「ゼロの執事-1」(2007/08/08 (水) 20:09:33) の最新版変更点
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クリスマスイブ。恋人たちが愛を語り合い、日本中の各地でささやかなパーティーが催されるその日。
少年は追いつめられていた。自らの両親の手によって。
年齢を偽って働いていた仕事はつい先ほどクビになった。
今月分の給料は雇い主に少年の年齢詐称を教えた本人、すなわち少年の両親に持って行かれた。
両親はそれに飽きたらず、少年自身を売り飛ばした。いわゆるヤクザの人たちに、1億5000万で。
疲れ、空腹、真冬の寒さ…そしてなにより貧困が容赦なく少年を追いつめていく。
貧すれば鈍する。そんな言葉の通り、追いつめられた少年は愚かな、余りにも愚かな決意をしようとしていた。
目の前の、自販機の前に立ついかにも金持ちであると言うオーラを放っている少女。彼女を、誘拐すると。
そして、少女がチンピラ絡まれているのを見て獲物を取られるいう焦りから半ば反射的に飛び出したその時…
少年は、この世界から、消えた。突然少年の目の前に現れた光る鏡に吸い込まれて。
少女の方はその後、少女を発見した史上最強のメイドの手で助け出され事なきを得る。
少女と少年の運命は交わることはなかった。別の運命の介入によって。
その、本来とは別の、だが同じくらい数奇な運命に巻き込まれた少年の名は、綾崎ハヤテ。
執事と使い魔。どちらの運命が彼にとって幸せだったのか。それは誰にも分からない。
ハヤテは突然起こった出来事に困惑していた。
つい先ほどまで居たのは、真冬の、夜の、公園だった。それが一歩踏み出したら突然景色が変わったのだ。
今の格好では汗ばむ位の春の陽気、真上には太陽がサンサンと輝いている。
先ほどまで隠れていた茂みも、自販機も、そこにいた少女もいない。そして代わりにいるのは怪しげなマントを羽織り、
杖を持った自分と同じくらいの少年少女。その場に1人だけいる頭の寂しい中年男性に至っては真っ黒なローブなのだ。
余りにも怪しすぎる。ここまで怪しい集団に出くわしたのはハヤテの人生の中でも両手の指で数えられる程だ。
そんなことを考えられるほどに、ハヤテは落ち着いていた。ハヤテの直感は今はとりあえず危険が無いと判断していたためだ。
だが、そんな余裕はすぐに崩れ去った。
「あんた、だれよ?」
その言葉を聞いた瞬間、ハヤテは心臓が跳ね上がった。似ていたのだ、自分が誘拐しようとしていた少女に。
見ればハヤテと周りにいる同世代の少年少女の中でひときわ幼いようだ(少し離れた所にもっと幼い少女もいたが)
髪の色と質こそ違っていたが、その気の強そうなところや世間知らずそうなところ、そしてなによりその身に纏うお金持ちオーラ!
「無視してんじゃないわよ!あたしの質問に答えなさい!」
そのことに呆然としていたハヤテはその言葉にハッと我に返った。長年のバイト生活で培った咄嗟の条件反射で答える。
「あ、すみません。申し遅れました。ボクは綾崎ハヤテと言います」
そして深々と45度頭を下げる。接客の基本だ。
その瞬間、爆笑が起こった。
ルイズは穴があったら入りたい気分になった。自分の魔法で呼び出したのがただの平民だったのだ。
(やっと…やっと成功したと思ったら!)
