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「ゼロのぽややん ~エピローグ~」(2007/11/05 (月) 13:12:33) の最新版変更点
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アルヴィーズの食堂の上の階が、大きなホールになっている。舞踏会はそこで行なわれていた。
着飾った生徒や教師たちが、思い思いのテーブルで豪華な料理を肴に、歓談している。
「飲もう、大いに飲もうではないかコルベール君!」
「あなたがセクハラしすぎたせいでしょうが!」
「え~、そりゃちょっとは羽目を外し過ぎたかなとは思うが……ま、しょうがないよね」
「しょうがない、じゃないでしょう!! そこで開き直らないでください……ああ、ミス・ロングビルぅぅぅ」
「ええい、私だって悲しいんじゃ。飲まなきゃやっとられんわい!」
なにやらパーティーの雰囲気にそぐわない人間が二人ほどいたが、華やかな雑音が全てを飲み込んでいった。
それぞれが満喫している中、ホールの壮麗な扉が開き、本日の主役である三人が姿を現す。
門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズ、キュルケ、タバサの到着を告げた。
早速、ある者は武勇伝を聞くために、またある者はダンスに誘うために、彼女たちの周りに群がる。
とくに、あのフーケを撃退したという事で、注目株になったルイズに、今まで散々ゼロだなんだと馬鹿にしていた男たちが、群がる群がる。
最初は、生まれて初めての事態に多少興奮気味だったルイズだが、辺りを見回し、アオの姿がないことを確認して、落胆したように肩を落とした。
今朝から、一度も彼の姿を見ていないのだ。
キュルケも、アオを探していたが、男たちに囲まれるとそちらの相手に大忙しとなる。
ドレスの裾を引っ張られ、ルイズが振り向くと、口をもごもごと動かしているタバサがいた。いつの間にか、大量の料理を盛った大皿を手にしている。
タバサは口の中の物を飲み込むと、短く尋ねる。
「彼は?」
「知らないわ。私が聞きたいくらいよ」
「……そう」
じっとルイズの顔を見た後、タバサは踵を返して、テーブルの料理と格闘を開始した。
近寄りがたい雰囲気のためか、彼女の周りには人が集まらない。
呆れたようにその様子を見ていたルイズだったが、その先にシエスタの姿を見つけ、なんとか人垣を押しのけながら、彼女に近づいた。
「ねえ、ちょっと、シエスタ」
「これはこれは、ミス・ヴァリエール。なにか御用で?」
シエスタがスカートの裾を持ち上げながら、首をかしげる。
「あんた、アオがどこにいるか知らない?」
「アオさん?」
シエスタの片眉がぴくりと動く。
それに気づかず、ルイズが言葉を続ける。
「そう、わたしの使い魔。またあんたたちの手伝いをして」
「知りません!」
突然、不機嫌になったシエスタは、ルイズの言葉を遮ると、そのまま足早に去っていった。
「な、なんなのよ」
そのあまりの剣幕に、呆然と見送るルイズ。
その隙に、追いついた男たちに再び囲まれてしまう。
一体どこにいるのよ、あいつは!!
