ぶ。
「今度は標準装備かよ!?」
「ウオォォォォォォォ――――――――――ッ!!!」
絶叫と共に発射されたP.E.Cキャノンは、ソリッドアーマーの右腕を消し飛ばし、当たらなかった部分を衝撃で破壊した。
シルフィードに乗ってモット邸へと急いでいたルイズたちが見たのは、屋根を貫通し、すぐに消えた光の柱であった。
ルイズが呟く。
「何だったの、あれ?」
「恐らく、ぺクサー・キャノン」
「ぺクサー・キャノン?」
「オーガンが額にフリッケライガイストを装着している時だけ使えた技。バンビーナ団戦記にはそう書かれていた」
「フリッケライガイストを…、ちょっと待ってよタバサ、フリッケライガイストは今は私が持ってるのよ」
そういってルイズは懐からフリッケライガイストを取り出した。
同時にフリッケライガイストが喋った。
「たぶん、一度元の世界に戻った時に、新しく装備したんだろ」
「その可能性が高い」
玄関前に着陸し、ルイズたちは屋敷内に入った。
そこで目にしたのは、デルフリンガー片手に立ち尽くすオーガンと、あわてて側に駆け寄ったギーシュとシエスタ、そしてソリッドアーマーが半壊した衝撃で気絶したモット伯であった。
ルイズは即行でオーガンの目の前に立った。
「オーガン、話は料理長から聞いたわよ」
オーガンだけでなく、誰もが、ルイズが怒号を浴びせると思っていたが、彼女は満面の笑みでこう言った。
「何、固まってるのよ、帰るわよ。……どうしたの、オーガン?」
オーガンは茫然自失となった。
「…いえ。てっきり、この場でお仕置きされるものかと思っていたので…」
「何言ってるの? 悪い事してないのに何でお仕置きしなきゃならないの」
「あの、充分『悪い事』をしてしまったつもりですが…」
室内に散らばる気絶した衛兵とガーゴイルの残骸、そして天井にあいた大穴を見渡しながらオーガンが言った。
「そういえば、私に一言も言わずに学園の敷地から出たわね」
「あの、それ以外にも…」
「“それ以外”は、シエスタを助けたから帳消しにしてあげるわ。それと、無断で敷地外に出た分のお仕置きは帰ってからするから。ほら、帰るわよ」
「………はい」
話を強引に切り上げ、ルイズたちは帰路に着いた。
モンモンはギーシュと一緒に馬で、オーガンはそれに併走して、残りはシルフィードに乗って学院へと向かっていた。
飛んでいるシルフィードの背の上で、シエスタは疑問をルイズにぶつけた。
「ミス・ヴァリエール、モット伯のお屋敷に殴りこんだことについて、何故オーガンさんを怒らなかったのですか?」
「あんたを助けたから。それだけよ」
「それだけ…ですか?」
「あんたには、オーガンのご飯の事で迷惑かけちゃったから」
学院に帰り着き、ルイズたちは宝物庫前で解散し、自分の部屋に戻った。
時間は過ぎて、大浴場の女風呂、ルイズは再びオーガンを連れていた。
「これが、お仕置きですか?」
「そうよ」
ルイズがアッサリと答えたので、オーガンは頭を抱えそうになった。
今回は、正座で浴槽につかっているオーガンの膝の上に乗りながら、ルイズがその平べったい胸板を押し付けていた。
前回、ルイズの甘い匂いにクラクラしていたオーガンの頭は、10分もしないうちにショートした。
オーガンの頭部のから漏れ出す煙を見たモンモランシーは、ルイズの近くにいながらこう言ってしまった。
「ルイズの……外道」
「コラ、洪水! 誰が外道よ、誰が!!」
「私は『洪水』じゃなくて『香水』よ!」
ルイズとモンモランシーの、浴槽をリングにした全裸キャットファイトを、タバサと一緒に冷めた目で見ながらキュルケはため息をついた。
「外道呼ばわりしたくなるわよ…」
「同意」
後日、モットは禁制品の所持と、禁機であるソリッドアーマーの無断保有を王宮に知られ、数ヶ月の謹慎と、莫大な罰金支払いを命じられた。
なお、オーガンとギーシュがモット邸に殴り込んだことに関しては、オスマンが司法院に圧力をかけたため、うやむやとなった。
