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「豆粒ほどの小さな使い魔-13」(2007/11/07 (水) 03:41:29) の最新版変更点
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青い髪の女の子が、ガッコウに帰ってきた。どらごんの背中からすべり降りて、よろけて杖で支えてる。
左腕を包帯で吊って、薬の匂いがする。
ああ、これが気になった理由なのか。
私も、小さい頃から怪我はよくしてた。でも、あの子みたいに一人きりみたいな目はしてなかったから。
あの目。冷たいのに、吸い寄せられて、火傷しそう。
笑えたらいいのに。
「おねえさま、あそこ!」
高い声、どらごん? 女の子が長い杖をいきなりこっちに向けた。うそちゃんと隠れてたはずなのにばれた!
走る背中からもの凄い風。草に捉まる暇もなく巻き上げられて、
「……ミス・ヴァリエールの使い魔」
いつまでも地面に落ちない。目を開けたら、宙に浮いたまま、女の子の前に逆さまになって。
これは考えてなかった。ごくりと唾を飲んで。どうしよう。
「ゴメンナサイ」
覗き見してた。今日だけじゃなくて、何度も。
それに、
「いい」
女の子が差し出した手の上に降ろしてくれた。
「見てたのは、知ってた」
怒ってないの?
あ、目の感じが普通に戻ってる。
「シルフィードのこと、黙っててくれたから」
どらごん、しるふぃーども、私と一緒に首をかしげた。
だったら、どうして。
すいと、手をしるふぃーどの顔に近づけてくれた。大きい。近くで見ると本当にそう思う。
「見たければ、近くで見ればいい」
うわ。見るどころか、そのまま背中に乗せてくれた。
ぺたぺたと、撫で回してしまう。呼吸と、生きている熱を感じる。私の剣じゃ傷もつかなそう。
さく
足音に顔を上げたら、女の子がガッコウに向かって、
「ア、アリガトッ」
届いただろうか、多分、ぴくっと反応してくれたから。
だけど、頭がちょっと混乱してて、しるふぃーどにも心配されてしまった。
言いそびれた。
私が見てたのは、いいなって思ったのは、しるふぃーどとあなた、二人なんだって。
* * *
コルベール先生が、古い古い魔法書を見つけてきてくれた。
魔法学院初期に使われていたもので、今の魔法とは若干異なるって。
「コモン魔法に属性が含まれているのは、その方が通常は習得し易いからです」
先生の話を頭の片隅で聞きながら、ひたすら文字を追いかける。
あった。
レビテーション……の、原型。
呪文も長いし、ちっとも洗練されてない。だけど、純粋なコモン魔法だ。
「安定度と持続力は、現行のものと比べてかなり落ちます。それに100%ミス・ヴァリエールが使えると決まったわけではありません」
「ええ、確かに。ですが、やってみる価値は十分です。ありがとうございますミスタ・コルベール」
何度も何度も、声に出して読み返す。
真面目に勉強しててよかった。先生に聞きながらだけど、何とか理解できそう。
「るいず」
「ああハヤテ、見ててね」
立ち上がって、1メイル先の地面に置いたエキュー金貨に向けて杖を構える。
「たとえ爆発しても、私はへこたれやしないわ。これでいいでしょう?」
ハヤテと先生に見守られながら、私は高らかにレビテーションの呪文を唱えた。
失敗した
だけど、ああ、どうしよう、涙が止まらない。
失敗できたのだ!
ごく当たり前の、他のクラスメートと何ら変わらない、ありふれた失敗。
「先生、わたしっ」
「ああ、おめでとう。おめでとうと言うのは変かも知れんが、ディテクト・マジックでちゃんと見ていたよ」
ようやく、スタートラインに立てたのだ。
金貨を浮かせられるまで、どれくらい掛かるだろう。
「ルルルッ オメデト、るいずっ」
ハヤテが、本当に喜んでくれてるのが痛いくらい伝わってくる。そうよね、今日じゃないんだ。
きっと私は、あの日、ハヤテと出合ったあのときにスタートラインに立ったんだ。
「ありがとう」
一人では絶対に諦めてた私の背中を、小さな体で、全身で押してくれる。
これからも私の側にいて。
「レビテーションッ!」
繰り返す失敗。その全部が、一歩ずつ進んで行ってるのを感じる。
「アッ 今!」
ええ、目の錯覚じゃない。確かにぴくりと反応した。興奮が、疲れを一気に吹き飛ばした。杖がこんなに軽く、思った通りに動く。
「いや、まさかこんなに早くコツを掴むとは……」
「当然です、ミスタ・コルベール。何故なら私は――」
芝居めかして杖を振り上る。
「こと失敗については、誰よりも経験を積んでいるんですから!」
ハヤテが歓声を上げた。
ふわふわと、頼りなく揺れながら、でも確かに宙に浮いている金貨。
杖をゆっくりと動かせば、ちゃんとそれにあわせて動く。
この金貨、穴を開けて、鎖を通してペンダントにしよう。
一生の、宝物だ。
結局、その一回で、私の精神力かすっからかんになった。
まだ繰り返し練習しないと、自分のものにできたとは言えない。頬がにやける。
ベッドの上で、磨かれてぴかぴか光る金貨にもう一度キスした。
魔法書には、他にもいくつかのコモン魔法が載っていた。片っ端からマスターしてやろう。
と、そこに水を差すように、ひどくゆったりとした笛の音が響いてきた。
今はそんな気分じゃないからやめてと、そう言おうとしたんだけど、
いつの間にか、聞き入ってた。
初陣前みたいにぴりぴりしてたのが、そのまま、うたた寝しちゃいそうになって。まだ着替えもしてないのに。
笛の音が止まる。
「……ハヤテ?」
私の枕元に飛び降りてきたハヤテに顔を向けると、真面目 哀しそう? それとも心配?
「るいずハ、一人ジャナイカラ。私モイルカラ」
そんなの、当たり前じゃない。
ハヤテもシエスタも、コルベール先生だっているし、それに他のクラスメートだって、人をゼロ呼ばわりしたことをちゃんと謝るなら、許してやらないでもないわ。
「サッキノるいず、少シ怖カッタ」
「怖い? 私が?」
「一人デ、声ノ届カナイトコロニ、イッチャイソウダッタ」
ただちょっと集中してただけ……のはず。だけど、ハヤテの声が本当に震えてたから。
「ごめん。最近、色々なことが立て続けにあったでしょう? だからちょっと舞い上がってたみたい」
半分はまだ納得してない。多分、ハヤテはそういうの見抜く勘が鋭くて、それで私は、半分はハヤテの言うのが正しいんじゃないかと思ってるから、だからちょっと拗ねてる、のかな。よく分かんない。
「アッ」
ハヤテが、びっくりしたみたいな声をあげた。それから、妙に焦った風に、
「なぁに?」
「今ノ、私ガまめいぬ隊ニ入ッタトキト、同ジカモ……ルルルッ!」
え? 何がどうしたの?
いきなりハヤテがぱたっと倒れこんで、足をばたばたとさせ始めた。
うつ伏せになった顔は見えないけど、耳と頬がかなり赤くなって。
「ヤッ 聞カナイデッ」
「何よ、人のこと怖いとか色々言っておいて、それはないでしょう?」
こんなに恥ずかしがってるハヤテは初めてだ。
大体、人の泣き顔とか恥ずかしいところ散々見ておいて、自分だけ隠そうなんて、そうは行かないんだから。
「話してくれるわよね」
しばらくウンウンと唸っていたハヤテだけど、ようやく、コクンと頷いてくれた。
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