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その日、『炎蛇』の二つ名を持つ腕っこきメイジ、ミスタ・こっぱげ――
じゃなかった、ミスタ・コルベールは、都合本日四度目の「強烈な悪寒」にさらされていた。
彼は『ゼロ』の二つ名で呼ばれる、座学は優秀であるものの実践に難のある生徒、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、大爆発と共に『ナニカ』を召喚したことを感じ取った。
本来なら喜ぶべき事項だ。人一倍努力してきた彼女が遂に魔法を、しかも一度で成功させたのである。
だが、彼はそう単純に喜べなかった。どころか、冷や汗を浮かべ、どう対処したものかと難しい顔をしている。
とりあえずミス・ヴァリエールには契約を済ませよと指示し、他の生徒達は帰らせる。一部を除き。
残された者、すなわち
ミスタ・グラモン
ミス・ツェルプトー
ミス・タバサ
の三名には使い魔と共に待機を命じた。不測の事態に備えて、だ。
つまり――
目には目を、歯に歯を、……化け物には化け物を。
そういうことだった。
『春の使い魔召喚』。
神聖かつ進級のかかったこの大切な儀式は、
途中まではスムーズに進行していた。筈だ。少なくとも表面上は。
それがどうしてこんなことになったのか?どこからおかしくなったのか?
歯車はもっと前から狂っていたのかもしれない。
だが、目に見える異変としては――、
そうだ、最優秀生徒の一人と言って過言でないミス・タバサ。
彼女が最初だったろう。
彼女が召喚したのは何と獣人、狼男だったのだ。
最初、召喚されたモノを見たとき、誰もが呆然とした。
見た限りでは、気絶した、粗末な服を着た人間のようにしか思えなかったからだ。
「失敗だ」誰かがつぶやき、それを皮切りに、下品な一部生徒から野次が飛んだ。
「『雪風』のタバサが召喚に失敗した」「貧相な平民を召喚した」
「『あの』タバサが平民を拉致って失敗を誤魔化した」
尾鰭を付けていく低脳な発言。だがそれはすぐに収まった。
ふと、気づいたのだ。
タバサが、キュルケが、コルベールが、
――今ここにいる中で高い能力を持っている者達。
それが揃って杖を意識の無い男に向けている。
その顔は険しく、まるで何かに威圧されているかのように動かない。
ここに至って、ようやく彼らは
「これは何かとんでもない奴なのかもしれない」
と思い始めた。
全ては遅きに失していたが。
突然、男が跳ね起きた。
素早く辺りを見回した男は、杖を向けている数名から敵意を感じ取ったのか、
バックジャンプで距離を取る。
その跳躍力にただただ驚愕する一般生徒。
もしもに備え詠唱を始める一部の優秀者。
そして、後を追うように間合いをつめるタバサ。
「何やってんのよ、タバサ!殺されるわよ!!」
キュルケが叫ぶ。
「だいじょうぶ」
とだけ返したタバサは、あまつさえ杖を置き、男に語りかけた。
「あなたの名は?」
タバサは、歓喜していた。
理由は二つ。
一つは、その強さ。ただ目の前に存在するだけで、強い、強い畏怖を感じる。
こんなモノに初めて出会った。
彼が力を貸してくれるならば、私の目的は、一歩どころか、大きく近づく。
そしてもう一つは、その目だ。
迷いの無い、まっすぐな目。それでいて、内包する狂気。
一度仕えるべきものに出会ったならば、その者に絶対忠実だろうことを確信できた。
たとえ七万の軍勢を尽く殲滅しつくせと命じようと、村一つ滅ぼせと言い捨てようと、
彼はきっと迷い無く実行する。
実行できる力と、それを為す狂気を持ち合わせている。
どの道、おそらく魔法学院でもオールド・オスマン以外彼に対抗できる者はいない。
ならば、自分が御してみせるしかないのだ。
勝ち目が無いなら、武器を持つ意味は無い。むしろ警戒される。
そう判断したタバサは杖を置いた。
そしてもう一度、問う。
「私はタバサ。ここはハルケギニア大陸、トリステイン、トリステイン魔法学院。
あなたを此処に呼んだのは私。あなたは、何者?」
反応が無い。いや、話さないだけか。もしかすると喋れないのかもしれない。
とりあえず、自分への視線がより冷たくなったのを感じる。
……考えてみれば当たり前か。突然訳の分からないところへ連れて来られて、
怒らないほうが不思議だ。
待って。
訳の分からないところ?