「ホッホッホッホッホォ。あの程度のヤンチャをもみ消す事など簡単じゃい」
#navi(ZERONATORオーガン)
第五話「真夜中のシエスタ」
スリの大群を全滅させてから約30分後、ようやくオーガンはルイズたちと合流した。
勢いあまってスリの集団を皆殺しにした事を報告したオーガンを、ルイズたちは絶句しながら見ていた。
一方、衛士たちは混乱していた。
裏通りから聞こえる怒号と悲鳴を聞いて駆けつけたときには、既に死体が浮かぶ血の海だけが残されていたからだ。
隊長は、死体の中で見覚えのある顔を多数発見した。
そして、瞬時に死体の山がスリグループの成れの果てであることに気付いた。
「皆殺しか…」
さらに死体の切断面を見て顔を歪めた。
「骨ごとバッサリか…」
「隊長、その程度は序の口ですよ。アッチにあったメイジのなんかスポンジケーキですよ」
「マジかよ…」
「あとコイツらが武器を手に、トリステイン学院の生徒と、その付き人のメイドと執事を追い回していたのを目撃した人が結構いました。証言を統合すると、コイツらを殺ったのはどうも執事みたいですよ」
「襲い掛かってきた百人以上の暴漢をたった一人で返り討ち。正当防衛ってワケね。で、その執事の特徴は?」
「ポケットがたくさん付いたジャケットを着ていて、1.5メイル以上の剣を背負っていたそうです。ひょっとしたらあの武器屋にいた、両手にインテリジェンス・ウェポンを持ってた執事かもしれません」
「となると、残りの3人はあの時の生徒2人と黒髪のメイドさんか」
「どうします?」
「貴族の子女に襲いかかろうとしてその付き人に皆殺しにされたって報告するしかないな」
その頃、ルイズたちは洒落た宝石店に入っていた。
ギーシュの目的である、「モンモランシーとケティとシエスタへの侘びの品」を買うためである。
ちなみに、シエスタへの侘びの品は、ルビー、サファイア、エメラルドがついた高そうなブローチであった。
店の中でルイズだけは微妙に浮いていた。
この店による途中、露店で買った頭巾みたいな奇妙な帽子を被っていたからだ。
ルイズは買った際に、「ヒコー帽」という帽子であることを露店の親父に教えてもらっていた。
店員が店内にいる間は帽子を脱いでもらおうと注意しようとしたが、店長が止めた。
この店の店長、ルイズが被っている飛行帽を本来被るべき人種と縁ある女であった。
ちなみに彼女は、さっきまでオーガンのボマージャケットを「褒め回すように」見ていたが、今度はルイズの飛行帽を「魅入るように」見ていた。
仕事しろよ。
つばの広い帽子を深々と被ったメイジがルイズとオーガンをまじまじと見た後、気付かれないように店を出た。
「カトレア宛の手紙を盗み読んだときは面食らったけど…、本当みたいね。ちびルイズが『究極の使い魔』を召喚したのは。そして…あれが人間に化ける能力を習得したことも」
エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール嬢は、最高の研究対象を見つけたせいか、舌なめずりしながらそう言った。
一方、ヴァリエール公爵邸にある、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの私室。
カトレアの横で跪いている人の形をした紫の異形が、言葉を発した。
「マダム・カトレア、報告が来ました」
「彼女は何と?」
「ルイズ様が召喚した使い魔、監視の結果、我らが知る『デトネイター・オーガン』で間違いないとのことです」
「あらあら」
ヴァリエール家に送られた連絡には、「ルイズが自我を有したゴーレムらしきものを召喚した」程度の内容しか書かれていなかった。
もし「デトネイター・オーガンを召喚した」と書いたら最後、『アカデミー』に所属する長姉、エレオノールが黙っていない事は明らかだし、両親の方も力ずくでオーガンを領軍に組み込む可能性があったからだ。
しかし次姉、カトレアだけは、ルイズが自分宛に送った手紙から、妹が召喚したのが「デトネイター・オーガン」である事を知っていた。
