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「爆炎の使い魔-05」(2008/03/16 (日) 08:43:44) の最新版変更点
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ヒロに「ハゲ」と定義されてしまったコルベールは、トリスティン魔法学院で仕事をするようになって20年になる中堅の教師である。
彼の二つ名は『炎蛇』、『火』系統の魔法を得意とするメイジである。
彼は先日、ルイズが召喚した平民の少女の額に現れたルーンのことが気にかかっていた。しかし気になっていたのはそれだけではなかった。
爆発の際に感じた異常なまでの炎の魔力、あれは明らかに自分を凌駕するものだ。最初はミス・ヴァリエールの属性が炎なのかと思ったが、おそらく違うだろう。彼女の爆発は何度か見たが、そこにはどの属性も感じられなかったからだ。
では、あの少女が?しかし彼女は平民だ。平民は魔法は使えない。この世界の鉄則である。しかし、本人がいないのでは、これ以上詮索してもしょうがない。
彼は1番手がかりのありそうなルーンのほうから調べることにした。
膨大な書物の中で、彼が探しているのは始祖の使い魔たちが記述された古書である。
すると、埃を被っている書物の中に、彼は目的のものを見つけ出した。さっそくページをめくる。するとその中に記された一節に目が止まる。
その一説と少女の額のルーンのスケッチを見比べると、思わず彼は驚きの声を上げる。そして、その本を抱えたまま駆け出していった。
トリスティン魔法学院の本搭の最上階、そこに学園長室がある。そして、魔法学院の学院長を務めるオスマン氏は白いひげと髪を生やした初老の人物であった。
オスマン氏はつまりこの学園で1番偉い人物ということになる。そのオスマン氏は今学園長室で、
足蹴にされていた。
「や、やめるんじゃミス・ロングビル。お、お尻を撫でるくらいいいではないか。減るもんじゃなあいたっ!」
オスマン氏を足蹴にしながら、ミス・ロングビルと呼ばれた女性はスタンピングをやめようとしない。
「いくら秘書であるとはいいましてもですね。まったく、今度、やったら、王都に、報告すると、言ったでは、ありませんか!」
「痛い、痛いぞ、ミス・ロングビル。このままではわし、いかん方向に目覚めてしまいそうじゃーー」
蹴られて少し嬉しそうなオスマン氏と、ちょっとうっとりした表情になっているミス・ロングビル。彼女も実はまんざらではないのかもしれない。
そんな平和?なひと時は突然の闖入者によって破られる。
「オールド・オスマン!たたた大変です!」
ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机で書類を整理している。オスマン氏は窓のほうを向いて後ろ手を組んでいた。
「まったく騒々しい、何事じゃミスタ・コルベール」
「ここ、これを見て下さい」
「また古い書物を持ち出して一体何だというんじゃ・・・」
「これも見て下さい!」
コルベールはヒロの額のルーンをスケッチしたものをオスマン氏に見せる。
それを見た瞬間、オスマン氏の目が変わった。飄々としたものから厳しいものへと。
「ミス・ロングビル、すまんが席を外してくれ」
ミス・ロングビルは何も言わずに立ち上がり、部屋を出て行った。
「詳しく説明してくれんかの。ミスタ・コルベール」
ルイズとヒロはめちゃくちゃになった教室の片づけを終わらせ廊下を歩いていた。
ヒロとして教室をめちゃくちゃにしたのはルイズなので付き合う義理などなかったが、使い魔なのだから、とシュヴルーズに言われたので、まあいいか。と、とりあえず片付けに参加したのだった。片付け中も左手を見せなかったあたりは器用としか言いようがない。
一方ルイズは、というと掃除中から教室を出た今でも、沈んだ表情で、時折ため息をついていたのだった。そしてふと口を開く。
「あんたも・・あたしのこと『ゼロ』だって思ってるんでしょ。魔法の成功確率ゼロのメイジだ。って」
そんな発言にヒロはちらとルイズのほうを見ただけですぐに前に視線を戻す。
「別に、お前が魔法を使えようが使えまいが、私にとっては大して重要な項目ではないのでな。しかし、魔法というのは失敗すれば爆発するものなのか?あれだけの爆発だ、その気になれば殺傷能力を強化して戦争にも使用されそうな勢いだがな・・」
