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「ベルセルク・ゼロ-03」(2008/03/17 (月) 15:37:19) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
ぱちりと目を開ける。知らない天井が目に入った。
天井―――ということは、自分はどこか室内にいるらしい。そしてベッドに寝かされている。
ひどくふわふわしたベッドに気持ち悪さを感じつつ、ガッツは体を起こした。
「……こいつが俺をここに連れてきたのか?」
呟くガッツの視線の先では、桃髪の少女がガッツの使っているベッドに頭を預けてすうすうと寝息を立てていた。
そこでガッツは己の体に包帯が巻きつけられていることに気づく。
そのことに気づいてから、続けざまに気がついた。
狂戦士の甲冑を纏っていらいずっと痛んでいた体の調子がずいぶん楽になっている。
ガッツは少女の肩に手をやり、ゆさゆさと揺り起こした。
「ふにゃ?」
少女は顔を上げてからもしばらく空ろな様子だったが、
「おい、お前がこれを―――」
「あんた目が覚めたの!?」
ガッツが声をかけると急速に覚醒した。
いや、お前こそちゃんと目が覚めたか? ガッツがそう思いつつ二の句をつごうとすると、
「ちょっと待ってて! 先生呼んでくるから!! じっとしてなさいよ!?」
そう言い残して部屋を出て行った。
少女が走り去るのを目で追ってから、ガッツはため息をついた。
ベッドを降りる。ベッドの傍に自分の装備一式が置いてあった。
―――じっとしてなさいよ!!
頭の中でさっきの少女がすごい剣幕で怒鳴る姿がリフレインする。
知るか。ガッツはてきぱきと甲冑を身に着けた。
ルイズがドクターを務めている先生と共に救護室に戻ってくると、男はすでに立ち上がり、甲冑を身に着けていた。
「あ、こら! じっとしてなさいって言ったでしょ!」
ルイズは己の使い魔となった男をたしなめる。
しかし男は甲冑を身に着ける手は止めず、口を開いた。
「体の治療をしてくれたことには礼を言う。大したもんだな、魔法って奴は」
「君、今はまだ無茶をしてはいけないよ」
「気遣いはいらねえよおっさん。こんな所でちんたらしてる暇も無いんでね」
装備を終えたのか、男はマントを翻すとルイズの方に向き直った。
「お前にはいくつか聞きたいことがある」
「いいわ…それじゃ、私の部屋で」
廊下に出ると男がきちんとついてきているのを確認して歩き出す。
(こういうのは最初のイメージが肝心なんだから…! 見た目は大きくて怖いけど、私の使い魔になった以上『私が上』ってことをしっかりと認識させなくちゃ!)
精一杯の威厳を示そうと、大股で歩きながら、ルイズは考えていた。
そういえば―――大事なことを忘れていた。本来なら一番最初にするべきだったこと。
くるりと後ろを振り向く。男と目が合った。
「アンタ……名前は?」
「……ガッツだ」
―――変わった名前ね。でも覚えやすいわ。ルイズは思った。
「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたの、ご主人様よ」
―――変わった名前だ。しかも覚えにくい。ガッツは思った。最後の言葉は聞き流した。
部屋に入るとルイズはベッドに腰掛けた。ガッツには椅子を勧める。
ガッツは椅子には腰掛けず、立ったまま壁に背を預けた。
それとなく部屋を見回してみる。
部屋に備え付けられたものは机も、先ほど勧められた椅子も、今ルイズが腰掛けているベッドも、タンスなどに至るまで全て豪華な装飾がなされていた。
かつて見たミッドランドの貴族たちの趣向と似通っている。
「ずいぶんと豪華な部屋だな」
「当然よ。この寮に住む生徒たちはその全てが貴族なのよ。これでもまだ勉学に励む身の上、相当抑えてるんだから」
貴族。なるほど。ガキのくせにここまで不遜な態度であるのはそういうわけか。
「本題に入るが…その前に確認するが、俺は一人だったか?」
「?」
ガッツの言わんとしていることがわからず、ルイズは首をひねった。
「俺の他にもう一人…一匹、エルフがいるはずなんだが……」
エルフという言葉を聞いてルイズの顔色が変わった。
「エルフッ!? あ、あ、あんた、エルフに知り合いがいるの!?」
「それがどうかしたのか?」
「どうやってあんな凶暴で残忍な連中とコンタクトとったわけ!?」
―――凶暴で残忍?
