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「魅惑の妖精のお約束! ア~~~~ン!!!」
「ニコニコ笑顔の御接待!」
「魅惑の妖精のお約束! ドゥ~~~~ッ!!!」
「ぴかぴか店内清潔に!」
「魅惑の妖精のお約束! トロワ~~~~ッ!!!」
「どさどさチップをもらうべし!」
「トレビアン」
ルイズは従業員の女の子たち一緒に『魅惑の妖精亭』恒例の一日の挨拶を行っていた。
各々の女の子が思い思いの派手な衣装に身を包んでいる。そんな中一際異彩を放つ女の子がいた。
「スカロン店長! 今日も一日頑張ります!」
「ちがうでしょおおおおおおお!」
店長と呼ばれたオカマは腰を左右に激しく振りながら注意した。
「店内では"ミ・マドモワゼル"と呼びなさいと言ってるでしょうがあああああ!!!」
「す、すみません…… ミス・マドモワゼル」
「ミスじゃないわぉ! あたしのことはミ・マドモワゼルと呼びなさぁい!」
「わかりました。ミ・マドモワゼル!」
「トレビアン」
その正体は、ルイズの使い魔であるユリアだ。
ユリアは初々しさと大胆さで客の心をつかみ、瞬く間にチップレースのトップに躍り出たのだ。ルイズはご主人様として嬉しくはあったのだがなんだか複雑な心境だった。
しかし、ユリアがここまで頑張っているのには自分が原因であるということにルイズはまだ気づいていなかった。
元々はルイズとユリアが旅のための資金をカジノで稼ごうとしたところから始まる。
「来てるわ………ユリア、今日の私は来てるわよぉ!!!」
「はい! 5連続的中ってすごいですね! ここまできたらここのカジノを潰しちゃいましょうよ~~!!!」
さらっととんでもないことを言うユリアであったがこのときのルイズはノリにノっていた。ルーレットで賭けてみたらあれよあれよの5連勝。
周りの客も彼女の一挙一動に注目を集めている。二人は絶頂の中にいた。
「さあ、次も当てるわよ? みんな! 今日の私には勝負の天才始祖ブリミルが舞い降りているわ! 私に乗らないと損するわよ!」
ルイズも昂揚としていた。自らが危ない橋を渡っていることに気づかないまま。
「次は赤の10よ!」
ルイズがそう宣言してチップをかけると他の客も争って赤の10に賭けた。
そして運命のルーレットが止まった瞬間、カジノは地獄絵図と化した。
そんなこんなでルイズとユリアは文無しになったところを『魅惑の妖精亭』の店長である、スカロンに雇ってもらったのだ。
はじめは、大衆酒場でも貴族のプライドが邪魔してろくに仕事もできなかったルイズだが、だんだん仕事ができるようになってきた。
ユリアのおかげである。
彼女はここの仕事に驚くほど早く順応し見る見るうちに好成績を勝ち取っていった。
元来真面目で明るい性格で接客上手なのだから当然のことなのかもしれなかった。
はじめ、ユリアもこの仕事を嫌がっていたのだが
スカロン店長にあることを耳打ちされてから俄然やる気を出して、あっという間に店の人気者になった。
「ルイズさんは誰かに褒められて嬉しいとは思いませんか?」
1日目、全く仕事ができなったルイズは不貞腐れて寝る前にユリアに声をかけられた。
「そりゃあまあ……その………でも、私は誇り高いヴァリエール家の三女なのよ! そんな私がこんなことをするなんて………」
「ご主人様」
長らく呼ばれていなかったそれにルイズは思わず目を剥いた。そしてユリアはこう続けた。
「今、この時間だけ私が使い魔でルイズさんがご主人様です。何なりとお申し付けください。
でも、仕事のときは私たちも仲間として助けつつ、競いつつ、一緒に仕事をしていきたいんです。」
「………どうして、そこまで私にここの仕事をさせようとするの?」
「それは………私がルイズさんと一緒になって働いてみたって思ってたからですよ。」
ユリアは満面の笑みで笑った顔をルイズに見せた。
そんなユリアの表情を見てたらこれまでしがみついていた貴族のプライドとかがとてもちっぽけなものに見えた。
それにここまでのことをされてはご主人様としてやる気を出さねばなるまい。
そう思ったルイズも奮起して徐々にではあるが仕事の仕方を覚え客からチップを貰えるようになったのである。
ところでユリアは初めてこの『魅惑の妖精亭』を見たときに
「ひょっとして、ここってキャバクラですか?」と言っていたがキャバクラとは一体どういうところなのだろうか? と少し思ったルイズなのであった。
チップレースとは1週間の間に客からもらったチップの額を競うものである。
このレースに勝利したものは『魅惑の妖精亭』秘蔵のマジックアイテム『魅惑の妖精のビスチェ』を1日だけ自分のものにする事が出来る。
そしてチップレースはルイズ達が働き始めた翌日から始まるものであった。
「これは見るものを『魅了』の魔法にかけちゃうのよ!
