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時刻は深夜。ラグドリアン湖へ続く街道を、一頭のグリフォンが駆けている。
乗っているのは、アルビオンのウェールズ皇太子と、トリステインのアンリエッタ女王。
女王は秘薬によって眠らされている。皇太子はフードを深く被り、夜陰に紛れて進む。
ところどころにある関所を避け、慎重に、時には大胆に。
「上手くいったわね、皇太子」
「お蔭でね、公爵。ラグドリアン湖までは、もうすぐだ」
グリフォンのすぐ傍らを、美しい女性の乗った馬が駆けている。
乗り手と馬には、鰓と水掻きと鱗がある。ともにこの世の存在ではない。
「この『海洋の公爵』ヴェパール、水に関しては地獄でも屈指のプロフェッショナルよ。
お眠りになっている女王様も水の使い手らしいけど、私の足元にも及ばないわね」
彼女は、かつてソロモン王が召喚した72柱の魔神の一、ヴェパールだ。
クロムウェルと結託した悪魔ベリアルに助力するため、魔界から召喚された。乗っているのは『海馬』だ。
彼女が口から吐く息は、白い濃霧となって一帯を覆い、幻影を映し出して行方を晦ます。
また、その邪悪な視線は相手に触れずに傷を負わせ、その傷は忽ち化膿して蛆が湧き、三日もすれば死んでしまう。
海上にいればその力はいや増し、嵐を起こして艦隊を沈めるという。
二人の目的地は、まずガリア。女王と皇太子がガリア王に忠誠を誓えば、両王国の過半はガリアの手に落ちるだろう。
そうでなくとも、新しい女王という求心力を失えば、トリステイン王国は脆くなる。
「まあ、人間どもの争いが増えれば、地獄の収入も増える仕組みだからね。
沈没船に積まれた財宝は、私が貰うよ。飛行船は沈めにくいけどねぇ」
ヴェパールの放った霧のお蔭で、女王捜索隊は道を見失い、各所で彼女と皇太子の手下に討ち取られた。
グリフォンは街道を真っ直ぐ疾走する。しかし、湖には松下たちがいるのだ。
「水の力で、死人を動かすとはねぇ。この世界の魔法も、面白いじゃないか」
「アンリエッタには内緒にしてくれ。再会できて、僕も嬉しいのだから」
その頃、松下は村に戻り、モンモランシーとギーシュを元に戻す秘薬を調合していた。
「ヴォジャノーイ族から、いろいろ秘薬もせびり取れたからな。どうにか期限には間に合う。
『東方』のカッパ族の分派らしい。なんでも始祖はストトントノス大王で、全世界の水界と月を支配していたのだとか」
「眉唾物ね。あんな気持ち悪い種族が、世界を支配していたなんて」
「カッパ文明もなかなか侮れない。『東方』の奇怪な地下都市遺跡・カッパドキアは、その都だったそうだ」
喋っているうちに、秘薬はできた。早速二匹、いや二人に飲ませる。
「こうやって一晩安静にしておけば、脳の中の触媒生物が殺され、徐々に元に戻るだろう。
少々記憶障害や人格の改変はあるだろうが、大きな支障はない」
「全くもう、人騒がせよね。人体実験はこれっきりにして!