ガッツの脳裏に妖刀さっくり丸(ただの栗)を振り回すパック(栗みたいな妖精)の姿が浮かんだ。
ふっ、と思わず笑いがこみ上げる。
「何か勘違いしてるみたいだがな、そんな大層なモンじゃねえよ。こんくらいの大きさの、虫みてえな奴だ」
言いながらガッツは右手でおおよその大きさを示す。
「う~ん…? あの時はアンタ以外には何も見当たらなかったけど……」
と、その時。
突然窓の外が輝いた。
何事か、とルイズとガッツの目が窓に集中する。
『――――ク!』
もう一度輝く。今度は光に混じって小さな声が聞こえた。
ルイズはベッドから腰を浮かせ、窓へ駆け寄った。
ガッツは光の正体に思い当たり、顔に右手を添えてため息をついた。
「うおお! 燃えろ俺のコスモ! 『パックスパーク』!!」
「な、何よコレ……!?」
窓の外では気づけよ俺にとばかりにパックが輝きまくっていた。
「どもども! オレパック! そしてこれはオレの別荘、『鉄の城』ガッツといいます」
ルイズが窓を開けて迎え入れてやると、パックはガッツの頭に飛び乗った。
ガッツも別段振り払うつもりはないらしい。
「あ、あんた…平民のくせに使い魔がいるの!?」
ルイズが驚きに口をおおきく開けてパックを指差した。
「失礼な! 誰が誰の使い魔か! オレの話を聞いてなかったな!? こいつは別荘! オレ家主!!」
ルイズは全然聞いちゃいない。
こまったわ、使い魔に使い魔がいた場合の扱い方なんてどんな教科書にも載ってない。
ただでさえ平民を召喚しちゃっててんてこまいだってのにどうしよう。
でも待って? ガッツは私の使い魔、私あいつのご主人様。
あのちっちゃいエルフは何か言ってるけどガッツの使い魔で間違いないだろうし……
あれ? ってことは?
私>ガッツ>ちっちゃいエルフ=私>ちっちゃいエルフ
あれ? 何も問題ない? というかいいことづくめ?
「なにあの子、オレの話全然聞いてないよ? ねえガッツ、あの子いったいなんなのさ?」
「ルイズ・フランソワなんちゃらかんちゃらって言ってたな」
「へえ……よろしく! ルイズふらんそわなんちゃらかんちゃら!!」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエ-ル!! 覚えられないんならルイズ様でいいわよ!」
ルイズの言葉を聞いてパックの顔がとても微妙なものになる。
ガッツの表情は変わらない。
「……様?」
「当然でしょう? あんた達使い魔、私、ご主人様。次に呼び捨てしたらご飯抜きだからね」
パックは何がなにやらといった様子で頭上からガッツを覗き込んだ。
ルイズは開けっ放しにしていた窓を閉めると再びベッドに腰を下ろした。
「他に何か聞きたいことはある?」
ルイズの言葉を受けて、ガッツはゆっくりと口を開いた。
「さっきから言ってやがるが……俺がお前の使い魔だってのはどういう意味だ?」
(来た―――!!)
ルイズは表面には出さぬものの、ぐっと気を引き締めた。
ここだ。ここで揺らがず、媚びず、主人としての尊厳を見せ付けなくてはならない。
「どういう意味もなにも、言葉通りの意味よ。私はアンタを召喚し、アンタはそれに応えた。そして神聖な儀式の下で、契約も交わしてる。その時にアンタは私の使い魔になることが決定したのよ」
目の前に突如鏡が現れた時の情景がガッツの脳裏に浮かんだ。
「召喚ってのはまあいい。だが契約ってのはした覚えはねえぞ」
ガッツの言葉にルイズの頬が赤く染まる。
「き、ききききす、したじゃない! あれが契約なのよ!」
ファーストキスだったんだから―――!!