手紙の内容を一緒に見ていた自分の使い魔たちの発言と反応から、彼らが知っている「オーガン」と同一の存在であるかどうかが気になったので、前日から使い魔の片割れである『彼女』に監視させていたのだ。
「ただ、エレオノール様もその事に勘付いたそうです。どうやらあの手紙を盗み読んだかと」
「あらら…釘を刺しておかないと。それと、いくら因縁があるからといっても、彼を襲撃してはだめですよ」
「御意」
場所は宝石店に戻る。
シエスタは気付いていなかったが、貴族の一人が彼女を数回チラ見していた。
数分後、モンモランシーとケティの分の侘びの品も買い終え、宝石店を出たルイズたちは足早にその場を離れた。
数十分前にオーガンがやらかした「スリグループ皆殺し」が原因である。
帰りの馬車の中、ルイズがオーガンを叱った後は朗らかな会話が続いた。
「人間に化ける能力ねぇ…。まるで先住魔法だな」
「人間に化ける魔法がるの?」
「ああ、韻竜が使うヤツでな、面倒ごとを避けるために使うのが殆どだ」
「もっとも、肝心の韻竜そのものには滅多なことじゃお目にかかれないのが実情さ」
オーガンの人間に化ける能力について談議するルイズとデルフリンガーとフリッケライガイスト。
その一方でシエスタがギーシュに話しかけていた。
「ミスタ・グラモン、ありがとう御座います。わざわざこのような高価な物を…」
「シエスタ、そのブローチは君へのお詫びとしてプレゼントしたんだ。遠慮する事はないよ」
ギーシュに続いて、今度はオーガンが口を開いた。
「ギーシュの言うとおりだ」
「オーガンもこう言っているんだからさ、ね?」
会話を弾ませながら、馬車は学院へと走っていった。
その上空を一匹のドラゴンが飛んでいたが、談笑に夢中だったオーガンは気付かなかった。
その日の夕食後、オーガンはオスマンに呼ばれ、学院長室の前に来た。
ノックしてからオーガンは自分が来た事を告げた。
「誰じゃ?」
「フレッシュ・オスマン、私だ」
「鍵は開いておる。入りなさい」
「失礼する」
オーガンが部屋に入ると、室内にはオスマンだけでなくコルベールもいた。
「コルベール先生、一体どうしてここに?」
オーガンは何故か教師陣の中でコルベールだけは「先生」と呼ぶ。
「実はね、君に教えておきたいことがあってね」
「それならわざわざフレッシュ・オスマンの部屋でなくとも…」
「この部屋でなければ話せぬことだからじゃ」
オスマンが会話に割って入った。
「この部屋でなければ?」
「オーガン君、これから話す事は、オールド・オスマンの許しが出るまで絶対に他言しないでほしい。ミス・ヴァリエールにもだ」
「それ程知られてはマズイことなのか?」
コルベールは無言で首を縦に振り、『始祖ブリミルの使い魔たち』の「始祖の使い魔のルーン」のページを見せた。
「このページの『神の盾』のルーンと、君自身のルーンを見比べてくれ」そう言われたオーガンは本に書かれているルーンと、自分の左手に刻まれているルーンを見比べ、完全に一致している事に気付いた。
「ガンダールヴ………!!」
「その通り、もう分かっただろう? 他言しないよう頼んだ理由が」
「私が、ガンダールヴだからか…」
「オーガン、強大な力を持つおぬしがミス・ヴァリエールによってこの地に再び召喚されたことは既に王宮に知られ、おぬしを引き渡せとの声も出始めとる。もしおぬしがガンダールヴになったのを知られたら最後、王宮のバカヤローどもは確実に強硬手段に出るぞ」
「例えば?」
「ミス・ヴァリエールを人質にとるか…、最悪身内を人質にしておぬしに王宮へ出向するように命令させるか。いくらでも考え付くのぉ」
直後、オーガンは元の姿に戻った。
左手のルーンが禍々しく鈍い輝きを放っていた。
「二百数十年…、それ程経ったのに、王宮に仕える者たちは今になってもあの時のような連中しかいないのか!?」
怒りに震えながら、言葉を搾り出すオーガンの姿を、オスマンとコルベールは見ることしか出来なかった。
