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「ゼロの夢幻竜-01」(2009/02/11 (水) 14:05:57) の最新版変更点
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#navi(ゼロの夢幻竜)
「大丈夫。次こそきっと上手くいく。」
今トリステイン魔法学校では、今年の春に晴れて二年生になった者達の「使い魔召喚の儀」が行われている。
午後から一人ずつ執り行われている非常に重要なその儀式は遂に残すところあと一人の女生徒だけとなった。
しかし彼女がそれに取り掛かってからすっかり15分近くかかろうとしていた。
他の者なら1分とかからないこの儀式に何故そこまで時間がかかっているのか?
理由は簡単。その女生徒ことルイズが悉く召喚を失敗させるからである。
彼女が呪文を唱えて杖を振ると、儀式を終えた者達から叫び声と野次がとぶほどの爆発が起きる。
ついでにその者達に召喚された使い魔達も爆発の度に大騒ぎする。
教師も今しがた、今日はやめにして明日また改めて行ったらどうか、といってくる始末だ。
その提案をルイズはもう一回やらせてください!と頼み込んで蹴った。
あと一回という事になったが、回りからは少々疲れ気味の罵倒が止む事は無い。
「いい加減にしろよ!次で何度目かこっちだって数えるの面倒なんだぞ!」
「ちょっと!使い魔宥めなきゃならないこっちの身にもなってよね!!」
いちいち相手にしていたらキリが無い。
大体あんなもの、この学園に入った時からそうだったのだから。
意識を集中させ、杖を高く掲げて声を上げる。
「宇宙の何処かにいる私の下僕(しもべ)よッ!!」
そのいきなりの口上に野次は止むが、同時にきょとんとした雰囲気も作り出す。
だがそんな空気は気にもせずにルイズは続ける。
「強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
口では格好の良い事を言っていても正直そんな事はどうでもよかった。
どんな物でも良い。
召喚されて私の感情を十分満足させてくれる生き物であるならば猫でも鼬でも歓迎するわ。
今度爆発だけで何も起こらなかったらここにいる事さえ危うくなってしまう。
失敗は許されない。もうさっき言った様なやつでも良いから何か来て!!!
次の瞬間目も眩むような白銀の閃光が生まれ、次に今までには無い強烈な爆発が起きる。
その為周囲は大量の土煙のせいで完全に視界が利かなくなってしまった。
やがて大分薄くなったそれを一陣の風が遠くへ運ぼうとした時、ルイズにははっきりと見えた。
爆発の中心地に何かが確かにいる事を。
「おい!あそこになんかいるぞ!!」
そして生徒の一人もやや興奮気味にルイズの見ている方向と同じ方向に指を指す。
一瞬それは皆の目には竜の様に映った。
しかし煙が晴れて直ぐにそれは自分達の世界で知られているどの竜とも違うという事に気付かされる。
大きさにして1メイルから2メイルの中間くらい。
色は赤と白を基調としており、草原の中にいれば一目で分かる程はっきりとしている。
体は卵の様な丸みを帯びており長い首がついていた。
そして翼は一般的な竜とは違い、中折れに相当する箇所が無く体から真っ直ぐ伸びている。
「嘘だろ……ゼロのルイズが成功しやがった!」
「でも……何なのよ、あれ?!!」
確かに見た事の無い生き物のためにあれとしか表現しようの無い生き物。
そしてそれは今、目を閉じている。
気絶しているのだろうか?それともどこかで昼寝でもしているところを召喚されたからだろうか?