ルイズは心の中でそう付け足した。
「ガッツ…お前……!」
パックが信じられないようなものを見るような目でガッツを見下ろす。
うざったいのでむんずと捕まえた。
「あいたたた!! き、基本的エルフ権を要求するーーー!!」
「あれが契約…? 俺は一言も承諾した覚えはねえが…『神聖な儀式』ってのはみんなこんなに一方的なモンなのか?」
ガッツは皮肉げに口を歪めて笑う。ガッツは昔のファルネーゼやモズグズを思い出していた。
「儀式を馬鹿にすることは許さない。それはこのトリステイン魔法学院への侮辱と受け取るわ!!」
ガッツの言葉にルイズの声が荒くなる。
「好きに受けとりゃあいい。とにかくこっちはケツの青い嬢ちゃんの使い魔なんぞやってる暇は無いんだよ」
ルイズの頬が―――さっきとは違う意味合いで―――朱に染まった。
「アンタがなんと言おうが使い魔のルーンはもう刻まれてるの!! それがある限りアンタは私の使い魔なんだから!!」
ガッツの眉がピクリと上がる。
「使い魔のルーン?」
脳裏に浮かぶのはあの時、ルイズにキスされた直後に全身に走った痛みと、失ったはずの左手に感じた熱。
しかしルイズの言葉は的外れなものだった。
「首筋を見てごらんなさい。よければ鏡を貸すけど?」
ルイズは勝ち誇ったように言い放つ。
ガッツはパックに目配せをすると、パックを掴んでいた手を解いた。
パックはガッツの後方に舞い、首筋に目を走らせる。
「特にこれといって違いは見られないけど……」
「う…うそ! ちゃんとルーンが刻まれてるでしょう!?」
パックは首を振った。
「ううん。烙印があるだけで、他にはなんにも」
「ら、烙印…?」
ルイズの様子を見て、ガッツにはおおよその予想がついた。
壁から背中を離すとルイズに烙印が見えるよう体を傾けた。
「こいつを『使い魔のルーン』とやらと勘違いしてたらしいが…こいつはお前にキスされる前から俺の体に刻まれてる」
ガッツは淡々と続けた。
「『使い魔の証』とかな……そんな生易しいもんじゃねえのさ」
淡々と告げられた言葉の裏に、言いようの無い感情を感じてルイズは思わず押し黙る。
そして、数瞬後に事の重大さに気が付いた。
「そんな…! それじゃ、使い魔のルーンは……」
「刻まれてないってことになるな。それは俺の体を治療したお前が一番わかってるんじゃないか?」
正確にはガッツの体を治療したのは医療を担当する水のメイジなのだが―――その治療の現場にルイズは立ち会っている。
確かに、首筋の烙印とやら以外にルーンを見た覚えは無い。
「そんな…そんな……!」
「というわけだ。こっちもそんなに暇じゃねえ。とっとと元の場所に返してくれ」
ルイズは放心したようになりながら、ゆっくりと首を振った。
「無理よ……召喚する呪文はあっても、送り帰す呪文なんて無いもの……」
チッ。ガッツは思わず舌を鳴らした。
―――ずいぶんと無責任なことじゃねえか。
「ならいい。自分の足で行く。もう一度聞くぞ。本当にミッドランドって国は知らねえんだな?」
「……知らない。ホントに、聞いたことも……」
「ならここから一番近い街の方角とそこまでの距離を教えろ」
とにかく帰るべき方角がわからねば話にならない。
そのためにもまず様々な情報を集める必要があった。
大きな街まで出向けばミッドランドを知っている者も見つかるかもしれない。
ルイズからトリステインの城下町の場所を聞き出すと、ガッツはもう用は無いとばかりに、ドアに手をかけた。
「あ……」
ルイズがか細い声を上げたのが聞こえたが、ガッツは無視して部屋のドアを開けた。パックもその後をついて飛ぶ。
部屋から一歩踏み出して、ガッツはルイズの方に向き直った。
「俺の剣はどこに置いてある?」
そうなのである。救護室にガッツの大剣『ドラゴンころし』の姿は無かったのだ。
「あれはどうしても運べなかったから…草原に…」
ガッツを運ぶ際、ルイズは他の生徒の力を借りたのだが、信じがたいことにレビテーションの魔法を使ってもかの大剣は持ち上がらなかったのである。
「オレ場所わかるよ!!」
パックがシュタッと手をあげる。なるほど、パックが気絶していたすぐ傍に大剣は横たわっていたはずである。
「よし、案内しろ」
最後にガッツはルイズを一瞥して―――
「じゃあな」
そう言ってドアを閉じた。
「ドロピー達は元気にやっとるかの~~」
いつの間にやら着物を着込み、白髭をたくわえ、杖をもちつつ、パックは遠い目をして呟いた。
(こいつ…元々自分のせいで今の状況になってること忘れてんじゃねーだろーな)
