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「豆粒ほどの小さな使い魔-10」(2007/11/03 (土) 23:36:03) の最新版変更点
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買い物
知識では知ってる。人間が買い物しているのをこっそりと自分の目で見たことだってある。
ただ、コロボックルには、そういう習慣はない。
矢印の先っぽの国ができてから、私たちの習慣は大きく様変わりしてきた。一番大きいのは、やっぱり電気だろう。
私は電気がなかった頃の話は想像でしか分からなかったけど、ここに来てようやくお爺ちゃんが言ってたことの意味が分かったし。
変わり続けてるコロボックルだけど、頑なに取り入れない制度もある。
買い物、貨幣制度もその内の一つだ。
欲しいものがあったとき、何かに困ったとき、どうやってそれを手に入れるか、助けてもらうのか、それは一人一人が考えること。お金は、それをものすごく簡単にしてしまうんだって。
だけどね、お爺ちゃん。
ルイズのお財布の中にある、金色のお金。
それが一体どんな物に変えられるのか、考えるのって、もの凄く楽しいよ。
* * *
ハヤテは、今日はハンカチの服じゃなくて、昨日洗濯したマメイヌ隊の服を着ていた。
初めての王都、何があるか分からないものね。
ちょっと緊張してるみたい。
「大丈夫よ。裏通りに迷い込まなければ、それほど危なくないし。ただ姿は見せない方がいいと思うわ」
ん? それともマントに止まってじっとしていれば、飾りにしか見えないかも。
「ポケットノ中カラ、コッソリ見テルカラ」
「うん、今日はそうして」
可愛いドレス……ううん、動物の着ぐるみを着たハヤテが、澄まし顔で人形飾の振りをしてるところを想像して、吹き出しそうになっちゃった。
「悪いわね、シエスタ」
「いいえ、とんでもありません」
故郷で経験があるからと、シエスタは危なげなく手綱を捌き、馬車は軽快に道を進む。
「それで、何を買うのか目星は付けているんですか?」
「とりあえずハヤテのベッドと、あとは適当に小物を見て回るつもり」
私の肩に座ったハヤテが、邪魔にならない程度の大きさで笛を吹いてくれているのに合わせて身体を揺らす。
実は笛を4本作っていて、どれが一番できがいいか確かめているところなのだ。
一本目は、ちょっと高音で音が割れる気がした。今は二本目を吹いている。
「聞いたことない曲ですけど、いい感じですね」
「結構レパートリーが広いのよハヤテって、お目覚めの曲から子守唄まで何でもござれなんだから」
シエスタに自慢したら、笛がピポーと音を外した。
ぺちぺちと首筋を叩かれるけど、全然痛くないし。
「ル、ルルルルッ」
「そんなことないです、とても素敵ですよ。それに笛が吹けるって羨ましいです」
シエスタもいつの間にかハヤテの早口を聞き取れるように……違うか、今のハヤテ分かりやすいし。
照れてるだけで、ハヤテだって本気で怒ってるわけじゃない。
コロボックルは、笛の他にも色んな趣味を楽しんでるそうだ。
絵を描いたり彫刻に凝ったり。歌や踊りも、それは見事なんだそうだ。
「オ母サンノ妹ハ、くるみノ一族デ、踊リガイチバン、ジョウズ」
叔母さんといっても、ハヤテとは年もさほど離れてないし、まだ結婚もしてないから、ハヤテはお姉さんと呼んでいたそうだ。
色々な出来事から歌や踊りが生まれていて、子供たちはそういうのを聞いているうちに、いつの間にかコロボックルの歴史や祖先の物語を覚えていく。
「素敵ですね、そういうのって」
「そうね。しかめっ面の家庭教師が呪文みたいに唱える歴史なんかより、よっぽど頭に入りそうだわ」
ハヤテが吹いてくれてるこの曲には、どんな歌がついてて、それはどんな物語なんだろう。
「っと、いけない。あんまりのんびりしてたら、帰りが遅くなっちゃうわ」
「は、はい」
お昼は王都で、そこそこ上品な、だけどシエスタもそんなに気兼ねせずに入れるお店に案内してくれるというので、楽しみだ。
着いたのが丁度お昼時だったので、私たちは時間を少しずらして、先に遊具屋に向かうことにした。
貴族御用達の店だと、子供のおもちゃと言っても高価なものはそれこそ天井知らずの値が付いてたりするけど、ハヤテはそんなの喜ばないことはとっくに知ってる。
それにこの通りにあるのは、そんな気取ったお店じゃない。私の、学生のお小遣いでも――
「うぎゃっ!」
何事かと慌てて振り向いたら、後姿の男の人が手を押さえてて。
周りの人が呼び止める間もなく、走って行っちゃった。
「どこかにぶつけたんでしょうか?」
「さぁ? でもごちゃごちゃしてるから、きっとそうね」
走れるんだから、大した怪我でもないんだろう。そんなことより、
「結構買い物には来るんだけど、遊具屋は行ったことないわ」
「私もです。と言うか、子供のおもちゃって、買いに行くの恥ずかしいと思ったり」
「気が合うわね」
いつぐらいからか、おもちゃを買ってもらうのが恥ずかしくなって。
遊具屋は、小さくてちょっとおしゃれな、いかにも小さな女の子が好みそうな店構えだった。
自分の身長が、年よりも子供に見られることを知ってるから。こういう店に入っても違和感がないと見られるのが、
あれ? シエスタはどうして恥ずかしいのかしら?
