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&setpagename(第8話 神殺し)
#settitle(第8話 神殺し)
解除薬を飲んで狂気に戻った言葉は、翌日からさっそく他の生徒に煙たがられた。
でもそんなの関係ないとばかりに言葉は人気の無い場所に行っては誠を取り出す。
そんな日が何日か続いた夜、恒例の夜の散歩に出かける言葉と誠。
「月と星が綺麗ですね。私、誠君に紹介できるよう星座の勉強したんですよ?
あれがバイアン座、あれがソレント座、あれがクリシュナ座、あれがイオ座、
あれがカーサ座、あれがアイザック座、あれがカノン座、あれがティティス座。
こっちはラダマンティス座で、あれはミーノス座、あっちはアイアコス座です。
……誠君はどの星座が好きですか? 私は以前ルイズさんが話してくれたシュラ座です。
何だか……よく……切れそうで……くすくすくすくすくすくすくすくすくす」
首だけの誠は当然無言だが、言葉の感覚ではちゃんと会話が成立しているのだ。
さてそんな平和な時間をすごしている言葉達の前で事件が発生した。
場所は本塔!
現れたのは土のゴーレム!
言葉は特に怯えた様子もなく、誠の首を抱えたままゴーレムの動向を見守った。
ゴーレムは塔の壁を力いっぱい殴りつける、が、壁はビクともしない。
それを見てようやく、言葉はこのゴーレムが泥棒の類いではないかと想像を働かせた。
「……どうしましょう?」
基本的に誠に害が無ければ、他はどうでもいいというのが言葉のスタンスだ。
もっともルイズという例外もいるが、今は誠ともルイズとも関係ない。
傍観、という選択肢を言葉は選ぶ。
ゴーレムは言葉の存在に気づかず何度か壁を殴って、壁を壊すのは無理そうだと理解する。
普通ならここであきらめて逃亡するものだが、
このゴーレムの主はそんじょそこらの盗賊とは違った。
ゴーレムの頭上で電球が光る。
「かみのひだりて」
その拳は塔の外壁を見事に粉砕した。
するとゴーレムの肩に乗っていた人物が塔の中に侵入し、
重そうな箱をひとつ持ち出してきて、ゴーレムに乗って逃げていった。
その後すぐ学院の教師達が現場に駆けつけ大騒ぎとなった。
翌朝、事件の目撃者として言葉が、その主としてルイズも学院長室に呼び出された。
しかしその場にいる教師達は責任の押しつけ合いに必死で、
ルイズと言葉を気にかける者はオスマンとコルベールくらいしかいなかった。
オスマンは教師達に一喝して黙らせると、言葉から事件の仔細を聞き出した。
といってもたいした情報は何も持ってないのだが。
むしろ呼び出された言葉の方が多く情報を得たくらいだ。
魔法学院の警備はザルだとか、教師達サボりまくりとか、
盗まれた宝は『神殺し』という物騒な武器だとか、
賊は土くれのフーケという有名な盗賊だとか。
しばらくして、オスマンの秘書ミス・ロングビルがフーケの居場所を突き止めてきた。
さっそく捜索隊を結成しようとするが志願者はゼロ。
呆れ果てたオスマンが、自ら捜索隊を指名しようとしたところで、挙手があった。
オスマンは、志願者は杖を掲げるよう言った。だが上がったのは手だ。
つまり杖を持っていない人物が志願者。
言葉だった。
オスマンもルイズも無茶だと言ったが、言葉の意思は固い。
何か理由があるのだろうと察したルイズは、自分も行くと言い出した。
盗賊が怖くて杖を上げない腑抜けよりはマシかとオスマンは判断し、
それにフーケはもう別の場所に逃亡している可能性も高い事から、
二人を捜索隊に任命し案内役としてロングビルも同行するよう命じた。
この采配に納得のいかないコルベールは、何と捜索隊に志願。
臆病者の教師、学院長の秘書、ゼロのメイジ、平民の使い魔という、
前代未聞の捜索隊はフーケから神殺しを奪還すべく学院を出立した。