ガッツは反省の色がまったく見えない栗をとりあえずはたき落とした。
キィ―――バタン。
ドアの音が遠く感じられる。
ドアが閉じられるのをルイズは呆然と見つめていた。
(私…私…コントラクト・サーヴァントすらまともに……)
一人、残された部屋で。
ぽろぽろとこぼれる涙をこらえることは出来ず。
ルイズは嗚咽すら漏らし―――泣いた。
#navi(ベルセルク・ゼロ)
ぱちりと目を開ける。知らない天井が目に入った。
天井―――ということは、自分はどこか室内にいるらしい。そしてベッドに寝かされている。
ひどくふわふわしたベッドに気持ち悪さを感じつつ、ガッツは体を起こした。
「……こいつが俺をここに連れてきたのか?」
呟くガッツの視線の先では、桃髪の少女がガッツの使っているベッドに頭を預けてすうすうと寝息を立てていた。
そこでガッツは己の体に包帯が巻きつけられていることに気づく。
そのことに気づいてから、続けざまに気がついた。
狂戦士の甲冑を纏っていらいずっと痛んでいた体の調子がずいぶん楽になっている。
ガッツは少女の肩に手をやり、ゆさゆさと揺り起こした。
「ふにゃ?」
少女は顔を上げてからもしばらく空ろな様子だったが、
「おい、お前がこれを―――」
「あんた目が覚めたの!?」
ガッツが声をかけると急速に覚醒した。
いや、お前こそちゃんと目が覚めたか? ガッツがそう思いつつ二の句をつごうとすると、
「ちょっと待ってて! 先生呼んでくるから!! じっとしてなさいよ!?」
そう言い残して部屋を出て行った。
少女が走り去るのを目で追ってから、ガッツはため息をついた。
ベッドを降りる。ベッドの傍に自分の装備一式が置いてあった。
―――じっとしてなさいよ!!
頭の中でさっきの少女がすごい剣幕で怒鳴る姿がリフレインする。
知るか。ガッツはてきぱきと甲冑を身に着けた。
ルイズがドクターを務めている先生と共に救護室に戻ってくると、男はすでに立ち上がり、甲冑を身に着けていた。
「あ、こら! じっとしてなさいって言ったでしょ!」
ルイズは己の使い魔となった男をたしなめる。
しかし男は甲冑を身に着ける手は止めず、口を開いた。
「体の治療をしてくれたことには礼を言う。大したもんだな、魔法って奴は」
「君、今はまだ無茶をしてはいけないよ」
「気遣いはいらねえよおっさん。こんな所でちんたらしてる暇も無いんでね」
装備を終えたのか、男はマントを翻すとルイズの方に向き直った。
「お前にはいくつか聞きたいことがある」
「いいわ…それじゃ、私の部屋で」
廊下に出ると男がきちんとついてきているのを確認して歩き出す。
(こういうのは最初のイメージが肝心なんだから…! 見た目は大きくて怖いけど、私の使い魔になった以上『私が上』ってことをしっかりと認識させなくちゃ!)
精一杯の威厳を示そうと、大股で歩きながら、ルイズは考えていた。
そういえば―――大事なことを忘れていた。本来なら一番最初にするべきだったこと。
くるりと後ろを振り向く。男と目が合った。
「アンタ……名前は?」
「……ガッツだ」
―――変わった名前ね。でも覚えやすいわ。ルイズは思った。
「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたの、ご主人様よ」
―――変わった名前だ。しかも覚えにくい。ガッツは思った。最後の言葉は聞き流した。
部屋に入るとルイズはベッドに腰掛けた。ガッツには椅子を勧める。
ガッツは椅子には腰掛けず、立ったまま壁に背を預けた。
それとなく部屋を見回してみる。
部屋に備え付けられたものは机も、先ほど勧められた椅子も、今ルイズが腰掛けているベッドも、タンスなどに至るまで全て豪華な装飾がなされていた。
かつて見たミッドランドの貴族たちの趣向と似通っている。
「ずいぶんと豪華な部屋だな」
「当然よ。この寮に住む生徒たちはその全てが貴族なのよ。これでもまだ勉学に励む身の上、相当抑えてるんだから」
貴族。なるほど。ガキのくせにここまで不遜な態度であるのはそういうわけか。
「本題に入るが…その前に確認するが、俺は一人だったか?」
「?」
ガッツの言わんとしていることがわからず、ルイズは首をひねった。
「俺の他にもう一人…一匹、エルフがいるはずなんだが……」
エルフという言葉を聞いてルイズの顔色が変わった。
「エルフッ!? あ、あ、あんた、エルフに知り合いがいるの!?」
「それがどうかしたのか?」
「どうやってあんな凶暴で残忍な連中とコンタクトとったわけ!?」
―――凶暴で残忍?
