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「ワイルドの使い魔-8(1)」(2007/08/06 (月) 21:39:31) の最新版変更点
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「剣、買ってあげようか?」
きっかけは、その一言だった。
色々在った一夜が明けて、僕の主の着替えを手伝っていた時の事。
そのご主人様・・・ルイズは、急に思い出した様にそう告げてきた。
「剣?」
「そうよ。思い出したんだけど、アンタ剣扱えるんでしょ?私の使い魔としてやっていくなら、まず見た目から入るべきだわ」
何か威厳がどうとか、今のままだと今一強そうに見えないだとか、そんな事をつらつらを続けるルイズ。
「アンタ、あの力は強力みたいだけど、使った後に凄く疲れてたじゃない。アレじゃ、主人を守るなんて出来ないと思うのよ」
ああ、そういえば目の前でペルソナを見せたのはあの決闘の時だけだっけ。
ならペルソナを使う度に倒れると勘違いしてもおかしくないかな。ここは折角だしルイズの言葉に甘えてしまおう。
・・・この世界に影時間があると判った以上、僕もそれなりに動かないといけないし、その為にはペルソナだけに頼ってもいられない。
同時に思い出す。あの決闘で、僕は木刀に見立てた木の棒を、今まで感じたことが無いほど自在に操る事が出来た。
まるで、無数の身体能力強化のスキルを使ったみたいだった。あの感覚・・・もし、本物の剣ならどれほどの力を今の僕は振るえるのだろう?
何より、女の子からのプレゼントを断るわけには行かないよね?
「今日は虚無の曜日だから、授業も無いしね。朝食を食べたら町に行くわよ」
「町か・・・うん、行って見たいな」
考えてみると僕はこの世界は、この学園内しか見ていない。
この世界の町並みや人の暮らしを見てみたくなる。同時に・・・昨日の夜の影時間のことを思い出す。
あの時はシャドウは姿を現さなかった。でも、この先はどうなるかわからない。
なら、これからの備えに薬や道具をどこかで仕入れておいた方がいいかもしれない。
「決まりね。主の私の寛容と偉大さに感謝するのよ」
無い胸を張るルイズ。こうして、僕たちは町へ出かける事になったのだった。
「ダーリンおはよう!貴方の恋の奴隷、キュルケが会いに来たわよ!!」
鍵がかかっていた扉を、アンロックの魔法で強引に空け、キュルケは危険な薬でもやってるかの様なハイテンションでルイズの部屋に飛び込んだ。
キュルケは燃え上がっていた。
昨日の夜語られた、彼の過去。それは荒唐無稽な異世界の英雄譚に他ならない・・・普通なら。
だが、目の前に現れた炎の巨人が、言葉を紡ぐ死の化身が、彼の言葉が真実だと告げていた。
灼熱の炎の化身・・・炎のトライアングル・メイジであるキュルケにとって、その炎は絶対的な存在として瞳に映った。
なにより、あの瞳。あんな深い瞳は、普通では持ちえない。それこそ、彼の言うような体験でもしない限りは。
異世界の少年キタロー。キュルケがこれまで付き合ってきた少年たちなど、彼に比べれば路傍の小石以下でしかない。
もう、正直ルイズの使い魔とかそんな事はどうでもよかった。
(恋の狩人なんて言ってられないわ!)
元々、ゲームのように恋愛を楽しんでいたキュルケにとって、それはある意味初めての恋なのかもしれない。
「貴方の為なら私何でも・・・あら?」
とはいえ、その『初恋』も、相手が居なければ空回りするだけ。
ルイズの部屋に、意中のキタローとおまけのルイズ両方居ない事にようやく気付き、さしものキュルケのハイテンションも多少大人しくなる。
「どこに行ったのかしら?・・・鞄は、無いわね・・・」
部屋の様子を伺いながら、窓から外を見ると、丁度キタローとルイズが馬に乗って出かけようとしていた。
「ダーリンったら出かけるの?」
「大丈夫、追いかける」
真横から聞こえた声に、キュルケは飛び上がった。
何時の間に来たのか、タバサが同じように窓からキタロー達を見つめていた。
「!?・・・タバサ!居たの!?・・・珍しいじゃない。虚無の曜日はいつも図書館に篭ってるのに、今日はどうしたの?」
「彼には、私も興味がある」
相変わらず、タバサの言葉は少ない。しかし、こうまでタバサが他人に興味を示すのは初めてのことだった。
(この子がこんな風に興味を持つのは珍しいわね・・・良い事だと思うけど)
キュルケは、普段見ないタバサの積極的な様子に戸惑いつつも、その姿を微笑ましく思った。
あの異世界から来たと言う少年は、確かにタバサでも興味を持たずには居られないのだろう。
もっとも・・・
(・・・恋のライバルにはならない・・・わよねぇ?)
