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&setpagename(プロローグ)
その日、何百坪かも定かではない広大な敷地に建てられた豪邸でパーティーが行われていた。
豪邸内で最も広いホールでは、盛大に貴婦人達が着飾り紳士服で身を包んだ男達に手を引かれ、音楽に合わせてダンスを踊る。
そんな中、ホールから遠くはなれた寝室で、少女が一人、アンティーク調の、いかにも豪華と言うべきベッドで横たわっていた。
長く伸びたブロンドの髪、まだ幼いとはいえ、整った清楚な顔立ち。西洋人形を思わせるその姿には、気品があった。
しかし、既に少女の呼吸は止まっていた。唯一の明かりとなる月明かりが、少女を照らす。すると、ベッドの側にバトラーを身にまとった長身の男がいるのが確認できた。
スキンヘッドの、やや青ざめた、無表情の男である。
男は、手にしていた毒材入り注射器を懐に戻すと、少女の首元に指をやる。
完全に息絶えた事を確認すると、全く表情を歪めぬまま寝室を後にして廊下に出る。途中、ガードマン数名と出会ったが、会釈を行うだけで別段男を不審に思われる事はなかった。
男はそのまま近くの洗面所の個室に入る。そこには下着姿の初老の男が気を失ったまま便座に座っていた。
だが、男は彼に目もくれず、足下で丁寧に畳まれた愛用の黒いスーツに着替える。そして、スーツのおいてあった場所に、今度はバトラーを同じ様に畳んで置いた。
それから、何食わぬ顔でホールへと脚を踏みいれる。会場はここ一番の盛り上がりをみせ、クラシック音楽を奏でる演奏者達の演奏にも熱が入っていた。
男は、手近にあったグラスを手にとり、注がれていたワインを数回軽く揺らすと、口に含む。何度か、貴婦人達が彼に気づき、手を差し伸べたが男はそれら全てを丁重に断った。
会場を一瞥する。一見、華やかに見えるパーティーだが、彼は気がついていた。幾人か、裏の世界で名をきかせる悪党が混じっている事を。
マフィア、暗殺組織、密輸商。中々一堂に会する事が稀な面子である。
そう、このパーティーは、決して、富豪が己が富を誇示する為に催されたものではなかった。
ある人型暗殺兵器。言うなれば、暗殺にのみ優れたクローン人間の開発に成功した。それを、密かに情報交換する為のパーティーだった。
そして、そのクローン人間こそ、先ほど男が殺したあの少女である。
見た目はまだ幼いが、数ヶ月のうちに成人し、恐らくどれほど訓練を受けた兵士や、部隊よりも強力で、かつ、残忍なクローンに成熟する。
そして、成人後数週間の後に死ぬ。
それが、男が自身の属する「組織」から知り得た情報だった。
尤も、男にはその情報はたいした意味をなさない。男に取っては、依頼があるから、それを遂行する。ただ、それだけだ。
だからこそ、組織から非常に高い危険度にあると言われたこの任務を男は快諾した。
名は47。裏社会に置いて、其の名を知らない者は居ないとまで言われた凄腕の暗殺者である。
47は、未だ不審な動きが会場内から見られない事を確認し、そこから離れる。
酒を浴びる様に飲んだのか、二人の門番はともに彼を見ると、もうお帰りですか、そう声をかけたきり側にあったボトルでまた乾杯をしていた。
黙って一礼すると、やや足早に敷地内を横切り駐車場へと向かう。
その間に胸元に仕舞っていた携帯電話を手に取り、任務完了の旨を伝える。
電話に出たのは、何度も依頼を受ける時に聞いた落ち着いた女性の声。
「もう少し、パーティーを楽しんでもよかったのに」
「長居する必要はない。不用意に動いて怪しまれるのも避けたいからな」
女性が、冗談めいた言葉で男に話すが、言下、男が否定とともに遮る。
電話の向こう側では、小さくため息が聞こえた。
だが、程なくして報酬が指定の口座に振り込まれる事、暫くは、また隠れ家に隠れるなり文明社会を満喫するなり時間をつぶす事に告げて電話が切られた。
と、同時に、47の足が止まった。電話をしている間に駐車場についていた。後は車に乗り込みこの邸宅を後にするだけ。それにも関わらず、彼の足が駐車場の中で突然止まった。
彼が乗り込む筈だった車がそこにはなく、代わりにあったのは、鏡の様なもの。
本来なら、それが鏡と一言で済むのだが、状況が状況だった。何故、車でなく、そこに鏡があるのか。
この不自然すぎる事態に男は、それが鏡だとすぐに認識できなかったのである。
内心、焦りが生じる。まさか、暗殺がばれたというのか。だが、そうだとして、車を処分して同じところに鏡を置く理由には到底ならない。
警戒しながらも、鏡に近づく。見れば見るほど、鏡にしか見えず、尚更彼の思考を惑わせた。
他に人の気配はなく、罠の可能性は極めて低い。47はそう判断し、更に一歩鏡に近づいた。
だが、次の瞬間、まるで急激に体を後ろから押されたような感覚に教われ、鏡の中に吸い込まれてしまった。その間は恐らく、数秒と数える事も難しい程短い時間。
そして、47が鏡の中に吸い込まれ、駐車場から人気が完全に消えると、鏡もまたひっそりと姿を消した。
ルイズは、盛大な爆発の中に何かの気配があるのに気づき、自身が高潮していくのを確かに感じていた。
魔法の成功率がゼロの事から、ゼロのルイズと非難されるという日々から、やっと解放される。そう信じて疑わなかった。
