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「ゼロの夢幻竜-05」(2008/02/27 (水) 22:03:41) の最新版変更点
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ラティアスが眠っているのは分かる。
問題は彼女が呼吸をして体を上下させるのと、南の窓から強烈な朝日が入ってくるのが同時に起きた時の事である。
ガラスの破片の様に眩しく輝く彼女の羽毛が強烈に輝くのと同時に、そこに銀色をした小さな人型の塊が浮かび上がるのだ。
それも突然そうなるのではなくてスウッと変わるのである。
しかしそれはあくまで人型をしているだけである。
しかもコンマ5秒にも満たない一瞬の事なので、顔をはっきりと捉える事も出来なければ、胴体部分の凹凸も良く見えない。
だが確実にラティアスの体は人間の体に変わったかのように見える。
夢か幻でも見ているのだろうか?
暫くルイズはその光景に釘付けとなっていたが、ラティアスが目覚めた事で終わりを告げた。
「ふああ……はふぅ。ん……はわわっ!ご、ご主人様!おはようございます!」
「お、おはよう。よく眠れたかしら?」
「はい!とっても……って、わたしは使い魔のみなさんが寝る所で寝てなきゃいけないのに!
しかも、わたしがご主人様を起こさなきゃいけないのに!ご主人様、申しわけ有りません!!」
慌てふためき最後に涙声で謝るラティアスをルイズは一応落ち着かせる。
「お、落ち着いて。昨夜質問ばかりして眠たげにしているあなたを振り回した私がいけないのよ。だから落ち着いて。」
「わ……分かりました。」
その言葉にラティアスはほっと一安心する。
それから一時間半ほどルイズはテーブルに突っ伏して仮眠を取る事にした。
先に目を覚ましたのはラティアス。再び目を開けた時には随分と明るくなっていた。
それから彼女はルイズの服が、見たところ昨日のままであるという事に気づいたので、ルイズが起きたのと同時に取り敢えず言ってみる。
「改めましておはようございますご主人様。ところで服を着替えた方が良いんじゃないでしょうか?」
「え?ええ、そうだけど……」
「それじゃ、ちょっとそこに立っていて下さい。」
いいわよとルイズが返事をすると、ラティアスはしまっていた両手を出してルイズの着替えに取り掛かった。
クローゼットからご主人が着ている物と同じ物―つまりブラウスやスカート、ニーソックス―を、順次エスパーの力を使って取り出しベッドの上に置いていく。
その際、杖も使わなければ手も使わずにそれをやった事についてルイズは驚嘆していた。
ラティアスにとっては同じ仲間も出来る能力の一つに過ぎなかったが。
それからルイズに服の脱がし方というものを教えて貰いながら着替えを行う。
途中下着という物の存在があった為に、再びクローゼットの開閉をしなければならなかったが全てはスムーズに進んでいった。
着替えが終わったルイズは部屋を出ようとする。
その時汚れた服の入った籠を持ったラティアスが、開いた状態で忘れてられたクローゼットの引き出しを閉めようとした時何かに目を留めた。
それは鏡台の上に置かれた化粧箱。
隅の方に小さく何か書かれている。
この世界の文字が分からない為か気になって仕方が無い。
好奇心に負けた彼女は思い切ってルイズに訊いて見ることにした。
「ご主人様。これ何て書いてありますの?」
「それ?ああ、『カトレア』って書いてあるのよ。私の姉さんの名前。ここに入る時に譲っていただいた品なの。」
「そうなんですか……どんな人なんですか?」
「どんな人……ちょっと待って。……この間修復するから実家に戻す為に壁から外したのをうっかり忘れていたわ。」
そう言ってルイズは部屋の中に戻り、ベッドの後ろから何かをごそごそと取り出す。
出てきたのは割と小さく、少し色褪せてはいるが立派な画だった。
そこには3人の女性が寄り添って描かれている。
真ん中にいる少女がルイズだという事は直ぐに分かる。面立ちがほぼ今のままだからだ。
という事はその両隣に立つどちらかの女性がカトレアという事になる。