自分の思考に一瞬疑問を持ち、すぐに解決する。
この男、まだ辺りを見回している。つまり、ここがどこだか分かっていない。
耳が聞こえない、という可能性もあるにはあるが、薄いだろう。
状況がつかめていないのに、言葉と聴力を持たないことを伝えない、
というのは不自然極まりない。
また、彼の服装も、見たことの無いものだ。
つまり。
「あなたは、ここを知らない?」
未開の地、東方から来たのだろうか。東方にこんな怪物がいるとは。
ぴくり、と反応し、僅かに男が首肯したのを見て、更に続ける。
「呼び出された時の記憶は、ある?」
やはり僅かだが、首を横に振る。
「…魔法、という概念に覚えは?」
自分達の格好に怪訝そうな顔をしていたのを思い出して、聞いた。
向けられた杖にも『それが何をするものか』を図りかねているようだったし。
首をかしげる。似たようなものはある、といったところか。
「あなたを呼び出したのは『サモン・サーヴァント』という魔法。
対象の近くにここへ繋がる鏡を作り、呼びかけるもの。
強制的に連行するものではない」
つまり、
「あなたはおそらく、事故、或いは何者かの意志によってここに送られた。
我々は敵ではない」
男が力を抜いた。
第一段階、終了。
ここからが問題だ。
「『サモン・サーヴァント』で召喚されたものを送り返す呪文は、今は無い」
「……!」
男が目を剥く。殺気が吹き荒れ、一部の生徒が気絶した。
タバサは気圧されながらも、口を閉じない。
戦闘になれば終わりだ。
「飽くまで今のところ。そしてわたしは、あなたが欲しい」
タバサの台詞に、真っ青な顔のキュルケが器用にも「わ」と頬を赤らめる。その意味じゃない。
男が眉を顰める。
「あなたが元居た場所へ戻れるよう協力する。
ここでの衣食住、金銭報酬も保障する」
その代わり、と。
「戻るまでは、わたしに仕えて」
しばし男が悩む。
数分後、一言、
「二君には仕えられん」
初めて口を利いた。
出てきたのは拒絶の言葉だったが、むしろ、これなら。
「あくまで一時的なもの。どの道誰かの助力なしに元の場所へは戻れない。
ここは世界有数の魔法学院。古代呪文の書の解読、新たな呪文の研究がその本分。
此処と元の場所の位置関係が掴めない以上、此処に留まって送り返す呪文を探す方が賢明。」
さらに悩む男。
周囲の人間は『タバサってこんなに話せるんだ』と妙な感動をしている。
また数分見つめあい、そして、
「……」
男が首肯した。
「しゃがんで」
「痛むけれど、害は無い」
呪文を唱え、口付ける。
契約の魔力か、或いは単純に痛みによるものか。ざわり、と、彼本来の姿が露見する。
『最強の主従』の一角が誕生した瞬間だった。
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その日、『炎蛇』の二つ名を持つ腕っこきメイジ、ミスタ・こっぱげ――
じゃなかった、ミスタ・コルベールは、都合本日四度目の「強烈な悪寒」にさらされていた。
彼は『ゼロ』の二つ名で呼ばれる、座学は優秀であるものの実践に難のある生徒、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、大爆発と共に『ナニカ』を召喚したことを感じ取った。
本来なら喜ぶべき事項だ。人一倍努力してきた彼女が遂に魔法を、しかも一度で成功させたのである。
だが、彼はそう単純に喜べなかった。どころか、冷や汗を浮かべ、どう対処したものかと難しい顔をしている。
とりあえずミス・ヴァリエールには契約を済ませよと指示し、他の生徒達は帰らせる。一部を除き。
残された者、すなわち
ミスタ・グラモン
ミス・ツェルプトー
ミス・タバサ
の三名には使い魔と共に待機を命じた。不測の事態に備えて、だ。
つまり――
目には目を、歯に歯を、……化け物には化け物を。
そういうことだった。
『春の使い魔召喚』。
神聖かつ進級のかかったこの大切な儀式は、
途中まではスムーズに進行していた。筈だ。少なくとも表面上は。
それがどうしてこんなことになったのか?どこからおかしくなったのか?