これがあったらチップいくらもらえちゃうのかしら? あ~~~ん、もう想像するだけでぞくぞくしちゃう!」
「でも私………」
まだ乗り気でないユリアに対し、スカロンはそっと耳打ちをした。
「ユリアちゃんったら、あんまり乗り気じゃないわね? でもこれがあったら、想い人のハートも一撃でげっちゅできちゃうわよ?」
思わずユリアは生唾を飲んだ。ビスチェを着てルイズに魅了の魔法をかける自分を想像する。
「やります!」
「トレビアン! いい返事よ、ユリアちゃん!」
スカロンはにっこりと微笑んだ。
チップレース最終日
『魅惑の妖精亭』もチップレース最終日を迎え大いに賑わっていた。
そんな中ルイズは接客の仕事を早めに切り上げて、皿洗いの水仕事に専念することにした。
最初は慣れなくて手が荒れるだけだった水仕事も今ではすっかり板に付いたようだ。鼻歌交じりで皿洗いを終えるとルイズはほっと一息をついた。
「まあ私にとってはどうでもいいことだし………別にユリアが1位になろうがならないだろうが別に………」
やはり気になるので客席の様子を見てみると、入り口付近でスカロンと太った男がなにやら押し問答をしていた。
「チュレンヌ様、あいにくただいま満席となっておりまして……」
「私にはそうは見えないが?」
チュレンヌと呼ばれた貴族が店の中に入ってきたとたん、客は皆逃げ出してしまった。彼は一行を引き連れて真ん中の席に腰を下ろした。
「この店の一番人気の娘を連れて来い。」
その横暴な貴族の姿を見て、ルイズは思わず食って掛かろうとするが意を決したユリアが彼にこう答えた。
「私が貴方のお相手をさせていただきます。」
「ふむふむ、じゃあ早くこのコップにお酌を………ってえええ!?」
「男の人のは久しぶりなのでちょっと緊張してるのですが……」
ユリアは素早くチュレンヌのズボンをおろすと出てきたモノを素早く擦り始めた。
『ユリア100式マニュアル
ダッチワイフであるユリア100式の手コキは1秒間に16ピストンなのだ!!』
「はうっ!」
少し擦られただけでぴくぴくと反応するチュレンヌのそれを見てユリアは愕然とした。
「なっ! ひょっとしてあなた………初心者!?」
『ユリア100式マニュアル
ダッチワイフであるユリア100式は童貞であることを瞬時に見抜いてしまうのだ!』
「だって、お金があっても女の子皆逃げちゃうし、お金渡してもお金だけ取られて逃げられちゃうし………」
突如はじめられたユリアの独壇場に周りはざわつきはじめた。更にユリアの攻撃は続く。
「あんたなんか私の手一つでイかせて見せるんだから!」
「何を! そんなことはさせるかっ!」
そういって、チュレンヌは杖に手を伸ばそうとする。しかしユリアの左手にブロックされて杖に触れることすら出来ない。
「がんばれーーー!!! ユリアちゃん、そんな男とっととイかせちゃえーーー!!!」
片や『妖精亭』の女の子達とスカロンがユリアを応援し、
「チュレンヌ様ーーーー!!!! 男の意地を見せてくださーーーーい!!!」
片や男性陣もチュレンヌの応援をし始める。チュレンヌも下腹に力を入れ、ユリアは徐々に手の力を加えていった。
「ぐぐぐぐぐぐ…………」
ルイズは憤りを隠そうともしなかった。
色々と理解できないことばっかりだったのだが、ユリアが太った貴族に対してああいうことをするのかが一番理解できなかった。
「使い魔のくせに………見知らぬ男に対してなんてことをしてるのよ………!」