その言葉にルイズも疑問を浮かべる。
「そういえば、普通は魔法に失敗しても何も起きないのが普通よ」
「なるほどな。(系統が違うと考えるべきか?いや、単純に構成を失敗しているだけとも考えられる。『虚無』だったか。あの失われた伝説の系統というのもまあゼロではないが。今の段階では憶測の外を出るわけではないな)まあ、今は考えてもしょうがあるまい。魔法で失敗するのなら 練習するしかあるまい。私も小さい頃は反復運動の繰り返しだったからな。」
そう言いながらヒロはスペクトラルタワーに上った事を思い出す。二度と行きたくなかった。
「わかってるわよ。平民のあんたに言われなくたって、いつも練習してるもん!でも、いつも失敗しちゃうのよ!」
ヒロは、喚くルイズにどうしたものかと思っていると、そういえば食事の時間だったなと思い出す。
「そうそう、そろそろ食事の時間だろう。とりあえず私の故郷の諺で『腹が減っては戦はできぬ』という言葉がある。とりあえず食事でもして頭を 冷やしてこい。私はあまり食欲がないのでその辺でも散策しているさ。まだこの学院の他の場所なども把握していないからな」
「わかったわよ・・」
そういうとルイズは食堂へと入っていった。
「やれやれ、さて、どうしたものか」
食欲がないと言ったのは嘘である。正直なところ大勢で食事をするのがあまり好きではないというだけだった。
「とはいえ、食べねばさすがにな・・」
周りを見渡していると
「どうなさいました?」
前のほうから黒髪の少女が歩いてくる。見ればメイドの格好をしている。この学園で働いているのだろう。ともすれば厨房でも貸してもらえるかもしれないなと考えた。
ヒロも最初は料理ができなかった。できたことと言えばヒヨコ虫の丸焼きだったりなど、実に野生的なものばっかりであった。
だがあるとき大蛇丸に
「ヒロよう、料理とか覚えとかねぇと男が寄ってこねぇぞ」と言われ、最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、姉プラーナは完璧超人だったために、料理覚えようという結論に至ったのであった。
べ、べつに男に寄って欲しいわけじゃないんだからな!
拳を握り締めるヒロを苦笑いで見る少女。
その視線に気づき、慌てて向き直る。
「ああ、すまないが厨房はどこだ?自分用の食事を作りたくてな。」
「もしかして、あなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう・・」
彼女はヒロの額のルーンに気がついたようだった。
「私のことを知っているのか?」
「ええ。召喚の魔法で平民を呼び出した。と噂になってます。」
笑う彼女はまるでミュウのように眩しい存在に見えた。そういえばスカーフェイスと結婚したとかなんとか。勇者の娘と闘神の息子の結婚、さぞや生まれてくる子供は、とんでもない存在になることだろう。
「お前はメイジ、とやらではなさそうだな」
「ええ、貴方と同じ平民です。貴族の方々のお世話をするためにこの学園に奉公にきてるんですよ」
私は平民ではない。と言おうとしたがやめた。魔王と人間のハーフなど、ここでは言っても冗談と受け止められるか、頭がおかしいと思われるのが関の山だろう。この左手でも見せれば違うかもしれないが、無用な騒ぎの種にもなりかねない。
「私はシエスタといいます。ええと・・」
「ああ、私はヒロという」
「あ、ごめんなさい。食事を希望されてたんですよね。こちらへ着いてきてくださいますか?」
忘れてた。と慌てた仕草をしながらシエスタはヒロを厨房へと案内した。
ヒロが案内された厨房は大きかった。そういえば城の厨房もこんな感じだったな。とヒロは考える。
「ちょっと待っててください」
そういうとシエスタは、厨房の奥へ行ってしまった。そしてそのままお皿を持って戻ってきた。
皿の中身はシチューのようだ。作り立てらしく美味しそうな湯気と匂いを立たせている。
「シチューか。いい匂いだな。味も良さそうだ・・・うまいな・・」
そんなヒロに気を良くしたのか、シエスタも笑顔を浮かべた。
そこまで早くはないが、ヒロはシチューを食べ終えた。正直なところ美味しかったのでおかわりもした。
「美味かった。久しぶりにいい食事ができた。礼を言うシエスタ」