何時の間にか風竜の元へと引きずられながら、キュルケはふと浮かんだ考えにいささか不安を覚えるのだった。
学園から最寄の町まで向かう間・・・僕は、昨夜ミスタ・コルベールやキュルケさん達に語った僕の過去をルイズに語っていた。
考えてみると、こうやってゆっくり話す機会は今まで無かった。
こちらの世界にやってきて3日あまり。
その間ルイズは何か苛立っていたり、怒っていたり、不機嫌だったりで話しかけづらかったから。
だから、この二人っきりで馬に乗ってるという状況は都合が良かった。
「・・・だから、僕はこう言ったんだ。『幾月自重しろ』ってね。でも身動き取れなくて・・・」
ルイズは僕の後ろで只黙って僕の話を聞いている。・・・多分、彼女は僕の話を信じられないんじゃないかと思う。
無理ないよね・・・僕も、何の予備知識が無かったらこんな荒唐無稽な話信じないから。
でも、聞いて欲しかった。僕は・・・もう、元の世界に戻る気は無い。戻っちゃいけない。
なら、僕がこの世界で生きていく為にも、僕の『ご主人様』には全てを知っていて欲しいから。
「・・・でね、その処刑ってのが凄くて・・・アレはトラウマになるね。当然テレッテと綾時を先輩と一緒に後でボコったけどね」
・・・あれ?何だか話さないでもいいような事まで話してる気もするけど・・・まあいいか。
綾時の事もルイズには知ってもらわないといけないし。
僕はそのまま話し続ける。
ユニバースの力で時を遡り、ルイズに呼び出されたその瞬間までの物語を。
遠く、町が近づいてきていた。
学園からトリスティンの城下町までの間、ルイズは彼女の使い魔から語られる彼の過去に聞き入っていた。
確かに、彼を初めて召喚したあの夜。
キタローは彼女にとっては信じられないような町や人々の暮らしの事を彼女に語った。
魔法の無い世界の話・・・当然信じられなくて、聞き流したけれども、今にして思えばもっと彼の話を聞くべきだったと思う。
キタローは、話の始めにこう切り出してきた。
「もう僕は元の世界に戻る気は無いんだ。だけど、だからこそルイズに知って欲しい。僕の事、僕の居た世界の事・・・」
その言葉に込められた決意と哀しみ、そして語られた彼の過去の戦い。
全てが、ルイズの想像を遥かに超えていた。
一つの世界を死の運命から救い、更に誰の記憶からも消え去る事を覚悟で世界を飛び越えた。
彼に比べて自分はどうだ。失敗ばかりのダメメイジ・・・この使い魔の少年の主として名乗れるものだろうか?
あの決闘から、影で『使い魔は凄いけど、主は相変わらずのゼロ』と囁かれている事は知っていた。
その通り、だと思う。
彼女の使い魔は、かつて別の世界を救った救世主だ。
キタローの主になったのも、彼の言うユニバースの力がルイズの召喚魔法を引き寄せた結果だけなのかもしれない。
彼に、私は釣り合わない。
彼の長い、長い話が終わった時。ルイズはキタローの背中にしがみ付きながら泣いていた。
何が悲しいのかわからない。
彼の悲しい決意に対してなのか、彼と比べた自分の卑小さを悲嘆しているのか、それとも・・・
「・・・ど、どうしたの?ご主人様・・・」
「・・・わ、私をそんな風に呼ばないでよ!私が泣こうがどうしようがアンタには関係ないでしょ!」
振り向いたキタローがルイズを案じる。それが今は耐えられない。
今まで虚勢をはって召使以下の仕事をさせてきた自分が、あまりにも滑稽だ。
彼が優しく声をかけてきても、その人としての大きさと自分とを比べてしまう。
そう、こんな思いをするならば、いっそあの時召喚に失敗したらよかったのに。
もっと別の何かでもいい。
普通の猫とかネズミとか・・・ゼロの異名の通りに、何の力も無い使い魔を。
「・・・僕は、ルイズに召喚されて良かったと思ってるよ?」
なのに、この使い魔は振り返って微笑んで・・・どうしてそんなに優しく微笑むことが出来るんだろう?
