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「仮面のツカイマガイ ご奉仕その1」(2007/11/23 (金) 00:32:01) の最新版変更点
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ご奉仕 その1
それは彼が現在のご主人――
巨乳で頭の弱い剣道少女と出会う少し前の物語。
貧乳で無能な魔法使い少女の許で働いていた頃の物語……。
今度ばかりは失敗するわけにはいかない。
決意を新たに、ルイズは召喚の呪文を唱え始める。
すでにクラスメイトたちは皆使い魔を召喚し終えていて、大小様々玉石混淆であるが、皆己の使い魔を得ている。
いけすかないゲルマニアの女、キュルケに至ってはサラマンダーなどという大物を手にしているのだ。
ここで、ここでなんとかキュルケに負けないような使い魔を得て、「ゼロのルイズ」という不名誉な二つ名を返上しなくては。
そう思えばこそ、詠唱にも力が入る。オリジナルの呪文を混ぜてしまうほどに。
「――我が導きに答えなさい!」
呪文を唱え終え、杖を振り下ろした瞬間。
――いつものように爆発が起きた。
煙が晴れ――そして、
「ヌウ……ここはどこだ?」
場の空気が一瞬にして凍りつく。
爆煙の中から現れたのは一人の男だった。
背の高さは推定でも優に200サントを越えるだろう。小柄なルイズからすればまさに見上げるほどである。
剥き出しになった二の腕はルイズの胴ほども太い。鋼のようなその筋肉は見せ掛けではないことが一目でわかる。
ボサボサの髪は長く背中まで届いていて、まるでそれ自体が一つの生き物であるかのように蠢く。
大きな口から覗く歯は不釣合いなほど白く、そして鮫のようにギザギザと尖っている。
その瞳には、内に潜む凶暴さが滲み出てくるような鋭さがある。
野卑ていると言えばそれまでだが、それよりむしろ野生的と評したくなるような独特の気配が全体から漂ってくる。
龍や鳥といったまともな使い魔である以前に、まともな人間であるかも怪しい。
平民か貴族かどうかとかいう、それ以前の問題だった。
だがそれはいい(本当はよくないけれど)そこまでははいい。問題なのはその男の服装であった。
黒い血を落としたような漆黒のスカート。悪魔のマントが如く禍々しく翻るエプロン。
顔の半分を覆いつくす仮面と一体化したヘッドドレス。
細部こそ大きく違えど、それは学院の食堂で、実家の屋敷で、王宮の廊下で、ルイズが幾度となく目にしてきた存在。
そう、紛れも無く『それ』は……。
メイドだった。
「な、な……何なのよアンタはああああああ!?」
ルイズの疑問は当然のこと。およそ目の前に居る物体がまともな使い魔であるとは思えない。
男はそんなルイズの叫びに動じもせず、不敵に笑う。禍々しい笑みが異様なほど似合っている。
「ククク……。そこの小五月蝿い桃髪小娘よ、人に名を尋ねるときは己から名乗るのが礼儀。
俺の名を知りたくばまずは貴様から名乗るのが筋だろう?」
「むっ……」
道理ではある。たとえ相手が一目でわかる変態であっても、こうまで言われて名乗らないのは貴族の名折れ。
「ル……ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」
男の迫力に圧されぬよう気力を振り絞り、精一杯無い胸を張ってルイズは名乗る。
そんなルイズの態度に、男は『ホウ……』と幾分感心したように息を漏らす。
「ルイズか。なるほど、その名乗りぶり、ただの小娘ではないと見た。
なればこそ、このメイドガイが名乗るに相応しい。
――では改めて初めましてだ! 俺の名はメイドガイ……。メイドガイ、コガラシ!」
大仰に手を振りかざし、拳に力をこめ、全身で言葉そのものを表現するように、
男――メイドガイ・コガラシは名乗りを上げる。
一方名乗られたルイズはというと……。
「め、めいどがい?」
目を点にして呆然とする。この男が何を言っているのか全く理解できない。
「メイドガイって、メ、メイドのメイドガイ?」
「他に何がある」
「もしかして、アンタ……メイドなの?」
「如何にも。俺こそメイドの中のメイド、メイドガイ・コガラシ!」
(いや、そんな……)
ここに来てルイズの混乱は頂点に達する。
(メイド? メイドって何?)