「オーガン…」
「オーガン君…」
数分後、うな垂れながらオーガンは学院長室を出た。
ガンダールヴのルーンは未だに鈍い輝きを放っていたが、ルイズの部屋に戻る頃にはすっかり沈静化していた。
ルイズは何について話していたのかをオーガンに問いただしたが、オーガンは口止めされている旨を正直に報告した。
「口止めされてる?」
「はい、フレッシュ・オスマンの許可が出るまで絶対に他言しないようにと、コルベール先生に言われました」
「そう…。よほど重要な事なのね」
「はい」
さらに数分後、ルイズはオーガンを連れて大浴場にいた。
「御主人様、流石にそれはマズイのでは?」
「大丈夫よ。元の姿に戻っているんだから」
「説明になっていませんが」
「シャラップ! 大人しくついて来なさい!!」
「……はい」
「素直でよろしい。ところで、人間に化けている時に着ている服とかはどうなってるの?」
ルイズの疑問に答えるように、オーガンは黙って胸部装甲を開き、中心部の窪みから人間に化けている時に着ている執事服とボマージャケット、デルフリンガーを出した。
「圧縮空間?」
「だと思われます」
「本当に何でもアリね…」
「色々ありましたから」
デルフリンガーが出てきたことはとりあえずスルーしたルイズであった。
「おいコラ! 二人とも俺のことスルーすんじゃねぇ!!」
半強制的にオーガンを連れて、ルイズは女湯へと入っていった。
当然先に入っていた女子たちは騒然となった。
モンモランシーが文句を言ったが、ルイズの反応はにべもないものだった。、
「ちょっとルイズ、何で女湯にオーガンを連れてきてるのよ!」
「使い魔だから」
「理由になってない!」
「いいじゃない、人間に化けていないんだから」
モンモンがさらに吼えたが、ルイズにはどこ吹く風であった。
しばらくして入ってきたキュルケとタバサが見たのは、満面の笑みで浴槽につかっているルイズと、その横で正座しながら浴槽につかるオーガンであった。
「何でオーガンもいるのよ」
「オーガンが私のものだってことをあんたに見せ付けるためよ」
「それだけのために…?」
「大人気ない」
ルイズの回答に、キュルケだけでなくタバサまで呆れ返った。
一方、モンモランシーはオーガンの様子が少し変なことに気付き、声をかけた。
「オーガン、少し呼吸が荒いわよ」
「……分かるのか?」
「お風呂場は音が響くから」
ルイズのとっても甘い匂いにクラクラきているオーガンを見て、何となく気の毒に思ったモンモランシーであった。
キュルケはルイズの暴走に呆れながら、心の中で呟いた。
(探してた武器屋は店主が連行されてて潰れてたし、オマケにルイズがオーガンを連れて女湯に入ってるのを見せ付けられるなんて…。今日も散々だったわ…)
次の日、学院長室。
オスマンが書き終えた書状が巻かれ、それを待っていた貴族に渡された。
その貴族は、あの宝石店でシエスタをチラ見していた男であった。
「学院のご理解とご協力に感謝致します」
「王宮の勅命に理解も感謝もないと思うがの」
「これは手厳しい。ところでオールド・オスマン、つかぬ事をお聞きします」
「何じゃ?」
「かの「デトネイター・オーガン」がこの世界に再び現れたそうですが、彼の新たな主は「禁機」の保有許可証をお持ちですかな?」
その貴族の一言に眉をひそめながらオスマンは言い返した。
「モット伯、オーガンは「禁機」にあらず。命を有するものじゃ」
「これは失礼、何せ我々が知る「ソリッドアーマー」は人が身に纏うものばかりですから。では、これにて失礼します」
そう言って、その貴族―ジュール・ド・モット伯爵―は学院長室を後にした。
「禁機」、それは異世界から流れ着いた幾多の「機械」の内、世界に悪影響を及ぼしかねないが故に許可なき使用を禁じられた物の総称。
オーガンが眠っていた間、いくつかの「地球製ソリッドアーマー」がリンクマンごとこの世界に流れ着いた。