ルイズの16年の人生の中で、まともに魔法が成功したのは今回が初めてだ。だから、自分の目の前にサモン・サーヴァントの鏡が現れた時は嬉しかった、嬉しかったのだが…
だからこそ、出てきたのがいかにも貧相なオーラを放っている少年…どう見ても平民だった事へのショックもひとしおだった。
「ミスタ・コルベール、やり直させて下さい!」
ルイズの必死な嘆願は一瞬で却下された。何度も頼んでみたがどうやっても覆らない。
とうとうルイズは覚悟を決めた。相変わらず状況がつかめずボーッと立っているハヤテに声を掛ける。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
「はい?」
突然の言葉にハヤテが目を向ける。その視線をまっすぐに受け、ルイズは頬を赤らめた。
今まではショックが先に立っていて見ていなかったが、よく見ると結構整った顔立ちだ。そこらの女の子よりも…可愛い。
頭に浮かんだそんな考えを振り払い、コンストラクト・サーヴァントの儀式を始める。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そして…キスをした。
「う、うわああああ!?」
突然の出来事にハヤテが大声を上げる。ハヤテはこういう事に免疫は無かった。今までは色んな意味でそれどころじゃなかったのだ。
咄嗟に少女と距離を取り、そして左手を押さえてうめき声を上げる。それを見て少女が言った。
「すぐに終わるわ。使い魔のルーンが刻まれてるだけだから」
少女の言った通り、痛みはすぐ引き、代わりに左手に見たこともない文字らしき入れ墨が刻まれる。
それを確認したコルベールが言う。
「ふむ…見たこともないルーンだな」
とはいえとりあえずこれで今年の使い魔召還の儀式も無事終了した、そう判断したのだろう。コルベールが少年少女たちに声を掛ける。
「さて、皆、学園に戻るぞ」
そう言うと、何かを唱える。その瞬間、コルベールの身体が浮く。
「ええ!?」
その光景を見たハヤテは驚きの声を上げた。いくら彼でもワイヤーもなしに宙に浮く人間は見たことが無かった。
しかも見れば他の少年少女も次々と彼に続いて空を飛んでいく。ハヤテはとりあえず目の前の少女、何故か彼女だけは飛ぼうとしないに聞いた。
「あのう…あなたがたは一体?」
それを聞いた少女はむしろ驚いたように言う。
「あんた…メイジも見たこと無いの?」
メイジと聞いて最初に思い浮かんだのは工場で働いたことのある某お菓子会社だったが、流石に飛んだりはしないはずだ。
だが、他に思い当たる言葉がゲームやアニメ、漫画と縁の無いハヤテにはさっぱり思いつかなかった。
それを察したのだろう。少女はため息をついてハヤテにも分かる言葉で言い換える。
「ようするに…魔法使いよ」
それを聞いたとき、ハヤテは、世の中は広いなあとしか感じなかった。年の割に様々な経験を積んでいるハヤテは世界には自分の思いもつかない事などごろごろ転がっていることを知っていた。
「はあ、なるほど…」
ハヤテは考えた。
冷静に考えてみればどう考えても誘拐などうまくいくはずがなかった。自分はあっさり警察に捕まっていただろう。
だからといって誘拐を断念していたら、自分はヤク…とても親切な人たちに捕まって人生とさよならバイバイだっただろう。
ここが何処なのかはさっぱり分からないが、少なくとも日本の何処かなのだろう。日本語通じてるし。
だが、魔法使いの集まる謎の学園なんて聞いたこともないからそうそう見つかることはなさそうだ。
新天地で心機一転やりなおす。しかも夢見がちな両親抜き。上手くすれば人並みの幸福だって狙える。ハヤテには非常に魅力的なものに思えた。
そう結論し、ハヤテはとりあえず目の前の少女に頼むことにした。
「あの、何でもするんで、ボクを雇って頂けないでしょうか。帰る場所もお金も無いんです。別の仕事が見つかるまでの間でも良いんで」
「はあ?」
ルイズは困惑した。自らを雇ってくれなどと言う使い魔がどこにいるのだ。とりあえず言い返す。
「雇ってくれも何もないわ。あんたはもうあたしの使い魔なの。すなわちご主人様であるあたしのために一生仕える必要があるの。分かった?」
それを聞いてハヤテは小躍りしたい気分になった。日本式経営の見直しが進み、全国のお父さんがリストラにおびえるこの昨今に終身雇用保障!