ルイズは心の中で悪態をつきながら、愛想笑いを浮かべつつ、しつこく口説こうとする男たちをあしらう。
そんな彼女の瞳に、バルコニー越しの空が映った。
そこに誘うように淡く輝く、青い光を。
「…五百九十九、六百」
アオは、自身が召喚された時の広場、そこに生える木の、枝を使って懸垂をしていた。
「よう、相棒……いいのかよ、舞踏会に行かないでさ」
木に立てかけられた抜き身のデルフリンガーが、遠慮がちに言った。
枝から手を離して地面に降り立つと、アオはそのまま、草むらに寝転がる。
息が荒い。
「は、はは、情けない。この程度で息があがるなんて」
深呼吸して呼吸を整えると、ものの数秒で、平時のそれに戻る。
「なあ」
「デルフ、君ならわかっているんだろ。僕に、ああいった所は、似つかわしくないって」
「まあ、な」
そのまま、デルフは押し黙る。
アオは瞬きし、今更この喋る剣が自分を心配していることに気がついた。
「デルフ」
「あん?」
「ありがと」
「……おでれーた。礼を言う使い手なんざ、初めてだ」
デルフは、『おでれーた、おでれーた』と繰り返した後、溜め込んでいた思いを口にした。
「でもよ、相棒。なんだってまたこんな事を始めたんだ?」
「こんな事って、訓練の事? ……僕が弱いからさ」
「弱いだって!?」
なんの冗談かと、デルフは思った。
「ああ、僕は弱い。いや、弱くなった。昨日はそれを、とくに痛感したよ。あの不様、鈍っているなんてもんじゃなかった」
そう言うとアオは、自分に唾を吐きたくなる気分に顔をしかめる。
本人が強くなろうとしているのだ。わざわざそれに、水をさす必要はない。
だが、それでも、デルフは言わずにいられなかった。
「なあ、相棒。気を悪くしないで聞いてくれ。お前さん……心が死んでないか」
アオは答えず、目を閉じた。デルフは言葉を続ける。
「お前さんは、笑うし、泣くし、怒りもする。けどな、全部薄っぺらいんだ。芯はまるで震えちゃいねえ」
だからこいつは、人の枠を超える強さなのに、歴代の使い手で最弱だ。
勿体ねえ。
「……すごいね、デルフは。うん、そうだね、そうかもしれない。僕はあの時、あの娘が死んだ時に、死んでいるんだろうな。自分ではわからないけどね」
そう語っているときでさえ、アオの内面は、寒気を覚えるほどに静かだった。
それがデルフに、握られてなくも伝わってくる。
勿体ねえ、本当に勿体ねえ。
だからだろうか、ぽろっと言ってしまった。
「元の世界に帰りたいとか、思わないのか?」
「帰り、たいの?」
それに答えたのは、アオではなかった。
「げ、娘ッ子」
デルフがルイズに気づき、『おお、馬子にも衣装じゃねか』と、慌てて取り繕う。
ルイズはそれを完全に無視して、泣きそうな顔で、アオを見ている。
アオはゆっくりと目を開けると、上体を起こして、ルイズを見上げた。
「やあ、ルイズ。そんな顔をしていたら、せっかくの衣装が台無しだよ」
「誤魔化さないで」
涙でにじむ鳶色の瞳に、アオは、自分の姿を見た。立ち上がると、ルイズを正面から見据え、優しく微笑む。
「僕は、君の使い魔だ。それが答えだよ」
ルイズに、そして、瞳に移る自分に言い聞かせるように、迷いなく答える。
それは、宣言であり、誓約だった。
「そうね、そうよね。あんたは、わたしの使い魔なんだもんね!」
ようやく、ルイズに笑顔が戻る。
「舞踏会はどうしたの?」
「相手がいないのよ。つまんないから、抜け出しちゃった」
「それは、……ここの男たちには、見る目がないね」
ルイズは顔を赤らめると、すっと手を差し伸べた。
「ねえ、踊ってくださらない。せっかくこんな格好なんだもの、踊らないのはもったいなくて」
アオは困ったように、その手を取ることを躊躇する。
「せっかくのお誘いはうれしいけど、ダンスなんてしたことないんだ」
「もう」
強引に、アオの手を取る。
「いいじゃない下手でも。どうせ見ているのは、あの月と、そこの駄剣ぐらいよ」
そう言って、軽やかに歌いながら踊りだす。