「ご飯、もらえなかったんですか?」
「いや、ああいう大人数での食事というのが苦手なだけだ」
「そうなんですか。あ、でもでしたらここに来ていただければ、いつでも食事を用意しますよ」
「いや、それは悪いだろう。さすがにただ飯食らいというのもどうかと思うのだが」
「いえ、そんなことないですよ。私も1人で食べるのもなんですし、2人でしたら美味しく食べれると思いますよ」
元々自分で作るつもりだったので、厨房を借りることができればいいだけなのだが、どうやらこの少女は世話を焼きたいようだ。
ふむ、とヒロは思案した挙句。
「そうだな、何か手伝いでもしよう。生憎ルイズの使い魔をやっているので四六時中というのは無理だが、何かあれば言ってくれれば駆けつけよう。」
「あら、ありがとうございます。でしたらそうですね・・デザートを運ぶのを手伝っていただけますか?」
シエスタが微笑みながら言った。
「了解した」
ヒロはうなずき、シエスタの後をついていった。
デザートを配っていると1人の貴族が目に止まった。
金髪でフリルのついたシャツを着ている、気障っぽい感じがする男だった。どうやら談笑しているようだ。別段興味はなかったが耳には入ってくる。
「なあギーシュ!お前は今、誰と付き合っているんだ?」
「誰が恋人なのか教えてくれよギーシュ!」
あの男はギーシュという名前らしい。
「つきあう?僕にはそんな特定の女性はいないのさ。なぜなら」
そう言って薔薇を口に近づける。
「薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
聞いてて胸糞が悪くなってきた。一瞬燃やしてやろうかとも思ったが、仕事中な上にめちゃくちゃにしてしまってはシエスタに申し訳ない。ヒロは自重した。
その時、ギーシュのポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小瓶のようである。そして不幸にもシエスタがそれに気づいてしまった。
「あ、貴族様落し物です」
その小瓶をみたギーシュの友人が騒ぎ始める。
「おお!?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか?」
モンモランシー。聞いたことのない名前だ。
「そうだ!その紫色の香水は、モンモランシーが自分のために調合しているものじゃないか!」
「そいつがお前のポケットから落ちてきたってことは、今はモンモランシーと付き合ってるってことだなギーシュ!!」
「違うんだ。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」
ギーシュが何か言いかけたとき、左から茶色のマントの少女が、右から巻き髪の少女が立ち上がりつかつかと寄ってきた。
「モ、モンモランシー、それにケティ・・・ち、違うんだ!これはなんというか・・・」
「やっぱりミス・モンモランシーと・・」と泣くケティ。
「やっぱり、その1年生に手を出していたのね」と睨むモンモランシー。
「「最低!!」」
2人の女性に怒鳴られひっぱたかれるギーシュ。2人の女性はそれぞれ反対方向へと歩いて去っていき。彼の頬は腫れて赤くなっていた。
ギーシュは腫れた頬を手でさすりながら
「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
なおもそこまで言えるギーシュ。ある意味感嘆する。まあ、もう関係ないなと作業に戻ろうとしたときだった。
「そこなメイド!」
いきなり貴族様に呼ばれる。何か粗相をしてしまったのだろうかと思う。
「な、なんでしょうか?」
身を竦ませるシエスタ。だって相手は貴族だし。
「君が軽率にも香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
気障ったらしく髪をかきあげながら、シエスタに向かって薔薇を向けるギーシュという貴族。一方のシエスタはとんでもないことをしてしまったと、自分が顔が真っ青になってがくがく震えているのがわかる。
「も、申し訳ありません貴族様!!」
もう謝るしか自分はできないと思い土下座をした。しかし、それで許すほどギーシュは寛容ではなかった。
「僕に謝られてもしょうがないんだが・・・そうだな、君にお仕置きをしてあげよう、貴族らしくね。今晩、僕の部屋まで来たまえ」