「その……自分の子供のおもちゃを買いにきたんだと思われたらどうしようって」
思っても見なかったその言葉に、恥ずかしさも吹き飛んだ。
「いくらなんでも、気が早くない?」
「私の村だと、私と同い年で嫁ぐ子もいましたから」
知らなかった。なるほど、農村だとシエスタくらいのお母さんもいるのか。
つい目線が胸に行ってしまったことに気がついたんだろう。
「もうっ ルイズ様、行きますよ」
先に立って店に入ってしまった。
間口は狭かったけど、奥行きは意外とあって。それに店内には思ってたよりも色んな年頃の女の子がいた。
男の人は、流石に父親と思われる人が少しいるだけで、ちょっと居心地悪そうだったけど。
「小さな子だけってわけじゃなかったんですね」
シエスタが、明らかにほっとしたという調子で囁いてきた。
それに頷いて、店内をぐるっと見回す。
覚えがあるような遊具に混じって、見たことのないものも沢山ある。
そういうのを見ているだけでも楽しそうだ。
「あ、私これで遊んでました」
シエスタが棚から手に取ったのは、きらきらとした飾りのついた毬だった。
「誕生日に買ってもらって、凄く嬉しかったなぁ。私が持ってたのは、ここが緑のやつですけど」
ずっと長く続いている、子供に人気のあるデザインなのかも知れない。
手にとって見ると、ふわっとした感触、それに、
「中に鈴が入ってるのね?」
振ると、優しい音がする。
「ええ。ですから子供に持たせて置くと、少し目を離していても音で大体どこにいるか分かるんです」
それに気がついたのは、自分が子守を手伝うようになってからですけど、とシエスタは苦笑い。
「妹の腰に、紐でこの毬を繋いであげてたんです。それでかくれんぼとかしてたんですよ」
それは、確かに笑うしかない。
他のお客さんの迷惑にならないように、小さな声でクスクスと三人で笑って、
「じゃあ、ハヤテのベッドを探しに行きましょうか」
「了解です」
「ウン」
人形と言っても、大は子供の半分くらいあるのから、親指くらいのまで種類は様々。
順番に見ていくと、丁度ハヤテくらいの人形が並んでるところが見つかった。
シエスタと二人で肩を寄せて、胸ポケットから覗くハヤテが周りから見えないようにする。
「ハヤテよりも少し大きいのね。でも顔とかは断然ハヤテの方が可愛いわ」
「ルイズ様ったら。でも、しょうがないですよ。このくらい細かい細工だと、本当に出来がいいものは、貴族様向けのお店にしか並ばないでしょうから」
そうかもしれない。
素朴なにこにこ顔の人形たちは、これはこれで可愛かったけど。
ただ、洋服が、人形本体に糊で布を貼りつけてあったのはちょっと残念。
「ハヤテの着替えは、ここにはなさそうね」
「自分デ、何トカ作ッテミルカラ」
「あ、家具はこの棚ですよ」
定番のベッドから鏡台、炊事場まである。
「これって、お風呂セット? どう、ハヤテ使ってみる?」
おもちゃだけど、湯船と手桶は本当に使えそうだ。
「でしたら、お湯をポットでお持ちしますから、いつでもおっしゃってくだされば」
ほっとくと遠慮してしまいそうなハヤテだから、多少強引に進めることにした。
だって生まれた国からこんなに遠くに連れてきちゃって、なのに一生懸命してくれるんだもの。できることなら、何でもしてあげたい。
「ウ……るいず、しえすたモ……アリガト」
ぎゅうって抱きしめてあげたいくらい、可愛かった。
「そ、そうだわ、ベッド。ハヤテはどんなのが……あ、それよりも、ちょっと自分で寝て確かめてみたら?」