左隣の女性は年の程は15、6歳位で年相応に均整の取れた体をしているおり、コロコロと笑っているという言葉が似合っていそうな笑顔をしていた。
右隣の女性はその女性より3、4歳ほど年上に見える。凛々しく気品のある顔立ちをしていてその点では綺麗だと思えた。
鼻の下から嫌な匂いがしているにも拘らず、『笑ってください』と言われて無理矢理捻り出した様な笑みをしていなければ、だが。
さて、どっちだろうか。
答えはルイズが杖を使って直ぐに示した。
「左にいるのがカトレアお姉さまよ。右にいるのはエレオノールお姉さま。」
その言葉と共にラティアスは二人の姿を情報として処理し頭の片隅に保管する。
いずれ自分の姿を偽らなければならない時の為に、平面という断片的なものからでも参考にしておく必要があったからだ。
ルイズは絵を元の位置に戻し戸口まで行く。
「行きましょ!ラティアス!」
ルイズとラティアスが部屋を出ると、同じ様な三つの木で出来た扉の内一つが開く。
出てきたのは燃えるような赤毛をした女の子、キュルケである。
「あら、お早うルイズ。」
「お早う、キュルケ。」
キュルケはルイズを見るとにやっと笑ったが、ルイズは顔をしかめ忽ち不機嫌になった。
ラティアスはルイズが不機嫌になったのを見て、目の前にいるキュルケという女の子に意思疎通を許すか躊躇する。
それからラティアスは彼女をしげしげと眺めた。
身長、肌の色、雰囲気、体つきが全てルイズと対照的だ。
この事もやはり情報の一つとして処理され、頭の片隅に保管しておく。何が役に立つか分からないからだ。
その視線に当の本人が気づかない訳が無い。
「ねえ、ルイズ。あなたの……鳥?竜?どっちでもいいわ。こっちをジロジロ見すぎよ。ちゃんと躾は始めてるの?」
その言葉にはっとなったルイズはラティアスを「ちょっと!」という雰囲気で体を押す。
それに気づいたラティアスは、ゆっくりとルイズに振り向き一つだけ質問する。
「ご主人様。この人とは意思疎通をやってもいいでしょうか?」
「駄目。絶対駄目。天地がひっくり返ったって駄目!!」
「何が駄目なのよ?」
キュルケからの尤もらしい質問にルイズとラティアスはビクッとする。
そう。傍から見ればルイズが一方的にラティアスに対して話している様にしか見えないのだ。
ルイズは慌てて何でもないという風に手を振って話を続ける。
「何でもないわよ。それより何か用?」
その様子にキュルケは少し拍子抜けしてしまった。
ここで自分に突っかかってきたら、自分が昨日一発で召喚したサラマンダーのフレイムを見せてからかってやろうと考えていたのだ。
意外に自分を軽くあしらっている様な雰囲気さえ見せるルイズにキュルケは嘲笑混じりに答える。
「別に。私のフレイム見せるついでに、あなたの召喚した使い魔がどんなものなのか見てやろうかなって思っただけよ。
それにあなたその使い魔に随分入れ込んでいるようだけど、速く飛ぶ事なんて風竜にだって出来るわ。それ以外の使い道あるの?」
その言葉に反応したのか、キュルケの背後から真っ赤で巨大なトカゲが現れる。
大きさは虎と同じ位。尾では小さな炎が燃え盛っていた。
ラティアスはそれにも一応目をやるものの、人間を対象として監察している頭の中で叩き出された答えは『許容範囲外』。
お話にもならなかった。
そしてルイズはやれやれと言わんばかりに肩を竦めキュルケの側を通り過ぎながら言った。
「有るわよ。この子はね、とてもあなたの頭じゃ考えが及ばない位、物凄い能力を持っているわ。
それにあなたもその使い魔に随分入れ込んでいるようだけど、秘薬とかを持ってきたりする事なんて大方の使い魔が出来る事じゃない。それ以外の使い道あるの?」
それでお終いとばかりにルイズは階下へ降りていった。
その後に籠を抱えたラティアスが続く。
自分の使った嫌味を倍返しにされた様なその言葉に、キュルケは少しだけムッとしたが直ぐにやれやれといった表情になり、むんとした熱気を放つフレイムの頭を撫でる。
「この間は言い返す余裕も無くてむきになってばっかりだったのに……一端に言い返せるようになっちゃって……」
それはゼロと呼び続けていた相手が生意気に自分をやりこめた事への不満か。
それとも好敵手がやっと自分に相応しいほどの格を持った事への満足感か。