……ところで、あの『蛙男』も、こうやって作ったの? 私も時々、夢で会うのよ」
ルイズが質問する。キュルケとタバサは、奥で休んでいる。
「いいや、彼は古代の魔術師『蛙男』の魂を、秘術によって人間の肉体に戻した存在だ。
ぼくの忠実な部下であり、十二使徒の筆頭でもある」
「……十二使徒って、何者なの? 私は『第一使徒』、モンモランシーは『第三使徒』って言ったわよね」
心配そうな顔のルイズに、松下は落ち着き払って答える。
「まあ、高等な使い魔と言っても、志を同じくする友人と言ってもよい。神の遣わしたメシアの代理人だ。
人間は皆同じように見えるが、本人は気付かなくとも様々な本性を持っている。
猫のような人、猿にそっくりな人、牛のような男、蛇のような女という風に。
人間はその本性を掘り下げると、何らかの別の生物とも繋がりがあるものだよ」
「そうかしら……人は皆、ブリミルの子孫とされているのに」
「『東方』ではもはや、そう考えてはいない。猿に似た動物の子孫という説が有力だ。
勿論、ブリミルのような優れたメイジの子孫は、メイジになるだろう。だが、生物の起源系統は皆一つなのだ。
食物を摂取する事で、その遺伝情報……おっと、性質を我が物としているかも知れない。
昔、『東方』のメイジたちは自分の本性を研究し、その本性を極限まで修業して、そのものに成りきった。
本性が蜘蛛だとすれば、蜘蛛と共に生活し、蜘蛛と同じ物を食べ、蜘蛛の巣を張って虫を取るほどに修練する」
「きゃっ」
「そうした術の最も優れた十二人の者が『東方の神童』の下に集い、千年王国を樹立する手助けをするという。
それが『十二使徒』だと伝説にはあるのさ」
ギーシュはモグラ、モンモランシーは蛙。では、松下を呼んだルイズはどうか。
「……じゃあ、ひょっとして私も、何かの動物だったりする? 猫とか」
「さあね、それは自分でないと分からない。前の十二使徒には、召喚した悪魔や、警官や召使い夫婦や幽霊、
自分の父親や同級生の子供まで含めていたからなあ。別に二十四人の長老や14万4千人の選民でもいいのだが。
おお、どれも十二の倍数だな。イスラエルの十二族長が元だからなあ」
「わりといい加減なのね……」
構わず、松下は続ける。
「うむ、ぼくを召喚したきみが第一使徒、忠実なる信者シエスタは第二使徒。
モンモランシーが第三使徒で、ギーシュが第四使徒。ならばキュルケが第五、タバサが第六、マルトー親父は第七か」
「平民でもいいの?」
「人間は皆同じ生き物だ、差別は良くない。この『占い杖』も自分の意思を持つし、第八使徒にしよう。
ミスタ・コルベールを使徒に加えるかは、保留だ。どうも宗教には距離を置くタイプらしいし」
と、その『占い杖』が動き出した。何か危険が迫っているらしい。
「ルイズ! 済まないが、キュルケとタバサを起こしてくれ!
トリスタニアの方角から、何者かがこっちへ来るそうだぞ! 急げ!」
「敵!? なんで、こんなところまで? ていうか、何者よ」
白い霧が、ラグドリアン湖を覆い始めた。
重い風が吹き始め、あちこちに旋風が巻き起こる。冷たい雨も降り出した。
「むむむ、異様な妖気だ。これは、おそらく上位の『悪魔』だぞ!」
「悪魔ですって!?」
森から鳥たちが飛び立ち、獣たちも逃げ惑う。深い霧の彼方から、十騎ほどの馬群が来る。
彼らは生気なき亡者たち。そして、『海洋の公爵』ヴェパールに仕える悪鬼ども。
「おお、水だ! 我が麗しき故郷、水よ!」
女の声がする。彼女は異様な姿の馬から飛び降りると、銀に縁取られたエメラルド色の鱗を持つ人魚となり、
すっと波音も立てずに湖へ飛び込んだ。ウェールズたちは湖畔で待機する。
「今、渡し舟を作るから待ってなさい。湖底から引き上げて来る方が早いかねぇ」
松下とルイズ・キュルケ・タバサは、気配を隠しつつその近くへ向かう。
「……暗くて、よく見えないわ。こんな中を、よく馬で駆けてきたものね」
「ぼくは見える……いや、あの先頭に立つ金髪の男は見覚えがある。あのグリフォンも……。
しかし、あり得ないか? いや、まさか……」
「見えるの? 勿体ぶってないで、教えなさいよマツシタ」
「あれは、アルビオンのウェールズ皇太子だ。乗っているのは、ワルドのグリフォン」
「皇太子さま!? 嘘、だって、あの時……」
「生きていた、いや『生き返らされた』のだろう。アルビオンの支配者となった、クロムウェルによって。
でなければ、ワルドのグリフォンに乗っているはずはない。クロムウェルが盗んだ『アンドバリの指輪』は、
死者に仮初の命を与えると言っていたな。ならば、それだ」
「湖に飛び込んだ女は、強い」
タバサが口を開いた。松下もそれに肯く。
「うむ、あれはこの霧を起こしている『悪魔』だろう。正体は掴めないが、水の中なら『水の精霊』がいる。
……ちょっとヴォジャノーイを呼んでみるか」
松下が湖面に呪文を呟くと、やがてざばりとヴォジャノーイが現れた。
「何か御用ですか、『東方の神童』よ」
「うむ。今、怪しい女が湖に飛び込んだだろう。奴は何者か、分かるかな。
どうも恐ろしい悪魔らしいので、『水の精霊』に伝えてくれ」
「ひえっ、悪魔ですって! この間から災難続きだ! 分かりました、すぐ伝えます!