やっぱり魔法使いというだけあって世間とはずれてるのだろうか。
使い魔と言うのがどんな仕事なのかはさっぱり分からないが、そこは無数のバイトをこなしてきた経験と根性でカバーできるはずだ。
すなわち、今自分は激しくついている!それを実感したハヤテは。
「はい!ありがとうございます!使い魔と言うのがどういう仕事かは存じませんが、粉骨砕身の覚悟で挑む所存ですご主人様!」
言葉と共に深々と頭を下げた。良い笑顔で。
そうして、勘違いから執事生活を歩む運命だった少年はやはり勘違いから使い魔生活を歩むことになった。
ちなみに、彼が本当の事態、すなわち彼が日本どころか地球ですら無い場所に来てしまったと気づくのは、
その日の夜、天に2つの月が昇ってからになるのだが、それはまた、次回の物語である。
クリスマスイブ。恋人たちが愛を語り合い、日本中の各地でささやかなパーティーが催されるその日。
少年は追いつめられていた。自らの両親の手によって。
年齢を偽って働いていた仕事はつい先ほどクビになった。
今月分の給料は雇い主に少年の年齢詐称を教えた本人、すなわち少年の両親に持って行かれた。
両親はそれに飽きたらず、少年自身を売り飛ばした。いわゆるヤクザの人たちに、1億5000万で。
疲れ、空腹、真冬の寒さ…そしてなにより貧困が容赦なく少年を追いつめていく。
貧すれば鈍する。そんな言葉の通り、追いつめられた少年は愚かな、余りにも愚かな決意をしようとしていた。
目の前の、自販機の前に立ついかにも金持ちであると言うオーラを放っている少女。彼女を、誘拐すると。
そして、少女がチンピラ絡まれているのを見て獲物を取られるいう焦りから半ば反射的に飛び出したその時…
少年は、この世界から、消えた。突然少年の目の前に現れた光る鏡に吸い込まれて。
少女の方はその後、少女を発見した史上最強のメイドの手で助け出され事なきを得る。
少女と少年の運命は交わることはなかった。別の運命の介入によって。
その、本来とは別の、だが同じくらい数奇な運命に巻き込まれた少年の名は、綾崎ハヤテ。
執事と使い魔。どちらの運命が彼にとって幸せだったのか。それは誰にも分からない。
ハヤテは突然起こった出来事に困惑していた。
つい先ほどまで居たのは、真冬の、夜の、公園だった。それが一歩踏み出したら突然景色が変わったのだ。
今の格好では汗ばむ位の春の陽気、真上には太陽がサンサンと輝いている。
先ほどまで隠れていた茂みも、自販機も、そこにいた少女もいない。そして代わりにいるのは怪しげなマントを羽織り、
杖を持った自分と同じくらいの少年少女。その場に1人だけいる頭の寂しい中年男性に至っては真っ黒なローブなのだ。
余りにも怪しすぎる。ここまで怪しい集団に出くわしたのはハヤテの人生の中でも両手の指で数えられる程だ。
そんなことを考えられるほどに、ハヤテは落ち着いていた。ハヤテの直感は今はとりあえず危険が無いと判断していたためだ。
だが、そんな余裕はすぐに崩れ去った。
「あんた、だれよ?」
その言葉を聞いた瞬間、ハヤテは心臓が跳ね上がった。似ていたのだ、自分が誘拐しようとしていた少女に。
見ればハヤテと周りにいる同世代の少年少女の中でひときわ幼いようだ(少し離れた所にもっと幼い少女もいたが)
髪の色と質こそ違っていたが、その気の強そうなところや世間知らずそうなところ、そしてなによりその身に纏うお金持ちオーラ!
「無視してんじゃないわよ!あたしの質問に答えなさい!」
そのことに呆然としていたハヤテはその言葉にハッと我に返った。長年のバイト生活で培った咄嗟の条件反射で答える。
「あ、すみません。申し遅れました。ボクは綾崎ハヤテと言います」
そして深々と45度頭を下げる。接客の基本だ。
その瞬間、爆笑が起こった。
ルイズは穴があったら入りたい気分になった。自分の魔法で呼び出したのがただの平民だったのだ。
(やっと…やっと成功したと思ったら!)