もうシエスタはどうしようもないと思った。顔も真っ青を通り越して白くなっている。
ブチ
シエスタは何かが切れる音を聞いたような気がした。一体何なんだろう。
するとヒロがこちらに寄ってきてギーシュの胸に指をさす。下を少し向いているのか表情は伺えない。
「二股をかけてるようなやつが何を言っている」
「何だ君は?貴族に口答えをするとは・・ああ、君はあのゼロのルイズが呼び出した、平民だったね。ゼロのルイズだけに使い魔もたいしたことはないようだ。それに、どうやら君は貴族に対する接し方を知らないようだな」
ヒロは顔を上げると笑みを浮かべながら。
「ああ、残念ながら貴様のような最低の男に対する礼儀なんてものがこの世界にあるとは驚きだ。くくく」
「よかろう・・・ならば君に礼儀を教えてやろうじゃないか!決闘だ!場所はヴェストリの広場だ!その仕事が終わったらきたまえ。まあ、別に怖くなって逃げてもかまわないがね。では待っているよ!」
そう言うと、ギーシュはマントを翻し、食堂を出て行った。
「大丈夫か?シエスタ?」
シエスタの方を見るとまだ震えている。まあ怖かったのだろう。手を貸そうとすると、
「あ、あなた殺されちゃう・・・」
「ん?」
「ご、ごめんなさい!」
シエスタは言うが早いか、走って逃げていってしまった。
どうしたものか、と手を差し出そうとした姿勢で止まってしまった。
すると食事を終えたのか、ルイズが後ろから駆け寄ってくる。
「あんた!何勝手なことしてんのよ!」
「食事は終えたのか?」
「そんなことはどうでもいいわよ!何決闘の約束なんかしてるのよ!」
「何、成り行きのようなものだ。それにいい機会だしな」
「何がよ・・ひっ」
「さてルイズよ。私はお前の使い魔なわけだ。まああのギーシュとやらは、お前のことも馬鹿にしていたからな。叩きのめす理由としては十分だろう」
とてつもなく凄みのある笑みを浮かべて言うヒロを見てルイズは後ずさる。正直なところ、ヒロは色々溜まっていた。戦いがなかったというのもあるかもしれない。
「それにな」
「な、なによ」
「自分の使い魔がどれほどのものなのか、知っておくにはいい機会だろう?」
ヒロは言いながら食堂から出て行った。目指すはヴェストリ広場である。
歩きながら1人の生徒を見かけ、声をかける。
「すまんが、ヴェストリの広場とはどこだ?」
まだ学園を把握していないヒロなのであった。
#navi(爆炎の使い魔)
ヒロに「ハゲ」と定義されてしまったコルベールは、トリスティン魔法学院で仕事をするようになって20年になる中堅の教師である。
彼の二つ名は『炎蛇』、『火』系統の魔法を得意とするメイジである。
彼は先日、ルイズが召喚した平民の少女の額に現れたルーンのことが気にかかっていた。しかし気になっていたのはそれだけではなかった。
爆発の際に感じた異常なまでの炎の魔力、あれは明らかに自分を凌駕するものだ。最初はミス・ヴァリエールの属性が炎なのかと思ったが、おそらく違うだろう。彼女の爆発は何度か見たが、そこにはどの属性も感じられなかったからだ。
では、あの少女が?しかし彼女は平民だ。平民は魔法は使えない。この世界の鉄則である。しかし、本人がいないのでは、これ以上詮索してもしょうがない。
彼は1番手がかりのありそうなルーンのほうから調べることにした。
膨大な書物の中で、彼が探しているのは始祖の使い魔たちが記述された古書である。
すると、埃を被っている書物の中に、彼は目的のものを見つけ出した。さっそくページをめくる。するとその中に記された一節に目が止まる。
その一説と少女の額のルーンのスケッチを見比べると、思わず彼は驚きの声を上げる。そして、その本を抱えたまま駆け出していった。
トリスティン魔法学院の本搭の最上階、そこに学園長室がある。そして、魔法学院の学院長を務めるオスマン氏は白いひげと髪を生やした初老の人物であった。
オスマン氏はつまりこの学園で1番偉い人物ということになる。そのオスマン氏は今学園長室で、
足蹴にされていた。
「や、やめるんじゃミス・ロングビル。お、お尻を撫でるくらいいいではないか。減るもんじゃなあいたっ!」
オスマン氏を足蹴にしながら、ミス・ロングビルと呼ばれた女性はスタンピングをやめようとしない。
「いくら秘書であるとはいいましてもですね。まったく、今度、やったら、王都に、報告すると、言ったでは、ありませんか!」