おお偉大なるストトントノス大王よ、我らを守りたまえ……」
ヴォジャノーイは再び湖底へ去る。しかし、バチュッと水中で何かが爆ぜる音がした。
ぷかりと両断されたヴォジャノーイが浮かんでくる。
「しまった、水中を伝わる音を聞きつけたな! 判断ミスだったか!
皆、岸辺からできるだけ離れろ! 悪魔が襲ってくるぞ!!」
水面が不気味なエメラルド色に輝き、気泡と波紋が広がる。『海洋の公爵』のお出ましだ。
それを合図に、馬群もざわつき出す。グリフォンに乗る皇太子らしき人物も、こっちへ駆けてきた。
「公爵よ、どうした! 伏兵か!」
「あの声は、確かにウェールズ皇太子のようだ。では、なぜここに……」
すると、グリフォンの上に横たわっていた女性も、よろよろと身を起こす。
「眠っていたまえ、きみは大事な人質だ」
皇太子が声をかける。それを見たルイズとキュルケは、あっと声をあげた。
「「あれは、アンリエッタ女王陛下!?」」
(つづく)
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時刻は深夜。ラグドリアン湖へ続く街道を、一頭のグリフォンが駆けている。
乗っているのは、アルビオンのウェールズ皇太子と、トリステインのアンリエッタ女王。
女王は秘薬によって眠らされている。皇太子はフードを深く被り、夜陰に紛れて進む。
ところどころにある関所を避け、慎重に、時には大胆に。
「上手くいったわね、皇太子」
「お蔭でね、公爵。ラグドリアン湖までは、もうすぐだ」
グリフォンのすぐ傍らを、美しい女性の乗った馬が駆けている。
乗り手と馬には、鰓と水掻きと鱗がある。ともにこの世の存在ではない。
「この『海洋の公爵』ヴェパール、水に関しては地獄でも屈指のプロフェッショナルよ。
お眠りになっている女王様も水の使い手らしいけど、私の足元にも及ばないわね」
彼女は、かつてソロモン王が召喚した72柱の魔神の一、ヴェパールだ。
クロムウェルと結託した悪魔ベリアルに助力するため、魔界から召喚された。乗っているのは『海馬』だ。
彼女が口から吐く息は、白い濃霧となって一帯を覆い、幻影を映し出して行方を晦ます。
また、その邪悪な視線は相手に触れずに傷を負わせ、その傷は忽ち化膿して蛆が湧き、三日もすれば死んでしまう。
海上にいればその力はいや増し、嵐を起こして艦隊を沈めるという。
二人の目的地は、まずガリア。女王と皇太子がガリア王に忠誠を誓えば、両王国の過半はガリアの手に落ちるだろう。
そうでなくとも、新しい女王という求心力を失えば、トリステイン王国は脆くなる。
「まあ、人間どもの争いが増えれば、地獄の収入も増える仕組みだからね。
沈没船に積まれた財宝は、私が貰うよ。飛行船は沈めにくいけどねぇ」
ヴェパールの放った霧のお蔭で、女王捜索隊は道を見失い、各所で彼女と皇太子の手下に討ち取られた。
グリフォンは街道を真っ直ぐ疾走する。しかし、湖には松下たちがいるのだ。
「水の力で、死人を動かすとはねぇ。この世界の魔法も、面白いじゃないか」
「アンリエッタには内緒にしてくれ。再会できて、僕も嬉しいのだから」
その頃、松下は村に戻り、モンモランシーとギーシュを元に戻す秘薬を調合していた。
「ヴォジャノーイ族から、いろいろ秘薬もせびり取れたからな。どうにか期限には間に合う。
『東方』のカッパ族の分派らしい。なんでも始祖はストトントノス大王で、全世界の水界と月を支配していたのだとか」
「眉唾物ね。あんな気持ち悪い種族が、世界を支配していたなんて」
「カッパ文明もなかなか侮れない。『東方』の奇怪な地下都市遺跡・カッパドキアは、その都だったそうだ」
喋っているうちに、秘薬はできた。早速二匹、いや二人に飲ませる。
「こうやって一晩安静にしておけば、脳の中の触媒生物が殺され、徐々に元に戻るだろう。
少々記憶障害や人格の改変はあるだろうが、大きな支障はない」
「全くもう、人騒がせよね。人体実験はこれっきりにして!