その答えの真意を知るものは誰も居ない……
寮の外、水汲み場の辺りでルイズはラティアスに、洗濯をなるべく早く終わらせて食堂に来るように言った。
だがその時になってラティアスは食堂の位置を知らない事に気づいた。
「どうしましょう。メイジが近くにいないで使い魔が本塔の中をうろうろするなんて事出来ないし……」
「ご主人様、大丈夫です。直ぐに洗濯を終わらせて食堂に行きます。」
「えっ?でも食堂がどこかなんてあなた知らないんでしょう?」
「大丈夫ですって!さ、早く行かないとみんなから遅れちゃいますよ。」
後ろから背を押されたルイズは、遂に仕方なくその場を後にした。
その場に残されたのはラティアスただ一匹だけ……
いや、違う。5メイル程離れた場所から仕事を終えたので休憩がてらに散歩をしているらしいメイドが一人いた。
ラティアスはそのメイドも一応観察しておく。
ポイントになったのは、ご主人様ことルイズや先程会ったキュルケとは違う、所謂メイド服を着ている所だ。
短く切られた黒髪はカチューシャで纏められており、面立ちは柔和その物である。
体つきに関してはルイズより少々斜め上を行っているらしく、出るところは出て引っ込んでいる所は引っ込んでいる。
それを情報として処理した後、ラティアスは水汲み場の近くにある物陰にその身を隠した。
処理できる情報は既に許容量一杯である。
それらの情報を選りすぐり、断片的な部分を組み立てていく事で仮の姿を得る事にした。
それに伴いラティアスは意識を集中させる。
先ず年とそれに伴う身長。これに関しては勿論ルイズと同い年くらいか1、2歳下に見えた方がいいだろう。
顔の印象は?ちょっと考えたが、部屋で見せてもらった絵に映っていた左の女性に似せる様にする。
髪の長さは?ルイズと同じ。
服装や装飾品は?これは同じでは面倒な事になる。校舎で先生に捕まるとか、誰かに話しかけられるとか。
無難な所で先程のメイドと同じ物にする事にした。
では体つきは?これは控えめな方で……
と、その項目にはいった時、ラティアスも持つ雌としての見栄が出張ってしまう。
ルイズを劣等感に沈ませたり、悲しませたりしたくは無かったが、こればかりはどうしようもない。
ご主人様ごめんなさいと呟いて、キュルケとメイドを足して2で割った様な外見にした。
最後に回してしまった髪の色だが、ルイズと同じでは怪しまれる。
キュルケと同じではルイズが黙ってはいないだろう。メイドと同じにするか。
と、考えたその時だった。
「あのう……どなたかそこにいらっしゃるんですか?」
姿が見えないが故に誰なのか分からないがラティアスは先程のメイドだと見当をつけた。
突然聞こえて来た声に驚いたラティアスは残っていた項目をうっかり自分の毛と同じにしてしまった。
但し、その色は老人を差す様な白髪ではなく銀の輝きを持つシルバーブロンドとなったが。
兎も角それで仮の姿の想像は一段落ついた。
それからラティアスは人間で言えば深呼吸をする様なポーズをとる。
直後眩い光が彼女を包み込み、その中で彼女は人間時の姿を構成していく。
光が止むと……そこには外見だけはお淑やかそうなメイドが一人出来あがっていた。
「や、やったぁ!!上手くいった!上手くいった!!」
ラティアスは初めて人間への変身が上手くいったせいか、隠れている場所を飛び出て水汲み場まで躍り出る。
そこで彼女ははっと我に返った。
自分の姿を凝視し続けている先程見かけたメイドがいる事を。
#navi(ゼロの夢幻竜)
ラティアスが眠っているのは分かる。
問題は彼女が呼吸をして体を上下させるのと、南の窓から強烈な朝日が入ってくるのが同時に起きた時の事である。
ガラスの破片の様に眩しく輝く彼女の羽毛が強烈に輝くのと同時に、そこに銀色をした小さな人型の塊が浮かび上がるのだ。
それも突然そうなるのではなくてスウッと変わるのである。
しかしそれはあくまで人型をしているだけである。
しかもコンマ5秒にも満たない一瞬の事なので、顔をはっきりと捉える事も出来なければ、胴体部分の凹凸も良く見えない。
だが確実にラティアスの体は人間の体に変わったかのように見える。
夢か幻でも見ているのだろうか?