我ながらいい考えだと思う。湯船と違って、見た目じゃ分からないんだから。
きょろきょろと周りを見てから、ぴょんと胸ポケットから飛び出したハヤテが、一つずつベッドを確かめてる。
何故か私もシエスタも息を殺して見守ってしまったのは、ハヤテの表情がかなり真剣だったからだろう。
「ンン……コレデ寝ルノハ、チョット」
「そっか」
一通り試してみたけど、私から見ても、あまり寝心地はよくなさそう。
「アノネ、サッキ、向コウニ、ヨサソウナノガアッタノ」
「え? あっちは、もっと大きな人形ですよ?」
あのサイズだと、ベッドはふかふかでも、本棚のハヤテの隠れ家には置けないと思うけど。
ハヤテの指し示す方に向かった私たちが見つけたのは……
鳥の香草焼きのランチを食べ終わって、紅茶のお代わりを口に運ぶ。
学院ほどじゃないけど、まぁまぁ悪くない。
「いいんでしょうか、私の分まで」
「案内してくれたお礼だし、それに御者もしてもらったんだから、遠慮しないで」
観葉植物と買ってきた荷物の影で、ハヤテも食事を楽しんでくれたと思う。
それにしても、
「ハヤテのベッドが、靴下なんてねぇ」
一番大きな人形の靴下なら、そりゃハヤテだってすっぽり入るだろう。
縫い目もしっかりしてるし、ぽんぽんの飾りも可愛らしい。
「ヒモデ吊ルシテ、ハンモックニスルノ」
よっぽど気に入ったんだろう。にこにこと笑ってる。
それに何に使うのか分からないけど、小物もいくつか購入した。ハヤテの部屋がどんな風になるのか、今から楽しみだ。
「ね、模様替えしたら私にも見せてね」
「わ、私もいいですか?」
「ウン、イツデモ」
……実は、シエスタには言えないけど、考えたことがある。
ハヤテの視界を借りて見せてもらおうって。
そう思うだけで、紅茶が何倍も美味しくなったような気がした。
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買い物
知識では知ってる。人間が買い物しているのをこっそりと自分の目で見たことだってある。
ただ、コロボックルには、そういう習慣はない。
矢印の先っぽの国ができてから、私たちの習慣は大きく様変わりしてきた。一番大きいのは、やっぱり電気だろう。
私は電気がなかった頃の話は想像でしか分からなかったけど、ここに来てようやくお爺ちゃんが言ってたことの意味が分かったし。
変わり続けてるコロボックルだけど、頑なに取り入れない制度もある。
買い物、貨幣制度もその内の一つだ。
欲しいものがあったとき、何かに困ったとき、どうやってそれを手に入れるか、助けてもらうのか、それは一人一人が考えること。お金は、それをものすごく簡単にしてしまうんだって。
だけどね、お爺ちゃん。
ルイズのお財布の中にある、金色のお金。
それが一体どんな物に変えられるのか、考えるのって、もの凄く楽しいよ。
* * *
ハヤテは、今日はハンカチの服じゃなくて、昨日洗濯したマメイヌ隊の服を着ていた。
初めての王都、何があるか分からないものね。
ちょっと緊張してるみたい。
「大丈夫よ。裏通りに迷い込まなければ、それほど危なくないし。ただ姿は見せない方がいいと思うわ」
ん? それともマントに止まってじっとしていれば、飾りにしか見えないかも。
「ポケットノ中カラ、コッソリ見テルカラ」
「うん、今日はそうして」
可愛いドレス……ううん、動物の着ぐるみを着たハヤテが、澄まし顔で人形飾の振りをしてるところを想像して、吹き出しそうになっちゃった。