フーケの隠れ家は薄汚れた廃屋。人の気配は感じられない。
様子を探るため、女性を危険にさらす訳にはいかないとコルベールが廃屋へ向かう。
廃屋にはフーケの姿も、罠も無く、それを合図で知らせて三人を呼ぶ。
ロングビルは周囲を偵察してくると言って森に入り、ルイズは入口前で見張りをした。
コルベールト言葉の二人で廃屋の中を調べると、神殺しの入ったチェストが見つかった。
中身がちゃんとあるかどうか確認すべく、チェストを開く。
あった。
「何度見ても、奇妙な形だ」
「……」
コルベールの背後で、神殺しを見た言葉の双眸がより黒く染まる。
なぜこんな物がこの世界にあるのか、なぜ神殺しと呼ばれているのか、どうでもいい。
ただ、便利そうだと思った。直後。
「つ、土くれのフーケよ! 逃げて!」
外からルイズが叫ぶと同時に廃屋の屋根が巨大ゴーレムの剛腕で吹き飛ばされた。
ともかくルイズと言葉だけでも逃がさねばとコルベールは二人を先に行かせるが、
ルイズ達の行く手をゴーレムがさえぎる。
いかに火のトライアングルメイジのコルベールといえど、ゴーレム相手では分が悪い。
フーケ本人の姿を確認できれば手の内ようはいくらでもあるのだが、
恐らく森の中に隠れているのだろう、発見は困難だ。
「私が注意を引く! だからこれを持って逃げなさい!」
コルベールはチェストをルイズに渡すと、杖を抜いてゴーレムに炎を浴びせた。
「み、ミスタ・コルベールだけを置いて逃げるなんてできません!」
ルイズも杖を抜いて応戦しようとし、言葉も鞄を開け中からノコギリを取り出した。
「お手伝いします」
言うと、言葉は軽やかに跳び上がりゴーレムの腹部にノコギリを切り込んだ。
しかし、ノコギリは甲高い音を立てて折れてしまう。
「コトノハ君!」
地面に落下する言葉をコルベールが抱き止める。
その際、言葉の手から鞄が落ちた。
鞄を拾おうとする言葉を抱き上げたコルベールは、そのままゴーレムから逃げようとする。
「鞄……誠君が……!」
「今はそれどころではない!」
走るコルベールに、ゴーレムの剛腕が振り下ろされる。
避けきれないと判断したコルベールは、咄嗟に言葉を投げ出した。
地面を転がりながら言葉は、コルベールがゴーレムの拳を受けて吹き飛ばされるのを見た。
鞠のように跳ねながら、森の中に突っ込んで姿を消す。
続いてゴーレムは、チェストを持つルイズへと矛先を向けた。
「神殺しを私に!」
折れたノコギリを捨て言葉が叫ぶ。ルイズは、チェストを投げ渡した。
チェストから神殺しを取り出す言葉。
神殺し。それは取ってのついた赤い箱から、鋼鉄の刃の生えた奇妙な剣だった。
刃にはノコギリのような細かい歯がついているが、使い勝手は非常に悪そうである。
しかし言葉は手馴れた仕草で神殺しを扱う。
本来地面に固定してかけるはずのエンジンを、
言葉はルーンにより引き出された腕力により両手で持ったまま稼動させようとする。
スターターハンドルをゆっくりと引き、手応えを確かめると、今度は勢いよく引く。
すると神殺しは生き物のように全身を震わせながら、獣の雄叫びのような轟音を上げる。
腕の中で暴れ出した凶器に己の身体をも震わせながら、狂気の笑い声を言葉は上げた。
「あっははははははははっ!」
心地いい震動に言葉は歓喜した。力がみなぎる。
ゴーレムは言葉が神殺しを作動させたのだと理解すると、
その威力を確かめるように拳を真っ直ぐに放ってきた。
「かみのみぎて」
が、言葉は頭上で電球を光らせて攻撃を見切ると
軽やかに拳の上に飛び乗ってその上を駆け上がる。
「うふふふふふふ、あはははははははははっ」
笑いながら言葉は神殺しの刃でゴーレムに斬りつけた。
するとノコギリと違い神殺しは深々とゴーレムの身体に食い込み、
血飛沫のように土を巻き上げて切り裂いていく。
言葉の笑い声、神殺しの雄叫びが響き渡る中、刃が踊り土くれを破壊する。