その当時は、リンクマン以外の人間を経由してもたらされた機械の構造を知り、錬成で機械を作れるメイジたちが出始めていた頃だった。
そのため、機械を危険視する声が既に出ていたが、ソリッドアーマーの流入がそれに拍車をかけた。
結果、ソリッドアーマーを始めとする、世界に悪影響を及ぼしかねない物は「禁機」と称されるようになり、保有許可証無き者の所持と使用が禁止される事となった。
もっとも、闇工房で作られたソリッドアーマーを秘密裏に有するメイジは多かったりするが。
モットが退室したのを見て、外で待機していたオスマンの秘書、ロングビルは頭を下げた。
「今度、ご一緒に食事でもどうですか、ミス・ロングビル」
モットの視線がすぐに自分の胸に移ったことに気付いたロングビルは、思わず両手で胸を覆った。
「そ、それは光栄ですわ、モット伯」
「フフフ、楽しみにしていますよ…」
「は、はい…」
モットが立ち去り、完全に姿が見えなくなった直後、ロングビルは敵意がこもった顔でその方向を睨み、すぐに学院長室に入った。
「王宮は今度はどのような無理難題を?」
「最近巷を騒がせる、「土くれのフーケ」なるに気をつけるようにと勧告に来ただけじゃ」
「あの、義賊気取りで有名な?」
「そうじゃ、ここ最近派手に動き回っておるらしい。それにこの学院には『魔人の槍』や『守護者たちの鎧』があるからの」
その一言を聞いたロングビルは、妖しい笑みを浮かべた。
「『魔人の槍』に『守護者たちの鎧』…随分と勇ましい名前で」
「フーケとやらが如何に優れていようとも、数名のスクウェアクラスが幾重にも固定化を重ねたここの宝物庫を破る事はできぬよ。それに、今はオーガンがおる」
「彼にかかれば、泥棒の一人や二人、楽勝と言うわけですね」
「その通りじゃ」
さらに次の日。
シエスタは女子寮を見上げていた。
しかし、彼女は両手に大きなカバンを持ち、服は私服だった。
その旨には、ギーシュからプレゼントされたブローチがついていた。
時間は過ぎて昼食時、オーガンは厨房で食事にありついていた。
食事をあらかた平らげ、ふと違和感を感じたオーガンはそれを言葉にした。
「親方さん、シエスタの姿が見当たらないが、どうかしたのか?」
周囲の空気が凍り、マルトー親方はやっとの思いで口を開いた。
「……我らの槍よ、聞いてくれるか?」
「その表情…、何かあったんだな」
オーガンがマルトー親方から聞いたのは、モットによってシエスタが強引に召し上げられたこと、モットが学院を訪問するたびにそれをやっていた事であった。
オーガンのルーンが禍々しい光を放つ。
周囲の者たちはそれを見て、オーガンが『怒っている』ことを悟った。
「我らの槍よ、どうするつもりだ」
「決まっている。シエスタを助ける!」
「殴りこみかい? オーガン」
その言葉を聴いたオーガンが顔を向けると、出入り口のドアを開けたギーシュが立っていた。
「ギーシュ、いつの間に」
「今朝からシエスタの姿が見えないのが気になってね。料理長なら何か知っていると思って来てみたら、まさかモット伯に召し上げられていたとは」
「止める気か?」
「まさか、僕の方は手伝う気満々だよ」
「ギーシュ…」
「これも彼女への償いさ。それに、僕はモット伯が大嫌いだ。男なら、自分の魅力だけで女性を虜にすべきだ」
「感謝する」
「君は僕の「友人」だからね。世の中、友の無茶に手を貸す友情だってあるのさ」
ギーシュはキザにウインクして見せた。
「こちそうさま、親方さん。失礼する」
「ああ、晩飯時になったらまたこいや。……我らの槍、貴族の坊ちゃん」
「どうした?」
「何か?」
厨房を後にしようとしたオーガンとギーシュに、マルトー親方はいきなり頭を下げた
「シエスタの事、よろしく頼むぜ」
オーガンとギーシュの答えは決まっていた。
『絶対に連れて帰る』
厨房を出て、歩きながらオーガンとギーシュは話を進めた。
「モット伯とは一体何者だ?」