……ところで、あの『蛙男』も、こうやって作ったの? 私も時々、夢で会うのよ」
ルイズが質問する。キュルケとタバサは、奥で休んでいる。
「いいや、彼は古代の魔術師『蛙男』の魂を、秘術によって人間の肉体に戻した存在だ。
ぼくの忠実な部下であり、十二使徒の筆頭でもある」
「……十二使徒って、何者なの? 私は『第一使徒』、モンモランシーは『第三使徒』って言ったわよね」
心配そうな顔のルイズに、松下は落ち着き払って答える。
「まあ、高等な使い魔と言っても、志を同じくする友人と言ってもよい。神の遣わしたメシアの代理人だ。
人間は皆同じように見えるが、本人は気付かなくとも様々な本性を持っている。
猫のような人、猿にそっくりな人、牛のような男、蛇のような女という風に。
人間はその本性を掘り下げると、何らかの別の生物とも繋がりがあるものだよ」
「そうかしら……人は皆、ブリミルの子孫とされているのに」
「『東方』ではもはや、そう考えてはいない。猿に似た動物の子孫という説が有力だ。
勿論、ブリミルのような優れたメイジの子孫は、メイジになるだろう。だが、生物の起源系統は皆一つなのだ。
食物を摂取する事で、その遺伝情報……おっと、性質を我が物としているかも知れない。
昔、『東方』のメイジたちは自分の本性を研究し、その本性を極限まで修業して、そのものに成りきった。
本性が蜘蛛だとすれば、蜘蛛と共に生活し、蜘蛛と同じ物を食べ、蜘蛛の巣を張って虫を取るほどに修練する」
「きゃっ」
「そうした術の最も優れた十二人の者が『東方の神童』の下に集い、千年王国を樹立する手助けをするという。
それが『十二使徒』だと伝説にはあるのさ」
ギーシュはモグラ、モンモランシーは蛙。では、松下を呼んだルイズはどうか。
「……じゃあ、ひょっとして私も、何かの動物だったりする? 猫とか」
「さあね、それは自分でないと分からない。前の十二使徒には、召喚した悪魔や、警官や召使い夫婦や幽霊、
自分の父親や同級生の子供まで含めていたからなあ。別に二十四人の長老や14万4千人の選民でもいいのだが。
おお、どれも十二の倍数だな。イスラエルの十二族長が元だからなあ」
「わりといい加減なのね……」
構わず、松下は続ける。
「うむ、ぼくを召喚したきみが第一使徒、忠実なる信者シエスタは第二使徒。
モンモランシーが第三使徒で、ギーシュが第四使徒。ならばキュルケが第五、タバサが第六、マルトー親父は第七か」
「平民でもいいの?」
「人間は皆同じ生き物だ、差別は良くない。この『占い杖』も自分の意思を持つし、第八使徒にしよう。
ミスタ・コルベールを使徒に加えるかは、保留だ。どうも宗教には距離を置くタイプらしいし」
と、その『占い杖』が動き出した。何か危険が迫っているらしい。
「ルイズ! 済まないが、キュルケとタバサを起こしてくれ!