そしてゴーレムの全身を切り刻んだ言葉は軽やかな跳躍でゴーレムから離れた。
神殺しを振り回してポーズを決める言葉の背後で、ゴーレムが崩れ落ちる。
「今宵のチェーンソーはよく切れる~」
ゴーレムは バラバラになった。
言葉の圧倒的勝利に呆然とするルイズ。
「す、すごい……」
そこに森の中からロングビルが姿を現した。
「お二人とも、無事ですか?」
「え、ええ……何とか……」
ロングビルが来た事で安心するルイズだが、
言葉はロングビルに肉薄し神殺しの刃を向けた。
「な、何をするの!?」
「あなたですよね、土くれのフーケ」
「ええっ!?」
「だって、あなたがいなくなってからゴーレムが現れて、
ゴーレムをやっつけてからあなたが現れた。おかしいじゃないですか」
「お、おかしくないわよ。ゴーレムを見て驚いて、どうしていいか解らなかったの。
あなたがゴーレムを倒したから、私は安心して出てきたのよ」
「じゃあ、ゴーレムをやっつけなかったら、私達を見捨てるつもりだったんですね?」
「そんなつもりは……」
「私とルイズさんを裏切るつもりだったんですね?」
その声色から明確な殺意を察知したロングビルは戦慄を覚えた。
ここまで禍々しい殺意、初めて感じる。
「あなたが土くれのフーケなら、捕まえなければなりません。
でもそうじゃないなら、私達を裏切ったあなたを許しません」
言い終わると同時に言葉は神殺しをロングビル目掛けて振る。
咄嗟に後ろに引いて回避するロングビル。刃が眼前をかすめた。
「こ……この音は」
ロングビルはすれ違う瞬間目撃し理解した、神殺しの秘密を!
剣のエッジはただの鋭いカッターではない!
動いていた! 高速で動いていた!
鮫の歯のような形の細かい微小な、しかも鋭い爪が、
エッジの部分を滑るようにして走っていたのだ!
尻餅をついたロングビルに向けて、言葉は神殺しを大きく振りかぶって、笑う。
殺される、と理解したロングビルは、咄嗟に叫んだ。
「わ、私がフーケよ! だから、殺さないで」
言葉の笑顔が、さらに深く黒くなる。
「そうですか、あなたが土くれのフーケですか……。よかった、会いたかったんですよ」
会いたかった、という意味の裏を読む前にフーケは神殺しの赤い箱の部分で頭部を殴られ、
意識を暗黒の淵に手放してしまった。言葉の笑顔を脳裏に焼きつけながら。
事の成り行きを見守っていたルイズは、怒涛の展開についていけず呆然としている。
そんなルイズに構わず言葉は誠の入った鞄を拾うと、神殺しと一緒にルイズに受け渡した。
「ルイズさん、誠君と土くれのフーケをよろしくお願いします」
「え? えっ?」
困惑するルイズに構わず、言葉は森の中へと走っていった。
後を追おうかとルイズは悩んだが、気絶したフーケを放っておく訳にもいかず、
神殺しをチェスとにしまい、フーケの手足を捕縛用に持ってきていた縄で縛った。
へし折れた枝をたどれば、すぐに彼は見つかった。
「うっ、うぅ……」
苦しそうに喘ぐ彼を見て、彼女は微笑を隠し声をかける。
「大丈夫ですか?」
彼の名はコルベール。
彼女の名は言葉。
どこか怪我をしているのか、苦しみに満ちた顔をコルベール上げた。
言葉の姿を確認すると、彼の目は何かを悟ったかのように細まる。
「……土くれのフーケは? 神殺しはどうなったかね?」
「ロングビルさんが土くれのフーケでした。神殺しもルイズさんもご無事です」
「そうか、よかった……」
安堵の笑みを漏らすコルベールを見て、言葉から表情が消える。
能面のような表情、無機物のような瞳。
「……コトノハ君?」
名前を呼ばれ、言葉の表情が変わる。
冷たく残酷な微笑。
屑を見下ろすような目で、言葉は腰の後ろに隠し持っている尖った枝を握り締める。
「やっと、二人きりになれましたね」
第8話 神殺し
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