「痛い、痛いぞ、ミス・ロングビル。このままではわし、いかん方向に目覚めてしまいそうじゃーー」
蹴られて少し嬉しそうなオスマン氏と、ちょっとうっとりした表情になっているミス・ロングビル。彼女も実はまんざらではないのかもしれない。
そんな平和?なひと時は突然の闖入者によって破られる。
「オールド・オスマン!たたた大変です!」
ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机で書類を整理している。オスマン氏は窓のほうを向いて後ろ手を組んでいた。
「まったく騒々しい、何事じゃミスタ・コルベール」
「ここ、これを見て下さい」
「また古い書物を持ち出して一体何だというんじゃ・・・」
「これも見て下さい!」
コルベールはヒロの額のルーンをスケッチしたものをオスマン氏に見せる。
それを見た瞬間、オスマン氏の目が変わった。飄々としたものから厳しいものへと。
「ミス・ロングビル、すまんが席を外してくれ」
ミス・ロングビルは何も言わずに立ち上がり、部屋を出て行った。
「詳しく説明してくれんかの。ミスタ・コルベール」
ルイズとヒロはめちゃくちゃになった教室の片づけを終わらせ廊下を歩いていた。
ヒロとして教室をめちゃくちゃにしたのはルイズなので付き合う義理などなかったが、使い魔なのだから、とシュヴルーズに言われたので、まあいいか。と、とりあえず片付けに参加したのだった。片付け中も左手を見せなかったあたりは器用としか言いようがない。
一方ルイズは、というと掃除中から教室を出た今でも、沈んだ表情で、時折ため息をついていたのだった。そしてふと口を開く。
「あんたも・・あたしのこと『ゼロ』だって思ってるんでしょ。魔法の成功確率ゼロのメイジだ。って」
そんな発言にヒロはちらとルイズのほうを見ただけですぐに前に視線を戻す。
「別に、お前が魔法を使えようが使えまいが、私にとっては大して重要な項目ではないのでな。しかし、魔法というのは失敗すれば爆発するものなのか?あれだけの爆発だ、その気になれば殺傷能力を強化して戦争にも使用されそうな勢いだがな・・」
その言葉にルイズも疑問を浮かべる。
「そういえば、普通は魔法に失敗しても何も起きないのが普通よ」
「なるほどな。(系統が違うと考えるべきか?いや、単純に構成を失敗しているだけとも考えられる。『虚無』だったか。あの失われた伝説の系統というのもまあゼロではないが。今の段階では憶測の外を出るわけではないな)まあ、今は考えてもしょうがあるまい。魔法で失敗するのなら 練習するしかあるまい。私も小さい頃は反復運動の繰り返しだったからな。」
そう言いながらヒロはスペクトラルタワーに上った事を思い出す。二度と行きたくなかった。
「わかってるわよ。平民のあんたに言われなくたって、いつも練習してるもん!でも、いつも失敗しちゃうのよ!」
ヒロは、喚くルイズにどうしたものかと思っていると、そういえば食事の時間だったなと思い出す。
「そうそう、そろそろ食事の時間だろう。とりあえず私の故郷の諺で『腹が減っては戦はできぬ』という言葉がある。とりあえず食事でもして頭を 冷やしてこい。私はあまり食欲がないのでその辺でも散策しているさ。まだこの学院の他の場所なども把握していないからな」
「わかったわよ・・」
そういうとルイズは食堂へと入っていった。
「やれやれ、さて、どうしたものか」
食欲がないと言ったのは嘘である。正直なところ大勢で食事をするのがあまり好きではないというだけだった。
「とはいえ、食べねばさすがにな・・」
周りを見渡していると
「どうなさいました?」
前のほうから黒髪の少女が歩いてくる。見ればメイドの格好をしている。この学園で働いているのだろう。ともすれば厨房でも貸してもらえるかもしれないなと考えた。
ヒロも最初は料理ができなかった。できたことと言えばヒヨコ虫の丸焼きだったりなど、実に野生的なものばっかりであった。
だがあるとき大蛇丸に
「ヒロよう、料理とか覚えとかねぇと男が寄ってこねぇぞ」と言われ、最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、姉プラーナは完璧超人だったために、料理覚えようという結論に至ったのであった。
べ、べつに男に寄って欲しいわけじゃないんだからな!