トリスタニアの方角から、何者かがこっちへ来るそうだぞ! 急げ!」
「敵!? なんで、こんなところまで? ていうか、何者よ」
白い霧が、ラグドリアン湖を覆い始めた。
重い風が吹き始め、あちこちに旋風が巻き起こる。冷たい雨も降り出した。
「むむむ、異様な妖気だ。これは、おそらく上位の『悪魔』だぞ!」
「悪魔ですって!?」
森から鳥たちが飛び立ち、獣たちも逃げ惑う。深い霧の彼方から、十騎ほどの馬群が来る。
彼らは生気なき亡者たち。そして、『海洋の公爵』ヴェパールに仕える悪鬼ども。
「おお、水だ! 我が麗しき故郷、水よ!」
女の声がする。彼女は異様な姿の馬から飛び降りると、銀に縁取られたエメラルド色の鱗を持つ人魚となり、
すっと波音も立てずに湖へ飛び込んだ。ウェールズたちは湖畔で待機する。
「今、渡し舟を作るから待ってなさい。湖底から引き上げて来る方が早いかねぇ」
松下とルイズ・キュルケ・タバサは、気配を隠しつつその近くへ向かう。
「……暗くて、よく見えないわ。こんな中を、よく馬で駆けてきたものね」
「ぼくは見える……いや、あの先頭に立つ金髪の男は見覚えがある。あのグリフォンも……。
しかし、あり得ないか? いや、まさか……」
「見えるの? 勿体ぶってないで、教えなさいよマツシタ」
「あれは、アルビオンのウェールズ皇太子だ。乗っているのは、ワルドのグリフォン」
「皇太子さま!? 嘘、だって、あの時……」
「生きていた、いや『生き返らされた』のだろう。アルビオンの支配者となった、クロムウェルによって。
でなければ、ワルドのグリフォンに乗っているはずはない。クロムウェルが盗んだ『アンドバリの指輪』は、
死者に仮初の命を与えると言っていたな。ならば、それだ」
「湖に飛び込んだ女は、強い」
タバサが口を開いた。松下もそれに肯く。
「うむ、あれはこの霧を起こしている『悪魔』だろう。正体は掴めないが、水の中なら『水の精霊』がいる。
……ちょっとヴォジャノーイを呼んでみるか」
松下が湖面に呪文を呟くと、やがてざばりとヴォジャノーイが現れた。
「何か御用ですか、『東方の神童』よ」
「うむ。今、怪しい女が湖に飛び込んだだろう。奴は何者か、分かるかな。
どうも恐ろしい悪魔らしいので、『水の精霊』に伝えてくれ」
「ひえっ、悪魔ですって! この間から災難続きだ! 分かりました、すぐ伝えます!
おお偉大なるストトントノス大王よ、我らを守りたまえ……」
ヴォジャノーイは再び湖底へ去る。しかし、バチュッと水中で何かが爆ぜる音がした。
ぷかりと両断されたヴォジャノーイが浮かんでくる。
「しまった、水中を伝わる音を聞きつけたな! 判断ミスだったか!
皆、岸辺からできるだけ離れろ! 悪魔が襲ってくるぞ!!」
水面が不気味なエメラルド色に輝き、気泡と波紋が広がる。『海洋の公爵』のお出ましだ。
それを合図に、馬群もざわつき出す。グリフォンに乗る皇太子らしき人物も、こっちへ駆けてきた。
「公爵よ、どうした! 伏兵か!」
「あの声は、確かにウェールズ皇太子のようだ。では、なぜここに……」
すると、グリフォンの上に横たわっていた女性も、よろよろと身を起こす。
「眠っていたまえ、きみは大事な人質だ」
皇太子が声をかける。それを見たルイズとキュルケは、あっと声をあげた。
「「あれは、アンリエッタ女王陛下!?」」
(つづく)
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