だがそれを呼び出したルイズにとってそんな事は瑣末な問題の一つにしか過ぎない。
魔法の成功確率ゼロ故に‘ゼロのルイズ’と言われ続けた自分が、やっと成功する事が出来たのだから。
砂漠を歩き続けた旅人が水辺を見つけた時の様に、ルイズはふらふらとその生き物の所へ足を進める。
「や、やったわ……やったわ!!」
正に感激の極みといったところだ。
周囲が動揺していようが何を言おうが最早彼女の耳には何も聞こえてきはしない。
鼠でも鼬でもと考えていたせいか、立派な使い魔を召喚出来たのだから文句の一つも出なかった。
近づいてみると、離れていたときは分からなかったが全身の細かな体毛がガラスの破片の様にキラキラと輝いている。
体が一定間隔で上下している所を見ると、どこかで休んでいる所を召喚されたのだろう。
何より安らかそうなその顔は見ていて愛らしいところもある。
「これは、見た事の無い生き物ですね……詳しい事は図鑑で調べるか専門の研究機関に訊くかしなければ分かりませんが、
兎に角、サモン・サーヴァント成功です。おめでとう、ミス・ヴァリエール。さ、儀式の続きを。」
「あ、有り難う御座います!コルベール先生!」
儀式を監督していたコルベールが興味深げな視線をそれに送りつつ賞賛の声を向ける。
教師に褒められた事が魔法関係ではそうそう無かった彼女は感無量となる。
そして未だ周りの喧騒に微々として気付く事も無く、すやすやと眠り続けているその生き物の顔に自分の顔を近づけて言う。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
言葉と共に杖を振り、口ととれる頭部の下にある切れ込みに自らの唇を重ねる。
と、その時何かの音がルイズの心の中に響いてくる。
それは霧の彼方から聞こえて来る様な感触だった。
やがてそれははっきりと言葉になっていき、幼くも透明感のある声となる。
「あなた……だあれ?」
「えっ?!」
ルイズはその声に驚いて唇を離し辺りを見回す。
だが自分の目に映るのは相変わらずざわめき続ける同級生達と、満足げな表情をしているミスタ・コルベールのみ。
そもそもそんな声を出すくらいの子供も、自分の名前を訊くような者も此処にはいない。
という事はもしや……
「うむ、『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが『コントラクト・サーヴァント』はきちんと出来た様だね。」
ルイズが狐に摘まれた様な表情しているにも拘らずコルベールが嬉しそうに言う。
その段になって彼女の使い魔は目を覚ました。
目を何回も瞬かせ、頭を擡げてこちらを見つめる仕草は愛くるしいものだった。
使い魔が持つ大きく黄色のくりっとした目がそれを十分に引き立てている。
その時、またも先程聞こえてきたものと同じ声が聞こえてくる。
が、その声は今にも泣き出しそうな声をしていた。
「あついよ……てが、あつい……あついよう……たす……けて」
手、そして熱いという単語にルイズは使い魔のルーンが刻まれているのだと反射的に気づく。
そこまでいって更に彼女は事の奇妙さにはっとした。
目の前にいる竜ともしれぬ生き物はさっき見せていた優しそうな表情とは逆に苦悶の表情を浮かべていたからだ。
だとすれば本当にこの目の前の竜が喋っているというのだろうか?
流石にその事を不気味に思ったルイズは後ろにいるミスタ・コルベールに早口でその事を伝える。
「せっ、先生っ!!この使い魔喋ってます!!」
「何、喋ってるだって?どれどれ……?」
コルベールはルイズの側まで来てから地面に立膝を突き、使い魔の口元に出来るだけ耳を寄せる。
しかし、何も聞こえてはこない。
それどころか口を動かす気配さえない。
「うーん、済まないがミス・ヴァリエール、私には聞こえないみたいだ。」
済まなさそうにコルベールは後頭部を掻きながら答える。
その間にもルイズの頭にはさっきから苦しげな声が聞こえてくる。
「いたいよ……やめてよ……なんなの、これぇ……」
そのあまりの苦しげな表情に、ルイズは声の問題はさておいて使い魔をそっと抱き締める。
「ごめんなさい……我慢してね。使い魔のルーンが刻まれるまでの間だから……」
そう言って縫いぐるみの様に柔らかい毛を持った体をそっと何回も撫でていく。
これから一生を共にする存在であり、やっと自身の魔法が成功した証。
見栄えも申し分ないこの使い魔を邪険にすれば、始祖ブリミルから何をされても文句は言えない。
というかそんな事をした時点でメイジではない気がする。
コルベールはというと表情を研究者のそれにし、感慨深げな声を出す。
「うん。どうやらルーンは此処に刻まれたようだね。」
そう言って彼が撫ぜたのは翼の下辺りにある赤い楕円状の突起部分だった。
それを見てルイズは益々訳が分からなくなってくる。
使い魔が喋ったであろう言葉が正しければそこは手に当たる部分だ。
だがそこにはただ突起があるだけで指はおろか腕すらない。
どういうことだろうか?