だからこそ、爆発によって生じた土煙の中からスキンヘッドの、黒ずくめの男が出て来た時は開いた口が塞がらなかった。
周りにいた生徒も、目をこすりようやくその人物の存在を確かめる。どう見ても、スキンヘッドの人間の男。皆の印象は共通していた。
故に、沸き上がる笑い声。ゼロのルイズが、平民を召還した。流石だ、と。
ルイズは怒りと困惑がこみ上げてくるのを必死に耐えて、先生であるコルベールに、これは何かの手違いだと懇願する。
だが、使い魔に儀式の神聖さを説かれるだけで、その願いは空しくも却下されてしまった。
ルイズは肩を落として、横目で男を見る。スキンヘッドで、青ざめた表情。しかし目つきは鋭く、周囲の警戒をしているのは間違いない。要するに、男から恐怖を感じていたのだ。
周囲の生徒達が気づいていないのが余りにも憎たらしい。しかし、男は間違いなく危険な人間だと、彼女の第六感は告げる。
だが、ふとルイズはある事を思いつく。もしかしたら、彼には何か特別な能力があるかもしれないと。
ともすれば、これは自身の名誉を取り戻すチャンスに成り得る。
一方、その男、47は鏡に吸い込まれた直後のこの光景に我が目を疑わずにはいられなかった。駐車場にいた筈の自分が、何故か黒いマントをまとった珍妙な少年少女に囲まれている。
やはり罠だったのか。一瞬だけ警戒をしたものの、寧ろ周りから向けられるのは、奇異の視線でしかなく、敵対心はどうしても感じられなかった。
そして、状況を把握しようかと辺りを見回し、47は我が目を疑った。最も自分に近い場所で狼狽していた少女が、数分前に命を絶ったクローンの少女と瓜二つだったのだ。
髪の毛の色は、こちらはピンクのような明るい色でこそれあれど、それ以外は殆ど遜色ない。ともすれば、この少女はあのクローンと何かしら接点があるのか。
だが、その少女は困惑の表情を浮かべたまま、暫く側にいた薄毛の男性に何かしら話しかけている。どんな言語がわからないところから、ここは少なくとも自分の訪れた事のある場所ではないだろうと推測は出来る。
しかし、それでは彼女達と会話するのが絶望的であると同意義だ。
やがて、その少女は意を決した様に口を真一文字に結び、自身の方に歩み寄る。47は直ちに少女の得物を確認する。
片手に細い棒切れしかなかったが、その手に長けた人間であれば、それだけで絶命させる事は造作もない。
男はゆっくり近づく少女と、クローンを重ね合わせる。仮に、彼女も同じクローンであれば、これ以上の危機はないだろう。
眼前の男が臨戦態勢である事など寸分も知らぬルイズは、凛然と彼に近づく。すると、言葉を呟きながら手にしていた棒切れで、宙に何かを描く動作を始めた。
刹那、47の全身が硬直し自らの意思で動かせなくなる。しまった。彼は動かぬ口でそう呟いていた。
その間にも、ルイズは更に歩み寄る。その距離、まさに目と母の先とも言うべき程の短さに到達した時、ルイズが跪き、47と口づけをかわした。
暫くして、47彼女の行動に戸惑いながらも右手に奇妙な痛覚を覚え、黒い手袋の上から軽くおさえる。火傷にも似た痛みは数刻の後ひき、改めて少女の顔を覗く。
「さて、では最後の儀式も終わりました。皆さん、それぞれ自室に戻ってください」
コルベールが、その場に居合わせた全員に向けて、透き通った声で告げたのは、ちょうどその時だった。
47は、急に彼の言葉を理解できた事に違和感を覚えたが、直ちに立ち上がり、彼に足早に歩み寄る。
「すまない。急にこんなところに呼び出されたのだが。一体此処は何処だ。そして、何故呼び出したのだ」
一定の調子を保ったまま、やや冷たい口調でこう訪ねる。
コルベールは、不意にこんな事を尋ねられ戸惑った表情を浮かべた。コルベールから見て、このスキンヘッドの男から魔力を感じられない。
であれば、貴族でなく、平民という事に成るのだろう。しかし、今彼の身に着けている服はどうも見慣れない。
それでも、コルベールは平静であった。それは、この男が自らのうちに秘めた感情を、己の能力に従って限りなく零にまで押さえ込んでいた事に起因するかもしれない。
「ここはトリステイン魔法学院。貴方は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔として召喚されたのですよ」
コルベールにとっては、いや、この世界、ハルケギニアに住む貴族にとっては慣例となっている使い魔の儀式を説明する。
だが、47にはまるで夢物語、余りにも荒唐無稽な内容に首を傾げてしまう。
そして、47は自分が向精神剤を大量に投与でもされたのかと考える。今、自身の目に映っているのは全て幻で、夢うつつを彷徨っているのではないかと。
だが、芝生の感触、肌にあたる風、何より件のクローンと瓜二つの少女との口づけ、それに次ぐ右手の痛みは間違いなく本物で、現実の中にいるのだと認めざるを得ない。
ハルケギニア、トリステイン、魔法。どれも彼に馴染みのない言葉であったが、47はそれらが事実だと察する。
「次の仕事は、此処という事か。全く。文明社会の方がまだ居心地が良い」
47はそう静かに呟いた。
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