こんな風になじられてるのに。
「何でよ!私じゃ、アンタに釣り合わないじゃない!私は、何の力も無いのよ!?『ゼロ』なのよ!!」
「それで?力なんて、つければいい」
・・・な、何言ってるのよ!この使い魔は!?
思わず叫びそうになった声をさえぎって、キタローが続ける。
「僕は、元々弱かった。戦闘リーダーとかやらされたけど、始めは本当に弱かったんだ」
今話したよね?そう続けてキタローは言葉を紡ぐ。
「多分、初めてタルタロスに挑んだ時の僕は・・・今のルイズに勝てないと思う。ルイズのあの爆発する魔法は、凄く威力があるから。
そんな僕も色んな戦いと沢山の人達の助けで戦い抜けた。僕は、一人で強くなったわけじゃない。だから・・・ルイズも強くなれる。
イゴールが言ってた。僕の力はゼロでワイルド・・・何も無いから、何にでもなれる力。だから僕はユニバースのカードを手に出来た。
ルイズもそう。ゼロは何も無いかもしれない・・・けど、その代わりに何にでもなれる。ルイズは、きっと凄い力を手に出来る」
そういうキタローの顔は真剣で・・・ルイズは思わず見入ってしまう。
同時に・・・不思議と、心が晴れる気がする。
何でだろう?キタローに言われると、本当にそうなる様に思えてくる。
「・・・あ、当たり前じゃない!私はヴァリエールなのよ!アンタなんて直ぐに追いついて追い越してやるんだから!」
「うん、期待してる」
でも、何時ものように強気な言葉を張り上げてしまった。本当は、彼に感謝を伝えたいのに。
元気付けてくれたお礼を・・・
「・・・あ、もう直ぐ町に着くね」
言おうとして、キタローの声で気がつく。何時の間にか町が目の前だった。
「・・・ふ、ふん!アンタの無駄に長い話の所為であっという間だったわね!ほら、さっさと武器屋に行くわよ!」
照れた顔を見せたくなくて、ルイズはキタローを急かす。
帰り道で、言えたらいいな、と思いながら。
「剣、買ってあげようか?」
きっかけは、その一言だった。
色々在った一夜が明けて、僕の主の着替えを手伝っていた時の事。
そのご主人様・・・ルイズは、急に思い出した様にそう告げてきた。
「剣?」
「そうよ。思い出したんだけど、アンタ剣扱えるんでしょ?私の使い魔としてやっていくなら、まず見た目から入るべきだわ」
何か威厳がどうとか、今のままだと今一強そうに見えないだとか、そんな事をつらつらを続けるルイズ。
「アンタ、あの力は強力みたいだけど、使った後に凄く疲れてたじゃない。アレじゃ、主人を守るなんて出来ないと思うのよ」
ああ、そういえば目の前でペルソナを見せたのはあの決闘の時だけだっけ。
ならペルソナを使う度に倒れると勘違いしてもおかしくないかな。ここは折角だしルイズの言葉に甘えてしまおう。
・・・この世界に影時間があると判った以上、僕もそれなりに動かないといけないし、その為にはペルソナだけに頼ってもいられない。
同時に思い出す。あの決闘で、僕は木刀に見立てた木の棒を、今まで感じたことが無いほど自在に操る事が出来た。
まるで、無数の身体能力強化のスキルを使ったみたいだった。あの感覚・・・もし、本物の剣ならどれほどの力を今の僕は振るえるのだろう?
何より、女の子からのプレゼントを断るわけには行かないよね?