そんなルイズを余所にコルベールは熱心にルーンを観察し、それを携帯していたスケッチブックに書き写す。
「ふむ。珍しいルーンだな。さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ。」
「待って先生!私は本当に……」
聞こえたんですと言おうとしたが、見事な巻き髪と雀斑を持った女の子の茶々によって邪魔された。
「爆発魔法ばっかりやってるから疲れて空耳でも聞いたんじゃないの?」
「な!先生っ!『洪水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」
「ちょっと!誰が『洪水』ですって?!私は『香水』のモンモランシーよ!」
「あんた小さい頃洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよっ!」
「よっくも言ってくれたわねっ!ゼロのルイズ!ゼロの癖になによ!!」
「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ。さあ、早く戻ろう。」
二人を宥めたコルベールが踵を返してすうっと宙に浮く。
それに伴い他の生徒達も空中に浮き石造りの校舎に向かって飛んで行く。
「なあルイズの使い魔って飛べるのかなあ?」
金髪で少々ぽっちゃりとした少年―マリコルヌがさりげなく出した質問に他の生徒はふと考えさせられる。
確かに翼―此処の常識に照らし合わせてあれが翼と無理にいうのなら―は持っていた。
「使い魔自体は飛べるだろうけど、ルイズを乗せてじゃ……」
比べてみれば体格的に乗るルイズの方が大きい。
それにバランスも悪く見えてしまう。
何よりあの使い魔の翼にそんな踏ん張りの利く力があるとはどう贔屓目に見ても見れない。
その事に関して燃える様な赤い髪の少女―キュルケが「無理ね」と断じ切る。
それから誰からともなく小さな笑い声が上がり、やがてそれは大きな笑い声となる。
「なあんだ。結局ルイズは歩いて城まで、か!相変わらずじゃあないか!」
「竜っぽい外見だったから最初はびっくりしちゃったけど、ゼロのルイズにぴったりかも!」
「見かけ倒しもあそこまでいくと質が悪いな!だが良い余興にはなったよ。なあ、皆?」
金髪の気障そうな少年―ギーシュのその言葉に皆は各々のタイミングでうんうんと頷く。
そして再び一頻りの笑いが起きた。
だがそれに交わる事も無く無表情を貫き通している少女がいた。
小柄で幼い外見をした青髪の少女―タバサはほんの極僅かだが何かを感じ取っていたからだ。
ルイズの使い魔が自分の召喚した6メイルはありそうな巨躯を持つ風竜の幼生と、どこと無く何かが似通っている事を。
草原に一人取り残されたルイズは使い魔の方へ向き直り、優しい口調で問いかける。
「あんな奴等の言う事なんて聞いちゃダメよ?それよりあなた大丈夫?もう痛くはないと思うけど。」
そう言ってルーンの刻まれた赤い突起に目をやる。
が、次の瞬間彼女はその場から軽く仰け反ってしまった。
赤い突起が急に迫り出したかと思うとそれが前にすっと伸びて、突起から折り畳まれていたであろう先の尖った指が三つ出てきたのだ。
いや、体から伸びているか細い腕も、赤い手もその指も収納できるものだと考えていいだろう。
使い魔は不安げにルーンの刻まれた手の甲を見ていた。
それからややあって再び例の声が聞こえて来た。
「あなた……だあれ?」
それに対しては質問の趣旨を無視して『どうやって話しているの?』と聞きたかったが、そんな事をするのは流石に野暮だと思って正直に答えた。
「私の名前はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあなたのご主人様よ。」
「ル、イ……ズ。ルイズ!ルイズ!」
「嘘っ、ルイズだけだけど、もう覚えたの?!凄いじゃない!でも、ルイズじゃなくて『ご主人様』って呼ぶのよ。いいわね?」
「ル、ル、ルイズはご主人様!ルイズはご主人様!」
使い魔は名前の定義を壮大に勘違いしているらしく、がくっとしたルイズは冷静に突っ込む。
「ええと、違うわ。『ご主人様』、それだけで良いの。それと私と話す時は……敬語を使ってね。……敬語ってこの子分かるのかしら?」
「わかった!えーとぉ……ご主人様!」
「そうよ!やるじゃない!それにこれってよくよく考えたら凄い事よね。人語を解して、話し方に上下関係の区別までつけながらどんな形だろうと話す事が出来るんだから。しかも使い魔で。」
「?ご主人様、どしたんですか?」
顎に手を置きながらぶつぶつ何かを喋っているルイズに使い魔は質問した。
「何でもないわ!何でもないの。……ところであなたの名前は?」
「わたしのなまえは……ラティアス」
「そう。ラティアスっていうんだ。変な名前だけどわたしは素敵な名前だと思うわ。」
「……うれしいです、ご主人様。」
言うとラティアスは両頬を薄紅色に染める。
照れた使い魔を微笑ましげに見つめ、ルイズは学院の方向を向く。
「さてと、学院に戻りましょうか。あっ、あなたは初めて行くのよね。」
再びラティアスの方を向くとラティアスはもう地面に横になってはいなかった。
ルイズの頭がある所とほぼ同じ位置で滞空していたのである。
やっぱり竜の一種なのかしらと思ったルイズはまたしても奇妙な事に気づく。
ふわふわとその場で5サント程上下しているにも拘らず翼が微動だにしていないのだ。
通常竜は滞空する為にを翼を動かすものだが、ラティアスにはそれが全く見られない。
風を掴んでいるのだろうかという考えは、辺りが極めて無風に近いという事で無しになった。
では、一体どうやって浮いているというのだろうか?