ルイズの16年の人生の中で、まともに魔法が成功したのは今回が初めてだ。だから、自分の目の前にサモン・サーヴァントの鏡が現れた時は嬉しかった、嬉しかったのだが…
だからこそ、出てきたのがいかにも貧相なオーラを放っている少年…どう見ても平民だった事へのショックもひとしおだった。
「ミスタ・コルベール、やり直させて下さい!」
ルイズの必死な嘆願は一瞬で却下された。何度も頼んでみたがどうやっても覆らない。
とうとうルイズは覚悟を決めた。相変わらず状況がつかめずボーッと立っているハヤテに声を掛ける。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
「はい?」
突然の言葉にハヤテが目を向ける。その視線をまっすぐに受け、ルイズは頬を赤らめた。
今まではショックが先に立っていて見ていなかったが、よく見ると結構整った顔立ちだ。そこらの女の子よりも…可愛い。
頭に浮かんだそんな考えを振り払い、コンストラクト・サーヴァントの儀式を始める。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そして…キスをした。
「う、うわああああ!?」
突然の出来事にハヤテが大声を上げる。ハヤテはこういう事に免疫は無かった。今までは色んな意味でそれどころじゃなかったのだ。
咄嗟に少女と距離を取り、そして左手を押さえてうめき声を上げる。それを見て少女が言った。
「すぐに終わるわ。使い魔のルーンが刻まれてるだけだから」
少女の言った通り、痛みはすぐ引き、代わりに左手に見たこともない文字らしき入れ墨が刻まれる。
それを確認したコルベールが言う。
「ふむ…見たこともないルーンだな」
とはいえとりあえずこれで今年の使い魔召喚の儀式も無事終了した、そう判断したのだろう。コルベールが少年少女たちに声を掛ける。
「さて、皆、学園に戻るぞ」
そう言うと、何かを唱える。その瞬間、コルベールの身体が浮く。
「ええ!?」
その光景を見たハヤテは驚きの声を上げた。いくら彼でもワイヤーもなしに宙に浮く人間は見たことが無かった。
しかも見れば他の少年少女も次々と彼に続いて空を飛んでいく。ハヤテはとりあえず目の前の少女、何故か彼女だけは飛ぼうとしないに聞いた。
「あのう…あなたがたは一体?」
それを聞いた少女はむしろ驚いたように言う。
「あんた…メイジも見たこと無いの?」
メイジと聞いて最初に思い浮かんだのは工場で働いたことのある某お菓子会社だったが、流石に飛んだりはしないはずだ。
だが、他に思い当たる言葉がゲームやアニメ、漫画と縁の無いハヤテにはさっぱり思いつかなかった。
それを察したのだろう。少女はため息をついてハヤテにも分かる言葉で言い換える。
「ようするに…魔法使いよ」
それを聞いたとき、ハヤテは、世の中は広いなあとしか感じなかった。年の割に様々な経験を積んでいるハヤテは世界には自分の思いもつかない事などごろごろ転がっていることを知っていた。
「はあ、なるほど…」
ハヤテは考えた。
冷静に考えてみればどう考えても誘拐などうまくいくはずがなかった。自分はあっさり警察に捕まっていただろう。
だからといって誘拐を断念していたら、自分はヤク…とても親切な人たちに捕まって人生とさよならバイバイだっただろう。
ここが何処なのかはさっぱり分からないが、少なくとも日本の何処かなのだろう。日本語通じてるし。
だが、魔法使いの集まる謎の学園なんて聞いたこともないからそうそう見つかることはなさそうだ。
新天地で心機一転やりなおす。しかも夢見がちな両親抜き。上手くすれば人並みの幸福だって狙える。ハヤテには非常に魅力的なものに思えた。
そう結論し、ハヤテはとりあえず目の前の少女に頼むことにした。
「あの、何でもするんで、ボクを雇って頂けないでしょうか。帰る場所もお金も無いんです。別の仕事が見つかるまでの間でも良いんで」
「はあ?」
ルイズは困惑した。自らを雇ってくれなどと言う使い魔がどこにいるのだ。とりあえず言い返す。
「雇ってくれも何もないわ。あんたはもうあたしの使い魔なの。すなわちご主人様であるあたしのために一生仕える必要があるの。分かった?」
それを聞いてハヤテは小躍りしたい気分になった。日本式経営の見直しが進み、全国のお父さんがリストラにおびえるこの昨今に終身雇用保障!
やっぱり魔法使いというだけあって世間とはずれてるのだろうか。
使い魔と言うのがどんな仕事なのかはさっぱり分からないが、そこは無数のバイトをこなしてきた経験と根性でカバーできるはずだ。
すなわち、今自分は激しくついている!それを実感したハヤテは。
「はい!ありがとうございます!使い魔と言うのがどういう仕事かは存じませんが、粉骨砕身の覚悟で挑む所存ですご主人様!」
言葉と共に深々と頭を下げた。良い笑顔で。
そうして、勘違いから執事生活を歩む運命だった少年はやはり勘違いから使い魔生活を歩むことになった。
ちなみに、彼が本当の事態、すなわち彼が日本どころか地球ですら無い場所に来てしまったと気づくのは、
その日の夜、天に2つの月が昇ってからになるのだが、それはまた、次回の物語である。
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