ルイズはいてもたってもいられなくなって客席に飛び出した。そしてユリアの胸のルーンが光りだす。
「はああああああああ!!!!!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
そして互いの限界まで来た瞬間、チュレンヌのモノから白い液体が大きな放物線を描いて飛んでいった。
「「「「あ」」」」
白い液体はみるみるうちに落下し、真下にいたルイズがそれの被害をこうむる羽目になった。
「……えーと、大丈夫ですかルイズさん?」
ユリアが恐る恐る声をかけるもルイズは何もしゃべろうとはしない。髪からは白い液体がぽたぽたと落ちており、床を濡らしていた。
「いい加減に………」
ルイズは杖を取り出すと怒りのままに乱暴に振り回した。
「しなさぁーーーーーい!!!!!!」
大爆発。ルイズの魔法はチュレンヌならびに男性陣諸々を吹き飛ばし、『魅惑の妖精亭』を青空喫茶に改装させた。
翌日
「全く………チップレースなんて最初からやらなくてもよかったじゃないのよ。」
「あははは…………。」
ユリアとルイズは今日付けで店を去ることにした。
ウエイトレスの女の子達やスカロン店長は二人の別れを惜しんでいたけれどもいつまでもここで働いているわけにはいかない。
結局ユリアとルイズの稼ぎは弁償とかなんやらでほとんどなくなってしまった。
「まあでも、これだけあれば目的地にはなんとかたどり着けそうね。」
「そうですか。よかった~~」
ユリアはほっと安堵した。
ルイズとの二人きりの旅、色々な困難はあるけれどもこれだけは無事に達成したいと強く思っていたからだ。
二人して黙って歩いているとルイズがユリアに話しかけてきた。
「………なんであんなことをしたわけ?」
「それは………あの人には早く事を済ませてもらって帰ってもらいたかったからです。私の住んでいた国にはそういうお店があって…」
「そんなことはどうでもいいの!」
ルイズは足を止めてユリアのほうに顔を向けた。
「私はね、使い魔であるあんたが見知らぬ男に軽々しくそういうことをするのが見ててなんていうかその………むしゃくしゃするのよ!」
ルイズは自分で喋っているうちに頭に血がのぼっていくのを感じた。ルイズは目の前のユリアをぽかぽかと叩き始めた。
「あんたは私の使い魔なんだから、そういうことしちゃだめなの! だめなのよぉ!!」
「でも………」
「でもじゃないわよ! これは絶対なのよ! ご主人様からの命令なのよ!!!」
「ルイズさんを守るために私に出来る事ってこれぐらいしかないし………」
「だーーーーああああああ!!!! それでもだめなの! だめなのよぉ!!」
いつの間にかルイズは泣きながら叩いていた。それに応じてだんだん力が弱まっていくの感じた。
「だって、あんたは私のたった一人の使い魔なのよぉ……
だから私が見ててむしゃくしゃすることはやっちゃだめなんだからぁ………」
ユリアはそんな彼女を何も言わずにじっと抱き寄せていた。ルイズもまた彼女の胸に顔をうずめていた。
「………私、ルイズさんに嫌われるのは嫌です。」
その言葉を聞いて、ルイズははっと顔を上げる。そしてユリアはこう続けた。
「でも、それでルイズさんが死んじゃうのは………もっと嫌です。」
ルイズが見たのは、どんな方法であれ自分を守り抜いてみせると決意したユリアの毅然とした表情であった。