「ジュール・ド・モット伯爵、王宮に仕える水のトライアングルクラスで、二つ名は「波濤」。自分の役職の性質をいいコトに、平民の女性を見繕っては汚い手段で買い入れ、自分の夜の相手も兼ねたメイドにしている。それ以外にも黒い噂が絶えない」
「汚い手段とは?」
「家族のことを持ち出す、故郷に累が及ぶと脅かす、相手の懐事情に漬け込んで金に物を言わせる、とにかく反吐が出るものばかりだ」
「シエスタは、家族か故郷の話を持ち出されたと見るべきか?」
「そう考えるべきだな」
「さっき言っていたモット伯の黒い噂とは?」
「媚薬の中でも使用が禁止されているタチが悪いものの常用、許可証を持っていないのに「禁機」を保有している、他にも色々あるが、真実味があるのは今言った二つぐらいだ」
「そうか。話の腰を折るようで悪いが、「禁機」とは何だ?」
「禁機っていうのは、世界に悪影響を及ぼしかねない機械の総称だ」
「いつの間に機械がこの世界に…」
「君が元いた世界に戻って、再び召喚されるまでの二百数十年間、ハルケギニアには様々な種類の機械が異世界から来た。「ホチョウキ」や「サイレン」などの『あってもいいな』と思えるものから、「ソリッドアーマー」みたいな『あったらマズイ』だろと思えるものまで」
「ソリッドアーマーがこの世界に?」
「少し長くなるが、説明しよう」
ギーシュは、「禁機」という言葉ができた経緯を説明した。
「……その結果、ソリッドアーマーやその他の強力な武器は「禁機」として、所持と使用には保有許可証が必要になった、という訳だ。ちなみに、許可証の取得は試験こそないが、国家や王家への忠誠心や精神状態といった人間面で厳しく審査されるから、そこら辺が疎かだと確実に落とされるね」
「もし許可証無しで所持していたらどうなる?」
「罰則自体は禁機の没収と収入に見合った分の罰金、月単位の謹慎で済む。犯罪目的で使用でもしない限り厳罰にはならないな。ただし、基本的に罰則が軽い分、王宮や司法院から長期に渡って監視される事になるけどね。」
「そうか。しかし、いいのか? もし殴り込みがバレたら君の実家に累が及びかねないぞ」
「覚悟の上だ。君だって、後でルイズにお仕置きされるのを承知の上で助けるつもりなんだろ?」
「ああ……。で、モット伯の屋敷はどこに?」
「人間が歩いて1時間ほどかかるところだ。僕が案内する」
「いつ決行する?」
「流石に今すぐは無理だ。時間帯とタイミングを考えると、夕食が終わった直後だな。その頃になったら宝物庫の前に集合だ。」
「分かった。それで、移動手段はどうする? 私はこの姿でもかなり早く走れるが、君の方は馬を使った方がいいぞ」
「そうさせてもらおう」
数時間後、宝物庫前。
いつもより早く夕食を終え、一足先に待っていたオーガンの前に、馬に乗ったギーシュが現れた。
「遅れたかな?」
「私のほうが早く夕食を終えただけだ。早く出発しよう、シエスタが危ない」
「了解」
ギーシュを乗せた馬とオーガンは、足早にモット邸へと走り去った。
二人がいないことに気付いたルイズとモンモランシーが、マルトー親方から殴りこみのことを聴かされ、偶然側でそれを聞いたキュルケとタバサと一緒に、シルフィードに乗ってモット邸に向かったのはそれから40分後であった。
モット邸、モットの自室。
室内には、モットとシエスタの二人がいた。
シエスタの着ているメイド服は、胸の谷間が露出し、スカートも短かった。
「他のものから聞いたが、なかなか優秀なようだな」
「もったいないお言葉です…」
「そう謙遜するな…」
「はい…」
「雑用のためだけに雇ったわけではないのだからな…」
モットはシエスタの肩を抱き、顔をうなじに近づけた。
シエスタはほほを赤くし、同時に心の中でつぶやいた。
(オーガンさん…)
「こんな時間だ、身を清めてきなさい」
「はい…」
シエスタが浴室に行ってから10分後、オーガンとギーシュは正門に到着していた。
馬は近くの森につなげ、待機させている。
「ここはどうする?」
「強行突破だね」
「ではそうしよう」
