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#navi(ゼロの使い魔人)
――鼓膜をつつき回す電子音が、沈み込んでいた彼の意識を『現実』へ引き揚げる。
(う……)
ぼやけた目を一、二度しばたたかせた龍麻は、更に指で軽く瞼の上から揉んで視界をはっきりさせる。
「…俺は、――そうだったな」
回転を始めた脳細胞が、彼自身が置かれた状況を余す所無く伝えて来る。
龍麻はその事実に一つ溜め息を付くと、腕時計のアラームを止め、その場で上体を伸ばした。
被っていた毛布を畳んで側に置くと、ブーツの紐を締め直し、相棒たる黄龍甲を腕に着け、立ち上がるとおもむろに部屋を見回した。
――十二畳程の室内。机に本棚、来客用の椅子と小テーブルやクローゼット、天蓋付きのベッド…。
そのどれもが、手の込んだ細工と意匠が施された、上質な代物であるのは一目で解る。
そして…寝台で穏やかな寝息を上げている、龍麻にとっての疫病神といえる、部屋の主たる少女。
…時刻は5:30過ぎ。以前なら中距離走を始め、瞑想も含めた体力、技倆維持の各鍛錬に当る時間なのだが――
「――洗濯しろとか言ってたな。場所は…、適当に誰か捕まえて聞くか」
床に散らばった服と自前の洗面具を手に、龍麻は静かに部屋を出た。
廊下を通り、階段を降りた所で、視界の端に人影を見つけ龍麻は足を止めた。
「…ん?」
即座に後を追いかけ、視線の先…10m程前を歩く後ろ姿を確認する。
――肩で切り揃えた黒髪に、エプロン姿の少女である。両手に抱えた籠には、洗濯物らしき一杯の荷物。
渡りに船とばかりに、声を掛ける龍麻。
「待ってくれ。忙しそうな所を悪いが、少し聞きたい事があるんだが」
「はい?」
すぐに立ち止まり、こちらへと振り向いた少女に龍麻は歩み寄る。
「――どなたですか?」
「色々あってな、昨日から此処で厄介になる事になった者なんだが」
それを聞いた少女の顔に、何か閃いたかの様な色が浮かぶ。
「――もしかして、あなたミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「前に、やむにやまれずが付くけどな。…知っているのか?」
「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますから」
「そりゃまた…」
悪名なんとやら、かと内心ぼやく龍麻。
「それで、何かご用件でも?」
「ああ、洗濯をしろとか言い付かったんだが、それに使う道具やら場所がわからなくてな。出来たら、教えて欲しいんだが」
「それでしたら、私の後に付いて来て下さい。私もこれから洗濯を始める所ですから」
「そうか。なら宜しく頼む」
「はい」
笑みを浮かべつつ、頷いた少女は踵を返し歩き出すと、龍麻もそれに続く。
「――っと、まだ名乗ってなかったな。俺は緋勇龍麻。緋勇が姓で、龍麻が名前だ。宜しくな」
「変わったお名前ですね……。私はシエスタといいます。あなたと同じ平民で、貴族の方々を
お世話する為に、ここでご奉公させて頂いてるんです」
「そうなのか」
それで会話は終わり、建物の裏手に置かれた、洗い場に案内される。
井戸から汲み上げた水を洗濯桶に張り、洗濯板と石鹸で汚れを落としに掛かる。
そういった作業をシエスタを始めとする大勢の使用人達と共に、黙々とこなし終わりが
見えかけた頃には、結構な時間が経過っていた。
後片付けも含め、一切を終わらせた所で、ルイズの居室へ戻る。
「入るぞ。起きてるか?」
ノックをし、呼び掛けるを何度か繰り返すも反応は無く、中へと入れば、当の部屋主は龍麻が起き出した頃と変わらず惰眠を貪っていた。
「……。ぐうたらしてないで、さっさと起きろ」
肩を掴んで強く揺すりつつ、(抑えた)声を掛ける。
「もう、なによ…。朝からうるさいわねぇ……」
「うるさいも何も、起きる時間だ。遅刻したいのか?」
「はえ? それはこま…って、誰よあんたは!?」
と、半ば寝ぼけた顔と声で叫ぶルイズに、ジト目を向ける龍麻。
「誰も何も、アンタに召喚ばれたばかりに人生棒に振った、不運な男だ」
「ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」
……そこから着替えに関する意見と認識の相違で、両者はまたも舌鋒を交えたが、
ともあれ、着替え終えたルイズと龍麻が部屋を出た所で、隣室のドアが開いた。
――鮮やかな赤髪と彫りの深い顔立ちに長身、褐色の肌と恵まれたスタイルが特徴的な若い女性である。
服装はルイズと同じ…つまりは貴族であり、この学院で学ぶ魔術師であろう…と、龍麻は見て取る。
「おはよう、ルイズ」
「おはよう、キュルケ」
前者は愉快そうな笑みを見せつつ、後者は露骨といっていい嫌悪を込めての挨拶である。
「あなたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
龍麻を指差し、ルイズの返事を聞くや、遠慮もなにも無い笑声を廊下に響かせる。