「ご主人様!どこへ行きたいんですか?」
「えっとね、あっちの方にあるトリステイン魔法学院っていう所。」
「じゃあ、わたしの背中に乗ってください!」
「いいわよ……って、あんた今なんて言った?」
驚いた顔をしているルイズにラティアスはにこにこと応対する。
ルイズは使い魔の体を端から端まで眺めながらこう言った。
「……あんたの体じゃわたしを乗せたりなんかしたら潰れちゃうんじゃない?」
「大丈夫です!ちゃんと飛んでみせますから、さあ早く!早く!」
ラティアスはどうぞと言わんばかりに滞空している位置を下げ、ルイズがその背中に乗れる様にする。
乗りますか?乗りませんか?
使い魔の感情を無碍にする訳にもいかないので、ルイズは出来る限りそうっとその背中に乗る。
乗った刹那、ラティアスの体は上下の振れ幅が大きくなったが、その後は何ともなかった様に地面からどんどん離れていく。
10メイル、50メイル、100メイルと高く昇る度にルイズは心の中に湧き上がる嬉しさが増えていく。
それに少しだけ蓋をしてルイズは一つ質問をする。
それは相手が人語を理解する存在であるが故に一応聞いておきたかった事だった。
「ラティアス。一つ訊いていいかしら?」
「何でしょうか、ご主人様?」
「あんたどうやって私に話しかけてるの?口少しも動かしてないのに……」
するとラティアスはなんて事はない様に答える。
「テレパシーです!えっへん!」
「てれぱしぃ?何、それ?意思疎通の手段の一つ?道具?」
「えーとですね、くわしい事はわたしも説明できないんですけど、自分が心をゆるした者との心を結ぶと年上のだれかに聞かされた事があります。」
「凄い……!心を許した者って私の使い魔になったからかしら?ねえ、私以外の周りの人に声が聞こえなかった理由は何なの?」
「この世界に来てわたしが最初に見たのがご主人様だったからです。それに……」
そこまで言うとラティアスは左手の甲に刻まれたルーンを見つめながら、またも両頬を赤く染めてうっとりするような調子で言う。
「ご主人様だけ、わたしが痛がったり苦しがったりしている時に優しい言葉をかけてくれましたから……」
その言葉を聞いてルイズは決心する。
この子にもっと優しく接してあげよう、と。
上手くすれば更に素晴らしい能力を引き出す事が出来るかもしれないからだ。
そして一応もう一つ質問する。
「あなた……声と口調からして、雌ね?それも私より年下でしょ?」
「はい!今年でちょうど10才になります!」
「10歳ですって?!!まだ子供じゃないの!!」
ルイズが驚くのも無理はない。
竜という生き物―くどい様だがラティアスがこの世界でいう竜とするならば―は人間に比べて遥かに長命で、成体ともなれば4桁の年齢に差し掛かるものもざらにいる。
となればやっと2桁台に乗った目の前にいるラティアスは赤ん坊にも等しい事になる。
ただ竜には至極稀に、それも限った種に寄るが幼い段階から聡明な個体も生まれる事があると聞かされている。
ましてやラティアスが口にした年齢が正しいとすれば、自分はそれこそとんでもない当たり籤を引いたという事だ。
そんな考え事をしているルイズへラティアスは少々膨れて応対する。
「子どもじゃないです!わたしの様な年になったら、みんな人とおしゃべりできるんです!」
「ご、ごめんなさい。ちょっと信じられなかっただけ。」
「……くすっ。気にしないでください。同じ事を言う人は結構いるって聞いた事ありますから。それにしても……ご主人様の体、暖かいなあ。」
そしてお喋りは終わりとばかりにルイズはぽーっとしているラティアスに話しかける。
「ありがと。じゃ、行きましょうか!……ってラティアス?ラティアスー?」