二人が正門に近づくと、門番が立ちふさがったが、オーガンのボディーブローで敢え無く気絶した。
門をデルフリンガーで切り裂き、オーガンとギーシュは屋敷の中目掛けて走り出した。
衛兵たちが立ちふさがったが、全員なす術もなくオーガンの鉄拳と、ワルキューレのみね打ちで叩きのめされた。
「今回は殺すなよ」
「分かっている」
屋敷の中に突入した二人を、今度はガーゴイルが待ち構えた。
「デルフリンガー、頼むぞ」
「まかしとけい!」
オーガンがデルフリンガーを振り回し、それと同時にガーゴイルたちが切り刻まれていった。
人間に化けている間は、元の姿と比べて格段に弱いとはいえ、それでもオーガンは強かった。
「お前、まさか『使い手』とはな。お前とオスマンに再会できたのが嬉しすぎて今まで気付かなかったぜ」
「口止めされているから、主には黙っていてくれ」
「りょーかい」
自室にいたモットは混乱していた。
突如として響き渡る悲鳴と、何かが切り裂かれる音が原因だ。
しかし、室内にノックもしないで入ってきた衛兵が敵襲を告げたことでで我に帰った。
そして敵が、メイジと平民の二人組みで、平民の方はガーゴイルを易々と切り捨てたと聞き、本棚を動かして抜け道へと姿を消した。
その抜け道は、禁制品を保管する地下の隠し倉庫に繋がっていた。
ガーゴイルを一通り片付け、ギーシュと二手に分かれていたオーガンは、シエスタの荷物を発見、回収してホールに戻った。
ほぼ同じタイミングで、シエスタを抱きかかえたギーシュが戻ってきた。
「ジャストタイミングだ、ギーシュ」
「そういう君はどうだった?」
オーガンは手に持ったカバンを両手で持ち上げながら答えた
「メイドたちの部屋にあった。ちゃんとブローチも入っているぞ」
そう言って、オーガンはカバンを投げ、ギーシュに抱きかかえられたシエスタは見事にキャッチした。
「長居は無用だ、急いで学院に……ガハッ!?」
突如として床から生えた腕がオーガンの脇腹に直撃し、壁に叩きつけた。
「オーガン!」
「オーガンさん!」
素早く立ち上がり、その腕を見たオーガンは戦慄した。
「ソリッドアーマー!」
床を突き破り、ソリッドアーマーがその全貌を現した。
そのソリッドアーマーを操縦しているは、モットであった。
「貴様が、衛兵が言っていた『ガーゴイルより強い平民』か。このソリッドアーマーの一撃を食らってもすぐに立てるところを見る限り、嘘ではないようだな」
「ジュール・ド・モット伯爵か!」
「如何にも。私こそ『波濤』のモット。何ゆえ我が屋敷に攻め入った?」
「貴様に強引に召し上げられたシエスタを助けるためだ!」
「シエスタ…、あのメイドは正式に雇い入れたのだ!」
「断れないように家族か故郷の事を持ち出してから雇い入れたんだろ?」
「ぐ…」
一瞬、モットの言葉が詰まった。
「図星か…。貴様のした事は誘拐と大して変わらん!」
「貴族をここまで愚弄するとは…。貴様のような愚かな平民は初めてだ!」
モット伯のその一言を否定するようにオーガンは叫び、元の姿に戻った。
左手のルーンから禍々しい輝きを放ちながら。
「悪魔めっ、許さんっ!」
オーガンが元の姿に戻る様を見て、モットは驚愕し、ギーシュとシエスタは固まった
「何だ、あの濁った色合いの輝きは!!」
「怒ってる…。オーガンさんが怒ってる…」
モットが口を開く。
「貴様、何者だ!」
「私は…オーガン……かつての「デトネイター・オーガン」だ。そして今は…ゼロネイター・オーガンだ!!」
「デトネイター・オーガンだと……!! 噂には聞いていたが、本当にあの絵とは姿が変わっていたと…」
今度はモットが言い終わる前にオーガンのパンチがソリッドアーマーの頭部に命中した。
直後に額のカバーが開き、オーガンはP.E.Cキャノン発射態勢に入った。
それを見たデルフリンガーが叫ぶ。
「今度は標準装備かよ!?」
「ウオォォォォォォォ――――――――――ッ!!!」
絶叫と共に発射されたP.E.Cキャノンは、ソリッドアーマーの右腕を消し飛ばし、当たらなかった部分を衝撃で破壊した。