暫くルイズはその光景に釘付けとなっていたが、ラティアスが目覚めた事で終わりを告げた。
「ふああ……はふぅ。ん……はわわっ!ご、ご主人様!おはようございます!」
「お、おはよう。よく眠れたかしら?」
「はい!とっても……って、わたしは使い魔のみなさんが寝る所で寝てなきゃいけないのに!
しかも、わたしがご主人様を起こさなきゃいけないのに!ご主人様、申しわけ有りません!!」
慌てふためき最後に涙声で謝るラティアスをルイズは一応落ち着かせる。
「お、落ち着いて。昨夜質問ばかりして眠たげにしているあなたを振り回した私がいけないのよ。だから落ち着いて。」
「わ……分かりました。」
その言葉にラティアスはほっと一安心する。
それから一時間半ほどルイズはテーブルに突っ伏して仮眠を取る事にした。
先に目を覚ましたのはラティアス。再び目を開けた時には随分と明るくなっていた。
それから彼女はルイズの服が、見たところ昨日のままであるという事に気づいたので、ルイズが起きたのと同時に取り敢えず言ってみる。
「改めましておはようございますご主人様。ところで服を着替えた方が良いんじゃないでしょうか?」
「え?ええ、そうだけど……」
「それじゃ、ちょっとそこに立っていて下さい。」
いいわよとルイズが返事をすると、ラティアスはしまっていた両手を出してルイズの着替えに取り掛かった。
クローゼットからご主人が着ている物と同じ物―つまりブラウスやスカート、ニーソックス―を、順次エスパーの力を使って取り出しベッドの上に置いていく。
その際、杖も使わなければ手も使わずにそれをやった事についてルイズは驚嘆していた。
ラティアスにとっては同じ仲間も出来る能力の一つに過ぎなかったが。
それからルイズに服の脱がし方というものを教えて貰いながら着替えを行う。
途中下着という物の存在があった為に、再びクローゼットの開閉をしなければならなかったが全てはスムーズに進んでいった。
着替えが終わったルイズは部屋を出ようとする。
その時汚れた服の入った籠を持ったラティアスが、開いた状態で忘れてられたクローゼットの引き出しを閉めようとした時何かに目を留めた。
それは鏡台の上に置かれた化粧箱。
隅の方に小さく何か書かれている。
この世界の文字が分からない為か気になって仕方が無い。
好奇心に負けた彼女は思い切ってルイズに訊いて見ることにした。
「ご主人様。これ何て書いてありますの?」
「それ?ああ、『カトレア』って書いてあるのよ。私の姉さんの名前。ここに入る時に譲っていただいた品なの。」
「そうなんですか……どんな人なんですか?」
「どんな人……ちょっと待って。……この間修復するから実家に戻す為に壁から外したのをうっかり忘れていたわ。」
そう言ってルイズは部屋の中に戻り、ベッドの後ろから何かをごそごそと取り出す。
出てきたのは割と小さく、少し色褪せてはいるが立派な画だった。
そこには3人の女性が寄り添って描かれている。
真ん中にいる少女がルイズだという事は直ぐに分かる。面立ちがほぼ今のままだからだ。
という事はその両隣に立つどちらかの女性がカトレアという事になる。
左隣の女性は年の程は15、6歳位で年相応に均整の取れた体をしているおり、コロコロと笑っているという言葉が似合っていそうな笑顔をしていた。
右隣の女性はその女性より3、4歳ほど年上に見える。凛々しく気品のある顔立ちをしていてその点では綺麗だと思えた。
鼻の下から嫌な匂いがしているにも拘らず、『笑ってください』と言われて無理矢理捻り出した様な笑みをしていなければ、だが。
さて、どっちだろうか。
答えはルイズが杖を使って直ぐに示した。