「は、はわわ!!すいません、ご主人様!じゃ、わたしの体のどこかにしっかりつかまっていて下さい!行きますよー。とばしますよー!」
そろそろ高度が300から400メイルに達しようかと思われた次の瞬間だった。
ラティアスは手を収納し、地面に対して45度程の角度で立てていた翼を水平にし、直後放たれた矢の如き速さで発進した。
先に飛んでいった生徒達は学院まであとちょっとという所にいた。
既にルイズを冷やかす話は終わり、皆自分達の使い魔についての話をしている。
まあ、大抵は貴族のプライドが先に来る為か自慢合戦の様相を呈していたが。
だがそんなお喋りは誰かが発した叫び声で唐突に終わりを告げる。
「おい!何か来るぞ!」
生徒達は何だろうと自分達の後方を見つめる。
だが何もやって来る気配はない。
「上だよ!上!」
最初に叫んだ生徒は気づいてよ!とばかりに再び叫ぶ。
そこで彼等は自分達のいる空域の更に上方を見上げると、確かに何かが急速度で近づいてくる。
そして風を切る様な音と共に現れたのはあのルイズが召喚した使い魔だった。
更によく見ればその背に当のルイズも乗っている。
その使い魔は呆気に取られている生徒達をあっさりと追い抜き、学院の広場へと向かって行った。
あまりにあっという間の出来事だった為に誰も口を開こうとはしない。
やや間があってからタバサが乗っている風竜が我先にと全員の前に飛び出し、猛スピードでルイズの後を追い始めた。
そしてそれにキュルケが続き、更に後方から他の生徒達が続く。
先頭をきるタバサは何でもなかったが、キュルケを始めとする他の生徒達は一つの言葉に突き動かされるように急いだ。
曰く、ゼロのルイズに負けてたまるか(たまるものですか)!との事。
そんな連中を尻目にルイズとラティアスは学院の広場に降り立った。
少し、いやかなりスピードが出ていた為かルイズの髪は今、起きぬけに櫛を入れ忘れたかのような状態になっている。
だが今のルイズの表情はそんな事を粉微塵も感じないかのように晴れ晴れとしていた。
機嫌が言いなんて物じゃない。最高の気分だ。
風竜?めではない。更なる能力が開花すればそれ以上の存在になる可能性を秘めているからだ。
サラマンダー?大きさこそあちらが勝っているがやはりここまで直ぐに移動できたという印象の方が大きい。その自信があればサラマンダーすら野鼠の様に見えてくる。
梟?ジャイアントモール?比べるまでもない。
尚も宙に浮き続けるラティアスをルイズはそっと抱き締め優しく言う。
「最高よ、ラティアス。あなたは最高の使い魔よ。他の誰がなんて言おうと私はあなたを見離すなんて事しないわ。これからもずっと一緒にいてね。」
「もちろんです!ご主人様大好きですっ!」
ラティアスは嬉々としてその言葉を受け入れる。
そして心の底から思う。
この、自分の『ご主人様』となった人に心を許して良かったと。
「あ、でも今度から私を背中に乗せる時はあんな速さで飛んじゃ駄目。速くても良いけどこうなるのは嫌だもん。」
そう言ってルイズは自身の髪を一房分持ち上げる。
そこには強風の為ぼさぼさになった桃色の髪があった。
「はう。ごめんなさいご主人様。」
#navi(ゼロの夢幻竜)
#navi(ゼロの夢幻竜)
「大丈夫。次こそきっと上手くいく。」
今トリステイン魔法学校では、今年の春に晴れて二年生になった者達の「使い魔召喚の儀」が行われている。
午後から一人ずつ執り行われている非常に重要なその儀式は遂に残すところあと一人の女生徒だけとなった。
しかし彼女がそれに取り掛かってからすっかり15分近くかかろうとしていた。
他の者なら1分とかからないこの儀式に何故そこまで時間がかかっているのか?