アオは諦めたように首を振ると、ぎこちなくだが、ルイズに合せて踊りだした。
「ねえ」
「なんだい」
「なにをしていたの?」
「鍛えていたんだ、僕は弱いからね」
「ドラゴンになるために?」
アオはちょっと驚いた顔をすると、すぐに嬉しそうに笑った。
「はは。まだまだ、ただのトカゲだけどね」
ルイズは少し俯いた。
だが次には、思い切ったように顔を上げ、言ったのだった。
「なら、私もなるわ! ねえ、二人でなりましょうよ。でかくて飛んで火を吹くやつに!」
二つの月の月明かりに照らされ、二人だけの舞踏会は続く。
そんな様子を眺めていたデルフがこそっと呟いた。
「おでれーた! 主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんざ初めて見たぜ!」
そして思うのだった。
ほんの僅かだが、たしかに使い手の心が震えた時があったのだ。
そこにはあの、小さな主人の存在があった。
「なあ、相棒。おめえが、この世界に呼ばれたのは、
救いなのかもしれねえな」
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アルヴィーズの食堂の上の階が、大きなホールになっている。舞踏会はそこで行なわれていた。
着飾った生徒や教師たちが、思い思いのテーブルで豪華な料理を肴に、歓談している。
「飲もう、大いに飲もうではないかコルベール君!」
「あなたがセクハラしすぎたせいでしょうが!」
「え~、そりゃちょっとは羽目を外し過ぎたかなとは思うが……ま、しょうがないよね」
「しょうがない、じゃないでしょう!! そこで開き直らないでください……ああ、ミス・ロングビルぅぅぅ」
「ええい、私だって悲しいんじゃ。飲まなきゃやっとられんわい!」
なにやらパーティーの雰囲気にそぐわない人間が二人ほどいたが、華やかな雑音が全てを飲み込んでいった。
それぞれが満喫している中、ホールの壮麗な扉が開き、本日の主役である三人が姿を現す。
門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズ、キュルケ、タバサの到着を告げた。
早速、ある者は武勇伝を聞くために、またある者はダンスに誘うために、彼女たちの周りに群がる。
とくに、あのフーケを撃退したという事で、注目株になったルイズに、今まで散々ゼロだなんだと馬鹿にしていた男たちが、群がる群がる。
最初は、生まれて初めての事態に多少興奮気味だったルイズだが、辺りを見回し、アオの姿がないことを確認して、落胆したように肩を落とした。
今朝から、一度も彼の姿を見ていないのだ。
キュルケも、アオを探していたが、男たちに囲まれるとそちらの相手に大忙しとなる。
ドレスの裾を引っ張られ、ルイズが振り向くと、口をもごもごと動かしているタバサがいた。いつの間にか、大量の料理を盛った大皿を手にしている。
タバサは口の中の物を飲み込むと、短く尋ねる。
「彼は?」
「知らないわ。私が聞きたいくらいよ」
「……そう」
じっとルイズの顔を見た後、タバサは踵を返して、テーブルの料理と格闘を開始した。
近寄りがたい雰囲気のためか、彼女の周りには人が集まらない。
呆れたようにその様子を見ていたルイズだったが、その先にシエスタの姿を見つけ、なんとか人垣を押しのけながら、彼女に近づいた。
「ねえ、ちょっと、シエスタ」
「これはこれは、ミス・ヴァリエール。なにか御用で?」
シエスタがスカートの裾を持ち上げながら、首をかしげる。
「あんた、アオがどこにいるか知らない?」
「アオさん?」
シエスタの片眉がぴくりと動く。
それに気づかず、ルイズが言葉を続ける。
「そう、わたしの使い魔。またあんたたちの手伝いをして」
「知りません!」
突然、不機嫌になったシエスタは、ルイズの言葉を遮ると、そのまま足早に去っていった。
「な、なんなのよ」
そのあまりの剣幕に、呆然と見送るルイズ。
その隙に、追いついた男たちに再び囲まれてしまう。
一体どこにいるのよ、あいつは!!
