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#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
「アンジェ、挨拶なさい」
ルイズに手を引かれながら学院長室に入ってきたアンジェリカはルイズにいわれるままちょこんとお辞儀をした。
「始めまして、アンジェリカです」
オスマンはそんなアンジェリカを微笑ましく見守っている。
「わしはこの学院の学院長をしておるオスマンじゃ。おじーちゃんとでも呼んどくれ」
彼からしたら場を和まそうとしていたのだろうが、アンジェリカはキョトンと首を傾げ、ルイズは大丈夫かこのじじいとでもいいそうな目で睨んだ。
「ま、まあ冗談は置いておいてじゃな、ほれ、あの銃は持ってきてくれたかのう?」
オスマンに促され、ルイズはM16をオスマンに手渡す。
「おおこれじゃこれ。ちとアンジェリカくんに聞きたいんじゃが、これを使えるというのは本当かね?」
アンジェリカはチラリとルイズの顔を伺う。ルイズは頷き、アンジェリカを促した。
「…はい」
「ふむふむ。ではこれはどうじゃ?」
次に破壊の杖をアンジェリカに見せた。
「M72-LAW…使ったことはありません」
「そうかそうか、分かるのか。すごいのう」
やけに上機嫌になりアンジェリカを褒めるオスマンの姿がいつか見た夢の中の男と重なる。
脳裏に浮かぶのは銃を持つアンジェリカ……赤い血。無垢な笑顔を振りまく死の天使。
「それで最後に聞きたいのはこれなんじゃよ」
オスマンは二枚の金属板の付いた古びて汚そうなネックレスをアンジェリカに渡した。
「そこに書いてある文字は読めるかのう?」
「モット=ハーク…アメリカ陸軍、伍長…血液型…」
すらすらと小さな金属板に刻まれた文字を読み上げていくアンジェリカ。オスマンは一言一言噛締めるように聞いていた。
モット=ハーク……その名がルイズの忘れたい記憶を明確に呼び覚ます。
モット伯…あの事件……アンジェリカが殺した…。ルイズの顔は青くなる。
「そうかそれでのう…うん? ミス・ヴァリエール、どうかしたかね?」
アンジェリカに気をとられ、ルイズの様子が少しおかしいことにオスマンはようやく気付いた。
「いえ、その…まだ時間はかかりますか?」
「うむ。まだ聞きたいことがあるのう」
「そうですか…あの、わたし用事思い出しましたので失礼しますね」
本当は用事など無いのだが、その場留まることが我慢できずに嘘をつてしまった。
「アンジェ、お話が終わったら部屋に戻って待ってなさいね?」
「はいルイズさん」
ルイズはそういうとアンジェリカを残し、足早に学院長室を後にする。
オールド・オスマンが呼び止めるが聞こえない振り。
部屋の扉を閉めてからしばらく歩くとその場にしゃがみこんだ。
胃液が逆流してくる。その場に吐きそうになるのを必死に堪える。
ルイズは今まで死を意識したことが無かった。だがアンジェリカと会ってからはそれを意識せざるを得ない。
例えメイジといえども死に様は平民と同じ。赤い血を振りまいて死ぬのだ。
中庭に目を向ければそこで魔法の練習をしている生徒と教師の姿があった。
生徒の魔法が成功したのだろう。教師がよくやったと生徒を褒めている。
その姿は皮肉にも夢の中で人を殺したアンジェリカを褒めている男の姿と同じ図式。
ルイズは気付いてしまった。多くのメイジが使う魔法も同じなんだと……。
魔法もアンジェリカが使う鉄砲と同じなんだと……。
所詮ただの人殺しの手段に相違ないのだ。
ルイズは魔法に恐怖を覚えた。
Episodio 29
Un importante tesoro
大切な宝物
Intermissione
「何て馬鹿な連中なの?」
ロングビルは馬を走らせていた。アルビオンに向けて。
「馬鹿よ…馬鹿に決まっているわ」
口ではそう言うものの嬉しさで零れそうになる涙を堪えていた。
そして学院長室でのやり取りを思い出した。