「今日は虚無の曜日だから、授業も無いしね。朝食を食べたら町に行くわよ」
「町か・・・うん、行って見たいな」
考えてみると僕はこの世界は、この学園内しか見ていない。
この世界の町並みや人の暮らしを見てみたくなる。同時に・・・昨日の夜の影時間のことを思い出す。
あの時はシャドウは姿を現さなかった。でも、この先はどうなるかわからない。
なら、これからの備えに薬や道具をどこかで仕入れておいた方がいいかもしれない。
「決まりね。主の私の寛容と偉大さに感謝するのよ」
無い胸を張るルイズ。こうして、僕たちは町へ出かける事になったのだった。
「ダーリンおはよう!貴方の恋の奴隷、キュルケが会いに来たわよ!!」
鍵がかかっていた扉を、アンロックの魔法で強引に空け、キュルケは危険な薬でもやってるかの様なハイテンションでルイズの部屋に飛び込んだ。
キュルケは燃え上がっていた。
昨日の夜語られた、彼の過去。それは荒唐無稽な異世界の英雄譚に他ならない・・・普通なら。
だが、目の前に現れた炎の巨人が、言葉を紡ぐ死の化身が、彼の言葉が真実だと告げていた。
灼熱の炎の化身・・・炎のトライアングル・メイジであるキュルケにとって、その炎は絶対的な存在として瞳に映った。
なにより、あの瞳。あんな深い瞳は、普通では持ちえない。それこそ、彼の言うような体験でもしない限りは。
異世界の少年キタロー。キュルケがこれまで付き合ってきた少年たちなど、彼に比べれば路傍の小石以下でしかない。
もう、正直ルイズの使い魔とかそんな事はどうでもよかった。
(恋の狩人なんて言ってられないわ!)
元々、ゲームのように恋愛を楽しんでいたキュルケにとって、それはある意味初めての恋なのかもしれない。
「貴方の為なら私何でも・・・あら?」
とはいえ、その『初恋』も、相手が居なければ空回りするだけ。
ルイズの部屋に、意中のキタローとおまけのルイズ両方居ない事にようやく気付き、さしものキュルケのハイテンションも多少大人しくなる。
「どこに行ったのかしら?・・・鞄は、無いわね・・・」
部屋の様子を伺いながら、窓から外を見ると、丁度キタローとルイズが馬に乗って出かけようとしていた。
「ダーリンったら出かけるの?」
「大丈夫、追いかける」
真横から聞こえた声に、キュルケは飛び上がった。
何時の間に来たのか、タバサが同じように窓からキタロー達を見つめていた。
「!?・・・タバサ!居たの!?・・・珍しいじゃない。虚無の曜日はいつも図書館に篭ってるのに、今日はどうしたの?」
「彼には、私も興味がある」
相変わらず、タバサの言葉は少ない。しかし、こうまでタバサが他人に興味を示すのは初めてのことだった。
(この子がこんな風に興味を持つのは珍しいわね・・・良い事だと思うけど)
キュルケは、普段見ないタバサの積極的な様子に戸惑いつつも、その姿を微笑ましく思った。
あの異世界から来たと言う少年は、確かにタバサでも興味を持たずには居られないのだろう。
もっとも・・・
(・・・恋のライバルにはならない・・・わよねぇ?)
何時の間にか風竜の元へと引きずられながら、キュルケはふと浮かんだ考えにいささか不安を覚えるのだった。
学園から最寄の町まで向かう間・・・僕は、昨夜ミスタ・コルベールやキュルケさん達に語った僕の過去をルイズに語っていた。
考えてみると、こうやってゆっくり話す機会は今まで無かった。
こちらの世界にやってきて3日あまり。
その間ルイズは何か苛立っていたり、怒っていたり、不機嫌だったりで話しかけづらかったから。
だから、この二人っきりで馬に乗ってるという状況は都合が良かった。
「・・・だから、僕はこう言ったんだ。『幾月自重しろ』ってね。でも身動き取れなくて・・・」
ルイズは僕の後ろで只黙って僕の話を聞いている。・・・多分、彼女は僕の話を信じられないんじゃないかと思う。
無理ないよね・・・僕も、何の予備知識が無かったらこんな荒唐無稽な話信じないから。
でも、聞いて欲しかった。僕は・・・もう、元の世界に戻る気は無い。戻っちゃいけない。
なら、僕がこの世界で生きていく為にも、僕の『ご主人様』には全てを知っていて欲しいから。
「・・・でね、その処刑ってのが凄くて・・・アレはトラウマになるね。当然テレッテと綾時を先輩と一緒に後でボコったけどね」
・・・あれ?何だか話さないでもいいような事まで話してる気もするけど・・・まあいいか。
綾時の事もルイズには知ってもらわないといけないし。
僕はそのまま話し続ける。
ユニバースの力で時を遡り、ルイズに呼び出されたその瞬間までの物語を。
遠く、町が近づいてきていた。
学園からトリステインの城下町までの間、ルイズは彼女の使い魔から語られる彼の過去に聞き入っていた。
確かに、彼を初めて召喚したあの夜。
キタローは彼女にとっては信じられないような町や人々の暮らしの事を彼女に語った。
魔法の無い世界の話・・・当然信じられなくて、聞き流したけれども、今にして思えばもっと彼の話を聞くべきだったと思う。
キタローは、話の始めにこう切り出してきた。
「もう僕は元の世界に戻る気は無いんだ。だけど、だからこそルイズに知って欲しい。僕の事、僕の居た世界の事・・・」
その言葉に込められた決意と哀しみ、そして語られた彼の過去の戦い。
全てが、ルイズの想像を遥かに超えていた。
一つの世界を死の運命から救い、更に誰の記憶からも消え去る事を覚悟で世界を飛び越えた。
彼に比べて自分はどうだ。失敗ばかりのダメメイジ・・・この使い魔の少年の主として名乗れるものだろうか?