歯車はもっと前から狂っていたのかもしれない。
だが、目に見える異変としては――、
そうだ、最優秀生徒の一人と言って過言でないミス・タバサ。
彼女が最初だったろう。
彼女が召喚したのは何と獣人、狼男だったのだ。
最初、召喚されたモノを見たとき、誰もが呆然とした。
見た限りでは、気絶した、粗末な服を着た人間のようにしか思えなかったからだ。
「失敗だ」誰かがつぶやき、それを皮切りに、下品な一部生徒から野次が飛んだ。
「『雪風』のタバサが召喚に失敗した」「貧相な平民を召喚した」
「『あの』タバサが平民を拉致って失敗を誤魔化した」
尾鰭を付けていく低脳な発言。だがそれはすぐに収まった。
ふと、気づいたのだ。
タバサが、キュルケが、コルベールが、
――今ここにいる中で高い能力を持っている者達。
それが揃って杖を意識の無い男に向けている。
その顔は険しく、まるで何かに威圧されているかのように動かない。
ここに至って、ようやく彼らは
「これは何かとんでもない奴なのかもしれない」
と思い始めた。
全ては遅きに失していたが。
突然、男が跳ね起きた。
素早く辺りを見回した男は、杖を向けている数名から敵意を感じ取ったのか、
バックジャンプで距離を取る。
その跳躍力にただただ驚愕する一般生徒。
もしもに備え詠唱を始める一部の優秀者。
そして、後を追うように間合いをつめるタバサ。
「何やってんのよ、タバサ!殺されるわよ!!」
キュルケが叫ぶ。
「だいじょうぶ」
とだけ返したタバサは、あまつさえ杖を置き、男に語りかけた。
「あなたの名は?」
タバサは、歓喜していた。
理由は二つ。
一つは、その強さ。ただ目の前に存在するだけで、強い、強い畏怖を感じる。
こんなモノに初めて出会った。
彼が力を貸してくれるならば、私の目的は、一歩どころか、大きく近づく。
そしてもう一つは、その目だ。
迷いの無い、まっすぐな目。それでいて、内包する狂気。
一度仕えるべきものに出会ったならば、その者に絶対忠実だろうことを確信できた。
たとえ七万の軍勢を尽く殲滅しつくせと命じようと、村一つ滅ぼせと言い捨てようと、
彼はきっと迷い無く実行する。
実行できる力と、それを為す狂気を持ち合わせている。
どの道、おそらく魔法学院でもオールド・オスマン以外彼に対抗できる者はいない。
ならば、自分が御してみせるしかないのだ。
勝ち目が無いなら、武器を持つ意味は無い。むしろ警戒される。
そう判断したタバサは杖を置いた。
そしてもう一度、問う。
「私はタバサ。ここはハルケギニア大陸、トリステイン、トリステイン魔法学院。
あなたを此処に呼んだのは私。あなたは、何者?」
反応が無い。いや、話さないだけか。もしかすると喋れないのかもしれない。
とりあえず、自分への視線がより冷たくなったのを感じる。
……考えてみれば当たり前か。突然訳の分からないところへ連れて来られて、
怒らないほうが不思議だ。
待って。
訳の分からないところ?
自分の思考に一瞬疑問を持ち、すぐに解決する。
この男、まだ辺りを見回している。つまり、ここがどこだか分かっていない。
耳が聞こえない、という可能性もあるにはあるが、薄いだろう。
状況がつかめていないのに、言葉と聴力を持たないことを伝えない、
というのは不自然極まりない。
また、彼の服装も、見たことの無いものだ。
つまり。
「あなたは、ここを知らない?」
未開の地、東方から来たのだろうか。東方にこんな怪物がいるとは。
ぴくり、と反応し、僅かに男が首肯したのを見て、更に続ける。
「呼び出された時の記憶は、ある?」
やはり僅かだが、首を横に振る。
「…魔法、という概念に覚えは?」
自分達の格好に怪訝そうな顔をしていたのを思い出して、聞いた。
向けられた杖にも『それが何をするものか』を図りかねているようだったし。
首をかしげる。似たようなものはある、といったところか。
「あなたを呼び出したのは『サモン・サーヴァント』という魔法。
対象の近くにここへ繋がる鏡を作り、呼びかけるもの。
強制的に連行するものではない」
つまり、
「あなたはおそらく、事故、或いは何者かの意志によってここに送られた。
我々は敵ではない」
男が力を抜いた。
第一段階、終了。
ここからが問題だ。
「『サモン・サーヴァント』で召喚されたものを送り返す呪文は、今は無い」
「……!」
男が目を剥く。殺気が吹き荒れ、一部の生徒が気絶した。
タバサは気圧されながらも、口を閉じない。
戦闘になれば終わりだ。
「飽くまで今のところ。そしてわたしは、あなたが欲しい」
タバサの台詞に、真っ青な顔のキュルケが器用にも「わ」と頬を赤らめる。その意味じゃない。
男が眉を顰める。
「あなたが元居た場所へ戻れるよう協力する。
ここでの衣食住、金銭報酬も保障する」
その代わり、と。
「戻るまでは、わたしに仕えて」
しばし男が悩む。
数分後、一言、
「二君には仕えられん」
初めて口を利いた。
出てきたのは拒絶の言葉だったが、むしろ、これなら。
「あくまで一時的なもの。どの道誰かの助力なしに元の場所へは戻れない。
ここは世界有数の魔法学院。古代呪文の書の解読、新たな呪文の研究がその本分。
此処と元の場所の位置関係が掴めない以上、此処に留まって送り返す呪文を探す方が賢明。」
さらに悩む男。
周囲の人間は『タバサってこんなに話せるんだ』と妙な感動をしている。
また数分見つめあい、そして、
「……」
男が首肯した。
「しゃがんで」
「痛むけれど、害は無い」
呪文を唱え、口付ける。
契約の魔力か、或いは単純に痛みによるものか。ざわり、と、彼本来の姿が露見する。
『最強の主従』の一角が誕生した瞬間だった。
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