信じて欲しい。だが深く傷ついたロングビルの心は簡単にオスマンたちを容易に信じることが出来ない。
かといって嘘を吐く訳にはいかない。彼らの信頼を裏切ることは出来ないのだ。
マチルダ・オブ・サウスゴータは彼らを信じられない。
ミス・ロングビルは彼らを裏切れない。
相反する二つの感情が心を苦しめる。
学院長室はしばしの間沈黙に包まれた。オスマンもコルベールもロングビルが口を開くのをじっと待った。
そしてポツリ…ポツリと口を開き始めた。
自分が元々アルビオンの貴族だったこと、没落しても故郷にいる家族や子供達を養わなければならないと。
ロングビルも完全には彼らを信用し切れない。テファニアのことは隠し、その素性に関しては暈して伝えた。
それでも自身の境遇を伝えるには十分だった。
「大変じゃったのう」
オスマンの労わる声。別に同情が欲しいわけでない。
「これからどうするつもりですか?」
当然のことを聞いてくるコルベール。
さてこれからどうしようか。盗みが終わったら一度ウェストウッドに手土産を持って帰ろうと思っていたのだが……。
「そのことじゃが一つ気に懸かることがあっての」
オスマンの顔つきが飄々とした爺から威厳ある顔つきに変化した。
「アカデミーの連中の動きが不可解なのじゃよ。ほれモット伯の屋敷の事件についての報告書があるじゃろう?」
「それがどうかしましたか」
「最終報告と銘打っておるのに学院に査察が入るというんじゃ」
確かにおかしい。調査は終わったのではないのだろうか。
「確認するが君はあの事件に関わっておらんのじゃろう?」
虚偽の返答は許さんとオスマンの目が語る。
「当然です。わたくしの家族に誓って」
胸を張って答える。オスマンも満足気に頷く。
「おかしいというか分からんのじゃよ。アカデミーの動きが不自然すぎる…それでのうミス・ロングビル?」
威厳ある顔つきから何やら悪戯を思いついた子供のような表情を見せたオスマン。
「何でしょうか?」
「ちと高飛びしてみんか?」
「は?」
#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
#navi(Zero ed una bambola ゼロと人形)
「アンジェ、挨拶なさい」
ルイズに手を引かれながら学院長室に入ってきたアンジェリカはルイズにいわれるままちょこんとお辞儀をした。
「始めまして、アンジェリカです」
オスマンはそんなアンジェリカを微笑ましく見守っている。
「わしはこの学院の学院長をしておるオスマンじゃ。おじーちゃんとでも呼んどくれ」
彼からしたら場を和まそうとしていたのだろうが、アンジェリカはキョトンと首を傾げ、ルイズは大丈夫かこのじじいとでもいいそうな目で睨んだ。
「ま、まあ冗談は置いておいてじゃな、ほれ、あの銃は持ってきてくれたかのう?」
オスマンに促され、ルイズはM16をオスマンに手渡す。
「おおこれじゃこれ。ちとアンジェリカくんに聞きたいんじゃが、これを使えるというのは本当かね?」
アンジェリカはチラリとルイズの顔を伺う。ルイズは頷き、アンジェリカを促した。
「…はい」
「ふむふむ。ではこれはどうじゃ?」
次に破壊の杖をアンジェリカに見せた。
「M72-LAW…使ったことはありません」
「そうかそうか、分かるのか。すごいのう」
やけに上機嫌になりアンジェリカを褒めるオスマンの姿がいつか見た夢の中の男と重なる。
脳裏に浮かぶのは銃を持つアンジェリカ……赤い血。無垢な笑顔を振りまく死の天使。
「それで最後に聞きたいのはこれなんじゃよ」
オスマンは二枚の金属板の付いた古びて汚そうなネックレスをアンジェリカに渡した。
「そこに書いてある文字は読めるかのう?」
「モット=ハーク…アメリカ陸軍、伍長…血液型…」
すらすらと小さな金属板に刻まれた文字を読み上げていくアンジェリカ。オスマンは一言一言噛締めるように聞いていた。
モット=ハーク……その名がルイズの忘れたい記憶を明確に呼び覚ます。
モット伯…あの事件……アンジェリカが殺した…。ルイズの顔は青くなる。