「だからこれからもよろしくお願いしますね、ルイズさん。」
そう言うとユリアはまたいつもの笑顔に戻りルイズの手をとって歩き始めた。
「ちょ、ちょっと! いきなり何するのよ!」
「何って、ルイズさんの手をとって一緒に歩いているんじゃないですか。」
「そういう意味じゃなくて!」
いつもなら無理やり振りほどいてもいいんだけど、今日は特別。なんだかユリアの言うことを聞いてやらないでもない気分。
ルイズはそう思い込むことにしたのである。自分の心の変化とはまだ向き合うことはできずに。
「ユリアちゃん、本当にやめちゃうの? せっかくチップレースに優勝したのに。」
去り際にスカロンが声をかけてくれた。その質問にユリアはゆっくりと首を横に振った。
「いいんです。私には『魅了』の魔法なんて必要ないですから。」
「あらま、はっきりと言っちゃうわね。この前まで血眼になって働いてたのに」
「こんな方法を使ってルイズさんと結ばれちゃったら………多分後悔すると思うんです。よくわかんないんですけど………」
「そう…。じゃあ、行ってきなさい。 女の子同士ってどうかと思ってたけど、あなた達ならいくらでも応援してあげるわよ。」
スカロンはそう言って見送ってくれた。ユリアは深々と店に向かってお辞儀をした。
それにしてもなぜ自分はあそこまで『魅了』の魔法にこだわっていたのだろう。とユリアは思う。
そして、突然気づく。ルイズと一緒に働きたかったのは本当だがそれだけじゃない。もっと何か大きな理由、それは―――
「離れたくない」
思わず口に出してしまったユリアは慌てて手で押さえた。
恐る恐るルイズの方を振り返ってみるとルイズはルイズでなにやら独り言をぶつぶつつぶやいていた。
そんなルイズを見てると急に微笑ましくなって思わず手に力が入ってしまった。
これから先、どうなるかはわからない。だからせめて今だけはこのままで―――
ユリアは胸元のガンダールヴが日に照らされて輝いているように感じた。
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#navi(ユリアゼロ式)
「魅惑の妖精のお約束! ア~~~~ン!!!」
「ニコニコ笑顔の御接待!」
「魅惑の妖精のお約束! ドゥ~~~~ッ!!!」
「ぴかぴか店内清潔に!」
「魅惑の妖精のお約束! トロワ~~~~ッ!!!」
「どさどさチップをもらうべし!」
「トレビアン」
ルイズは従業員の女の子たち一緒に『魅惑の妖精亭』恒例の一日の挨拶を行っていた。
各々の女の子が思い思いの派手な衣装に身を包んでいる。そんな中一際異彩を放つ女の子がいた。
「スカロン店長! 今日も一日頑張ります!」
「ちがうでしょおおおおおおお!」
店長と呼ばれたオカマは腰を左右に激しく振りながら注意した。
「店内では"ミ・マドモワゼル"と呼びなさいと言ってるでしょうがあああああ!!!」
「す、すみません…… ミス・マドモワゼル」
「ミスじゃないわぉ! あたしのことはミ・マドモワゼルと呼びなさぁい!」
「わかりました。ミ・マドモワゼル!」
「トレビアン」
その正体は、ルイズの使い魔であるユリアだ。
ユリアは初々しさと大胆さで客の心をつかみ、瞬く間にチップレースのトップに躍り出たのだ。ルイズはご主人様として嬉しくはあったのだがなんだか複雑な心境だった。
しかし、ユリアがここまで頑張っているのには自分が原因であるということにルイズはまだ気づいていなかった。