「悪いわね、シエスタ」
「いいえ、とんでもありません」
故郷で経験があるからと、シエスタは危なげなく手綱を捌き、馬車は軽快に道を進む。
「それで、何を買うのか目星は付けているんですか?」
「とりあえずハヤテのベッドと、あとは適当に小物を見て回るつもり」
私の肩に座ったハヤテが、邪魔にならない程度の大きさで笛を吹いてくれているのに合わせて身体を揺らす。
実は笛を4本作っていて、どれが一番できがいいか確かめているところなのだ。
一本目は、ちょっと高音で音が割れる気がした。今は二本目を吹いている。
「聞いたことない曲ですけど、いい感じですね」
「結構レパートリーが広いのよハヤテって、お目覚めの曲から子守唄まで何でもござれなんだから」
シエスタに自慢したら、笛がピポーと音を外した。
ぺちぺちと首筋を叩かれるけど、全然痛くないし。
「ル、ルルルルッ」
「そんなことないです、とても素敵ですよ。それに笛が吹けるって羨ましいです」
シエスタもいつの間にかハヤテの早口を聞き取れるように……違うか、今のハヤテ分かりやすいし。
照れてるだけで、ハヤテだって本気で怒ってるわけじゃない。
コロボックルは、笛の他にも色んな趣味を楽しんでるそうだ。
絵を描いたり彫刻に凝ったり。歌や踊りも、それは見事なんだそうだ。
「オ母サンノ妹ハ、くるみノ一族デ、踊リガイチバン、ジョウズ」
叔母さんといっても、ハヤテとは年もさほど離れてないし、まだ結婚もしてないから、ハヤテはお姉さんと呼んでいたそうだ。
色々な出来事から歌や踊りが生まれていて、子供たちはそういうのを聞いているうちに、いつの間にかコロボックルの歴史や祖先の物語を覚えていく。
「素敵ですね、そういうのって」
「そうね。しかめっ面の家庭教師が呪文みたいに唱える歴史なんかより、よっぽど頭に入りそうだわ」
ハヤテが吹いてくれてるこの曲には、どんな歌がついてて、それはどんな物語なんだろう。
「っと、いけない。あんまりのんびりしてたら、帰りが遅くなっちゃうわ」
「は、はい」
お昼は王都で、そこそこ上品な、だけどシエスタもそんなに気兼ねせずに入れるお店に案内してくれるというので、楽しみだ。
着いたのが丁度お昼時だったので、私たちは時間を少しずらして、先に遊具屋に向かうことにした。
貴族御用達の店だと、子供のおもちゃと言っても高価なものはそれこそ天井知らずの値が付いてたりするけど、ハヤテはそんなの喜ばないことはとっくに知ってる。
それにこの通りにあるのは、そんな気取ったお店じゃない。私の、学生のお小遣いでも――
「うぎゃっ!」
何事かと慌てて振り向いたら、後姿の男の人が手を押さえてて。
周りの人が呼び止める間もなく、走って行っちゃった。
「どこかにぶつけたんでしょうか?」
「さぁ? でもごちゃごちゃしてるから、きっとそうね」
走れるんだから、大した怪我でもないんだろう。そんなことより、
「結構買い物には来るんだけど、遊具屋は行ったことないわ」
「私もです。と言うか、子供のおもちゃって、買いに行くの恥ずかしいと思ったり」
「気が合うわね」
いつぐらいからか、おもちゃを買ってもらうのが恥ずかしくなって。
遊具屋は、小さくてちょっとおしゃれな、いかにも小さな女の子が好みそうな店構えだった。
自分の身長が、年よりも子供に見られることを知ってるから。こういう店に入っても違和感がないと見られるのが、
あれ? シエスタはどうして恥ずかしいのかしら?