「そうかそれでのう…うん? ミス・ヴァリエール、どうかしたかね?」
アンジェリカに気をとられ、ルイズの様子が少しおかしいことにオスマンはようやく気付いた。
「いえ、その…まだ時間はかかりますか?」
「うむ。まだ聞きたいことがあるのう」
「そうですか…あの、わたし用事思い出しましたので失礼しますね」
本当は用事など無いのだが、その場留まることが我慢できずに嘘をつてしまった。
「アンジェ、お話が終わったら部屋に戻って待ってなさいね?」
「はいルイズさん」
ルイズはそういうとアンジェリカを残し、足早に学院長室を後にする。
オールド・オスマンが呼び止めるが聞こえない振り。
部屋の扉を閉めてからしばらく歩くとその場にしゃがみこんだ。
胃液が逆流してくる。その場に吐きそうになるのを必死に堪える。
ルイズは今まで死を意識したことが無かった。だがアンジェリカと会ってからはそれを意識せざるを得ない。
例えメイジといえども死に様は平民と同じ。赤い血を振りまいて死ぬのだ。
中庭に目を向ければそこで魔法の練習をしている生徒と教師の姿があった。
生徒の魔法が成功したのだろう。教師がよくやったと生徒を褒めている。
その姿は皮肉にも夢の中で人を殺したアンジェリカを褒めている男の姿と同じ図式。
ルイズは気付いてしまった。多くのメイジが使う魔法も同じなんだと……。
魔法もアンジェリカが使う鉄砲と同じなんだと……。
所詮ただの人殺しの手段に相違ないのだ。
ルイズは魔法に恐怖を覚えた。
Episodio 29
Un importante tesoro
大切な宝物
Intermissione
「何て馬鹿な連中なの?」
ロングビルは馬を走らせていた。アルビオンに向けて。
「馬鹿よ…馬鹿に決まっているわ」
口ではそう言うものの嬉しさで零れそうになる涙を堪えていた。
そして学院長室でのやり取りを思い出した。
信じて欲しい。だが深く傷ついたロングビルの心は簡単にオスマンたちを容易に信じることが出来ない。
かといって嘘を吐く訳にはいかない。彼らの信頼を裏切ることは出来ないのだ。
マチルダ・オブ・サウスゴータは彼らを信じられない。
ミス・ロングビルは彼らを裏切れない。
相反する二つの感情が心を苦しめる。
学院長室はしばしの間沈黙に包まれた。オスマンもコルベールもロングビルが口を開くのをじっと待った。
そしてポツリ…ポツリと口を開き始めた。
自分が元々アルビオンの貴族だったこと、没落しても故郷にいる家族や子供達を養わなければならないと。
ロングビルも完全には彼らを信用し切れない。テファニアのことは隠し、その素性に関しては暈して伝えた。
それでも自身の境遇を伝えるには十分だった。
「大変じゃったのう」
オスマンの労わる声。別に同情が欲しいわけでない。
「これからどうするつもりですか?」
当然のことを聞いてくるコルベール。
さてこれからどうしようか。盗みが終わったら一度ウェストウッドに手土産を持って帰ろうと思っていたのだが……。
「そのことじゃが一つ気に懸かることがあっての」
オスマンの顔つきが飄々とした爺から威厳ある顔つきに変化した。
「アカデミーの連中の動きが不可解なのじゃよ。ほれモット伯の屋敷の事件についての報告書があるじゃろう?」
「それがどうかしましたか」
「最終報告と銘打っておるのに学院に査察が入るというんじゃ」
確かにおかしい。調査は終わったのではないのだろうか。
「確認するが君はあの事件に関わっておらんのじゃろう?」
虚偽の返答は許さんとオスマンの目が語る。
「当然です。わたくしの家族に誓って」
胸を張って答える。オスマンも満足気に頷く。
「おかしいというか分からんのじゃよ。アカデミーの動きが不自然すぎる…それでのうミス・ロングビル?」
威厳ある顔つきから何やら悪戯を思いついた子供のような表情を見せたオスマン。
「何でしょうか?」
「ちと高飛びしてみんか?」
「は?」
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