元々はルイズとユリアが旅のための資金をカジノで稼ごうとしたところから始まる。
「来てるわ………ユリア、今日の私は来てるわよぉ!!!」
「はい! 5連続的中ってすごいですね! ここまできたらここのカジノを潰しちゃいましょうよ~~!!!」
さらっととんでもないことを言うユリアであったがこのときのルイズはノリにノっていた。ルーレットで賭けてみたらあれよあれよの5連勝。
周りの客も彼女の一挙一動に注目を集めている。二人は絶頂の中にいた。
「さあ、次も当てるわよ? みんな! 今日の私には勝負の天才始祖ブリミルが舞い降りているわ! 私に乗らないと損するわよ!」
ルイズも昂揚としていた。自らが危ない橋を渡っていることに気づかないまま。
「次は赤の10よ!」
ルイズがそう宣言してチップをかけると他の客も争って赤の10に賭けた。
そして運命のルーレットが止まった瞬間、カジノは地獄絵図と化した。
そんなこんなでルイズとユリアは文無しになったところを『魅惑の妖精亭』の店長である、スカロンに雇ってもらったのだ。
はじめは、大衆酒場でも貴族のプライドが邪魔してろくに仕事もできなかったルイズだが、だんだん仕事ができるようになってきた。
ユリアのおかげである。
彼女はここの仕事に驚くほど早く順応し見る見るうちに好成績を勝ち取っていった。
元来真面目で明るい性格で接客上手なのだから当然のことなのかもしれなかった。
はじめ、ユリアもこの仕事を嫌がっていたのだが
スカロン店長にあることを耳打ちされてから俄然やる気を出して、あっという間に店の人気者になった。
「ルイズさんは誰かに褒められて嬉しいとは思いませんか?」
1日目、全く仕事ができなったルイズは不貞腐れて寝る前にユリアに声をかけられた。
「そりゃあまあ……その………でも、私は誇り高いヴァリエール家の三女なのよ! そんな私がこんなことをするなんて………」
「ご主人様」
長らく呼ばれていなかったそれにルイズは思わず目を剥いた。そしてユリアはこう続けた。
「今、この時間だけ私が使い魔でルイズさんがご主人様です。何なりとお申し付けください。
でも、仕事のときは私たちも仲間として助けつつ、競いつつ、一緒に仕事をしていきたいんです。」
「………どうして、そこまで私にここの仕事をさせようとするの?」
「それは………私がルイズさんと一緒になって働いてみたって思ってたからですよ。」
ユリアは満面の笑みで笑った顔をルイズに見せた。
そんなユリアの表情を見てたらこれまでしがみついていた貴族のプライドとかがとてもちっぽけなものに見えた。
それにここまでのことをされてはご主人様としてやる気を出さねばなるまい。
そう思ったルイズも奮起して徐々にではあるが仕事の仕方を覚え客からチップを貰えるようになったのである。
ところでユリアは初めてこの『魅惑の妖精亭』を見たときに
「ひょっとして、ここってキャバクラですか?」と言っていたがキャバクラとは一体どういうところなのだろうか? と少し思ったルイズなのであった。
チップレースとは1週間の間に客からもらったチップの額を競うものである。
このレースに勝利したものは『魅惑の妖精亭』秘蔵のマジックアイテム『魅惑の妖精のビスチェ』を1日だけ自分のものにする事が出来る。
そしてチップレースはルイズ達が働き始めた翌日から始まるものであった。
「これは見るものを『魅了』の魔法にかけちゃうのよ!