拳を握り締めるヒロを苦笑いで見る少女。
その視線に気づき、慌てて向き直る。
「ああ、すまないが厨房はどこだ?自分用の食事を作りたくてな。」
「もしかして、あなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう・・」
彼女はヒロの額のルーンに気がついたようだった。
「私のことを知っているのか?」
「ええ。召喚の魔法で平民を呼び出した。と噂になってます。」
笑う彼女はまるでミュウのように眩しい存在に見えた。そういえばスカーフェイスと結婚したとかなんとか。勇者の娘と闘神の息子の結婚、さぞや生まれてくる子供は、とんでもない存在になることだろう。
「お前はメイジ、とやらではなさそうだな」
「ええ、貴方と同じ平民です。貴族の方々のお世話をするためにこの学園に奉公にきてるんですよ」
私は平民ではない。と言おうとしたがやめた。魔王と人間のハーフなど、ここでは言っても冗談と受け止められるか、頭がおかしいと思われるのが関の山だろう。この左手でも見せれば違うかもしれないが、無用な騒ぎの種にもなりかねない。
「私はシエスタといいます。ええと・・」
「ああ、私はヒロという」
「あ、ごめんなさい。食事を希望されてたんですよね。こちらへ着いてきてくださいますか?」
忘れてた。と慌てた仕草をしながらシエスタはヒロを厨房へと案内した。
ヒロが案内された厨房は大きかった。そういえば城の厨房もこんな感じだったな。とヒロは考える。
「ちょっと待っててください」
そういうとシエスタは、厨房の奥へ行ってしまった。そしてそのままお皿を持って戻ってきた。
皿の中身はシチューのようだ。作り立てらしく美味しそうな湯気と匂いを立たせている。
「シチューか。いい匂いだな。味も良さそうだ・・・うまいな・・」
そんなヒロに気を良くしたのか、シエスタも笑顔を浮かべた。
そこまで早くはないが、ヒロはシチューを食べ終えた。正直なところ美味しかったのでおかわりもした。
「美味かった。久しぶりにいい食事ができた。礼を言うシエスタ」
「ご飯、もらえなかったんですか?」
「いや、ああいう大人数での食事というのが苦手なだけだ」
「そうなんですか。あ、でもでしたらここに来ていただければ、いつでも食事を用意しますよ」
「いや、それは悪いだろう。さすがにただ飯食らいというのもどうかと思うのだが」
「いえ、そんなことないですよ。私も1人で食べるのもなんですし、2人でしたら美味しく食べれると思いますよ」
元々自分で作るつもりだったので、厨房を借りることができればいいだけなのだが、どうやらこの少女は世話を焼きたいようだ。
ふむ、とヒロは思案した挙句。
「そうだな、何か手伝いでもしよう。生憎ルイズの使い魔をやっているので四六時中というのは無理だが、何かあれば言ってくれれば駆けつけよう。」
「あら、ありがとうございます。でしたらそうですね・・デザートを運ぶのを手伝っていただけますか?」
シエスタが微笑みながら言った。
「了解した」
ヒロはうなずき、シエスタの後をついていった。
デザートを配っていると1人の貴族が目に止まった。
金髪でフリルのついたシャツを着ている、気障っぽい感じがする男だった。どうやら談笑しているようだ。別段興味はなかったが耳には入ってくる。
「なあギーシュ!お前は今、誰と付き合っているんだ?」
「誰が恋人なのか教えてくれよギーシュ!」
あの男はギーシュという名前らしい。
「つきあう?僕にはそんな特定の女性はいないのさ。なぜなら」
そう言って薔薇を口に近づける。
「薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
聞いてて胸糞が悪くなってきた。一瞬燃やしてやろうかとも思ったが、仕事中な上にめちゃくちゃにしてしまってはシエスタに申し訳ない。ヒロは自重した。
その時、ギーシュのポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小瓶のようである。そして不幸にもシエスタがそれに気づいてしまった。
「あ、貴族様落し物です」
その小瓶をみたギーシュの友人が騒ぎ始める。
「おお!?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか?」
モンモランシー。聞いたことのない名前だ。
「そうだ!その紫色の香水は、モンモランシーが自分のために調合しているものじゃないか!」