ルイズは心の中で悪態をつきながら、愛想笑いを浮かべつつ、しつこく口説こうとする男たちをあしらう。
そんな彼女の瞳に、バルコニー越しの空が映った。
そこに誘うように淡く輝く、青い光を。
「…五百九十九、六百」
アオは、自身が召喚された時の広場、そこに生える木の、枝を使って懸垂をしていた。
「よう、相棒……いいのかよ、舞踏会に行かないでさ」
木に立てかけられた抜き身のデルフリンガーが、遠慮がちに言った。
枝から手を離して地面に降り立つと、アオはそのまま、草むらに寝転がる。
息が荒い。
「は、はは、情けない。この程度で息があがるなんて」
深呼吸して呼吸を整えると、ものの数秒で、平時のそれに戻る。
「なあ」
「デルフ、君ならわかっているんだろ。僕に、ああいった所は、似つかわしくないって」
「まあ、な」
そのまま、デルフは押し黙る。
アオは瞬きし、今更この喋る剣が自分を心配していることに気がついた。
「デルフ」
「あん?」
「ありがと」
「……おでれーた。礼を言う使い手なんざ、初めてだ」
デルフは、『おでれーた、おでれーた』と繰り返した後、溜め込んでいた思いを口にした。
「でもよ、相棒。なんだってまたこんな事を始めたんだ?」
「こんな事って、訓練の事? ……僕が弱いからさ」
「弱いだって!?」
なんの冗談かと、デルフは思った。
「ああ、僕は弱い。いや、弱くなった。昨日はそれを、とくに痛感したよ。あの不様、鈍っているなんてもんじゃなかった」
そう言うとアオは、自分に唾を吐きたくなる気分に顔をしかめる。
本人が強くなろうとしているのだ。わざわざそれに、水をさす必要はない。
だが、それでも、デルフは言わずにいられなかった。
「なあ、相棒。気を悪くしないで聞いてくれ。お前さん……心が死んでないか」
アオは答えず、目を閉じた。デルフは言葉を続ける。
「お前さんは、笑うし、泣くし、怒りもする。けどな、全部薄っぺらいんだ。芯はまるで震えちゃいねえ」
だからこいつは、人の枠を超える強さなのに、歴代の使い手で最弱だ。
勿体ねえ。
「……すごいね、デルフは。うん、そうだね、そうかもしれない。僕はあの時、あの娘が死んだ時に、死んでいるんだろうな。自分ではわからないけどね」
そう語っているときでさえ、アオの内面は、寒気を覚えるほどに静かだった。
それがデルフに、握られてなくも伝わってくる。
勿体ねえ、本当に勿体ねえ。
だからだろうか、ぽろっと言ってしまった。
「元の世界に帰りたいとか、思わないのか?」
「帰り、たいの?」
それに答えたのは、アオではなかった。
「げ、娘ッ子」
デルフがルイズに気づき、『おお、馬子にも衣装じゃねか』と、慌てて取り繕う。
ルイズはそれを完全に無視して、泣きそうな顔で、アオを見ている。
アオはゆっくりと目を開けると、上体を起こして、ルイズを見上げた。
「やあ、ルイズ。そんな顔をしていたら、せっかくの衣装が台無しだよ」
「誤魔化さないで」
涙でにじむ鳶色の瞳に、アオは、自分の姿を見た。立ち上がると、ルイズを正面から見据え、優しく微笑む。
「僕は、君の使い魔だ。それが答えだよ」
ルイズに、そして、瞳に移る自分に言い聞かせるように、迷いなく答える。
それは、宣言であり、誓約だった。
「そうね、そうよね。あんたは、わたしの使い魔なんだもんね!」
ようやく、ルイズに笑顔が戻る。
「舞踏会はどうしたの?」
「相手がいないのよ。つまんないから、抜け出しちゃった」
「それは、……ここの男たちには、見る目がないね」
ルイズは顔を赤らめると、すっと手を差し伸べた。
「ねえ、踊ってくださらない。せっかくこんな格好なんだもの、踊らないのはもったいなくて」
アオは困ったように、その手を取ることを躊躇する。
「せっかくのお誘いはうれしいけど、ダンスなんてしたことないんだ」
「もう」
強引に、アオの手を取る。
「いいじゃない下手でも。どうせ見ているのは、あの月と、そこの駄剣ぐらいよ」
そう言って、軽やかに歌いながら踊りだす。
アオは諦めたように首を振ると、ぎこちなくだが、ルイズに合せて踊りだした。
「ねえ」
「なんだい」
「なにをしていたの?」
「鍛えていたんだ、僕は弱いからね」
「ドラゴンになるために?」
アオはちょっと驚いた顔をすると、すぐに嬉しそうに笑った。
「はは。まだまだ、ただのトカゲだけどね」
ルイズは少し俯いた。
だが次には、思い切ったように顔を上げ、言ったのだった。
「なら、私もなるわ! ねえ、二人でなりましょうよ。でかくて飛んで火を吹くやつに!」
二つの月の月明かりに照らされ、二人だけの舞踏会は続く。
そんな様子を眺めていたデルフがこそっと呟いた。
「おでれーた! 主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんざ初めて見たぜ!」
そして思うのだった。
ほんの僅かだが、たしかに使い手の心が震えた時があったのだ。
そこにはあの、小さな主人の存在があった。
「なあ、相棒。おめえが、この世界に呼ばれたのは、
救いなのかもしれねえな」
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