シルフィードに乗ってモット邸へと急いでいたルイズたちが見たのは、屋根を貫通し、すぐに消えた光の柱であった。
ルイズが呟く。
「何だったの、あれ?」
「恐らく、ぺクサー・キャノン」
「ぺクサー・キャノン?」
「オーガンが額にフリッケライガイストを装着している時だけ使えた技。バンビーナ団戦記にはそう書かれていた」
「フリッケライガイストを…、ちょっと待ってよタバサ、フリッケライガイストは今は私が持ってるのよ」
そういってルイズは懐からフリッケライガイストを取り出した。
同時にフリッケライガイストが喋った。
「たぶん、一度元の世界に戻った時に、新しく装備したんだろ」
「その可能性が高い」
玄関前に着陸し、ルイズたちは屋敷内に入った。
そこで目にしたのは、デルフリンガー片手に立ち尽くすオーガンと、あわてて側に駆け寄ったギーシュとシエスタ、そしてソリッドアーマーが半壊した衝撃で気絶したモット伯であった。
ルイズは即行でオーガンの目の前に立った。
「オーガン、話は料理長から聞いたわよ」
オーガンだけでなく、誰もが、ルイズが怒号を浴びせると思っていたが、彼女は満面の笑みでこう言った。
「何、固まってるのよ、帰るわよ。……どうしたの、オーガン?」
オーガンは茫然自失となった。
「…いえ。てっきり、この場でお仕置きされるものかと思っていたので…」
「何言ってるの? 悪い事してないのに何でお仕置きしなきゃならないの」
「あの、充分『悪い事』をしてしまったつもりですが…」
室内に散らばる気絶した衛兵とガーゴイルの残骸、そして天井にあいた大穴を見渡しながらオーガンが言った。
「そういえば、私に一言も言わずに学園の敷地から出たわね」
「あの、それ以外にも…」
「“それ以外”は、シエスタを助けたから帳消しにしてあげるわ。それと、無断で敷地外に出た分のお仕置きは帰ってからするから。ほら、帰るわよ」
「………はい」
話を強引に切り上げ、ルイズたちは帰路に着いた。
モンモンはギーシュと一緒に馬で、オーガンはそれに併走して、残りはシルフィードに乗って学院へと向かっていた。
飛んでいるシルフィードの背の上で、シエスタは疑問をルイズにぶつけた。
「ミス・ヴァリエール、モット伯のお屋敷に殴りこんだことについて、何故オーガンさんを怒らなかったのですか?」
「あんたを助けたから。それだけよ」
「それだけ…ですか?」
「あんたには、オーガンのご飯の事で迷惑かけちゃったから」
学院に帰り着き、ルイズたちは宝物庫前で解散し、自分の部屋に戻った。
時間は過ぎて、大浴場の女風呂、ルイズは再びオーガンを連れていた。
「これが、お仕置きですか?」
「そうよ」
ルイズがアッサリと答えたので、オーガンは頭を抱えそうになった。
今回は、正座で浴槽につかっているオーガンの膝の上に乗りながら、ルイズがその平べったい胸板を押し付けていた。
前回、ルイズの甘い匂いにクラクラしていたオーガンの頭は、10分もしないうちにショートした。
オーガンの頭部から漏れ出す煙を見たモンモランシーは、ルイズの近くにいながらこう言ってしまった。
「ルイズの……外道」
「コラ、洪水! 誰が外道よ、誰が!!」
「私は『洪水』じゃなくて『香水』よ!」
ルイズとモンモランシーの、浴槽をリングにした全裸キャットファイトを、タバサと一緒に冷めた目で見ながらキュルケはため息をついた。
「外道呼ばわりしたくなるわよ…」
「同意」
後日、モットは禁制品の所持と、禁機であるソリッドアーマーの無断保有を王宮に知られ、数ヶ月の謹慎と、莫大な罰金支払いを命じられた。
なお、オーガンとギーシュがモット邸に殴り込んだことに関しては、オスマンが司法院に圧力をかけたため、うやむやとなった。
「ホッホッホッホッホォ。あの程度のヤンチャをもみ消す事など簡単じゃい」
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