これがあったらチップいくらもらえちゃうのかしら? あ~~~ん、もう想像するだけでぞくぞくしちゃう!」
「でも私………」
まだ乗り気でないユリアに対し、スカロンはそっと耳打ちをした。
「ユリアちゃんったら、あんまり乗り気じゃないわね? でもこれがあったら、想い人のハートも一撃でげっちゅできちゃうわよ?」
思わずユリアは生唾を飲んだ。ビスチェを着てルイズに魅了の魔法をかける自分を想像する。
「やります!」
「トレビアン! いい返事よ、ユリアちゃん!」
スカロンはにっこりと微笑んだ。
チップレース最終日
『魅惑の妖精亭』もチップレース最終日を迎え大いに賑わっていた。
そんな中ルイズは接客の仕事を早めに切り上げて、皿洗いの水仕事に専念することにした。
最初は慣れなくて手が荒れるだけだった水仕事も今ではすっかり板に付いたようだ。鼻歌交じりで皿洗いを終えるとルイズはほっと一息をついた。
「まあ私にとってはどうでもいいことだし………別にユリアが1位になろうがならないだろうが別に………」
やはり気になるので客席の様子を見てみると、入り口付近でスカロンと太った男がなにやら押し問答をしていた。
「チュレンヌ様、あいにくただいま満席となっておりまして……」
「私にはそうは見えないが?」
チュレンヌと呼ばれた貴族が店の中に入ってきたとたん、客は皆逃げ出してしまった。彼は一行を引き連れて真ん中の席に腰を下ろした。
「この店の一番人気の娘を連れて来い。」
その横暴な貴族の姿を見て、ルイズは思わず食って掛かろうとするが意を決したユリアが彼にこう答えた。
「私が貴方のお相手をさせていただきます。」
「ふむふむ、じゃあ早くこのコップにお酌を………ってえええ!?」
「男の人のは久しぶりなのでちょっと緊張してるのですが……」
ユリアは素早くチュレンヌのズボンをおろすと出てきたモノを素早く擦り始めた。
『ユリア100式マニュアル
ダッチワイフであるユリア100式の手コキは1秒間に16ピストンなのだ!!』
「はうっ!」
少し擦られただけでぴくぴくと反応するチュレンヌのそれを見てユリアは愕然とした。
「なっ! ひょっとしてあなた………初心者!?」
『ユリア100式マニュアル
ダッチワイフであるユリア100式は童貞であることを瞬時に見抜いてしまうのだ!』
「だって、お金があっても女の子皆逃げちゃうし、お金渡してもお金だけ取られて逃げられちゃうし………」
突如はじめられたユリアの独壇場に周りはざわつきはじめた。更にユリアの攻撃は続く。
「あんたなんか私の手一つでイかせて見せるんだから!」
「何を! そんなことはさせるかっ!」
そういって、チュレンヌは杖に手を伸ばそうとする。しかしユリアの左手にブロックされて杖に触れることすら出来ない。
「がんばれーーー!!! ユリアちゃん、そんな男とっととイかせちゃえーーー!!!」
片や『妖精亭』の女の子達とスカロンがユリアを応援し、
「チュレンヌ様ーーーー!!!! 男の意地を見せてくださーーーーい!!!」
片や男性陣もチュレンヌの応援をし始める。チュレンヌも下腹に力を入れ、ユリアは徐々に手の力を加えていった。
「ぐぐぐぐぐぐ…………」
ルイズは憤りを隠そうともしなかった。
色々と理解できないことばっかりだったのだが、ユリアが太った貴族に対してああいうことをするのかが一番理解できなかった。
「使い魔のくせに………見知らぬ男に対してなんてことをしてるのよ………!」
ルイズはいてもたってもいられなくなって客席に飛び出した。そしてユリアの胸のルーンが光りだす。
「はああああああああ!!!!!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
そして互いの限界まで来た瞬間、チュレンヌのモノから白い液体が大きな放物線を描いて飛んでいった。
「「「「あ」」」」
白い液体はみるみるうちに落下し、真下にいたルイズがそれの被害をこうむる羽目になった。
「……えーと、大丈夫ですかルイズさん?」
ユリアが恐る恐る声をかけるもルイズは何もしゃべろうとはしない。髪からは白い液体がぽたぽたと落ちており、床を濡らしていた。
「いい加減に………」
ルイズは杖を取り出すと怒りのままに乱暴に振り回した。
「しなさぁーーーーーい!!!!!!」
大爆発。ルイズの魔法はチュレンヌならびに男性陣諸々を吹き飛ばし、『魅惑の妖精亭』を青空喫茶に改装させた。
翌日