「そいつがお前のポケットから落ちてきたってことは、今はモンモランシーと付き合ってるってことだなギーシュ!!」
「違うんだ。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」
ギーシュが何か言いかけたとき、左から茶色のマントの少女が、右から巻き髪の少女が立ち上がりつかつかと寄ってきた。
「モ、モンモランシー、それにケティ・・・ち、違うんだ!これはなんというか・・・」
「やっぱりミス・モンモランシーと・・」と泣くケティ。
「やっぱり、その1年生に手を出していたのね」と睨むモンモランシー。
「「最低!!」」
2人の女性に怒鳴られひっぱたかれるギーシュ。2人の女性はそれぞれ反対方向へと歩いて去っていき。彼の頬は腫れて赤くなっていた。
ギーシュは腫れた頬を手でさすりながら
「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
なおもそこまで言えるギーシュ。ある意味感嘆する。まあ、もう関係ないなと作業に戻ろうとしたときだった。
「そこなメイド!」
いきなり貴族様に呼ばれる。何か粗相をしてしまったのだろうかと思う。
「な、なんでしょうか?」
身を竦ませるシエスタ。だって相手は貴族だし。
「君が軽率にも香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
気障ったらしく髪をかきあげながら、シエスタに向かって薔薇を向けるギーシュという貴族。一方のシエスタはとんでもないことをしてしまったと、自分が顔が真っ青になってがくがく震えているのがわかる。
「も、申し訳ありません貴族様!!」
もう謝るしか自分はできないと思い土下座をした。しかし、それで許すほどギーシュは寛容ではなかった。
「僕に謝られてもしょうがないんだが・・・そうだな、君にお仕置きをしてあげよう、貴族らしくね。今晩、僕の部屋まで来たまえ」
もうシエスタはどうしようもないと思った。顔も真っ青を通り越して白くなっている。
ブチ
シエスタは何かが切れる音を聞いたような気がした。一体何なんだろう。
するとヒロがこちらに寄ってきてギーシュの胸に指をさす。下を少し向いているのか表情は伺えない。
「二股をかけてるようなやつが何を言っている」
「何だ君は?貴族に口答えをするとは・・ああ、君はあのゼロのルイズが呼び出した、平民だったね。ゼロのルイズだけに使い魔もたいしたことはないようだ。それに、どうやら君は貴族に対する接し方を知らないようだな」
ヒロは顔を上げると笑みを浮かべながら。
「ああ、残念ながら貴様のような最低の男に対する礼儀なんてものがこの世界にあるとは驚きだ。くくく」
「よかろう・・・ならば君に礼儀を教えてやろうじゃないか!決闘だ!場所はヴェストリの広場だ!その仕事が終わったらきたまえ。まあ、別に怖くなって逃げてもかまわないがね。では待っているよ!」
そう言うと、ギーシュはマントを翻し、食堂を出て行った。
「大丈夫か?シエスタ?」
シエスタの方を見るとまだ震えている。まあ怖かったのだろう。手を貸そうとすると、
「あ、あなた殺されちゃう・・・」
「ん?」
「ご、ごめんなさい!」
シエスタは言うが早いか、走って逃げていってしまった。
どうしたものか、と手を差し出そうとした姿勢で止まってしまった。
すると食事を終えたのか、ルイズが後ろから駆け寄ってくる。
「あんた!何勝手なことしてんのよ!」
「食事は終えたのか?」
「そんなことはどうでもいいわよ!何決闘の約束なんかしてるのよ!」
「何、成り行きのようなものだ。それにいい機会だしな」
「何がよ・・ひっ」
「さてルイズよ。私はお前の使い魔なわけだ。まああのギーシュとやらは、お前のことも馬鹿にしていたからな。叩きのめす理由としては十分だろう」
とてつもなく凄みのある笑みを浮かべて言うヒロを見てルイズは後ずさる。正直なところ、ヒロは色々溜まっていた。戦いがなかったというのもあるかもしれない。
「それにな」
「な、なによ」
「自分の使い魔がどれほどのものなのか、知っておくにはいい機会だろう?」
ヒロは言いながら食堂から出て行った。目指すはヴェストリ広場である。
歩きながら1人の生徒を見かけ、声をかける。
「すまんが、ヴェストリの広場とはどこだ?」
まだ学園を把握していないヒロなのであった。
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