「ほんとに人間なのね! 凄いじゃない!」
(まるきり珍獣扱…否、晒し者だな、こりゃ…)
「『サモン・サーヴァント』で、平民喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」
「うるさいわね」
最後の一言に、只でさえ不愉快そうなルイズの顔に、更に皺が寄るのを龍麻は見た。
「あたしも昨日、召喚に成功したのよ。どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。来なさい、フレイム」
との、キュルケの自慢気な声に合わせたかの様に、室内から這い出したのは…。
「――只のでかいトカゲ…、な訳無いか」
コモドドラゴン以上の体躯を持ち、それ自体が炎の塊で出来ている尻尾に、口腔の端からも時折、炎が洩れ出している。
(流石にあの旧校舎地下や天香遺跡でも、こんな奴は棲息でなかったな……)
「これって、サラマンダー?」
凝視する龍麻を余所に、ルイズが悔しそうに聞くや、そうよー、火トカゲよー、と、ひとしきりキュルケがその火
トカゲの出自や価値を自慢し、そこからやり取りを重ねる度に、ルイズの表情と声はますます不機嫌さを増す。
と、不意にキュルケは龍麻へと視線を向けた。
「あなた、お名前は?」
「緋勇龍麻だ」
「ヒユウタツマ? ヘンな名前」
予想通りの答えに、小さく肩を竦めてみせる龍麻。
ここに居る間、際限無く掛けられるだろう台詞に、逐一反応するだけ精神エネルギーの無駄である。
「じゃあ、お先に失礼」
そう言ったキュルケは外套を翻し、颯爽たる足取りでフレイムを引き連れ、部屋を後にする。
その姿が廊下の向こうに消えると、ルイズは憤懣やるかた無しな顔で叫ぶ。
「悔しー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」
「………」
無言を保つ龍麻だが、ルイズの癇癪は治まらない。
「あんたは知らないだろうけどね、メイジの実力を測るには、使い魔を見ろって言われているぐらいよ!
なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしがあんたなのよ!」
「そりゃお互い様だ。しかしな、召喚のやり直しが出来ん現状、今居る奴が人間だろうが何だろうが、
そいつと組むしかないだろう。無い物ねだりしても、仕方無い」
「メイジや幻獣と平民じゃ、狼と駄犬程の違いがあるのよ」
ルイズは憮然たる表情で言い捨てる。
「駄犬呼ばわりかよ。…そういや、さっきゼロのルイズとか言われてたが、何か曰くでもあるのか?」
「ただの渾名よ。…あんたは知らなくていい事だわ」
ルイズはバツが悪そうに言う。
「そうか。忘れろっていうなら、忘れるさ。ゼロだなんだの、俺にはどうでもいい事だしな」
深く突っ込まない方がよし、と見て取った龍麻は、その単語を意識の隅へと放逐する。
「ほら、食事に行くわよ。さっさと付いて来なさい!」
「了解」
――龍麻を引き連れたルイズは、学院の敷地内で一際大きい本塔の中に作られた、『アルヴィーズの食堂』へと入った。
ルイズが道々、説明する所によると、総ての学院生と教師陣は此所で食事を取るのであり、
又、『貴族は魔法をもってしてその精神と為す』をモットーに、魔法に止どまらず、貴族としての
教養や儀礼作法等も学ぶ…と、いった事を龍麻に語る。
「わかった? ホントならあんたみたいな平民は、この『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」
「別段、入れなくとも一向に構わんけどな。食うだけならどこも同じだ」
「そう。なら次からは外で食べなさい。使用人達にはそう伝えておくわ。――ほら、椅子を引いて頂戴。
気の利かない使い魔ね」
「そいつは失礼。……で、俺の分はどこにある?」
既にテーブルに並べられ、湯気と芳香を立ち昇らせる質と量を満たした料理の群れに目もくれず龍麻が尋ねると、
着席したルイズは、無造作に床を指す。
「あんたのはそこ。何を騒いでも、それ以外は出ないし出さないから」
床に置かれた皿には、黒パン半切れと薄いスープが一皿だけである。
「……やれやれ」
口にしたのはそれだけで、龍麻は床に胡座を掻く。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今日も…」
と、室内に祈りの声が響く中、龍麻は龍麻で…
(予め、マトモなモノなぞ出ないと予想はしてたが、残飯で無いだけマシか。…しかし、
『コレ』が続く様なら、外で現地調達でもして、食い扶持は自力で確保すべきだな……)
祈りを済まして食事を始める生徒達だが、龍麻もさして時間を掛けず空にした皿を手に、立ち上がる。
「ご馳走さん。外で待っているぞ」
卓上に空にした皿を置いた龍麻は、ルイズの返事を待たずに食堂を後にした。
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