「その……自分の子供のおもちゃを買いにきたんだと思われたらどうしようって」
思っても見なかったその言葉に、恥ずかしさも吹き飛んだ。
「いくらなんでも、気が早くない?」
「私の村だと、私と同い年で嫁ぐ子もいましたから」
知らなかった。なるほど、農村だとシエスタくらいのお母さんもいるのか。
つい目線が胸に行ってしまったことに気がついたんだろう。
「もうっ ルイズ様、行きますよ」
先に立って店に入ってしまった。
間口は狭かったけど、奥行きは意外とあって。それに店内には思ってたよりも色んな年頃の女の子がいた。
男の人は、流石に父親と思われる人が少しいるだけで、ちょっと居心地悪そうだったけど。
「小さな子だけってわけじゃなかったんですね」
シエスタが、明らかにほっとしたという調子で囁いてきた。
それに頷いて、店内をぐるっと見回す。
覚えがあるような遊具に混じって、見たことのないものも沢山ある。
そういうのを見ているだけでも楽しそうだ。
「あ、私これで遊んでました」
シエスタが棚から手に取ったのは、きらきらとした飾りのついた毬だった。
「誕生日に買ってもらって、凄く嬉しかったなぁ。私が持ってたのは、ここが緑のやつですけど」
ずっと長く続いている、子供に人気のあるデザインなのかも知れない。
手にとって見ると、ふわっとした感触、それに、
「中に鈴が入ってるのね?」
振ると、優しい音がする。
「ええ。ですから子供に持たせて置くと、少し目を離していても音で大体どこにいるか分かるんです」
それに気がついたのは、自分が子守を手伝うようになってからですけど、とシエスタは苦笑い。
「妹の腰に、紐でこの毬を繋いであげてたんです。それでかくれんぼとかしてたんですよ」
それは、確かに笑うしかない。
他のお客さんの迷惑にならないように、小さな声でクスクスと三人で笑って、
「じゃあ、ハヤテのベッドを探しに行きましょうか」
「了解です」
「ウン」
人形と言っても、大は子供の半分くらいあるのから、親指くらいのまで種類は様々。
順番に見ていくと、丁度ハヤテくらいの人形が並んでるところが見つかった。
シエスタと二人で肩を寄せて、胸ポケットから覗くハヤテが周りから見えないようにする。
「ハヤテよりも少し大きいのね。でも顔とかは断然ハヤテの方が可愛いわ」
「ルイズ様ったら。でも、しょうがないですよ。このくらい細かい細工だと、本当に出来がいいものは、貴族様向けのお店にしか並ばないでしょうから」
そうかもしれない。
素朴なにこにこ顔の人形たちは、これはこれで可愛かったけど。
ただ、洋服が、人形本体に糊で布を貼りつけてあったのはちょっと残念。
「ハヤテの着替えは、ここにはなさそうね」
「自分デ、何トカ作ッテミルカラ」
「あ、家具はこの棚ですよ」
定番のベッドから鏡台、炊事場まである。
「これって、お風呂セット? どう、ハヤテ使ってみる?」
おもちゃだけど、湯船と手桶は本当に使えそうだ。
「でしたら、お湯をポットでお持ちしますから、いつでもおっしゃってくだされば」
ほっとくと遠慮してしまいそうなハヤテだから、多少強引に進めることにした。
だって生まれた国からこんなに遠くに連れてきちゃって、なのに一生懸命してくれるんだもの。できることなら、何でもしてあげたい。
「ウ……るいず、しえすたモ……アリガト」
ぎゅうって抱きしめてあげたいくらい、可愛かった。
「そ、そうだわ、ベッド。ハヤテはどんなのが……あ、それよりも、ちょっと自分で寝て確かめてみたら?」
我ながらいい考えだと思う。湯船と違って、見た目じゃ分からないんだから。
きょろきょろと周りを見てから、ぴょんと胸ポケットから飛び出したハヤテが、一つずつベッドを確かめてる。
何故か私もシエスタも息を殺して見守ってしまったのは、ハヤテの表情がかなり真剣だったからだろう。
「ンン……コレデ寝ルノハ、チョット」
「そっか」
一通り試してみたけど、私から見ても、あまり寝心地はよくなさそう。
「アノネ、サッキ、向コウニ、ヨサソウナノガアッタノ」
「え? あっちは、もっと大きな人形ですよ?」
あのサイズだと、ベッドはふかふかでも、本棚のハヤテの隠れ家には置けないと思うけど。
ハヤテの指し示す方に向かった私たちが見つけたのは……
鳥の香草焼きのランチを食べ終わって、紅茶のお代わりを口に運ぶ。
学院ほどじゃないけど、まぁまぁ悪くない。
「いいんでしょうか、私の分まで」
「案内してくれたお礼だし、それに御者もしてもらったんだから、遠慮しないで」
観葉植物と買ってきた荷物の影で、ハヤテも食事を楽しんでくれたと思う。
それにしても、
「ハヤテのベッドが、靴下なんてねぇ」
一番大きな人形の靴下なら、そりゃハヤテだってすっぽり入るだろう。
縫い目もしっかりしてるし、ぽんぽんの飾りも可愛らしい。
「ヒモデ吊ルシテ、ハンモックニスルノ」
よっぽど気に入ったんだろう。にこにこと笑ってる。
それに何に使うのか分からないけど、小物もいくつか購入した。ハヤテの部屋がどんな風になるのか、今から楽しみだ。
「ね、模様替えしたら私にも見せてね」
「わ、私もいいですか?」
「ウン、イツデモ」
……実は、シエスタには言えないけど、考えたことがある。
ハヤテの視界を借りて見せてもらおうって。
そう思うだけで、紅茶が何倍も美味しくなったような気がした。
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