ガッツの脳裏に妖刀さっくり丸(ただの栗)を振り回すパック(栗みたいな妖精)の姿が浮かんだ。
ふっ、と思わず笑いがこみ上げる。
「何か勘違いしてるみたいだがな、そんな大層なモンじゃねえよ。こんくらいの大きさの、虫みてえな奴だ」
言いながらガッツは右手でおおよその大きさを示す。
「う~ん…? あの時はアンタ以外には何も見当たらなかったけど……」
と、その時。
突然窓の外が輝いた。
何事か、とルイズとガッツの目が窓に集中する。
『――――ク!』
もう一度輝く。今度は光に混じって小さな声が聞こえた。
ルイズはベッドから腰を浮かせ、窓へ駆け寄った。
ガッツは光の正体に思い当たり、顔に右手を添えてため息をついた。
「うおお! 燃えろ俺のコスモ! 『パックスパーク』!!」
「な、何よコレ……!?」
窓の外では気づけよ俺にとばかりにパックが輝きまくっていた。
「どもども! オレパック! そしてこれはオレの別荘、『鉄の城』ガッツといいます」
ルイズが窓を開けて迎え入れてやると、パックはガッツの頭に飛び乗った。
ガッツも別段振り払うつもりはないらしい。
「あ、あんた…平民のくせに使い魔がいるの!?」
ルイズが驚きに口をおおきく開けてパックを指差した。
「失礼な! 誰が誰の使い魔か! オレの話を聞いてなかったな!? こいつは別荘! オレ家主!!」
ルイズは全然聞いちゃいない。
こまったわ、使い魔に使い魔がいた場合の扱い方なんてどんな教科書にも載ってない。
ただでさえ平民を召喚しちゃっててんてこまいだってのにどうしよう。
でも待って? ガッツは私の使い魔、私あいつのご主人様。
あのちっちゃいエルフは何か言ってるけどガッツの使い魔で間違いないだろうし……
あれ? ってことは?
私>ガッツ>ちっちゃいエルフ=私>ちっちゃいエルフ
あれ? 何も問題ない? というかいいことづくめ?
「なにあの子、オレの話全然聞いてないよ? ねえガッツ、あの子いったいなんなのさ?」
「ルイズ・フランソワなんちゃらかんちゃらって言ってたな」
「へえ……よろしく! ルイズふらんそわなんちゃらかんちゃら!!」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエ-ル!! 覚えられないんならルイズ様でいいわよ!」
ルイズの言葉を聞いてパックの顔がとても微妙なものになる。
ガッツの表情は変わらない。
「……様?」
「当然でしょう? あんた達使い魔、私、ご主人様。次に呼び捨てしたらご飯抜きだからね」
パックは何がなにやらといった様子で頭上からガッツを覗き込んだ。
ルイズは開けっ放しにしていた窓を閉めると再びベッドに腰を下ろした。
「他に何か聞きたいことはある?」
ルイズの言葉を受けて、ガッツはゆっくりと口を開いた。
「さっきから言ってやがるが……俺がお前の使い魔だってのはどういう意味だ?」
(来た―――!!)
ルイズは表面には出さぬものの、ぐっと気を引き締めた。
ここだ。ここで揺らがず、媚びず、主人としての尊厳を見せ付けなくてはならない。
「どういう意味もなにも、言葉通りの意味よ。私はアンタを召喚し、アンタはそれに応えた。そして神聖な儀式の下で、契約も交わしてる。その時にアンタは私の使い魔になることが決定したのよ」
目の前に突如鏡が現れた時の情景がガッツの脳裏に浮かんだ。
「召喚ってのはまあいい。だが契約ってのはした覚えはねえぞ」
ガッツの言葉にルイズの頬が赤く染まる。
「き、ききききす、したじゃない! あれが契約なのよ!」
ファーストキスだったんだから―――!!