既にゲシュタルトは崩壊寸前。ルイズの中でメイドという言葉の意味は完全に破壊されつつある。
そうだ、目を瞑ってメイドという言葉を思い浮かべて。
メイドメイドメイド。メイドという言葉からイメージを思い浮かべる。
質素なドレス、
清潔なエプロン、
ささやかなお洒落のヘッドピース、
温かな笑顔、
可愛いらしい少女。
うん、それこそがメイド。そうよルイズ、
目を開けて前を見なさい。そこにいるのは可憐な少女――。
「ククク……。どうした小娘、白昼夢でも見ているのか?」
「いやあああああああああ!?」
牡臭いドレス、
装甲のようなエプロン、
怪しい仮面付きヘッドピース、
禍々しい笑い声、
むさ苦しい男。
およそメイドという言葉とは正反対な物体が鎮座している。
イメージとのギャップが激しいだけに、ルイズはさらなるダメージを被ってしまった。
「ムウ……。何やら良くないものでも見たかのようなリアクション。精神衛生には気をつけるがいいぞ、小娘。
しかしそんなことよりここは何処だ? 何やら見慣れぬ景色ではあるが」
「こ、ここはトリステイン魔法学院だよ、その……メイドガイくん?」
あまりのショックに廃人になりつつあるルイズを見かねて、弱々しげにコルベールが口を挟む。
「トリステインだと? 聞いたことの無い場所だな。それで貴様、何故俺がそのトリステインにいるのだ?」
「ハッ!? そ、そうよ! あんたを呼び出したのはこの私よ!」
ようやく正気に戻ったルイズが叫ぶ。
呼び出した、という言葉にコガラシは怪訝そうな顔を浮かべる。
「呼び出した? ……そう言えばここに来る途中何やら光のようなものが見えたが」
「それはきっとサモン・サーヴァントの光よ。使い魔はそうやって呼び出されるのよ」
「ホウ、使い魔だと? 貴様ごときが? この俺を?
クハハハ! このメイドガイを従えるつもりとは、こいつはとんだ身の程知らずも居たものだ!」
ちゃんちゃら可笑しいとばかりに、大笑するコガラシ。
「……っ、あんたねぇ!」
余りの無礼さにルイズは一瞬言葉を失い、そしてすぐさま怒鳴り返そうとする。
だがそれをコガラシは「慌てるな」と制する。
「だが、数多あるであろう使い魔の中から選りにも選ってこのメイドガイを呼び出すとは、小娘ながらなかなかの運の良さ!
そしてさらに貴様にとって幸いなことに、このメイドガイは只今フリーの身……。
小うるさいあのドジメイドもいない今、貴様がどうしてもというのであればご奉仕してやらなくもないぞ?」
「お、お断りよ! あ、あんたみたいなへ、へへへ変態を使い魔にできるわけないじゃない!」
嫌だ。絶対嫌だ。自分の理想の使い魔は竜やグリフォンのような幻獣か、さもなきゃもっと可愛い動物なのだ。
まちがってもこんな変態ではない。
「だ、だがミスヴァリエール。
一度使い魔(なのか!?と己に問う)を呼び出してしまった以上、契約を行わないことはできないんだ。
もし契約を拒否するというのなら退学処分になってしまうが……」
コルベールが困ったように言う。
さすがに「文句を言わずコレと契約しろ!」と強くは言えないようだった。
「そ、そんな……」
無慈悲なコルベールの言葉に、ルイズは愕然とする。
そんなルイズの顔をわざわざしゃがんで下から覗き込み、これ以上ないというほど憎らしくコガラシは笑う。
「ククク……どうやらそういうことらしいな。さぁどうする小娘? 貴様の道は二つに一つ。
俺を拒んで大人しく退学処分を受けるか、それともこのメイドガイにご奉仕されるかだ!」
退学or変態のご主人様。二つの単語がグルグルとルイズの脳内で回る。
馬鹿にする級友たち。両親の失望。姉の叱咤。姉の励まし。いけすかないキュルケ。自分を友と見てくれるアンリエッタ様。
それらいくつもの言葉を経て。わずかに、極わずかに天秤が揺らぐ。
小さな、だがそれは確実にルイズの人生に決定的な楔を打ち込む揺らぎであった。
「わ……わかったわよ! 契約すればいいんでしょう!? 契約すれば!」
どうにでもなれ、とばかりに叫び。早口で契約の呪文を唱え、頭突きをするようにキスをする。
さようならファーストキス。こんにちわ変態のご主人様。
コガラシは「小娘の接吻ごときがどうだというのだ?」という態度でそれを受ける。
キスを受けたコガラシの左手にルーンが浮かぶ。
付け加えるならばそのルーンはちょっとした珍しいものであるのだが、誰もそんなことには気づいていない。
コガラシを直視するのが難しいからだ。いろいろな意味で。
「――良かろう。貴様はたった今から我がご主人だ!」
そして……大波乱を含んだ使い魔契約の儀式は終了した。
「さ、さっさと帰ろうぜ!」「ルイズ、おまえはそいつと歩いて来いよな!――なるべくゆっくり!」
使い魔を従えた級友たちは口々にルイズを馬鹿にして去っていく。
だが彼らの足はどこか急ぎ気味で、ルイズから逃げるようでもある。
さもありなん、本日この学院の生徒たちが呼び出した数々の使い魔たち。
それらの中で一番インパクトのあるものを呼び出したのは、誰あろう彼女。
ゼロのルイズその人であることは誰の目にも明らかだった。
「…………」
無言で呆然と立ち尽くすルイズ。そんなルイズを見下ろし、コガラシは「クククク……」と不敵に笑う。
「さぁ、どうご奉仕してやろうか?」
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 16歳――
ハルケギニアに渦巻く全ての陰謀を打ち砕き、メイドガイ・コガラシから解放されるまであとXXXX日……。
(続く!)
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