「左にいるのがカトレアお姉さまよ。右にいるのはエレオノールお姉さま。」
その言葉と共にラティアスは二人の姿を情報として処理し頭の片隅に保管する。
いずれ自分の姿を偽らなければならない時の為に、平面という断片的なものからでも参考にしておく必要があったからだ。
ルイズは絵を元の位置に戻し戸口まで行く。
「行きましょ!ラティアス!」
ルイズとラティアスが部屋を出ると、同じ様な三つの木で出来た扉の内一つが開く。
出てきたのは燃えるような赤毛をした女の子、キュルケである。
「あら、お早うルイズ。」
「お早う、キュルケ。」
キュルケはルイズを見るとにやっと笑ったが、ルイズは顔をしかめ忽ち不機嫌になった。
ラティアスはルイズが不機嫌になったのを見て、目の前にいるキュルケという女の子に意思疎通を許すか躊躇する。
それからラティアスは彼女をしげしげと眺めた。
身長、肌の色、雰囲気、体つきが全てルイズと対照的だ。
この事もやはり情報の一つとして処理され、頭の片隅に保管しておく。何が役に立つか分からないからだ。
その視線に当の本人が気づかない訳が無い。
「ねえ、ルイズ。あなたの……鳥?竜?どっちでもいいわ。こっちをジロジロ見すぎよ。ちゃんと躾は始めてるの?」
その言葉にはっとなったルイズはラティアスを「ちょっと!」という雰囲気で体を押す。
それに気づいたラティアスは、ゆっくりとルイズに振り向き一つだけ質問する。
「ご主人様。この人とは意思疎通をやってもいいでしょうか?」
「駄目。絶対駄目。天地がひっくり返ったって駄目!!」
「何が駄目なのよ?」
キュルケからの尤もらしい質問にルイズとラティアスはビクッとする。
そう。傍から見ればルイズが一方的にラティアスに対して話している様にしか見えないのだ。
ルイズは慌てて何でもないという風に手を振って話を続ける。
「何でもないわよ。それより何か用?」
その様子にキュルケは少し拍子抜けしてしまった。
ここで自分に突っかかってきたら、自分が昨日一発で召喚したサラマンダーのフレイムを見せてからかってやろうと考えていたのだ。
意外に自分を軽くあしらっている様な雰囲気さえ見せるルイズにキュルケは嘲笑混じりに答える。
「別に。私のフレイム見せるついでに、あなたの召喚した使い魔がどんなものなのか見てやろうかなって思っただけよ。
それにあなたその使い魔に随分入れ込んでいるようだけど、速く飛ぶ事なんて風竜にだって出来るわ。それ以外の使い道あるの?」
その言葉に反応したのか、キュルケの背後から真っ赤で巨大なトカゲが現れる。
大きさは虎と同じ位。尾では小さな炎が燃え盛っていた。
ラティアスはそれにも一応目をやるものの、人間を対象として監察している頭の中で叩き出された答えは『許容範囲外』。
お話にもならなかった。
そしてルイズはやれやれと言わんばかりに肩を竦めキュルケの側を通り過ぎながら言った。
「有るわよ。この子はね、とてもあなたの頭じゃ考えが及ばない位、物凄い能力を持っているわ。
それにあなたもその使い魔に随分入れ込んでいるようだけど、秘薬とかを持ってきたりする事なんて大方の使い魔が出来る事じゃない。それ以外の使い道あるの?」
それでお終いとばかりにルイズは階下へ降りていった。
その後に籠を抱えたラティアスが続く。
自分の使った嫌味を倍返しにされた様なその言葉に、キュルケは少しだけムッとしたが直ぐにやれやれといった表情になり、むんとした熱気を放つフレイムの頭を撫でる。
「この間は言い返す余裕も無くてむきになってばっかりだったのに……一端に言い返せるようになっちゃって……」
それはゼロと呼び続けていた相手が生意気に自分をやりこめた事への不満か。