ルイズは心の中でそう付け足した。
「ガッツ…お前……!」
パックが信じられないようなものを見るような目でガッツを見下ろす。
うざったいのでむんずと捕まえた。
「あいたたた!! き、基本的エルフ権を要求するーーー!!」
「あれが契約…? 俺は一言も承諾した覚えはねえが…『神聖な儀式』ってのはみんなこんなに一方的なモンなのか?」
ガッツは皮肉げに口を歪めて笑う。ガッツは昔のファルネーゼやモズグズを思い出していた。
「儀式を馬鹿にすることは許さない。それはこのトリステイン魔法学院への侮辱と受け取るわ!!」
ガッツの言葉にルイズの声が荒くなる。
「好きに受けとりゃあいい。とにかくこっちはケツの青い嬢ちゃんの使い魔なんぞやってる暇は無いんだよ」
ルイズの頬が―――さっきとは違う意味合いで―――朱に染まった。
「アンタがなんと言おうが使い魔のルーンはもう刻まれてるの!! それがある限りアンタは私の使い魔なんだから!!」
ガッツの眉がピクリと上がる。
「使い魔のルーン?」
脳裏に浮かぶのはあの時、ルイズにキスされた直後に全身に走った痛みと、失ったはずの左手に感じた熱。
しかしルイズの言葉は的外れなものだった。
「首筋を見てごらんなさい。よければ鏡を貸すけど?」
ルイズは勝ち誇ったように言い放つ。
ガッツはパックに目配せをすると、パックを掴んでいた手を解いた。
パックはガッツの後方に舞い、首筋に目を走らせる。
「特にこれといって違いは見られないけど……」
「う…うそ! ちゃんとルーンが刻まれてるでしょう!?」
パックは首を振った。
「ううん。烙印があるだけで、他にはなんにも」
「ら、烙印…?」
ルイズの様子を見て、ガッツにはおおよその予想がついた。
壁から背中を離すとルイズに烙印が見えるよう体を傾けた。
「こいつを『使い魔のルーン』とやらと勘違いしてたらしいが…こいつはお前にキスされる前から俺の体に刻まれてる」
ガッツは淡々と続けた。
「『使い魔の証』とかな……そんな生易しいもんじゃねえのさ」
淡々と告げられた言葉の裏に、言いようの無い感情を感じてルイズは思わず押し黙る。
そして、数瞬後に事の重大さに気が付いた。
「そんな…! それじゃ、使い魔のルーンは……」
「刻まれてないってことになるな。それは俺の体を治療したお前が一番わかってるんじゃないか?」
正確にはガッツの体を治療したのは医療を担当する水のメイジなのだが―――その治療の現場にルイズは立ち会っている。
確かに、首筋の烙印とやら以外にルーンを見た覚えは無い。
「そんな…そんな……!」
「というわけだ。こっちもそんなに暇じゃねえ。とっとと元の場所に返してくれ」
ルイズは放心したようになりながら、ゆっくりと首を振った。
「無理よ……召喚する呪文はあっても、送り帰す呪文なんて無いもの……」
チッ。ガッツは思わず舌を鳴らした。
―――ずいぶんと無責任なことじゃねえか。
「ならいい。自分の足で行く。もう一度聞くぞ。本当にミッドランドって国は知らねえんだな?」
「……知らない。ホントに、聞いたことも……」
「ならここから一番近い街の方角とそこまでの距離を教えろ」
とにかく帰るべき方角がわからねば話にならない。
そのためにもまず様々な情報を集める必要があった。
大きな街まで出向けばミッドランドを知っている者も見つかるかもしれない。
ルイズからトリステインの城下町の場所を聞き出すと、ガッツはもう用は無いとばかりに、ドアに手をかけた。
「あ……」
ルイズがか細い声を上げたのが聞こえたが、ガッツは無視して部屋のドアを開けた。パックもその後をついて飛ぶ。
部屋から一歩踏み出して、ガッツはルイズの方に向き直った。
「俺の剣はどこに置いてある?」
そうなのである。救護室にガッツの大剣『ドラゴンころし』の姿は無かったのだ。
「あれはどうしても運べなかったから…草原に…」
ガッツを運ぶ際、ルイズは他の生徒の力を借りたのだが、信じがたいことにレビテーションの魔法を使ってもかの大剣は持ち上がらなかったのである。
「オレ場所わかるよ!!」
パックがシュタッと手をあげる。なるほど、パックが気絶していたすぐ傍に大剣は横たわっていたはずである。
「よし、案内しろ」
最後にガッツはルイズを一瞥して―――
「じゃあな」
そう言ってドアを閉じた。
「ドロピー達は元気にやっとるかの~~」
いつの間にやら着物を着込み、白髭をたくわえ、杖をもちつつ、パックは遠い目をして呟いた。
(こいつ…元々自分のせいで今の状況になってること忘れてんじゃねーだろーな)
ガッツは反省の色がまったく見えない栗をとりあえずはたき落とした。
キィ―――バタン。
ドアの音が遠く感じられる。
ドアが閉じられるのをルイズは呆然と見つめていた。
(私…私…コントラクト・サーヴァントすらまともに……)
一人、残された部屋で。
ぽろぽろとこぼれる涙をこらえることは出来ず。
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