あの決闘から、影で『使い魔は凄いけど、主は相変わらずのゼロ』と囁かれている事は知っていた。
その通り、だと思う。
彼女の使い魔は、かつて別の世界を救った救世主だ。
キタローの主になったのも、彼の言うユニバースの力がルイズの召喚魔法を引き寄せた結果だけなのかもしれない。
彼に、私は釣り合わない。
彼の長い、長い話が終わった時。ルイズはキタローの背中にしがみ付きながら泣いていた。
何が悲しいのかわからない。
彼の悲しい決意に対してなのか、彼と比べた自分の卑小さを悲嘆しているのか、それとも・・・
「・・・ど、どうしたの?ご主人様・・・」
「・・・わ、私をそんな風に呼ばないでよ!私が泣こうがどうしようがアンタには関係ないでしょ!」
振り向いたキタローがルイズを案じる。それが今は耐えられない。
今まで虚勢をはって召使以下の仕事をさせてきた自分が、あまりにも滑稽だ。
彼が優しく声をかけてきても、その人としての大きさと自分とを比べてしまう。
そう、こんな思いをするならば、いっそあの時召喚に失敗したらよかったのに。
もっと別の何かでもいい。
普通の猫とかネズミとか・・・ゼロの異名の通りに、何の力も無い使い魔を。
「・・・僕は、ルイズに召喚されて良かったと思ってるよ?」
なのに、この使い魔は振り返って微笑んで・・・どうしてそんなに優しく微笑むことが出来るんだろう?
こんな風になじられてるのに。
「何でよ!私じゃ、アンタに釣り合わないじゃない!私は、何の力も無いのよ!?『ゼロ』なのよ!!」
「それで?力なんて、つければいい」
・・・な、何言ってるのよ!この使い魔は!?
思わず叫びそうになった声をさえぎって、キタローが続ける。
「僕は、元々弱かった。戦闘リーダーとかやらされたけど、始めは本当に弱かったんだ」
今話したよね?そう続けてキタローは言葉を紡ぐ。
「多分、初めてタルタロスに挑んだ時の僕は・・・今のルイズに勝てないと思う。ルイズのあの爆発する魔法は、凄く威力があるから。
そんな僕も色んな戦いと沢山の人達の助けで戦い抜けた。僕は、一人で強くなったわけじゃない。だから・・・ルイズも強くなれる。
イゴールが言ってた。僕の力はゼロでワイルド・・・何も無いから、何にでもなれる力。だから僕はユニバースのカードを手に出来た。
ルイズもそう。ゼロは何も無いかもしれない・・・けど、その代わりに何にでもなれる。ルイズは、きっと凄い力を手に出来る」
そういうキタローの顔は真剣で・・・ルイズは思わず見入ってしまう。
同時に・・・不思議と、心が晴れる気がする。
何でだろう?キタローに言われると、本当にそうなる様に思えてくる。
「・・・あ、当たり前じゃない!私はヴァリエールなのよ!アンタなんて直ぐに追いついて追い越してやるんだから!」
「うん、期待してる」
でも、何時ものように強気な言葉を張り上げてしまった。本当は、彼に感謝を伝えたいのに。
元気付けてくれたお礼を・・・
「・・・あ、もう直ぐ町に着くね」
言おうとして、キタローの声で気がつく。何時の間にか町が目の前だった。
「・・・ふ、ふん!アンタの無駄に長い話の所為であっという間だったわね!ほら、さっさと武器屋に行くわよ!」
照れた顔を見せたくなくて、ルイズはキタローを急かす。
帰り道で、言えたらいいな、と思いながら。
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