「全く………チップレースなんて最初からやらなくてもよかったじゃないのよ。」
「あははは…………。」
ユリアとルイズは今日付けで店を去ることにした。
ウエイトレスの女の子達やスカロン店長は二人の別れを惜しんでいたけれどもいつまでもここで働いているわけにはいかない。
結局ユリアとルイズの稼ぎは弁償とかなんやらでほとんどなくなってしまった。
「まあでも、これだけあれば目的地にはなんとかたどり着けそうね。」
「そうですか。よかった~~」
ユリアはほっと安堵した。
ルイズとの二人きりの旅、色々な困難はあるけれどもこれだけは無事に達成したいと強く思っていたからだ。
二人して黙って歩いているとルイズがユリアに話しかけてきた。
「………なんであんなことをしたわけ?」
「それは………あの人には早く事を済ませてもらって帰ってもらいたかったからです。私の住んでいた国にはそういうお店があって…」
「そんなことはどうでもいいの!」
ルイズは足を止めてユリアのほうに顔を向けた。
「私はね、使い魔であるあんたが見知らぬ男に軽々しくそういうことをするのが見ててなんていうかその………むしゃくしゃするのよ!」
ルイズは自分で喋っているうちに頭に血がのぼっていくのを感じた。ルイズは目の前のユリアをぽかぽかと叩き始めた。
「あんたは私の使い魔なんだから、そういうことしちゃだめなの! だめなのよぉ!!」
「でも………」
「でもじゃないわよ! これは絶対なのよ! ご主人様からの命令なのよ!!!」
「ルイズさんを守るために私に出来る事ってこれぐらいしかないし………」
「だーーーーああああああ!!!! それでもだめなの! だめなのよぉ!!」
いつの間にかルイズは泣きながら叩いていた。それに応じてだんだん力が弱まっていくの感じた。
「だって、あんたは私のたった一人の使い魔なのよぉ……
だから私が見ててむしゃくしゃすることはやっちゃだめなんだからぁ………」
ユリアはそんな彼女を何も言わずにじっと抱き寄せていた。ルイズもまた彼女の胸に顔をうずめていた。
「………私、ルイズさんに嫌われるのは嫌です。」
その言葉を聞いて、ルイズははっと顔を上げる。そしてユリアはこう続けた。
「でも、それでルイズさんが死んじゃうのは………もっと嫌です。」
ルイズが見たのは、どんな方法であれ自分を守り抜いてみせると決意したユリアの毅然とした表情であった。
「だからこれからもよろしくお願いしますね、ルイズさん。」
そう言うとユリアはまたいつもの笑顔に戻りルイズの手をとって歩き始めた。
「ちょ、ちょっと! いきなり何するのよ!」
「何って、ルイズさんの手をとって一緒に歩いているんじゃないですか。」
「そういう意味じゃなくて!」
いつもなら無理やり振りほどいてもいいんだけど、今日は特別。なんだかユリアの言うことを聞いてやらないでもない気分。
ルイズはそう思い込むことにしたのである。自分の心の変化とはまだ向き合うことはできずに。
「ユリアちゃん、本当にやめちゃうの? せっかくチップレースに優勝したのに。」
去り際にスカロンが声をかけてくれた。その質問にユリアはゆっくりと首を横に振った。
「いいんです。私には『魅了』の魔法なんて必要ないですから。」
「あらま、はっきりと言っちゃうわね。この前まで血眼になって働いてたのに」
「こんな方法を使ってルイズさんと結ばれちゃったら………多分後悔すると思うんです。よくわかんないんですけど………」
「そう…。じゃあ、行ってきなさい。 女の子同士ってどうかと思ってたけど、あなた達ならいくらでも応援してあげるわよ。」
スカロンはそう言って見送ってくれた。ユリアは深々と店に向かってお辞儀をした。
それにしてもなぜ自分はあそこまで『魅了』の魔法にこだわっていたのだろう。とユリアは思う。
そして、突然気づく。ルイズと一緒に働きたかったのは本当だがそれだけじゃない。もっと何か大きな理由、それは―――
「離れたくない」
思わず口に出してしまったユリアは慌てて手で押さえた。
恐る恐るルイズの方を振り返ってみるとルイズはルイズでなにやら独り言をぶつぶつつぶやいていた。
そんなルイズを見てると急に微笑ましくなって思わず手に力が入ってしまった。
これから先、どうなるかはわからない。だからせめて今だけはこのままで―――
ユリアは胸元のガンダールヴが日に照らされて輝いているように感じた。
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