それとも好敵手がやっと自分に相応しいほどの格を持った事への満足感か。
その答えの真意を知るものは誰も居ない……
寮の外、水汲み場の辺りでルイズはラティアスに、洗濯をなるべく早く終わらせて食堂に来るように言った。
だがその時になってラティアスは食堂の位置を知らない事に気づいた。
「どうしましょう。メイジが近くにいないで使い魔が本塔の中をうろうろするなんて事出来ないし……」
「ご主人様、大丈夫です。直ぐに洗濯を終わらせて食堂に行きます。」
「えっ?でも食堂がどこかなんてあなた知らないんでしょう?」
「大丈夫ですって!さ、早く行かないとみんなから遅れちゃいますよ。」
後ろから背を押されたルイズは、遂に仕方なくその場を後にした。
その場に残されたのはラティアスただ一匹だけ……
いや、違う。5メイル程離れた場所から仕事を終えたので休憩がてらに散歩をしているらしいメイドが一人いた。
ラティアスはそのメイドも一応観察しておく。
ポイントになったのは、ご主人様ことルイズや先程会ったキュルケとは違う、所謂メイド服を着ている所だ。
短く切られた黒髪はカチューシャで纏められており、面立ちは柔和その物である。
体つきに関してはルイズより少々斜め上を行っているらしく、出るところは出て引っ込んでいる所は引っ込んでいる。
それを情報として処理した後、ラティアスは水汲み場の近くにある物陰にその身を隠した。
処理できる情報は既に許容量一杯である。
それらの情報を選りすぐり、断片的な部分を組み立てていく事で仮の姿を得る事にした。
それに伴いラティアスは意識を集中させる。
先ず年とそれに伴う身長。これに関しては勿論ルイズと同い年くらいか1、2歳下に見えた方がいいだろう。
顔の印象は?ちょっと考えたが、部屋で見せてもらった絵に映っていた左の女性に似せる様にする。
髪の長さは?ルイズと同じ。
服装や装飾品は?これは同じでは面倒な事になる。校舎で先生に捕まるとか、誰かに話しかけられるとか。
無難な所で先程のメイドと同じ物にする事にした。
では体つきは?これは控えめな方で……
と、その項目にはいった時、ラティアスも持つ雌としての見栄が出張ってしまう。
ルイズを劣等感に沈ませたり、悲しませたりしたくは無かったが、こればかりはどうしようもない。
ご主人様ごめんなさいと呟いて、キュルケとメイドを足して2で割った様な外見にした。
最後に回してしまった髪の色だが、ルイズと同じでは怪しまれる。
キュルケと同じではルイズが黙ってはいないだろう。メイドと同じにするか。
と、考えたその時だった。
「あのう……どなたかそこにいらっしゃるんですか?」
姿が見えないが故に誰なのか分からないがラティアスは先程のメイドだと見当をつけた。
突然聞こえて来た声に驚いたラティアスは残っていた項目をうっかり自分の毛と同じにしてしまった。
但し、その色は老人を差す様な白髪ではなく銀の輝きを持つシルバーブロンドとなったが。
兎も角それで仮の姿の想像は一段落ついた。
それからラティアスは人間で言えば深呼吸をする様なポーズをとる。
直後眩い光が彼女を包み込み、その中で彼女は人間時の姿を構成していく。
光が止むと……そこには外見だけはお淑やかそうなメイドが一人出来あがっていた。
「や、やったぁ!!上手くいった!上手くいった!!」
ラティアスは初めて人間への変身が上手くいったせいか、隠れている場所を飛び出て水汲み場まで躍り出る。
そこで彼女ははっと我に返った。
自分の姿を凝視し続けている先程見かけたメイドがいる事を。
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