理由は簡単。その女生徒ことルイズが悉く召喚を失敗させるからである。
彼女が呪文を唱えて杖を振ると、儀式を終えた者達から叫び声と野次がとぶほどの爆発が起きる。
ついでにその者達に召喚された使い魔達も爆発の度に大騒ぎする。
教師も今しがた、今日はやめにして明日また改めて行ったらどうか、といってくる始末だ。
その提案をルイズはもう一回やらせてください!と頼み込んで蹴った。
あと一回という事になったが、回りからは少々疲れ気味の罵倒が止む事は無い。
「いい加減にしろよ!次で何度目かこっちだって数えるの面倒なんだぞ!」
「ちょっと!使い魔宥めなきゃならないこっちの身にもなってよね!!」
いちいち相手にしていたらキリが無い。
大体あんなもの、この学園に入った時からそうだったのだから。
意識を集中させ、杖を高く掲げて声を上げる。
「宇宙の何処かにいる私の下僕(しもべ)よッ!!」
そのいきなりの口上に野次は止むが、同時にきょとんとした雰囲気も作り出す。
だがそんな空気は気にもせずにルイズは続ける。
「強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
口では格好の良い事を言っていても正直そんな事はどうでもよかった。
どんな物でも良い。
召喚されて私の感情を十分満足させてくれる生き物であるならば猫でも鼬でも歓迎するわ。
今度爆発だけで何も起こらなかったらここにいる事さえ危うくなってしまう。
失敗は許されない。もうさっき言った様なやつでも良いから何か来て!!!
次の瞬間目も眩むような白銀の閃光が生まれ、次に今までには無い強烈な爆発が起きる。
その為周囲は大量の土煙のせいで完全に視界が利かなくなってしまった。
やがて大分薄くなったそれを一陣の風が遠くへ運ぼうとした時、ルイズにははっきりと見えた。
爆発の中心地に何かが確かにいる事を。
「おい!あそこになんかいるぞ!!」
そして生徒の一人もやや興奮気味にルイズの見ている方向と同じ方向に指を指す。
一瞬それは皆の目には竜の様に映った。
しかし煙が晴れて直ぐにそれは自分達の世界で知られているどの竜とも違うという事に気付かされる。
大きさにして1メイルから2メイルの中間くらい。
色は赤と白を基調としており、草原の中にいれば一目で分かる程はっきりとしている。
体は卵の様な丸みを帯びており長い首がついていた。
そして翼は一般的な竜とは違い、中折れに相当する箇所が無く体から真っ直ぐ伸びている。
「嘘だろ……ゼロのルイズが成功しやがった!」
「でも……何なのよ、あれ?!!」
確かに見た事の無い生き物のためにあれとしか表現しようの無い生き物。
そしてそれは今、目を閉じている。
気絶しているのだろうか?それともどこかで昼寝でもしているところを召喚されたからだろうか?
だがそれを呼び出したルイズにとってそんな事は瑣末な問題の一つにしか過ぎない。
魔法の成功確率ゼロ故に‘ゼロのルイズ’と言われ続けた自分が、やっと成功する事が出来たのだから。
砂漠を歩き続けた旅人が水辺を見つけた時の様に、ルイズはふらふらとその生き物の所へ足を進める。
「や、やったわ……やったわ!!」
正に感激の極みといったところだ。
周囲が動揺していようが何を言おうが最早彼女の耳には何も聞こえてきはしない。
鼠でも鼬でもと考えていたせいか、立派な使い魔を召喚出来たのだから文句の一つも出なかった。
近づいてみると、離れていたときは分からなかったが全身の細かな体毛がガラスの破片の様にキラキラと輝いている。
体が一定間隔で上下している所を見ると、どこかで休んでいる所を召喚されたのだろう。
何より安らかそうなその顔は見ていて愛らしいところもある。
「これは、見た事の無い生き物ですね……詳しい事は図鑑で調べるか専門の研究機関に訊くかしなければ分かりませんが、
兎に角、サモン・サーヴァント成功です。おめでとう、ミス・ヴァリエール。さ、儀式の続きを。」
「あ、有り難う御座います!コルベール先生!」
儀式を監督していたコルベールが興味深げな視線をそれに送りつつ賞賛の声を向ける。
教師に褒められた事が魔法関係ではそうそう無かった彼女は感無量となる。
そして未だ周りの喧騒に微々として気付く事も無く、すやすやと眠り続けているその生き物の顔に自分の顔を近づけて言う。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
言葉と共に杖を振り、口ととれる頭部の下にある切れ込みに自らの唇を重ねる。
と、その時何かの音がルイズの心の中に響いてくる。
それは霧の彼方から聞こえて来る様な感触だった。
やがてそれははっきりと言葉になっていき、幼くも透明感のある声となる。
「あなた……だあれ?」
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